IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリオン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図1
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図2
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図3
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図4
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図5
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図6
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図7
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図8
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図9
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図10
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図11
  • 特開-涼感体およびその製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098120
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】涼感体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/027 20190101AFI20220624BHJP
【FI】
B32B7/027
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211478
(22)【出願日】2020-12-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.オリオン株式会社は、寿ニット株式会社に対して、共同製造及び販売に係る交渉のために、辻本穰二が発明した涼感体を備えるポロシャツ、腕カバー、及びネッククーラーを令和2年3月5日に公開した。 2.オリオン株式会社は、伊藤忠商事株式会社に対して、共同製造及び販売に係る交渉のために、辻本穰二が発明した涼感体を備えるネッククーラーを令和元年12月24日に公開した。 3.オリオン株式会社は、株式会社キャップスに対して、共同製造及び販売に係る交渉のために、辻本穰二が発明した涼感体を備える帽子を令和2年11月12日に公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】519203976
【氏名又は名称】オリオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】辻本 穰二
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DC12A
4F100DG11D
4F100EJ08A
4F100EJ91C
4F100JD05B
4F100JJ05A
4F100JK15A
(57)【要約】
【課題】涼感体の使用中において、固相の吸熱材が存在する時間をより長くすること。
【解決手段】本発明に係る涼感体は、涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、樹脂層4と、樹脂層4の内部に分散して配置された複数の吸熱材5と、吸水層7とを備えている。樹脂層4は、涼感体の涼感対象物側に配置されている。複数の吸熱材5は、涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する。吸水層7は、樹脂層4よりも涼感対象物から離れた側において、複数の吸熱材5から吸熱可能に水分を吸収するように配置されている。樹脂層4は、複数の積層部41から構成される積層構造を有している。複数の積層部41のそれぞれには、複数の吸熱材5が分散して配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備える、涼感体。
【請求項2】
前記樹脂層には、前記樹脂層の前記涼感対象物側から前記吸水層に水分を通じる貫通穴が形成されている、請求項1に記載の涼感体。
【請求項3】
前記吸水層は、平面視において、前記樹脂層の外側に延在する延在部を有する、請求項1または請求項2に記載の涼感体。
【請求項4】
前記樹脂層よりも前記涼感対象物側に配置され、前記吸水層に水分を通じる被覆層を備えている、請求項1~3のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項5】
前記樹脂層の前記涼感対象物側の表面は、前記吸水層側の表面よりも平滑である、請求項1~4のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項6】
前記樹脂層と前記吸水層とは、布製品の少なくとも一部を構成する生地を介して配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項7】
前記樹脂層は、複数の積層部から構成される積層構造を有し、
前記複数の積層部のそれぞれに、前記複数の吸熱材が分散して配置されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項8】
前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための樹脂とが混合されたバインダを準備する準備工程と、
前記バインダを基材上に配置し硬化させ、第1の積層部を形成する第1積層工程と、
前記第1の積層部に対して、前記バインダを積層するように配置し硬化させ、第2の積層部を形成する第2積層工程と、
