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▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097465
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】水素化触媒の再生プロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/12 20060101AFI20220623BHJP
   C07C 67/303 20060101ALI20220623BHJP
   C07C 69/74 20060101ALI20220623BHJP
   B01J 23/96 20060101ALI20220623BHJP
   B01J 38/04 20060101ALI20220623BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B01J38/12 B
C07C67/303
C07C69/74 Z
B01J23/96 Z
B01J38/04 A
B01J23/46 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021205316
(22)【出願日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】20215552.9
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン アントン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル グラス
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クラフト
(72)【発明者】
【氏名】トマス シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】グルツェゴルツ ツィオメク
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA10
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA06A
4G169BA07A
4G169BA08A
4G169BB01A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC35A
4G169BC50B
4G169BC66A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BD04A
4G169BD05A
4G169CB02
4G169DA06
4G169GA06
4H006AA02
4H006AC11
4H006BA23
4H006BA55
4H006BA84
4H006BC11
4H006BC19
4H006BE20
4H006BJ20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】芳香族化合物の水素化に用いられる触媒を再生するためのプロセスを提供する。
【解決手段】芳香族類の環水素化に用いられる触媒を少なくとも1つの反応器で再生するためのプロセスであって、1)用いられる触媒が存在する少なくとも1つの反応器を不活性ガスでパージする工程、2)反応器の全体積中の空気の比率が10~90体積%になるまで、不活性ガスに空気を段階的に添加する工程、3)反応器のパージ中、反応器に空気のみが流れるようになるまで、不活性ガス、好ましくは窒素の量を減少させる工程からなるプロセスである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの芳香族類の環水素化に用いられる触媒を少なくとも1つの反応器で再生するためのプロセスであって、前記プロセスは以下の工程:
1)用いられる触媒が存在する少なくとも1つの反応器を不活性ガスでパージする工程であって、前記パージは不活性ガス、好ましくは窒素で、50~100℃の温度で開始され;
2)前記反応器の前記パージ中、前記反応器の全体積中の空気の比率が10~90体積%になるまで、前記不活性ガスに空気を段階的に添加する工程;かつ、
3)前記反応器の前記パージ中、前記反応器に空気のみが流れるようになるまで、前記不活性ガス、好ましくは窒素の量を減少させる工程;
を含む、プロセスであって、ここで、
再生中の前記反応器内の温度は、前記芳香族類の水素化用の前記反応器の入口の温度よりも最大で10℃高く、かつ、
ここで、前記触媒は、活性炭、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、アルミノシリケート、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びそれらの混合物からなる群から選択される担体材料に、鉄、ルテニウム、ニッケル、ロジウム、プラチナ、パラジウム及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの遷移金属を含む、
