(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097998
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】表面処理剤、親水化無機基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20220624BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220624BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220624BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220624BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20220624BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20220624BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220624BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09K3/18
B32B9/00 A
B05D5/00 Z
B05D7/00 C
B05D3/10 H
C09D201/02
C09D7/63
C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211303
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】奥村 承士
(72)【発明者】
【氏名】中島 佑介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 敬仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有亮
(72)【発明者】
【氏名】竹本 優吾
(72)【発明者】
【氏名】前島 希代江
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB68X
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4J038FA031
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4J038PC01
4J038PC02
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】無機基材に、良好でかつ耐久性のある親水性とともに、優れた防汚性を付与することのできる表面処理剤を提供する。
【解決手段】前処理剤および親水化処理剤を含み、無機基材に順次付与される表面処理剤であって、前記前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含み、前記多官能モノマーは、前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有する、表面処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理剤および親水化処理剤を含み、無機基材に順次付与される表面処理剤であって、
前記前処理剤は、
反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、
多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、
前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、
前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有する、表面処理剤。
【請求項2】
前記多官能モノマーの配合量は、前記前処理剤の固形分の1質量%以上99質量%以下である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記第1反応性基は、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記第2反応性基は、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記親水化処理剤は、親水性化合物を含み、
前記親水性化合物は、スルホン酸基およびスルホン酸基のアルカリ金属塩の少なくとも1つを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記親水化処理剤は、親水性化合物を含み、
前記親水性化合物は、第四級アンモニウム基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項7】
前処理剤および親水化処理剤が順次付与された親水化無機基材であって、
前記前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有し、
無機基材と、
前記反応性シリル基を介して、前記無機基材に固定された前記シラン化合物と、
前記有機官能基と前記第1反応性基との反応により、前記シラン化合物に固定された前記多官能モノマーと、
前記第2反応性基と前記親水化処理剤との反応により、前記多官能モノマーに固定された前記親水化処理剤と、を備える、親水化無機基材。
【請求項8】
無機基材の表面に、前処理剤を付与する工程と、
