(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097828
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】カルボキシメチルセルロースリチウム塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
C08B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211000
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】阪後 貴之
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】西出 大輔
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA24
4C090BB12
4C090BB52
4C090BB81
4C090BD24
4C090CA15
4C090CA32
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、製造安定性の高いカルボキシメチルセルロースリチウム塩の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とする、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
工程(A):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、弱酸で処理し、酸型カルボキシメチルセルロースを生成すること。
工程(B):該酸型カルボキシメチルセルロースを濾別すること。
工程(C):濾別した酸型カルボキシメチルセルロースを、濃度10質量%以下のリチウム水溶液と接触させ、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を生成すること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とする、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
工程(A):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、弱酸で処理し、酸型カルボキシメチルセルロースを生成すること。
工程(B):該酸型カルボキシメチルセルロースを濾別すること。
工程(C):濾別した酸型カルボキシメチルセルロースを、濃度10質量%以下のリチウム水溶液と接触させ、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を生成すること。
【請求項2】
前記リチウム水溶液が、クエン酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウムから選ばれる少なくとも1種のリチウム塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)において、酸型カルボキシメチルセルロースと濃度10質量%以下のリチウム水溶液とを、連続して20分以上接触させることを特徴とする、請求項1~2いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
【請求項4】
さらに以下の工程(D)又は工程(E)のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする、請求項1~3いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
工程(D):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、機械的な粉砕処理を行うこと。
工程(E):カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を、機械的な粉砕処理を行うこと。
【請求項5】
前記カルボキシメチルセルロースのリチウム塩が、メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径が、100μm未満であることを特徴とする、請求項1~4いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
【請求項6】
以下の条件(I)~(II)を満たすことを特徴とする、カルボキシメチルセルロース塩。
条件(I):カルボキシメチルセルロースのリチウム塩とナトリウム塩との混合塩であって、該混合塩におけるリチウムとナトリウムの総含有量におけるリチウムの含有率が、40モル%以上であること。
条件(II):メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径が、100μm未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースリチウム塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、特に携帯電話、PDA(personal digital assistant)、ノート型パソコンなどの携帯機器が、小型化、軽量化、薄型化、高性能化し、携帯機器の普及が進んでいる。このような携帯機器の利用範囲の多様化に伴い、これらを駆動させる電池が非常に重要な部品となっている。電池のうち、高いエネルギー密度を有し高容量である、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