プロセス。
【請求項2】
不活性ガスに空気を段階的に添加する工程及び/又は不活性ガスの量を減少させる工程において、少なくとも1つのの温度が監視される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
空気を段階的に添加する場合の温度が、空気を段階的に添加する場合の各段階の開始時よりも最大で20℃、好ましくは最大で15℃高い、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
空気を段階的に添加する場合の温度が、空気を段階的に添加する場合の各段階の開始時よりも最大で20℃、好ましくは最大で15℃高い場合、空気の(さらなる)添加が少なくとも一時的に停止される、請求項2又は3に記載のプロセス。
【請求項5】
停止中に不活性ガスが供給される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
反応器をパージする工程の前に、以下の工程:
・少なくとも1つの反応器の圧力を10バール未満、好ましくは7.5バール未満、より好ましくは5バール未満に減圧する工程;
・少なくとも1つの反応器を、不活性ガス、好ましくは窒素を10バール以上、好ましくは12.5バール以上、特に好ましくは15バール以上の圧力で加圧することにより、前記少なくとも1つの反応器内の残留水素を置換した後、前記少なくとも1つの反応器の圧力を、10バール未満、好ましくは7.5バール未満、より好ましくは5バール未満に減圧する工程;
が行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
不活性ガス、好ましくは窒素の加圧及びその後の減圧を少なくとも2回行う、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
全工程の実行期間である再生全体の持続期間は、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも3日間である、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
全工程の実行期間である再生全体の持続期間は、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも3日間である、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
芳香族類は芳香族エステルである、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
芳香族エステルは、ベンゼンカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸又はベンゼンテトラカルボン酸のエステルであり、好ましくはベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸のエステルであり、特に好ましくはベンゼンジカルボン酸のエステルである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
芳香族エステルが、フタル酸のC8~C10-アルキルエステル又はテレフタル酸のC8~C10-アルキルエステルである、請求項10又は11に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかの工程からなる、芳香族化合物の水素化に用いられる触媒を再生するためのプロセスである。まず窒素でパージした後、空気を段階的に供給し、その後、空気のみになるまでに窒素の添加を終える。
【背景技術】
【0002】
芳香族類、特に芳香族エステルの芳香族環の水素化は、公知であり、環水素化ともいわれる。当該水素化では、例えば、遷移金属含有触媒が用いられる。適当な触媒は当業者に公知である。対応する水素化プロセスもまた、工業規模で用いられる。
【0003】
環水素化が長期化するにつれて、用いられる触媒の活性は、触媒の活性部位のブロッキング、消失又は被毒のいずれかにより、失われる場合がある。活性が著しく低下して、水素化プロセスを十分にかつ経済的に運転できない場合、触媒の活性を上げる必要がある。これは、触媒の堆積物や付着物を除去する再生処理によって行われる。ここでは、空気中又は不活性ガス雰囲気中で高温(200℃以上)で堆積物を除去する触媒の焼成を行うことができるが、これは、特定の触媒では問題がある場合があり、かつ、高温のために純粋にエネルギー的に問題となりうる。
【0004】
