(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098192
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】光パルス生成装置及び光パルス生成方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/106 20060101AFI20220624BHJP
G02F 1/01 20060101ALN20220624BHJP
【FI】
H01S3/106
G02F1/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211591
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 考二
【テーマコード(参考)】
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA05
2K102BA08
2K102BA21
2K102BB01
2K102BC04
2K102BD10
2K102DD02
2K102EA21
2K102EB08
2K102EB10
5F172AE03
5F172AE12
5F172AF02
5F172AF03
5F172AF05
5F172AF06
5F172AM08
5F172CC04
5F172EE13
5F172NN11
5F172NQ23
5F172NQ24
5F172NQ25
5F172NQ53
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる光パルス生成装置及び光パルス生成方法を提供する。
【解決手段】光パルス生成装置1Aは、モード同期型の光共振器20と、ポンプレーザ42と、波形制御部30とを備える。光共振器20は、光増幅媒質21を含み、レーザ光を生成及び増幅して出力する。ポンプレーザ42は、光共振器20と光学的に結合され、光増幅媒質21に励起光を与える。波形制御部30は、光共振器20内に配置され、所定期間内にレーザ光の時間波形を制御して、レーザ光を光共振器20の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。光共振器20は、所定期間ののちに光パルス列を増幅してレーザ光として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増幅媒質を含み、レーザ光を生成及び増幅して出力するモード同期型の光共振器と、
前記光共振器と光学的に結合され、前記光増幅媒質に励起光を与える光源と、
前記光共振器内に配置され、所定期間内に前記レーザ光の時間波形を制御して、前記レーザ光を前記光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する波形制御部と、
を備え、
前記光共振器は、前記所定期間ののちに前記光パルス列を増幅してレーザ光として出力する、光パルス生成装置。
【請求項2】
前記二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔が可変である、請求項1に記載の光パルス生成装置。
【請求項3】
前記二つ以上の光パルスの本数が可変であり、前記励起光の光強度が可変であり、前記光パルス列を構成する光パルスの本数が多いときほど前記励起光の光強度が大きい、請求項1に記載の光パルス生成装置。
【請求項4】
前記波形制御部は、
少なくとも1つの入力ポート及び少なくとも2つの出力ポートを有する光路スイッチと、
前記レーザ光の時間波形を制御して前記レーザ光を前記光パルス列に変換する波形制御デバイスと、を有し、
前記光共振器は、
前記光路スイッチの1つの前記入力ポートに光結合された一端を有する第1の光路と、
前記光路スイッチの1つの前記出力ポートに光結合された一端、および前記第1の光路の他端に光結合された他端を有する第2の光路と、
前記光路スイッチの他の1つの前記出力ポートに光結合された一端、および前記第1の光路の他端に光結合された他端を有する第3の光路と、を含み、
前記光増幅媒質は前記第1の光路上に配置され、
前記波形制御デバイスは前記第3の光路上に配置され、
前記光路スイッチは、前記所定期間では前記第3の光路を選択し、他の期間では前記第2の光路を選択する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項5】
前記光共振器と光学的に結合され、前記光共振器から出力された光を検出して電気的な検出信号を生成する光検出器と、
前記光路スイッチを制御するスイッチ制御部と、を更に備え、
前記スイッチ制御部は、前記光検出器からの前記検出信号に基づいて、前記第3の光路を選択するタイミングを決定する、請求項4に記載の光パルス生成装置。
【請求項6】
前記波形制御部は、
前記光共振器内に配置されて前記レーザ光の偏光面を制御する偏光スイッチと、
前記レーザ光が第1の偏光面を有する場合に前記レーザ光の時間波形を制御して前記レーザ光を前記光パルス列に変換し、前記レーザ光が前記第1の偏光面と異なる第2の偏光面を有する場合に前記レーザ光の時間波形を制御しない波形制御デバイスと、を有し、
前記偏光スイッチは、前記所定期間では前記レーザ光の偏光面を前記第1の偏光面とし、他の期間では前記レーザ光の偏光面を前記第2の偏光面とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項7】
前記光共振器と光学的に結合され、前記光共振器から出力された光を検出して電気的な検出信号を生成する光検出器と、
前記偏光スイッチを制御するスイッチ制御部と、を更に備え、
前記スイッチ制御部は、前記光検出器からの前記検出信号に基づいて、前記レーザ光の偏光面を前記第1の偏光面とするタイミングを決定する、請求項6に記載の光パルス生成装置。
【請求項8】
前記光共振器は、前記所定期間の前に単一パルスの前記レーザ光を生成し、
前記波形制御部は、
前記レーザ光を分光する分光素子と、
分光後の前記レーザ光の強度スペクトルもしくは位相スペクトルの少なくともいずれか一方に対して、前記レーザ光を前記光パルス列に変換するための変調を行い、変調光を出力する空間光変調器と、
前記変調光を集光して前記光パルス列を出力する光学系と、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項9】
前記光共振器は、前記所定期間の前に連続波の前記レーザ光を生成し、
前記波形制御部は、前記レーザ光の強度を変調することにより前記レーザ光を前記光パルス列に変換する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項10】
前記波形制御部により変換された直後の前記二つ以上の光パルスの中心波長が互いに等しい、請求項1~9のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項11】
前記所定期間において、前記レーザ光の時間波形が1回のみ制御される、請求項10に記載の光パルス生成装置。
【請求項12】
前記波形制御部により変換された直後の前記二つ以上の光パルスの中心波長が互いに異なる、請求項1~9のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項13】
前記所定期間において、前記レーザ光の時間波形が複数回にわたって制御される、請求項12に記載の光パルス生成装置。
【請求項14】
前記二つ以上の光パルスの時間間隔は10フェムト秒以上10ナノ秒以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の光パルス生成装置。
【請求項15】
モード同期型の光共振器内の光増幅媒質に励起光を与え、前記光共振器内においてレーザ光を生成及び増幅するレーザ光生成ステップと、
前記光共振器内の前記レーザ光の時間波形を所定期間内に制御して、前記レーザ光を前記光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する波形制御ステップと、
前記所定期間ののちに前記光共振器内において前記光パルス列を増幅してレーザ光として前記光共振器外へ出力する出力ステップと、
を含む、光パルス生成方法。
【請求項16】
前記出力ステップののち、前記二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔のうち少なくとも一方を変更して、前記波形制御ステップ及び前記出力ステップを繰り返す、請求項15に記載の光パルス生成方法。
【請求項17】
前記出力ステップにおいて、前記光増幅媒質へ与える励起光の光強度を、前記光パルス列を構成する光パルスの本数が多いときほど大きくする、請求項16に記載の光パルス生成方法。
【請求項18】
前記出力ステップののち前記波形制御ステップを繰り返す前に、前記光増幅媒質へ与える励起光の光強度を前記光パルス列を構成する光パルスの本数に対応する大きさから一つの光パルスに対応する大きさに変更することにより光パルスの本数を一つに減少させ、該一つの光パルスを前記光共振器内にて前記レーザ光として増幅する、請求項17に記載の光パルス生成方法。
【請求項19】
前記波形制御ステップにより変換された直後の前記二つ以上の光パルスの中心波長が互いに等しい、請求項15~18のいずれか1項に記載の光パルス生成方法。
【請求項20】
前記波形制御ステップにより変換された直後の前記二つ以上の光パルスの中心波長が互いに異なる、請求項15~18のいずれか1項に記載の光パルス生成方法。
【請求項21】
前記所定期間において、前記レーザ光の時間波形が1回のみ制御される、請求項19または20に記載の光パルス生成方法。
【請求項22】
前記所定期間において、前記レーザ光の時間波形が複数回にわたって制御される、請求項20に記載の光パルス生成方法。
【請求項23】
前記二つ以上の光パルスの時間間隔は10フェムト秒以上10ナノ秒以下である、請求項15~22のいずれか1項に記載の光パルス生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光パルス生成装置及び光パルス生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、モードロック型光ファイバレーザにおいて複数の光パルスをレーザ発振させると共に、ポンプ光強度を調整することによって光パルスの時間間隔を制御する技術を開示する。非特許文献2は、ポンプ光強度を調整することによって、時間的に近接する2つの光パルスの時間間隔を離散的に変更する技術を開示する。非特許文献3は、モードロック型光ファイバレーザにおいて光共振器内に可変バンドフィルタを配置し、可変バンドフィルタのフィルタ幅とポンプ光強度とを調整することによって光パルスの本数を制御する技術を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ying Yu et al., “Pulse-spacing manipulation in a passivelymode-locked multipulse fiber laser”, Optics Express, Vol. 25, Issue 12, pp. 13215-13221,2017
【非特許文献2】F. Kurtz et al., “Resonant excitation and all-optical switching offemtosecond soliton molecules”, Nature Photonics, Vol. 14, pp. 9-13, 2020
【非特許文献3】Zengrun Wen et al., “Effects of spectral filtering on pulse dynamicsin a mode-locked fiber laser with a bandwidth tunable filter”, Journal of theOptical Society of America B,Vol. 36, Issue 4, pp. 952-958,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列の応用が検討されている。超短光パルスとは、例えば1ナノ秒未満の時間幅を有する光パルスであり、光パルス列における光パルス同士の時間間隔は、例えば10ナノ秒未満である。一例として、レーザ光を用いて対象物の形状を加工するレーザ加工分野への応用がある。レーザ加工分野においては、超短光パルスを用いた非熱的な加工により、材料によらず高精度な加工を実現できる。また、単一の光パルスを対象物に繰り返し照射する場合と比較して、連続する二つ以上の光パルスからなる光パルス列を対象物に繰り返し照射するバーストレーザ加工により、スループットを高めることができる。そして、バーストレーザ加工等においては、パルス列のパルス本数およびパルス同士の時間間隔が重要なパラメータとなる。従って、所定のパルス本数および時間間隔を安定して再現性良く出力し得ることが望まれる。
【0005】
本開示は、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる光パルス生成装置及び光パルス生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一側面に係る光パルス生成装置は、モード同期型の光共振器と、光源と、波形制御部と、を備える。光共振器は、光増幅媒質を含み、レーザ光を生成及び増幅して出力する。光源は、光共振器と光学的に結合され、光増幅媒質に励起光を与える。波形制御部は、光共振器内に配置され、所定期間内にレーザ光の時間波形を制御して、レーザ光を光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。光共振器は、所定期間ののちに光パルス列を増幅してレーザ光として出力する。
【0007】
本開示の一側面に係る光パルス生成方法は、レーザ光生成ステップと、波形制御ステップと、出力ステップと、を含む。レーザ光生成ステップでは、モード同期型の光共振器内の光増幅媒質に励起光を与え、光共振器内においてレーザ光を生成及び増幅する。波形制御ステップでは、光共振器内のレーザ光の時間波形を所定期間内に制御して、レーザ光を光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。出力ステップでは、所定期間ののちに光共振器内において光パルス列を増幅してレーザ光として光共振器外へ出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面に係る光パルス生成装置および光パルス生成方法によれば、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る光パルス生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】波形制御デバイスの例としてパルスシェーパの構成例を示す図である。
【
図5】光パルス生成方法を示すフローチャートである。
【
図6】(a),(b)光パルス生成装置の動作における各段階を示す図である。
【
図7】(a),(b)光パルス生成装置の動作における各段階を示す図である。
【
図8】(a),(b)光パルス生成装置の動作における各段階を示す図である。
【
図9】光パルス生成装置の動作における各段階を示す図である。
【
図10】(a)単パルス状の超短パルスレーザ光のスペクトル波形を示す。(b)その超短パルスレーザ光の時間強度波形を示す。
【
図11】(a)SLMにおいて矩形波状の位相スペクトル変調を与えたときのパルスシェーパからの出力光のスペクトル波形を示す。(b)その出力光の時間強度波形を示す。