を含む、請求項7に記載の涼感体の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程において、水分を吸収可能な吸水材が加えられず、前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための前記樹脂とが混合された前記バインダを準備する、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涼感対象物に接触させて使用される涼感体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の涼感体として、例えば特許文献1(特開2006-161226号公報)に記載のものが知られている。特許文献1では、潜熱蓄熱材を固着させた繊維を有する繊維構造物が開示されている。潜熱蓄熱材は、繊維構造物の使用される環境温度において固相であり、繊維構造物が皮膚に接触すると液相に相変化する。このとき、潜熱蓄熱材は、融解に伴って皮膚から熱を奪うことにより、皮膚に涼感をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-161226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の繊維構造物では、繊維構造物が皮膚に接触している間に、潜熱蓄熱材から熱を取り去ることができない。そのため、潜熱蓄熱材は、皮膚の熱によって温められ、固相から液相に一方向的に融解していく。したがって、すべての潜熱蓄熱材が速やかに液相に相変化してしまうので、涼感をもたらし得る固相の潜熱蓄熱材が存在する時間が短い。
【0005】
したがって、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、涼感体の使用中において、固相の吸熱材が存在する時間をより長くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る涼感体は、
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備えるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、涼感体の使用中において、固相の吸熱材が存在する時間をより長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る涼感体の平面図である。
図2図1の涼感体のA1-A1線断面図である。
図3図2の一部拡大図である。
図4図1の一部拡大図であり、樹脂層の内部における複数の吸熱材の配置を示す図である。
図5図1の涼感体の変形例を示す断面図である。
図6】本発明に係る涼感体の製造方法の一例を示す断面図である。
図7図6に続く工程を示す断面図である。
図8図7に続く工程を示す断面図である。
図9図8に続く工程を示す断面図である。
図10図9に続く工程を示す断面図である。
図11図10に続く工程を示す断面図である。
図12図11に続く工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様に係る涼感体は、
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備えるように構成されている。
【0010】
この構成によれば、樹脂層が涼感対象物に接触したとき、複数の吸熱材は、融解に伴って涼感対象物から熱を奪い、涼感対象物に涼感をもたらす。また、吸水層に吸収された水分は、気化に伴って吸水層の熱を奪い、吸水層の温度を低下させる。このことに伴って、複数の吸熱材の熱がより温度の低い吸水層に移動し、複数の吸熱材から熱が取り去られる。したがって、涼感体の使用中に、複数の吸熱材の凝固が促進されるので、固相の吸熱材が存在する時間をより長くすることができる。
【0011】
また、前記樹脂層には、前記樹脂層の前記涼感対象物側から前記吸水層に水分を通じる貫通穴が形成されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、樹脂層の涼感対象物側から吸水層に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体の使用中に、貫通穴を通じて吸水層に吸収させることができる。このことにより、吸水層において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体の使用中に、複数の吸熱材の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0013】
また、前記吸水層は、平面視において、前記樹脂層の外側に延在する延在部を有していてもよい。
【0014】
この構成によれば、樹脂層の涼感対象物側から吸水層に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体の使用中に、樹脂層を介さずに延在部を介して吸水層に直接的に吸収させることができる。このことにより、吸水層において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体の使用中に、複数の吸熱材の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0015】
また、前記涼感体は、前記樹脂層よりも前記涼感対象物側に配置され、前記吸水層に水分を通じる被覆層を備えていてもよい。
【0016】
この構成によれば、樹脂層の涼感対象物側から吸水層に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体の使用中に、被覆層を介して吸水層に吸収させることができる。このことにより、吸水層において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体の使用中に、複数の吸熱材の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0017】
また、樹脂層の涼感対象物側の表面が覆われるので、涼感体の使用や洗濯が繰り返されても、樹脂層が破損しにくい。そのため、複数の吸熱材が樹脂層から脱落しにくいので、涼感体の涼感性能を長期に亘って維持することができる。
【0018】
また、前記樹脂層の前記涼感対象物側の表面は、前記吸水層側の表面よりも平滑であってもよい。
【0019】
この構成によれば、涼感対象物が樹脂層の表面の微細な凹凸に追従し難いもの、例えば人間や動物の皮膚等である場合、樹脂層の涼感対象物側の表面が吸水層側の表面よりも粗い場合と比較して、樹脂層と涼感対象物との接触面積を増加させることができる。このことにより、樹脂層が涼感対象物に接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材に移動させることができる。したがって、涼感体のqmax値を向上させることができる。
【0020】
また、前記樹脂層と前記吸水層とは、布製品の少なくとも一部を構成する生地を介して配置されていてもよい。
【0021】
