IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソニー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-音響再生装置 図1
  • 特開-音響再生装置 図2
  • 特開-音響再生装置 図3
  • 特開-音響再生装置 図4
  • 特開-音響再生装置 図5
  • 特開-音響再生装置 図6
  • 特開-音響再生装置 図7
  • 特開-音響再生装置 図8
  • 特開-音響再生装置 図9
  • 特開-音響再生装置 図10
  • 特開-音響再生装置 図11
  • 特開-音響再生装置 図12
  • 特開-音響再生装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009793
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】音響再生装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20220106BHJP
   H04R 3/14 20060101ALI20220106BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H04R1/00 317
H04R3/14
H04R1/10 101Z
H04R1/10 101B
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178459
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2018508399の分割
【原出願日】2016-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2016065866
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110000763
【氏名又は名称】特許業務法人大同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 真昂
(72)【発明者】
【氏名】関根 和浩
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 浄
【テーマコード(参考)】
5D005
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D005BA01
5D005BA12
5D005BB02
5D017AB13
5D220AA14
5D220AA47
5D220AB01
(57)【要約】
【課題】骨導式を採用しつつ、広帯域にわたって良好な音質を得ることができる、耳穴開放型の音響再生装置を提供する。
【解決手段】第1のイコライザー303は、振動スピーカー301では再生が困難で骨伝導では伝わり難い高域成分を除去する。そして、振動スピーカー301から、低域から中域にわたる音声を骨導音により出力する。第1のイコライザー303のイコライジング処理により、高域の音漏れを低減することにもなる。一方、第2のイコライザー304は、低域から中域にわたる成分を除去する。そして、気導スピーカー302から高品質の高域成分の音声を気導音により出力する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨導音を発生する振動スピーカーと、
前記振動スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第1のイコライザーと、
気導音を発生する気導スピーカーと、
前記気導スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第2のイコライザーと、
前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーを備え、耳穴から離間した場所に配置されるドライバーユニットと、
を具備し、
前記気導スピーカーは、気導音の出力方向が耳介のほぼ垂直方向を向くように前記ドライバーユニットの筐体に取り付けられる、
音響再生装置。
【請求項2】
前記第1のイコライザー及び前記第2のイコライザーは、同一の音源からの信号に対してそれぞれイコライジング処理し、
前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーは、それぞれ再生した音を同時に出力する、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記第1のイコライザーは、高域を除去するイコライジング処理を行ない、
前記振動スピーカーは、低・中域成分からなる骨導音を出力する、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項4】
前記第2のイコライザーは、低・中域を除去するイコライジング処理を行ない、
前記気導スピーカーは、高域成分からなる気導音を出力する、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項5】
前記振動スピーカーは50~5000Hzの低・中域を再生し、前記気導スピーカーは5kHz以上の高域を再生する、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項6】
前記振動スピーカーは、ダイナミック型振動スピーカーである、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項7】