【
図12】反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。
【
図13】位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
【
図14】スペクトル強度の計算手順を示す図である。
【
図15】ターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
【
図16】強度スペクトル関数を算出する手順の一例を示す図である。
【
図17】(a)スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)を示す図である。(b)スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)が変化したターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)を示す図である。
【
図18】第1変形例に係る光パルス生成装置の動作及び光パルス生成方法を示すフローチャートである。
【
図19】第2変形例に係る光パルス生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図20】第2変形例の光パルス生成装置の動作及び光パルス生成方法を示すフローチャートである。
【
図21】シミュレーションにおいて励起開始後0周回目に設定された初期値の例を示すグラフである。
【
図22】(a)シミュレーションにおける光パルスのピークパワーの周回毎の変化を示すグラフである。(b)シミュレーションにおける光増幅媒質の飽和エネルギーと光パルスのピークパワーとの関係を示すグラフである。
【
図23】シミュレーションにおいて飽和エネルギーを600pJに固定し、或るランダムノイズを初期値として設定したときに、発生した光パルスの時間波形を示すグラフである。(a)は初期値であるランダムノイズの時間波形を示し、(b)は(a)に対応して発生した光パルスの時間波形を示す。
【
図24】シミュレーションにおいて飽和エネルギーを600pJに固定し、
図23と異なるランダムノイズを初期値として設定したときに、発生した光パルスの時間波形を示すグラフである。(a)は初期値であるランダムノイズの時間波形を示し、(b)は(a)に対応して発生した光パルスの時間波形を示す。
【
図25】シミュレーションにおいて飽和エネルギーを600pJに固定し、
図23及び
図24と異なるランダムノイズを初期値として設定したときに、発生した光パルスの時間波形を示すグラフである。(a)は初期値であるランダムノイズの時間波形を示し、(b)は(a)に対応して発生した光パルスの時間波形を示す。
【
図26】シミュレーションにおいて飽和エネルギーを600pJに固定し、
図23~
図25と異なるランダムノイズを初期値として設定したときに、発生した光パルスの時間波形を示すグラフである。(a)は初期値であるランダムノイズの時間波形を示し、(b)は(a)に対応して発生した光パルスの時間波形を示す。
【
図27】
図23(a)に示されたランダムノイズを初期値として、一実施形態の構成によるシミュレーションを行った結果を示すグラフである。(a)は1000周回目の時間波形を示し、(b)は2000周回目の時間波形を示し、(c)は5000周回目の時間波形を示す。
【
図28】
図24(a)に示されたランダムノイズを初期値として、一実施形態の構成によるシミュレーションを行った結果を示すグラフである。(a)は1000周回目の時間波形を示し、(b)は2000周回目の時間波形を示し、(c)は5000周回目の時間波形を示す。
【
図29】
図25(a)に示されたランダムノイズを初期値として、一実施形態の構成によるシミュレーションを行った結果を示すグラフである。(a)は1000周回目の時間波形を示し、(b)は2000周回目の時間波形を示し、(c)は5000周回目の時間波形を示す。
【
図30】
図26(a)に示されたランダムノイズを初期値として、一実施形態の構成によるシミュレーションを行った結果を示すグラフである。(a)は1000周回目の時間波形を示し、(b)は2000周回目の時間波形を示し、(c)は5000周回目の時間波形を示す。
【
図31】一実施形態における光パルスの時間間隔の制御性を検証した結果を示すグラフである。(a)~(d)は、光パルス列を構成する2つの光パルスの時間間隔をそれぞれ20ps、50ps、100ps、及び150psに設定した場合を示している。
【
図32】一実施形態における光パルスの本数の制御性を検証した結果を示すグラフである。(a)~(d)は、光パルス列を構成する光パルスの本数をそれぞれ1本、2本、3本、及び4本に設定した場合を示している。
【
図33】シミュレーションにおいて光パルスの本数が変化する様子を示すグラフである。
【
図34】(a)~(c)本数変化の各段階においてレーザ発振した光パルス列の時間波形を示すグラフである。
【
図35】(a)~(c)本数変化の各段階においてレーザ発振した光パルス列の時間波形を示すグラフである。
【
図36】(a)~(c)本数変化の各段階においてレーザ発振した光パルス列の時間波形を示すグラフである。
【
図37】(a)周回数に応じた飽和エネルギーの変化を示すグラフである。(b)周回数に応じた光パルスのピークパワーの変化を示すグラフである。
【
図38】スペクトル領域変調型の波形制御器によって生成された19本の光パルスからなる光パルス列の時間波形を示すグラフである。
【
図39】光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長が互いに等しい場合に、複数回にわたってパルスシェーパにより時間波形を制御したときの、時間波形の変化を示すグラフである。(a)は1回目の波形制御後、(b)は2回目の波形制御後、(c)は3回目の波形制御後、(d)は4回目の波形制御後をそれぞれ示す。
【
図40】光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長が互いに異なる場合に、複数回にわたってパルスシェーパにより時間波形を制御したときの、時間波形の変化を示すグラフである。(a)は1回目の波形制御後、(b)は2回目の波形制御後、(c)は3回目の波形制御後、(d)は4回目の波形制御後をそれぞれ示す。
【
図41】(a)~(c)中心波長が互いに異なる3つの光パルスを示すグラフである。
【
図42】(a)~(c)シミュレーションにおいて、
図41に示される3つの光パルスを同時に光共振器内にて周回させた結果、各光パルスについて得られた時間波形を示すグラフである。
【
図43】各光パルスの中心波長が収束する様子を示すグラフである。
【
図44】(a)~(c)シミュレーションにおいて、中心波長が互いに異なる3本の光パルスへ変換するための波形制御を10周回にわたって行った結果を示すグラフである。
【
図45】(a)~(c)シミュレーションにおいて、中心波長が互いに異なる3本の光パルスへ変換するための波形制御を10周回にわたって行った結果を示すグラフである。
【
図46】(a)~(c)シミュレーションにおいて、中心波長が互いに異なる3本の光パルスへ変換するための波形制御を10周回にわたって行った結果を示すグラフである。
【
図47】(a)各光パルスのピーク位置の変化を示すグラフである。(b)(a)の500周回目~510周回目の部分を拡大して示すグラフである。
【
図48】波形制御デバイスの一例として、分割器及び遅延器の組み合わせからなるパルススプリッタを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一側面に係る光パルス生成装置は、モード同期型の光共振器と、光源と、波形制御部と、を備える。光共振器は、光増幅媒質を含み、レーザ光を生成及び増幅して出力する。光源は、光共振器と光学的に結合され、光増幅媒質に励起光を与える。波形制御部は、光共振器内に配置され、所定期間内にレーザ光の時間波形を制御して、レーザ光を光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。光共振器は、所定期間ののちに光パルス列を増幅してレーザ光として出力する。
【0011】
本開示の一側面に係る光パルス生成方法は、レーザ光生成ステップと、波形制御ステップと、出力ステップと、を含む。レーザ光生成ステップでは、モード同期型の光共振器内の光増幅媒質に励起光を与え、光共振器内においてレーザ光を生成及び増幅する。波形制御ステップでは、光共振器内のレーザ光の時間波形を所定期間内に制御して、レーザ光を光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。出力ステップでは、所定期間ののちに光共振器内において光パルス列を増幅してレーザ光として光共振器外へ出力する。
【0012】
モード同期型の光共振器では、光増幅媒質が励起されると、レーザ光である超短光パルスが周期的に生成されて出力される。そして、励起光強度などの発振条件によっては、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスが生成される。しかしながら、これまでの報告では、二つ以上の超短光パルスの時間間隔はランダムであり、時間間隔を制御することは実現されていなかった。
【0013】
これに対し、上記の光パルス生成装置では、モード同期型の光共振器内に波形制御部が設けられている。波形制御部は、所定期間内にレーザ光の時間波形を制御して、レーザ光を二つ以上の光パルスに変換する。同様に、上記の光パルス生成方法では、波形制御ステップにおいて、光共振器内のレーザ光の時間波形を所定期間内に制御し、レーザ光を、光共振器の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列に変換する。これらの場合、光増幅媒質に適切な大きさの励起光を与え続けると、光共振器内において光パルス列が増幅され、レーザ光として出力される。このレーザ光に含まれる光パルスの本数は、当初の光パルス列における光パルスの本数と一致する。また、このレーザ光に含まれる光パルスの時間間隔は、当初の光パルス列における光パルスの時間間隔と一致するか、又は、当初の光パルス列における光パルスの時間間隔から理論的に算出される時間間隔と一致する。従って、上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法によれば、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる。
【0014】
上記の光パルス生成装置において、二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔は可変であってもよい。また、上記の光パルス生成方法において、出力ステップののち、二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔のうち少なくとも一方を変更して、波形制御ステップ及び出力ステップを繰り返してもよい。前述したように、バーストレーザ加工等においては、パルス列のパルス本数およびパルス同士の時間間隔が重要なパラメータとなる。光パルス同士の時間間隔が10ナノ秒未満である超短パルス列は、例えば干渉計を用いても生成され得る。しかし、干渉計を用いる方法ではパルス列のパルス本数およびパルス同士の時間間隔の変更に手間がかかり、これらを頻繁に変更することはスループットの低下につながる。したがって、干渉計を用いる方法は、一定の対象物に同一の加工を繰り返し行う場合には適しているが、対象物の様々な材料、形状に応じて加工条件を最適化しながら加工を繰り返し行う場合には実用上不適である。これに対し、上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法では、増幅前の光パルス列の光強度はノイズより大きい程度であればよいため、波形制御部において生成される光パルス列のパルス本数及び時間間隔を可変とすることは容易である。従って、上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法によれば、対象物の様々な材料、形状に応じて加工条件を最適化しながら加工を繰り返し行うことを容易にできる。
【0015】
上記の光パルス生成装置において、二つ以上の光パルスの本数が可変である場合、励起光の光強度が可変であり、光パルス列を構成する光パルスの本数が多いときほど励起光の光強度が大きくてもよい。同様に、上記の光パルス生成方法において、二つ以上の光パルスの本数を変更しつつ波形制御ステップ及び出力ステップを繰り返す場合、出力ステップにおいて、光増幅媒質へ与える励起光の光強度を、光パルス列を構成する光パルスの本数が多いときほど大きくしてもよい。光パルスの本数に対して励起光強度が小さ過ぎると、一部の光パルスが十分に増幅されずに消えてしまうおそれがある。また、光パルスの本数に対して励起光強度が大き過ぎると、光パルス列と関係の無いノイズの一部が増幅されて光パルスの本数が意図せず増えてしまうおそれがある。上記のように、光パルス列を構成する光パルスの本数が多いときほど励起光の光強度を大きくすることによって、光パルスの本数に応じて適切な光強度の励起光を光増幅媒質に与えることが可能になる。
【0016】
上記の光パルス生成方法において、出力ステップののち波形制御ステップを繰り返す前に、光増幅媒質へ与える励起光の光強度を光パルス列を構成する光パルスの本数に対応する大きさから一つの光パルスに対応する大きさに変更することにより光パルスの本数を一つに減少させ、該一つの光パルスを光共振器内にてレーザ光として増幅してもよい。このように、波形制御ステップにおいて二つ以上の光パルスを生成する前に必ず光パルスの本数を一つに減じることによって、任意の数の光パルスを安定して生成することができる。なお、本発明者のシミュレーションによれば、励起光の光強度を、二つ以上の光パルスに対応する光強度から単一の光パルスに対応する光強度に減じると、二つ以上の光パルスのうち一つを残して他の光パルスが消滅する。
【0017】
上記の光パルス生成装置において、波形制御部は、少なくとも1つの入力ポート及び少なくとも2つの出力ポートを有する光路スイッチと、レーザ光の時間波形を制御してレーザ光を光パルス列に変換する波形制御デバイスと、を有してもよい。光共振器は、光路スイッチの1つの入力ポートに光結合された一端を有する第1の光路と、光路スイッチの1つの出力ポートに光結合された一端、および第1の光路の他端に光結合された他端を有する第2の光路と、光路スイッチの他の1つの出力ポートに光結合された一端、および第1の光路の他端に光結合された他端を有する第3の光路と、を含んでもよい。そして、光増幅媒質は第1の光路上に配置され、波形制御デバイスは第3の光路上に配置され、光路スイッチは、所定期間では第3の光路を選択し、他の期間では第2の光路を選択してもよい。この場合、波形制御部が所定期間内に限ってレーザ光の時間波形を制御することを容易に実現することができる。
【0018】
上記の光パルス生成装置は、光共振器と光学的に結合され、光共振器から出力された光を検出して電気的な検出信号を生成する光検出器と、光路スイッチを制御するスイッチ制御部と、を更に備えてもよい。そして、スイッチ制御部は、光検出器からの検出信号に基づいて、第3の光路を選択するタイミングを決定してもよい。この場合、光路スイッチにおける光路の切り替えタイミングを安定して制御することができる。
【0019】
