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特開2022-97572多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097572
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20220623BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20220623BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20220623BHJP
   A61C 13/087 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/15
A61C5/77
A61C13/087
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071961
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2022012040の分割
【原出願日】2016-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2015234209
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正憲
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】寺前 充司
(57)【要約】
【課題】ブロック体製造時に各層で重合率・重合収縮率が異なることによる残留応力の発生を抑制する。
【解決手段】複数の層からなる多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法であって、
重合性単量体を含む混合物を複数準備する工程と、
複数の混合物を型に順次充填する工程と、
充填された複数の混合物を重合する工程と、
を含み、
複数の混合物同士の線重合収縮率の差が1.0%以下である、及び/又は、複数の混合物同士の重合発熱量の差が50J/g以下である多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層からなる多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法であって、
重合性単量体を含む混合物を複数準備する工程と、
複数の混合物を型に順次充填する工程と、
充填された複数の混合物を重合する工程と、
を含み、
複数の混合物同士の線重合収縮率の差が1.0%以下である、及び/又は、複数の混合物同士の重合発熱量の差が50J/g以下である多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項2】
複数の混合物同士の線重合収縮率の差が1.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項3】
複数の混合物同士の重合発熱量の差が50J/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項4】
複数の混合物同士の線重合収縮率の差が0.6%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項5】
複数の混合物同士の重合発熱量の差が10J/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項6】
混合物が無機フィラー及び重合触媒をさらに含む請求項1~5のいずれかに記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【請求項7】
混合物が無機フィラー及び重合触媒をさらに含み、
無機フィラーを40重量%以上含有する請求項1~5のいずれかに記載の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴装置(クラウン、ブリッジ)を作製するための、透明性及び色調の異なる複数の層より構成される歯科切削加工用レジン材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科における補綴治療として、合金材料の鋳造により作製された歯冠を欠損部に適用する手法が行われてきた。これは、歯牙のう蝕部分を切削除去し、残存歯牙の陰型を印象材により採得し、この陰型に石こうを流して歯牙模型を作製し、歯牙模型上で欠損部をワックスにて回復し、このワックスの形態をロストワックス法にて合金に置き換えて補綴装置を作製する方法である。
【0003】
補綴装置として合金材料以外に、セラミックス材料やレジン材料が用いられる場合もある。これら材料を用いる場合も、欠損歯牙を再現した石こう模型上に各材料を盛り付けて作製する方法が一般的である。
【0004】
近年、歯科用CAD/CAM技術の発展により、欠損歯牙を再現した石こう模型を光学スキャンし、コンピューター上に欠損歯牙のデジタルデータを作成し、この欠損歯牙のデジタルデータをもとに補綴装置のデジタルデータを作成し、この補綴装置のデジタルデータに基づいて材料を切削加工して補綴装置を作製する手法が用いられるようになってきた。このようなCAD/CAM技術による補綴物作製には、各種材料(合金、セラミックス、レジン)を予めブロック体(直方体形状、ディスク形状など)に成形しておく必要がある。
