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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098038
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】スリーブ用の保持具
(51)【国際特許分類】
   E04G 15/06 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
E04G15/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211351
(22)【出願日】2020-12-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】593013683
【氏名又は名称】株式会社イチケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 孝司
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150LA21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鉄筋コンクリート造の鉄筋組立て施工現場において、配管通路を形成するためのスリーブの設置箇所で、スリーブ直近の鉄筋に必要なコンクリートのかぶり厚さを確保させることができるスリーブ用の保持具を提供する。
【解決手段】スリーブ6の外周側面と鉄筋71とを所定間隔離間させるコ字形状に屈曲形成された離間枠部1と、該離間枠部1の長手方向の一端側で且つ外方に延在する主当接板状部と、離間枠部1の幅方向内方側で且つ主当接板状部と平行且つ対向して設けられスリーブ6の開口部周壁を挟持可能とした押え板状部と、主当接板状部の長手方向端部に設けられ長手方向に直交する面を有する座板部5とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート製床スラブ又は壁に配管通路を形成する型材としての円筒状のスリーブに対して鉄筋骨組を構成する鉄筋とを所定間隔離間させるための保持具であって、前記スリーブの外周側面と鉄筋とを所定間隔離間させるコ字形状に屈曲形成された離間枠部と、該離間枠部の長手方向の一端側で且つ外方に延在する主当接板状部と、前記離間枠部の幅方向内方側で且つ前記主当接板状部と平行且つ対向して設けられ前記スリーブの開口部周壁を挟持可能とした押え板状部と、前記主当接板状部の長手方向端部に設けられ長手方向に直交する面を有する座板部とを備えてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項2】
請求項1に記載のスリーブ用の保持具において、前記離間枠部の長手方向他端側には前記スリーブの外周側面に当接可能な副当接板状部が設けられてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部の先端には前記主当接板状部に向かって折曲された折曲端縁が設けられ、該折曲端縁の先端は三角形状に形成されてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項4】
請求項1又は2記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、前記主当接板状部に向かって凸状となるく字形状とし、その凸状折曲部が前記主当接板状部に近接してなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、1つとしてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項6】
請求項1,2,3又は4の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、2つとしてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の外方に向かって突出する構成としてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【請求項8】