この構成によれば、例えば衣服等の布製品に一体化された涼感体が実現可能である。また、樹脂層に貫通穴が形成されている場合にも、吸水層は、生地によって覆われるので、涼感体の使用や洗濯によって破損しにくい。したがって、吸水層の吸水性能が失われにくいので、涼感体の涼感性能を長期に亘って維持することができる。
【0022】
また、前記樹脂層は、複数の積層部から構成される積層構造を有し、前記複数の積層部のそれぞれに、前記複数の吸熱材が分散して配置されていてもよい。
【0023】
この構成によれば、樹脂層の厚さ方向における複数の吸熱材の偏在を抑制することができる。このことにより、複数の吸熱材の偏在に伴って局所的に樹脂が不足することがないので、樹脂層の堅牢性の低下を防止することができる。
【0024】
さらに、複数の吸熱材をそれぞれ有した複数の積層部が積層されることにより、樹脂層の涼感対象物側の表面積に対する吸熱材の量を増加させることができる。このことにより、樹脂層と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材に移動させることができる。そのため、涼感体のqmax値を向上させることができる。したがって、樹脂層の堅牢性の低下が防止されつつ、qmax値のより高い涼感体が実現可能である。
【0025】
本発明の一態様に係る涼感体の製造方法は、
前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための樹脂とが混合されたバインダを準備する準備工程と、
前記バインダを基材上に配置し硬化させ、第1の積層部を形成する第1積層工程と、
前記第1の積層部に対して、前記バインダを積層するように配置し硬化させ、第2の積層部を形成する第2積層工程と、を含む。
【0026】
この製造方法によれば、第1の積層部が硬化した後に第2の積層部を形成するバインダが配置されるので、当該バインダの有する複数の吸熱材は、第1の積層部に移動しにくい。そのため、樹脂層の厚さ方向における複数の吸熱材の偏在を抑制することができる。このことにより、複数の吸熱材の偏在に伴って局所的に樹脂が不足することがないので、樹脂層の堅牢性の低下を防止することができる。
【0027】
また、この製造方法では、樹脂層を形成するすべてのバインダが一度に硬化される場合と比較して、一度に硬化されるバインダの厚みが小さい。そのため、バインダが中心部までより確実に硬化するので、硬化不良による樹脂層の堅牢性の低下を防止することができる。
【0028】
さらに、複数の吸熱材をそれぞれ有した複数の積層部が積層されることにより、樹脂層の涼感対象物側の表面積に対する吸熱材の量を増加させることができる。このことにより、樹脂層と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材に移動させることができる。そのため、涼感体のqmax値を向上させることができる。したがって、樹脂層の堅牢性の低下が防止されつつ、qmax値のより高い涼感体が実現可能である。
【0029】
また、前記製造方法の前記準備工程において、水分を吸収可能な吸水材が加えられず、前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための前記樹脂とが混合された前記バインダが準備されてもよい。
【0030】
この製造方法によれば、バインダに水分を吸収可能な吸水材が加えられないので、バインダに吸水材が加えられる製造方法と比較して、より多くの樹脂や吸熱材を樹脂層に加えることができる。より多くの樹脂が樹脂層に加えられることにより、樹脂層の堅牢性を向上させることができる。また、より多くの吸熱材が樹脂層に加えられることにより、樹脂層の涼感対象物側の表面積に対する吸熱材の量を増加させることができる。このことにより、樹脂層と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材に移動させることができる。したがって、涼感体のqmax値を向上させることができる。
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施形態は、本発明を限定するものではない。また、図面において実質的に同一の部材については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0032】
〔実施形態〕
図1図4を参照しながら、本発明の実施形態に係る涼感体について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る涼感体の平面図である。図2は、図1の涼感体のA1-A1線断面図である。図3は、図2の一部拡大図である。図4は、図1の一部拡大図であり、樹脂層の内部における複数の吸熱材の配置を示す図である。
【0033】
本実施形態に係る涼感体1は、涼感対象物に涼感をもたらすものである。本実施形態では、涼感対象物は、使用者(人間)の首の皮膚である。図1に示すように、涼感体1は、使用者の首の皮膚に涼感をもたらすネッククーラーとして機能するよう構成されている。
【0034】
図2に示すように、涼感体1は、使用者の皮膚側に配置された内布2と、内布2よりも使用者の皮膚から離れた側に配置された外布3とを備えている。内布2は、本発明における「生地」の一例である。内布2の使用者側には、樹脂層4が配置されている。また、内布2の使用者から離れた側には、内布2を介して樹脂層4に対向するように、吸水層7が配置されている。
【0035】
涼感体1は、使用者の首に巻かれるようにして使用される。このとき、樹脂層4は、使用者の首の皮膚に接触する。なお、樹脂層4は、使用者の首の皮膚に直接的に接触してもよいし、他の部材を介して間接的に接触してもよい。
【0036】
図2に示すように、内布2は、樹脂層4を配置するための基材として使用される。本実施形態では、樹脂層4は、熱接着剤を介して内布2に接合されている。
【0037】
内布2は、涼感体1の樹脂層4側から吸水層7に水分を通じるように構成されることが好ましい。このように構成された内布2によれば、例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合に、涼感対象物から生じた汗を、涼感体の使用中に、吸水層7に吸収させることができる。
【0038】
内布2は、例えば、織物、編物、不織布等である。また、内布2は、例えば、綿、麻、絹、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の繊維によって構成される。
【0039】
図2に示すように、外布3は、内布2に接合され、内布2と共に吸水層7を取り囲んでいる。本実施形態では、内布2と外布3とは、互いの外縁部において縫い合わされている。
