IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特開2022-97932ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
<>
  • 特開-ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097932
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/21 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
C08J3/21 CEQ
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211191
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA08
4F070AB11
4F070AC04
4F070AC05
4F070AC13
4F070AC40
4F070AC52
4F070AE01
4F070AE02
4F070AE03
4F070AE08
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB07
4F070FC03
(57)【要約】
【課題】タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができるゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のゴム組成物の製造方法は、シリカおよびシランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら密閉式混練機1で混練りする工程を含み、前記工程中の少なくとも一部の時間、密閉式混練機1のラム7が非押付である状態で、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を混練りする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカおよびシランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように、少なくともゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら密閉式混練機で混練りする工程を含み、
前記密閉式混練機は、混練室と、前記混練室の上方に位置するネック部と、前記ネック部内の空間を上下に移動可能なラムと、を備え、
前記工程中の少なくとも一部の時間、前記ラムが非押付である状態で、少なくとも前記ゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を混練りする、
ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記一部の時間が10秒以上である、請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記密閉式混練機が、前記混練室にローターを備え、
前記工程では、前記混練り温度を目標温度とするためにPID制御で前記ローターの回転速度を制御する、
請求項1または2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記カップリング反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする工程をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、
前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む、
タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの補強用充填剤として使用されるシリカは、シラノール基を有するため、水素結合によって凝集する傾向がある。よって、シリカをうまく分散させることは容易ではない。とりわけ、シリカを高充てんする場合や、小粒径のシリカを使用する場合など、シリカをうまく分散させることは容易ではない。
【0003】
シリカの凝集力を低下させるために、シランカップリング剤を使用することが知られている。シランカップリング剤は、混練りの際にシリカと反応することが可能であるため、シリカの凝集を防ぐことができる。なお、シランカップリング剤は、加硫時に、ゴムの二重結合と反応することが可能であるため、シリカとゴムとを結合することもできる。
【0004】
シリカの分散を高めるために、シリカおよびシランカップリング剤の反応(具体的にはカップリング反応)が抑制されるように、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤などを、混練り温度を制御しながら密閉式混練機で混練りすることが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-100116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法で、シリカの分散を高め、その結果、タイヤの低発熱性や、湿潤路面での制動性(以下、「湿潤路面制動性」という。)を改善することができるところ、この方法には、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができるゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明のゴム組成物の製造方法は、
シリカおよびシランカップリング剤のカップリング反応が抑制されるように、少なくともゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら密閉式混練機で混練りする工程を含み、
前記密閉式混練機は、混練室と、前記混練室の上方に位置するネック部と、前記ネック部内の空間を上下に移動可能なラムと、を備え、
前記工程中の少なくとも一部の時間、前記ラムが非押付である状態で、少なくとも前記ゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を混練りする。
ここで、「前記ラムが非押付である状態」とは、混練室の少なくとも一部が開放系となる程度にラムを上昇させた状態を含む。
【0009】
本発明によれば、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りすることによって、カップリング反応が活発にすすむ前に、シリカを効果的に分散させることができる。その結果、その工程以降でカップリング反応をすすめる場合に、カップリング反応の効率を上げることが可能であるため、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。したがって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0010】