請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の内方に向かって突出する構成としてなることを特徴とするスリーブ用の保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の鉄筋組立て施工現場において、床又は壁に配管通路を形成するためのスリーブの設置箇所で、スリーブを直近の鉄筋と離間させ、且つスリーブ直近の鉄筋に必要なコンクリートのかぶり厚さを確保ができるスリーブ用の保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建築物の建設現場において、床又は壁に給排水系統の或いは電気配線系統等の種々の目的を有する配管が多々備え付けられる。このような種々の目的を有する配管は、床,天井及び壁を貫通する垂直状又は水平状のものが存在する。そこで、建設現場においても、床,天井及び壁に配管が配置される通路つまり配管通路が予め設けられなくてはならない。
【0003】
そして、床は、スラブを鉄筋コンクリート構造物として施工される。スラブには鉄筋の骨組みが設けられており、原則として鉄筋を傷付けないようにして配管通路が施工されなくてはならない。壁も同様に鉄筋コンクリート造である。さらに、この施工において極めて重要なことは、床スラブ又は壁に配管通路が形成されるときに、該配管通路の直近に配置された鉄筋には、必要とされる厚さのかぶりが設けられなくてはならないことである。
【0004】
すなわち、配管通路の直近の鉄筋がコンクリートで十分に覆われているか否かが重要である。この鉄筋に対するかぶり厚さは、必要な量が設けられていないと、長期経過後に鉄筋のさび,腐蝕及びコンクリートのクラックにより、スラブの強度劣化等の害を生じることとなる。この鉄筋のかぶり厚さは、建築基準法で規定されており、ここで規定された厚さの量は、守られなければならない。
【0005】
現在では、配管通路の施工において、配管通路の形成のために、その型枠材としてスリーブが使用されることが多い。さらに、このスリーブとして、ボイドスリーブ(ボイド管とも称される)が使用されることが多い。スラブ施工の工程で、生コンクリートが打設される前段階の工程で、ボイドスリーブは、鉄筋骨組のあらかじめ設定された所定位置に配置され、種々の固定手段にて固定される。そして、生コンクリートが打設され、硬化した後、ボイドスリーブが撤去され、スラブに配管通路が形成されることになる。
【0006】
ここで、前述したように、鉄筋のかぶり厚さが建築基準法に則って、必要十分に確保されなければならない。そのために、床,天井等を施工するためのスラブ或いは壁の施工において、鉄筋骨組の所定位置にスリーブを配置するときに、該スリーブの外周直近に位置する鉄筋との間に上記の必要なかぶり厚さが確保できるための適正な離間距離が設けられなければならない。この適正な離間距離は、現場作業員の個人技術力に頼らざるを得ないものであり、さらに、現場の管理を行う監督者の管理能力にかかるものであり、さらに、作業において、かぶり厚さを確保するための作業行程が加わり、作業効率を妨げる原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-1703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような問題点を解消するために、鉄筋のかぶり厚さが確保できる発明が種々存在する。この種のものとして代表的なものを特許文献1(特開2010-1703号公報)として揚げる。特許文献1では、スリーブホルダーが開示されており、このスリーブホルダーは、周囲の鉄筋を利用して、この鉄筋に固定され、次いで、スリーブホルダーのスリーブ装着部にスリーブが装着される。これによって、スリーブは、周囲の鉄筋から所定間隔隣接した状態に設置される仕組みとなる。
【0009】
特許文献1では、このような構成によって、スリーブの設置位置は、周囲の鉄筋の位置によって決定される。そのため、予め設定された配管通路の位置にスリーブを、設置し難くなるおそれが生じることもある。また、特許文献1では、スリーブホルダーを、直近に位置する鉄筋を利用して種々の固定手段にて装着するため、予め配置された鉄筋にスリーブホルダーを設置する作業が面倒で且つ困難になり、作業効率を劣化させることもある。
【0010】
本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、鉄筋コンクリート造の鉄筋組立て施工現場において、配管通路を形成するためのスリーブの設置箇所で、スリーブが直近の鉄筋と離間させ、且つスリーブ直近の鉄筋に必要且つ十分なコンクリートのかぶり厚さを確保させることができるスリーブ用の保持具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、発明者は前記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明では、鉄筋コンクリート製床スラブ又は壁に配管通路を形成する型材としての円筒状のスリーブに対して鉄筋骨組を構成する鉄筋とを所定間隔離間させるための保持具であって、前記スリーブの外周側面と鉄筋とを所定間隔離間させるコ字形状に屈曲形成された離間枠部と、該離間枠部の長手方向の一端側で且つ外方に延在する主当接板状部と、前記離間枠部の幅方向内方側で且つ前記主当接板状部と平行且つ対向して設けられ前記スリーブの開口部周壁を挟持可能とした押え板状部と、前記主当接板状部の長手方向端部に設けられ長手方向に直交する面を有する座板部とを備えてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。
