(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097950
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】インサート成形用加飾フィルム、インサート成形用加飾フィルムの製造方法及び樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220624BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220624BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220624BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B29C45/14
B32B27/30 A
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211219
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(72)【発明者】
【氏名】奥田 充康
(72)【発明者】
【氏名】上野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】桑坂 眞太郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AK25A
4F100AK45B
4F100AK74D
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10E
4F100EH36
4F100GB33
4F100HB00
4F100HB00E
4F100HB31C
4F100JA01
4F100JA05B
4F100JN01D
4F100JN01E
4F100YY00B
4F206AD09
4F206AD20
4F206AD27
4F206AG03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB19
4F206JF05
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】グラビア印刷の図柄層と光透過パターン層の寸法精度が高く、ポリカーボネート製の樹脂成形品のグラビア印刷のインキ流れを抑制できるインサート成形用加飾フィルムを提供する。
【解決手段】可視光を透過する多層フィルム20には、第1アクリル樹脂層21及び第2アクリル樹脂層23の間にポリカーボネート系樹脂からなる第1ポリカーボネート樹脂層22が配置されている。グラビア印刷層30は、グラビア印刷によって図柄が描かれている図柄層31を有する。第1バッカーフィルム40は、可視光を透過するABS系樹脂からなる。第2バッカーフィルム50は、第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53の間にポリカーボネート系樹脂からなる第2ポリカーボネート樹脂層52が配置されてなる。光透過パターン層32は、図柄層の所定箇所に可視光を透過するように配置されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート成形前に立体的に成形されるフィルムであるインサート成形用加飾フィルムであって、
第1主面と第2主面とを有し、アクリル系樹脂からなる第1アクリル樹脂層及び第2アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第1ポリカーボネート樹脂層が配置され、可視光を透過する多層フィルムと、
前記多層フィルムの前記第1主面の側に配置され、グラビア印刷の図柄が形成されている図柄層を有し、可視光を透過するグラビア印刷層と、
前記グラビア印刷層を挟んで前記多層フィルムの反対側に配置され、可視光を透過するABS系樹脂からなり且つ可視光を透過する第1バッカーフィルムと、
前記第1バッカーフィルムを挟んで前記多層フィルムの反対側に配置され、アクリル系樹脂からなる第3アクリル樹脂層及び第4アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第2ポリカーボネート樹脂層が配置されてなり且つ可視光を透過する第2バッカーフィルムと
可視光を透過する光透過パターンを有する光透過パターン層と
を備え、
前記光透過パターン層の前記光透過パターンが、前記図柄層の図柄の所定箇所を可視光が通過するように配置されている、インサート成形用加飾フィルム。
【請求項2】
前記第1ポリカーボネート樹脂層及び前記第2ポリカーボネート樹脂層を構成しているポリカーボネート系樹脂のガラス転移点が120℃以上200℃以下である、
請求項1に記載のインサート成形用加飾フィルム。
【請求項3】
前記第1バッカーフィルムの比熱が、1.3×103J/(kg・K)以上1.7×103J/(kg・K)以下である、
請求項1または請求項2に記載のインサート成形用加飾フィルム。
【請求項4】
前記光透過パターン層が、前記グラビア印刷層に含まれている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のインサート成形用加飾フィルム。
【請求項5】
前記光透過パターン層が、前記第2バッカーフィルムに形成されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のインサート成形用加飾フィルム。
【請求項6】
インサート成形前に立体的に成形されるフィルムであるインサート成形用加飾フィルムの製造方法であって、
アクリル系樹脂からなる第1アクリル樹脂層及び第2アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第1ポリカーボネート樹脂層が配置され且つ可視光を透過する多層フィルムの第1主面の側に、グラビア印刷により可視光を透過するグラビア印刷層を形成する第1ステップと、
可視光を透過するABS系樹脂からなる第1バッカーフィルム及びアクリル系樹脂からなる第3アクリル樹脂層及び第4アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第2ポリカーボネート樹脂層が配置されてなり且つ可視光を透過する第2バッカーフィルムを、前記グラビア印刷層が形成された前記多層フィルムと熱ラミネートする第2ステップと
を備え、
前記第2ステップでは、剥離用フィルムが第1接触加熱体に接触し、前記剥離用フィルムに前記第2バッカーフィルムが接触し、前記第2バッカーフィルムに前記第1バッカーフィルムが接触し、且つ前記第1バッカーフィルムに前記グラビア印刷層が形成された前記多層フィルムが接触した状態で、前記第1接触加熱体から与えられる熱によって、前記剥離用フィルムと前記第2バッカーフィルムと前記第1バッカーフィルムと前記多層フィルムとを熱ラミネートし、
前記剥離用フィルムは、熱ラミネートしたときの前記第1接触加熱体からの剥離強度が、前記第2バッカーフィルムを前記第1接触加熱体に直接接触させて熱ラミネートしたときの前記第2バッカーフィルムの前記第1接触加熱体からの剥離強度よりも小さいことを特徴とする、インサート成形用加飾フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第2ステップは、