上記の光パルス生成装置は、光共振器内に配置されてレーザ光の偏光面を制御する偏光スイッチと、レーザ光が第1の偏光面を有する場合にレーザ光の時間波形を制御してレーザ光を光パルス列に変換し、レーザ光が第1の偏光面と異なる第2の偏光面を有する場合にレーザ光の時間波形を制御しない波形制御デバイスと、を備えてもよい。そして、偏光スイッチは、所定期間ではレーザ光の偏光面を第1の偏光面とし、他の期間ではレーザ光の偏光面を第2の偏光面としてもよい。この場合、波形制御部が所定期間内に限ってレーザ光の時間波形を制御することを容易に実現することができる。
【0020】
上記の光パルス生成装置において、波形制御部は、光共振器と光学的に結合され、光共振器から出力された光を検出して電気的な検出信号を生成する光検出器と、偏光スイッチを制御するスイッチ制御部と、を更に有してもよい。そして、スイッチ制御部は、光検出器からの検出信号に基づいて、レーザ光の偏光面を第1の偏光面とするタイミングを決定してもよい。この場合、偏光スイッチにおける偏光面の切り替えタイミングを安定して制御することができる。
【0021】
上記の光パルス生成装置において、光共振器は、所定期間の前に単一パルスのレーザ光を生成してもよい。そして、波形制御部は、レーザ光を分光する分光素子と、分光後のレーザ光の強度スペクトルもしくは位相スペクトルの少なくともいずれか一方に対して、レーザ光を光パルス列に変換するための変調を行い、変調光を出力する空間光変調器と、変調光を集光して光パルス列を出力する光学系と、を有してもよい。例えばこのような波形制御部によって、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して生成することができる。
【0022】
上記の光パルス生成装置において、光共振器は、所定期間の前に連続波のレーザ光を生成してもよい。そして、波形制御部は、レーザ光の強度を変調することによりレーザ光を光パルス列に変換してもよい。例えばこのような波形制御部によっても、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して生成することができる。
【0023】
上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法において、波形制御部(波形制御ステップ)により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長は互いに等しくてもよい。この場合、光共振器内の波長分散の影響を受けることなく、変換当初の光パルスの時間間隔を維持することができる。
【0024】
上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法において、波形制御部(波形制御ステップ)により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長が互いに異なってもよい。この場合、光共振器内の波長分散の影響を受けて、光パルスの時間間隔は変換後に次第に広がるか、もしくは狭まる。そして、本発明者のシミュレーションによれば、各光パルスの中心波長は時間経過とともに次第に一つの波長に収束するので、光パルスの時間間隔は或る大きさ以上は広がらない(または、或る大きさ以下には狭まらない)。また、その大きさは、波長分散などのパラメータを用いて予め算出され得る。従って、この光パルス生成装置及び光パルス生成方法によれば、波形制御部(波形制御ステップ)において実現可能なパルス間隔よりも大きな(または小さな)パルス間隔のレーザ光を出力することができる。
【0025】
上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法において、上記所定期間内にレーザ光の時間波形が1回のみ制御されてもよい。或いは、上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法において、上記所定期間内にレーザ光の時間波形が複数回にわたって制御されてもよい。特に、変換直後の二つ以上の光パルスの中心波長が互いに異なる場合、所定期間内にレーザ光の時間波形が複数回にわたって制御されることにより、その間に光パルスの時間間隔を広げることができ、より広いパルス間隔のレーザ光を出力することができる。
【0026】
上記の光パルス生成装置及び光パルス生成方法において、二つ以上の光パルスの時間間隔は10フェムト秒以上10ナノ秒以下であってもよい。
【0027】
以下、添付図面を参照しながら、光パルス生成装置及び光パルス生成方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではない。以下の説明において、特に説明が無い限り、光パルスの時間間隔とは光パルスの光強度がピークとなるタイミングの間隔を意味する。
【0028】
図1は、本開示の一実施形態に係る光パルス生成装置の構成を示すブロック図である。
図1において、実線の矢印は光路(光ファイバまたは空間的な)を表し、破線の矢印は電気配線を表す。
図1に示すように、本実施形態の光パルス生成装置1Aは、モード同期型の光共振器20と、波形制御部30と、を備える。
【0029】
光共振器20は、レーザ光を生成及び増幅して出力する光学系(モードロックレーザ)である。
図2は、光共振器20の模式図である。本実施形態では、光共振器20の一例としてリング共振器を示す。光共振器20としては、リング共振器に代えて、例えば8の字形レーザ共振器、9の字形レーザ共振器、またはファブリーペロー共振器などを採用してもよい。本実施形態の光共振器20は、光増幅媒質21、アイソレータ22、分割器23、及び過飽和吸収体24を含んで構成される。また、光共振器20は、第1の光路201、第2の光路202、および第3の光路203を含む。これらの光路201,202,203は、例えば光ファイバによって構成される。なお、
図1においてはアイソレータ22の図示を省略している。
【0030】
光増幅媒質21は、第1の光路201上に配置され、光共振器20の外部から供給される励起光(ポンプ光)Paを受けて励起される。光増幅媒質21は、励起光Paとは波長が異なる、光共振器20内を周回する光が通過した際にその光を増幅する。光増幅媒質21は、例えば、エルビウム添加ファイバ、イッテルビウム添加ファイバ、ツリウム添加ファイバ、またはネオジウム添加YAG結晶である。光共振器20内を周回する光は、光増幅媒質21により増幅されながら発振し、レーザ光となる。
【0031】
過飽和吸収体24は、強度に依存した吸収率変化によってモード同期を行う要素である。過飽和吸収体24は、光増幅媒質21とともに第1の光路201上に配置される。過飽和吸収体24は、光共振器20内において生じたレーザ光を飽和するまで吸収し、飽和後に入射されたレーザ光の透過率を飽和前に比べて高め、そして再び不飽和状態に戻り、透過率を低くする。これにより、超短パルスレーザ光が周期的に生成される。過飽和吸収体24は、例えばカーボンナノチューブまたは半導体可飽和吸収ミラー(SESAM:Semiconductor Saturable Absorber Mirror)である。なお、モード同期のための方式としては、過飽和吸収体24を用いる方式に代えて、例えば非線形偏波回転、非線形位相シフト、または光カー効果による自己モード同期(カーレンズモード同期)などを採用してもよい。
【0032】
アイソレータ22は、第1の光路201上に配置され、光共振器20内を周回する光の逆進を防止する。分割器23は、第1の光路201上に配置され、光共振器20内にて生成されたレーザ光の一部であるレーザ光Poutを分割して出力する。分割器23は、例えばファイバカプラまたはビームスプリッタにより構成され得る。
【0033】
波形制御部30は、光共振器20内に配置されている。波形制御部30は、所定期間内に単一パルスの超短パルスレーザ光の時間波形を制御して、単一パルスの超短パルスレーザ光を、光共振器20の周期内にある二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列に変換する。所定期間とは、例えば光共振器20内を光パルスが一周回する時間である。或いは、光共振器20内を光パルスが複数回(例えば10回以下)にわたって周回する時間である。所定期間の長さは、光共振器20の光路長に依存する。光共振器20は、所定期間ののちに、この光パルス列を増幅してレーザ光として出力する。本実施形態の波形制御部30は、光路スイッチ31、波形制御デバイス32、及び結合器33を含んで構成される。なお、
図1においては結合器33の図示を省略している。
【0034】
光路スイッチ31は、少なくとも1つの入力ポートと、少なくとも2つの出力ポートとを有する。第1の光路201の末端は、光路スイッチ31の入力ポートに光結合されている。第2の光路202の先端は、光路スイッチ31の出力ポートに光結合されている。第3の光路203の先端は、光路スイッチ31の別の出力ポートに光結合されている。結合器33は、少なくとも2つの入力ポートと、少なくとも1つの出力ポートとを有する。第2の光路202の末端は、結合器33の入力ポートに光結合されている。第3の光路203の末端は、結合器33の別の入力ポートに光結合されている。結合器33の出力ポートは、第1の光路201の先端に光結合されている。光路スイッチ31は、第1の光路201から到達したレーザ光の進路として、第2の光路202及び第3の光路203のうちいずれか一方を選択する。光路スイッチ31は、上記所定期間では第3の光路203を選択し、他の期間では第2の光路202を選択する。光路スイッチ31は、例えば電気光学変調器(EOモジュレータ)及び偏光ビームスプリッタの組み合わせ、音響光学変調器(AOモジュレータ)、又はマッハツェンダー光変調器によって構成され得る。
【0035】
波形制御デバイス32は、第3の光路203上に配置されている。波形制御デバイス32は、レーザ光の時間波形を制御して、レーザ光を光共振器20の周期内にある二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列に変換する。波形制御デバイス32により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長は、互いに等しくてもよく、異なってもよい。光パルス列を構成する各光パルスの強度は、光共振器20内のノイズより大きければよい。
【0036】
図3は、波形制御デバイス32の例としてパルスシェーパ32Aの構成例を示す図である。このパルスシェーパ32Aは、回折格子321、レンズ322、空間光変調器(SLM)323、レンズ324、及び回折格子325を有する。回折格子321は本実施形態における分光素子であり、第3の光路203を介して光路スイッチ31の別の出力ポートと光学的に結合されている。SLM323はレンズ322を介して回折格子321と光学的に結合されている。回折格子321は、超短パルスレーザ光Pbに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子321に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。
【0037】
超短パルスレーザ光Pbは、回折格子321に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光Pcは、レンズ322によって波長成分毎に集光され、SLM323の変調面に結像される。レンズ322は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0038】
SLM323は、超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換するために、回折格子321から出力された複数の波長成分の位相が相互にずれるように複数の波長成分の位相を変調する。そのために、SLM323は、
図1に示される波形制御用コントローラ41から制御信号を受けて、超短パルスレーザ光Pbの位相スペクトル変調と強度スペクトル変調とを同時に行う。なお、SLM323は、位相スペクトル変調のみ、または強度スペクトル変調のみを行ってもよい。SLM323は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM323はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図には透過型のSLM323が示されているが、SLM323は反射型であってもよい。その場合、回折格子321と回折格子325とは共通の回折格子によって構成されてもよく、レンズ322とレンズ324とは共通のレンズによって構成されてもよい。
【0039】
図4は、SLM323の変調面326を示す図である。
図4に示すように、変調面326には、複数の変調領域327が或る方向AAに沿って並んでおり、各変調領域327は方向AAと交差する方向ABに延びている。方向AAは、回折格子321による分光方向である。この変調面326はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域327のそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM323は、各変調領域327において、入射した各波長成分の位相スペクトル及び強度スペクトルを他の波長成分から独立して変調する。なお、本実施形態のSLM323は位相変調型であるため、強度スペクトル変調は、変調面326に呈示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0040】
SLM323によって変調された変調光Pdの各波長成分は、レンズ324によって回折格子325上の一点に集められる。このときのレンズ324は、変調光Pdを集光する集光光学系として機能する。レンズ324は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子325は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ324及び回折格子325により、変調光Pdの複数の波長成分は互いに集光・合波されて、二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列Peとなる。光パルス列Peに含まれる二つ以上の超短光パルスの本数及び時間間隔は可変であり、SLM323に提供される波形制御用コントローラ41からの制御信号を変更することによって自在に設定され得る。
【0041】
再び
図1を参照する。光パルス生成装置1Aは、ポンプレーザ42と、電流制御器43と、ファンクションジェネレータ44と、分割器45と、光検出器46と、パルスジェネレータ47と、を更に備える。
【0042】
ポンプレーザ42は、光共振器20と光学的に結合され、光増幅媒質21に励起光Paを与える光源である。
図2に示すように、光共振器20の第1の光路201内には結合器25が配置されており、ポンプレーザ42はこの結合器25を介して光増幅媒質21と光学的に結合されている。ポンプレーザ42は、例えばレーザダイオードを含むレーザ装置、固体レーザ、またはファイバレーザによって構成され得る。ポンプレーザ42と結合器25とは、例えば光ファイバを介して光学的に結合される。励起光の光強度は可変であり、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど、励起光の光強度は大きく設定される。
【0043】
電流制御器43は、ポンプレーザ42と電気的に接続されており、ポンプレーザ42へ駆動電流Jdを供給するとともに、駆動電流Jdの大きさを制御する。電流制御器43は、後述するファンクションジェネレータ44から制御信号Sc1を受け、その制御信号Sc1に基づいて駆動電流Jdの大きさを制御する。電流制御器43は、例えばトランジスタを含むアナログ回路によって構成され得る。