通常、非水電解質二次電池は以下のようにして作製される。すなわち、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な炭素材料などからなる負極活物質を含有する負極と、リチウム含有遷移金属複合酸化物(例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4など)からなる正極活物質を含有する正極が、集電基材(集電体)としての金属箔の表面にそれぞれシート状に形成され、シート状正極およびシート状負極を得る。そしてシート状正極及びシート状負極が、同じくシート状に形成されたセパレーターを介して、巻回あるいは積層され、ケース内に収納される。シート状正極およびシート状負極は、集電基材(集電体)となる金属箔と、その表面に形成される、活物質を含む合剤層を備える構造であり、負極活物質スラリー(あるいはペースト)または正極活物質スラリー(あるいはペースト)が集電材上に塗布、乾燥され形成され得る。
【0004】
負極活物質スラリー(ペースト)は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な炭素材料などからなる負極活物質のほかに結合剤(バインダー)を含む。結合剤として、スチレン/ブタジエンラテックス(SBR)を主成分とする負極用の結合剤が特許文献1(特開平5-74461号公報)に開示されている。
【0005】
特許文献1によると、水溶性増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを水に溶解させて水溶液を調製し、これにSBRと負極活物質を混合してスラリーが製造される。当該スラリーは塗工液として基材上に塗布、乾燥されることによって、シート状負極が形成される。
【0006】
一方、非水電解質二次電池の正極の製造では、溶剤には従来N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機系溶剤が用いられてきた。しかし、取り扱いに要するコストの低減や排出時の環境負荷への影響から、近年、溶剤として水が使用されてきている。
【0007】
正極活物質スラリー(ペースト)は、正極活物質としてのリチウム含有遷移金属複合酸化物(例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4など)、導電材としてのカーボン等のほかに、結合剤を含む。結合剤としては、カルボキシメチルセルロースなどの、1%水溶液における粘度が4000mPa・s以上のセルロースが特許文献2(特開2003-157847号公報)に記載されている。特許文献2には、カルボキシメチルセルロースを、導電材やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などとともに純水に投入し、活物質ペーストを調製することが記載されている。
【0008】
このようにして用いられているカルボキシメチルセルロースは、一般的には苛性ソーダによるセルロース系原料のアルカリ化、続いてエーテル化及び中和を含む製造で得られるものであり、ナトリウム塩の形態で供給されている。
【0009】
その一方で、近年はリチウムイオン二次電池などに使用されるカルボキシメチルセルロースとして、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の形態も望まれるようになりつつある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5-74461号公報
【特許文献2】特開2003-157847号公報
【特許文献3】特表2016-519205号公報
【0011】
特許文献3では、塩化リチウムを用いてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を、リチウム塩に置換しているが、飽和リチウム溶液(およそLi濃度20質量%以上)下での置換処理を行っており、置換処理後の洗浄作業をしっかりと行わないと、塩化リチウムが析出してしまう懸念があった。
【0012】
さらに、塩化リチウムは金属腐蝕を引き起こしやすく、高濃度の塩化リチウム溶液を用いる処理を行い続けると、配管の腐蝕やそれに伴う金属溶出物などによって得られるカルボキシメチルセルロースリチウム塩の品質に悪影響を及ぼす懸念があった。
【0013】
そこで本発明では、製造安定性の高いカルボキシメチルセルロースリチウム塩の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、以下の〔1〕~〔6〕である。
〔1〕以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とする、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
工程(A):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、弱酸で処理し、酸型カルボキシメチルセルロースを生成すること。
工程(B):該酸型カルボキシメチルセルロースを濾別すること。
工程(C):濾別した酸型カルボキシメチルセルロースを、濃度10質量%以下のリチウム水溶液と接触させ、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を生成すること。
〔2〕前記リチウム水溶液が、クエン酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウムから選ばれる少なくとも1種のリチウム塩を含むことを特徴とする、〔1〕に記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
〔3〕前記工程(C)において、酸型カルボキシメチルセルロースと濃度10質量%以下のリチウム水溶液とを、連続して20分以上接触させることを特徴とする、〔1〕~〔2〕いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
〔4〕さらに以下の工程(D)又は工程(E)のいずれかを少なくとも含むことを特徴とする、〔1〕~〔3〕いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
工程(D):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、機械的な粉砕処理を行うこと。
