(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097907
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】エア交絡二重撚り紐、マスク及びマスクの耳掛け紐
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20220624BHJP
D02G 3/32 20060101ALI20220624BHJP
D02J 1/00 20060101ALI20220624BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/32
D02J1/00 K
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211154
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】520503511
【氏名又は名称】森常株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】森 常英
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA42
4L036PA46
4L036RA05
4L036UA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】装着感に優れたマスクを大量かつ安価に提供できるようにするために、多く普及している既存の機械を用いて、肌触りが良く柔軟な、マスクの耳掛け紐として特に有用な、撚り紐を提供する。
【解決手段】エア交絡二重撚り紐6は、弾性糸の芯糸2に、ナイロンのマルチフィラメントをカバー糸3としてエアカバリング加工してエア交絡糸4とし、エア交絡糸4の複数本を第1の方向に撚り合わせて下撚り紐5とし、下撚り紐5の複数本を第1の方向と逆の方向に撚り合わ(上撚り)せた撚り紐である。得られたエア交絡二重撚り紐6は、マスクの耳掛け紐として特に有効に用いることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性糸の芯糸にナイロンのマルチフィラメントをカバー糸としてエアカバリング加工したエア交絡糸の複数本を第1の方向に撚り合わせた撚り紐の複数本を前記第1の方向と逆の方向に撚り合わせてなる、エア交絡二重撚り紐。
【請求項2】
一の方向に撚り合わされた複数本の撚り紐からなるマスクの耳掛け紐であって、前記複数本の撚り紐のそれぞれがポリウレタンの芯糸にナイロンのマルチフィラメントのカバー糸を交絡したエア交絡糸の複数本を前記一の方向と逆の方向に撚り合わされた撚り紐である、マスクの耳掛け紐。
【請求項3】
請求項1のエア交絡二重撚り紐又は請求項2記載の耳掛け紐をマスク本体の両側に止着してなるマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鼻と口を覆うように顔面に装着されるマスク本体と当該マスク本体を装着するために備えられるマスクの耳掛け紐、及びマスクの耳掛け紐として特に有用な撚り紐に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芯糸にエアカバリング機でカバー糸を絡めたエア交絡糸は、従来から知られており、例えばウレタンのフィラメントを芯糸として、エアカバリング機でナイロンのマルチフィラメントを絡めた比較的細いエア交絡糸は、伸縮性のある下着の糸として従来から使われている。
【0003】
エア交絡糸は、芯糸にカバー糸をエアカバーする際に、カバー糸に多数のループが形成されるため、ソフトで肌触りに優れているという特徴がある。
【0004】
また、エアカバー紐として、近時、ポリウレタンを芯糸としてカバー糸をエアで絡めたリリアン(筒編み)紐が作られている。
【0005】
また、エアカバリングした嵩高糸として、例えば特許文献1には、着色弾性糸にドラフトをかけた後、他のフィラメント糸と引き揃え、交絡処理を施す加工糸の製造方法において、交絡処理をエア交絡とする加工糸の製造方法が提案されている。当該方法により得られた糸は、高次加工して、衣服などに使用する際、嵩高でソフトな風合いを有し、芯糸である着色弾性糸が露出しないため、外観品位が優れたストレッチ布帛を得ることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、高強度繊維が本来有する強度、耐熱性などの優れた性質を失うことなく、ゴムもしくは樹脂との接着性が良好で、かつ高強度の補強用嵩高糸を提供することを課題として、マルチフィラメント繊維のエア交絡糸である嵩高加工糸と、熱可塑性または非熱可塑性高強度繊維のフィラメント糸条もしくは撚糸からなる補強糸とが撚り合わされている補強用嵩高糸が提案されている。
【0007】
エアカバリング加工は、生産性が高く、加工コストが比較的安価であり、嵩高でソフトな風合いの糸を得ることができるが、カバー糸による芯糸の被覆性が十分でなく、弾性糸を芯糸とする弾性を備えたものは、芯糸が外側に露出して耐久性が低いという欠点があるため、用途が限定されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-60089号公報
【特許文献2】特開2008-190092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の飛沫感染を主要な感染経路とする感染症の流行により、世界的にマスクの需要が高まっている。一般的なマスクは、マスク本体の両側に取り付けた耳掛け紐を耳たぶに掛けることにより装着されるので、マスクを製造するには、鼻と口を覆うマスク本体と耳掛け紐とが必要である。
【0010】
感染症の流行を防ぐために使用するマスクは、感染症の流行に伴って大量のマスクを必要とする一方、感染症の流行が収まれば需要が大幅に減少し、衛生上の観点から、1個のマスクを継続して使用することも、洗濯して繰り返し使用することも困難である。しかも、感染症は、季節や感染症の種類により大幅に増減する。そのため、マスク紐も安価でかつ既存の機械で速やかに大量供給可能なものであることが要望され、装着感にすぐれていることも当然に必要である。