前記第1バッカーフィルムが第2接触加熱体に接触し且つ前記第2バッカーフィルムが前記第1バッカーフィルムに接触した状態で、前記第1バッカーフィルムと前記第2バッカーフィルムとを熱ラミネートして複層バッカーフィルムを形成する第1熱ラミネートステップと、
前記剥離用フィルムが前記第1接触加熱体に接触し、前記剥離用フィルムに前記複層バッカーフィルムの前記第2バッカーフィルムが接触し、且つ前記複層バッカーフィルムの前記第1バッカーフィルムに前記グラビア印刷層が形成された前記多層フィルムが接触した状態で、前記第1接触加熱体から与えられる熱によって、前記剥離用フィルムと前記複層バッカーフィルムと前記多層フィルムとを熱ラミネートする第2熱ラミネートステップと
を含む、
請求項6に記載のインサート成形用加飾フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記第1ステップは、前記グラビア印刷層の印刷後に前記グラビア印刷層を形成するためのグラビアインキの溶剤の蒸発温度よりも高い温度で熱処理を行う、
請求項7に記載のインサート成形用加飾フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれかに記載のインサート成形用加飾フィルムを立体的に成形するフォーミング工程と、
前記フォーミング工程で立体的な形状が付与された前記インサート成形用加飾フィルムの不要な部分をトリミングして取り除くトリミング工程と、
前記インサート成形用加飾フィルムを金型の中にセットして、前記金型の中にポリカーボネート系樹脂を射出することにより、前記インサート成形用加飾フィルムによって加飾され且つ可視光を透過するポリカーボネート製の樹脂成形品を成形する射出成形工程と
を備える、樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形用加飾フィルム、インサート成形用加飾フィルムの製造方法及び樹脂成形品の製造方法に関し、特に、可視光が透過する加飾のためのグラビア印刷の図柄を有するインサート成形用加飾フィルム、インサート成形用加飾フィルムの製造方法及び樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインサート成形用加飾フィルムには、例えば特許文献1(特開2008-80570号公報)に記載されているように、加飾のための図柄が印刷されたPMMA(メタクリル酸メチル樹脂;ポリメチルメタクリレート)フィルムが表面に配置されたものがある。また、従来のインサート成形用加飾フィルムは、前述のPMMAフィルムに、形態を保持するため、ABS系樹脂からなるバッカー層がPMMAフィルムと一体化される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PMMAフィルムにグラビア印刷により図柄を印刷する場合には、グラビア印刷の乾燥工程でフィルムが伸縮する。特に、グラビア印刷により、図柄層と、図柄層の位置に合わせて可視光を透過する光透過パターン層とを形成する場合には、グラビア印刷の乾燥工程で生じるPMMAフィルムの伸縮により、図柄層と光透過パターン層とに関する寸法精度が悪化する。
また、ポリカーボネート製の樹脂成形品の製造に、ABS系樹脂からなるバッカー層を有するインサート成形用加飾フィルムを用いると、耐熱性が低いABS系樹脂からなるバッカー層では、射出成形時の熱と圧力がグラビア印刷層に及ぼす影響を十分に防ぐことができない。そのため、ABS系樹脂からなるバッカー層を有するインサート成形用加飾フィルムでは、グラビア印刷層のグラビアインキのインキ流れが発生する。
【0005】
本発明の課題は、グラビア印刷の図柄層と光透過パターン層とに関する寸法精度が高く且つ、ポリカーボネート製の樹脂成形品の製造時にグラビア印刷のインキ流れの発生が抑制されるインサート成形用加飾フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係るインサート成形用加飾フィルムは、インサート成形前に立体的に成形されるフィルムであるインサート成形用加飾フィルムである。インサート成形用加飾フィルムは、多層フィルムとグラビア印刷層と第1バッカーフィルムと第2バッカーフィルムと光透過パターン層とを備えている。多層フィルムは、第1主面と第2主面とを有し、アクリル系樹脂からなる第1アクリル樹脂層及び第2アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第1ポリカーボネート樹脂層が配置されている。多層フィルムは可視光を透過する。グラビア印刷層は、多層フィルムの第1主面の側に配置され、グラビア印刷の図柄が形成されている図柄層を有する。第1バッカーフィルムは、グラビア印刷層を挟んで多層フィルムの反対側に配置され、可視光を透過するABS系樹脂からなる。第1バッカーフィルムは、可視光を透過する。第2バッカーフィルムは、第1バッカーフィルムを挟んで多層フィルムの反対側に配置され、アクリル系樹脂からなる第3アクリル樹脂層及び第4アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第2ポリカーボネート樹脂層が配置されてなる。第2バッカーフィルムは、可視光を透過する。光透過パターン層は、可視光を透過する光透過パターンを有する。光透過パターン層の光透過パターンが、図柄層の図柄の所定箇所を可視光が通過するように配置されている。
このような構成を有するインサート成形用加飾フィルムでは、多層フィルムは第1アクリル樹脂層及び第2アクリル樹脂層の間に第1ポリカーボネート樹脂層が配置され、第2バッカーフィルムが第3アクリル樹脂層及び第4アクリル樹脂層の間に第2ポリカーボネート樹脂層が配置されている。多層フィルムの多層構造により、グラビア印刷層を形成するときの印刷乾燥時の収縮が抑制され、また、多層フィルムと第2バッカーフィルムの多層構造により、熱ラミネート時の収縮が抑制されるので、光透過パターン層とグラビア印刷の図柄層とに関する寸法精度が向上する。また、第2バッカーフィルムの多層構造により、第2バッカーフィルムの耐熱性が向上し、ポリカーボネート製の樹脂成形品の製造時にグラビア印刷のインキ流れの発生が抑制される。また、第1バッカーフィルムのABS系樹脂により、グラビアインキへの熱によるダメージが軽減される。
なお、本明細書において、ポリカーボネート製とは、ポリカーボネート系樹脂を射出成形の材料として用いてつくられたものであることを意味する。
【0007】
上述のインサート成形用加飾フィルムは、ガラス転移点が120℃以上200℃以下のポリカーボネート系樹脂で第1ポリカーボネート樹脂層及び第2ポリカーボネート樹脂層を構成してもよい。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムは、多層フィルム及び第2バッカーフィルムの耐熱性を十分に向上させることができる。
上述のインサート成形用加飾フィルムは、第1バッカーフィルムの比熱が、1.3×103J/(kg・K)以上1.7×103J/(kg・K)以下となるように構成してもよい。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムは、第1バッカーフィルムの比熱が高く、グラビアインキへの熱によるダメージを軽減することができる。