前記前処理剤が付与された前記無機基材の表面に、親水化処理剤を付与する工程と、
前記親水化処理剤を前記前処理剤に固定する工程と、を備え、
前記前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有し、
前記固定工程では、前記第1反応性基と前記有機官能基とが反応し、前記親水化処理剤と前記第2反応性基とが反応する、親水化無機基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、親水化無機基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器、洗面台など水回りに設置される陶器類などに対して、表面の汚れを洗浄し易くするために種々の表面処理が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1および2は、無機化合物を含有する表面層をシランカップリング剤で処理した後、親水性化合物を付与することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-20461号公報
【特許文献2】特開2016-20462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の清潔志向の高まりにより、陶器類に対するさらなる防汚性の向上が求められている。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、例えば陶器類などの無機基材に対して、良好でかつ耐久性のある親水性とともに、優れた防汚性を付与することのできる表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
無機基材に付与される表面処理剤であって、
前記表面処理剤は、親水化処理剤および前処理剤を含み、
前記前処理剤は、
反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、
多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、
前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、
前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有する、表面処理剤。
【0008】
[2]
前記多官能モノマーの配合量は、前記前処理剤の固形分の1質量%以上99質量%以下である、上記の[1]に記載の表面処理剤。
【0009】
[3]
前記第1反応性基は、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記の[1]または[2]に記載の表面処理剤。
【0010】
[4]
前記第2反応性基は、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種である、上記の[1]~[3]のいずれかに記載の表面処理剤。
【0011】
[5]
前記親水化処理剤は、親水性化合物を含み、
前記親水性化合物は、スルホン酸基およびスルホン酸基のアルカリ金属塩の少なくとも1つを有する、上記の[1]~[4]のいずれかに記載の表面処理剤。
【0012】
[6]
前記親水化処理剤は、親水性化合物を含み、
前記親水性化合物は、第四級アンモニウム基を有する、上記の[1]~[4]のいずれかに記載の表面処理剤。
【0013】
[7]
前処理剤および親水化処理剤が順次付与された親水化無機基材であって、
前記前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有し、
無機基材と、
前記反応性シリル基を介して、前記無機基材に固定された前記シラン化合物と、
前記有機官能基と前記第1反応性基との反応により、前記シラン化合物に固定された前記多官能モノマーと、
前記第2反応性基と前記親水化処理剤との反応により、前記多官能モノマーに固定された前記親水化処理剤と、を備える、親水化無機基材。
【0014】
[8]
無機基材の表面に、前処理剤を付与する工程と、
前記前処理剤が付与された前記無機基材の表面に、親水化処理剤を付与する工程と、
前記親水化処理剤を前記前処理剤に固定する工程と、を備え、
前記前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含み、
前記多官能モノマーは、前記有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、前記親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有し、
前記固定工程では、前記第1反応性基と前記有機官能基とが反応し、前記親水化処理剤と前記第2反応性基とが反応する、親水化無機基材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機基材に対して、良好でかつ耐久性のある親水性とともに、優れた防汚性を付与することのできる表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[表面処理剤]
本実施形態に係る表面処理剤は、前処理剤と親水化処理剤とを含む。無機基材を前処理剤および親水化処理剤の双方で処理することにより、無機基材の親水性およびその耐久性が向上する。例えば、市販の様々な洗浄剤により無機基材を洗浄しても、その親水性は維持され易くなる。
【0017】
