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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097698
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
D06M15/263
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078906
(22)【出願日】2022-05-12
(62)【分割の表示】P 2018146545の分割
【原出願日】2018-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西堀 真治
(57)【要約】
【課題】設置面に水平に設置しやすい、繊維シートを提供する。
【解決手段】対向し合う第1の主面及び第2の主面と、第1の主面から第2の主面に至る複数の開口部4とを有する、繊維シート1であって、複数の開口部4の面積が、それぞれ、0.1cm以上、70cm以下であり、繊維シート1を、長さ方向の寸法が500mmであり、幅方向の寸法が100mmとなるように切り出して得られた矩形状の試験片のうち、長さ方向において、一端から200mmの部分を水平台上に載置して固定し、残りの300mmの部分を水平台の端部から突出させるように配置したときに、繊維シートの第1の主面及び第2の主面のうちいずれの面を水平台の上面に接するように配置した場合においても、試験片の長さ方向における他端である先端が水平台の上面の延長線上より垂れ下がっている量を示す垂れ下がり量が、100mm以下である、繊維シート1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を製織し、メッシュ織物を得る工程と、
前記メッシュ織物を樹脂中に浸漬させ、乾燥する工程と、
前記メッシュ織物を巻き取ることにより巻回体を得る工程と、
前記巻回体から前記メッシュ織物を引き出し、ヒーターにて加熱する工程と、
を備える、繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記ヒーターの温度が、60℃以上、170℃以下である、請求項1に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が、ガラス転移温度が-10℃以上、40℃以下である樹脂を含む、請求項1又は2に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂中におけるガラス転移温度が0℃以下の樹脂の割合が、10質量%以上、80質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の開口部を有する、繊維シート、該繊維シートの製造方法、並びに該繊維シートを用いたコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造体のクラック低減や、補修、あるいは剥落防止を目的として、繊維シートを用いる方法が知られている。このような繊維シートは、例えば、コンクリート構造体の表面に設置されて用いられる。また、繊維シートは、コンクリート構造体の内部に埋設されて用いられることもある。
【0003】
このような繊維シートの一例として、下記の特許文献1には、メッシュと、該メッシュを覆っている被覆樹脂とを有する、ガラスメッシュが開示されている。上記メッシュは、ガラスフィラメントと、ガラスフィラメントの表面を覆っている被膜とを含むガラスストランドにより構成されている。また、特許文献1では、上記被覆樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂を含有することが記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、コンクリート構造体の表層部に配置されるネット部材が開示されている。特許文献2には、上記ネット部材が、耐アルカリ性ガラス繊維の繊維束が製織され、樹脂によって表面が被覆されてなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-222524号公報
【特許文献2】特開2017-214781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1や特許文献2のようなメッシュ状の繊維シートは、巻回体として保管され、現場での施工時に引き出されて用いられることが多い。しかしながら、巻回体であることから巻き癖がつきやすく、引き出された繊維シートは、設置面に水平に設置することが難しいという問題がある。
【0007】