上述のインサート成形用加飾フィルムは、光透過パターン層が、グラビア印刷層に含まれている構成であってもよい。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムは、グラビア印刷層の光透過パターン層の寸法精度を向上させることができる。
上述のインサート成形用加飾フィルムは、光透過パターン層が、第2バッカーフィルムに形成されている構成であってもよい。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムは、光透過パターン層が熱ラミネートの影響を受けるのを防止することができ、さらに、光透過パターン層の寸法精度を向上させることができる。
【0008】
本発明の一見地に係るインサート成形用加飾フィルムの製造方法は、インサート成形前に立体的に成形されるフィルムであるインサート成形用加飾フィルムの製造方法である。このインサート成形用加飾フィルムの製造方法は、アクリル系樹脂からなる第1アクリル樹脂層及び第2アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第1ポリカーボネート樹脂層が配置され且つ可視光を透過する多層フィルムの第1主面の側に、グラビア印刷によりグラビア印刷層を形成する第1ステップと、可視光を透過するABS系樹脂からなり且つ可視光を透過する第1バッカーフィルム及びアクリル系樹脂からなる第3アクリル樹脂層及び第4アクリル樹脂層の間にポリカーボネート系樹脂からなる第2ポリカーボネート樹脂層が配置されてなり且つ可視光を透過する第2バッカーフィルムを、グラビア印刷層が形成された多層フィルムと熱ラミネートする第2ステップとを備えている。このインサート成形用加飾フィルムの製造方法の第2ステップでは、剥離用フィルムが第1接触加熱体に接触し、剥離用フィルムに第2バッカーフィルムが接触し、第2バッカーフィルムに第1バッカーフィルムが接触し、且つ第1バッカーフィルムにグラビア印刷層が形成された多層フィルムが接触した状態で、第1接触加熱体から与えられる熱によって、剥離用フィルムと第2バッカーフィルムと第1バッカーフィルムと多層フィルムとを熱ラミネートする。そして、剥離用フィルムは、熱ラミネートしたときの第1接触加熱体からの剥離強度が、第2バッカーフィルムを第1接触加熱体に直接接触させて熱ラミネートしたときの第2バッカーフィルムの第1接触加熱体からの剥離強度よりも小さい、ことを特徴としている。
このように構成されているインサート成形用加飾フィルムの製造方法では、第2ステップで、剥離用フィルムが第1接触加熱体に接触し、剥離用フィルムに第2バッカーフィルムが接触するので、第2バッカーフィルムが直接第1接触加熱体に接触するのを防止することができる。そのため、熱ラミネートされて第1接触加熱体からインサート成形用加飾フィルムが離れるときに、第2バッカーフィルムが第1接触加熱体に直接接触する場合に比べて、インサート成形用加飾フィルムが第1接触加熱体に引っ張られる力が弱まる。その結果、インサート成形用加飾フィルムが第1接触加熱体に引っ張られる力によって、グラビア印刷層に柄歪みが発生するのを抑制することができる。
【0009】
上述のインサート成形用加飾フィルムの製造方法の第2ステップが第1熱ラミネートステップと第2熱ラミネートステップを含むように構成されてもよい。第1熱ラミネートステップでは、第1バッカーフィルムが第2接触加熱体に接触し且つ第2バッカーフィルムが第1バッカーフィルムに接触した状態で、第1バッカーフィルムと第2バッカーフィルムとを熱ラミネートして複層バッカーフィルムを形成する。第2熱ラミネートステップでは、剥離用フィルムが第1接触加熱体に接触し、剥離用フィルムに複層バッカーフィルムの第2バッカーフィルムが接触し、且つ複層バッカーフィルムの第1バッカーフィルムにグラビア印刷層が形成された多層フィルムが接触した状態で、第1接触加熱体から与えられる熱によって、剥離用フィルムと複層バッカーフィルムと多層フィルムとを熱ラミネートする。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムの製造方法では、ラミネータに必要なロールの数を減らすことができる。
上述のインサート成形用加飾フィルムの製造方法では、第1ステップで、グラビア印刷層の印刷後にグラビア印刷層を形成するためのグラビアインキの溶剤の蒸発温度よりも高い温度で熱処理を行うように構成されてもよい。このように構成されているインサート成形用加飾フィルムの製造方法では、残留溶剤が低減でき、フォーミング時の発泡を抑制できる。
【0010】
本発明の一見地に係る樹脂成形品の製造方法は、上述のインサート成形用加飾フィルムを立体的に成形するフォーミング工程と、前記フォーミング工程で立体的な形状が付与された前記インサート成形用加飾フィルムの不要な部分をトリミングして取り除くトリミング工程と、前記インサート成形用加飾フィルムを金型の中にセットして、前記金型の中にポリカーボネート系樹脂を射出することにより、前記インサート成形用加飾フィルムによって加飾され且つ可視光を透過するポリカーボネート製の樹脂成形品を成形する射出成形工程とを備える。
このように構成された樹脂成形品の製造方法では、第2バッカーフィルムの多層構造により、第1バッカーフィルムと第2バッカーフィルムの耐熱性が向上し、可視光を透過するポリカーボネート製の樹脂成形品の製造時にグラビア印刷層のインキ流れの発生が抑制される。第1バッカーフィルムのABS系樹脂により、グラビア印刷層のグラビアインキへの熱によるダメージを軽減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るインサート成形用加飾フィルムは、従来に比べ、グラビア印刷の図柄層と光透過パターン層とに関する高い寸法精度を実現でき、ポリカーボネート製の樹脂成形品の製造時にグラビア印刷のインキ流れの発生を抑制することができる。本発明に係るインサート成形用加飾フィルムの製造方法は、本発明に係るインサート成形用加飾フィルムの製造に適した製造方法である。また、本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、本発明に係るインサート成形用加飾フィルムを用いる樹脂成形品の製造に適した製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】第1実施形態のインサート成形用加飾フィルムが適用された自動車のドアの正面図である。
【
図1B】第1実施形態のインサート成形用加飾フィルムが適用された自動車のドアの正面図である。
【
図2】フォーミングのためにインサート成形用加飾フィルムが加熱されている状態を示す模式的な断面図である。
【
図3】インサート成形用加飾フィルムが立体的にフォーミングされている状態を示す模式的な断面図である。
【
図4】インサート成形用加飾フィルムがトリミングされている状態を示す模式的な断面図である。
【
図5】インサート成形用加飾フィルムが金型にセットされている状態を示す模式的な断面図である。
【
図6】インサート成形用加飾フィルムがセットされた金型に溶融樹脂が射出されている状態を示す模式的な断面図である。
【
図7】インサート成形用加飾フィルムと一体化された樹脂成形品が金型から取り出されている状態を示す模式的な断面図である。
【