【0005】
補綴装置の色調において、合金材料は天然歯牙の色調とは大きく異なるため審美的には適していない。天然歯牙と色調が適合した審美的性能の高い補綴装置の作製には、セラミックス材料やレジン材料が用いられる。石こう模型上に手作業で材料を盛り付ける従来法では、象牙色に着色された材料やエナメル色に着色された材料を層状に盛り付けることにより、天然歯牙同様の色調を再現することが可能である。
【0006】
一方、CAD/CAM技術用のブロック形状に成形された材料を用いて審美的性能の高い補綴装置を作製するには、天然歯牙同様の象牙色、エナメル色をブロック体の中に予め配置しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-161440号公報
【0008】
特許文献1には、象牙質修復用レジン層とエナメル質修復用レジン層よりなるレジン系ブロックが記載されている。象牙質修復用レジン層のコントラスト比及び光拡散性を規定することで、単純2層構造のブロックにおいても天然歯に類似した色調再現性が得られるとしている。しかし、該技術の実施には、象牙質層に光拡散粒子を配合する必要がある。この光拡散性粒子は、1~50μmの平均粒径と、樹脂成分の屈折率と一定の関係にあることが必要要件となる。このため、成分組成的な制約を受けるとともに、平均粒径数μmの充填材を用いることで表面研磨性に劣るものとなる。更に、象牙質修復用レジン層とエナメル質修復用レジン層の成分比が異なる状態となるため、ブロック体製造時に各層で重合率・重合収縮率が異なることによる残留応力の発生が懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した先行技術は、歯科用CAD/CAM技術に用いるブロックの材料の製造に関するものである。しかしながら上述のように、ブロック体製造時に各層で重合率・重合収縮率が異なることによる残留応力が発生するという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、コンポジットレジンを原材料としたCAD/CAM用ブロック材料に、天然歯牙に類似した高い審美的特徴を付与できる層構造の鋭意研究において、本発明の技術を見出した。
【0011】
本発明は、複数の層からなる多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法であって、
重合性単量体を含む混合物を複数準備する工程と、
複数の混合物を型に順次充填する工程と、
充填された複数の混合物を重合する工程と、
を含み、
複数の混合物同士の線重合収縮率の差が1.0%以下である、及び/又は、複数の混合物同士の重合発熱量の差が50J/g以下である多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法である。
【0012】
一実施形態においては、複数の混合物同士の線重合収縮率の差が1.0%以下である。
【0013】
一実施形態において、複数の混合物同士の重合発熱量の差が50J/g以下である。
【0014】
一実施形態においては、複数の混合物同士の線重合収縮率の差が0.6%以下である。
【0015】
一実施形態において、複数の混合物同士の重合発熱量の差が10J/g以下である。
【0016】
一実施形態において、混合物が無機フィラー及び重合触媒をさらに含む。
【0017】
一実施形態において、混合物が無機フィラー及び重合触媒をさらに含み、無機フィラーを40重量%以上含有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブロック体製造時に各層で重合率・重合収縮率が異なることによる残留応力の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態の歯科切削加工用レジン材料は、無機フィラーを40重量%以上含むものである。一実施形態の歯科切削加工用レジン材料は、例えば、重合性単量体、無機フィラー、重合触媒、着色材を主成分として混合したペースト状物を所望の形状の金型中で重合硬化させることで得ることができる。以下に、一実施形態の歯科切削加工用レジン材料に用いることができるそれら成分について記述する。構成成分の1つである重合性単量体には、一般的に歯科用材料に用いられている公知の重合性単量体が、特に制限なく使用できる。重合性単量体として、一般的にラジカル重合性の単量体が挙げられる。単官能の重合性単量体として、例えば、メチル(メタ)アクリレ-ト、エチル(メタ)アクリレ-ト、ノルマルブチル(メタ)アクリレ-ト、イソブチル(メタ)アクリレ-ト、tert-ブチル(メタ)アクリレ-ト、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレ-ト、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールアセトアセテート(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロキシエチルハイドロゲンフタレート、β-(メタ)アクリロキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレン(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、N-(メタ)アクリロイルグリシン、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