工程(E):カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を、機械的な粉砕処理を行うこと。
〔5〕前記カルボキシメチルセルロースのリチウム塩が、メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径が、100μm未満であることを特徴とする、〔1〕~〔4〕いずれかに記載のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法。
〔6〕以下の条件(I)~(II)を満たすことを特徴とする、カルボキシメチルセルロース塩。
条件(I):カルボキシメチルセルロースのリチウム塩とナトリウム塩との混合塩であって、該混合塩におけるリチウムとナトリウムの総含有量におけるリチウムの含有率が、40モル%以上であること。
条件(II):メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径が、100μm未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造安定性の高いカルボキシメチルセルロースリチウム塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
すなわち本発明は、以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とする、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の製造方法である。
工程(A):カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を、弱酸で処理し、酸型カルボキシメチルセルロースを生成すること。
工程(B):該酸型カルボキシメチルセルロースを濾別すること。
工程(C):濾別した酸型カルボキシメチルセルロースを、濃度10質量%以下のリチウム水溶液と接触させ、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を生成すること。
【0017】
<カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(Na-CMC)>
本発明において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩である。
【0018】
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」とも言う。)がβ,1-4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
【0019】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース、等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合わせた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプまたは未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0020】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
【0021】
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0022】
本発明において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の製法は限定されず、公知のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の製法を適用することができる。即ち、原料であるセルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、エーテル化剤を添加してエーテル化反応させることで本発明におけるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を製造することができる。
【0023】
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、特に、溶解パルプ、リンターを用いることが好ましい。これらを用いることにより、純度の高いカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得ることができる。
【0024】
マーセル化剤としては水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ金属塩等を使用することができる。エーテル化剤としてはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等を使用することができる。
【0025】
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロースの製法の場合のマーセル化剤とエーテル化剤のモル比は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合では2.00~2.45が一般的に採用される。その理由は、2.00未満であるとエーテル化反応が不十分に行われない可能性があるため、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成するおそれがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0026】
本発明において、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、市販のものをそのまま、或いは必要に応じて処理してから用いてもよい。市販品としては、例えば、日本製紙(株)製の商品名「サンローズ」(カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩)が挙げられる。