図8】第1実施形態のインサート成形用加飾フィルムの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図9】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図10】第1バッカーフィルムと第2バッカーフィルムを熱ラミネートする第1熱ラミネートステップを説明するための模式的な断面図である。
【
図11】インサート成形用加飾フィルムの全体を熱ラミネートする第2熱ラミネートステップを説明するための模式的な断面図である。
【
図12】熱ラミネートの直後のインサート成形用加飾フィルムとPETフィルムの積層体を示す模式的な断面図である。
【
図13】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の他の例を示す模式的な断面図である。
【
図14】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の他の例を示す模式的な断面図である。
【
図15】第2実施形態のインサート成形用加飾フィルムの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図16】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図17】インサート成形用加飾フィルムの全体を熱ラミネートする第2熱ラミネートステップを説明するための模式的な断面図である。
【
図18】熱ラミネートの直後のインサート成形用加飾フィルムの部材とPETフィルムの積層体を示す模式的な断面図である。
【
図19】インサート成形用加飾フィルムの部材を切断するステップを示す模式図である。
【
図20】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の他の例を示す模式的な断面図である。
【
図21】グラビア印刷層が印刷された多層フィルムの構成の他の例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
(1)インサート成形用加飾フィルムの適用
図1A及び
図1Bには、インサート成形用加飾フィルムが適用されている自動車のドア100が示されている。ドア100は、
図1Aと
図1Bとを比較してわかるように、その内側のドアトリム110の部分に、三筋の模様120を可視光によって表示することができるように構成されている。このドアトリム110が、インサート成形用加飾フィルムによって加飾される樹脂成形品である。模様120が設けられているドアトリム110の裏側には、例えば、自動車のシステム(図示せず)によってオンオフが制御されるLEDなどの照明装置(図示せず)が配置されている。ドアトリム110の模様120の形成されている部分は、例えばポリカーボネート系樹脂を射出成形して製造される。ドア100の模様120は、後述するインサート成形用加飾フィルムによって、ドアトリム110に形成される。
【0014】
(2)インサート成形用加飾フィルムを用いた樹脂成形品の製造方法
図2から
図7に、インサート成形用加飾フィルム10を用いた樹脂成形品の製造方法の概要が示されている。インサート成形用加飾フィルム10は、インサート成形前に立体的に成形されて用いられるフィルムである。例えば、ドアトリム110を加飾する場合には、インサート成形用加飾フィルム10は、ドアトリム110の立体形状に合わせてフォーミングされた後に、ドアトリム110の射出成形の際にインサートされる。
フォーミング工程は、
図2及び
図3に示されているように、インサート成形用加飾フィルム10を立体的に成形する工程である。
図2に示されているように、インサート成形用加飾フィルム10が型200にセットされる。インサート成形用加飾フィルム10は、熱源210によって加熱されて、軟化する。
図2に記載されている矢印は、インサート成形用加飾フィルム10に与えられる熱を示している。そして、
図3に示されているように、インサート成形用加飾フィルム10は、例えば、真空成形または圧空成形により、型200に沿って製品形状にフォーミングされる。
図3に記載されている矢印は、真空成形または圧空成形によりインサート成形用加飾フィルム10に与えられる力の向きを示している。
【0015】
トリミング工程は、
図4に示されているように、フォーミング工程で立体的な形状が付与されたインサート成形用加飾フィルム10の不要な部分をトリミングして取り除く工程である。トリミングには、例えば、ダイカット機またはレーザーを用いる。
図4に示されているのは、ダイカット機のダイ220である。
射出成形工程の一例が
図5から
図7に示されている。射出成形工程は、インサート成形用加飾フィルム10を金型230の中にセットして、金型230の中にポリカーボネート系樹脂を射出することにより、インサート成形用加飾フィルム10によって加飾されたポリカーボネート製の樹脂成形品90を成形する工程である。
図5には、型開きされた金型230に、立体的にフォーミングされたインサート成形用加飾フィルム10がセットされている状態が示されている。
図5に示されているインサート成形用加飾フィルム10は、ロボットアーム240によって金型230にセットされている。
図5の矢印は、インサート成形用加飾フィルム10の移動方向を示している。
【0016】
図6には、型締めされた金型230のキャビティ235の中に、ポリカーボネート系樹脂が加熱されて溶かされた溶融樹脂290が射出されている状態が示されている。ポリカーボネート系樹脂を含む樹脂成形品90の一般的な成形温度(溶融樹脂290の温度)は、260℃から320℃である。第1実施形態のインサート成形用加飾フィルム10では、300℃以上の成形温度で成形することができる。
図6の中の矢印は、金型230のうちの可動型の型締め時の動きを示している。
図7には、金型230が型開きされて、ポリカーボネート系樹脂からなる樹脂成形品90が取り出されているところが示されている。金型230が型開きされると、ロボットアーム240が進入し、樹脂成形品90が金型230の外に取り出される。
図7の金型230に示されている矢印は可動型の移動方向を示している。ロボットアーム240と樹脂成形品90の周囲に示されている矢印は、樹脂成形品90の移動方向を示している。この樹脂成形品90の例が、上述のドアトリム110である。
【0017】
(3)インサート成形用加飾フィルム10の構成
図8に示されているように、インサート成形用加飾フィルム10は、多層フィルム20と、グラビア印刷層30と、第1バッカーフィルム40と、第2バッカーフィルム50とを備えている。グラビア印刷層30の図柄層31に形成された第1図形36は、立体形状を有する樹脂成形品であるドアトリム110の所定位置に配置される。この第1図形36または第1図形36の周囲を可視光Liが透過するように、光透過パターン層32の光透過パターン37が配置される。言い換えると、図柄層31の図柄の所定箇所を可視光が通過するように光透過パターン37が配置されているということである。光透過パターン37は、後述する光透過部32aのパターンである。第1図形36と光透過パターン37とのずれは、±0.6mm以下であることが好ましい。
(3-1)多層フィルム20