前記気導スピーカーは、高域を再生可能若しくは小型のスピーカーである、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項8】
前記気導スピーカーは、バランスド・アーマチュア型スピーカーである、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項9】
前記ドライバーユニットを支持する支持部をさらに備える、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項10】
前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者の頭部の中心方向に一定の圧力で押し当てるように支持する、
請求項9に記載の音響再生装置。
【請求項11】
前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者のこめかみ付近に配置する、
請求項9に記載の音響再生装置。
【請求項12】
前記ドライバーユニットは前記支持部から取り外して交換できる、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項13】
使用者の頭部に取り付けられた装着状態のときのみ振動スピーカー及び気導スピーカーを駆動させ、未装着状態では振動スピーカー及び気導スピーカーの動作を停止させる、
請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項14】
使用者の頭部を介して電気信号を送受信する生体通信機能をさらに備える、
請求項1に記載の音声再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、ヘッドホンやイヤホンなど聴視者の耳に装着して用いられる音響再生装置に係り、特に、骨導式を採用し、耳穴開放型の音響再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音を頭蓋骨などの骨に直接伝達する骨導式の音響再生装置(ヘッドホンやイヤホンなど)が知られている(例えば、特許文献1を参照のこと)。骨導式の音響再生装置は、例えばこめかみ付近の頭蓋骨に振動スピーカーを押し当てて使用される。骨は、音を振動として伝達し、蝸牛などの内耳の器官を刺激する。そして、蝸牛は振動を電気信号に変換して脳に伝える。
【0003】
既に広く普及している気導式のヘッドホンやイヤホンは、気導スピーカー(ドライバーユニット)からの音を空気の振動に変換して耳に伝える。このため、気導式のヘッドホンやイヤホンの多くは、周囲音による干渉や、外部への音漏れを防止するために、耳穴を塞ぐ構造となっている。このため、このようなヘッドホンやイヤホンを装着すると周囲音が聴こえ難くなるので、安全上の理由から周囲音が聞こえないと困るシーンでの使用は差し控えるべきであり、規則などにより使用が制限される場合もある。
【0004】
これに対し、骨導式の音響再生装置は、音を骨に伝達することから、耳穴を塞ぐ必要はなく、耳穴開放型の装置として構成することができる。耳穴開放型の音響再生装置によれば、装着中や聴視中であっても周囲音を自然に聴くことができるという利点がある。したがって、空間把握、危険察知、会話並びに会話時の微妙なニュアンスの把握といった、聴覚特性に依存した人間の機能を正常に利用することができる。また、耳穴を塞いでいないので、他人から見て話し掛けてもよい外観をしており、人と人とのコミュニケーションを阻害しない。また、耳穴に装着しないので、耳の大きさや形状の個人差などに影響されず、良好な装着感を得ることができるという利点もある。
【0005】
ところが、音を振動として骨に伝達する振動スピーカーは、再生可能周波数帯が狭いため、骨導式の音響再生装置は、音質的な面では、気導式の音響再生装置よりも劣るという問題がある。さらに、骨導聴音は、軟骨や筋肉といった固有振動数の低い軟組織を伝搬する際に、高周波成分が減衰するという特徴を有している。このため、骨導式の音響再生装置は、高周波域を再生することは難しいとされている。
【0006】
また、骨導式の音響再生装置は、振動スピーカーから発生する振動が固定先の筐体を震わせることによる音漏れが課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-267900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書で開示する技術の目的は、骨導式を採用しつつ、広帯域にわたって良好な音質を得ることができる、耳穴開放型の音響再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示する技術は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、
骨導音を発生する振動スピーカーと、
前記振動スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第1のイコライザーと、
気導音を発生する気導スピーカーと、
前記気導スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第2のイコライザーと、
を具備する音響再生装置である。
【0010】
本明細書で開示する技術の第2の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記第1のイコライザー及び前記第2のイコライザーは、同一の音源からの信号に対してそれぞれイコライジング処理し、前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーは、それぞれ再生した音を同時に出力するように構成されている。
【0011】