【0044】
ファンクションジェネレータ44は、電流制御器43へ制御信号Sc1を提供する。また、ファンクションジェネレータ44は、光路スイッチ31を制御するスイッチ制御部として機能する。すなわち、ファンクションジェネレータ44は、光路スイッチ31の制御端子と電気的に接続されており、第2の光路202と第3の光路203とを切り替えるための制御信号Sc2を光路スイッチ31の制御端子に提供する。前述したように、ファンクションジェネレータ44は、所定期間において第3の光路203を選択し、他の期間において第2の光路202を選択するように光路スイッチ31を制御する。
【0045】
分割器45は、分割器23の一方の出力ポートと光学的に結合され、光共振器20から出力されたレーザ光Poutをレーザ光Pout1とレーザ光Pout2とに分割する。一方のレーザ光Pout1は、光パルス生成装置1Aの外部へ出力される。他方のレーザ光Pout2は、光検出器46に入力される。分割器45は、例えばファイバカプラまたはビームスプリッタにより構成され得る。
【0046】
光検出器46は、光共振器20から出力されたレーザ光Poutを検出して、電気的な検出信号Sdを生成する。本実施形態では、光検出器46は、分割器45によりレーザ光Poutから分割された一方のレーザ光Pout2の光強度に応じた電気的な検出信号Sdを生成する。光検出器46は、例えばフォトダイオードまたは光電子増倍管を含んで構成され得る。光検出器46は、主に超短パルスレーザであるレーザ光Poutの出力タイミングを検知するために用いられる。
【0047】
パルスジェネレータ47は、光検出器46と電気的に接続されている。パルスジェネレータ47は、光検出器46から検出信号Sdを受け、検出信号Sdと同期したパルス信号である同期信号Syを生成する。パルスジェネレータ47は、生成した同期信号Syをファンクションジェネレータ44に提供する。ファンクションジェネレータ44は、この同期信号Syに基づいて、光路スイッチ31の切り替えタイミング(具体的には、第3の光路203を選択するタイミング)、および駆動電流Jdの大きさを変更するタイミングを決定する。
【0048】
続いて、上記の構成を備える本実施形態の光パルス生成装置1Aの動作とともに、本実施形態に係る光パルス生成方法について説明する。
図5は、光パルス生成方法を示すフローチャートである。
図6~
図9は、光パルス生成装置1Aの動作における各段階を示す図である。
【0049】
まず、ファンクションジェネレータ44は、光路スイッチ31を、波形制御デバイス32を通過しない光路、すなわち第2の光路202に設定する(
図5のステップST11)。なお、各図において矢印Bは光路スイッチ31の選択方向を示す。次に、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光共振器20内にてレーザ光が単一パルスで発振する光強度に設定する。そして、ポンプレーザ42により光共振器20内の光増幅媒質21に励起光Paを与え、光増幅媒質21の励起を開始する(
図5のステップST12)。励起を開始した当初は、
図6(a)に示すように、ノイズを多く含む光Pnが光共振器20内を周回する。
図6(b)に示すように、時間の経過と共にノイズの中から1つの光パルスが増幅され、単一の光パルスからなる超短パルスレーザ光Pbが光共振器20内で生成及び増幅される(レーザ光生成ステップ)。超短パルスレーザ光Pbは、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される。
【0050】
図7(a)に示すように、ファンクションジェネレータ44は、光路スイッチ31を、波形制御デバイス32を通過する光路、すなわち第3の光路203に設定する(
図5のステップST13)。光共振器20内を周回している超短パルスレーザ光Pbは、これにより波形制御デバイス32に導かれる。
【0051】
波形制御デバイス32は、超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御して、
図7(b)に示すように、超短パルスレーザ光Pbを、光共振器20の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列Peに変換する(波形制御ステップ、
図5のステップST14)。前述したように、この光パルス列Peに含まれる二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔は、波形制御用コントローラ41によって自在に制御される。二つ以上の光パルスの時間間隔は、例えば10フェムト秒以上10ナノ秒以下である。各光パルスの半値全幅は、例えば10フェムト秒以上1ナノ秒以下である。各光パルスの強度は、光共振器20内のノイズより大きければよい。このステップST14により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長は、互いに等しくてもよく、異なってもよい。
【0052】
光路スイッチ31を第3の光路203に設定してから所定期間が経過した後、ファンクションジェネレータ44は、光路スイッチ31を、波形制御デバイス32を通過しない光路、すなわち第2の光路202に再設定する(
図8(a)、
図5のステップST15)。光共振器20内に導入された光パルス列Peは、これにより第1の光路201及び第2の光路202からなる光共振器内に閉じ込められる。前述したように、所定期間は、例えば光共振器20内を光パルスが一周回する時間である。この場合、所定期間において、光パルス列Peへの変換操作は1回のみ行われる。或いは、所定期間は、光共振器20内を光パルスが複数回にわたって周回する時間であってもよい。この場合、所定期間において、光パルス列Peへの変換操作は複数回にわたって行われる。
【0053】
ファンクションジェネレータ44は、電流制御器43を通じて、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光パルス列Peを構成する光パルスの本数に応じた光強度に変更する(
図8(b)、
図5のステップST16)。このとき、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど、励起光Paの光強度を大きくする。典型的には、光パルス列Peを構成する光パルスの本数がN(Nは2以上の整数)である場合、励起光Paの光強度は、単一の光パルスからなる超短パルスレーザ光Pbを生成する際の励起光Paの光強度のN倍である。なお、ステップST15及びST16の順序は互いに入れ替わってもよい。
【0054】
その後、
図9に示すように、光パルス列Peは光共振器20内においてレーザ増幅され、超短パルスレーザ光Pbとは別の、二以上の光パルスを含む超短パルスレーザ光となる。この超短パルスレーザ光は、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される(出力ステップ、
図5のステップST17)。
【0055】
二以上の光パルスを含む超短パルスレーザ光を任意の時間だけ光共振器20から出力したのち、光パルス列Peを構成する光パルスの本数、光パルス列Peを構成する光パルスの時間間隔、又はその双方を変更するか否かを判断する(
図5のステップST18)。これらの何れも変更しない場合(ステップST18;NO)、励起光Paを消光して光パルス生成装置1Aの動作を終了する。これらのうち何れかを変更する場合(ステップST18;YES)、ファンクションジェネレータ44は、電流制御器43を通じて、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、単一の光パルスに対応する光強度に変更(減光)する(
図5のステップST19)。これにより、光共振器20内にてレーザ発振する光パルスの本数が一つに減少し、該一つの光パルスが光共振器20内にてレーザ光として増幅される。その後、ステップST13~ST18を繰り返す。
【0056】
以上の構成を備える本実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法によって得られる効果について説明する。モード同期型の光共振器では、光増幅媒質が励起されると、レーザ光である超短光パルスが周期的に生成されて出力される。そして、励起光強度などの発振条件によっては、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスが生成される。しかしながら、これまでの報告では、二つ以上の超短光パルスの時間間隔はランダムであり、時間間隔を制御することは実現されていなかった。そこで、本発明者は、このランダムな時間間隔及び本数を自在に制御する方式を検討した。その結果、モード同期型の光共振器内において瞬間的な波形制御を行うことにより、超短光パルスの時間間隔及び本数を自在に変更可能であることを見出した。
【0057】
すなわち、本実施形態の光パルス生成装置1Aでは、モード同期型の光共振器20内に波形制御部30が設けられている。波形制御部30は、所定期間内に超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御して、超短パルスレーザ光Pbを二つ以上の光パルスを含む光パルス列Peに変換する。同様に、本実施形態の光パルス生成方法では、波形制御ステップST14において、光共振器20内の超短パルスレーザ光Pbの時間波形を所定期間内に制御し、超短パルスレーザ光Pbを、光共振器20の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列Peに変換する。これらの場合、光増幅媒質21に適切な大きさの励起光Paを与え続けると、光共振器20内において光パルス列Peが増幅され、レーザ光Poutとして出力される。このレーザ光Poutに含まれる光パルスの本数は、当初の光パルス列Peにおける光パルスの本数と一致する。また、このレーザ光Poutに含まれる光パルスの時間間隔は、当初の光パルス列Peにおける光パルスの時間間隔と一致するか、又は、当初の光パルス列Peにおける光パルスの時間間隔から理論的に算出される時間間隔と一致する。従って、本実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法によれば、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光Poutを、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる。
【0058】
本実施形態のように、二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔は可変であってもよい。そして、出力ステップST17ののち、二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔のうち少なくとも一方を変更して、波形制御ステップST14及び出力ステップST17を繰り返してもよい。前述したように、バーストレーザ加工等においては、パルス列のパルス本数およびパルス同士の時間間隔が重要なパラメータとなる。光パルス同士の時間間隔が1ナノ秒未満である超短パルス列は、例えば干渉計を用いても生成され得る。しかし、干渉計を用いる方法ではパルス列のパルス本数およびパルス同士の時間間隔の変更に手間がかかり、これらを頻繁に変更することはスループットの低下につながる。したがって、干渉計を用いる方法は、一定の対象物に同一の加工を繰り返し行う場合には適しているが、対象物の様々な材料、形状に応じて加工条件を最適化しながら加工を繰り返し行う場合には実用上不適である。これに対し、本実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法では、増幅前の光パルス列Peの光強度は、
図6(a)に示す光Pnのノイズより大きい程度であればよいため、波形制御部30において生成される光パルス列Peのパルス本数及び時間間隔を可変とすることは、例えば
図3に示されたパルスシェーパ32Aなどを用いて容易に実現可能である。従って、本実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法によれば、対象物の様々な材料、形状に応じて加工条件を最適化しながら加工を繰り返し行うことを容易にできる。
【0059】
本実施形態のように、二つ以上の光パルスの本数が可変である場合、励起光Paの光強度が可変であり、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど励起光Paの光強度が大きくてもよい。また、二つ以上の光パルスの本数を変更しつつ波形制御ステップST14及び出力ステップST17を繰り返す場合、出力ステップにおいて(より正確には、出力ステップより前のステップST16において)、光増幅媒質21へ与える励起光Paの光強度を、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど大きくしてもよい。光パルスの本数に対して励起光Paの光強度が小さ過ぎると、一部の光パルスが十分に増幅されずに消えてしまうおそれがある。また、光パルスの本数に対して励起光Paの光強度が大き過ぎると、光パルス列Peと関係の無いノイズの一部が増幅されて光パルスの本数が意図せず増えてしまうおそれがある。上記のように、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど励起光Paの光強度を大きくすることによって、光パルスの本数に応じて適切な光強度の励起光Paを光増幅媒質21に与えることが可能になる。
【0060】
本実施形態のように、出力ステップST17ののち波形制御ステップST14を繰り返す前に、光増幅媒質21へ与える励起光Paの光強度を、光パルス列Peを構成する光パルスの本数に対応する大きさから一つの光パルスに対応する大きさに変更することにより、光パルスの本数を一つに減少させ、該一つの光パルスを光共振器20内にて超短パルスレーザ光Pbとして増幅してもよい。このように、波形制御ステップST14において二つ以上の光パルスを生成する前に必ず光パルスの本数を一つのみに減じることにより、その後の波形制御ステップST14において任意の数の光パルスを安定して生成することができる。なお、後述するシミュレーションによれば、励起光Paの光強度を、二つ以上の光パルスに対応する光強度から単一の光パルスに対応する光強度に減じると、二つ以上の光パルスのうち一つを残して他の光パルスは消滅する。
【0061】
本実施形態のように、波形制御部30は、光路スイッチ31と、超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御して超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換する波形制御デバイス32と、を有してもよい。光共振器20は、光路スイッチ31の1つの入力ポートに光結合された一端を有する第1の光路201と、光路スイッチ31の1つの出力ポートに光結合された一端、および第1の光路201の他端に光結合された他端を有する第2の光路202と、光路スイッチ31の他の1つの出力ポートに光結合された一端、および第1の光路201の他端に光結合された他端を有する第3の光路203と、を含んでもよい。そして、光増幅媒質21及び過飽和吸収体24は第1の光路201上に配置され、波形制御デバイス32は第3の光路203上に配置され、光路スイッチ31は、所定期間では第3の光路203を選択し、他の期間では第2の光路202を選択してもよい。この場合、波形制御部30が所定期間内に限って光共振器20内のレーザ光の時間波形を制御することを容易に実現することができる。
