(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098106
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】スチールコード被覆用ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20220624BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220624BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/013
B60C1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211463
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆義
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA15
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA08
3D131BC13
3D131BC31
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002DA030
4J002DJ010
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002FA116
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ベルトを構成するスチールコードを構成するゴム部のゴム硬度と伸びとのバランスに優れた空気入りタイヤの原料となるスチールコード被覆用ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ゴム成分と、フィラーと、アスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物とを含有し、フィラーの含有量を100としたとき、鉱物の含有量が1~10であるスチールコード被覆用ゴム組成物。ゴム成分の全量を100質量部としたとき、鉱物の含有量が4.5質量部以下であることが好ましく、鉱物のアスペクト比が100以上であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、フィラーと、アスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物とを含有し、前記フィラーの含有量を100としたとき、前記鉱物の含有量が1~10であるスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記鉱物の含有量が4.5質量部以下である請求項1に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項3】
前記鉱物のアスペクト比が100以上である請求項1または2に記載のスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用ゴム組成物に関し、特にゴム硬度と伸びとのバランスに優れたゴム部を有するスチールコード、さらには該スチールコードを有するベルトを備える空気入りタイヤの原料となるゴム組成物、および該スチールコード被覆用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤの操縦安定性を向上するためには、空気入りタイヤが備えるベルト、特にベルトを構成するスチールコードを構成するゴム部のゴム硬度を上げる手法がある。ゴム硬度を上げる方法として、例えばカーボンブラックなどのフィラー量を増量する方法があるが、それに伴いスチールコードを構成するゴム部の伸びが低下し、空気入りタイヤの耐久性、特には耐屈曲疲労性が悪化する傾向がある。
【0003】
下記特許文献1では、アスペクト比が50以上であり、平均粒子径が40~100μmであるマイカを10~50重量部含有するインナーライナー用ゴム組成物が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、ゴム成分に対して、層状粘土鉱物と、フェノール系樹脂とが配合されてなることを特徴とするゴム組成物が記載されている。
【0005】
さらに、下記特許文献3では、ゴム成分100質量部に対して、タイヤ周方向に配向する配向性材料を0.1~30質量部含むゴム組成物を配したタイヤ側部を備える重荷重用タイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-328193号公報
【特許文献2】特開2008-189725号公報
【特許文献3】WO2013/094147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記いずれの文献に記載の技術では、ベルトを構成するスチールコードを構成するゴム部のゴム硬度と伸びとのバランス向上の点で、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ベルトを構成するスチールコードを構成するゴム部のゴム硬度と伸びとのバランスに優れた空気入りタイヤの原料となるスチールコード被覆用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記構成により解決可能である。すなわち本発明は、ゴム成分と、フィラーと、アスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物とを含有し、前記フィラーの含有量を100としたとき、前記鉱物の含有量が1~10であるスチールコード被覆用ゴム組成物に関する。
【0010】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物において、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記鉱物の含有量が4.5質量部以下であることが好ましい。
【0011】
上記スチールコード被覆用ゴム組成物において、前記鉱物のアスペクト比が100以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記いずれかに記載のスチールコード被覆用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を備える空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、特定のアスペクト比を有する鉱物をフィラーに対し特定量、スチールコード被覆用ゴム組成物に配合するため、該ゴム組成物を原料として製造されたスチールコードおよびベルトを構成するゴム部は、ゴム硬度と伸びとのバランスに優れる。このため、本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物を原料として製造されたスチールコードおよびベルトを備える空気入りタイヤは、操縦安定性および耐屈曲疲労性に優れる。特に、スチールコード被覆用ゴム組成物中、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、アスペクト比が100以上である鉱物の含有量を、フィラーに対し、4.5質量部以下に設定した場合、該ゴム組成物を原料として製造されたゴム部は、ゴム硬度と伸びとのバランスが特に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、ゴム成分と、フィラーと、アスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物とを含有する。