本明細書で開示する技術の第3の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記第1のイコライザーは、高域を除去するイコライジング処理を行ない、前記振動スピーカーは、低・中域成分からなる骨導音を出力するように構成されている。
【0012】
本明細書で開示する技術の第4の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記第2のイコライザーは、低・中域を除去するイコライジング処理を行ない、前記気導スピーカーは、高域成分からなる気導音を出力するように構成されている。
【0013】
本明細書で開示する技術の第5の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記振動スピーカーは、最低共振周波数F0が低く、再生可能周波数帯が広いタイプの振動スピーカーとして構成されている。
【0014】
本明細書で開示する技術の第6の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記振動スピーカーは、ダイナミック型振動スピーカーである。
【0015】
本明細書で開示する技術の第7の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記気導スピーカーは、高域を再生可能若しくは小型のスピーカーである。
【0016】
本明細書で開示する技術の第8の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置の前記気導スピーカーは、バランスド・アーマチュア型スピーカーである。
【0017】
本明細書で開示する技術の第9の側面によれば、第1の側面に係る音響再生装置は、前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーを備えるドライバーユニットと、前記ドライバーユニットを支持する支持部をさらに備えている。
【0018】
本明細書で開示する技術の第10の側面によれば、第9の側面に係る音響再生装置の前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者の頭部の中心方向に一定の圧力で押し当てるように支持するように構成されている。
【0019】
本明細書で開示する技術の第11の側面によれば、第9の側面に係る音響再生装置の前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者のこめかみ付近に配置するように構成されている。
【0020】
本明細書で開示する技術の第12の側面によれば、第9の側面に係る音響再生装置の前記気導スピーカーは、前記ドライバーユニットの筐体に取り付けられている。そして、前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者の耳穴から離間した場所で支持するように構成されている。
【0021】
本明細書で開示する技術の第13の側面によれば、第12の側面に係る音響再生装置の前記気導スピーカーは、気導音の出力方向が耳介のほぼ垂直方向を向くように前記ドライバーユニットの筐体に取り付けられている。
【発明の効果】
【0022】
本明細書で開示する技術によれば、骨導式を採用しつつ、広帯域にわたって良好な音質を得ることができる、耳穴開放型の音響再生装置を提供することができる。
【0023】
なお、本明細書に記載された効果は、あくまでも例示であり、本発明の効果はこれに限定されるものではない。また、本発明が、上記の効果以外に、さらに付加的な効果を奏する場合もある。
【0024】
本明細書で開示する技術のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置100を使用者の頭部に装着した様子示した図である。
図2図2は、本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置100を上方から眺望した様子を示した図である。
図3図3は、ドライバーユニット101の機能的構成例を示した図である。
図4図4は、ダイナミック型の振動スピーカーの特性例を示した図である。
図5図5は、第1のイコライザー303及び第2のイコライザー304の波形等化特性を示した図である。
図6図6は、右側のドライバーユニット101Rを、使用者の頭部右側のこめかみ付近に取り付けている様子を示した図である。
図7図7は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図8図8は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図9図9は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図10図10は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図11図11は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図12図12は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
図13図13は、音響再生装置100の変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本明細書で開示する技術の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1及び図2には、本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置100の外観構成例を模式的に示している。但し、図1は、音響再生装置100を装着した使用者の頭部を右側から眺めた様子を示し、図2は、音響再生装置100を上方から眺望した様子を示している。