触媒は、あるいは、その上にガス流を通すことによって再生することができ、これによって堆積物が運搬され、かつ、除去される。ルテニウム触媒の再生のこのようなプロセスは、例えば、特許文献1に記載されている。当該文献で開示された再生方法の特徴は、触媒の活性が部分的に又は完全に回復するまで、触媒を不活性ガスでパージすることである。当該文献に記載されたベンゼン水素化に関する、再生機能の根拠としては、水の除去、すなわち触媒の乾燥があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/015103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、既知のプロセスには、特に、触媒から除去しなければならないのが水のみでない場合、又は水及び水素化活性を低下させる他の物質も触媒上に存在する場合、再生効果が低すぎる場合があるという問題がある。
【0007】
従って、本発明により解決される課題は、芳香族類、特に芳香族エステルの環水素化に用いられる触媒を再生するためのプロセスを提供することであり、それにより、許容しうる活性をより良好かつより迅速に達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
当該課題は、請求項1に記載のプロセスによって解決される。好ましい実施形態は、従属クレームにおいて特定される。本発明は、1つの芳香族類の環水素化に用いられる触媒を少なくとも1つの反応器で再生するためのプロセスであって、前記プロセスは以下の工程:
1)用いられる触媒が存在する少なくとも1つの反応器を不活性ガスでパージする工程であって、前記パージは不活性ガス、好ましくは窒素で、50~100℃の温度で開始され;
2)前記反応器の前記パージ中、前記反応器の全体積中の空気の比率が10~90体積%になるまで、前記不活性ガスに空気を段階的に添加する工程;かつ、
3)前記反応器の前記パージ中、前記反応器に空気のみが流れるようになるまで、前記不活性ガス、好ましくは窒素の量を減少させる工程;
を含む、プロセスであって、ここで、
再生中の前記反応器内の温度は、前記芳香族類の水素化用の前記反応器の入口(前記反応器供給物)の温度よりも最大で10℃高く、かつ、
ここで、前記触媒は、活性炭、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、アルミノシリケート、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びそれらの混合物からなる群から選択される担体材料に、鉄、ルテニウム、ニッケル、ロジウム、プラチナ、パラジウム及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの遷移金属を含む、
プロセスに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプロセスは、水素化触媒の有利な再生を達成することができ、それにより、触媒活性が非常に容易かつ迅速に改善される。本明細書に記載される再生により、実際に有益な生成物を生成する環水素化を、高変換、かつより効果的な状態で再開することができる。同時に、酸素濃度がかなり低いか、又は適当に制御されたプロセスシーケンスにより、酸化プロセスによって反応器内の温度が大幅に上昇し(場合によっては、局所的に)、触媒が損傷したり、最悪の場合、反応器が損傷したりするのを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載される芳香族類、特に芳香族エステルの環水素化は、通常、少なくとも1つの反応器中で行われるが、このことは、環水素化が、各々が適当な触媒を含む1つ以上の反応器中で行うことができることを意味する。本発明により用いられる触媒の再生は、存在するいかなる反応器においても行うことができる。複数の反応器が存在する場合、再生は、各反応器に対して異なる時点で、又は同時に行うことができるが、存在する全ての反応器において全ての触媒を同時に再生することが好ましい。したがって、本発明の利点は、再生用の触媒を反応器から取り出す必要はなく、むしろ環水素化が行われる反応器内に滞留できることである。
【0011】
本発明によれば、本プロセスは、芳香族類、特に芳香族エステルの環水素化に用いられる全ての触媒に適する。好ましくは、触媒は、しかしながら、担体材料上に少なくとも1つの遷移金属を含むか、又は少なくとも1つの遷移金属からなる。適当な触媒は、しかしながら、当業者には公知であり、例えば、国際公開第03/103830号パンフレットに記載されている。
【0012】
再生される触媒の遷移金属は、鉄、ルテニウム、ニッケル、ロジウム、白金、パラジウム及びそれらの混合物からなる群から選択される金属である。ルテニウムは、本発明の触媒として用いるのに、特に好ましい遷移金属である。再生される触媒中の遷移金属の含有量は、一般に、0.1~30質量%である。金属として計算されるルテニウムの含有量は、好ましくは0.1質量%~10質量%、特に0.3質量%~5質量%、特に0.4質量%~2.5質量%の範囲である。
【0013】