また、現場で設置される繊維シートは、連続的に設置される場合と、部分的に設置される場合がある。部分的に設置される場合、繊維シートは、予め現場で設置し易い大きさにカットして用いられることが多い。しかしながら、巻き癖がある場合、カットした場合でも巻き癖が残り、設置面に水平に設置することがより一層難しいという問題がある。
【0008】
本発明者は、特許文献1や特許文献2のように、柔軟な繊維シートを用いた場合、その傾向が特に顕著となる課題が生じることを見出した。
【0009】
本発明の目的は、設置面に水平に設置しやすい、繊維シート、該繊維シートの製造方法、及び該繊維シートを用いたコンクリート構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る繊維シートは、対向し合う第1の主面及び第2の主面と、前記第1の主面から前記第2の主面に至る複数の開口部とを有する、繊維シートであって、前記複数の開口部の面積が、それぞれ、0.1cm以上、70cm以下であり、前記繊維シートを、長さ方向の寸法が500mmであり、幅方向の寸法が100mmとなるように切り出して得られた矩形状の試験片のうち、前記長さ方向において、一端から200mmの部分を水平台上に載置して固定し、残りの300mmの部分を前記水平台の端部から突出させるように配置したときに、前記繊維シートの前記第1の主面及び前記第2の主面のうちいずれの面を前記水平台の上面に接するように配置した場合においても、前記試験片の前記長さ方向における他端である先端が前記水平台の前記上面の延長線上より垂れ下がっている量を示す垂れ下がり量が、100mm以下であることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る繊維シートでは、目付けが、100g/m以上、1000g/m以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る繊維シートでは、前記繊維シートが、ガラス繊維束により構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明に係る繊維シートでは、前記繊維シートの少なくとも一部が、被覆樹脂により覆われていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る繊維シートでは、前記被覆樹脂が、ガラス転移温度が-10℃以上、40℃以下である樹脂を含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る繊維シートでは、前記被覆樹脂中におけるガラス転移温度が0℃以下の樹脂の割合が、10質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る繊維シートでは、前記繊維シートの強熱減量が、10質量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るコンクリート構造体は、本発明に従って構成される繊維シートを備えることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る繊維シートの製造方法は、繊維束を製織し、メッシュ織物を得る工程と、前記メッシュ織物を樹脂中に浸漬させ、乾燥する工程と、前記メッシュ織物を巻き取ることにより巻回体を得る工程と、前記巻回体から前記メッシュ織物を引き出し、ヒーターにて加熱する工程と、を備えることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る繊維シートの製造方法では、前記ヒーターの温度が、60℃以上、170℃以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る繊維シートの製造方法では、前記樹脂が、ガラス転移温度が-10℃以上、40℃以下である樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
本発明に係る繊維シートの製造方法では、前記樹脂中におけるガラス転移温度が0℃以下の樹脂の割合が、10質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、設置面に水平に設置しやすい、繊維シート、該繊維シートの製造方法、及び該繊維シートを用いたコンクリート構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る繊維シートを示す模式的平面図である。
図2】垂れ下がり量の試験方法を説明するための模式図である。
図3】巻回体から引き出されたメッシュ織物をカットする工程を説明するための模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るコンクリート構造体を示す模式的断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るコンクリート構造体の変形例を示す模式的断面図である。