しかも、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)中の少なくとも一部の時間、非押付状態(これは、混練室の少なくとも一部が開放系となった状態を含む)で混練りすることによって、水分などの揮発物を混練室外に排出することができるため、水分に起因するローターのスリップを低減できる。よって、カップリング反応が活発にすすむ前のシリカ分散の程度をいっそう高めることができる。これに加えて、カップリング反応の過程では水が副次的に生成するところ、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)以降でカップリング反応をすすめる場合に、水分が低減した状態でカップリング反応をすすめることができるため、カップリング反応を効率よくすすめることができる。これらの結果、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0011】
本発明は、とりわけ、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)でローターの回転速度がPID制御される場合に、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を効果的に改善することができる。これについて説明する。仮に、ローターのPID制御中、押付状態(具体的には、ラムで、混練中の材料を押さえつけた状態)のみで混練したとすると、せん断発熱による温度上昇を招きやすいため、ローターの回転数が下がりやすく、したがってシリカ分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)がすすみにくい。これに対して、本発明では、非押付状態で混練することによって、押付状態に比べて温度上昇しにくい状態で混練することができるため、ローターの回転数の低下を抑制できる。その結果、カップリング反応が活発にすすむ前のシリカ分散の程度をいっそう高めることができる。よって、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)以降でカップリング反応をすすめる場合に、カップリング反応の効率を上げることが可能であり、その結果、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。したがって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を効果的に改善することができる。
【0012】
本発明のゴム組成物の製造方法では、前記一部の時間が10秒以上である、という構成が好ましい。すなわち、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)中、10秒以上、非押付状態で混練りする、という構成が好ましい。
【0013】
10秒以上であることによって、混練室内の水分を効果的に低減することができる。したがって、シリカの分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)を効果的に高めることができる。これに加えて、その工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)以降でカップリング反応をすすめる場合に、カップリング反応の効率を効果的に上げることができる。
【0014】
本発明のゴム組成物の製造方法では、前記密閉式混練機が、前記混練室にローターを備え、前記工程(具体的には、カップリング反応が抑制されるように混練り温度を制御しながら混練りする工程)では、前記混練り温度を目標温度とするためにPID制御で前記ローターの回転速度を制御する、という構成が好ましい。
【0015】
この構成によって、すなわちローターの回転速度がPID制御されることによって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を効果的に改善することができる。これについて説明する。仮に、ローターのPID制御中、押付状態(具体的には、ラムで、混練中の材料を押さえつけた状態)のみで混練りしたとすると、せん断発熱による温度上昇を招きやすいため、ローターの回転数が下がりやすく、したがってシリカ分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)がすすみにくい。これに対して、本発明では、非押付状態で混練りすることによって、押付状態に比べて温度上昇しにくい状態で混練りすることができるため、ローターの回転数の低下を抑制できる。その結果、シリカの分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)を効果的に高めることができる。したがって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0016】
本発明のゴム組成物の製造方法は、前記カップリング反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする工程をさらに含む、という構成が好ましい。
【0017】
カップリング反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りすることによって、シリカが分散した状態でカップリング反応を活発にすすめることができるので、カップリング反応の効率を上げることが可能であり、その結果、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。したがって、シリカの分散を効果的に高めることが可能であるので、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0018】
本発明のタイヤの製造方法は、本発明のゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態で使用することが可能な密閉式混練機の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
<1.密閉式混練機>
まず、本実施形態で使用することが可能な密閉式混練機について説明する。
【0022】
図1に示すように、密閉式混練機1は、ケーシング2およびローター3を有する混練室4と、混練室4の上方に位置し、内部に筒状の空間を有するネック部5と、ネック部5に設けられた投入口6と、ネック部5の筒状の空間を上下に移動可能なラム7と、混練室4の下面に位置するドロップドア9とを備える。密閉式混練機1としては、かみ合式密閉型混練機、接線式密閉型混練機などを挙げることができる。