【0012】
請求項2の発明を、請求項1に記載のスリーブ用の保持具において、前記離間枠部の長手方向他端側には前記スリーブの外周側面に当接可能な副当接板状部が設けられてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部の先端には前記主当接板状部に向かって折曲された折曲端縁が設けられ、該折曲端縁の先端は三角形状に形成されてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項4の発明を、請求項1又は2記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、前記主当接板状部に向かって凸状となるく字形状とし、その凸状折曲部が前記主当接板状部に近接してなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2,3又は4の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、1つとしてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項6の発明を、請求項1,2,3又は4の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記押え板状部は、2つとしてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。請求項7の発明を、請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の外方に向かって突出する構成としてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。請求項8の発明を、請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載のスリーブ用の保持具において、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の内方に向かって突出する構成としてなるスリーブ用の保持具としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、スリーブの外周側面と鉄筋とを所定間隔離間させるコ字形状に屈曲形成された離間枠部と、該離間枠部の長手方向の一端側で且つ外方に延在する主当接板状部と、前記離間枠部の幅方向内方側で且つ前記主当接板状部と平行且つ対向して設けられ前記スリーブの開口部周壁を挟持可能とした押え板状部と、前記主当接板状部の長手方向端部に設けられ長手方向に直交する面を有する座板部とを備えたものである。
【0016】
上記構成によって、複数個の保持具をスリーブの周方向に沿って所定間隔に装着配置することで、床スラブ或いは壁施工箇所に設置された鉄筋骨組の所定の位置に配置された状態で、スリーブを、その直近に位置する鉄筋から離間させることができる。また、離間枠部のスリーブ外周側面からの突出量を鉄筋における必要なかぶり厚さと同等に設定することで、コンクリート打設後における鉄筋において必要なかぶり厚さを確保することができる。また、保持具は、スリーブ側に装着されるものであり、スリーブに装着された保持具が床スラブ或いは壁施工箇所の鉄筋骨組の鉄筋に接触しない範囲において、設置位置の自由度を確保することができる。
【0017】
請求項2の発明では、前記離間枠部の長手方向他端側にはスリーブの外周側面に当接可能な副当接板状部が設けられたことにより、スリーブの外周側面に対して保持具の装着状態を極めて安定したものにできる。請求項3の発明では、前記押え板状部の先端には前記主当接板状部に向かって折曲された折曲端縁が設けられ、該折曲端縁の先端は三角形状に形成されたことにより、スリーブに対して極めて強固な装着ができ、スラブ施工における生コンクリートの打設時にスリーブと保持具とが分離することを防止できる。
【0018】