図6】実施例1で作製したメッシュ織物を示す模式的平面図である。
図7】実施例2で作製したメッシュ織物を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0025】
[繊維シート]
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維シートを示す模式的平面図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る繊維シート1は、複数本のたて糸2及び複数本のよこ糸3が平織りされたメッシュ織物である。複数本のたて糸2は、それぞれ、3本のたて糸2a~2cを1つの構成単位として製織されている。複数本のよこ糸3は、それぞれ1本のよこ糸3を1つの構成単位として製織されている。また、複数本のたて糸2及び複数本のよこ糸3は、いずれも繊維束により構成されている。
【0027】
繊維シート1は、他にも、繊維束を絡み織りなどで製織することにより得ることもできる。
【0028】
繊維シート1は、対向し合う第1の主面及び第2の主面を有する。また、繊維シート1は、複数の開口部4を有する。複数の開口部4は、それぞれ、第1の主面から第2の主面に至っている。なお、開口部4とは、隣り合うたて糸2間及び隣り合うよこ糸3間で囲まれた空間のことをいう。
【0029】
開口部4の面積は、0.1cm以上、70cm以下である。開口部4の面積が上記の下限値より小さいと、マトリックスとなるセメントや樹脂が開口部4を通過し難くなる。一方、開口部4の面積が上記の上限値より大きいと、繊維シート1が剛直となりにくく、繊維シート1をコンクリート構造体に水平に設置するのが難しい。
【0030】
また、本実施形態において、繊維シート1は、以下の試験により求められる垂れ下がり量が、100mm以下である。なお、以下の試験については、図2を参照して説明する。
【0031】
まず、繊維シート1を、長さ方向の寸法が500mmであり、幅方向の寸法が100mmとなるように切り出し、矩形状の試験片5を作製する。次に、図2に示すように、作製した矩形状の試験片5において、長さ方向の一端5aから200mmの部分を水平台6の上面6a上に載置して固定する。また、残りの300mmの部分を水平台6の端部6bから突出するように配置する。そして、試験片5のうち長さ方向における他端5bである先端が、水平台6の上面6aの延長線Xより垂れ下がっている垂れ下がり量Lを測定する。なお、垂れ下がり量Lは、試験片5における第1の主面5c及び第2の主面5dのいずれを水平台6の上面6a側に配置した場合においても、上記の範囲を満たしているものとする。なお、試験片5の第1の主面5cは、繊維シート1の第1の主面に対応するものとする。また、試験片5の第2の主面5dは、繊維シート1の第2の主面に対応するものとする。
【0032】
本実施形態の繊維シート1は、垂れ下がり量Lが上記の範囲内にあるため、剛直である。また、試験片5における第1の主面5c及び第2の主面5dのいずれを水平台6の上面6a側に配置した場合においても、垂れ下がり量Lが上記の範囲内にあるため、巻き癖が生じ難い。従って、設置面に水平に設置しやすい。
【0033】
剛直性をより一層高め、巻き癖をより一層生じ難くする観点から、繊維シート1の垂れ下がり量Lは、好ましくは75mm以下、より好ましくは50mm以下である。なお、繊維シート1の垂れ下がり量Lの下限値は、特に限定されないが、例えば、5mmとすることができる。このような繊維シート1は、より一層剛直であり、かつより一層巻き癖が生じ難いため、より一層設置面に水平に設置しやすい。
【0034】
本実施形態において、繊維シート1の目付は、100g/m以上、1000g/m以下であることが好ましい。繊維シート1の目付が上記の下限値より小さいと、繊維シート1が剛直となりにくく、コンクリート構造体に水平に設置するのが難しい場合がある。繊維シート1の目付が上記の上限値より大きいと、十分な大きさの開口部4が得られなくなる場合がある。
【0035】
本実施形態では、繊維シート1の強熱減量が、10質量%以上であることが好ましい。この場合、繊維シート1の剛直性をより一層高めることができる。また、強熱減量の上限値は、特に限定されないが、巻き癖が付くのをより一層抑制する観点に鑑みると、例えば、40質量%とすることができる。なお、強熱減量とは、JIS R3420(2013年)に記載の方法で測定した値である。
【0036】