【0028】
図示のように、音響再生装置100は、左右のドライバーユニット101L及び101Rと、これらドライバーユニット101L及び101Rを両端で支持する支持部102からなり、左右ほぼ対称的な構造をなしている。但し、支持部102を含めた音響再生装置100全体の外観が左右対称的な構造であることは必須でない。
【0029】
支持部102は、図示の例では、ヘッドバンドのように、使用者の後頭部から首部にわたって巻き掛けて使用するように構成されている。但し、支持部102を、頭頂部を通って巻き掛けるように構成することもできる。
【0030】
支持部102は、例えばポリプロピレンなどの合成樹脂や、アルミニウム、ステンレス、チタンなどの金属で製作された、適度の弾性を有するU字形状の構造体である。U字を広げて頭部を挟み込むようにして、図1に示すように支持部102を使用者の後頭部から首部にわたって巻き掛けることができ、その際、支持部102には元のU字形状に戻ろうとする復元力が発生する。この復元力が支持部102の両端を使用者の頭部の内側に向かって作用することにより、ドライバーユニット101L及び101Rを左右のこめかみ付近(若しくは、耳珠の少し前方位置付近)にそれぞれ押し当てるようになっている。
【0031】
図1からも分かるように、各ドライバーユニット101L及び101Rは、耳穴から離間した場所に配設されており、本実施形態に係る音響再生装置100は耳穴開放型であると言うことができる。
【0032】
なお、音響再生装置100が左右両方にドライバーユニット101L及び101Rを装備することは必須ではなく、左右いずれか一方にのみドライバーユニット101L又は101Rを装備するという構成例(図13を参照のこと)も想定される。
【0033】
図3には、ドライバーユニット101の機能的構成例を示している。左右両方にドライバーユニット101L及び101Rを装備する音響再生装置100の場合、いずれのドライバーユニット101L及び101Rも同様に構成されるものと理解されたい。
【0034】
ドライバーユニット101は、振動スピーカー301と、気導スピーカー302と、第1のイコライザー303と、第2のイコライザー302を備えている。
【0035】
音響再生装置100(ドライバーユニット101)への音源311として、例えば、携帯音楽プレイヤーで再生される音声や、携帯電話からの電話音声などを想定している。音響再生装置100は、例えば有線ケーブル、あるいはBluetooth(登録商標)などの無線通信を介して、携帯音楽プレイヤーや携帯電話などの外部機器(何れも図示しない)からの音響電気信号を受信するものとする。
【0036】
第1のイコライザー303は、音響電気信号に対して、振動スピーカー301用のイコライジング処理を行なう。振動スピーカー301は、音響電気信号を機械的振動に変換する。上述したように、ドライバーユニット101は使用者のこめかみ付近に押し当てられているので、振動スピーカー301が発生する振動は、こめかみ付近の頭蓋骨を通じて骨導音312として伝えられる。そして、骨導音312が蝸牛などの内耳の器官を刺激すると、蝸牛は骨導音312を電気信号に変換して脳に伝え、聴音314として使用者に認識される。
【0037】
また、第2のイコライザー304は、音響電気信号に対して、気導スピーカー302用のイコライジング処理を行なう。気導スピーカー301は、音響電気信号を空気振動に変換する。図1からも分かるように、ドライバーユニット101は使用者の耳穴付近に配設されているので、気導スピーカー302が発生する空気振動は、気導音313として耳穴から外耳道を通じて鼓膜に伝えられる。そして、気導音313が蝸牛などの内耳の器官を刺激すると、蝸牛は気導音313を電気信号に変換して脳に伝え、聴音314として使用者に認識される。
【0038】
本実施形態に係る音響再生装置100は、振動スピーカー301と気導スピーカー302を同時に再生して、骨導音312と気導音313をハイブリッドに聴音させるという点に主な特徴がある。
【0039】
音を振動として骨に伝達する振動スピーカー301として、ダイナミック型、圧電型、磁歪型などの方式が挙げられる。ダイナミック型は、通常のスピーカーと同様に、コイルとマグネット間に作用する電磁力による駆動力を利用する方式である。また、圧電型は、圧電セラミックに電圧を印加することで逆圧電効果により駆動力を得る方式である。また、磁歪型は、超磁歪素子の磁界変化による伸び縮み(ジュール効果)を駆動力として利用する方式である。
【0040】
いずれの方式であれ、振動スピーカーは、一般に再生可能周波数帯が狭く、音質的な面では、気導式の音響再生装置よりも劣るという問題がある。図4には、ダイナミック型の振動スピーカーの特性例を示している。同図は、アクチュエーターによって加振された錘100グラムの振動加速度を測定したもので、横軸を周波数[Hz]、縦軸を振動加速度レベル[dB]とする。ダイナミック型の振動スピーカーの最低共振周波数F0を低くすると、5000Hz以上の高域で不要な共振が発生してしまう。この共振が音質の劣化と音漏れの原因になる。高域の音漏れは、例えば「シャカシャカ」と聴こえるような雑音である。
【0041】
要するに、振動スピーカー301は高域成分を高音質で再生することができない。さらに、骨導音312は、軟骨や筋肉といった固有振動数の低い軟組織を伝搬する際に、高周波成分が減衰するという特徴を有している。これらの理由により、高周波成分を骨導音として再現することは難しいということができる。
【0042】