【0040】
内布2および外布3は、吸水層7の表面をそれぞれ覆うことにより、涼感体1の使用や洗濯による吸水層7の破損を防止する。また、涼感体1が人間によって使用される場合には、触感や外観のより優れた内布2および外布3によって吸水層7を覆うことにより、涼感体1の使用感を向上させることができる。
【0041】
図2および図3に示すように、樹脂層4は、使用者の皮膚に接触する接触側表面4aと、接触側表面4aに対向する吸水層側表面4bとを有する。本実施形態では、接触側表面4aは、吸水層側表面4bよりも平滑に形成されている。このことにより、接触側表面4aが吸水層側表面4bよりも粗い場合よりも、樹脂層4と使用者の皮膚との接触面積を増加させることができる。
【0042】
樹脂層4は、その内部に分散して配置された複数の吸熱材5と、複数の吸熱材5を保持するための樹脂6とを有している。樹脂層4の厚さは、例えば20~1000μmである。
【0043】
各吸熱材5は、樹脂層4が使用者の皮膚に接触したときに、融解に伴って皮膚から熱を奪うことにより、皮膚に涼感をもたらす。そのために、吸熱材5は、使用者の皮膚温よりも低い温度域で融解する材料で構成される。例えば、本実施形態のように涼感対象物が人間の皮膚である場合、吸熱材5には、人間の平常時の体温である36~37℃程度よりも低い温度域、例えば35℃以下で融解する材料が選択される。
【0044】
また同時に、吸熱材5は、人間が快適に感じる環境の温度域(例えば25~28℃)以上の温度で凝固することが好ましい。このような吸熱材5は、人間が快適に感じる環境において凝固し、固相に相変化する。このことにより、吸熱材5は、再び涼感をもたらすことができる。
【0045】
このような融点(凝固点)の範囲を満たす吸熱材5には、例えば、硫酸ナトリウム10水和物、塩化カルシウム6水和物、炭酸ナトリウム10水和物、パラフィン、芳香族炭化水素、脂肪酸、エステル化合物等が挙げられる。本実施形態では、吸熱材5は、融点が32℃のノルマルパラフィン(n-パラフィン)である。
【0046】
本実施形態において、各吸熱材5は、球状のマイクロカプセル51に封入された状態で、樹脂6によって保持されている。マイクロカプセル51の材料には、例えば、メラミン樹脂、尿素-ホルマリン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂等が使用される。また、マイクロカプセル51の平均球径は、例えば20μmである。
【0047】
樹脂6は、涼感体1の使用および洗濯が繰り返されても、複数の吸熱材5を保持し続けるように構成される。樹脂6には、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル-ウレタン樹脂等が使用される。
【0048】
図2に示すように、樹脂層4には、接触側表面4aから吸水層側表面4bに貫通した貫通穴42が形成されている。このことにより、樹脂層4の接触側表面4a側から、貫通穴42を通じて、吸水層7に水分を吸収させることができる。
【0049】
本実施形態では、図1および図2に示すように、2つの貫通穴42が形成されている。各貫通穴42は、図1に示す平面視において、樹脂層4の外縁部から凹んだ切欠形状である。なお、貫通穴42の数および平面視における形状は、これらに限定されない。例えば、貫通穴42の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。貫通穴42の平面視における形状は、円形、楕円形、多角形等であってもよい。
【0050】
図3に示すように、樹脂層4は、複数の積層部41から構成された積層構造を有する。本実施形態では、樹脂層4は、5つの積層部41A~41Eを有している。このように、複数の積層部41が積層されることにより、涼感体1のqmax値を向上させることができる。
【0051】
qmax値は、人間や動物が物に接触したときに感じる涼感の強さを示す指標である。人間や動物は、皮膚の熱が接触している物に移動することによって、涼感を感じる。このとき、単位時間および単位面積当たりの熱の移動量が多いほど、人間や動物は、涼感をより強く感じる。qmax値は、この熱の移動量を評価するものであり、例えば、精密迅速熱物性測定装置(カトーテック株式会社製、KES-F7)を用いて測定される。前記装置を用いた測定では、室温の試料と、試料よりも20℃高い測定部とを接触させた直後における、測定部から試料への熱の移動速度が測定される。qmax値は、この熱の移動速度の極大値である。そのため、qmax値が高いほど、単位時間および単位面積当たりの熱の移動量が多く、感じられる涼感が強いと評価される。
【0052】
qmax値の高い涼感体1を実現するためには、樹脂層4の接触側表面4aの面積に対する吸熱材5の量を増加させることが肝要である。しかし、樹脂6が保持できる吸熱材5の量には限度があるので、樹脂層4において吸熱材5の密度を高めることは、困難である。
【0053】
一方、本実施形態では、複数の積層部41が積層されることにより、樹脂層4における吸熱材5の密度が高められることなく、吸熱材5が増量されている。図4は、樹脂層4の一部を接触側表面4a側から見た平面図であり、樹脂層4の内部における複数の吸熱材5の配置を示す図である。なお、ここでは、理解を容易にするため、図4に示すように、樹脂層4が10個の吸熱材5を有するものとして説明する。図4に示す範囲において、第1~第5の積層部41A~41Eは、それぞれ、2つの吸熱材5A~5Eを有している。
【0054】
例えば、樹脂層4が第5の積層部41Eのみを有する単層構造である場合、吸熱材5は、図4に示す樹脂層4の接触側表面4aに対して、2つ(吸熱材5E)しか配置されない。また、第5の積層部41Eに対して吸熱材5を加えると、樹脂6は、複数の吸熱材5Eを保持しきれなくなってしまう。
【0055】
一方、本実施形態では、吸熱材5は、図4に示す樹脂層4の接触側表面4aに対して、5つの積層部41A~41Eに分散されて10個(吸熱材5A~5E)配置されている。また、各積層部41A~41Eにおける吸熱材5の密度は、前記単層構造の樹脂層4と同等である。このようにして、涼感体1では、樹脂層4における吸熱材5の密度が高められることなく、樹脂層4の接触側表面4aの面積に対して吸熱材5が増量されている。
【0056】
このような積層構造を有した樹脂層4を備えることにより、高いqmax値を示す涼感体が実現される。一例では、85質量%のポリエステルと15質量%のポリウレタンとを有する混紡生地で構成された内布2と、積層構造を有し内布2に接着された樹脂層4とを備えた涼感体が作製され、前述の方法によりqmax値が測定された。その結果、前記の涼感体では、1.098W/cmという高いqmax値が得られた。