【0023】
ケーシング2の上面中央部には、開口部2aが設けられている。開口部2aの上方には、内部に筒状の空間を有するネック部5が設けられている。ネック部5の側面には、ゴムや配合剤を投入可能な投入口6が設けられている。投入口6は2つ以上設けられていてもよい。投入口6から投入されたゴムおよび配合剤は、ネック部5の筒状の空間内を通って、ケーシング2の開口部2aからケーシング2内に投入される。
【0024】
ラム7は、ケーシング2の開口部2aを閉塞可能な形状をなす。ラム7は、その上端に連結されたシャフト8によって、ネック部5の筒状の空間を上下方向に移動することができる。ラム7は、その自重またはシャフト8からの押圧力によって、ケーシング2内に存在するゴムを押付・加圧することができる。
【0025】
ドロップドア9は、混練中は閉じている。混練終了後にはドロップドア9は開かれる。
【0026】
ローター3を回転させるモーター(不図示)の回転速度は、制御部11からの制御信号に基づいて調整される。制御部11は、温度センサー13から送られる混練室4内の温度情報(具体的には実測温度Tp)に基づき、モーターの回転速度の制御をおこなう。モーターは、制御部11によって回転速度を自在に変化させることができる。モーターは、たとえばインバータモーターであることができる。
【0027】
モーターの回転速度を決定するために、制御部11の内部に設けられたPID演算処理部は、温度センサー13が検出する混練室4内の実測温度Tpと目標温度Tsとの偏差から、比例(P)、積分(I)および微分(D)の演算をおこなう。具体的には、PID演算処理部は、実測温度Tpおよび目標温度Tsの差(偏差e)に比例して制御量を算出する比例(P)動作と、偏差eを時間軸方向に積分した積分値により制御量を算出する積分(I)動作と、偏差eの変化の傾きすなわち微分値より制御量を算出する微分(D)動作とによって得られる各制御量の合算値により、モーターの回転速度を決定する。なお、PIDは、Proportional Integral Differentialの略である。
【0028】
<2.ゴム組成物の製造方法の各工程>
次に、本実施形態におけるゴム組成物の製造方法が含む工程のいくつかを説明する。
【0029】
本実施形態におけるゴム組成物の製造方法は、ゴム混合物を作製する工程(以下、「工程S1」という。)と、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程(以下、「工程S2」という。)とを含む。
【0030】
<2.1.工程S1(ゴム混合物を作製する工程)>
工程S1は、カップリング反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら密閉式混練機1で混練りする工程(以下、「工程K1」という。)と、次いで、混練り温度を上昇させながら密閉式混練機1で混練りする工程(以下、「工程K2」という。)と、次いで、カップリング反応がすすむように、混練り温度を制御しながら密閉式混練機1で混練りする工程(以下、「工程K3」という。)とを含む。
【0031】
工程K1~K3は、一つの混練ステージを構成する。混練ステージは、密閉式混練機1への材料の投入から排出までのサイクルである。よって、工程K1から工程K2への移行の際に、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤といった材料は密閉式混練機1から排出されず、工程K2から工程K3への移行の際にも、材料は密閉式混練機1から排出されない。
【0032】
<2.1.1.工程K1(カップリング反応が抑制されるように混練りする工程)>
工程K1では、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を密閉式混練機1に投入し、カップリング反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、混練り温度を制御しながらこれらを混練りする。工程K1によって、カップリング反応が活発にすすむ前に、シリカを効果的に分散させることができる。これに加えて、工程K1によって、ゴム組成物の製造のために消費する電力量を低減することもできる。これについて説明する。仮に、工程K1で、混練り温度が制御されなかったとすると、せん断発熱による温度上昇によって混練り時間が制限されるため、複数回の再練りをおこなう必要性が高い(特に、シリカ高充てん配合では、その必要性が高い)。これに対して、本実施形態では、工程K1で混練り温度を制御することによって、温度上昇による混練り時間の制限を取り払うことができるため、混練り時間を引き延ばすことができ、したがって、再練りの回数を減らすことができる。その結果、ゴム組成物の製造のために消費する電力量を低減することができる。
【0033】
ゴムとして、たとえば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。ゴムは、ジエン系ゴムであることが好ましい。
【0034】
ゴムとして、変性ゴムを使用してもよい。変性ゴムとして、変性SBR、変性BRを挙げることができる。変性ゴムは、ヘテロ原子を含む官能基を有することができる。官能基は、ポリマー鎖の末端に導入されてもよく、ポリマー鎖中に導入されてもよいが、好ましくは末端に導入されることである。官能基としては、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、シアノ基、ハロゲン基などが挙げられる。なかでも、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基が好ましい。変性ゴムは、例示した官能基のうち少なくとも1種を有することができる。アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基などが挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。例示した官能基は、シリカのシラノール基(Si-OH)と相互作用する。ここで、相互作用とは、たとえば、シリカのシラノール基との間で化学反応による化学結合または水素結合することを意味する。工程K1で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。工程K1で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0035】
シリカとして、たとえば、湿式シリカ、乾式シリカを挙げることができる。なかでも、湿式シリカが好ましい。湿式シリカとして、沈降法シリカを挙げることができる。シリカの窒素吸着法による比表面積は、たとえば、80m/g以上であってもよく、120m/g以上であってもよく、140m/g以上であってもよく、160m/g以上であってもよい。シリカの比表面積は、たとえば、300m/g以下であってもよく、280m/g以下であってもよく、260m/g以下であってもよく、250m/g以下であってもよい。ここで、シリカの比表面積は、JIS K-6430に記載の多点窒素吸着法(BET法)に準じて測定される。
