(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098003
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】非接触通信ICシート
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
G06K19/077 156
G06K19/077 144
G06K19/077 264
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211308
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小久保 悠
(72)【発明者】
【氏名】耳田 尚道
(57)【要約】
【課題】補強シートの様な別部材を追加する必要がなく、通常の層構成であっても部材の境界部での割れや剥がれが発生し難く、薄手のシートとして形成可能な非接触通信ICシートを提供する。
【解決手段】アンテナ4とICモジュール3が埋設または表面に敷設されたコアシート2と、コアシートを両面から挟持する外装シート5とを少なくとも有し、コアシートの粘弾性と外装シートの粘弾性とが異なる。特に、外装シートの曲げ弾性率がコアシートの曲げ弾性率よりも低いものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナとICモジュールが埋設または表面に敷設されたコアシートと、前記コアシートを両面から挟持する外装シートとを少なくとも有し、前記コアシートの粘弾性と前記外装シートの粘弾性とが異なることを特徴とする非接触通信ICシート。
【請求項2】
前記外装シートの曲げ弾性率が前記コアシートの曲げ弾性率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の非接触通信ICシート。
【請求項3】
前記外装シートの曲げ弾性率が2,800MPa未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の非接触通信ICシート。
【請求項4】
前記外装シートの曲げ弾性率が2,400MPa以下であるであることを特徴とする請求項1または2に記載の非接触通信ICシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で外部との通信を行うためのアンテナ、ICチップなどを担持したICシートに関し、特に、薄型のシートであって、製造時の不良発生を抑えることができる非接触ICシートに関する。
【背景技術】
【0002】
シート状の基体に、通信用のアンテナ、制御用のICチップなどを担持させた非接触ICカードが様々な分野で利用されている。
【0003】
非接触ICカードは、典型的には、硬質の樹脂シートにICモジュール、アンテナパターン、電極などが搭載されたコア層の表裏両面に外装シートを積層して接着剤等で貼り合わせて形成されている。コア層の基材、外装シートなどはプラスチック樹脂製であるのに対し、アンテナパターンや電極は金属製であり、ICモジュールはシリコンチップを含むなど、それぞれ異なる素材からなるため、各部材の物理的・機械的特性が異なっている。
【0004】
その結果、製造工程や輸送工程などで熱的・機械的な衝撃や変動が生じると、特に各層や部材の境界付近で歪や応力が発生し、その応力が、例えばICモジュールの存在するコア層-外装シートの接着(融着)界面に集中することでクラックや割れが発生し、外装シート最表層に延伸することで、
図3に示したようなICモジュール裏の局部的なシート剥がれや、コア層を起点にする割れが発生することがあり、さらにこれが進行してICモジュール裏の部分が
図3の下の図の様に剥落してしまうことがあった。
【0005】
特に、外装シートは内層側のICチップやアンテナパターンを隠蔽するために白色顔料(主に酸化チタン等の無機系顔料)を多量に含んでいることが多く、この様にして隠蔽度を高めた外装シートは熱特性が変化し、弾性が低下しているためラミネート工程によっては脆化しやすくなって割れが発生しやすくなっている。
【0006】
その対策として、例えば特許文献1には、少なくともカード基材とICモジュールの境界部分を覆う補強シート層を設けたICカードが開示されている。しかし特許文献1の様な構成とするには別部材として補強シートが必要となり、また補強シートを別工程で挿入または形成する必要があり、余計な手間とコストがかかっていた。また、補強シートが挿入されることで新たな界面が形成されて剥がれの要因ともなっていた。
【0007】
また、カード表面の割れを防ぐため保護層をロールコーター等で設けることも可能であるが、保護層の樹脂が塗布された場合、最表層に基材と同一の熱可塑性樹脂シートをラミネートで貼り合わせてカードまたはデータページに加工する際、熱可塑性樹脂シート間に別材料が介在するため材料として一体化することができず、シート間での剥離の原因となりやすかった。
【0008】
一方、近年になって従来のICカードよりも薄手で、冊子などへの綴じ込みが容易な薄手のシート状の非接触通信ICシートに対する要望が高まってきているが、この様な薄手のシートでは、上述の様な補強のために余分なシートなどを追加するのが困難で、薄手であることから製造時の熱的、機械的条件の変動の影響を受けやすく、特に物性の異なるICモジュールと各シート部材の境界付近でシートの剥離やクラックが発生しやすく、結果としてICモジュールの部分のシートの剥落が発生することがあり大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、補強シートの様な別部材を追加する必要がなく、通常の層構成であっても部材の境界部での割れや剥がれが発生し難く、薄手のシートとして形成可能な非接触通信ICシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、
アンテナとICモジュールが埋設または表面に敷設されたコアシートと、コアシートを両面から挟持する外装シートとを少なくとも有し、前記コアシートの粘弾性と前記外装シートの粘弾性とが異なることを特徴とする非接触通信ICシートである。
【0012】
上記非接触通信ICシートにおいて、