また、本実施形態においては、繊維シート1を所定の大きさにカットして用いることが好ましい。より具体的に、繊維シート1は、例えば、幅100mm~1000mm、より好ましくは幅100mm~500mm、または長さ500mm~2000mm、より好ましくは長さ700mm~1200mmの大きさにカットされて用いられることが好ましい。このような大きさにカットされることにより、様々な箇所に繊維シート1をより一層容易に設置することができ、複雑な現場でも一人で設置作業ができる。また、繊維シート1は、剛直性に優れ、巻き癖が生じ難いので、このような大きさにカットした場合においても、精度よく、簡易に繊維シート1を設置することができる。
【0037】
このように、本実施形態の繊維シート1は、剛直性に優れ、巻き癖が生じ難いので、コンクリート構造体のクラック低減や、補修、あるいは剥落防止等の用途に好適に用いることができる。繊維シート1は、床面などのコンクリート構造体の表面に直接設置してもよく、コンクリート構造体の内部に埋設して用いられてもよい。コンクリート構造体の表面に設置される場合は、樹脂マトリックスやセメントマトリックス内に配置して用いられてもよい。また、コンクリート構造体の内部においては、鉄筋に固定して用いられてもよい。本実施形態の繊維シート1は、剛直性に優れ、巻き癖が生じ難いので、設置面に水平に設置することができる。従って、特に、コンクリート構造体の内部に埋設して用いられる場合は、曲げ強度などの機械的強度を高めることができる。
【0038】
以下、繊維シート1を構成する材料の詳細について説明する。
【0039】
(繊維束)
繊維束としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維束や合成繊維束等が挙げられる。なかでも、剛直性をより一層高める観点から、ガラス繊維束であることが好ましい。
【0040】
ガラス繊維束は、複数本のガラス繊維モノフィラメントと、ガラス繊維モノフィラメントの表面を覆っている被膜とを備える。ガラス繊維束は、例えば、数十本から数百本程度のガラス繊維モノフィラメントの集束体である。複数本のガラス繊維モノフィラメントは、表面にサイジング剤を塗布することにより集束される。サイジング剤が乾燥することで、被膜が形成される。
【0041】
ガラス繊維束を構成するガラス繊維モノフィラメントは、それぞれ、ガラス組成として、ZrOを12質量%及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有することが好ましい。この場合、耐アルカリ性をより一層高めることができ、剛直性をより一層高めることができる。なお、ROが10質量%以上とは、ガラス繊維モノフィラメント中におけるLiO、NaO及びKOの含有量の総和が、10質量%以上であることをいう。
【0042】
このようなガラス繊維モノフィラメントとしては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO 54~65%、ZrO 12~25%、LiO 0~5%、NaO 10~17%、KO 0~8%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0~10%、TiO 0~10%、Al 0~2%を含み、好ましくは、質量%で、SiO 57~64%、ZrO 14~24%、LiO 0~3%、NaO 10~17%、KO 0~5%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2~8%、TiO 0.5~9%、Al 0~1%を含むものを用いることができる。
【0043】
ガラス繊維モノフィラメントの平均径は、好ましくは13μm以上、より好ましくは15μm以上、好ましくは30μm以下である。ガラス繊維モノフィラメントの平均径が上記の下限値以上である場合、剛直性をより一層高めることができる。ガラス繊維モノフィラメントの平均径が上記の上限値以下である場合、表面積をより一層大きくすることができ、マトリックスとなる樹脂やセメントとの接着性をより一層高めることができる。
【0044】
上記被膜を構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂は、飽和ポリエステル樹脂であってもよく、不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。また、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂であってもよい。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0045】
また、上記被膜は、さらにシランカップリング剤を含んでいることが好ましい。上記シランカップリング剤としては、例えばアミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ウレイドシランなどが使用できる。なお、シランカップリング剤を添加することで、マトリックスとなる樹脂やセメントとの接着性をより一層高めることができる。
【0046】