物等の(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、(メタ)アクリルアルデヒドエチルアセタール等のビニルエーテル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のアルケニルベンゼン;アクリロニトリル、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;(メタ)アクリルアルデヒド、3-シアノ(メタ)アクリルアルデヒド等の(メタ)アクリル酸アルデヒド;(メタ)アクリルアミド、N-スクシン(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸基を含有する重合性単量体もしくはそれらの金属塩;アシッドホスホエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル燐酸等の燐酸エステル基を含有する重合性単量体もしくはそれらの金属塩;アリルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、tert-ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸等のスルホン酸基を含有する重合性単量体もしくはそれらの金属塩が挙げられる。
【0020】
また、二官能の重合性単量体としては、例えば、エチレンジオ-ルジ(メタ)アクリレート、プロピレンジオ-ルジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、エイコサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジオ-ルジ(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のグリコールジ(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有するビニル単量体とヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフオロンジイソシアネート、メチルビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導されるウレタン系重合性単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有するビニル単量体とジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族環含有ジイソシアネート化合物との付加物から誘導される芳香族環とウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体;2,2-ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシイソプロポキシフェニル)プロパン等の芳香族環とエーテル結合を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、ビスフェノ-ルAもしくは水添ビスフェノ-ルAとグリシジル(メタ)アクリレ-トの1:2反応物、例えば、ビスフェノ-ルAジグリシジルエ-テル(メタ)アクリル酸付加物等のビスフェノ-ルAもしくは水添ビスフェノ-ルAとエポキシ基を持つ(メタ)アクリレ-トの1:2付加物等が挙げられる。
【0021】
また、重合性官能基を3個以上有する多官能の重合性単量体の例としては、
トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ホスファゼン骨格を持つトリ(メタ)アクリレ-ト、イソシアヌル酸骨格を持つトリ(メタ)アクリレ-ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレートおよびテトラ(メタ)アクリレート、またジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフオロンジイソシアネート、メチルビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物とグリシドールジ(メタ)アクリレートのような水酸基を有するビニルモノマーから誘導されるウレタン系重合性単量体、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートのようなエチレン性不飽和基を5個以上有する重合性単量体、ポリエチレン性不飽和カルバモイルイソシアヌレートを含む重合性多官能アクリレート;フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー及びペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどのウレタン結合を有する重合性多官能アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
一実施形態では、前述した重合性単量体を単独、もしくは2種以上を混合して配合することができる。2種以上の重合性単量体を混合することで、重合性単量体の屈折率や物性を調整することができる。重合性単量体の配合量は、一実施形態の歯科切削加工用レジン材料において5重量%以上60重量%未満であることが好ましい。さらに好ましくは10重量%以上50重量%未満である。重合性単量体の配合量が少なすぎると、無機フィラーとの混合によるペースト状物の作製が困難となる。重合性単量体の配合量の上限は、無機フィラーの配合量により決定される。