請求項4の発明では、前記押え板状部は、前記主当接板状部に向かって凸状となるく字形状とし、その凸状折曲部が前記主当接板状部に近接してなる構成としたことで、主当接板状部と、押え板状部とで略クリップ状をなし、保持具のスリーブへの装着が極めて簡単にできる。請求項5の発明では、前記押え板状部は、1つとしたことにより、床スラブ或いは壁施工完了後におけるスリーブの撤去を簡単にできる。
【0019】
請求項6の発明では、前記押え板状部は、2つとしたことにより、スリーブに保持具を強固に装着できる。請求項7の発明を、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の外方に向かって突出する構成としたことにより、床スラブ或いは壁施工完了後にスリーブの撤去した後の配管通路の内周を良好にできる。請求項8の発明では、前記座板部は前記離間枠部の幅方向の内方に向かって突出する構成としたことにより、壁の施工完了後に形成される水平状の配管通路において、配管を水平状に設置するときに、座板部を利用して、配管が配管通路の内周面に接触しないようにすることができる。
【0020】
なお、前記保持具において、前記離間枠部には補強用のリブが設けられれば、保持具の長手方向に直交する方向の力に対してより一層、大きな耐久力を有するものである。したがって、床スラブ或いは壁を施工しようとする箇所に、リブ付きの保持具が装着された場合には、生コンクリートを打設する工程で、たとえ、打設時の流れの圧力が大きくても、保持具は、耐え得ることができ、スリーブを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は第1実施形態の保持具を使用して床スラブを施工しようとする箇所の鉄筋骨組の所定位置に設置した斜視図、(B)は(A)の平面図である。
図2】(A)は第1実施形態の保持具の正面図、(B)は(A)の内方側より見た側面図、(C)は(A)のX1-X1矢視断面図、(D)は保持具の第1実施形態の斜視図、(E)は(D)の(α)部拡大図である。
図3】(A)は2つの押え板状部を有した第1実施形態の保持具の斜視図、(B)は(A)の保持具をスリーブに装着した状態の一部断面にした要部拡大平面図、(C)は第1実施形態の保持具において押え板状部の変形例を有する斜視図、(D)は(C)の(β)部の拡大図、(E)は(C)の保持具をスリーブに装着した状態の要部拡大断面図である。
図4】(A)はスリーブに第1実施形態の保持具を装着しようとする縦断正面図、(B)は保持具を装着した状態の要部拡大断面図、(C)は(B)のX2-X2矢視断面図、(D)はスリーブに保持具を装着した斜視図である。
図5】(A)は第1実施形態の保持具を装着したスリーブが床スラブを施工しようとする箇所に設置された状態の断面図、(B)はスリーブを撤去して床スラブに配管通路が形成された状態の断面図である。
図6】(A)は第2実施形態の保持具を装着したスリーブが壁を施工しようとする箇所に設置された状態の斜視図、(B)は第2実施形態の保持具をスリーブに装着しようとする縦断正面図である。
図7】(A)は第2実施形態の保持具の縦断正面図、(B)は第2実施形態の保持具の斜視図、(C)は(B)の(γ)部拡大図、(D)は第2実施形態の保持具における変形例とした要部拡大斜視図、(E)は第2実施形態の保持具における別の変形例とした部拡大斜視図である。
図8】(A)は第2実施形態の保持具を装着したスリーブが壁を施工しようとする箇所に設置された状態の断面図、(B)はスリーブを撤去して壁に配管通路が形成され且つ配管通路内に配管が設置された状態の断面図、(C)は(B)のY1-Y1矢視図である。
図9】(A)は保持具の離間枠部にリブを設けた実施形態の正面図、(B)は(A)のY2-Y2矢視図、(C)は(B)のY3-Y3矢視図断面図、(D)は保持具の離間枠部にリブを設けた実施形態の斜視図、(E)は(D)の(δ)部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明におけるスリーブ用の保持具は、鉄筋コンクリート製の床スラブ7に配管通路を形成する型材としての円筒状のスリーブに対して、床スラブ7の鉄筋骨組を構成する鉄筋と所定間隔離間させる役目をなすものである。
【0023】
本発明におけるスリーブ用の保持具Aは、2つの実施形態が存在する。2つの実施形態に共通する構成について説明すると、保持具Aは、金属材から形成され、或いは合成樹脂等からも形成されることもある。特に、保持具Aを金属製とした場合には、錆びにくい金属材であることが好適であり、具体的にはステンレス鋼等が使用される。保持具Aの主な構成は、離間枠部1と、主当接板状部2と、副当接板状部3と、押え板状部4と、座板部5とを備えている(図2図7参照)。
【0024】