【0036】
工程K1において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。
【0037】
シランカップリング剤として、たとえば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0038】
工程K1において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0039】
工程K1では、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤とともに、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイルなどを混練りすることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0040】
カーボンブラックとしては、たとえばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどのファーネスブラックのほか、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0041】
老化防止剤として、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0042】
工程K1では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。工程K1では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃未満であってもよく、138℃以下であってもよく、135℃以下であってもよく、132℃以下であってもよく、130℃以下であってもよい。目標温度Tsは、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、120℃以上がさらに好ましい。これが低すぎると、シリカを分散させるために時間がかかる傾向がある。なお、目標温度Tsは、配合を考慮して、特にシランカップ剤の種類を考慮して適宜設定することができる。
【0043】
工程K1では、10秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。これは、20秒以上が好ましく、40秒以上がより好ましく、60秒以上がさらに好ましく、70秒以上がさらに好ましい。これは、1000秒以下であってもよく、800秒以下であってもよく、600秒以下であってもよく、400秒以下であってもよく、200秒以下であってもよく、100秒以下であってもよい。
【0044】
混練り温度の保持は、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。具体的には、ローター3の回転速度が、PID制御で調整されることによって、混練り温度の保持がおこなわれる。ここでは、ローター3の回転速度が、実測温度Tpを目標温度TsとするためのPID制御で調整される。PID制御は、混練りの当初から開始してもよく、実測温度Tpが、所定の温度に到達することをもって、開始してもよい。
【0045】
工程K1中の少なくとも一部の時間、ラム7が非押付である状態(すなわち非押付状態。これは、混練室4の少なくとも一部が開放系となった状態を含む。)で、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を混練りする。これ(具体的には、非押付状態で混練りすること)によって、水分などの揮発物を混練室4外に排出することができるため、水分に起因するローター3のスリップを低減できる。よって、カップリング反応が活発にすすむ前のシリカ分散の程度をいっそう高めることができる。これに加えて、工程K3におけるカップリング反応の過程では水が副次的に生成するところ、水分が低減した状態でカップリング反応をすすめることができるため、カップリング反応を効率よくすすめることができる。これらの結果、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0046】
非押付状態は、持続的すなわち連続的であっても、断続的であってもよい。持続的な非押付状態は、たとえば、ラム7を上昇させた状態を維持することによって作り出すことができる。断続的な非押付状態は、たとえば、ラム7の下降と上昇とを繰り返すことによって作り出すことができる。
【0047】
非押付状態で混練りは、工程K1の中盤および/または終盤におこなう。すなわち、工程K1の中盤および/または終盤に、非押付状態で混練りする。なぜなら、工程K1の中盤および終盤は、工程K1の序盤に比べて温度上昇しやすいので、ローター3の回転数が低下しやすいところ、工程K1の中盤および/または終盤に、非押付状態で混練りすることによって(すなわち、温度上昇しにくい状態で混練りすることによって)、ローター3の回転数の低下を抑制できるためである。いっぽう、工程K1の序盤は、押付状態で混練りをおこなうことが好ましい。
【0048】
非押付状態である時間は、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、50秒以上がさらに好ましい。10秒以上であることによって、混練室4内の水分を効果的に低減することができる。したがって、シリカの分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)を効果的に高めることができるとともに、工程K3におけるカップリング反応の効率を効果的に上げることができる。なお、非押付状態が断続的である場合は、「非押付状態である時間」は、非押付状態の合計時間を意味する。
【0049】
すでに説明したように、工程K1では、混練り温度を目標温度TsとするためにPID制御でローター3の回転速度を制御するところ、これ(具体的には、PID制御でローター3の回転速度を制御すること)によって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を効果的に改善することができる。これについて説明する。仮に、ローター3のPID制御中、押付状態(具体的には、ラム7で、混練中の材料を押さえつけた状態)のみで混練りしたとすると、せん断発熱による温度上昇を招きやすいため、ローター3の回転数が下がりやすく、したがってシリカ分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)がすすみにくい。これに対して、本実施形態では、非押付状態で混練りすることによって、押付状態に比べて温度上昇しにくい状態で混練りすることができるため、ローター3の回転数の低下を抑制できる。その結果、シリカの分散(具体的には、カップリング反応をすすめる前のシリカの分散)を効果的に高めることができる。したがって、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。