【0062】
本実施形態のように、光パルス生成装置1Aは、光共振器20と光学的に結合され、光共振器20から出力されたレーザ光Loutを検出して電気的な検出信号Sdを生成する光検出器46と、光路スイッチ31を制御するスイッチ制御部としてのファンクションジェネレータ44と、を更に備えてもよい。そして、ファンクションジェネレータ44は、光検出器46からの検出信号Sdに基づいて、第3の光路203を選択するタイミングを決定してもよい。この場合、光路スイッチ31における光路の切り替えタイミングを安定して制御することができる。
【0063】
本実施形態のように、光共振器20は、所定期間の前に単一パルスの超短パルスレーザ光Pbを生成してもよい。そして、波形制御部30は、超短パルスレーザ光Pbを分光する分光素子としての回折格子321と、分光後の光Pcの強度スペクトルもしくは位相スペクトル、又はその双方に対して、超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換するための変調を行い、変調光Pdを出力するSLM323と、変調光Pdを集光して光パルス列Peを出力する合波光学系としての回折格子325と、を有してもよい。例えばこのような波形制御部30によって、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列Peを、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して生成することができる。
【0064】
前述したように、波形制御部30により変換された直後(または波形制御ステップST14により変換された直後)の二つ以上の光パルスの中心波長は、互いに等しくてもよく、互いに異なってもよい。中心波長が互いに等しい場合、光共振器20内の波長分散の影響を受けることなく、変換当初の光パルスの時間間隔を維持することができる。また、中心波長が互いに異なる場合、光共振器20内の波長分散の影響を受けて、光パルスの時間間隔は変換後に次第に広がる。そして、後述するシミュレーションによれば、各光パルスの中心波長は時間経過とともに次第に一つの波長に収束するので、光パルスの時間間隔は或る大きさ以上は広がらない。また、その時間間隔の大きさは、波長分散などのパラメータを用いて予め算出され得る。従って、本実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法によれば、波形制御部30(または波形制御ステップST14)において実現可能なパルス間隔よりも大きなパルス間隔を有するレーザ光Loutを出力することができる。
【0065】
本実施形態のように、光共振器20内を周回するレーザ光の時間波形は、所定期間内に1回のみ制御されてもよく、或いは、所定期間内に複数回にわたって制御されてもよい。特に、変換直後の二つ以上の光パルスの中心波長が互いに異なる場合、所定期間内にレーザ光の時間波形が複数回にわたって制御されることにより、その間に光パルスの時間間隔が広がり、より広いパルス間隔のレーザ光を出力することができる。
【0066】
ここで、
図3に示されたパルスシェーパ32AのSLM323における、単一パルスの超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換するための変調方法について詳細に説明する。レンズ324よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子325よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調は、時間領域における時間強度波形に影響する。従って、パルスシェーパ32Aからの出力光は、SLM323の変調パターンに応じた、超短パルスレーザ光Pbとは異なる様々な時間強度波形を有することができる。
【0067】
図10(a)は、一例として、単パルス状の超短パルスレーザ光Pbのスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)を示し、
図10(b)は、その超短パルスレーザ光Pbの時間強度波形を示す。また、
図11(a)は、一例として、SLM323において矩形波状の位相スペクトル変調を与えたときのパルスシェーパ32Aからの出力光のスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)を示し、
図11(b)は、該出力光の時間強度波形を示す。
図10(a)及び
図11(a)において、横軸は波長(nm)を示し、左の縦軸は強度スペクトルの強度値(任意単位)を示し、右の縦軸は位相スペクトルの位相値(rad)を示す。また、
図10(b)及び
図11(b)において、横軸は時間(フェムト秒)を表し、縦軸は光強度(任意単位)を表す。
【0068】
この例では、矩形波状の位相スペクトル波形を出力光に与えることにより、超短パルスレーザ光Pbのシングルパルスが、高次光を伴うダブルパルスに変換されている。なお、
図11に示されるスペクトル及び波形は一つの例であって、様々な位相スペクトル及び強度スペクトルの組み合わせにより、パルスシェーパ32Aからの出力光の時間強度波形を様々な形状に整形することができる。
【0069】
パルスシェーパ32Aの出力光の時間強度波形を所望の波形に近づけるための位相変調パターンは、SLM323を制御するためのデータ、すなわち複素振幅分布の強度あるいは位相分布の強度のテーブルを含むデータとして構成される。変調パターンは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms(CGH))である。本実施形態では、所望の波形を得る為の位相スペクトルを出力光に与える位相変調用の位相パターンと、所望の波形を得る為の強度スペクトルを出力光に与える強度変調用の位相パターンとを含む位相パターンをSLM323に呈示させる。
【0070】
ここで、所望の時間強度波形は時間領域の関数として表され、位相スペクトルは周波数領域の関数として表される。従って、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトルは、例えば、所望の時間強度波形に基づく反復フーリエ変換によって得られる。
図12は、反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。
【0071】
まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、これらの強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
n(ω)を含む周波数領域の波形関数(a)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数1】
添え字nは、第n回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、位相スペクトル関数Ψ
n(ω)として上述した初期の位相スペクトル関数Ψ
0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0072】
続いて、上記関数(a)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A1)。これにより、時間強度波形関数b
n(t)及び時間位相波形関数Θ
n(t)を含む周波数領域の波形関数(b)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数2】
【0073】
続いて、上記関数(b)に含まれる時間強度波形関数b
n(t)を、所望の波形(例えば光パルスの時間間隔及び本数)に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数3】
【数4】
【0074】
続いて、上記関数(d)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A2)。これにより、強度スペクトル関数B
n(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
n(ω)を含む周波数領域の波形関数(e)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数5】
【0075】
続いて、上記関数(e)に含まれる強度スペクトル関数B
n(ω)を拘束するため、初期の強度スペクトル関数A
0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7))。
【数6】
【0076】
以降、上記の処理(2)~(7)を複数回繰り返し行うことにより、波形関数中の位相スペクトル関数Ψn(ω)が表す位相スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトル形状に近づけることができる。最終的に得られる位相スペクトル関数ΨIFTA(ω)に基づいて、所望の時間強度波形、すなわち二以上の光パルスを含む光パルス列Peを得るための変調パターンが作成される。
【0077】
上述したような反復フーリエ法では、時間強度波形を制御することはできるが、時間強度波形を構成する周波数成分(帯域波長)を制御することはできない。そこで、光パルス列Peを構成する二以上の光パルスの中心波長を互いに異ならせる場合には、以下に説明する算出方法を用いて、変調パターンの基になる位相スペクトル関数及び強度スペクトル関数を算出する。
図13は、位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
【0078】
まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、これらの強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を含む周波数領域の第1波形関数(g)を用意する(処理番号(2-a))。但し、iは虚数である。
【数7】
【0079】
続いて、上記関数(g)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A3)。これにより、時間強度波形関数a
0(t)及び時間位相波形関数φ
0(t)を含む時間領域の第2波形関数(h)が得られる(処理番号(3))。
【数8】
【0080】
続いて、次の数式(i)に示されるように、時間強度波形関数b
0(t)に、所望の波形(例えば光パルスの時間間隔及び本数)に基づく時間強度波形関数Target
0(t)を代入する(処理番号(4-a))。
【数9】
【0081】
続いて、次の数式(j)に示されるように、時間強度波形関数a
0(t)を時間強度波形関数b
0(t)で置き換える。すなわち、上記関数(h)に含まれる時間強度波形関数a
0(t)を、所望の波形(例えば光パルスの時間間隔及び本数)に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(処理番号(5))。
【数10】
【0082】
続いて、置き換え後の第2波形関数(j)のスペクトログラムが、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムに近づくように第2波形関数を修正する。まず、置き換え後の第2波形関数(j)に対して時間-周波数変換を施すことにより、第2波形関数(j)をスペクトログラムSG0,k(ω,t)に変換する(図中の処理番号(5-a))。添え字kは、第k回目の変換処理を表す。
【0083】
ここで、時間-周波数変換とは、時間波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(スペクトル強度)からなる3次元情報に変換することをいう。また、本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、スペクトル強度)を「スペクトログラム」と定義する。時間-周波数変換としては、例えば、短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)やウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、モルレーウェーブレット変換)などがある。
【0084】
また、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を取得する。このターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分)と概ね同値であり、処理番号(5-b)のターゲットスペクトログラム関数において生成される。
【0085】
次に、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)とのパターンマッチングを行い、類似度(どの程度一致しているか)を調べる。本実施形態では、類似度を表す指標として、評価値を算出する。そして、続く処理番号(5-c)では、得られた評価値が、所定の終了条件を満たすか否かの判定を行う。条件を満たせば処理番号(6)へ進み、満たさなければ処理番号(5-d)へ進む。処理番号(5-d)では、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)を任意の時間位相波形関数φ0,k(t)に変更する。時間位相波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。
【0086】
以降、上述した処理番号(5-a)~(5-d)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG
0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される。その後、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(k)を生成する(処理番号(6))。
【数11】
この第3波形関数(k)に含まれる位相スペクトル関数Φ
0,k(ω)が、最終的に得られる所望の位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)となる。この位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)に基づいて、変調パターンが作成される。
【0087】
図14は、スペクトル強度の計算手順を示す図である。なお、処理番号(1)から処理番号(5-c)までは、上述したスペクトル位相の計算手順と同様なので説明を省略する。
【0088】
スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)との類似度を示す評価値が所定の終了条件を満たさない場合、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)は初期値で拘束しつつ、時間強度波形関数b0(t)を任意の時間強度波形関数b0,k(t)に変更する(処理番号(5-e))。時間強度波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。
【0089】
以降、処理番号(5-a)~(5-c)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG
0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される。その後、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(m)を生成する(処理番号(6))。