【0027】
<酸型カルボキシメチルセルロース(H-CMC)>
本発明では、工程(A)として、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(Na-CMC)を、弱酸で処理し、酸型カルボキシメチルセルロースを得る。
【0028】
弱酸としては、水中に溶解すると不完全にイオン化される酸であれば特に限定されることはないが、そのような物としては例えば酢酸、ギ酸、フッ化水素酸、シアン化水素酸、亜硝酸、及び硫酸水素塩イオンなどを挙げることができ、入手難易度が低く、また製造容易性の観点からは酢酸を用いることが好ましい。
【0029】
Na-CMCを弱酸で処理する際には、水系溶媒中でNa-CMCと弱酸を接触させる。そのような水系溶媒としては、水及び水と混和性又は可溶性がある有機共溶媒を含み得る。望ましい有機共溶媒としては、アルコール、アセトン、及びそれらの組み合わせであり、アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソ-プロパノール、ならびにブタノール(の異性体)などから選択することができる。
【0030】
水系溶媒の内、有機共溶媒は60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。上限としては95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。水と有機共溶媒が本範囲にあることで、Na-CMCは水に溶解されにくくなるため、H-CMCへの置換効率が優れる。
【0031】
水系溶媒中でのNa-CMCと弱酸との接触は、水系溶媒にNa-CMCと弱酸を添加し、常温下で30分以上攪拌を行うことが望ましく、1時間以上攪拌することがさらに望ましい。上限としては特にないが、長時間処理を続けると溶媒や酸濃度に変化が生じるため、4時間以下であることが好ましい。
【0032】
そのようにして酸性化されたH-CMCは、工程(B)として、濾別することで溶媒層や残留酸を除去し、単離された酸型カルボキシメチルセルロースを得ることができる。
【0033】
なお濾別する際に、前述する水系溶媒にて、適量の溶媒量で複数回洗浄を行うことが好ましい。さらに濾別されたH-CMCは、必要に応じて乾燥処理を行うことができる。
【0034】
<カルボキシメチルセルロースのリチウム塩(Li-CMC)>
得られたH-CMCは、工程(C)として、濃度10質量%以下のリチウム水溶液と接触させ、Li-CMCに置換される。
【0035】
ここでリチウム水溶液に用いる水系溶媒としては、前述するH-CMC置換の際に用いた水系溶媒と同様の溶媒を、適宜選択することができる。
【0036】
また本発明に用いられるリチウム水溶液としては、クエン酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウムから選ばれる少なく1種のリチウム塩を用いることが好ましく、特にクエン酸リチウムが好ましい。そのようなリチウム塩は、塩化リチウムに対して金属腐蝕性が少なく、長時間使用しても製造装置の金属腐蝕が起こりにくく、得られるLi-CMCに金属不純物の混入を防止することができる。
【0037】
本発明において、H-CMCと接触させるリチウム水溶液は、濃度10質量%以下であることが重要である。接触時のリチウム水溶液の濃度を10質量%以下とすることで、Li-CMCを単離する際に溶媒洗浄を簡略化することができつつ、さらにLi-CMCの表面に残留したリチウム塩の析出などを抑制することが可能である。
【0038】
水系溶媒中でのH-CMCとリチウム水溶液との接触は、前述する工程(A)と同様の方法で実施することができるが、H-CMCとリチウム水溶液の接触時間は連続して20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、60分以上がさらに好ましい。本発明ではH-CMCと接触するリチウム水溶液の濃度が10質量%以下となるため、反応効率を高めるため連続して行うことが好ましい。また、リチウム水溶液との反応処理を複数回繰り返すと、製造効率が低下するため好ましくない。
【0039】
そのようにして得られたLi-CMCは、濾別した後適量の水系溶媒にて共洗いを行った後、単離させることができ、適宜乾燥させることができる。
【0040】
なお、本発明のLi-CMCは、接触時にリチウム水溶液を適切な濃度に設定しているため水系溶媒での洗浄工程は簡略化でき、引用文献3等と比べて洗浄時間や洗浄溶媒量を少なくすることができる。
【0041】
さらにリチウム水溶液を調整する際に使用するリチウム塩種を適切に選ぶことで、そのように洗浄工程を簡略化しても、製造安定性はより高いものとなる。
【0042】
そのようにして得られたカルボキシメチルセルロースのリチウム塩は、Na-CMCが残留している混合塩となっていても良い。混合塩において、リチウムとナトリウムの総含有量におけるリチウムの含有率は、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましい。上限としては、90モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい(但し、ナトリウムとリチウムの総含有量を100モル%とする)。
【0043】
混合塩におけるナトリウムとリチウム含有率が本範囲であることで、一定以上のリチウム含有量を有するため、リチウム塩としての期待される効果を発揮しやすいため好ましい。
【0044】
<粉砕処理>
そのようにして得られるカルボキシメチルセルロースのリチウム塩は、機械的な粉砕処理品であることが好ましい。機械的な粉砕処理は、原料となるNa-CMCの段階で処理されても良いし(工程(D))、Li-CMCを得た後に粉砕処理を行っても良い(工程(E))。
【0045】
粉砕処理は、通常は機械を用いて行われる機械的粉砕処理である。カルボキシメチルセルロースの粉砕処理の方法としては、粉体の状態で処理する乾式粉砕法と、液体に分散、あるいは溶解させた状態で処理する湿式粉砕法との両方法が例示される。本発明においてはこれらのいずれを選択してもよい。