【0050】
<2.1.2.工程K2(混練り温度を上昇させながら混練りする工程)>
工程K2では、混練り温度を上昇させながら混練りする。工程K2では、混練り温度を、カップリング反応が活発にすすむ温度(たとえば140℃以上)まで上昇させる。具体的には、混練り温度を、工程K3の目標温度Tsまで上昇させる。なお、工程K2では、ラム7で、混練中の材料を押さえつけた状態、すなわち押付状態で混練りすることができる。
【0051】
<2.1.3.工程K3(カップリング反応がすすむように混練りする工程)>
工程K3では、カップリング反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする。工程K3によって、シリカが分散した状態でカップリング反応を活発にすすめることができるので、カップリング反応の効率を上げることが可能であり、その結果、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。したがって、シリカの分散を効果的に高めることが可能であるので、タイヤの低発熱性や湿潤路面制動性を改善することができる。これに加えて、工程K3によって、ゴム組成物の製造のために消費する電力量を低減することもできる。これについて説明する。仮に、工程K3で、混練り温度が制御されなかったとすると、せん断発熱による温度上昇によって混練り時間が制限されるため、複数回の再練りをおこなう必要性が高い(特に、シリカ高充てん配合では、その必要性が高い)。これに対して、本実施形態では、工程K3で混練り温度を制御することによって、温度上昇による混練り時間の制限を取り払うことができるため、混練り時間を引き延ばすことができ、したがって、再練りの回数を減らすことができる。その結果、ゴム組成物の製造のために消費する電力量を低減することができる。なお、工程K3では、ラム7で、混練中の材料を押さえつけた状態、すなわち押付状態で混練りすることができる。
【0052】
工程K3では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。工程K3では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃以上であってもよく、142℃以上であってもよく、145℃以上であってもよく、148℃以上であってもよく、150℃以上であってもよい。これが低すぎると、カップリング反応をすすめるために時間がかかり過ぎる傾向がある。目標温度Tsは、170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、155℃以下がさらに好ましく、153℃以下がさらに好ましい。これが高すぎると、ゲルが発生することがある。
【0053】
工程K3では、20秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。これは、40秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましく、80秒以上がさらに好ましい。これは、2000秒以下であってもよく、1500秒以下であってもよく、1000秒以下であってもよく、500秒以下であってもよく、300秒以下であってもよく、200秒以下であってもよい。
【0054】
なお、混練り温度の保持は、工程K1と同じように、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。
【0055】
その後、必要に応じて、所定の排出温度まで混練りを続け、ドロップドア9を開け、ゴム混合物を排出する。
【0056】
<2.1.4.そのほか>
必要に応じて、シリカの分散性向上や、ムーニー粘度の低減のために、ゴム混合物をさらに混練りすることができる。つまり、再練りすることができる。
【0057】
以上のような手順で、ゴム混合物を得ることができる。
【0058】
<2.2.工程S2(ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程)>
工程S2では、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。加硫系配合剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。硫黄は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。加硫促進剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。混練りは、混練機でおこなうことができる。混練機として密閉式混練機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混練機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0059】
ゴム組成物において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上である。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは150質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。
【0060】
ゴム組成物において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0061】
ゴム組成物は、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイル、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。これらのうち、一つまたは任意の組み合わせをゴム組成物は含むことができる。硫黄の量は、ゴム100質量部に対して、硫黄分換算で好ましくは0.5質量部~5質量部である。加硫促進剤の量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0062】
ゴム組成物は、タイヤの作製に使用できる。具体的には、タイヤを構成するタイヤ部材の作製に使用可能である。たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムなどの作製にゴム組成物を使用できる。これらのタイヤ部材のうち、一つまたは任意の組み合わせを作製するためにゴム組成物を使用できる。
【0063】
<3.タイヤの製造方法の各工程>
次に、本実施形態におけるタイヤの製造方法が含む工程のいくつかを説明する。なお、これらの工程のうち、ゴム組成物の作製工程はすでに説明した。