【数12】
【0090】
続いて、処理番号(7-b)では、第3波形関数(m)に含まれる強度スペクトル関数B0,k(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数B0,k(ω)に係数αを乗じた強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる各波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。全ての波長域において、強度スペクトル関数αB0,k(ω)が入力光のスペクトル強度を超えないようにするためである。
【0091】
一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(本実施形態では初期の強度スペクトル関数A
0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(n)に示されるように、強度スペクトル関数αB
0,k(ω)が強度スペクトル関数A
0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数A
0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数αB
0,k(ω)が強度スペクトル関数A
0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数αB
0,k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数13】
この強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)が、最終的に得られる所望のスペクトル強度として変調パターンの生成に用いられる。
【0092】
そして、位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)により示されるスペクトル位相と、強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)により示されるスペクトル強度とを出力光に与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する。
図15は、ターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)の生成手順の一例を示す図である。ターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分(波長帯域成分))を示すので、ターゲットスペクトログラムの作成は、周波数成分(波長帯域成分)を制御するために極めて重要な工程である。
【0093】
図15に示されるように、まずスペクトル波形(初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期の位相スペクトル関数Φ
0(ω))、並びに所望の時間強度波形関数Target
0(t)を入力する。また、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p
0(t)を入力する(処理番号(1))。次に、例えば
図12に示された反復フーリエ変換法を用いて、時間強度波形関数Target
0(t)を実現するための位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)を算出する(処理番号(2))。続いて、先に得られた位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)を利用した反復フーリエ変換法により、時間強度波形関数Target
0(t)を実現するための強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する(処理番号(3))。ここで、
図16は、強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【0094】
まず、初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。次に、強度スペクトル関数A
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を含む周波数領域の波形関数(o)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数14】
添え字kは、第k回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、強度スペクトル関数A
k(ω)として上記の初期強度スペクトル関数A
k=0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0095】
続いて、上記関数(o)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A5)。これにより、時間強度波形関数b
k(t)を含む周波数領域の波形関数(p)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数15】
【0096】
続いて、上記関数(p)に含まれる時間強度波形関数b
k(t)を、所望の波形(例えば光パルスの時間間隔及び本数)に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数16】
【数17】
【0097】
続いて、上記関数(r)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A6)。これにより、強度スペクトル関数C
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を含む周波数領域の波形関数(s)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数18】
【0098】
続いて、上記関数(s)に含まれる位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を拘束するため、初期の位相スペクトル関数Ψ
0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7-a))。
【数19】
【0099】
また、逆フーリエ変換後の周波数領域における強度スペクトル関数Ck(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数Ck(ω)により表される強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる各波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。
【0100】
一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(例えば初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(u)に示されるように、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数A
k=0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数C
k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数20】
上記関数(s)に含まれる強度スペクトル関数C
k(ω)を、上記数式(u)によるフィルタ処理後の強度スペクトル関数A
k(ω)に置き換える。
【0101】
以降、上記の処理(2)~(7-b)を繰り返し行うことにより、波形関数中の強度スペクトル関数Ak(ω)が表す強度スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する強度スペクトル形状に近づけることができる。最終的に、強度スペクトル関数AIFTA(ω)が得られる。
【0102】
再び
図15を参照する。以上に説明した処理番号(2)、(3)における位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)及び強度スペクトル関数A
IFTA(ω)の算出によって、これらの関数を含む周波数領域の第3波形関数(v)が得られる(処理番号(4))。
【数21】
【0103】
次に、上の波形関数(v)をフーリエ変換する。これにより、時間領域の第4波形関数(w)が得られる(処理番号(5))。
【数22】
【0104】
次に、時間-周波数変換により第4波形関数(w)をスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に変換する(処理番号(6))。そして、処理番号(7)では、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を基にスペクトログラムSGIFTA(ω,t)を修正することにより、ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を生成する。例えば、2次元データにより構成されるスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に現れる特徴的パターンを部分的に切り出し、時間関数p0(t)を基に当該部分の周波数成分の操作を行う。以下、その具体例について詳細に説明する。
【0105】
例えば、所望の時間強度波形関数Target
0(t)として時間間隔が2ピコ秒であるトリプルパルスを設定した場合について考える。このとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図17(a)に示されるような結果となる。なお、
図17(a)において横軸は時間(単位:フェムト秒)を示し、縦軸は波長(単位:nm)を示す。また、スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。このスペクトログラムSG
IFTA(ω,t)において、トリプルパルスは2ピコ秒間隔で時間軸上に分かれたドメインD
1、D
2、及びD
3として現れる。ドメインD
1、D
2、及びD
3の中心(ピーク)波長は800nmである。
【0106】
仮に出力光の時間強度波形のみを制御したい(単にトリプルパルスを得たい)場合には、これらのドメインD
1、D
2、及びD
3を操作する必要はない。しかし、各パルスの周波数(波長)帯域を制御したい場合には、これらのドメインD
1、D
2、及びD
3の操作が必要となる。すなわち、
図17(b)に示されるように、波長軸(縦軸)に沿った方向に各ドメインD
1、D
2、及びD
3を互いに独立して移動させることは、それぞれのパルスの構成周波数(波長帯域)を変更することを意味する。このような各パルスの構成周波数(波長帯域)の変更は、時間関数p
0(t)を基に行われる。
【0107】
例えば、ドメインD
2のピーク波長を800nmで据え置き、ドメインD
1及びD
3のピーク波長がそれぞれ-2nm、+2nmだけ平行移動するように時間関数p
0(t)を記述するとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図17(b)に示されるターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に変化する。例えばスペクトログラムにこのような処理を施すことによって、時間強度波形の形状を変えずに、各パルスの構成周波数(波長帯域)が任意に制御されたターゲットスペクトログラムを作成することができる。
(第1変形例)
【0108】
図18は、上記実施形態の第1変形例に係る光パルス生成装置1Aの動作及び光パルス生成方法を示すフローチャートである。上記実施形態では、励起光Paの光強度を単一パルスの超短パルスレーザ光Pbが生成される光強度とし、この単一パルスの超短パルスレーザ光Pbを波形制御デバイス32が光パルス列Peに変換している。これに対し、本変形例では、励起光Paの光強度を連続波のレーザ光(連続光)が生成される光強度とし、波形制御デバイス32は、この連続波のレーザ光の強度を変調することによりレーザ光を光パルス列Peに変換する。この場合、波形制御デバイス32は、EOM(Electro Optic Modulator)または集積化制御チップによって構成され得る。
【0109】
EOMは、電気光学効果を利用した強度変調素子である。EOMは、光強度を高速で変調することが可能であり、連続波のレーザ光の強度を変調することによりレーザ光を任意の光パルス列Peに変換することができる。集積化制御チップは、例えばEOMやマッハツェンダー干渉計、CMOS回路を一枚の基板上に集積化し小型化したものである。
【0110】
図18に示すように、本変形例では、まず、光路スイッチ31を第2の光路202に設定する(ステップST21)。次に、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光共振器20内にてレーザ光が連続波発振する光強度に設定する。そして、ポンプレーザ42により光共振器20内の光増幅媒質21に励起光Paを与え、光増幅媒質21の励起を開始する(ステップST22)。これにより、光共振器20内にて連続波のレーザ光が生成及び増幅される(レーザ光生成ステップ)。このレーザ光は、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される。
【0111】
次に、光路スイッチ31を第3の光路203に設定する(ステップST23)。光共振器20内にてレーザ発振していたレーザ光は、これにより波形制御デバイス32に導かれる。波形制御デバイス32は、レーザ光の時間波形を制御して、このレーザ光を、光共振器20の周期内にある二つ以上の光パルスを含む光パルス列Peに変換する(波形制御ステップST24)。このステップST24により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長は、互いに等しい。
【0112】
光路スイッチ31を第3の光路203に設定してから所定期間が経過した後、光路スイッチ31を第2の光路202に再設定する(ステップST25)。光共振器20内に導入された光パルス列Peは、これにより第1の光路201及び第2の光路202からなる光共振器内に閉じ込められる。なお、所定期間の長さは上記実施形態と同様である。
【0113】
次に、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光パルス列Peを構成する光パルスの本数に応じた光強度に変更する(ステップST26)。上記実施形態と同様に、このとき、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど、励起光Paの光強度を大きくする。典型的には、光パルス列Peを構成する光パルスの本数がN(Nは2以上の整数)である場合、励起光Paの光強度は、単一の光パルスからなる超短パルスレーザ光Pbを生成する際の励起光Paの光強度のN倍である。なお、ステップST25及びST26の順序は互いに入れ替わってもよい。
【0114】
その後、光パルス列Peは光共振器20内においてレーザ増幅され、二以上の光パルスを含む超短パルスレーザ光となる。超短パルスレーザ光は、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される(出力ステップST27)。