【0057】
次に、吸水層7について説明する。図2および図3に示すように、吸水層7は、樹脂層4よりも使用者の皮膚から離れた側において、樹脂層4に設けられた複数の吸熱材5から吸熱できるように配置されている。また、吸水層7は、水分を吸収し、その水分を気化させることができるように構成されている。
【0058】
吸水層7は、例えば、織物、編物、不織布等である。また、吸水層7は、例えば、綿、麻、絹、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、アセテート等の繊維によって構成される。また、吸水層7は、例えば、圧力が加えられても離水しにくい高吸水性ポリマや吸放湿性を有する粒子等を有してもよい。
【0059】
図1に示すように、吸水層7は、涼感体1を樹脂層4側から平面視したときに、樹脂層4よりも外側に延在する延在部71を有している。吸水層7は、延在部71を有することにより、樹脂層4を介することなく、樹脂層4の接触側表面4a側から直接的に水分を吸収することができる。
【0060】
〔変形例〕
次に、図5を参照しながら、本発明の実施形態に係る涼感体1の変形例について説明する。図5は、図1の涼感体の変形例を示す断面図である。
【0061】
図5に示すように、変形例である涼感体1Aは、被覆層8をさらに備えている。被覆層8は、樹脂層4の接触側表面4a側に配置され、吸水層7に水分を通じるように構成されている。また、被覆層8は、使用者の皮膚から複数の吸熱材5への熱の移動を抑制しにくい構成であることが好ましい。このような被覆層8によれば、熱の移動が被覆層8によって妨げられることによるqmax値の低下を抑制することができる。
【0062】
被覆層8は、例えば、織物、編物、不織布等であってよい。また、被覆層8を構成する繊維としては、例えば、ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル等が好適である。これらの繊維で被覆層8を構成することにより、その他の繊維で構成された被覆層8よりもqmax値の高い被覆層8が実現可能である。また、被覆層8を構成する繊維には、例えば、綿、麻、絹、レーヨン、アクリル等が使用されてもよい。
【0063】
被覆層8は、樹脂層4の接触側表面4aを覆うことにより、涼感体1の使用や洗濯による樹脂層4の破損を防止する。また、被覆層8によって、樹脂層4の接触側表面4a側から吸水層7に水分を吸収させることができる。また、涼感体1が人間によって使用される場合には、触感や外観のより優れた被覆層8によって樹脂層4を覆うことにより、涼感体1の使用感を向上させることができる。
【0064】
〔涼感体1の作用効果〕
涼感体1は、例えば、水に浸漬され、吸水層7に水が吸収された状態で使用される。涼感体1が使用者の首に巻かれ、樹脂層4の接触側表面4aが使用者の皮膚に接触したとき、複数の吸熱材5は、融解に伴って使用者の皮膚から熱を奪う。このことにより、使用者の皮膚に涼感がもたらされる。ここで、涼感体1の使用中に複数の吸熱材5から熱が取り去られない場合には、複数の吸熱材5が固相から液相に一方向的に融解していく。その結果、すべての吸熱材5が速やかに液相に相変化する。そのため、吸熱材5の融解に伴う吸熱がそれ以上起こらなくなり、使用者が涼感を得られなくなってしまう。
【0065】
一方、本発明に係る涼感体1は、複数の吸熱材5から熱を取り去るために、吸水層7を備えている。吸水層7に吸収された水分は、気化に伴って吸水層7から熱を奪い、吸水層7の温度を低下させる。吸水層7の温度が樹脂層4および複数の吸熱材5の温度よりも低くなると、複数の吸熱材5の熱は、樹脂層4を介して、より温度の低い吸水層7に移動する。このことにより、複数の吸熱材5から熱が取り去られ、複数の吸熱材5の凝固が促進される。
【0066】
このようにして、各吸熱材5では、使用者の皮膚による加熱と吸水層7による除熱とが繰り返される。その結果、樹脂層4において、固相の吸熱材5と液相の吸熱材5とが混在した状態になる。この混在状態は、吸水層7による除熱が続く限り維持される。すなわち、吸水層7が水分を有し、その水分が気化し続ける限り、樹脂層4は、固相の吸熱材5が存在した状態に維持される。そのため、吸水層7を備えた涼感体1では、吸水層7を備えない場合よりも、涼感体の使用中において、固相の吸熱材5が存在する時間がより長くなる。つまり、涼感体1は、長時間に亘って涼感をもたらすことができる。
【0067】
さらに、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、皮膚から生じた汗を、例えば、貫通穴42、延在部71または被覆層8を介して、吸水層7に吸収させることができる。このことにより、涼感体1の使用中にも吸水層7に水分が加えられるので、吸水層7において水分の気化をより長く持続させることができる。したがって、涼感体1による涼感の持続時間をさらに長くすることができる。
【0068】
本実施形態では、涼感体1は、涼感対象物側に配置される樹脂層4と、樹脂層4の内部に分散して配置され、涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材5を備えている。樹脂層4が涼感対象物に接触したとき、複数の吸熱材5は、融解に伴って涼感対象物から熱を奪い、涼感対象物に涼感をもたらす。
【0069】
さらに、涼感体1は、樹脂層4よりも涼感対象物から離れた側において、複数の吸熱材5から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層7を備えている。吸水層7に吸収された水分は、気化に伴って吸水層7の熱を奪い、吸水層7の温度を低下させる。このことに伴って、複数の吸熱材5の熱がより温度の低い吸水層7に移動し、複数の吸熱材5から熱が取り去られる。したがって、涼感体1の使用中に、複数の吸熱材5の凝固が促進されるので、固相の吸熱材5が存在する時間をより長くすることができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、樹脂層4には貫通穴42が形成されているので、樹脂層4の涼感対象物側から吸水層7に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体1の使用中に、貫通穴42を通じて吸水層7に吸収させることができる。