多層フィルム20は、第1主面20aと第2主面20bとを有している。多層フィルム20は、可視光を透過する。多層フィルム20の厚さは、例えば、30μmから150μmである。厚さ30μmから150μmの多層フィルム20は、グラビア印刷に適している。この第1実施形態では、多層フィルム20の厚さは、例えば、50μmに設定されている。多層フィルム20は、第1アクリル樹脂層21と第2アクリル樹脂層23との間に、第1ポリカーボネート樹脂層22が配置されたものである。第1アクリル樹脂層21の露出面が第1主面20aであり、第2アクリル樹脂層23の露出面が第2主面20bである。
第1アクリル樹脂層21及び第2アクリル樹脂層23は、アクリル系樹脂からなる。第1アクリル樹脂層21及び第2アクリル樹脂層23に用いられるアクリル系樹脂としては、例えば、PMMAがある。本発明において、第1アクリル樹脂層21及び第2アクリル樹脂層23がアクリル系樹脂からなるという場合には、これらの層がアクリル系樹脂のみで構成されている場合だけでなく、アクリル系樹脂に添加剤が添加されている場合も含まれる。
第1ポリカーボネート樹脂層22は、ポリカーボネート系樹脂からなる。第1ポリカーボネート樹脂層22に用いられるポリカーボネート系樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂がある。本発明において、第1ポリカーボネート樹脂層22がポリカーボネート系樹脂からなるという場合には、この層がポリカーボネート系樹脂のみで構成されている場合だけでなく、ポリカーボネート系樹脂に添加剤が添加されている場合も含まれる。第1ポリカーボネート樹脂層22の厚さは、グラビア印刷時の収縮率を抑えるために、多層フィルム20の厚さよりも小さくなくてはならないが、10μmから105μmであることが好ましい。また、第1ポリカーボネート樹脂層22のガラス転移点(Tg)は、例えば120℃から200℃である。高い耐熱性を得るには、ガラス転移点(Tg)が高い方が好ましく、150℃から200℃であることが好ましく、170℃から200℃であることがさらに好ましい。なお、ガラス転移点(Tg)は、JIS7121に準拠して測定される。
多層フィルム20には、多層フィルム20の送り方向及び幅方向のいずれにおいても、グラビア印刷時の収縮率が-0.20%から+0.20%の範囲内に抑えられるものであることが好ましく、収縮率が-0.15%から+0.15%の範囲内に抑えられるものであることがさらに好ましい。
【0018】
(3-2)グラビア印刷層30
グラビア印刷層30は、多層フィルム20の第1主面20aの側に配置されている。さらに具体的には、グラビア印刷層30は、多層フィルム20の第1主面20a(第1アクリル樹脂層21の露出面)に印刷されて形成される。グラビア印刷層30は、図柄層31と、光透過パターン層32と、接着層33とを有する。図柄層31及び光透過パターン層32は、従来からあるグラビアインキを用いて形成される。グラビアインキは、バインダー樹脂と、溶剤と、着色剤とを含んでいる。バインダー樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂がある。溶剤は、樹脂を溶かすためのものであり、樹脂に合わせて選定される。グラビアインキの溶剤には、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル及びイソプロピルアルコールがある。
光透過パターン層32は、可視光を遮断する遮蔽部32bがグラビア印刷によって形成され、遮蔽部32bが印刷されていない部分が光透過部32aになる。
光透過パターン層32は、印刷時に、図柄層31と位置合わせされる。このような位置合わせによって、光透過パターン層32を透過する可視光が図柄層31の所定箇所を透過することができる。
図1Bに示されているように、可視光が透過する模様120は、ドア100などの加飾対象の決められた場所に配置されるので、高い寸法精度を要求される。
接着層33は、第1バッカーフィルム40と接着するための層である。接着層33は、可視光を透過する層である。接着層33を構成する接着剤には、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリウレタン系樹脂が用いられる。
【0019】
(3-3)第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50
第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50の熱ラミネートによって、複層バッカーフィルムが構成されている。
第1バッカーフィルム40は、可視光を透過するABS系樹脂からなる。可視光を透過するABS系樹脂には、例えば、可視光を透過するABS樹脂及び、可視光を透過するMABS(メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂がある。本発明において、第1バッカーフィルム40が可視光を透過するABS系樹脂からなるという場合には、このフィルムがABS系樹脂のみで構成されている場合だけでなく、ABS系樹脂に添加剤が添加されている場合も含まれる。
第1バッカーフィルム40の比熱は、1.3×103J/(kg・K)以上1.7×103J/(kg・K)以下である。比熱測定方法は、JIS K7123に準拠して行う。第1バッカーフィルム40は、比熱が高い方がグラビア印刷層30の温度上昇を抑えられるので好ましい。比熱が高すぎると、材料が温まり難くなるために軟化し難くなり、層間の密着性が確保できなくなる可能性がある。
第1バッカーフィルム40の厚さは、例えば100μmから250μmである。第1バッカーフィルム40の厚さは、厚い方が熱ダメージを軽減できるので、150μmから250μmが好ましく、200μmから250μmがさらに好ましい。
【0020】
第2バッカーフィルム50は、第1バッカーフィルム40を挟んで多層フィルム20の反対側に配置されている。第2バッカーフィルム50の厚さは、例えば、200μmから500μmである。第2バッカーフィルム50は、第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53の間に第2ポリカーボネート樹脂層52が配置されたものである。第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53はアクリル系樹脂からなる。第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53に用いられるアクリル系樹脂としては、例えば、PMMAがある。本発明において、第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53がアクリル系樹脂からなるという場合には、これらの層がアクリル系樹脂のみで構成されている場合だけでなく、アクリル系樹脂に添加剤が添加されている場合も含まれる。
第2ポリカーボネート樹脂層52はポリカーボネート系樹脂からなる。第2ポリカーボネート樹脂層52に用いられるポリカーボネート系樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂がある。本発明において、第2ポリカーボネート樹脂層52がポリカーボネート系樹脂からなるという場合には、この層がポリカーボネート系樹脂のみで構成されている場合だけでなく、ポリカーボネート系樹脂に添加剤が添加されている場合も含まれる。第2ポリカーボネート樹脂層52の厚さは、第2バッカーフィルム50の厚さよりも小さくなくてはならないが、例えば70μmから350μmである。耐熱性と賦形性の両立のために、第2ポリカーボネート樹脂層52の厚さは、105μmから280μmが好ましく、140μmから210μmがさらに好ましい。また、第1ポリカーボネート樹脂層22のガラス転移点(Tg)は、例えば120℃から200℃である。高い耐熱性を得るには、ガラス転移点(Tg)が高い方が好ましく、150℃から200℃であることが好ましく、170℃から200℃であることがさらに好ましい。