【0046】
カルボキシメチルセルロースの水溶液を調製すると、カルボキシメチルセルロースに由来するゲル粒子が未溶解物として、水溶液中に残存する。カルボキシメチルセルロースを機械的に乾式あるいは湿式粉砕処理することで、カルボキシメチルセルロースの機械的な粉砕処理物の水溶液においては、上記のゲル粒子が微細化される。その結果、カルボキシメチルセルロースの機械的な粉砕処理物の水溶液を用いて電極を形成すると、電極の表面に発生するスジ状の欠陥(ストリーク)や剥がれ、ピンホール等の原因となる粗大な未溶解物を、さらに抑制することができると考えられる。
【0047】
本発明で機械的な粉砕処理のために使用可能な粉砕装置としては以下の様な乾式粉砕機および湿式粉砕機が挙げられる。
【0048】
乾式粉砕機は、カッティング式ミル、衝撃式ミル、気流式ミル、媒体ミルが例示される。これらは単独あるいは併用して、さらには同機種で数段処理することができるが、気流式ミルが好ましい。
【0049】
カッティング式ミルとしては、メッシュミル((株)ホーライ製)、アトムズ((株)山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、
ロータリーカッターミル((株)奈良機械製作所製)、等が例示される。
【0050】
衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン(株)製)、ファインイパクトミル(ホソカワミクロン(株)製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン(株)製)、サンプルミル((株)セイシン製)、バンタムミル((株)セイシン製)、アトマイザー((株)セイシン製)、トルネードミル(日機装(株))、ターボミル(ターボ工業(株))、ベベルインパクター(相川鉄工(株))等が例示される。
【0051】
気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山(株)製)、ジェットミル(三庄インダストリー(株)製)、エバラジェットマイクロナイザ((株)荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業(株)製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)製)等が例示される。
【0052】
媒体ミルとしては、振動ボールミル等が例示される。
【0053】
湿式粉砕機としては、マスコロイダー(増幸産業(株)製)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業(株)製)、媒体ミルが例示される。媒体ミルとしては、ビーズミル(アイメックス(株)製)等を例示できる。
【0054】
<カルボキシメチルセルロースリチウム塩の粒径>
本発明において、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の粒径は、小さい方が好ましい。すなわち、メタノールを分散剤としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計100%粒子径の値(本明細書においては、以降「最大粒子径」ということがある)が100μm未満であることが望ましく、70μm未満であることがより望ましく、50μm未満がさらに望ましい。カルボキシメチルセルロースリチウム塩の最大粒子径が100μm以上であるとカルボキシメチルセルロース又はその塩の水溶液中の未溶解物が増加する傾向がある。
【0055】
また、本発明においてカルボキシメチルセルロースのリチウム塩は、造粒処理が施されていてもよい。これにより、取り扱いが容易となる。造粒処理を施すことによりカルボキシメチルセルロースリチウム塩の最大粒子径は100μm以上となることがあるが、造粒処理前のカルボキシメチルセルロースリチウム塩の最大粒子径は100μm未満であることが好ましい。
【0056】
なお、最大粒子径の下限は特には限定されない。小さければ小さいほど好ましく、0を超えていればよい。
【0057】
カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の、メタノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径(以下、平均粒子径という。)は、通常は30μm以下であり、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。また、平均粒子径の下限は特に限定されないが、通常は5μm以上であり、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0058】
本発明においては、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩を粒子径の大きさ(好ましくは最大粒子径の大きさ)に基づき分級し得る。分級とは、分級の対象である粒子を、ある粒子径の大きさ以上のものとそれ以下のものとを篩い分けする処理を意味する。
【0059】
分級は、最大粒子径が100μm未満であるか100μm以上であるかを基準として行うことが好ましい。これにより、最大粒子径が100μm未満のカルボキシメチルセルロースのリチウム塩を選択的に収集することができる。
【0060】
カルボキシメチルセルロースのリチウム塩として、粉砕処理物を用いる場合、上記の分級の時期は特に限定されず、工程(D)又は工程(E)としての、粉砕処理の途中に設けてもよいし、粉砕処理の終了後に設けてもよい。
【0061】
なお工程(E)を行わない場合には、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩の粒径は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の段階で測定しても良く、その測定値をカルボキシメチルセルロースのリチウム塩の粒径とみなすことができる。