保持具Aには、方向を示す基準が有り、長手方向と幅方向が使用される。保持具Aの長手方向とは、保持具Aを円筒状のスリーブ6に適正に装着した状態で、スリーブ6の直径中心を通過する軸芯線6Lに沿う方向のことである(図4図6参照)。また、保持具Aの幅方向とは、長手方向に直交する方向であると共に、保持具Aを円筒状のスリーブ6に適正に装着した状態においてスリーブ6の直径中心と、保持具Aの装着箇所とを通過する直径方向に沿う方向である(図4図6参照)。
【0025】
つまり、保持具Aの長手方向は、スリーブ6の軸芯線6Lと平行となる方向であり、また、保持具Aの幅方向は、スリーブ6の軸芯線6Lと直交する方向となる。そして、保持具Aの幅方向において、該保持具Aがスリーブ6に適正に装着された状態で、スリーブ6が位置する側を内方側とし、その反対側の位置を外方側とする。
【0026】
保持具Aの長手方向及び幅方向が、垂直又は水平となるかについては、スリーブ6を利用して床スラブ7に配管通路7hを形成するときに、該床スラブ7が床(天井)となる場合と、壁7Wとは方向性が異なる。床スラブ7が、床(天井)となる場合では、原則としてスリーブ6の軸芯線6Lは垂直となり、保持具Aの長手方向は垂直で、幅方向は水平となる〔図1(A),図4図5(A)等参照〕。また、壁7Wの場合では、原則としてスリーブ6の軸芯線6Lは水平となり、保持具Aの長手方向は水平で、幅方向は垂直となる(図6図8参照)。以下、説明において、保持具Aの各部位の説明についても、上記した長手方向と幅方向を方向の基準とする。
【0027】
まず、保持具Aの第1実施形態から説明する。離間枠部1は、下片11と、上片12と、垂直状離間片13とを有し、これらによって、保持具Aの長手方向を垂直に配置した状態で、離間枠部1は、略「コ」字形状を構成する〔図2(A),(D),図3(C)等参照〕。また、保持具Aの見る方向によって、離間枠部1の略「コ」字形状は、逆「コ」字形状となることもあり、この場合も略「コ」字形状に含まれる。
【0028】
したがって、保持具Aの長手方向を垂直に配置した状態で下方より幅方向に水平状の下片11が形成され、該下片11の幅方向外方側端から上方に垂直状離間片13が形成され、該垂直状離間片13の長手方向上端から幅方向内方側に向かって水平状の上片12が形成される(図2参照)。下片11と上片12は同一長さで且つ平行である。また下片11と上片12とは、略平行で且つ略同一長さとし、多少の寸法差が生じるものも含まれる。
【0029】
離間枠部1は、床スラブ7に配管通路7hを形成するときに、配管通路7hの内周面と、床スラブ7を構成する鉄筋骨組の鉄筋71のかぶり厚さを十分に確保する役目を有している(図5参照)。鉄筋71がコンクリート73に埋設されるかぶり厚さKの量は、建築基準法に規定されており、これに対応して離間枠部1の特に下片11と上片12の長さが決定される。
【0030】
垂直状離間片13は、保持具Aの長手方向を垂直状に設定した状態で、直線且つ垂直状である。また、垂直状離間片13は、略垂直状で多少の傾斜したものも含まれる。また、垂直状離間片13は、略直線状で、幅方向内方側又は外方側に多少の膨らみを有する弧状としたものも含まれる。離間枠部1は、平帯状の金属板材(合成樹脂のこともある)から形成され、前記下片11,上片12及び垂直状離間片13が金属加工等により折曲されて略コ字状を形成する。
【0031】
次に、主当接板状部2は、離間枠部1の長手方向の一端側で且つ外方に延在するようにして形成される(図2参照)。主当接板状部2は、長手方向に沿って直線状且つ平坦面板状である。具体的には、主当接板状部2は、平帯状の金属板材から形成され、前記離間枠部1の下片11の内方側端部から離間枠部1の長手方向外方に向かって、下片11と略直角をなすようにして延在形成されている。主当接板状部2は、離間枠部1と金属加工により一体形成される。主当接板状部2は、保持具Aをスリーブ6に装着するときに、スリーブ6の外周側面に当接し、後述する押え板状部4と共にスリーブ6の開口部周壁6t箇所を挟持する役目をなす〔図4(B),(C)参照〕。
【0032】
また、離間枠部1の長手方向の他端側には、該離間枠部1の長手方向外方側に向かって副当接板状部3が形成されている(図2参照)。該副当接板状部3は、長手方向に沿って直線状且つ平坦面板状である。具体的には、副当接板状部3は、平帯状の金属板材から形成され、前記離間枠部1の上片12の内方側端部から離間枠部1の長手方向外方に向かって、上片12と略直角をなすようにして延在形成されている。
【0033】
副当接板状部3は、前記主当接板状部2と共に、スリーブ6の外周側面に当接して、スリーブ6を支持する役目をなす〔図4(A),(D),図5(A)参照〕。したがって、副当接板状部3は、主当接板状部2と長手方向に沿って同一面となるように設定されることが好ましい。副当接板状部3には、スリーブ6の外周側面に当接且つ固着されるためのビス,釘等の固着具用の固定孔3aが形成されている。この固定孔3aは、必ずしも必要ではなく、形成されないこともある。