【0023】
一実施形態の構成成分の1つである無機フィラーには、歯科用材料に用いられている公知の無機フィラーが特に制限なく使用できる。材質としては、カオリン、タルク、石英、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミノシリケート、窒化珪素、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、種々のガラス類(フッ素ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムやジルコニウムを含むガラス、ガラスセラミックス、フルオロアルミノシリケートガラス、ゾルゲル法による合成ガラスなど)、ジルコニア、ジルコニウムシリケート、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。無機フィラーの形状、粒度分布及び平均粒径等に特に制限はない。しかしながら、一般的な無機フィラーを配合した歯科用レジン材料(コンポジットレジンなど)と同様に、材料強度を上げつつ、材料の表面滑沢性を両立させる必要がある。このため、平均粒径は50μm以下、好ましくは10μm 以下、更に好ましくは1μm以下であることが望ましい。
【0024】
一実施形態に用いる無機フィラーには、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理材の例としては、シラン化合物、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
一実施形態の構成成分である無機フィラーは、多層歯科切削加工用レジン材料中に40重量%以上含まれることを必須要件としている。一実施形態による多層歯科切削加工用レジン材料を切削加工して得た補綴装置は、基本的に、口腔内にて長期的(2年以上)に機能することを目的とする。このため、口腔内特有の高温高湿度下での耐久性が要求され、これを達成するために一定量以上の無機フィラーにて強化する必要がある。無機フィラーの配合率が40重量%未満の場合は、一実施形態の多層歯科切削加工用レジン材料による補綴装置等を口腔内にて長期的に安定して機能させることが難しい。一実施形態の材料は、無機フィラーを好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上配合させることが望ましい。
【0026】
一実施形態の構成成分である重合触媒には、歯科用材料に用いられている公知の重合触媒が制限なく使用される。例えば光重合触媒として、ベンゾフェノン、ジアセチル、ベンジル、4,4’-ジメトキシベンジル、4,4’-オキシベンジル、4,4’-ジクロロベンジル、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチル、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸フェニルエステルなどが挙げられる。
【0027】
また、例えば熱(化学)重合触媒として、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが有効である。具体的には、ジアシルパーオキサイド類としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0028】
また、前述した重合触媒と組み合わせて、公知の重合促進剤が制限なく使用されてもよい。例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸、N,N-ジエチルアミノ安息香酸、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジエチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチル、N,N-ジエチルアミノ安息香酸メチル、N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、p-ジメチルアミノフェネチルアルコ-ル、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、N-エチルエタノ-ルアミン等が挙げられる。
【0029】
上述した重合触媒の配合量は、重合性単量体100重量部に対して、0.01~5重量部、より好ましくは0.05~3重量部、さらに好ましくは0.1~2重量部である。重合触媒の配合量が少なすぎる場合、重合性単量体の重合が不十分となる。一方、重合触媒の配合量が多すぎる場合は、重合時の停止反応が促進され結果として材料の強度低下を招く。
【0030】
また一実施形態の歯科切削加工用レジン材料において、重合性単量体に連鎖移動剤を配合しておくことで均一に重合硬化させることができる。連鎖移動剤は、公知の化合物が制限無く使用することができる。具体的に例示すると、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンなどのメルカプタン化合物、リモネン、ミルセン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、β-ピネン、α-ピネンなどのテルペノイド系化合物、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤の中でもテルペノイド系化合物が特に好ましい。具体的にはα-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネンが特に好ましい。連鎖移動剤の配合量は、重合性単量体100重量部に対して、0.001~1重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上0.5重量部以下である。