【0021】
(4)第1実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法
インサート成形用加飾フィルム10の製造方法の一例が、
図9から
図12に示されている。
図9及び
図10には、長尺のシートの一部の断面が示されている。まず、
図9に示されているように、第1ステップでは、多層フィルム20の第1主面20aの側に、グラビア印刷によりグラビア印刷層30を形成する。まず、多層フィルム20に図柄層31をグラビア印刷により印刷する。次に、図柄層31に対して位置合わせをし、遮蔽部32bをグラビア印刷により印刷し、図柄層31の所定箇所に可視光を透過する光透過パターン層32を形成する。言い換えると、光透過パターン層32の光透過部32aが図柄層31の所定箇所に形成される。さらに、グラビア印刷により光透過パターン層32に接着剤を印刷して接着層33を形成する。
第1ステップでは、グラビア印刷層30の印刷後に、グラビア印刷層30を形成するためのグラビアインキの溶剤の蒸発温度よりも高い温度で熱処理を行う。この熱処理により、グラビアインキの残留溶剤を熱処理前よりも低減させる。
第2ステップには、
図10に示されている第1熱ラミネートステップと、
図11に示されている第2熱ラミネートステップが含まれる。
第1熱ラミネートステップでは、第1バッカーフィルム40を、第2接触加熱体である加熱ドラム420に接触させ且つ第2バッカーフィルム50を第1バッカーフィルム40に接触させた状態で、第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50とを熱ラミネートして複層バッカーフィルム60(
図11参照)を形成する。加熱ドラム420の温度は、例えば170℃である。第1バッカーフィルム40を介して第2バッカーフィルム50に、加熱ドラム420から熱が伝えられる。第1熱ラミネートステップでは、第1バッカーフィルム40が加熱ドラム420に接触しているので、熱ラミネートで第1バッカーフィルム40が加熱ドラム420に強く引っ付くことはない。
【0022】
第2熱ラミネートステップでは、第1接触加熱体である加熱ドラム410から与えられる熱によって、剥離用フィルムであるPETフィルム80と複層バッカーフィルム60と多層フィルム20とが熱ラミネートされる。加熱ドラム410の温度は、例えば170℃である。PETフィルム80を加熱ドラム410に接触させ、PETフィルムに複層バッカーフィルム60の第2バッカーフィルム50を接触させ、且つ複層バッカーフィルム60の第1バッカーフィルム40にグラビア印刷層30が形成された多層フィルム20を接触させた状態で熱ラミネートを行う。PETフィルム80の厚さは、例えば、38μmから75μmである。PETは、ポリエチレンテレフタレートの略語である。
加熱ドラム410と加熱ドラム420には、同じドラムを使用してもよい。また、ここでは、第1接触加熱体に加熱ドラム410を使用し、第2接触加熱体に加熱ドラム420を使用したが、第1接触加熱体及び第2接触加熱体に使用できるものは加熱ドラムには限られない。第1接触加熱体及び第2接触加熱体は、接触した状態でラミネートするフィルムに熱と圧力とを加えられるものであればよい。
剥離用フィルムには、PETフィルム80が使用されているが、PETフィルム80以外のフィルムが用いられてもよい。剥離用フィルムとしては、PETフィルム80以外の同系統のフィルムを用いることができる。剥離用フィルムとして、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いることができる。剥離用フィルムは、熱ラミネートしたときの加熱ドラム410からの剥離強度が、第2バッカーフィルム50を加熱ドラム410に直接接触させて熱ラミネートしたときの第2バッカーフィルム50の加熱ドラム410からの剥離強度よりも小さいものであればよい。
図12に示されているように、熱ラミネート直後は、インサート成形用加飾フィルム10にPETフィルム80がラミネートされた状態になっている。
図12の状態のラミネート体からPETフィルム80を引き剥がすことで、インサート成形用加飾フィルム10が得られる。
<第2実施形態>
【0023】
(5)インサート成形用加飾フィルムの適用
第2実施形態のインサート成形用加飾フィルムも、第1実施形態のインサート成形用加飾フィルムと同様に、例えば自動車のドア100に適用される。
(6)インサート成形用加飾フィルムを用いた樹脂成形品の製造方法
第2実施形態のインサート成形用加飾フィルムを用いた樹脂成形品も、第1実施形態と同様に、例えば
図2から
図7に示されている樹脂成形品の製造方法によって製造することができる。
【0024】
(7)インサート成形用加飾フィルム10の構成
図15に示されているように、インサート成形用加飾フィルム10は、多層フィルム20と、グラビア印刷層30と、第1バッカーフィルム40と、第2バッカーフィルム50と、スクリーン印刷層70とを備えている。第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10においても、グラビア印刷層30の図柄層31に形成された第1図形36は、立体形状を有する樹脂成形品であるドアトリム110の所定位置に配置される。この第1図形36または第1図形36の周囲を可視光Liが透過するように、光透過パターン層71の光透過パターン77が配置される。言い換えると、図柄層31の図柄の所定箇所を可視光が通過するように光透過パターン77が配置されているということである。光透過パターン77は、後述する光透過部71aのパターンである。第1図形36と光透過パターン77とのずれは、±5mm以下であることが好ましい。
(7-1)多層フィルム20
第2実施形態の多層フィルム20は、第1実施形態の多層フィルム20と同じ構成を有している。従って、ここでは、第2実施形態の多層フィルム20の構成の説明を省略する。
(7-2)グラビア印刷層30
第2実施形態のグラビア印刷層30も、多層フィルム20の第1主面20aの側に配置されている。さらに具体的には、グラビア印刷層30は、多層フィルム20の第1主面20a(第1アクリル樹脂層21の露出面)に印刷されて形成される。グラビア印刷層30は、図柄層31と、接着層33とを有する。第2実施形態のグラビア印刷層30は、第1実施形態のグラビア印刷層30と比べると、光透過パターン層32を有していない。第2実施形態のグラビア印刷層30では、図柄層31と接着層33が隣接している。言い換えると、多層フィルム20に図柄層31を形成した後に、図柄層31に接着層33が印刷される。第2実施形態の図柄層31及び接着層33も、第1実施形態の図柄層31及び接着層33と同様であるので、ここでは、第2実施形態の図柄層31及び接着層33についての説明を省略する。
(7-3)第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50