そこで、本実施形態に係る音響再生装置100は、振動スピーカー301では再生が困難若しくは不能な高域成分を補間すべく、気導スピーカー302と組み合わせたハイブリッド型として構成されている訳である。
【0043】
第1のイコライザー303は、5000Hz以上の高域で発生する不要な共振ノイズ成分(図4を参照のこと)を除去するようなイコライジング処理を行なう。このイコライジング処理により、振動スピーカー301からは低域から中域にわたる良好な音質の骨導音が出力されるとともに、骨導音のうち高周波成分を小さくする調整を行なうことができる。この結果、高域でのドライバーユニットの筐体の振動を抑制し、例えば「シャカシャカ」と聴こえるような音漏れを低減することができる。
【0044】
一方、第2のイコライザー304は、骨伝導により伝えることができる低域から中域にわたる成分を除去するようなイコライジング処理を行なう。したがって、イコライジング処理した信号を気導スピーカー302に入力して、振動スピーカー301からは出力されない高音質の高域成分の音声を気導音により伝えることができる。
【0045】
図5には、第1のイコライザー303及び第2のイコライザー304の波形等化特性を模式的に示している。但し、横軸は周波数[Hz]、縦軸は音圧[dB]である。同図からも分かるように、第1のイコライザー303は、参照番号501で示すように、骨導音から高域成分を除去するようなイコライジング処理を行なう。一方、第2のイコライザー304は、参照番号502で示すように、気導音から低域から中域にわたる成分を除去するようなイコライジング処理を行なう。第1のイコライザー303は低・中域透過フィルターということもでき、第2のイコライザー304は高域透過フィルターということもできる。したがって、両者を合わせると、低域から高域にわたる広域の音声を波形等化することができるということを理解できよう。
【0046】
振動スピーカー301は、第1のイコライザー303で高域成分が除去された、50~5000Hzの低・中域を再生することになる。上記では、振動スピーカー301として、ダイナミック型、圧電型、磁歪型などの各方式を挙げた。50~5000Hzの低・中域を再生することを考慮すると、振動スピーカー301として、最低共振周波数F0が低く、再生可能周波数帯が広いダイナミック型が適している、と本出願人は思料する。勿論、将来的に音響特性が改善されれば、圧電型や磁歪型の振動スピーカーを採用することも想定される。
【0047】
また、気導スピーカー302は、第2のイコライザー304で低・中域成分が除去された、5kHz以上の高域を再生することになる。気導スピーカー302としては、ダイナミック型、バランスド・アーマチュア型などの方式が挙げられる。一般に、ダイナミック型スピーカーは、(振動板を大きくするほど)低域成分がよく出る。一方のバランスド・アーマチュア型スピーカーは、鉄片の振動を細い棒(ドライブロッド)で振動板に伝えて振動させるが、高域で(解像感のある)良好な音質を得ることができる。また、バランスド・アーマチュア型スピーカーは、小型に製作することができるので、素子配置の制約が小さく、ハイブリッド型にしたときにも最良な素子配置を実現し易い。高域を出力可能であることと、小型であるという観点から、バランスド・アーマチュア型が気導スピーカー302に適している、と本出願人は思料する。勿論、将来的に小型化が進み素子配置の制約が小さくなれば、ダイナミック型の気導スピーカーを採用することも想定される。
【0048】
図6には、右側のドライバーユニット101Rを、使用者の頭部右側のこめかみ付近(若しくは、右耳の耳珠の少し前方位置付近)に取り付けている様子を示している。
【0049】
振動スピーカー301で発生する振動音で頭蓋骨を振動させるためには、振動スピーカー301(図6には図示しない)を内蔵するドライバーユニット101Rを一定の圧力で頭部の中心方向に押し当てる必要がある。本実施形態では、ドライバーユニット101Rは、左側のドライバーユニット101Lとともに、U字形状で適度の弾性を有する支持部102の両端に取り付けられている。そして、U字を広げて頭部を挟み込むようにして、支持部102を使用者の後頭部から首部にわたって巻き掛けられる(図1を参照のこと)。したがって、ドライバーユニット101Rは、支持部102の復元力によって、適度の圧力で頭部の中心方向に押し当てられるので、振動スピーカー301が発生する骨導音はこめかみ付近の頭蓋骨を通じて伝えられる。また、ドライバーユニット101Rは耳穴から離間した場所に配設されているので、音響再生装置100は耳穴開放型であるということができる。
【0050】
一方、気導スピーカー302は、ドライバーユニット101Rの筐体の、耳介方向に最も近い側縁601に、気導音の出力方向が耳介のほぼ垂直方向(若しくは、耳穴の方向)を向くように取り付けられている。一般に、高周波数の振動は、指向性がよく、減衰が大きい。したがって、図6に示すように、気導スピーカー302を耳介のほぼ垂直方向に向けることにより、5000Hz以上の高域の気導音を効率的に耳穴まで伝えることができる。また、気導スピーカー302は気導音を耳介に向けて出力するので、周囲への音漏れも小さくすることができる。
【0051】
音響再生装置100は、ドライバーユニット101Rを耳穴から離間した場所に配置した耳穴開放型であるが、気導スピーカー302は、耳穴から短い距離にあるので、減衰が大きい気導音を音導管なしで耳穴に直接届けることができる。骨導型のヘッドホンとして、こめかみ以外に耳裏や鼻骨に押し当てて使用するものも知られている。しかしながら、耳裏や鼻骨など耳穴から長い距離がある場所に気導スピーカーを配設すると、音導管を使って気導音を伝搬する必要があるとともに、高域の気導音が音導管を伝搬する間に減衰してしまうという問題がある。言い換えれば、気導スピーカー302から高域の気導音を発生するという観点から、音響再生装置100は、ドライバーユニット101Rをこめかみ付近に配設する構造であることがより好ましいということができる。