【0011】
この発明は、多く普及している既存の機械を用いて大量かつ安価に製造することができる、装着感にも優れたマスクの耳掛け紐を提供できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、衛生上の観点から耐久性を必要としないマスクの耳掛け紐については、カバー糸による芯糸の被覆性が十分でなく、耐久性が低いという欠点が問題になることはなく、エアカバリング加工のコストが安価であることと生産性の高さが需要の急激な変動に対処でき、かつソフトで肌触りが良く、嵩高糸も容易に製造できるというエアカバリング加工の特徴を有効に生かすことができる製品として、マスクの耳掛け紐として特に有用なエア交絡二重撚り紐を提供するものである。
【0013】
この発明のエア交絡二重撚り紐6は、弾性糸の芯糸2にナイロンのマルチフィラメントをカバー糸3としてエアカバリング加工したエア交絡糸4の複数本を第1の方向に撚り合わせた下撚り紐5の複数本を前記第1の方向と逆の方向(例えば第1の方向がS方向であればZ方向)に撚り合わ(上撚り)された撚り紐である。一般的には、前記弾性糸はポリウレタンのフィラメントである。
【0014】
この発明のエア交絡二重撚り紐は、マスクの耳掛け紐として特に有効に用いることができる。この発明のマスクの耳掛け紐7aは、一の方向に撚り合わ(上撚り)された複数本の下撚り紐がらなるマスクの耳掛け紐であって、複数本の下撚り紐5のそれぞれがポリウレタンの芯糸2にナイロンのマルチフィラメントのカバー糸3をエアカバリング加工したエア交絡糸4の複数本を他の方向に撚り合わ(下撚り)されているエア交絡二重撚り紐6を所定長さに截断してなる、マスクの耳掛け紐7aである。
【0015】
また、本発明のマスク7は、前記エア交絡二重撚り紐又は前記耳掛け紐7aをマスク本体7bの両側に止着してなるマスク7である。
【発明の効果】
【0016】
この発明のエア交絡二重撚り紐は、元糸がエア交絡糸のため軽くて柔らかく、肌触りが良く、フイット感が良い。芯糸に与えるドラフトの大きさやカバー糸のフィード率を調整することにより、エアカバリング加工で得られるエア交絡糸の太さや肌触りを調整でき、下撚りするエア交絡糸4の本数や上撚りする際の下撚り紐5の本数により、糸の太さを容易に調整できる。従って、使用する機械の仕様や入手可能な原料糸の太さが異なっても、耳掛け紐として適切な太さと肌触りを持つ撚り紐を製造することができる。
【0017】
また、エアカバリング加工は、生産性が高く、業界には多数の既存の撚糸機が存在するので、安価にかつ大量に作ることができ、急激な需要の変動にも速やかに対応できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】この発明のエア交絡二重撚り紐の加工工程(a)~(d)における糸及び紐の模式的な部分側面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例を示す図面を参照してこの発明を具体的に説明する。
【0020】
図1は、エア交絡糸を製造するエアカバリング機1の概略を示す図である。
図1に示すように、フィードローラ11でパッケージ17から引き出された芯糸2と、フィードローラ12によりパッケージ18から糸ガイド16を経て引き出されたカバー糸3とが、ガイドローラ13において合糸され、デリバリーローラ14に引かれて交絡ノズル15を通過して行く。
【0021】
弾性糸である芯糸2に付与されるドラフト(伸び)は、フィードローラ11とパッケージ17との周速差により付与される。一方、フィードローラ11とフィードローラ12との周速差により芯糸2に対してカバー糸3がオーバーフィードされ、カバー糸3は芯糸2にまつわりついた状態で交絡ノズル15を通過することとなる。
【0022】
交絡ノズル15では、通過する糸に向けて横方向から高速の空気流が吹き出され、カバー糸3は、この空気流によって不規則なもつれやねじれ、多数のループを発生し、その結果、芯糸2にカバー糸3が交絡してエア交絡糸4が製造される。
【0023】
この発明のエア交絡二重撚り紐6は、ポリウレタンのフィラメントを芯糸2とし、ナイロンのマルチフイラメントをカバー糸3として、エアカバリング機1で製造したエア交絡糸4(
図2(a))の複数本(例えば12本)を束ねて(
図2(b))撚糸機で撚って下撚り紐5(
図2(c))とし、この下撚り紐5の複数本(例えば2本)を揃えて(
図2(d))逆方向(下撚りがS撚りであればZ撚り、下撚りがZ撚りであればS撚り)に撚って得られる紐である。
【0024】
例えば、モノフィラメントのポリウレタン78Tにマルチフィラメントのナイロン78Tを交絡してエア交絡糸4を製造し、得られたエア交絡糸4を12本揃えて130t/mのS撚り(下撚り)をかけ、得られた下撚り紐5を2本合わせて下撚りの方向とは逆方向に80t/mで撚って(上撚り)エア交絡二重撚り紐6とし、所定長さに截断してマスク7の耳掛け紐7aとする。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明の耳掛け紐7aは、元糸となるエア交絡糸4のソフトで肌触りがよいという特徴を利用したものであり、耳掛け紐としての弾性は芯糸2となるポリウレタン糸の太さや弾性率で調整することができ、耳掛け紐としての肌触りやソフト感は、カバー糸3の太さやカバリング加工する際のドラフトやフィード率により調整することができ、耳掛け紐としての太さは、下撚りをする際のエア交絡糸4の本数と上撚りをする際の下撚り紐5の本数で適宜に調整できる。
【0026】
また、製造過程で上記のような調整ができるので、芯糸やカバー糸についても、入手しやすい糸を用いて適切な弾性、肌触り及び太さを備えた耳掛け紐を製造できるので、糸の市場の状態に関ることなく、入手しやすい糸を原料として多数の既設の機械を用いてた必要量を速やかに生産できる。
【0027】
従って、既設のエアカバリング機の仕様や使用する撚糸機の仕様に応じて、また市場における糸の供給量や価格に応じて、かつ急激な需要の変化にも速やかに対応して、必要な量のマスクを安価に提供することができる。
【符号の説明】
【0028】
2 芯糸
3 カバー糸
4 エア交絡糸
5 下撚り紐
6 エア交絡二重撚り紐
7 マスク
7a 耳掛け紐
7b マスク本体