【0015】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、好適にはゴム成分としてジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。
【0016】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、フィラーとして、例えばカーボンブラックおよびシリカを配合することができる。
【0017】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを20~100質量部配合することが好ましく、30~80質量部配合することがより好ましい。
【0018】
シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル-ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物中のシリカの配合量は、前記カーボンブラックと同程度が好ましい。
【0019】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。
【0020】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物は、アスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物を含有する。アスペクト比が100以上である鉱物をゴム組成物に配合した場合、該ゴム組成物を原料として製造されたゴム部は、ゴム硬度と伸びとのバランスが特に優れる。このようなアスペクト比を有する鉱物としては、例えばタルクが挙げられる。
【0021】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物においては、フィラーの含有量を100としたとき、前記鉱物の配合量を1~10に設定する。ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記鉱物の配合量を4.5質量部以下に設定すると、該ゴム組成物を原料として製造されたゴム部は、ゴム硬度と伸びとのバランスが特に優れる。ゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記鉱物の配合量の下限は、0.5質量部以上であることが好ましく、2.5質量部以上であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物においては、ゴム成分、フィラーおよびアスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物とともに、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0023】
加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0024】
加硫系配合剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。
【0025】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0026】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0027】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分、フィラーおよびアスペクト比が5以上である層状または板状の鉱物、さらには、シランカップリング剤、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0028】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0029】
本発明に係るスチールコード被覆用ゴム組成物の加硫ゴムは、ゴム硬度と伸びとのバランスが特に優れる。したがって、スチールコード被覆用ゴム組成物を加硫成形してなるゴム部を有するスチールコードおよびベルトを備える空気入りタイヤは、特に操縦安定性および耐屈曲疲労性に優れる。
【実施例0030】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を150℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0031】
(1)ゴム硬度
ゴム硬度の評価は、得られた加硫ゴムの試験片において、JIS K6253に準拠して、デュロメーターのタイプAにより温度23℃での硬度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、常温での硬度が高く、ゴム硬度に優れることを示す。
【0032】
(2)伸び
JIS K6251に準拠し、ダンベル3号を用いてサンプルを作製して引張試験を行い、サンプル破断時の破断伸び(%)を測定した。比較例1の測定値を100として指数評価で表示し、数値が大きいほど伸びが良好であることを意味する。
【0033】
(ゴム組成物の調製)
表1の配合処方に従い、実施例1~4および比較例1~2のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す(表1において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)天然ゴム(NR):商品名「RSS#3」
b)カーボンブラック(HAF):商品名「シースト300」、東海カーボン社製
c)シリカ:商品名「ニップシールAQ」、東ソー・シリカ社製
d)酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛2種」三井金属鉱山社製
e)レゾルシン誘導体(レゾルシン-アルキルフェノール-ホルマリン樹脂):商品名「スミカノール620」、住友化学工業社製
f)メラミン誘導体(ヘキサメトキシメチルメラミン):商品名「サイレッツ963L」、三井サイテック社製
g)ステアリン酸コバルト:商品名「ステアリン酸コバルト」、コバルト含有量9.5質量%、ジャパンエナジー社製
h)老化防止剤:商品名「サントフレックス6PPD」、Flexsys社製
i)鉱物(1)(タルク):商品名「HAR」、アスペクト比143、イメリス スペシャリティーズ ジャパン社製
j)鉱物(2)(クレー):商品名「polyfil DL」、アスペクト比12.7、KAMIN. LLC社製
k)鉱物(3)(クレー):商品名「polyfil DLX」、アスペクト比13.5、KAMIN. LLC社製
l)硫黄(不溶性硫黄):商品名「クリステックスHS OT-20」、80質量%が硫黄分、Flexsys社製
m)加硫促進剤(N,N-ジシクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミド):商品名「ノクセラーDZ-G」、大内新興化学工業
社製
【0034】
【0035】
表1の結果から、比較例2に係るゴム組成物はフィラー(カーボンブラック)増量に伴い、加硫ゴムのゴム硬度は上がるが、伸びが悪化することがわかる。一方、アスペクト比が5以上である鉱物(タルクまたはクレー)を配合した実施例1~4に係るゴム組成物は、加硫ゴムのゴム硬度および伸びがバランスよく向上することがわかる。特に、アスペクト比が100以上の鉱物(タルク)を、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、4.5質量部以下に調整した実施例3~4は、加硫ゴムのゴム硬度および伸びが特にバランスよく向上することがわかる。