また、被膜中には、上述のシランカップリング剤以外に、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、水溶性高分子、帯電防止剤等の各成分を含むことができ、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0047】
なお、上述したように、被膜は、サイジング剤をガラス繊維モノフィラメントの表面に塗布し、乾燥させることにより形成されている。従って、被膜とサイジング剤は同じ成分を含んでいる。
【0048】
ガラス繊維束の番手は、特に限定されないが、100tex以上、3000tex以下であることが好ましい。ガラス繊維束の番手が上記の範囲内にある場合、繊維シート1の剛直性をより一層高めることができる。
【0049】
(被覆樹脂)
繊維シート1は、被覆樹脂により覆われていてもよい。より具体的には、繊維束を製織りして得られたメッシュ織物が被覆樹脂に覆われることにより、繊維シート1が構成されていてもよい。
【0050】
被覆樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレア樹脂、塩ビ樹脂などを用いることができる。被覆樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0051】
また、被覆樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、-10℃以上、40℃以下の範囲内にある樹脂を用いることが好ましい。この場合、繊維シート1の剛直性をより一層高めることができる。また、被覆樹脂中におけるガラス転移温度が0℃以下の樹脂の割合は、10質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。被覆樹脂中におけるガラス転移温度が0℃以下の樹脂の割合は、より好ましくは、20質量%以上、60質量%以下である。この場合、巻き取った繊維シート1を加熱して裁断する際に、当該被覆樹脂の軟化特性により巻き癖を修正し、繊維シート1の剛直性を一層高めることができ、繊維シート1を設置面により一層水平に設置することができる。
【0052】
被覆樹脂の含有量としては、特に限定されないが、繊維シート1(被覆樹脂が塗布される前の状態)100質量部に対し、10質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。被覆樹脂の含有量が、上記の範囲内にある場合、剛直性をより一層高めることができる。
【0053】
以下、繊維シート1の製造方法の一例について、説明する。
【0054】
(繊維シートの製造方法)
繊維シート1の製造方法としては、特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0055】
まず、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとし、溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却してガラス繊維モノフィラメント(ガラス繊維)とする。
【0056】
次に、このガラス繊維の表面に、被膜を形成するためのサイジング剤を塗布する。サイジング剤が均等に塗布された状態で、そのガラス繊維を数百本から数千本引き揃えて集束し、乾燥させてガラス繊維束とする。
【0057】
得られたガラス繊維束をたて糸2及びよこ糸3として用い、平織りすることによりメッシュ織物を得る。なお、製織方法は、特に限定されず、絡み織りや模紗織りであってもよい。
【0058】
次に、得られたメッシュ織物を樹脂エマルジョン中に浸漬させる。そして、樹脂エマルジョン中に浸漬させたメッシュ織物を乾燥させる。それによって、被覆樹脂によって覆われたメッシュ織物を得ることができる。すなわち、樹脂エマルジョンの成分は、被覆樹脂と同一の成分により構成される。また、たて糸2及びよこ糸3を目止め加工することができる。なお、被覆樹脂は、スプレー法によりメッシュ織物に塗布してもよい。また、乾燥温度としては、特に限定されないが、例えば、接触式乾燥、非接触式乾燥ともに100℃~180℃とすることができる。続いて、乾燥させたメッシュ織物を、紙管に巻き取って、巻回体を作製する。
【0059】
次に、巻回体からメッシュ織物を引き出し所定の大きさにカットする。それによって、繊維シート1を得る。この際、図3に示すように、巻回体10からメッシュ織物11を引き出した状態で、巻き癖を取るように配置されたヒーター12に接触させた後、カッター13等により所定の大きさにカットすることが望ましい。それによって、被覆樹脂を軟化させることができ、巻き癖がより一層小さく、水平かつ剛直な繊維シート1を得ることができる。ヒーター12の温度は、60℃以上、170℃以下であることが好ましい。
【0060】