【0115】
超短パルスレーザ光を任意の時間だけ光共振器20から出力したのち、光パルス列Peを構成する光パルスの本数、光パルス列Peを構成する光パルスの時間間隔、又はその双方を変更するか否かを判断する(ステップST28)。これらの何れも変更しない場合(ステップST28;NO)、励起光Paを消光して光パルス生成装置1Aの動作を終了する。これらのうち何れかを変更する場合(ステップST28;YES)、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、連続波に対応する光強度に変更する(ステップST29)。これにより、光共振器20内にて連続波のレーザ光が再び生成・増幅される。その後、ステップST23~ST28を繰り返す。
【0116】
本変形例のように、光共振器20は、所定期間の前に連続波のレーザ光を生成してもよい。そして、波形制御部30は、レーザ光の強度を変調することによりレーザ光を光パルス列Peに変換してもよい。例えばこのような波形制御部30によっても、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列Peを、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して生成することができる。
【0117】
なお、上記の例では第2の光路202及び第3の光路203を光路スイッチ31により選択する構成を採用しているが、本変形例のように連続波のレーザ光を光パルス列Peに変換する場合、高速変調可能な波形制御デバイス32を用いて、光路スイッチ31及び第2の光路202を無くすことも可能である。この場合、波形制御デバイス32をレーザ光が常に通過することとなるが、変調の有/無を高速に制御可能であるため、極めて短時間である所定期間内での1回又は数回のみの変換動作も可能である。
(第2変形例)
【0118】
図19は、上記実施形態の第2変形例に係る光パルス生成装置1Bの構成を示すブロック図である。本変形例の光パルス生成装置1Bは、上記実施形態の波形制御部30に代えて波形制御部34を備える点である。波形制御部34は、偏光スイッチ35と、変更依存型の波形制御デバイス36とを有する。なお、本変形例では、光共振器20は第2の光路202を有しておらず、波形制御部34は光路スイッチ31を有していない。すなわち、光共振器20の光路は第1の光路201及び第3の光路203のみによって構成され、偏光スイッチ35及び波形制御デバイス36は光共振器20内において第3の光路203上に配置されている。
【0119】
偏光スイッチ35は、光共振器20内を周回する超短パルスレーザ光Pbの偏光面を制御する。偏光スイッチ35は、波形制御を行う所定期間においては超短パルスレーザ光Pbの偏光面を第1の偏光面(例えばp偏光面及びs偏光面のうち一方)とし、他の期間においては超短パルスレーザ光Pbの偏光面を第1の偏光面と異なる第2の偏光面(例えばp偏光面及びs偏光面のうち他方)とする。偏光スイッチ35は、上記実施形態の光路スイッチ31と同様のタイミングにて、ファンクションジェネレータ44(スイッチ制御部)によって制御される。ファンクションジェネレータ44は、上記実施形態と同様に、光検出器46からの検出信号Sdに基づいて、超短パルスレーザ光Pbの偏光面を第1の偏光面とするタイミングを決定する。これにより、偏光スイッチ35における偏光の切り替えタイミングを安定して制御することができる。偏光スイッチ35は、例えばEOMによって構成され得る。
【0120】
波形制御デバイス36は、超短パルスレーザ光Pbが第1の偏光面を有する場合には超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御して超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換するが、超短パルスレーザ光Pbが第2の偏光面を有する場合には超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御しない。このような波形制御デバイス36は、例えば
図3に示されたパルスシェーパ32AにおいてSLM323を偏光依存型、例えば液晶型のLCOS(Liquid Crystal on Silicon)-SLMとすることによって容易に実現可能である。すなわち、超短パルスレーザ光Pbが第1の偏光面を有する場合には分光後の光PcをSLM323が位相変調し、超短パルスレーザ光Pbが第2の偏光面を有する場合には分光後の光PcをSLM323が単に透過させる。
【0121】
図20は、本変形例の光パルス生成装置1Bの動作及び光パルス生成方法を示すフローチャートである。まず、ファンクションジェネレータ44は、偏光スイッチ35を、波形制御デバイス36において波形制御されない偏光面、すなわち第2の偏光面に設定する(ステップST31)。次に、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光共振器20内にてレーザ光が単一パルスで発振する光強度に設定する。そして、ポンプレーザ42により光共振器20内の光増幅媒質21に励起光Paを与え、光増幅媒質21の励起を開始する(ステップST32)。これにより、単一の光パルスからなる超短パルスレーザ光Pbが光共振器20内で生成及び増幅される(レーザ光生成ステップ)。超短パルスレーザ光Pbは、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される。
【0122】
次に、ファンクションジェネレータ44は、偏光スイッチ35を、波形制御デバイス36において波形制御される偏光面、すなわち第1の偏光面に設定する(ステップST33)。これにより、波形制御デバイス36において超短パルスレーザ光Pbの波形制御が可能となる。
【0123】
波形制御デバイス36は、超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御して、超短パルスレーザ光Pbを光パルス列Peに変換する(波形制御ステップST34)。この光パルス列Peに含まれる二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔は、波形制御用コントローラ41によって自在に制御される。このステップST34により変換された直後の二つ以上の光パルスの中心波長は、互いに等しくてもよく、異なってもよい。
【0124】
偏光スイッチ35を第1の偏光面に設定してから所定期間が経過した後、ファンクションジェネレータ44は、偏光スイッチ35を、波形制御デバイス36において波形制御されない偏光面、すなわち第2の偏光面に再設定する(ステップST35)。光パルス列Peは、これにより波形制御デバイス36を単に通過するのみとなる。なお、所定期間の長さは上記実施形態と同様である。
【0125】
次に、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、光パルス列Peを構成する光パルスの本数に応じた光強度に変更する(ステップST36)。上記実施形態と同様に、このとき、光パルス列Peを構成する光パルスの本数が多いときほど、励起光Paの光強度を大きくする。典型的には、光パルス列Peを構成する光パルスの本数がN(Nは2以上の整数)である場合、励起光Paの光強度は、単一の光パルスからなる超短パルスレーザ光Pbを生成する際の励起光Paの光強度のN倍である。なお、ステップST35及びST36の順序は互いに入れ替わってもよい。
【0126】
その後、光パルス列Peは光共振器20内においてレーザ増幅され、超短パルスレーザ光Pbとは別の、二以上の光パルスを含む超短パルスレーザ光となる。超短パルスレーザ光は、
図1及び
図2に示されるレーザ光Poutとして、光共振器20から出力される(出力ステップST37)。
【0127】
二以上の光パルスを含む超短パルスレーザ光を任意の時間だけ光共振器20から出力したのち、光パルス列Peを構成する光パルスの本数、光パルス列Peを構成する光パルスの時間間隔、又はその双方を変更するか否かを判断する(ステップST38)。これらの何れも変更しない場合(ステップST38;NO)、励起光Paを消光して光パルス生成装置1Bの動作を終了する。これらのうち何れかを変更する場合(ステップST38;YES)、ポンプレーザ42から出力される励起光Paの光強度を、単一の光パルスに対応する光強度に変更(減光)する(ステップST39)。これにより、光共振器20内にてレーザ発振する光パルスの本数が一つに減少し、該一つの光パルスが光共振器20内にてレーザ光として増幅される。その後、ステップST33~ST38を繰り返す。
【0128】
本変形例の構成であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。そして、波形制御部34が所定期間内に限って超短パルスレーザ光Pbの時間波形を制御する構成を容易に実現することができる。なお、第1変形例の構成に本変形例を組み合わせてもよい。
(実施例)
【0129】
本発明者は、上記実施形態及び各変形例の効果を検証するために、数値計算によるシミュレーションを行った。以下にその結果を示す。なお、このシミュレーションでは、光増幅媒質21としてエルビウム添加光ファイバを、分割器23として光ファイバカプラを、過飽和吸収体24としてカーボンナノチューブを、光路201~203としてシングルモード光ファイバをそれぞれ想定した。
【0130】
まず、本発明者は、モード同期型のファイバレーザにおける多パルス発振を検証するためのシミュレーションを行った。
図21に示すグラフGAは、本シミュレーションにおいて励起開始後0周回目に設定された初期値の例を示すグラフである。グラフGAにおいて、縦軸は波長(単位:nm)を示し、横軸は時間(単位:ps)を示し、色の濃淡は光強度(任意単位)を示す。また、縦軸に沿って描かれたグラフGBは波長と光強度との関係を示し、横軸に沿って描かれたグラフGCは時間と光強度との関係を示す。
図21に示されるように、励起開始直後の初期値においては光成分の殆どをランダムノイズが占めていることがわかる。本シミュレーションは、
図21のような初期値を設定し、周回数を重ねることにより行われた。
【0131】
図22(a)は、本シミュレーションにおける光パルスのピークパワーの周回毎の変化を示すグラフである。
図22(a)において、縦軸はピークパワー(単位:W)を示し、横軸は周回数を示す。
図22(a)を参照すると、このシミュレーションでは800周ほどでレーザ発振状態に到達したことがわかる。また、
図22(b)は、本シミュレーションにおける光増幅媒質の飽和エネルギーと光パルスのピークパワーとの関係を示すグラフである。
図22(b)において、縦軸はピークパワー(単位:W)を示し、横軸は光増幅媒質の飽和エネルギーEsat(単位:pJ)を示す。
図22(b)を参照すると、このシミュレーションでは、飽和エネルギーEsatが400pJを超えない範囲では飽和エネルギーEsatが大きくなるに従ってピークパワーが次第に増大しているが、飽和エネルギーEsatが400pJを超えたあたりから飽和エネルギーEsatとピークパワーとの関係が乱れ始め、飽和エネルギーEsatが500pJを超える範囲ではピークパワーがその直前の半分程度まで落ち込んでいる。このことは、励起光強度を大きくするとダブルパルス発振が生じることを意味し、励起光強度が大きくなるほどパルス数が増加することを示唆している。
【0132】
図23~
図26は、上記のシミュレーションにおいて飽和エネルギーEsatを600pJに固定し、それぞれ異なるランダムノイズを初期値として設定したときに、発生した光パルスの時間波形を示すグラフである。
図23~
図26において、(a)は初期値であるランダムノイズの時間波形を示し、(b)は(a)に対応して発生した光パルスの時間波形を示す。(a),(b)において、縦軸は光強度(任意単位)を示し、横軸は時間(単位:ps)を示す。なお、
図23(b)のパルス間隔は4psであり、
図24(b)のパルス間隔は31psであり、
図25(b)のパルス間隔は26psであり、
図26(b)のパルス間隔は14psであった。この結果から、単に励起光強度を高めてダブルパルス発振させた場合、そのパルス間隔は不定であることがわかる。
【0133】
続いて、上記実施形態の構成によるシミュレーションを行った。
図27~
図30は、その結果を示すグラフである。
図27~
図30において、(a)は1000周回目の時間波形を示し、(b)は2000周回目の時間波形を示し、(c)は5000周回目の時間波形を示す。なお、(a)~(c)において、縦軸は光強度(任意単位)を示し、横軸は時間(単位:ps)を示す。このシミュレーションでは、まずシングルパルスでレーザ発振させ、2000周目において波形制御部30によりこのシングルパルスを光パルス列Peに変換した。このとき、光パルス列Peに含まれる光パルスの時間間隔を100ps(
図27,
図28)及び300ps(
図29,
図30)に設定した。また、飽和エネルギーEsatを2000周目まで300pJに固定し、その後の2001周目以降では600pJに固定した。なお、
図27~
図30の時間波形の0周回目の初期値は、それぞれ
図23(a)~
図26(a)と同じとした。
【0134】
図27~
図30(特に各図の(b)及び(c))を参照すると、上記実施形態の構成では、波形制御部30により与えられた光パルス列Peのパルス本数(2本)及び時間間隔(100psまたは300ps)を維持しながらレーザ発振していることがわかる。このように、上記実施形態の光パルス生成装置1A及び光パルス生成方法によれば、時間的に近接する二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、所定のパルス本数および時間間隔にて安定して再現性良く出力することができる。
【0135】
図31は、上記実施形態における光パルスの時間間隔の制御性を検証した結果を示すグラフである。
図31の(a)~(d)は、光パルス列Peを構成する2つの光パルスの時間間隔をそれぞれ20ps、50ps、100ps、及び150psに設定した場合を示している。なお、飽和エネルギーEsatおよび波形制御タイミングは
図27~
図30と同じである。シミュレーションの結果、レーザ発振後の光パルスの時間間隔はそれぞれ21.3ps、50.2ps、100ps、及び150psとなった。このように、上記実施形態によれば僅かな誤差を含むものの所望のパルス間隔を実現できることがシミュレーションによって示された。
【0136】
図32は、上記実施形態における光パルスの本数の制御性を検証した結果を示すグラフである。
図32の(a)~(d)は、光パルス列Peを構成する光パルスの本数をそれぞれ1本、2本、3本、及び4本に設定した場合を示している。なお、(a)~(d)の各パルス本数に対し、飽和エネルギーEsatをそれぞれ300pJ、600pJ、900pJ、及び1200pJに設定した。光パルスの時間間隔をいずれも50psに設定した。波形制御タイミングは
図27~
図30と同じである。シミュレーションの結果、レーザ発振後の光パルスの本数はそれぞれ1本、2本、3本、及び4本となり、上記実施形態によればレーザ発振後も光パルス列Peのパルス本数が維持されることが示された。
【0137】
次に、光パルス列Peを構成する光パルスの本数を複数回にわたって変化させたシミュレーションについて説明する。
図33は、本シミュレーションにおいて光パルスの本数が変化する様子を示すグラフである。
図33において、縦軸は周回数を示し、横軸は時間(単位:ps)を示し、色の濃淡は光強度(任意単位)を示す。色が淡いほど光強度が大きい。