外装シートの曲げ弾性率がコアシートの曲げ弾性率よりも低いと好ましい。
【0013】
上記非接触通信ICシートにおいて、
少なくとも外装シートの曲げ弾性率が2,800MPa未満であると好ましい。
【0014】
上記非接触通信ICシートにおいて、
少なくとも外装シートの曲げ弾性率が2,400MPa以下であると好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非接触通信ICシートによれば、シートの界面に応力が集中しても、外装シートとコアシートの粘弾性が異なることで、ラミネート後でもそれぞれのシート問の融着が高められ、界面を起点としたクラックの発生や局所剥離を防止することができる。また、外装シートに曲げ弾性率が低いシートを用いると、局所的な応力が生じてもシートの割れを防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の非接触通信ICシートの一形態の断面模式図である。
【
図2】本発明の非接触通信ICシートを変形させたときの断面模式図である。
【
図3】従来の非接触通信ICシートで剥落が生じる態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また以下に示す実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0018】
図1を参照して、非接触通信ICシート(以下、単にICシートとも記す。)の実施形態を説明する。
[ICシートの外観構成]
図1が示すように、ICシート1は、コアシート2とICモジュール3とアンテナ4とを備え、外装シート5によってラミネート加工されて一体化されている。厚みは250~500μm程度であり、これに限定されるものではないが、一般的なプラスチックカード(760μm)より薄く作られている。
【0019】
[ICシート内各部構成]
ICシート1は、ICモジュール3、アンテナ4を備え、コアシート2に埋設または表面上に敷設されている。アンテナ4を構成するアンテナコイルは、樹脂フィルムに接着された金属箔をエッチングしてパターンを形成したエッチングアンテナ、銅線を樹脂フィルムに超音波によって埋め込むエンベデッドコイルアンテナ、銅線を自己融着して得られる中空コイルアンテナのいずれを適用してもよいが、後述する熱可塑性樹脂との密着性を考慮すると銅線からなるエンベデッドコイルアンテナが望ましい。
【0020】
ICモジュール3は、ウェハからダイシングしたべアチップを用いてもよいが、市販の、ベアチップと共にリードフレームなどが装備されている標準的なICパッケージを用いても良く、フィルムアンテナ、ワイヤコイルアンテナなど採用するアンテナ4の種類によって適宜選択される。
【0021】
本実施形態では、アンテナ接合部が幅広く取れる汎用ICパッケージモジュールを適用している。ICモジュール3とアンテナ4の接合方法としては、ハンダ付けや熱圧接による方法が例示でき、耐久性や用途に応じて選択すればよいが、シート厚みを薄く保つためには熱圧接でアンテナ4の銅線とICモジュール3のリードフレームを溶着する方法が望ましい。
【0022】
[コアシート、外装シート]
コアシート2および外装シート5としては、合成樹脂シートが好ましく用いられ、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、エチレン-4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等が挙げられるが、選択の際に、外装シート5とコアシート2の粘弾性が異なるものとなる様に選択される。
【0023】
[ラミネート方法]
各樹脂の軟化温度、ガラス転移点に応じてラミネート条件は適宜設定され、公知のラミネート方法を適宜採用して適用できるが、一例としてポリカーボネートフィルムであれば、150℃~190℃程度で1Mpa~15Mpa程度の圧力で10分~30分程度熱プレスし、圧力を保持した状態で10分~30分冷却工程に入り、ラミネートする。
【0024】
上記構成のICシート1に、
図2に示す様に、曲げる様な力を繰り返しかけると、金属やシリコン等で構成されているICモジュール3や、樹脂シートである外装シート5やコアシート2のうちICモジュール3の直上、直下に積層されている部分は変形し難いが、それ以外の部位の外装シート5やコアシート2は変形するため、その歪みがICモジュール3との境界の近傍部位6に集中する。このとき特に外装シート5に強い応力が発生するが、外装シート5の曲げ弾性率とコアシート2の曲げ弾性率を異なるものとすることで、外装シート5に亀裂が入ったり剥離したりすることを防止できる。また特に外装シート5の曲げ弾性率をコアシート2の曲げ弾性率よりも低くするとより好ましく、さらに外装シート5の曲げ弾性率を2,800MPa未満、さらに外装シート5の曲げ弾性率を2,400MPa以下とすると、さらに亀裂や剥離が生じ難くできる。
【0025】
以上説明したように、本発明のICシートにおいては、アンテナとICを配置するコアシートと、コアシートの外側で接着する外装シートでシートの粘弾性が異なるものとする
ことで、特に外装シートの曲げ弾性率がコアシートの曲げ弾性率よりも小さなものとすることで、例えば情報集積回路(IC)とコイル型アンテナ、熱可塑性樹脂シートを有する、電磁誘導方式にて通信がなされる非接触ICカードまたは旅券用ICデータページなどの媒体に適用したとき、シートの一部が割れ、剥離し、また剥落してしまうことが無く、耐久性の高い媒体が得られる。
【実施例0026】
[曲げ試験による効果確認]
・上述の方法に従い、コアシートとしてDPI-AW(三菱ケミカル製)を適用し、外装シートとして弾性率値2,400MPaのポリカーボネートシートを適用したICシートAと、コアシートとしてDPI-AW(三菱ケミカル製)を適用し、外装シートとして弾性率値2,800Mpaのポリカーボネートを適用したICシートBを用いて曲げ試験の比較を行った。
・ICモジュール裏面を中心として、曲率半径15mmにて180度曲げ試験を実施したところ、弾性率値2,400Mpaのシートを用いたICシートAでは局所割れは発生しなかったが、弾性率値2,800MPaのポリカーボネートシートを用いたICシートBではICモジュール裏面のシートの局所割れが発生した。