なお、カッター13等により所定の大きさにカットした後に、ヒーター12にて加熱してもよい。その場合においても、被覆樹脂を軟化させることができ、巻き癖がより一層小さく、水平かつ剛直な繊維シート1を得ることができる。
【0061】
[コンクリート構造体]
図4は、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造体を示す模式的断面図である。図4に示すように、コンクリート構造体21では、コンクリート躯体22の表面に繊維シート1が貼り付けられている。この場合、繊維シート1は、樹脂マトリックスの内部に配置されていてもよく、セメントマトリックスの内部に配置されていてもよい。もっとも、繊維シート1は、図5に示すように、コンクリート構造体31の内部に埋め込まれていてもよい。
【0062】
繊維シート1は、上述したように、剛直であり、巻き癖が少ないので、図4に示すように、コンクリート躯体22の表面に水平に設置されている。そのため、コンクリート構造体21では、クラックをより一層確実に低減することができる。また、図5に示すように、コンクリート構造体31の内部に埋設される場合、曲げ強度などの機械的強度を高めることができる。
【0063】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0064】
(実施例1)
まず、SiO 57.9質量%、ZrO 17.2質量%、LiO 0.5質量%、NaO 14.8質量%、KO 1.3質量%、CaO 0.9質量%、TiO 7.4質量%の組成を有するガラスとなるように原料を調製し、溶融した溶融ガラスを、数百~数千のノズルを有するブッシングからガラスフィラメントを引き出した。
【0065】
次に、得られたガラス繊維モノフィラメントの表面に、アミノシラン、エポキシ樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及び潤滑剤を水に分散させたサイジング剤を、強熱減量が0.9質量%となるようにアプリケーターにより調整して塗布し、ガラス繊維を束ねた後、サイジング剤を乾燥させることでガラス繊維束を製造した。得られたガラス繊維束の番手は、1100texであった。
【0066】
次に、図6に示すメッシュ織物41を作製した。具体的には、得られた1本ずつのガラス繊維束をたて糸42及びよこ糸43として用い、たて糸に番手が78texの綿糸44を半絡みさせることにより、メッシュ織物41を作製した。この際、たて糸42の織り密度は、2.25本/25mmであった。また、よこ糸43の織り密度は1.88本/25mmであった。また、メッシュ織物41の開口部の面積は、1.1cm×1.3cm=1.43cmであった。
【0067】
次に、得られたメッシュ織物を樹脂エマルジョン中に浸漬させた。樹脂エマルジョンとしては、ガラス転移温度が-7℃であるアクリル樹脂70質量%と、ガラス転移温度が15℃であるアクリル樹脂30質量%との混合物を用いた。浸漬後、メッシュ織物を120℃のホットローラーで予備乾燥させ、同じく120℃の温度の非接触乾燥炉で乾燥させた。樹脂の付着率は、製織したメッシュ織物の重量に対して18%であった。そして、乾燥後、メッシュ織物を紙管に巻き取って巻回体を作製した。
【0068】
次に、巻回体からメッシュ織物を引き出した状態でヒーターに接触させた後、カッターで所定の大きさにカットし、繊維シートを得た。なお、ヒーターの温度は、150℃とした。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様にして得られたガラス繊維束を用い、図7に示すメッシュ織物51を作製した。具体的には、たて糸52とよこ糸53とを平織りすることにより、メッシュ織物51を作製した。たて糸52には、実施例1と同様にして得られたガラス繊維束2本に番手が78texの綿糸を半絡みさせた3組のたて糸52a~52c(6本のガラス繊維束)を1つの構成単位として用いた。また、よこ糸53には、実施例1と同様にして得られたガラス繊維束1本を1つの構成単位として用いた。この際、たて糸52の織り密度は、5本/25mmであった。また、よこ糸53の織り密度は0.83本/25mmであった。また、メッシュ織物51の開口部の面積は、3.0cm×3.0cm=9cmであった。
【0070】
次に、得られたメッシュ織物を樹脂エマルジョン中に浸漬させた。樹脂エマルジョンとしては、ガラス転移温度が-7℃であるアクリル樹脂40質量%と、ガラス転移温度が35℃であるアクリル樹脂60質量%との混合物を用いた。浸漬後、メッシュ織物を120℃のホットローラーで予備乾燥させ、同じく120℃の温度の非接触乾燥炉で乾燥させた。樹脂の付着率は、製織したメッシュ織物の重量に対して20%であった。そして、乾燥後、メッシュ織物を紙管に巻き取って巻回体を作製した。
【0071】