加えて、本実施形態に係る表面処理剤によれば、無機基材に優れた防汚性が付与される。特に、本実施形態に係る表面処理剤によって、カルシウムなど水道水に含まれ得るミネラル成分(水垢)が除去され易くなる。ミネラル成分が無機基材の表面に沈着すると、当該表面に凹凸が形成されて、汚れはさらに付着し易くなるとともに除去され難くなる。
【0018】
前処理剤と親水化処理剤とは混合されておらず、順次、無機基材に付与される。これにより、各処理剤の効果が発揮されて、親水性およびその耐久性とともに、防汚性が向上する。
【0019】
A.前処理剤
前処理剤は、親水化処理剤を無機基材に強く固定するために使用される。前処理剤は、シラン化合物と多官能モノマーとを含む。多官能モノマーは、2以上の複数の反応性基を有する。具体的には、多官能モノマーは、シラン化合物が有する有機官能基と反応するための1以上の第1反応性基と、親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基とを有する。
【0020】
無機基材の表面には、シラン化合物を介して、多官能モノマーが固定される。親水化処理剤(具体的には、後述の親水性化合物)は、この多官能モノマーが有する第2反応性基に固定される。つまり、多官能モノマーによって、無機基材と親水性化合物との架橋点が多く形成されて、無機基材の表面により多くの親水性化合物が固定され易くなる。これにより、無機基材の表面にミネラル成分が固着し難くなって、防汚性が向上するものと考えられる。
【0021】
以下、各成分について詳細に説明する。
(多官能モノマー)
多官能モノマーは、1以上の第1反応性基と1以上の第2反応性基とを有する。第1反応性基は、シラン化合物が有する有機官能基と反応し得る。第2反応性基は、親水化処理剤と反応し得る。第1反応性基と第2反応性基とは、同種であってよく、異種であってよい。
【0022】
多官能モノマーが1以上の第1反応性基を有するとは、多官能モノマーの1以上の反応性基が、シラン化合物と化学結合し得るということである。多官能モノマーが1以上の第2反応性基を有するとは、多官能モノマーの1以上の反応性基が、親水化処理剤と化学結合し得るということである。
【0023】
第1反応性基は、多官能モノマーに1以上あればよく、2以上あってもよい。なかでも、多官能モノマーは、1つの第1反応性基を有することが好ましい。これにより、1つのシラン化合物に、1以上の多官能モノマーが固定され得る。その結果、無機基材の表面により多くの親水化処理剤を固定することができて、防汚性はさらに向上し易くなる。
【0024】
第1反応性基は、シラン化合物の有機官能基と反応する限り特に限定されない。第1反応性基と有機官能基との反応は、ラジカル反応であってよく、縮合反応であってよい。
【0025】
ラジカル反応する第1反応性基としては、例えば、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。縮合反応する第1反応性基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、ウレイド基、イソシアネート基およびイソシアヌレート基が挙げられる。複数の第1反応性基は、同種であってよく、異種であってよい。なかでも、ラジカル反応性の基が好ましく、特に反応性が高い点で、アクリロイル基およびメタクリロイル基(以下、(メタ)アクリロイル基と総称する。)が好ましく、メタクリロイル基がより好ましい。
【0026】
第2反応性基は、多官能モノマーに1以上あればよい。なかでも、第2反応性基は、多官能モノマーに2以上あることが好ましく、5以上あることがより好ましい。これにより、無機基材の表面により多くの親水化処理剤を固定することができて、防汚性はさらに向上し易くなる。
【0027】
第2反応性基は、親水化処理剤と反応する限り特に限定されない。第2反応性基と親水化処理剤との反応は、ラジカル反応であってもよいし、縮合反応であってもよい。
【0028】
ラジカル反応する第2反応性基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。縮合反応する第2反応性基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。複数の第2反応性基は、同種であってよく、異種であってよい。なかでも、ラジカル反応性の基が好ましく、特に反応性が高い点で、(メタ)アクリロイル基が好ましく、メタクリロイル基がより好ましい。
【0029】
第1反応性基および第2反応性基として(メタ)アクリロイル基を有する多官能モノマーとしては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレートなどの2官能(メタ)アクリレートモノマー;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化(8)ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性(1)トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性(3)トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレートモノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化(8)ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレートモノマー;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどの7官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0030】