【0034】
次に、押え板状部4は、離間枠部1の幅方向において主当接板状部2よりも内方側に位置するように保持具Aを構成する部位として設けられたものである(図2参照)。押え板状部4は、保持具Aの長手方向に沿って離間枠部1側に向かって立上り状に設けられた板片状の部位である。
【0035】
さらに具体的には、前記主当接板状部2の長手方向外端から内方側に突出する連続片4aを介して連続的に形成されたものである(図2参照)。また、押え板状部4は、主当接板状部2に対して、平行(略平行状も含む)且つ対向して設けられたものである。そして、前述したように、押え板状部4は、主当接板状部2と共にスリーブ6の開口部周壁6tを挟持固定する役目を有している〔図4(B),(C)参照〕。
【0036】
押え板状部4は、その長手方向における先端に折曲端縁41が形成されている。該折曲端縁41は、主当接板状部2に向かって折曲された小片部位であり、該主当接板状部2に向かって凸状にとがるように三角形状に形成されている〔図2(C),(D),(E)等参照〕。この三角形状に尖った形状の折曲端縁41は、主当接板状部2と押え板状部4とでスリーブ6の開口部周壁6tを挟持した状態で、前記折曲端縁41がスリーブ6の開口部周壁6tの内周壁面に食い込み可能な構成となる〔図4(B),(C)参照〕。折曲端縁41がスリーブ6の内周壁に食い込むことにより、スリーブ6に対する保持具Aの装着強度を強固にすることができる。
【0037】
前述した三角形状の先端を有する折曲端縁41を備えた押え板状部4は、1つ設けられるものである(図2参照)。また、押え板状部4は、保持具Aの幅方向及び長手方向の両方に直交する方向に2つ並列状に設けられることもある〔図3(A),(B)参照〕。この場合、2つの押え板状部4,4は、幅方向に間隔を有して配置されることが好ましい。
【0038】
押え板状部4の変形例としては、前記主当接板状部2に向かって凸状となる「く」字形状として、凸状折曲部42aが形成されたものである〔図3(C),(D),(E)参照〕。押え板状部4の凸状折曲部42aは、板片状の押え板状部4に設けられた折れ線部分であり、凸状折曲部42aを介して押え板状部4の「く」字形状を構成するものである。凸状折曲部42aは、押え板状部4のなかで主当接板状部2に最も近接した部位である。
【0039】
また、凸状折曲部42aは、主当接板状部2に当接してもかまわない。ここで、押え板状部4の「く」字形状とは、保持具Aを見る方向によって、逆「く」字形状にもなり、この形状も「く」字形状に含まれる。この押え板状部4の別の実施形態では、該押え板状部4の長手方向において、凸状折曲部42aの位置よりも外方側では前記連続片4aの根本から主当接板状部2に向かって傾斜する弾性傾斜片42bとし、凸状折曲部42aの位置よりも内方側は前記主当接板状部2から次第に遠ざかる挿入案内片42cとしたものである。
【0040】
この押え板状部4の変形例では、弾性傾斜片42bは、主当接板状部2と共にスリーブ6の開口部周壁6tを挟持するクリップ状の作用を有するものであり、挿入案内片42cは、スリーブ6の開口部周壁6tを挿入するための案内を行う役目をなすものである〔図3(E)参照〕。この別の実施形態では、主当接板状部2と押え板状部4とをスリーブ6の開口部周壁6tに挟持する作業が行いやすいものとなる。さらに、図示しないが、別の実施形態の変形例として、押え板状部4は、凸状折曲部42,弾性傾斜片42b及び挿入案内片42cが連続状として、主当接板状部2に向かって凸状となる弧状或いは湾曲状に形成されても構わない。
【0041】
この別の実施形態の押え板状部4においても、1つの保持具Aに対して1つ或いは2つ設けられることもある。そして、1つの押え板状部4とした場合では、押え板状部4は、主当接板状部2と同等の幅(長手方向及び幅方向に直交する方向)寸法とすることが好ましい。2つの押え板状部4とした場合は、それぞれの押え板状部4は主当接板状部2よりも幅が小さく設定されることが好ましい。
【0042】
次に、座板部5は、前記主当接板状部2の長手方向の外方端部で且つ該主当接板状部2の長手方向に直交する面を有する部位として備えられたものである(図2参照)。また、座板部5は、離間枠部1の幅方向の外方に向かって突出する構成としたものである。座板部5は、具体的には、保持具Aにおける長手方向及び幅方向にそれぞれ直交する方向で且つ主当接板状部2の両側に位置して設けられた平坦面板状に形成された2つの座板片51,51からなる部位である〔図3(A)~(D)参照〕。具体的には、幅方向先端において半円状とした略U字状の板状片であり、その先端部分に固着用の固定孔51aが形成されている。座板部5は、幅方向において前記押え板状部4の位置から幅方向外方側に向かって延在形成された部位である。