【0031】
一実施形態の歯科切削加工用レジン材料において、構成成分である着色材は、歯科用材料に用いられている公知の着色材が制限なく使用される。着色材には、無機化合物系着色材及び有機化合物系着色材のいずれも使用可能である。特に白色着色材は、本発明の各層の透明性を調節するのに有用である。
【0032】
一実施形態の歯科切削加工用レジン材料には、必要に応じて公知の有機フィラーを配合することができる。有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、有機質複合フィラーとして、無機フィラーの表面を重合性単量体で重合被覆した後に適当な粒子径に粉砕したもの、あるいは、予め重合性単量体に無機フィラーを混合配合させておいた後に重合・粉砕して得られる粒子等が挙げられる。
【0033】
一実施形態の歯科切削加工用レジン材料には、必要に応じて公知の各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては重合禁止剤、変色防止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0034】
一実施形態の歯科切削加工用レジン材料は、歯科用CAD/CAMシステムに用いられるブロック状の材料とすることができるものである。一般的なブロック状の材料は、その一辺の寸法が10~20mm程度であり、これは天然歯牙の歯冠長5~15mmに対応させることを想定している。本発明において、最上面層~最下面層にかけての一辺は、通常10~20mmに設定される歯冠長方向に適応することを想定している。
【0035】
本発明の製造方法では、重合性単量体、無機フィラー、重合触媒、着色材等を混合したペーストを金型に充填し、重合硬化させる。層構造の付与については、異なる色調に着色された各層のペーストを順次金型に充填後まとめて重合する方法である。この製造方法に応じて、適宜、金型を設計する。すなわち、ブロック体全体の形状を設計した金型を用意することになる。また、光重合により重合硬化させる場合は、金型を樹脂製やシリコン製の光透過性を持つ素材にする必要がある。
【0036】
本発明の多層歯科切削加工用レジン材料の製造方法の実施において、特に各層を構成する材料が均等に重合反応を進めることが重要となる。一実施形態では構成要素の重合性単量体として、ラジカル重合性の重合性単量体の使用を想定するが、これらの重合性単量体は重合時に数%から20%程度の重合収縮を伴う。仮に、各層に用いる重合性単量体の種類が異なったり、各層の無機フィラー配合量が異なると、各層で重合収縮率が異なってくる。各層の重合収縮率が大きく異なると、重合硬化後の層間にひずみが生じる。ひずみが大きいと製造途中においてブロック体に破損が生じてしまう場合がある。また、多層ブロック体が製造できた場合でもブロック体の内部に残留応力が生じているため耐久性を低下させる場合がある。よって、各層の重合収縮率は極力近似している必要がある。各層を構成する未硬化のペースト状物同士の重合収縮率の差は、線重合収縮率として1.0%以下であり、好ましくは0.6%以下である。
【0037】
ブロック体内部に残留応力を発生させないという観点では、重合反応に伴う発熱量も大きな要素となる。重合発熱は、材料の重合率、材料の熱膨張(収縮)などに影響する。仮に、各層で重合発熱量が異なった場合、各層の重合率が異なる結果となり層間で重合時ひずみが発生する。また製造後のブロック体に外部応力が加わったときも、各層で弾性率が異なることより層間でひずみ応力が発生する。更に、重合反応時にはブロック体が重合発熱により高温となるが、反応終了後には冷却される。このとき材料の熱収縮を伴うが、各層の重合発熱量が異なると当然熱収縮量が異なってくる。すなわち、層間にひずみを発生させる要因となる。従って、各層を構成する成分の重合発熱量を極力合わせる必要がある。各層を構成する未硬化のペースト状物同士の重合発熱量の差は、50J/g以下であり、好ましくは、10J/g以下である。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
(線収縮率)
実施例の各層に使用する未硬化のペースト状物を12×14×18mmのブロック体作製用金型に充填し、重合硬化させた。12mm辺の金型寸法と、重合硬化後のブロック体の12mm辺の寸法を正確に測定し、(金型寸法-ブロック体寸法)/金型寸法×100により、ペースト状物の線重合収縮率を求めた。
【0040】
(重合発熱量)
実施例の各層に使用する未硬化のペースト状物を示差走査熱量計(DSC)にて分析し、重合発熱量を測定した。
【0041】
(ブロック体成型時の割れ、クラック評価)
成型したブロック体の外観を目視により確認し、割れ及びクラックの評価を行った。表中、「ブロック体成型時の割れ、クラック」の欄の評価は、割れ、クラックが無い場合を「A(無し)」、割れ、クラックの発生割合が5%未満の場合を、「B(少量発生)、割れ、クラックの発生割合が5%以上の場合を、「C(大量に発生)」として表した。