【0064】
本実施形態におけるタイヤの製造方法は、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程を含む。この工程は、ゴム組成物を含むタイヤ部材を作製すること、およびタイヤ部材を備える未加硫タイヤを作製することを含む。タイヤ部材として、たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムを挙げることができる。なかでも、トレッドゴムが好ましい。
【0065】
本実施形態におけるタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫成型する工程をさらに含むことができる。本実施形態の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0066】
<上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0067】
上述の実施形態では、工程K1~K3を含む混練ステージでシリカ全量を投入する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、シリカを、複数の混練ステージに分けて投入してもよい。
【0068】
上述の実施形態では、工程K1にて、ローター3の回転速度で混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、密閉式混練機1のジャケット(不図示)を流れる加熱冷却媒体の温度で混練り温度を制御してもよい。
【0069】
上述の実施形態では、工程K1にて、混練り温度をPID制御に基づいて制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。PID制御以外の制御方法に基づいて混練り温度を制御してもよい。
【0070】
上述の実施形態では、工程K1にて、序盤に押付状態で混練りし、中盤および/または終盤に非押付状態で混練りする、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、工程K1の序盤から終盤まで非押付状態で混練りしてもよい。
【0071】
上述の実施形態では、工程K3にて混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、工程K3にて混練り温度を制御しなくてもよい。
【0072】
上述の実施形態では、工程K3にて、ローター3の回転速度で混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、密閉式混練機1のジャケット(不図示)を流れる加熱冷却媒体の温度で混練り温度を制御してもよい。
【0073】
上述の実施形態では、工程K3にて、混練り温度をPID制御に基づいて制御する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。PID制御以外の制御方法に基づいて混練り温度を制御してもよい。
【0074】
上述の実施形態では、ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、ゴム混合物をゴム組成物とみなしてもよい。
【実施例0075】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0076】
実施例で使用した原料および薬品を次に示す。
SBR 「SBR1502」JSR社製
変性溶液重合SBR 「HPR350」JSR社製
シリカ 「ニプシールAQ」東ソー社製
シランカップリング剤 「Si75」デグッサ社製
ステアリン酸 「ルナックS20」花王社製
カーボンブラック 「N339シーストKH」東海カーボン社製
オイル 「プロセスNC140」JX日鉱日石社製
酸化亜鉛 「酸化亜鉛2種」三井金属鉱業社製
老化防止剤 「アンチゲン6C」住友化学社製
硫黄 「5%油処理硫黄」鶴見化学工業社製
加硫促進剤1 「サンセラーDM-G」三新化学工業社製
加硫促進剤2 「ソクシノールCZ」住友化学社製
【0077】
【表1】
【0078】
比較例1における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをバンバリーミキサーに投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で混合物を排出した(第一混練ステージ)。第一混練ステージでは、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこなった。第一混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第二混練ステージ)。第二混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第三混練ステージ)。第三混練ステージで得られた混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た(ファイナルステージ)。
【0079】
比較例2における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをバンバリーミキサーに投入し、表2にしたがって、一段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した(第一混練ステージ)。すなわち、目標温度150℃、180秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。第一混練ステージでは、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこなった。第一混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第二混練ステージ)。再練り後の混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た(ファイナルステージ)。
【0080】
比較例3における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをバンバリーミキサーに投入し、表2にしたがって、一段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した(第一混練ステージ)。すなわち、目標温度130℃、80秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。第一混練ステージでは、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこなった。第一混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第二混練ステージ)。再練り後の混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た(ファイナルステージ)。