【0043】
次に、保持具Aの第2実施形態について説明する。保持具Aの第2実施形態では、離間枠部1,主当接板状部2,副当接板状部3及び押え板状部4の構成は、第1実施形態と略同等である。第2実施形態では、前記座板部5は、離間枠部1の幅方向の内方に向かって突出する構成としたものである(図7参照)。
【0044】
つまり、座板部5は、主当接板状部2の長手方向の外方端部で且つ該主当接板状部2の長手方向に直交する面を有する部位としたもので、座板部5の幅(長手方向及び幅方向に直交する)寸法は、主当接板状部2と同等又は、僅かに小さく設定される。第2実施形態において、押え板状部4は、座板部5の一部を押え板状部4の形状に切り込み、この切り込み部分を立ち上がるように折曲して押え板状部4を形成するものである〔図7(B),(C)参照〕。
【0045】
また、保持具Aの第1実施形態及び第2実施形態において、該保持具Aを構成する離間枠部1,主当接板状部2,副当接板状部3,押え板状部4及び座板部5は、1つの金属板材からプレス加工により、一体成形にすることができるものである。しかし、離間枠部1,主当接板状部2,副当接板状部3,押え板状部4及び座板部5をそれぞれ別部材として、溶接又はリベット等の接合手段にて保持具Aの第1実施形態及び第2実施形態を形成することもある。
【0046】
次に、本発明における保持具Aを使用して、建築施工における床スラブ7或いは壁7Wに配管通路7hを施工するスリーブ6を設置することについて説明する。まず、床(天井も含む)を構成する床スラブ7に配管通路7hを施工する工程を説明する。床となる床スラブ7が施工されようとする箇所に、多数の鉄筋71による骨組が施工される〔図1図5(A)参照〕。
【0047】
骨組の下方には型枠板72が配置され、骨組に生コンクリートが流されて、床スラブ7が施工される。配管通路7hを形成するための型材となるスリーブ6は、一般的なものとして厚紙材からなる円筒体としたものが使用され、具体的にはボイドスリーブが一般的に使用されている。本発明における保持具Aも、スリーブ6としてボイドスリーブの使用に好適である。
【0048】
複数の保持具Aを用意し、これらをスリーブ6の開口部の周壁に装着する〔図4(D)参照〕。通常は、1本のスリーブ6に対して4個の保持具Aを、スリーブ6の周方向に等間隔に装着することが好適である。これは、鉄筋骨組が複数の鉄筋71が碁盤目のように直交して施工されたものであるため、スリーブ6が配置される箇所の周囲の鉄筋も略方形状の枠を構成するためである〔図1(B)参照〕。なお、現場の状況に応じて、1本のスリーブ6に対して5個以上の保持具Aを装着したり、或いは3個以下の保持具Aを装着する構成であってもよい。
【0049】
全保持具Aは、スリーブ6の同一開口部の周壁に装着する。保持具Aの装着は、離間枠部1がスリーブ6の外周側壁から略放射状に突出するようにして、保持具Aの主当接板状部2と押え板状部4とでスリーブ6の開口部周壁6tを挟持するようにして固定する。そして、複数の保持具Aを装着したスリーブ6が、その軸芯線6Lを垂直方向となるようにして鉄筋骨組の所定のスペースで且つ型枠板72上に配置する〔図1(A),図5(A)参照〕。
【0050】
ここで、床スラブ7は、床を構成するので、型枠板72は水平且つ平坦面である〔図1(A),図5(A)参照〕。スリーブ6は、保持具Aが装着されている側の開口部を型枠板72に向けて配置する。次いで、スリーブ6に装着された保持具Aのそれぞれの座板部5と型枠板72とをビス,釘等の固着具sにて固着する。ここで、型枠板72は最終段階で撤去するので、保持具Aと型枠板72との個は容易に外せるようにしておく。
【0051】
型枠板72上に配置されたスリーブ6の各保持具Aは、周囲の鉄筋71をスリーブ6に所定間隔をおいて離間する状態を維持している。このスリーブ6と鉄筋71との離間距離は、建築基準法で規定されたかぶり厚さKを確保できるようになっている〔図5(B)参照〕。この状態で、型枠板72上に生コンクリートを流し込み、所望の床スラブ7の厚さとする。生コンクリートの硬化後、そのコンクリート73からスリーブ6が撤去され、床,天井を構成する床スラブ7に配管通路7hが形成される〔図5(B)参照〕。このとき、配管通路7hの周辺に位置する鉄筋71は、コンクリート73に対して十分なかぶり厚さKが確保されたものである。
【0052】