遷移金属が存在する担体材料は、好ましくは、活性炭、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、アルミノケイ酸塩、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びそれらの混合物からなる群から選択される。好ましい担体材料は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン及びそれらの混合物である。さらに、これらの担体材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び/又は硫黄を含んでよい。本発明の特に好ましい実施形態では、再生される触媒は卵殻触媒である。
【0014】
芳香族類、好ましくは芳香族エステルの環水素化に用いられる触媒を再生するための本発明によるプロセスは、3つの工程を含む。これらの工程は、少なくとも1つの反応器内で行われるため、触媒を除去せずに行われる。3つの工程では、ステップによって異なる組成のガス流が、触媒が配置された反応器を通過する。それにより、当該触媒は沈殿や堆積が回避されうる。
【0015】
第一の工程では、1又は複数の反応器に不活性ガスを通過させてパージする。当該不活性ガスは、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、二酸化炭素及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましくは、窒素又は二酸化炭素が用いられるが、それは最も簡単かつ安価に入手できるためである。本発明によるプロセスの不活性ガスとしては、窒素が特に好ましい。
【0016】
温度は、本発明の重要な特徴である。例えば、再生中の反応器内の温度は、芳香族エステルの水素化における芳香族エステルの反応器の入口(供給)の温度よりも10℃以上高くならなくてよい。これにより大気中の酸素の添加による極端な温度上昇によっておこる当該触媒の焼失又は焼成を、本発明の教示により防止することができる。本発明によれば、反応器内の温度は、反応器内のいかなる位置で測定することができる。第一の工程、すなわち不活性ガス、好ましくは窒素によるパージは、50~100℃の温度で開始される。再生前に行われる環水素化では100℃を超える場合があるため、例えば、単に静止させておくか、水素化生成物を冷却器に通過させる等の積極的な冷却により、再生前に反応器を冷却しなければならない場合がある。
【0017】
再生時の温度は、経時的に低下するのが好ましい。しかし、その後の工程で一時的に短期間に温度が上昇する場合がある。それにもかかわらず、反応器やガス流がそれほど加熱されていないため、経時的に温度が低下していることが見いだされるであろう。
【0018】
第一の工程の前に、反応器を不活性ガス、好ましくは窒素でパージし、水素化を停止した後に、さらなる工程を行うことができる。好ましくは、以下の工程:
・少なくとも1つの反応器の圧力を10バール未満、好ましくは7.5バール未満、より好ましくは5バール未満に減圧する工程;
・少なくとも1つの反応器に、不活性ガス、好ましくは窒素を10バール以上、好ましくは12.5バール以上、特に好ましくは15バール以上の圧力で加圧することにより、前記少なくとも1つの反応器内の残留水素を置換した後、前記少なくとも1つの反応器の圧力を、10バール未満、好ましくは7.5バール未満、より好ましくは5バール未満に減圧する工程;が行われる。
【0019】
好ましい実施形態では、不活性ガス、好ましくは窒素の加圧及びその後の減圧を少なくとも2回行われる。その後に、本発明による再生プロセスの第一の工程、すなわち不活性ガスによるパージングが行われる。
【0020】
本発明による再生プロセスの第二の工程では、前記反応器の全体積中の空気の比率が10~90体積%、好ましくは20~80体積%、より好ましくは20~60体積%になるまで、前記不活性ガスに空気が段階的に添加される。空気の段階的添加は、好ましくは、少なくとも3段階で行われ、最後の段階の比率を上記の比率として提供する。空気の添加によりシステム中への酸素が注入され、酸化反応が起こるため、局所的に温度が上昇する場合がある。したがって、少なくとも1つの反応器内の温度を、例えば適当なセンサーで監視するのが望ましい。少なくとも1つの反応器に複数のセンサーを設置し、局所的に発生する温度上昇も検出できるようにするのが有利であろう。
【0021】
好ましい実施形態では、第二の工程の温度は、より好ましくは一時的にも、空気の段階的添加の工程中、各工程の開始時よりも最大で20℃、特に好ましくは最大で15℃高い。空気の添加を制御して行うことで、触媒の焼損や過剰な酸化を防ぐことができる。それにもかかわらず、局所的であっても温度が上昇した場合には対策に着手することが望ましい。好ましくは、本発明によれば、空気の段階的添加の工程中の温度が、その工程の開始時の温度より20℃、好ましくは15℃以上高い場合、空気の(さらなる)添加が少なくとも一時的に停止される。また、空気のさらなる添加を停止している間に、さらに不活性ガス、好ましくは窒素が供給されてもよい。
【0022】