多官能モノマーの配合量は、前処理剤の固形分の1質量%以上99質量%以下が好ましい。多官能モノマーの配合量は、前処理剤の固形分の15質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。多官能モノマーの配合量は、前処理剤の固形分の95質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。前処理剤の固形分とは、揮発成分(代表的には、後述する溶媒)以外の全成分である。
【0031】
(シラン化合物)
シラン化合物は、反応性シリル基および有機官能基の両方を有する。このようなシラン化合物は、シランカップリング剤として知られている。反応性シリル基は、加水分解によってシラノール基を生成する。シラノール基は、無機基材の表面に吸着して、水素結合的に結合する。さらに、シラノール基が、無機基材の表面にあるヒドロキシ基あるいはシラノール基と脱水縮合すると、強固な化学結合が生じる。これらの作用により、無機基材の表面には、シラン化合物が固定される。他方、有機官能基は多官能モノマーと反応して、多官能モノマーとシラン化合物とを結合させる。
【0032】
反応性シリル基は、加水分解によりシラノール基を生成する限り特に限定されない。反応性シリル基としては、例えば、トリアルコキシシリル基(アルコキシ基に含まれる炭素数は1~7が好ましい)、ジアルコキシアルキル基(アルコキシ基に含まれる炭素数は1~7が好ましく、アルキル基に含まれる炭素数は1~7が好ましい)が挙げられ、より具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリス(2-メトキシエトキシ)シリル基、ジメトキシアルキルシリル基、ジエトキシアルキルシリル基、ジプロポキシアルキルシリル基、ビス(2-メトキシエトキシ)アルキルシリル基(上記アルキル基は、炭素数1~7の直鎖状または分枝状アルキル基であってよい)が挙げられる。複数の反応性シリル基は、同種であってよく、異種であってよい。
【0033】
有機官能基は、多官能モノマーの第1反応性基と反応する限り特に限定されない。上記の通り、有機官能基と第1反応性基との反応は、ラジカル反応であってもよいし、縮合反応であってもよい。
【0034】
ラジカル反応する有機官能基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。縮合反応する有機官能基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。複数の有機官能基は、同種であってよく、異種であってよい。
【0035】
シラン化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチルルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、が挙げられる。シラン化合物は、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
シラン化合物の配合量は、前処理剤の固形分の1質量%以上99質量%以下が好ましい。これにより、無機基材に十分な親水性を付与することができるとともに、反応性シリル基同士の縮合反応が過度に進行することによるゲル化が抑制され易くなる。シラン化合物の配合量は、前処理剤の固形分の15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。シラン化合物の配合量は、前処理剤の固形分の85質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0037】
(ラジカル重合開始剤)
シラン化合物と多官能モノマーとがラジカル反応する場合、前処理剤はさらにラジカル重合開始剤を含んでいてよい。ただし、多官能モノマー同士の重合が抑制され易い点で、前処理剤は実質的にラジカル重合開始剤を含まない(ラジカル重合開始剤の配合量は、検出限界以下である)ことが望ましい。
【0038】
(触媒)
前処理剤は、反応性シリル基の加水分解を促進する触媒を含んでいてもよい。触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、カルボン酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸等)等の酸性触媒;アンモニア、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピペラジン、ヒドロキシエチルピペラジン、2-メチルピペラジン、トランス2,5-ジメチルピペラジン、シス2,6-ジメチルピペラジン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-n-ブチルエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)イソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性触媒が挙げられる。触媒は、例えば、水溶液の状態で前処理剤に添加される。
【0039】
(溶媒)
前処理剤は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、有機溶媒であってよく、水であってもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。
【0040】
B.親水化処理剤
親水化処理剤は、無機基材に親水性を付与する。親水化処理剤は、親水性化合物を含む。親水性化合物は、多官能モノマーの第2反応性基と反応する第3反応性基と、親水基とを有する。多官能モノマーの第2反応性基が親水化処理剤と反応し得るとは、第2反応性基が、親水性化合物が有する第3反応性基と反応し得るということである。