その他の点は、実施例1と同様にして、繊維シートを得た。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、たて糸の織り密度を1本/25mmとし、よこ糸の織り密度を1本/25mmとし、開口部の面積を2.5cm×2.5cm=6.25cmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてメッシュ織物を得た。
【0073】
次に、得られたメッシュ織物を樹脂エマルジョン中に浸漬させた。樹脂エマルジョンとしては、ガラス転移温度が-35℃であるアクリル樹脂70質量%と、ガラス転移温度が15℃であるアクリル樹脂30質量%との混合物を用いた。浸漬後、メッシュ織物を120℃のホットローラーで予備乾燥させ、同じく120℃の温度の非接触乾燥炉で乾燥させた。樹脂の付着率は、製織したメッシュ織物の重量に対して17%であった。そして、乾燥後、メッシュ織物を紙管に巻き取って巻回体を作製した。
【0074】
その他の点は、実施例1と同様にして、繊維シートを得た。
【0075】
(比較例2)
比較例2では、巻回体から引き出したメッシュ織物をヒーターに接触させず、所定の大きさにカットしたこと以外は、実施例2と同様にして、繊維シートを得た。
【0076】
(評価)
実施例1,2及び比較例1,2で得られた繊維シートについて、以下の評価を行った。
【0077】
垂れ下がり量の評価;
まず、繊維シートを、長さ方向の寸法が500mmであり、幅方向の寸法が100mmとなるように切り出し、矩形状の試験片を作製した。次に、作製した矩形状の試験片において、長さ方向の一端から200mmの部分を水平台の上面上に載置して固定した。また、残りの300mmの部分を水平台の端部から突出するように配置した。そして、試験片のうち長さ方向における他端である先端が、水平台の上面の延長線より垂れ下がっているかを示す垂れ下がり量Lを測定した。なお、垂れ下がり量Lは、試験片における第1の主面及び第2の主面を、それぞれ、水平台の上面側に配置した場合について測定し、そのうちの大きい方を測定値とした。結果を下記の表1に示す。
【0078】
なお、実施例1及び実施例2においては、以下の条件でも垂れ下がり量の試験を行った。
【0079】
まず、繊維シートを、長さ方向の寸法が250mmであり、幅方向の寸法が50mmとなるように切り出し、矩形状の試験片を作製した。次に、作製した矩形状の試験片において、長さ方向の一端から100mmの部分を水平台の上面上に載置して固定した。また、残りの150mmの部分を水平台の端部から突出するように配置した。そして、試験片のうち長さ方向における他端である先端が、水平台の上面の延長線より垂れ下がっているかを示す垂れ下がり量を測定した。なお、垂れ下がり量は、試験片における第1の主面及び第2の主面を、それぞれ、水平台の上面側に配置した場合について測定し、そのうちの大きい方を測定値とした。その結果、実施例1では、垂れ下がり量が、15mm、実施例2では7mmであった。
【0080】
曲げ強度;
800mm×700mm×20mmの型枠に、砂/セメント=3、水/セメント=0.8のモルタルを2mm敷き詰め、その上に800mm×700mmの大きさに切り出した繊維シートを配置した。次に、さらに厚み20mmになるまでモルタルを打設し、繊維シートを埋設させた。そして、250mm×50mm×20mmの試験片を12枚切り出し、以下の中央集中載荷曲げ試験を実施した。曲げ試験は、3点載荷方式で、たて糸に直交する方向に載荷し、スパン200mm、載荷速度2mm/min、コテ面載荷の条件で行った。平均曲げ強度及び変動係数の結果を下記の表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1から明らかなように、垂れ下がり量の小さい実施例1,2では、垂れ下がり量の大きい比較例1,2と比べて、平均曲げ強度が高く、変動係数も小さかった。これは、実施例1,2の繊維シートでは、コンクリートの内部に埋設する際に、水平に配置され、厚み方向で繊維シートの位置が一定になりやすかったのに対し、比較例1,2の繊維シートでは、水平になり難く、厚み方向で繊維シートの位置が一定になり難かったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0083】
1…繊維シート
2,2a~2c,42,52,52a~52c…たて糸
3,43,53…よこ糸
4…開口部
5…試験片
5a…一端
5b…他端
5c…第1の主面
5d…第2の主面
6…水平台
6a…上面
6b…端部
10…巻回体
11…メッシュ織物
12…ヒーター
13…カッター
21,31…コンクリート構造体
22…コンクリート躯体
41,51…メッシュ織物
44…綿糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7