【0052】
本実施形態に係る音響再生装置100は、使用者の頭部に接触させた振動スピーカーと、耳介の垂直方向に向けた気導スピーカーを同時に再生し、骨導聴音と気導聴音をハイブリッド化する点に主な特徴がある。本実施形態に係る音響再生装置100は、従来の骨導聴音のみのヘッドホンなどと比較して、低域から高域(50Hz~20kHz)に至る広域での高音質音楽を再生できることや、高域(5000Hz~20kHz)の音漏れを低減できるといった利点がある。
【0053】
本実施形態に係る音響再生装置100は、例えば、耳穴開放型のヘッドホンとして利用され、携帯音楽プレイヤーで再生される音声や、携帯電話からの電話音声など、外部機器からの音声信号を、有線ケーブル、あるいはBluetooth(登録商標)などの無線通信を介して受信し、音声出力することができる。あるいは、本実施形態に係る音響再生装置100は、メモリーを内部に搭載したポータブル・プレイヤーとして利用され、内部で再生された音声を出力することができる。
【0054】
最後に、音響再生装置100の変形例について説明する。
【0055】
音響再生装置100の装着形態として、ドライバーユニット101L及び101Rを両端に支持するU字形状の支持部102を、U字を広げて頭部を挟み込むようにして、使用者の後頭部から首部にわたって巻き掛けたり、あるいは頭頂部を通って巻き掛けたりする構成例を挙げたが、これに限定されない。耳穴を開放しつつ、振動スピーカーを使用者の頭部に接触させ、且つ、気導音が耳穴の方向に出力されるように気導スピーカーを保持する構造であれば、オーバーヘッドホン型、眼鏡型、ヘッドバンド型、ヘルメット型などさまざまな装着形態でよい。
【0056】
また、図7に示すように、左右のドライバーユニット101L又は101Rのうち少なくとも一方を、支持部102から取り外して交換できるように構成することもできる。例えば使用者は、自分好みの音響特性を有するドライバーユニットに置き換えて音響再生装置100を使用することができる。
【0057】
また、図8に示すように、左右のドライバーユニット101L又は101Rのうち少なくとも一方について、気導スピーカー302を取り外して交換できるように構成することもできる。例えば使用者は、高域において自分好みの音響特性を有する気導スピーカーに置き換えて音響再生装置100を使用することができる。
【0058】
また、音響再生装置100は、図3に示したように、同一の音源311から低・中域と高域を分離してそれぞれ振動スピーカー301及び気導スピーカー302から出力する構成である点に着目して、同一の音源311のうち低・中域と高域を個別に音量調整できるように構成することもできる。
【0059】
例えば、図9に示すように、第1のイコライザー303内に可変ゲイン・アンプ901を設けて低・中域の音量を調整するとともに、第2のイコライザー304内にも可変ゲイン・アンプ902を設けて高域の音量を調整できるようにすればよい。各可変ゲイン・アンプ901及び902のゲインをコントロールすることで、図10に示すように、低・中域を抑圧した(若しくは、高域を助長した)波形等化特性にして高域の音量を増大させることができる。逆に、図11に示すように、高域を抑圧した(若しくは、低・中域を助長した)波形等化特性にして低・中域の音量を増大させることができる。勿論、第1のイコライザー303又は第2のイコライザー304のいずれか一方にのみ可変ゲイン・アンプ901又は902を配設してもよい。
【0060】
また、音響再生装置100の音源として、携帯音楽プレイヤーや携帯電話を始めとする外部機器を想定し、外部機器からの音響電気信号を有線ケーブルや無線通信を介して受信する例について言及したが、音源はこれに限定されない。例えば、音響再生装置100が音楽プレイヤーや携帯電話などの音源の機能を(例えばドライバーユニット内に)装備していてもよい。
【0061】
また、上記では、耳を塞がない安全な音楽再生を音響再生装置100のユースケースとして想定して説明してきたが、これに限定されない。例えば、音響再生装置100がさらにマイクを搭載することにより、集音器(ICレコーダー)としても利用することや、工事現場などの騒音環境でのコミュニケーション・ツールなどに応用することも考えられる。
【0062】
また、音響再生装置100は、人体に取り付けて使用されるというウェアラブル装置としての側面を備えることから、生体センサーをさらに装備して、生体情報を検出するようにしてもよい。生体センサーとして、体温センサー、発汗センサー、筋電センサー、脈拍センサー、ジャイロなどを挙げることができる。
【0063】
また、音響再生装置100は、装着センサーをさらに装備して、使用者の頭部に取り付けられた装着状態のときのみ振動スピーカー及び気導スピーカーを駆動させ、未装着状態では振動スピーカー及び気導スピーカーの動作を停止させるようにしてもよい。未装着状態での動作停止により、低消費電力化を図ることができるとともに、ドライバーユニットの筐体の振動による騒音を防ぐことができる。なお、装着センサーとして、照度センサー、圧力センサー、近接センサー、通電センサー、機械スイッチなどを挙げることができる。また、上述した生体センサーの一部を装着センサーに兼用することもできる。
【0064】