図34~
図36は、本数変化の各段階においてレーザ発振した光パルス列の時間波形を示すグラフである。
図34~
図36において、縦軸は光強度(任意単位)を示し、横軸は時間(単位:ps)を示す。
図37(a)は、周回数に応じた飽和エネルギーEsatの変化を示すグラフである。
図37(a)において、縦軸は飽和エネルギーEsat(単位:pJ)を示し、横軸は周回数を示す。
図37(b)は、周回数に応じた光パルスのピークパワーの変化を示すグラフである。
図37(b)において、縦軸はピークパワー(単位:W)を示し、横軸は周回数を示す。
【0138】
このシミュレーションでは、0周回~1999周回において、飽和エネルギーEsatを単一パルスに対応する大きさ(約20pJ)に設定した。このとき、
図37(b)に示されるように1500周回あたりでレーザ発振し、単一パルスの超短パルスレーザ光が発生した(
図34(a))。次に、2000周回目において、単一パルスの超短パルスレーザ光を、2本の光パルスからなる光パルス列(時間間隔100ps)に変換するとともに、飽和エネルギーEsatを2本の光パルスに対応する大きさ(約40pJ)に変更し、2000周回~2999周回においてこの光パルス列をレーザ増幅した(
図34(b))。続いて、3000周回~3999周回において、飽和エネルギーEsatを単一パルスに対応する大きさ(約20pJ)に減じた。すると、
図37(b)に示されるように一旦は2本の光パルスのピークパワーが大きく減少するが、
図33に示されるように、3400周回あたりで2本の光パルスのうち1本が消滅し、残りの1本の光パルスがレーザ増幅されて、単一パルスの超短パルスレーザ光に戻った(
図34(c))。
【0139】
続いて、4000周回目において、単一パルスの超短パルスレーザ光を、3本の光パルスからなる光パルス列(時間間隔100ps)に変換するとともに、飽和エネルギーEsatを3本の光パルスに対応する大きさ(約60pJ)に変更し、4000周回~4999周回においてこの光パルス列をレーザ増幅した(
図35(a))。続いて、5000周回~5999周回において、飽和エネルギーEsatを単一パルスに対応する大きさ(約20pJ)に再び減じた。これにより、
図37(b)に示されるように3本の光パルスのピークパワーが一旦大きく減少したのち、
図33に示されるように、5300周回あたりで3本の光パルスのうち1本が消滅し、更に5500周回あたりで他の1本が消滅し、1本の光パルスのみ残存して、単一パルスの超短パルスレーザ光に戻った(
図35(b))。
【0140】
続いて、6000周回目において、単一パルスの超短パルスレーザ光を、4本の光パルスからなる光パルス列(時間間隔100ps)に変換するとともに、飽和エネルギーEsatを4本の光パルスに対応する大きさ(約80pJ)に変更し、6000周回~6999周回においてこの光パルス列をレーザ増幅した(
図35(c))。続いて、7000周回~7999周回において、飽和エネルギーEsatを単一パルスに対応する大きさ(約20pJ)に再び減じた。これにより、
図37(b)に示されるように4本の光パルスのピークパワーが一旦大きく減少したのち、
図33に示されるように、7500周回までに4本の光パルスのうち2本が消滅し、更に7700周回までに他の1本が消滅し、1本の光パルスのみ残存して、単一パルスの超短パルスレーザ光に戻った(
図36(a))。
【0141】
続いて、8000周回目において、単一パルスの超短パルスレーザ光を、時間間隔が等間隔でない3本の光パルスからなる光パルス列(時間間隔100ps,200ps)に変換するとともに、飽和エネルギーEsatを3本の光パルスに対応する大きさ(約60pJ)に変更し、8000周回~8999周回においてこの光パルス列をレーザ増幅した(
図36(b))。続いて、9000周回~10000周回において、飽和エネルギーEsatを単一パルスに対応する大きさ(約20pJ)に再び減じた。これにより、
図37(b)に示されるように3本の光パルスのピークパワーが一旦大きく減少したのち、
図33に示されるように、9300周回までに3本の光パルスのうち2本が消滅し、1本の光パルスのみ残存して、単一パルスの超短パルスレーザ光に戻った(
図36(c))。
【0142】
このシミュレーション結果から、上記実施形態によって、二つ以上の超短光パルスを含む光パルス列からなるレーザ光を、パルス本数および時間間隔を変化させながら安定して再現性良く出力できることがわかる。また、このシミュレーションのように、二以上の光パルスを含むレーザ光を出力したのち光パルスの本数及び時間間隔の少なくとも一方を変更する前に、励起光の光強度を単一の光パルスに対応する大きさに変更することにより光パルスの本数を一つに減少させ、該一つの光パルスを光共振器内にてレーザ光として増幅してもよい。このように、波形制御によって二つ以上の光パルスを生成する前に必ず光パルスの本数を一つに減じることによって、任意の数の光パルスを安定して生成することができる。
【0143】
ここで、光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長を互いに異ならせることによる利点について詳細に説明する。
図38は、スペクトル領域変調型の波形制御器によって生成された19本の光パルスからなる光パルス列の時間波形を示すグラフである。
図38において、縦軸は光強度(任意単位)を示し、横軸は時間(単位:ps)を示す。このグラフに示されるように、スペクトル領域変調型の波形制御器(例えば
図3のパルスシェーパ32A)によって光パルス列を生成すると、光パルス列の時間中心から遠ざかるに従って光パルスのピークパワーが低下する傾向がある。故に、光パルスの時間間隔を拡げるほど損失が増すので、実現可能な光パルスの時間間隔は実質的に制限される。したがって、以下に説明する、光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長を互いに異ならせることによって光パルスの時間間隔を拡張する方法が有効となる。
【0144】
図39は、光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長が互いに等しい場合に、複数回にわたってパルスシェーパ32Aにより時間波形を制御したときの、時間波形の変化を示すグラフである。また、
図40は、光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長が互いに異なる場合に、複数回にわたってパルスシェーパ32Aにより時間波形を制御したときの、時間波形の変化を示すグラフである。
図39及び
図40において、(a)は1回目の波形制御後、(b)は2回目の波形制御後、(c)は3回目の波形制御後、(d)は4回目の波形制御後をそれぞれ示す。
図39(a)~(d)に示されるように、中心波長が等しい場合、複数回にわたって波形を制御すると光パルスの本数および時間間隔が不安定になる。これに対し、
図40(a)~(d)に示されるように、中心波長が異なる場合、複数回にわたって波形を制御すると光パルスの本数を維持しつつ時間間隔が次第に広がる(または狭まる)。さらに、各パルスの中心波長が異なることで、光共振器が有する波長分散に起因して各光パルスの進行速度に違いが生じる。したがって、パルス間隔は、波形制御された量に加えて、拡張もしくは縮小する。
【0145】
しかしながら、このような波長分散を起因とした時間間隔の拡張もしくは縮小は永久に続くわけではない。
図41(a)~(c)は、中心波長が互いに異なる3つの光パルスを示すグラフである。
図41(a)~(c)において、縦軸は光強度(任意単位)を示し、横軸は波長(単位:nm)を示す。
図41(a)の光パルスの中心波長は1553nmであり、
図41(b)の光パルスの中心波長は1550nmであり、
図41(a)の光パルスの中心波長は1547nmである。シミュレーションにおいて、この3つの光パルスを同時に光共振器内にて周回させた結果、各光パルスについて
図42(a)~(c)に示す時間波形に収束した。なお、
図42(a)~(c)はそれぞれ
図41(a)~(c)に対応している。
図42(a)~(c)に示される各光パルスの中心波長は全て1550nmであった。
【0146】
図43は、各光パルスの中心波長が収束する様子を示すグラフである。
図43において、グラフG31は、初期の中心波長が1553nmである光パルスの中心波長の変化を示す。グラフG32は、初期の中心波長が1550nmである光パルスの中心波長の変化を示す。グラフG33は、初期の中心波長が1547nmである光パルスの中心波長の変化を示す。
図43に示すように、およそ150周回までに各光パルスの中心波長が1550nmに収束した。
【0147】
このように、光パルス列を構成する二以上の光パルスの中心波長が初めのうち異なっていても、複数回に亘って波形制御を行うことによって、各光パルスの中心波長は次第に一つの波長に収束する。そして、中心波長が収束した後は、各光パルスの時間間隔はそれ以上広がらず、また狭まらない。そして、拡張後の時間間隔の大きさは、中心波長の差の大きさ、及び光共振器が有する波長分散などから理論的に算出可能である。
【0148】
図44~
図46は、シミュレーションにおいて、中心波長が互いに異なる3本の光パルスへ変換するための波形制御を10周回にわたって行った結果を示すグラフである。
図44~
図46の各図は光パルスの時間波形を示しており、縦軸は光強度(任意単位)、横軸は時間(単位:ps)を示す。
図44(a)は499周回目(波形変換前)の単一パルス(超短パルスレーザ光Pb)を示す。
図44(b),
図44(c),
図45(a),
図45(b),
図45(c),
図46(a),
図46(b),及び
図46(c)は、それぞれ500周回目、501周回目、502周回目、503周回目、504周回目、508周回目、509周回目、及び1000周回目の光パルス列を示す。このシミュレーションでは、500周回目から509周回目まで計10周にわたって連続して波形制御を行った。一回の制御で与える光パルスの時間間隔の増分は10psとした。また、増幅ファイバにおけるゲインの波長依存性を起因とするパルス列の強度ばらつきを補正するため、各パルスの強度を調整した。
【0149】
また、
図47(a)は各光パルスのピーク位置の変化を示すグラフであり、
図47(b)は
図47(a)の500周回目~510周回目の部分を拡大して示すグラフである。
図47において、縦軸はピーク位置(単位:ps、中央の光パルスのピーク位置を0とする)、横軸は周回数を示す。
【0150】
図44~
図47に示すように、中心波長が互いに異なる3本の光パルスの時間間隔は、波形制御を繰り返すたびに拡大し、509周回目で設計通りの100psとなった。その後、波形制御を終えてから暫くは時間波形が緩やかに拡大し、600周回目あたりで光パルスの時間間隔はそれ以上広がらなくなり、各光パルスのピーク位置が安定した。安定後の時間間隔は、このシミュレーションでは121psであった。波形制御を終えてからも時間波形が拡大するのは、光共振器20内の光ファイバの波長分散(群速度分散)の影響による。従って、光パルスの時間間隔を正確に制御するためには、波長分散(群速度分散)を考慮する必要がある。なお、このシミュレーションでは時間波形制御を複数周回にわたって行ったが、単一の周回のみ時間波形制御を行っても、波長分散(群速度分散)により光パルスの時間間隔を拡大させることが可能である。
【0151】
本開示の光パルス生成装置および光パルス生成方法は、上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では光パルス列Peを構成する二つ以上の光パルスの本数及び時間間隔が可変である場合について説明したが、光パルスの本数及び時間間隔のうちいずれか一方のみ可変であってもよく、光パルスの本数及び時間間隔の双方が固定であってもよい。
【0152】
また、上記実施形態では波形制御デバイス32としてパルスシェーパ32Aを例示したが、波形制御デバイス32は、AOPDF(Acousto-optic programmable dispersive filter)、分割器及び遅延器の組み合わせ、または集積化制御チップなどによって構成されてもよい。
【0153】
AOPDFは、音響光学素子を含んで構成されたデバイスである。音響光学素子に対して音波を適切に与えることによって、音響光学素子を通過する光の強度スペクトルと位相スペクトルとを制御することができる。これにより、入射した超短光パルスに対して周波数領域での制御を行い、光パルス列に変換することができる。
【0154】
図48は、波形制御デバイス32の一例として、分割器及び遅延器の組み合わせからなるパルススプリッタ32Bを示す模式図である。このパルススプリッタ32Bは、分割器371及び372、結合器373及び374、ディレイライン381及び382、アッテネータ(強度減衰器)391~394、並びにミラー401~404によって主に構成される。このパルススプリッタ32Bに単一光パルスP1(
図1の超短パルスレーザ光Pbに相当)が入力されると、この単一光パルスP1は分割器371によって二分岐される。分岐された一方の単一光パルスP11は、アッテネータ391を通過して結合器373に達する。分岐された他方の単一光パルスP12は、ディレイライン381及びアッテネータ392を通過して結合器373に達する。これらの単一光パルスP11,P12は、ディレイライン381による時間差をもって結合器373にて結合され、2本の光パルスを含む光パルス列P2となる。
【0155】
光パルス列P2は分割器372によって二分岐される。分岐された一方の光パルス列P21は、ディレイライン382及びアッテネータ393を通過して結合器374に達する。分岐された他方の光パルス列P22は、アッテネータ394を通過して結合器374に達する。これらの光パルス列P21,P22は、ディレイライン382による時間差をもって結合器374にて結合され、4本の光パルスを含む光パルス列P3となる。この光パルス列P3が、
図1に示された光パルス列Peとして出力される。
【0156】
なお、このパルススプリッタ32Bにおいては、分割器の個数を変更することにより、光パルス列を構成する光パルスの本数を変更することが可能である。また、ディレイラインにおける遅延量を変更することにより、光パルス列を構成する光パルスの時間間隔を変更することが可能である。
【0157】
また、集積化制御チップは、例えば
図48に示されたパルススプリッタ32Bや光変調器、CMOS回路を一枚の基板上に集積化し小型化したものである。
【符号の説明】
【0158】
1A,1B…光パルス生成装置、20…光共振器、21…光増幅媒質、22…アイソレータ、23…分割器、24…過飽和吸収体、25…結合器、30…波形制御部、31…光路スイッチ、32…波形制御デバイス、32A…パルスシェーパ、33…結合器、34…波形制御部、35…偏光スイッチ、36…波形制御デバイス、41…波形制御用コントローラ、42…ポンプレーザ、43…電流制御器、44…ファンクションジェネレータ、45…分割器、46…光検出器、47…パルスジェネレータ、201…第1の光路、202…第2の光路、203…第3の光路、321…回折格子、322…レンズ、323…空間光変調器(SLM)、324…レンズ、325…回折格子、326…変調面、327…変調領域、AA,AB…方向、Jd…駆動電流、Lout…レーザ光、Pa…励起光、Pb…超短パルスレーザ光、Pc…光、Pd…変調光、Pe…光パルス列、Pn…光、Pout,Pout1,Pout2…レーザ光、Sc1,Sc2…制御信号、Sd…検出信号、ST14,ST24,ST34…波形制御ステップ、ST17,ST27,ST37…出力ステップ、Sy…同期信号。