このことにより、吸水層7において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材5の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体1の使用中に、複数の吸熱材5の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材5が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、吸水層7が平面視において樹脂層4の外側に延在する延在部71を有するので、樹脂層4の涼感対象物側から吸水層7に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体1の使用中に、樹脂層4を介さずに延在部71を介して吸水層7に直接的に吸収させることができる。このことにより、吸水層7において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材5の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体1の使用中に、複数の吸熱材5の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材5が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、涼感体1は、樹脂層4の涼感対象物側に配置され、吸水層7に水分を通じる被覆層8を備えている。そのため、樹脂層4の涼感対象物側から吸水層7に水分を吸収させることができる。例えば、涼感対象物が人間や動物の皮膚である場合には、涼感対象物から生じた汗を、涼感体1の使用中に、被覆層8を介して吸水層7に吸収させることができる。このことにより、吸水層7において水分の気化がより長く持続するので、複数の吸熱材5の熱をより長時間に亘って取り去ることができる。したがって、涼感体1の使用中に、複数の吸熱材5の凝固がより長時間に亘って促進されるので、固相の吸熱材5が存在する時間をさらに長くすることができる。
【0073】
また、樹脂層4の接触側表面4aが被覆層8によって覆われるので、涼感体1の使用や洗濯が繰り返されても、樹脂層4が破損しにくい。そのため、複数の吸熱材5が樹脂層4から脱落しにくいので、涼感体1の涼感性能を長期に亘って維持することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、樹脂層4の接触側表面4aは、吸水層側表面4bよりも平滑である。そのため、涼感対象物が樹脂層4の表面の微細な凹凸に追従し難いもの、例えば人間や動物の皮膚等である場合、樹脂層4の接触側表面4aが吸水層側表面4bよりも粗い場合と比較して、樹脂層4と涼感対象物との接触面積を増加させることができる。このことにより、樹脂層4が涼感対象物に接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材5に移動させることができる。したがって、涼感体1のqmax値を向上させることができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、樹脂層4と吸水層7とは、布製品の少なくとも一部を構成する内布2を介して配置されている。このことにより、例えば衣服等の布製品に一体化された涼感体1が実現可能である。また、樹脂層4に貫通穴42が形成されている場合に、吸水層7は、内布2によって覆われるので、涼感体1の使用や洗濯によって破損しにくい。したがって、吸水層7の吸水性能が失われにくいので、涼感体1の涼感性能を長期に亘って維持することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、樹脂層4が複数の積層部41から構成される積層構造を有し、複数の積層部41のそれぞれに複数の吸熱材5が分散して配置されている。そのため、樹脂層4の厚さ方向における複数の吸熱材5の偏在を抑制することができる。このことにより、複数の吸熱材5の偏在に伴って局所的に樹脂6が不足することがないので、樹脂層4の堅牢性の低下を防止することができる。
【0077】
さらに、複数の吸熱材5をそれぞれ有した複数の積層部41が積層されることにより、樹脂層4の接触側表面4aの面積に対する吸熱材5の量を増加させることができる。このことにより、樹脂層4と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材5に移動させることができる。そのため、涼感体1のqmax値を向上させることができる。したがって、樹脂層の堅牢性の低下が防止されつつ、qmax値のより高い涼感体が実現可能である。
【0078】
〔涼感体の製造方法〕
次に、図6図12を参照しながら、本発明に係る涼感体の製造方法の一例について説明する。図6図12は、本発明に係る涼感体の製造方法の一例を示す断面図である。
【0079】
(準備工程)
まず、図6に示すように、各積層部41を形成するためのバインダ11が準備される。バインダ11は、複数の吸熱材5と未硬化の樹脂6とが混合された混合物である。また、バインダ11には、水分を吸収可能な吸水材は、加えられない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「吸水材」という用語は、樹脂層4に水分を吸収させることを意図して加えられるものを指す。このような吸水材には、例えば、自重の10倍以上の水分を吸収可能な樹脂等がある。
【0080】
(第1積層工程)
次いで、図7に示すように、基材12に第1の積層部41Aを形成するためのバインダ11が配置される。樹脂層4が内布2または吸水層7に直接形成される場合には、基材12として、内布2または吸水層7が使用される。また、後述する方法により、形成された樹脂層4を内布2または吸水層7に転写する場合には、基材12として、樹脂6の硬化後に樹脂層4から除去可能な材料、例えば剥離フィルム等が使用される。より具体的には、例えば、シリコーン塗布により剥離性を付与されたPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム等が使用される。
【0081】
バインダ11は、例えば、捺染法、スプレー法、インクジェット印刷等により、基材12に配置される。捺染法では、メッシュ状に開口したスクリーンを介して、基材12がバインダ11に塗布される。スプレー法では、メッシュ状に開口したスクリーンを介して、基材12がバインダ11に噴霧される。また、基材12が内布2である場合には、例えば、内布2がバインダ11に浸漬されるパディング法等も採用され得る。
【0082】
基材12に配置されたバインダ11は、複数の吸熱材5がバインダ11の内部で移動しない程度に硬化される。硬化は、バインダ11の有する樹脂6の種類に応じた方法により行われる。例えば、乾燥固化型の樹脂6が使用される場合には、バインダ11は、自然乾燥されることにより硬化する。
【0083】