本発明による再生プロセスの第三の工程は、反応器のパージ中に不活性ガス、好ましくは窒素の量を、反応器を空気だけが流れるようになるまで徐々に減少させるという。この工程は、第二の工程の完了後でも、第二の工程の実行中に部分的又は完全に行ってよい。もしここで(局所的な)温度上昇が起こった場合、不活性ガス量の減少を一時的に中断するか、あるいはさらに不活性ガス(好ましくは窒素)を供給することができる。第三の工程、すなわち空気の流入は、不活性ガスの添加が完全に終了した時点、70℃までの温度で行うのが好ましい。好ましくは、温度は経時的にさらに低下し、好ましくは周囲温度、すなわち20~35℃の範囲の温度まで低下する。
【0023】
触媒活性を十分に向上させるため、上記の再生をどの程度の期間行う必要があるかは、様々な要因に依存する。例えば、不純物の種類や量、反応器の性質(大きさ、直径)などがあげられる。全工程の実行期間である再生全体の持続期間は、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも3日間である。当該期間が短縮されると、より迅速にプラントを稼働させることができる。しかし、その場合の再生はそれほど大規模ではなく、その後再度、再生が行われる場合もある。
【0024】
本発明によるプロセスの個々の工程におけるガス流は、好ましくは、反応器内又は触媒上を1時間当たり触媒1m、少なくとも2mの体積流で通過される。このような体積流量であれば、比較的迅速に再生をすることができる。再生における工程間のガス流は、環水素化の流れ方向に対して、同方向又は逆方向の流れで、好ましくは同方向の流れで、触媒上に通過することができる。
【0025】
本発明による再生は、芳香族類の環水素化に用いられる触媒に対して行われる。好ましい実施形態では、本発明による再生は、芳香族エステルの環水素化に用いられる触媒に対して行われる。芳香族エステルは、好ましくは、ベンゼンカルボン酸のエステル、ベンゼンジカルボン酸のエステル、ベンゼントリカルボン酸のエステル、又はベンゼンテトラカルボン酸のエステル、好ましくはベンゼンジカルボン酸のエステル、又はベンゼントリカルボン酸のエステルである。これらには、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びトリメリタートがあげられる。ベンゼンジカルボン酸、すなわちフタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸のエステルが好ましい。これらのうち、特に、C8~C10のアルキルエステル、特にフタル酸のC8~C10のアルキルエステル(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジプロピルヘプチル)又はテレフタル酸のC8~C10のアルキルエステル(例えば、テレフタル酸ジオクチル、テレフタル酸ジエチルヘキシル、テレフタル酸ジイソノニル、テレフタル酸ジプロピルヘプチル)が好ましい。
【0026】
環水素化は、好ましくは液相中で行われる。環水素化は、固定床に配置された懸濁触媒又は塊状触媒で連続的又は非連続的に行うことができる。本発明のプロセスでは、好ましくは、固定床に配置された触媒上における、生成物/反応物相が主として液体状態にある反応条件下でも、連続的な環水素化が行われる。好ましくは、反応器は、完全に又は部分的に浸水することができるトリクルベッド型反応器として運転される。
【0027】
固定床に配置された触媒上で連続的に環水素化を行う場合、環水素化を最初に行う前に、触媒を活性型に変換するのが有利である。再生後、当該活性は必ずしも必要でない。当該活性化は、温度プログラムに従って、活性化は、水素含有ガスで触媒を還元することによって行うことができる。当該還元は、場合によっては、触媒上に滴下する液相の存在下で行ってよい。液相には、溶媒や水素化反応生成物であってよい。この活性化も反応条件下で行われるため、対応する水素化条件により、活性化を省略してもよい。
【0028】
環水素化のため、様々なプロセスバリエーションを選択することができる。これは、断熱的に、ポリトロピックに、又は実質的に等温的に、すなわち通常10℃未満の温度上昇で、1又はそれ以上の段階で実施することができる。後者の場合、すべての反応器、好都合には管状反応器、を断熱的に又は実質的に等温的に運転することができ、かつ、1以上を断熱的に、その他を実質的に等温的に運転してもよい。あるいは、環水素化をトリクルベッドとして実施してもよい。当該反応器はまた、部分的又は完全に浸水してもよい。さらに、2台以上の反応器を用いてよい。この場合、より好ましくは、最後の1基を除くすべての反応器を生成物再循環下で運転し(いわゆる循環(ループ)反応器)、最後の1基のみをストレートパスで運転する。
【0029】
環水素化は、共流における、液相/気相の混合相又は三相反応器の液相で行うことができ、それによって水素化ガスは、それ自体既知の方法で液体の反応物/生成物の流れに分配される。液体分布が均一であり、反応熱の除去が改善され、かつ時空収率が高いため、反応器は、空の反応器の断面1m当たり及び時間当たり15~120、特に25~80mの高い液体負荷で運転されることが好ましい。反応器をストレートパスで運転する場合、比触媒負荷(LHSV)は0.1~10/時の値であることができる。
【0030】