【0041】
(親水性化合物)
親水性化合物は、多官能モノマーの第2反応性基と反応する第3反応性基と、親水基とを有する。
【0042】
第3反応性基は、親水性化合物に1以上あればよく、2以上あってもよい。なかでも、親水性化合物は、1つの第3反応性基を有することが好ましい。これにより、1つの多官能モノマーに、1以上の親水性化合物が固定され得る。よって、無機基材の表面により多くの親水基が固定され易くなって、親水性および防汚性はさらに向上し易くなる。親水性化合物は、シラン化合物にも固定され得る。
【0043】
第3反応性基は、多官能モノマーの第2反応性基と反応する限り特に限定されない。上記の通り、第3反応性基と第2反応性基との反応は、ラジカル反応であってもよいし、縮合反応であってもよい。
【0044】
ラジカル反応する第3反応性基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。縮合反応する第3反応性基としては、例えば、第1反応性基と同様の基が挙げられる。複数の第3反応性基は、同種であってよく、異種であってよい。
【0045】
親水基は、親水性化合物に1以上あればよく、2以上あってもよい。親水基は、親水性化合物の主鎖の端部に位置していることが望ましい。これにより、親水基を無機基材の外部に向けて配置することが容易となって、親水性がより向上し易くなる。
【0046】
親水基は特に限定されない。親水基は、カチオン性であってよく、アニオン性であってよく、両性であってよく、ノニオン性であってよい。
【0047】
アニオン性の親水基は、水中でアニオンに解離する。アニオン性の親水基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基およびこれらの塩が挙げられる。なかでも、親水基は、スルホン酸基およびスルホン酸基の塩(以下「スルホン酸基類」と称する場合がある。)が好ましい。特に、スルホン酸基のアルカリ金属塩が好ましい。
【0048】
スルホン酸基類を有する親水性化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸リチウム、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸ナトリウム、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸カリウム、2-ナトリウムスルホエチルメタクリレート、アリルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウムおよびスルホン酸ナトリウム含有ウレタンアクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。スルホン酸基を有する親水性化合物とともに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を添加してもよい。これにより、スルホン酸が中和されて、スルホン酸塩が形成される。
【0049】
カチオン性の親水基は、水中でカチオンに解離する。カチオン性の親水基としては、例えば、第四級アンモニウム基が挙げられる。第四級アンモニウム基を有する親水性化合物としては、例えば、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムブロマイド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、2-(アクリロイルオキシ)-N,N,N-トリメチルエタンアミニウムクロリド、および、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
両性の親水基は、水中でアニオンおよびカチオンに解離する。両性の親水性化合物としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタイン系化合物;コカミドプロピルベタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン系化合物;ラウロイルグルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系化合物;ラウリルジメチルアミンN-オキシド等のアミンオキシド系化合物が挙げられる。
【0051】
ノニオン性の親水基は、水中でイオンに解離しない。ノニオン性の親水性化合物としては、例えば、アルキルグリコシド、脂肪酸エステル、アルキルポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコールが挙げられる。
【0052】
親水化処理剤は、アニオン性の親水基を有する親水性化合物とともに、カチオン性あるいはノニオン性の親水基を有する親水性化合物を含むことが好ましい。特に、アニオン性の親水基を有する親水性化合物とともに、カチオン性の親水基を有する親水性化合物を含むことが好ましい。
【0053】
親水性化合物の数平均分子量は、70以上500以下が好ましい。数平均分子量が上記範囲内であることによって、親水性はさらに向上し易い。親水性化合物の配合量は、特に限定されない。
【0054】
(ラジカル重合開始剤)
シラン化合物と親水性化合物とがラジカル反応する場合、親水化処理剤はさらにラジカル重合開始剤を含んでいてよい。ラジカル重合開始剤は、水溶性であることが好ましい。ラジカル重合開始剤は、光により分解する光ラジカル重合開始剤および熱により分解する熱ラジカル重合開始剤に分類される。
【0055】