以上の第1積層工程により、図8に示すように、第1の積層部41Aが形成される。
【0084】
(第2積層工程)
次いで、図9に示すように、第1積層工程で形成された第1の積層部41Aに積層されるように、第2の積層部41Bを形成するためのバインダ11がさらに配置される。配置方法には、例えば、第1積層工程におけるバインダ11の配置方法として例示した方法等が採用され得る。なお、配置方法は、第1積層工程における配置方法と同じであっても、異なっていてもよい。
【0085】
第1の積層部41A上に配置されたバインダ11は、第1積層工程と同様に硬化される。このことにより、図10に示すように、第2の積層部41Bが形成される。
【0086】
ここで、基材12に配置された積層部41に対して、前記第2積層工程がさらに繰り返されることにより、3つ以上の積層部41も形成され得る。例えば、第2積層工程がさらに3回繰り返されると、図11に示すように、第3の積層部41Cと、第4の積層部41Dと、第5の積層部41Eとが形成される。
【0087】
すべての積層部41が積層された後、複数の積層部41は、さらに硬化される。例えば、乾燥固化型の樹脂6が使用される場合には、すべての積層部41は、自然乾燥された後、120~130℃で加熱されることにより、さらに硬化する。このことにより、複数の積層部41が互いに接着し、樹脂層4が形成される。また、基材12が内布2または吸水層7である場合には、樹脂層4は、硬化と同時に基材12に接着する。
【0088】
また、樹脂層4は、前述の工程により剥離フィルム等の基材12上で形成された後、内布2または吸水層7に転写されることもできる。
【0089】
樹脂層4が転写される場合には、樹脂層4の基材12から離れた側の表面に接着材13が配置される。例えば、図12に示すように、5つの積層部41から構成される樹脂層4の場合には、接着材13は、第5の積層部41Eの表面41Eaに配置される。接着材13には、例えば熱接着剤等が使用される。
【0090】
次いで、樹脂層4は、接着材13を介して、内布2または吸水層7に接着される。その後、基材12は、樹脂層4から除去される。
【0091】
本製造方法によれば、第1の積層部41Aが硬化した後に第2の積層部41Bを形成するバインダ11が配置されるので、当該バインダ11の有する複数の吸熱材5は、第1の積層部41Aに移動しにくい。そのため、樹脂層4の厚さ方向における複数の吸熱材5の偏在を抑制することができる。このことにより、複数の吸熱材5の偏在に伴って局所的に樹脂6が不足することがないので、樹脂層4の堅牢性の低下を防止することができる。
【0092】
また、本製造方法では、樹脂層4を形成するすべてのバインダ11が一度に硬化される場合と比較して、一度に硬化されるバインダ11の厚さが小さい。そのため、バインダ11が中心部までより確実に硬化するので、硬化不良による樹脂層4の堅牢性の低下を防止することができる。
【0093】
さらに、複数の吸熱材5をそれぞれ有した複数の積層部41が積層されることにより、樹脂層4の接触側表面4aの面積に対する吸熱材5の量を増加させることができる。このことにより、樹脂層4と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材5に移動させることができる。そのため、涼感体1のqmax値を向上させることができる。したがって、樹脂層の堅牢性の低下が防止されつつ、qmax値のより高い涼感体が実現可能である。
【0094】
また、本製造方法によれば、バインダ11に水分を吸収可能な吸水材が加えられないので、バインダ11に吸水材が加えられる製造方法と比較して、より多くの樹脂6や吸熱材5を樹脂層4に加えることができる。より多くの樹脂6が樹脂層4に加えられることにより、樹脂層4の堅牢性を向上させることができる。また、より多くの吸熱材5が樹脂層4に加えられることにより、樹脂層4の接触側表面4aの面積に対する吸熱材5の量をさらに増加させることができる。このことにより、樹脂層4と涼感対象物とが接触したときに、涼感対象物からより多くの熱を複数の吸熱材5に移動させることができる。したがって、涼感体1のqmax値をさらに向上させることができる。
【0095】
なお、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、樹脂層4が内布2に配置されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。樹脂層4は、吸水層7よりも涼感対象物側に配置されていればよく、例えば、吸水層7に直接接触するように配置されてもよい。また、内布2として例示された本発明における「生地」は、設けられていなくてもよい。
【0096】
また、涼感体1は、外布3を備えていなくてもよい。例えば、吸水層7が涼感体1の使用や洗濯に耐え得る強度を有する場合には、外布3は、必要とされない。また、吸水層7において水分をより効率良く気化させるという観点では、外布3を備えない方が有利となる場合も考えられる。
【0097】
また、前記では、吸熱材5の融点の範囲および材料等について、涼感対象物が人間の皮膚である場合の例を示したが、本発明はこれに限定されない。吸熱材5は、涼感対象物の温度や涼感体1が使用される環境等に応じて構成されてよい。また、複数の吸熱材5には、材料の異なる2種類以上の吸熱材5が混在していてもよい。
【0098】
また、前記では、涼感体1が水に浸漬されてから使用される例を示したが、この例示は、本発明に係る涼感体の使用状態等を限定するものではない。涼感体1は、使用前に水に浸漬されずとも、例えば、涼感対象物である人間や動物の皮膚から生じた汗を吸水層7が吸収することにより、前述のような効果を奏することができる。
【0099】
また、前記では、接着材13が樹脂層4の基材12から離れた側の表面に配置されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。接着材13は、樹脂層4と内布2または吸水層7との接着に使用可能に配置されていればよく、例えば、内布2または吸水層7において、樹脂層4の接着される領域に配置されてもよい。
【0100】
また、本明細書および特許請求の範囲において、「フィルム」という用語は、その部材の厚さを特定の範囲に限定することを意図するものではない。
【0101】
本発明は、添付図面を参照しながら、好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとって、種々の変形や修正は明白である。このような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る涼感体は、使用時において、固相の吸熱材が存在する時間がより長くされているので、例えば、夏季の屋外において人間または動物によって使用される衣服等に有用である。