ここで、音響再生装置100に通電センサーを搭載する場合について補足しておく。例えば、左右のドライバーユニット101L及び101R内にそれぞれ送受信機を装備して、図12に示すように、ドライバーユニット101L及び101R間で電気信号1201を送受信することで、音響再生装置100が使用者の頭部(人体)に装着されていることを検出する。さらに、ドライバーユニット101L及び101R間で生体通信を行なうこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本明細書で開示する技術について詳細に説明してきた。しかしながら、本明細書で開示する技術の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0066】
本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置は、聴取者の耳に装着して用いられるが、「耳穴開放型」という点で従来のイヤホンとは大いに異なる。したがって、本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置は、装着状態においても非装着状態と同等の周囲音の聴取特性を実現しつつ、同時に音響情報を出力することができる、及び、装着状態においても周囲の人々からは聴取者の耳穴を塞いでいないように見える、といった特徴がある。このような特徴を生かして、本明細書で開示する技術を適用した音響再生装置を、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、登山、スキー、スノーボードを始めとする野外並びに室内で行なうさまざまなスポーツ分野(プレイ中や遠隔コーチングなど)、周囲音聴取と音声情報提示が同時に必要となるコミュニケーション若しくはプレゼンテーション分野(例えば、芝居観覧時情報補足、博物館音声情報提示、バード・ウォッチング(鳴声聴取)など)、運転若しくはナビゲーション、警備員、ニュースキャスターなどに適用することができる。
【0067】
要するに、例示という形態により本明細書で開示する技術について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本明細書で開示する技術の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【0068】
なお、本明細書の開示の技術は、以下のような構成をとることも可能である。
(1)骨導音を発生する振動スピーカーと、
前記振動スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第1のイコライザーと、
気導音を発生する気導スピーカーと、
前記気導スピーカーに入力する信号をイコライジング処理する第2のイコライザーと、
を具備する音響再生装置。
(2)前記第1のイコライザー及び前記第2のイコライザーは、同一の音源からの信号に対してそれぞれイコライジング処理し、
前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーは、それぞれ再生した音を同時に出力する、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(3)前記第1のイコライザーは、高域を除去するイコライジング処理を行ない、
前記振動スピーカーは、低・中域成分からなる骨導音を出力する、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(4)前記第2のイコライザーは、低・中域を除去するイコライジング処理を行ない、
前記気導スピーカーは、高域成分からなる気導音を出力する、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(5)前記振動スピーカーは、最低共振周波数F0が低く、再生可能周波数帯が広いタイプの振動スピーカーである、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(6)前記振動スピーカーは、ダイナミック型振動スピーカーである、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(7)前記気導スピーカーは、高域を再生可能若しくは小型のスピーカーである、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(8)前記気導スピーカーは、バランスド・アーマチュア型スピーカーである、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(9)前記振動スピーカー及び前記気導スピーカーを備えるドライバーユニットと、
前記ドライバーユニットを支持する支持部と、
をさらに備える、
上記(1)に記載の音響再生装置。
(10)前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者の頭部の中心方向に一定の圧力で押し当てるように支持する、
上記(9)に記載の音響再生装置。
(11)前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者のこめかみ付近に配置する、
上記(9)に記載の音響再生装置。
(12)前記気導スピーカーは、前記ドライバーユニットの筐体に取り付けられ、
前記支持部は、前記ドライバーユニットを使用者の耳穴から離間した場所で支持する、
上記(9)に記載の音響再生装置。
(13)前記気導スピーカーは、気導音の出力方向が耳介のほぼ垂直方向を向くように前記ドライバーユニットの筐体に取り付けられる、
上記(12)に記載の音響再生装置。
【符号の説明】
【0069】
100…音響再生装置、101L、101R…ドライバーユニット
102…支持部(ヘッドバンド)
301…振動スピーカー、302…気導スピーカー
303…第1のイコライザー、304…第2のイコライザー
901、902…可変ゲイン・アンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13