【実施例0062】
以下、本発明の実施の形態を実施例により説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0063】
(製造例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロパノール600部と水酸化ナトリウム38部を水80部に溶解したものとを加え、リンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥重量で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に攪拌しつつモノクロロ酢酸46部を添加し、30分間攪拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.70のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。
得られたCMCを気流式ミルを用いて乾式粉砕処理を行い、その後、サイクロン式分級機によって、平均粒子径15.0μm、最大粒子径49.0μmのカルボキシメチルセルロース粉砕処理物(Na―CMC1)を得た。この粉砕処理物の前記粘度は7850mPa・sであり、前記粘度分子量は414,000であった。
【0064】
(実施例1)
得られたNa-CMC1を10gはかり取り、メタノール:イソプロピルアルコール:純水=5:5:2の割合で140ml調整した水系溶媒1に添加した後、室温下で攪拌しながら酢酸を5.28g徐々に添加し、1.5時間室温で攪拌をし続けた。
酸型に置換されたCMC1(H-CMC1)を、0.8μmPTFEフィルターを用いて吸引濾過し、水系溶媒1の100mlで3回洗浄処理した後、単離し風乾させH-CMC1の乾燥物を得た。
クエン酸リチウム4水和物20.86gを純水39mlに溶解させたクエン酸リチウム水溶液を調整し、メタノール135mlとクエン酸リチウム水溶液15mlを混合させたリチウム処理溶媒1を得た。
H-CMC1の10gをリチウム処理溶媒1に添加し、室温下で60分間攪拌処理を行った後、0.8μmPTFEフィルターを用いて吸引濾過し、純水:メタノール=1:9の比率で300ml調整した洗浄溶媒にて洗浄を行った後、単離し70℃で真空乾燥を行い、Li-CMC1を得た。
【0065】
(比較例1)
製造例1のNa-CMC1を、比較例1として用いた。
【0066】
<評価>
<カルボキシメチル置換度(CM-DS)の測定方法>
カルボキシメチルセルロース塩の試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CMC塩)をH-CMC(カルボキシメチルセルロース)にした。絶乾したH-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。CM-DSを、次式1によって算出した。
(式1)
A=[(100×F-(0.1NのH2SO4(mL))×F’)×0.1]
/(H-CMCの絶乾重量(g))
カルボキシメチル置換度(CM-DS)=0.162×A/(1-0.05
8×A)
A:1gのH-CMCの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0067】
<最大粒子径、平均粒子径および粒度分布の測定>
カルボキシメチルセルロース塩の最大粒子径、及び平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計(マイクロトラック Model-9220-SPA、日機装(株)製)により行った。ここで、最大粒子径とは体積類型100%粒子径の値を、平均粒子径とは体積累計50%粒子径の値を示した。測定に当たっては、試料をメタノールに分散させた後、超音波処理を少なくとも1分以上行ったものについて測定を行った。
【0068】
<粘度>
カルボキシメチルセルロース塩を、1000ml容ガラスビーカーに測りとり、蒸留水900mlに分散し、固形分1%(w/v)となるように水分散体を調製する。水分散体を25℃で撹拌機を用いて600rpmで3時間撹拌する。その後、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.1ローター/回転数30rpmで3分後の粘度を測定した。
【0069】
<CMC中のLi及びNa元素の定量>
各CMC1を1gはかり取り、白金るつぼに入れ、525℃で5時間加熱処理を行った。加熱処理後、るつぼを取り出し、自然冷却を行った。
室温付近までるつぼが冷えたら、6NのHCLを1ml添加し、ホットプレート(100℃)で蒸発乾固した。
再度6NのHCLを1ml添加し、ホットプレート(60℃)上で軽く攪拌しながら溶解させた後、50mlのメスフラスコに溶解試料を移し、純水で50倍に希釈した。
200mlのポリ容器に希釈試料を移し、純水でさらに希釈を行った(なお希釈濃度は、Li-CMC1は10万倍希釈、Na-CMC1は5万倍希釈とした)。
各CMC1の希釈試料を1mlはかり取り、純水でさらに10倍希釈としたのち、シリンジフィルター(ジーエルサイエンス株式会社製、製品名クロマトディスク0.2μm)でろ過した。
得られた精製試料を、イオンクロマトグラフィー(Dionex社製 ICS1500、カラム:IonPacCS12A、溶離液:15mMメタスルホン酸、流速1.0ml/分)にて測定し、Li及びNa元素の含有量(ppm)を、ThermoFisherScientific社製のChromeleonにて解析を行い、算出した。
【0070】
【表1】
※粒径は原料となるNa-CMC1の段階で取得した。
【0071】
実施例1で得られたLi-CMC1は、ナトリウム塩との混合塩として存在しているが、その粘度などの物性は比較例1と変化がなく、物性に影響なくリチウム塩に置換されていることが分かる。
【0072】
また、実施例1の混合塩において、表1の元素含有量(ppm)とLi原子及びNa原子の原子量から計算される、リチウムとナトリウムの総含有量におけるリチウムの含有率は、46.4モル%であった。