ラジカル重合開始剤は特に限定されず、従来公知のものが使用できる。ラジカル重合開始剤の配合量は、親水性化合物の固形分100質量部に対して1質量部以上75質量部以下が好ましく、5質量部以上60質量部以下がより好ましい。
【0056】
(溶媒)
親水化処理剤は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、前処理剤に含まれ得る溶媒と同様のものが挙げられる。溶媒によって、親水化処理剤の固形分濃度は0.1質量%以上60質量%以下に調整され得る。
【0057】
(相溶化剤)
親水化処理剤は、相溶化剤を含んでいてもよい。相溶化剤は、親水性化合物の結晶化を抑制し、親水性化合物を親水化処理剤に均一に溶解させることができる。
【0058】
相溶化剤は特に限定されず、従来公知のものが使用できる。相溶化剤の添加量は、親水性化合物の固形分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下が好ましい。
【0059】
(その他)
親水化処理剤は、必要に応じて各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、表面調整剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘性制御剤が挙げられる。添加剤は、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
[親水化無機基材]
本実施形態に係る親水化無機基材は、無機基材に、上記の前処理剤および上記の親水化処理剤が、順次付与されることにより得られる。前処理剤は、反応性シリル基および有機官能基を有するシラン化合物と、多官能モノマーと、を含む。多官能モノマーは、有機官能基と反応する1以上の第1反応性基と、親水化処理剤と反応する1以上の第2反応性基と、を有する。つまり、親水化無機基材は、無機基材と、反応性シリル基を介して、無機基材に固定されたシラン化合物と、有機官能基と第1反応性基との反応により、シラン化合物に固定された多官能モノマーと、第2反応性基と親水化処理剤との反応により、多官能モノマーに固定された親水化処理剤と、を備える。
【0061】
[親水化無機基材の製造方法]
本実施形態に係る親水化無機基材は、無機基材の表面に、上記の前処理剤を付与する工程と、前処理剤が付与された無機基材の表面に、上記の親水化処理剤を付与する工程と、親水化処理剤を前処理剤に固定する工程を含む方法により製造される。固定工程では、多官能モノマーの第1反応性基とシラン化合物の有機官能基とが反応し、親水性化合物と多官能モノマーの第2反応性基とが反応する。
【0062】
(1)前処理剤の付与工程
無機基材の表面に上記の前処理剤を付与する。前処理剤は、シラン化合物および多官能モノマーを含む。前処理剤は、さらに溶媒を含み得る。
【0063】
前処理剤において、シラン化合物の反応性シリル基の少なくとも一部は加水分解されて、シラノール基が生成されている。無機基材の表面に前処理剤を付与すると、シラノール基は無機基材の表面に吸着して、水素結合的に結合する。さらに、シラノール基は、無機基材の表面にあるヒドロキシ基あるいはシラノール基と脱水縮合して、化学結合し得る。これらにより、無機基材の表面にシラン化合物が固定される。一方、多官能モノマーの少なくとも一部は、そのまま無機基材の表面近傍に存在している。前処理剤の付与量は特に限定されない。
【0064】
前処理剤を無機基材に付与する前に、多官能モノマーの第1反応性基とシラン化合物の有機官能基とを反応させてもよい。そして、多官能モノマーが結合したシラン化合物を含む前処理剤を、無機基材に付与してもよい。
【0065】
(無機基材)
無機基材は、無機化合物を含む表面層(無機表面)を有する限り、特に限定されない。無機化合物としては、例えば、ガラス、金属、金属酸化物、および、ガラス以外の二酸化ケイ素が挙げられる。無機基材の具体例としては、例えば、衛生陶器、タイル、ほうろう、ガラス、サイディング材、サッシ、壁、鏡および浴槽などの住宅等関連部材が挙げられる。なかでも、本実施形態に係る前処理剤および親水化処理剤は、衛生陶器に特に好適に用いられる。衛生陶器は、便器、洗面器、手洗器などの水回りの住宅設備機器である。陶器は一般に、粘土、陶石、長石などの原料から構成された素地(例えば素焼き陶器など)に、釉薬を釉掛けし、焼成することによって得られる。衛生陶器の大部分またはその一部は、陶器から構成されており、その表面にはガラス質の層が形成されている。
【0066】
(2)乾燥工程
前処理剤の付与後、無機基材を乾燥させて、溶媒等の揮発成分を除去することが好ましい。多官能モノマーが、無機基材の表面近傍に配置され易いためである。乾燥条件は特に限定されず、溶媒の量等に応じて適宜設定される。
【0067】
(3)親水化処理剤の付与工程
無機基材の表面に親水化処理剤を付与する。このとき、先に付与されている多官能モノマーは、無機基材の表面近傍に留まっている。親水化処理剤は、この多官能モノマーを覆うように付与される。これにより、多官能モノマーと親水化処理剤とが反応し易くなる。親水化処理剤の付与量は特に限定されない。
【0068】
(4)固定工程
親水化処理剤の付与後、多官能モノマーの第1反応性基およびシラン化合物の有機官能基、ならびに、親水性化合物の第3反応性基および多官能モノマーの第2反応性基を、それぞれ反応させる。これにより、親水性化合物が多官能モノマーに固定されるとともに、多官能モノマーがシラン化合物に固定される。
【0069】
反応条件は、各反応基の反応機構に応じて適宜設定される。ラジカル反応させるには、加熱および/または活性エネルギー線の照射を行えばよい。縮合反応させるには、加熱すればよい。