第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10も、第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50の熱ラミネートによって構成されている複層バッカーフィルム60(
図17参照)を有する。第2実施形態の第1バッカーフィルム40及び第2バッカーフィルム50で構成される複層バッカーフィルム60も、第1実施形態の複層バッカーフィルム60と同様であるので、第2実施形態の複層バッカーフィルム60の説明を省略する。
【0025】
(8)第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法
第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法の一例が、
図16から
図19に示されている。
図16及び
図1には、長尺のシートの一部の断面が示されている。まず、
図16に示されているように、第1ステップでは、多層フィルム20の第1主面20aの側に、グラビア印刷によりグラビア印刷層30を形成する。まず、多層フィルム20に図柄層31がグラビア印刷により印刷される。次に、グラビア印刷により図柄層31に接着剤が印刷されて接着層33が形成される。
第1ステップでは、グラビア印刷層30の印刷後に、グラビア印刷層30を形成するためのグラビアインキの溶剤の蒸発温度よりも高い温度で熱処理を行う。この熱処理により、グラビアインキの残留溶剤を熱処理前よりも低減させる。
第2ステップには、第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法でも、
図10に示されている第1熱ラミネートステップと、
図17に示されている第2熱ラミネートステップが含まれる。
第1熱ラミネートステップでは、第1バッカーフィルム40が、第2接触加熱体である加熱ドラム420に接触し且つ第2バッカーフィルム50が第1バッカーフィルム40に接触する。この状態で、第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50とを熱ラミネートして複層バッカーフィルム60(
図17参照)を形成する。加熱ドラム420の温度は、例えば170℃である。
【0026】
図17に示されているように、第2実施形態の第2熱ラミネートステップでも、第1実施形態の第2ラミネートステップと同様に、第1接触加熱体である加熱ドラム410から与えられる熱によって、剥離用フィルムであるPETフィルム80と複層バッカーフィルム60と多層フィルム20とが熱ラミネートされる。第2実施形態の第2熱ラミネートステップは、グラビア印刷層30の構成が異なるだけで、第1実施形態の第2ラミネートステップと同様に実施されるので、ここでは説明を省略する。
図18に示されているように、熱ラミネート直後は、インサート成形用加飾フィルムの部材11にPETフィルム80がラミネートされた状態になっている。
図18に示されているのは、インサート成形用加飾フィルムの部材11の断面構造であって、熱ラミネート直後の部材11は、
図19に示されているロール500のような状態になっている。次のステップで、
図19に示されているように、部材11のロール500から部材11の枚葉シート510が作成される。枚葉シート510の作成には、例えば、スリット加工または断裁加工が用いられる。言い換えると、ロール500の長尺の部材11が、所定の長さを有する短尺の枚葉シート510に切断される。この枚葉シート510の作成時には、PETフィルム80が部材11にラミネートされた状態になっている。
次のスクリーン印刷のステップでは、PETフィルム80を剥がした枚葉シートの部材11の第2バッカーフィルム50に、スクリーン印刷層70を形成する。まず、枚葉シートの部材11からPETフィルム80を剥がす。次に、従来からあるスクリーン印刷用のインキを用いて、スクリーン印刷により、第2バッカーフィルム50に光透過パターン層71を印刷する。光透過パターン層71では、可視光を遮断する遮蔽部71bがスクリーン印刷によって形成され、遮蔽部71bが印刷されていない部分が光透過部71aになる。光透過パターン層71の印刷時には、光透過パターン層71のパターンと図柄層31との位置合わせを行う。さらに、スクリーン印刷により、光透過パターン層71に接着層72を印刷する。接着層72の形成に用いられる材料には、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂がある。
【0027】
(9)変形例
(9-1)変形例A
上記第1実施形態及び第2実施形態では、多層フィルム20の表面(第2主面20b)が露出している場合について説明した。しかし、多層フィルム20の第2主面20bに表面層が形成されていてもよい。例えば、
図13及び
図14並びに
図20及び
図21に示されているように、多層フィルム20の第2主面20bに表面層として、可視光を透過するマット層24,25が設けられてもよい。可視光を透過するためにマット層24,25に開口部が設けられてもよい。
マット層24は、表面の凹凸の最大高さ粗さ(Rz)(JISB0601に準拠して測定したもの)が20μmより小さく、主に、視覚的に凹凸を表現するものである。それに対し、マット層25は、表面の凹凸の最大高さ粗さ(Rz)(JISB0601に準拠して測定したもの)が20μm以上であり、主に、視覚だけでなく、触覚によっても凹凸を知覚させるものである。
マット層24,25の代わりに、他の図柄層を多層フィルム20の第2主面2bにグラビア印刷により形成してもよい。このとき、多層フィルム20の第2主面2bに形成されるグラビア印刷層は、第1主面2aに形成されるグラビア印刷層30と同時に形成されるのが好ましい。また、多層フィルム20の第2主面2bに形成される図柄層の第2図形は、第1主面2aに形成されるグラビア印刷層30の図柄層31の第1図形36を基準に配置されることが好ましい。
【0028】
(9-2)変形例B
上記第1実施形態及び第2実施形態では、インサート成形用加飾フィルム10の製造において、第2ステップが、第1熱ラミネートステップ(
図10参照)と、第2熱ラミネートステップ(
図11または
図17参照)を含むように構成されている場合について説明した。
しかし、送り出しロールを4軸とする場合には、第2ステップにおいて、1度の熱ラミネートで、PETフィルム80が加熱ドラム410に接触し、PETフィルム80に第2バッカーフィルム50が接触し、第2バッカーフィルム50に第1バッカーフィルム40が接触し、且つ第1バッカーフィルム40にグラビア印刷層30が形成された多層フィルム20が接触した状態で、加熱ドラム410から与えられる熱によって、PETフィルム80と第2バッカーフィルム50と第1バッカーフィルム40と多層フィルム20とを熱ラミネートするように構成してもよい。上記第1実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法と異なる点は、PETフィルム80に第2バッカーフィルム50が接触する熱ラミネートのときまで、第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50が分離された状態にある点である。
【0029】
(9-3)変形例C