【符号の説明】
【0103】
1,1A 涼感体
2 内布
3 外布
4 樹脂層
4a 接触側表面
4b 吸水層側表面
41 積層部
41A 第1の積層部
41B 第2の積層部
41C 第3の積層部
41D 第4の積層部
41E 第5の積層部
41Ea 表面
42 貫通穴
5,5A~5E 吸熱材
51 マイクロカプセル
6 樹脂
7 吸水層
71 延在部
8 被覆層
11 バインダ
12 基材
13 接着材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2021-06-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備え
前記樹脂層には、当該樹脂層の厚さ方向に貫通し、当該樹脂層の前記涼感対象物側から前記吸水層に水分を通じるための貫通穴が形成され、
平面視において、前記貫通穴の開口面積は、前記樹脂層の表面積よりも小さい
涼感体。
【請求項2】
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備え
前記吸水層は、平面視において、前記樹脂層の外側に延在し、前記樹脂層を介さずに前記涼感対象物に対向する延在部を有する
涼感体。
【請求項3】
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物側に配置され、前記吸水層に水分を通じる被覆層と、
を備え
平面視において、前記被覆層のうち前記樹脂層の外側に延在する部分は、前記吸水層と重複している
涼感体。
【請求項4】
前記樹脂層の前記涼感対象物側の表面は、前記吸水層側の表面よりも平滑である、請求項1~のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項5】
前記樹脂層と前記吸水層とは、布製品の少なくとも一部を構成する生地を介して配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項6】
前記樹脂層は、複数の積層部から構成される積層構造を有し、
前記複数の積層部のそれぞれに、前記複数の吸熱材が分散して配置されている、
請求項1~のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項7】
前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための樹脂とが混合されたバインダを準備する準備工程と、
前記バインダを基材上に配置し硬化させ、第1の積層部を形成する第1積層工程と、
前記第1の積層部に対して、前記バインダを積層するように配置し硬化させ、第2の積層部を形成する第2積層工程と、
を含む、請求項に記載の涼感体の製造方法。
【請求項8】
前記準備工程において、水分を吸収可能な吸水材が加えられず、前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための前記樹脂とが混合された前記バインダを準備する、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、剥離フィルムであり、
前記樹脂層が前記基材から離れた側の表面を介して前記吸水層、または、前記樹脂層と前記吸水層との間に配置される生地に接着される接着工程と、
前記樹脂層が有する樹脂の硬化後に、前記基材が前記樹脂層から除去される除去工程と、
を更に含む、請求項7または請求項8に記載の製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
涼感対象物に接触させて使用される複層構造を有した涼感体であって、
前記涼感対象物側に配置される樹脂層と、
前記樹脂層の内部に分散して配置され、前記涼感対象物の温度よりも低い温度域で固相から液相に相変化する複数の吸熱材と、
前記樹脂層よりも前記涼感対象物から離れた側において、前記複数の吸熱材から吸熱可能に水分を吸収するように配置された吸水層と、
を備え、
前記樹脂層には、当該樹脂層の厚さ方向に貫通し、当該樹脂層の前記涼感対象物側から前記吸水層に水分を通じるための貫通穴が形成され、
平面視において、前記貫通穴の開口面積は、前記樹脂層の表面積よりも小さい、
涼感体。
【請求項2】
記吸水層は、平面視において、前記樹脂層の外側に延在し、前記樹脂層を介さずに前
記涼感対象物に対向する延在部を有する、請求項1に記載の涼感体。
【請求項3】
記樹脂層よりも前記涼感対象物側に配置され、前記吸水層に水分を通じる被覆層を備え、
平面視において、前記被覆層のうち前記樹脂層の外側に延在する部分は、前記吸水層と重複している、
請求項1または請求項2に記載の涼感体。
【請求項4】
前記樹脂層の前記涼感対象物側の表面は、前記吸水層側の表面よりも平滑である、請求項1~3のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項5】
前記樹脂層と前記吸水層とは、布製品の少なくとも一部を構成する生地を介して配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項6】
前記樹脂層は、複数の積層部から構成される積層構造を有し、
前記複数の積層部のそれぞれに、前記複数の吸熱材が分散して配置されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の涼感体。
【請求項7】
前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための樹脂とが混合されたバインダを準備する準備工程と、
前記バインダを基材上に配置し硬化させ、第1の積層部を形成する第1積層工程と、
前記第1の積層部に対して、前記バインダを積層するように配置し硬化させ、第2の積
層部を形成する第2積層工程と、
を含む、請求項6に記載の涼感体の製造方法。
【請求項8】
前記準備工程において、水分を吸収可能な吸水材が加えられず、前記複数の吸熱材と、前記複数の吸熱材を保持するための前記樹脂とが混合された前記バインダを準備する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、剥離フィルムであり、
前記樹脂層が前記基材から離れた側の表面を介して前記吸水層、または、前記樹脂層と前記吸水層との間に配置されて布製品の少なくとも一部を構成する生地に接着される接着工程と、
前記樹脂層が有する樹脂の硬化後に、前記基材が前記樹脂層から除去される除去工程と、
を更に含む、請求項7または請求項8に記載の製造方法。