【0042】
(ペーストP-1~5、8の作製)
1,6-ビスメタクリルエチルオキシカルボニルアミノ(2,2,4-)トリメチルヘキサン:UDMAを70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート:3Gを30重量部、ベンゾイルパーオキサイド:BPOを0.3重量部配合した重合性単量体混合液を作製した。この重合性単量体混合液40重量部に対して、シリカフィラーとジルコニウムシリケートフィラーの混合フィラー60重量部を加え、白色着色材、赤色着色材、黄色着色材、黒色着色材を各微量(重合性単量体混合液と混合フィラーとの混合物100重量部に対して、着色材の合計量で1重量部未満)、混練しペースト状物を作製した。なお、各着色材の配合量を変化させることにより、所望の透明性と色調を有するペースト状物44種(P-1~5、8)を作製した。
【0043】
(ペーストP-6~7の作製)
1,6-ビスメタクリルエチルオキシカルボニルアミノ(2,2,4-)トリメチルヘキサン:UDMAを70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート:3Gを30重量部、ベンゾイルパーオキサイド:BPOを0.1重量部配合した重合性単量体混合液を作製した。この重合性単量体混合液20重量部に対して、シリカフィラーとジルコニウムシリケートフィラーの混合フィラー80重量部を加え、白色着色材、赤色着色材、黄色着色材、黒色着色材を各微量(重合性単量体混合液と混合フィラーとの混合物100重量部に対して、着色材の合計量で1重量部未満)、混練しペースト状物を作製した。なお、各着色材の配合量を変化させることにより、所望の透明性と色調を有するペースト状物3種(P-6~7)を作製した。
【0044】
(ペーストP-9の作製)
1,6-ビスメタクリルエチルオキシカルボニルアミノ(2,2,4-)トリメチルヘキサン:UDMAを70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート:3Gを30重量部、ベンゾイルパーオキサイド:BPOを0.2重量部配合した重合性単量体混合液を作製した。この重合性単量体混合液40重量部に対して、シリカフィラーとジルコニウムシリケートフィラーの混合フィラー60重量部を加え、白色着色材、赤色着色材、黄色着色材、黒色着色材を各微量(重合性単量体混合液と混合フィラーとの混合物100重量部に対して、着色材の合計量で1重量部未満)、混練しペースト状物(P-9)を作製した。
【0045】
(ペーストP-10の作製)
1,6-ビスメタクリルエチルオキシカルボニルアミノ(2,2,4-)トリメチルヘキサン:UDMAを70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート:3Gを30重量部、ベンゾイルパーオキサイド:BPOを0.1重量部配合した重合性単量体混合液を作製した。この重合性単量体混合液40重量部に対して、シリカフィラーとジルコニウムシリケートフィラーの混合フィラー60重量部を加え、白色着色材、赤色着色材、黄色着色材、黒色着色材を各微量(重合性単量体混合液と混合フィラーとの混合物100重量部に対して、着色材の合計量で1重量部未満)、混練しペースト状物(P-10)を作製した。
【0046】
(ペーストP-116の作製)
1,6-ビスメタクリルエチルオキシカルボニルアミノ(2,2,4-)トリメチルヘキサン:UDMAを70重量部、トリエチレングリコールジメタクリレート:3Gを30重量部、ベンゾイルパーオキサイド:BPOを0.05重量部配合した重合性単量体混合液を作製した。この重合性単量体混合液40重量部に対して、シリカフィラーとジルコニウムシリケートフィラーの混合フィラー60重量部を加え、白色着色材、赤色着色材、黄色着色材、黒色着色材を各微量(重合性単量体混合液と混合フィラーとの混合物100重量部に対して、着色材の合計量で1重量部未満)、混練しペースト状物(P-11)を作製した。
【0047】
(試験例1~10)
12×14×18mmのブロック体作製用金型に、最下面層用ペースト状物を12mm辺の高さに対し8mmの高さまで充填した。続けてその上に最上面層用ペースト状物を充填した(最上面層の高さ4mm)。金型を100℃に加熱し、ペースト状物を重合硬化させ2層構造のブロック体を得た。透明性と色調を変化させたペースト状物を使用し、表1に示す試験例1~10を作製した。なお表1には使用したペースト状物のペースト番号を、測定した色度及びコントラスト比とともに記載している。
【0048】
(試験例11)
12×14×18mmのブロック体作製用金型に、最下面層用ペースト状物を12mm辺の高さに対し6mmの高さまで充填した。続けてその上に中間層用ペースト状物を充填した(中間層の高さ3mm)。さらにその上に最上面層用ペースト状物を充填した(最上面層の高さ3mm)。金型を100℃に加熱し、ペースト状物を重合硬化させ3層構造のブロック体を得た。透明性と色調を変化させたペースト状物を使用し、表2に示す試験例11を作製した。なお表2には使用したペースト状物のペースト番号を、測定した色度及びコントラスト比とともに記載している。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、歯科用補綴装置(クラウン、ブリッジ)を作製するための、透明性及び色調の異なる複数の層より構成される歯科切削加工用レジン材料の製造方法に関するものである。