次に、壁7Wに配管通路7hを施工する工程を説明する(図6図8参照)。まず、壁壁7Wは垂直面であり、この点を除くと、床(天井)の場合の施工工程と略同等である。壁壁7Wが施工されようとする箇所に、多数の鉄筋71による骨組が施工される。骨組の一方に型枠板72が配置され、複数の保持具Aを装着したスリーブ6が、その軸芯線6Lを水平方向となるようにして鉄筋骨組の所定のスペースで且つ垂直面状の型枠板72に配置、保持具Aのそれぞれの座板部5と型枠板72とをビス,釘等の固着具sにて固着する。
【0053】
そして、さらに生コンクリートを流し込むための、もう一つの型枠板72を先に設置された型枠板72に対してサンドイッチ状に配置する。この状態で、型枠板72上に生コンクリートを流し込み、配管通路7hが形成される。ここで、第2実施形態の保持具Aを使用することで、スリーブ6を撤去した後に、配管通路7hの開口付近の通路内には、座板部5が突出した状態となる。これらの座板部5を利用して、水平状の配管通路7h内に配管81を水平状に配置させることができる。
【0054】
具体的には、配管81の外周を囲むようにして支持する環状支持部82aと、その外周に等間隔に設けられた連結部82bとからなる吊り具82を備える。そして、配管81の外周を包囲するようにして環状支持部82aを取り付け、吊り具82の連結部82bと、配管通路7hの内周側面より突出した保持具Aの座板部5とを、ビス,釘等の固着具sを介して連結する。
【0055】
吊り具82の連結部82bは、配管通路7h内に装着された保持具Aと同等数とし、且つ、連結部82bの間隔を保持具Aの座板部5の間隔と同等とすることで、全連結部82bと全座板部5とは位置的にも一致し、連結部82bと座板部5とを連結し易い構成にできる。これによって、水平状の配管通路7hにおいて、吊り具82は、配管81を配管通路7hの内周側面に接触しないようにすることができ、且つ配管81と配管通路7hとの直径中心を一致させ、整然とした配置にすることができる〔図8(B),(C)参照〕。
【0056】
保持具Aの第1及び第2実施形態において、離間枠部1には補強用のリブr1,r2,r3,r4及びr5が設けられることもある(図9参照)。具体的には、離間枠部1の下片11にはその幅方向に沿って膨出状に連続するリブr1が設けられ、上片12にはその幅方向に沿って膨出状に連続するリブr2が設けられ、垂直状離間片13にはその長手方向に沿って膨出状に連続するリブr3が設けられている。そして、リブr1,リブr2は及びリブr3は、長円形状で且つ幅方向及び長手方向において外方側(又は内方側)に突出するように、扁平状に膨出形成されたものである〔図9(A)乃至(D)参照〕。
【0057】
さらに、下片11と垂直状離間片13及び上片12と垂直状離間片13のそれぞれの隅角部には三角形状のリブr4が形成されている。また、主当接板状部2と下片11及び副当接板状部3と上片12との隅角部には、同様に三角形状のリブr5が形成されている〔図9(D),(E)参照〕。これら、リブr1~r5は、保持具Aを形成する金属材の板厚が薄い場合(約0.6mm程度)の場合に設けられることが好適である。リブr4及びリブr5を形成する手段の具体例としては、ビード加工によるものが好適である。
【0058】
これらリブr1~r5が形成されることによって、保持具Aの長手方向に直交する方向の力に対してより一層大きな耐久力を有するものである。したがって、床スラブ7或いは壁7Wを施工しようとする箇所に、リブ(r1~r5)付きの保持具Aが装着された場合には、生コンクリートを打設する工程で、たとえ、打設時の流れの圧力が大きくても、保持具Aは、耐え得ることができ、スリーブ6を保護することができる。
【0059】
保持具Aの第1実施形態及び第2実施形態は、共に床スラブ7及び壁7Wの何れにおいてもスリーブ6の装着を行うことができる。また、金属製のスリーブ6を使用した場合は、床スラブ7施工完了後に撤去しないで、そのまま残して配管通路7hとして使用することもある。
【0060】
以上のリブr1~r5について構成を述べると、前記保持具Aにおいて、前記離間枠部1には補強用のリブr1,r2,r3及びr4が設けられ、前記離間枠部1の前記下片11及び前記上片12にはその幅方向に沿って膨出状に連続するリブr1,r2が設けられ、前記垂直状離間片13にはその長手方向に沿って連続する膨出状のリブr3が設けられている。さらに、前記保持具Aにおいて前記下片11と前記垂直状離間片13及び前記上片12と前記垂直状離間片13のそれぞれの隅角部には、三角形状のリブr4,リブr5が形成されている。
【符号の説明】
【0061】
A…保持具、1…離間枠部、2…主当接板状部、3…副当接板状部、4…押え板状部、
5…座板部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9