上記第2実施形態では、枚葉シート510に切断した後に、スクリーン印刷によってスクリーン印刷層70を形成する場合について説明した。しかし、スクリーン印刷層を形成するためのスクリーン印刷を、ロールツーロール(roll-to-roll)方式により行ってもよい。ロールツーロール方式の場合も、PETフィルム80を剥がした第2バッカーフィルム50に、スクリーン印刷により、光透過パターン層71を印刷する。そしてさらに、ロールツーロール方式において、スクリーン印刷により、光透過パターン層71に接着層72を印刷する。
【0030】
(10)特徴
(10-1)
上述のインサート成形用加飾フィルム10では、多層フィルム20が第1アクリル樹脂層21及び第2アクリル樹脂層23の間に第1ポリカーボネート樹脂層22が配置され、第2バッカーフィルム50が第3アクリル樹脂層51及び第4アクリル樹脂層53の間に第2ポリカーボネート樹脂層52が配置されている。このインサート成形用加飾フィルム10では、多層フィルム20と第2バッカーフィルム50の多層構造により、グラビア印刷層30を形成するときの印刷乾燥時の部材の収縮が例えば±0.15%に抑制され、また、熱ラミネート時の部材の収縮が抑制される。その結果、グラビア印刷の図柄層31と光透過パターン層32とに関する寸法精度またはグラビア印刷の図柄層31とスクリーン印刷の光透過パターン層71とに関する寸法精度が向上する。また、第2バッカーフィルム50の多層構造により、複層バッカーフィルム60の耐熱性が向上し、ポリカーボネート製の樹脂成形品90の製造時に、例えば300℃前後に達する溶融樹脂290に接触しても、このインサート成形用加飾フィルム10では、グラビア印刷のインキ流れの発生が抑制される。また、このインサート成形用加飾フィルム10では、第1バッカーフィルム40のABS系樹脂により、グラビアインキへの熱によるダメージを軽減することができる。さらに、第2ポリカーボネート樹脂層52によってインサート成形用加飾フィルム10の強度が向上し、フォーミング時及び成形時において、インサート成形用加飾フィルム10にクラックが発生し難くなる。
インキ流れとは、高温によって印刷に用いられた樹脂が溶融してしまう現象をいう。(このような定義でよいかご確認ください。)
【0031】
(10-2)
上述のインサート成形用加飾フィルム10の第1ポリカーボネート樹脂層22及び第2ポリカーボネート樹脂層52のポリカーボネート系樹脂のガラス転移点は、120℃以上200℃以下である。第1ポリカーボネート樹脂層22及び第2ポリカーボネート樹脂層52のポリカーボネート系樹脂のガラス転移点が高いため、多層フィルム20及び複層バッカーフィルム60の耐熱性が向上する。このような耐熱性が向上した多層フィルム20及び複層バッカーフィルム60の間に挟まれているグラビア印刷層30は、300℃前後のポリカーボネート系樹脂の溶融樹脂290が射出される樹脂成形品90の製造においてインサートされても、グラビア印刷層30のインキ流れが発生し難くなる。
(10-3)
上述のインサート成形用加飾フィルム10の第1バッカーフィルム40は、比熱が、1.3×103J/(kg・K)以上1.7×103J/(kg・K)以下となるように構成されている。このように第1バッカーフィルム40の比熱を高くすることで、熱によりグラビア印刷層に生じるダメージを軽減することができる。
(10-4)
上述の第1実施形態のインサート成形用加飾フィルム10は、光透過パターン層32が、グラビア印刷層30に含まれている場合には、グラビア印刷層30の形成時及び熱ラミネート時の部材の収縮が抑制される。その結果、グラビア印刷層30の光透過パターン層32の寸法精度が向上している。
(10-5)
上述の第2実施形態のインサート成形用加飾フィルムは、光透過パターン層71が、第2バッカーフィルム50に形成されている場合には、光透過パターン層71が熱ラミネート後に形成される。その結果、光透過パターン層71が熱ラミネートの影響を受けることが防止されている。
【0032】
(10-6)
図9から
図12または
図16から
図19を用いて説明した第1実施形態または第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法では、第2ステップで(
図11または
図17参照)、剥離用フィルムであるPETフィルム80が第1接触加熱体である加熱ドラム410に接触し、PETフィルム80に第2バッカーフィルム50が接触するので、第2バッカーフィルム50が直接加熱ドラム410に接触しない。そのため、熱ラミネートされて加熱ドラム410からインサート成形用加飾フィルム10が離れるときに、第2バッカーフィルム50が加熱ドラム410に直接接触する場合に比べて、インサート成形用加飾フィルム10が加熱ドラム410に引っ張られる力が弱まる。その結果、インサート成形用加飾フィルム10が加熱ドラム410に引っ張られる力によって、グラビア印刷層30に柄歪みが発生するのを抑制することができる。
(10-7)
図9から
図12または
図16から
図19を用いて説明した第1実施形態または第2実施形態のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法は、第1熱ラミネートステップ(
図10参照)と、第2熱ラミネートステップ(
図11または
図17参照)を含むように構成されている。ラミネートのステップを分けることで、ラミネータで使われる送り出しロールの数を減らすことができる。この場合、第1熱ラミネートステップ(
図10参照)では、PETフィルム80を用いなくて済むため、熱ラミネートのステップを増やすにもかかわらず、PETフィルム80を増やさなくても済む。
【0033】
(10-8)
上述のインサート成形用加飾フィルム10の製造方法では、第1ステップに、グラビア印刷層30の印刷後にグラビア印刷層30を形成するためのグラビアインキの溶剤の蒸発温度よりも高い温度で熱処理を含めてもよい。このような熱処理を行う場合には、グラビア印刷層30の残留溶剤を低減でき、フォーミング時の発泡を抑制できる。
(10-9)
図2から
図7を用いて説明した樹脂成形品90の製造方法では、第2バッカーフィルム50の多層構造により、第1バッカーフィルム40と第2バッカーフィルム50(複層バッカーフィルム60)の耐熱性が向上する。その結果、300℃前後のポリカーボネート系樹脂の溶融樹脂290が射出されるポリカーボネート製の樹脂成形品90の製造時にグラビア印刷層30のインキ流れの発生が抑制される。また、第1バッカーフィルム40のABS系樹脂により、グラビア印刷層30グラビアインキへの熱によるダメージを軽減することができる。
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明したが、本発明は上記第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 インサート成形用加飾フィルム
20 多層フィルム
21 第1アクリル樹脂層
22 第1ポリカーボネート樹脂層
23 第2アクリル樹脂層
30 グラビア印刷層
31 図柄層
32 光透過パターン層
33 接着層
40 第1バッカーフィルム
50 第2バッカーフィルム
51 第3アクリル樹脂層
52 第2ポリカーボネート樹脂層
53 第4アクリル樹脂層
60 複層バッカーフィルム
70 スクリーン印刷層
71 光透過パターン
72 接着層
80 PETフィルム(剥離用フィルムの例)
410 加熱ドラム(第1接触加熱体の例)
420 加熱ドラム(第2接触加熱体の例)