環水素化は、溶媒の非存在下、又は好ましくは溶媒の存在下で行ってよい。溶媒としては、反応物及び生成物と均一な溶液を形成し、水素化条件下で不活性であり、生成物から容易に分離できるいかなる液体であってよい。当該溶媒は、複数の物質の混合物であってよく、場合によっては、水を含んでよい。
【0031】
例えば、テトラヒドロフラン又はジオキサンのような直鎖又は環状エーテル、及びアルキルラジカルの炭素原子が1~13個である脂肪族アルコールを溶媒として用いることができる。好ましくは、例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、工業用ノナノール混合物、デカノール、工業用デカノール混合物、トリデカノール等のアルコールを用いてよい。
【0032】
溶媒としてアルコールを用いる場合、その生成物を鹸化する際に生成されるであろうアルコール又はその混合物を用いることが適する場合がある。そのため、エステル交換による副生成物の生成を抑制できる。さらに好ましい溶媒としては、水素化反応生成物そのものがあげられる。
【0033】
溶媒を用いることで、反応器供給物中の芳香族類の濃度を制限することができ、結果として反応器の温度制御が改良される。その結果、副反応を最小限に抑制することができ、生成物の収率を高めることができる。好ましくは、反応器供給物中の芳香族含有量は、1~35%、特に5~25%である。循環モードで運転される反応器では、循環速度(反応物に対する水素化反応排出物の再利用量の量比)により、望ましい濃度範囲に調整することができる。
【0034】
環水素化の圧力範囲は、20~300バール、好ましくは40~200バールであってよい。水素化のための温度は、好ましくは60℃~200℃、特に80℃~180℃の範囲である。
【0035】
水素化ガスとしては、有害な量の触媒毒物、例えば一酸化炭素又は硫化水素を含まなければ、いかなる所望の水素含有ガス混合物があげられる。不活性ガス成分は、例えば、窒素又はメタンであってよい。好ましくは、95%を超える純度、特に98%を超える純度で用いることができる。
【0036】
以下、実施例により本発明を説明する。これらの例は、例示的な実施形態を示すものであり、限定的であると見なされるべきではない。
【実施例0037】
本発明によるプロセスを、工業規模のプラントで試験した。予めフタル酸ジイソノニル(DINP)の環水素化を行った。水素化に必要な水素は、既存のプラントネットワークから取り込み、コンプレッサーで必要な反応圧力まで圧縮した。水素化は、第一の反応器にて、固定床として配置された触媒(担体材料としてTiO上に1% Ru)を用いて、反応圧力約100バール及び反応温度約110℃で行った。DINPは反応器内で残存濃度が約10%になるまで反応させた。プロセスは、主反応器と後反応器の2つの反応器で行われる。主反応器は断熱循環反応器として運転される。発熱水素化によって形成された反応熱は、大循環流をポンプで主反応器の底部から空気冷却器を介して主反応器の上部に戻して循環させることによって除去される。空気冷却器の下流では、反応物の流れは循環流に供給され、主反応器に入る前に循環流の温度を制御することで所望の温度を設定する。主反応器の循環流からの排出は、後反応器に導かれる。主反応器の排出流に含まれる残りの約10%のDINPは、後反応器で主反応器と同様の反応条件で100ppm未満まで水素化される。
【0038】
その後、まず反応器を不活性化した。そのために、反応器を約3バールまで減圧した後、窒素で約20バールまで3サイクル加圧し、再び減圧して反応器の残存する水素を置換した。
【0039】
その後、再生が行われた。再生は、供給物の反応温度が60~90℃で開始された。このため、主反応器と後反応器を別個に窒素でパージした。窒素の量は、各反応器での圧力損失が0.1バール未満になるように調整したが、これは主反応器では触媒材料1m当たり約5Nm/時、後反応器では触媒材料1m当たり約15Nm/時に相当する。3~6時間後,ガス流中の空気の比率が体積流量の約50%になるまで、21時間かけて4段階で空気を段階的に添加した。その後、反応器内の温度が15~70℃の範囲で、7時間かけて2段階で窒素の添加を適宜減らし、反応器内を空気のみが流れるようにした。いずれの工程でも、触媒が空気中の酸素によって燃焼されるのを防ぐため、反応器内の温度が供給温度に比べて10℃上昇しないように留意した。数日間、通風を続けた。
【0040】
反応の前後で水素化の速度定数を確認し、これを用いて触媒の活性を計算した。規定の供給速度でデータの比較可能性を保証するため、Aspen Plus(登録商標)のシミュレーションソフトウェアを用いて、工場からの様々な測定データから速度定数を決定した。
【0041】
本出願の文脈では、触媒活性は、決定された速度定数(kactual)と理論速度定数(ktheoretical)の関係として決定される。触媒活性は、以下の式:
【0042】
【数1】
から算出される。
実験の結果を以下の表1に示す。
【0043】
表1:再生後に確認された触媒活性
【0044】
【表1】
本発明による再生は、明らかに高い触媒活性をもたらすことがわかる。
【外国語明細書】