【0070】
活性エネルギー線の照射は、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線LEDランプを用いて行われる。活性エネルギー線としては、波長220nm以上450nm以下の紫外線が好ましい。活性エネルギー線照射の条件は特に限定されず、各反応性基の反応性、各成分の付与量等に応じて適宜設定される。
【0071】
加熱は、例えば、加熱炉、熱風乾燥機またはIRヒーターなどを用いた加熱、赤外線熱照射装置などを用いた熱照射により行われる。加熱条件は特に限定されず、各反応性基の反応性、各成分の付与量等に応じて適宜設定される。加熱温度は、例えば、80℃以上150℃以下であってよい。
【0072】
次いで、無機基材を水により洗浄して、未反応の成分を除去する。その後、無機基材を乾燥する。このような方法により、親水化された無機基材が得られる。
【実施例0073】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0074】
[実施例1]
(a)前処理剤の調製
3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シラン化合物)50部、トリプロピレングリコールジアクリレート(多官能モノマー)50部および1-メトキシ-2-プロパノール(溶媒)適量を室温で攪拌混合した。次いで、3%塩酸水溶液(触媒)50質量部を加えて、さらに30分間攪拌した。このようにして、前処理剤を調整した。
【0075】
(b)親水化処理剤の調製
まず、親水性化合物Haを以下のようにして合成した。
アミノエチルスルホン酸45.2質量部、水酸化ナトリウム14.8質量部、イオン交換水40質量部を20~25℃の室温で反応させた。得られた反応物42.5質量部を5~10℃の温度に保ち、1-メトキシ-2-プロパノール33質量部に2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、カレンズAOI(登録商標))24.5質量部を混合溶解した溶液を5分かけて滴下し、さらに4時間撹拌攪拌した。赤外吸収スペクトルにて、イソシアネート基に由来する吸収が認められず反応が終了したことを確認した。このようにして、親水性化合物Ha(スルホン酸ナトリウム含有ウレタンアクリレート)を得た。
【0076】
次いで、イオン交換水27.5重量部および尿素10重量部を混合し、尿素が溶解するまで攪拌した。その後、得られた親水性化合物Ha30質量部、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(親水性化合物Hc)70質量部、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(光ラジカル重合開始剤)50質量部、イソプロピルアルコール(溶媒)100質量部を加え、透明になるまで溶液を攪拌した。このようにして、親水化処理剤を調製した。
【0077】
(c)無機基材の準備
陶器の表面をメタノールで脱脂し、無機基材を準備した。
【0078】
(d)前処理
得られた前処理剤を無機基材に塗布した。続いて、電気オーブンを用いて60℃で30分間乾燥させた後、室温で30分間放置した。
【0079】
(e)親水化処理
次いで、前処理剤が塗布された無機基材に親水化処理剤を塗布した。続いて、高圧水銀ランプを用いて積算光量1000mJ/cm2の紫外線を照射した。これにより、親水化された無機基材を得た。
【0080】
[実施例2~6、比較例1~4]
多官能モノマー、シラン化合物の種類および量などを、表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして前処理剤および親水化処理剤を調製し、前処理および親水化処理を行った。
【0081】
[評価]
実施例および比較例で得られた親水化無機基材について、下記評価を行った。評価結果を表1に示す。
(i)親水性
JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」(静滴法)に準じて、親水化無機基材の表面における水滴の接触角(初期)を測定した。具体的には、水滴の接触角の測定について、協和界面科学株式会社製のDMo-701を用い、蒸留水4μLを塗膜に滴下して60秒後の接触角を測定した。
【0082】
接触角を、以下の基準に従って評価した。
〇:水滴の接触角が20°以下
△:水滴の接触角が20°より大きい
【0083】
(ii)耐久性(耐カチオン洗剤性)
親水化無機基材の表面に洗浄剤(サンポール(登録商標)、カチオン性界面活性剤、大日本除虫菊株式会社製)1mLを滴下した後、水で洗浄した。この作業を10回繰り返した後、上記と同様にして、親水化無機基材の表面における水滴の接触角を測定し、評価した。
【0084】
(iii)防汚性(ミネラル除去性)
親水化無機基材に150μLの水を滴下し、40℃で24時間乾燥させて白色の水滴斑を作成した。その後、20~25℃の水中において、3Mスコッチブライト(商標)抗菌ウレタンスポンジS-21KSを親水化無機基材の表面に当てて、500gfの荷重を掛けながら20往復させた。
【0085】
当該表面を目視で観察し、以下の基準により評価した。
◎:水滴斑が視認されない
〇:若干水滴斑が視認される
△:水滴斑がはっきりと視認される
【0086】
【0087】
実施例の親水化無機基材はいずれも、良好な親水性、耐久性および防汚性を示す。一方、比較例の親水化無機基材はいずれも、防汚性に劣っている。
本開示の表面処理剤は、無機基材に、良好でかつ耐久性のある親水性とともに、優れた防汚性を付与することができるため、特に、衛生陶器の親水化処理剤として好適に用いられる。