【0081】
比較例4における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをバンバリーミキサーに投入し、表2にしたがって、二段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した(第一混練ステージ)。すなわち、目標温度130℃、80秒で混練りし、次いで、目標温度150℃、100秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。第一混練ステージでは、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこなった。第一混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第二混練ステージ)。再練り後の混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た(ファイナルステージ)。
【0082】
実施例1における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをバンバリーミキサーに投入し、表2にしたがって、二段階のPID制御で混練りし、160℃で混合物を排出した(第一混練ステージ)。すなわち、目標温度130℃、80秒で混練りし、次いで、目標温度150℃、100秒で混練りし、160℃で混合物を排出した。第一混練ステージの第一制御時間80秒のうち、終盤の50秒間だけ、ラムを上昇させた状態(つまり非押付状態)で混練りをおこなった。それ以外では、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこなった。第一混練ステージで得られた混合物を、バンバリーミキサーでPID制御なしで再練りし、160℃で排出した(第二混練ステージ)。再練り後の混合物と硫黄と加硫促進剤とを混練りし、未加硫ゴムを得た(ファイナルステージ)。
【0083】
実施例2における未加硫ゴムの作製
第一混練ステージの第一制御時間80秒のうち、終盤の10秒間だけ、ラムを上昇させた状態(つまり非押付状態)で混練りをおこなったこと以外は、実施例1と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。
【0084】
実施例3における未加硫ゴムの作製
第一混練ステージの第一制御時間80秒のうち、終盤の70秒間だけ、ラムを上昇させた状態(つまり非押付状態)で混練りをおこなったこと以外は、実施例1と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。
【0085】
実施例4における未加硫ゴムの作製
第一混練ステージの第一制御時間80秒のうち、序盤の15秒間と終盤の15秒間とでは、ラムで下向きに力を加えた状態、つまり押付状態で混練りをおこない、中盤の50秒間ではラムを上昇させた状態(つまり非押付状態)で混練りをおこなったこと以外は、実施例1と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。
【0086】
実施例5における未加硫ゴムの作製
第一混練ステージの第一制御時間80秒の間、ラムの下降と上昇とを繰り返すことによって非押付状態を断続的に作り出したこと以外は、実施例1と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。第一制御時間80秒のうち、合計50秒間が、非押付状態であった。
【0087】
加硫ゴムの作製
未加硫ゴムを150℃、30分間で加硫し、加硫ゴムを得た。
【0088】
消費エネルギー(電力量)
第一混練ステージからファイナルステージまでに消費した電力量について、比較例1の電力量を100とした指数で、各例の電力量を表2に示す。指数が小さいほど電力量が小さく、消費エネルギーが小さい。
【0089】
ムーニー粘度
未加硫ゴムのムーニー粘度を、東洋精機製作所製のロータレスムーニー測定機を用いて、JIS K-6300に準じて測定した。ムーニー粘度を測定するために、未加硫ゴムを100℃で1分間予熱した後にローターを回転させ、ローターの回転開始から4分後のトルク値をムーニー単位で記録した。比較例1のムーニー粘度を100とした指数で、各例のムーニー粘度を表2に示す。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0090】
湿潤路面制動性
リュプケ式反発弾性試験機を使用し、23℃の条件でJIS K6255に準じて、反発弾性(%)を測定した。比較例1における反発弾性の逆数を100とした指数で、各例の逆数(反発弾性の逆数)を表2に示す。指数が大きいほど湿潤路面制動性に優れる。
【0091】
低燃費性
加硫ゴムのtanδを、東洋精機製作所製の粘弾性試験機を使用し、JIS K-6394に準じて測定した。tanδは、周波数10Hz、動歪み1.0%、温度60℃、静歪み(初期歪み)10%の条件で測定した。比較例1のtanδを100とした指数で、各例のtanδを表2に示す。指数が小さいほどtanδが低く、低燃費性に優れる。
【0092】
【表2】
【0093】
表2において、第一混練ステージでおこなわれた、一段階または二段階のPID制御は、実測温度が目標温度に到達した時点で開始されるPID制御を意味する。このPID制御では、ローターの回転速度が制御される。
【0094】
シランカップリング剤(「Si75」デグッサ社製)は、130℃ではシリカとの反応がほとんどすすまず、150℃ではシリカとの反応がすすむところ、130℃または125℃保持で混練りする際に、所定の時間、ラムが非押付である状態を作り出すことで、低発熱性、湿潤路面制動性を改善することができ、ムーニー粘度を下げることもできた(比較例4および実施例1~5参照。特に、比較例4および実施例1~3参照)。これに加えて、ゴム組成物の製造のために消費する消費エネルギー(具体的には電力量)を低減することもできた(比較例4および実施例1~5参照。特に、比較例4および実施例1~3参照)。これは、非押付状態中、押付状態に比べてトルクがかかりにくかったためだと考えられる。
【0095】
なお、少なくとも一段階のPID制御を採用することによって、混練り時間を引き延ばすことができたため、再練りの回数を低減することができ、その結果、ゴム組成物の製造のために消費する消費エネルギー(具体的には電力量)を低減することができた。
【符号の説明】
【0096】
1…密閉式混練機、2…ケーシング、2a…開口部、3…ローター、4…混練室、5…ネック部、6…投入口、7…ラム、8…シャフト、9…ドロップドア、11…制御部、13…温度センサー
図1