(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098232
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】エレクトレット材料及びエレクトレット材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/119 20060101AFI20220624BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20220624BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20220624BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C04B35/119
H01L41/187
H01L41/43
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211648
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】脇原 義範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 治英
(57)【要約】
【課題】 耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレット材料を提供する。
【解決手段】 ジルコニアからなる第1相と、上記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有するエレクトレット材料であって、上記第1相は、上記第2相の中で分散して点在し、上記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むことを特徴とするエレクトレット材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアからなる第1相と、前記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有するエレクトレット材料であって、
前記第1相は、前記第2相の中で分散して点在し、
前記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むことを特徴とするエレクトレット材料。
【請求項2】
前記準安定相は、正方晶ジルコニアである請求項1に記載のエレクトレット材料。
【請求項3】
前記第1相は、安定化剤を含有していない、請求項1または2に記載のエレクトレット材料。
【請求項4】
前記第1相はさらに安定化剤を含有しており、
前記第1相中の前記安定化剤の含有量は、5mol%以下である請求項1または2に記載のエレクトレット材料。
【請求項5】
前記エレクトレット材料における前記ジルコニアの含有量は、5wt%~15wt%である請求項1~4のいずれか1項に記載のエレクトレット材料。
【請求項6】
前記第1相の少なくとも一部は、扁平形状で存在しており、前記扁平形状の配向方向が揃っている請求項1~5のいずれか1項に記載のエレクトレット材料。
【請求項7】
前記扁平形状の最大長さは、0.2μm~10μmである請求項6に記載のエレクトレット材料。
【請求項8】
気孔率が0.01%~0.5%である請求項1~7のいずれか1項に記載のエレクトレット材料。
【請求項9】
前記酸化物系セラミックスは、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含む請求項1~8のいずれか1項に記載のエレクトレット材料。
【請求項10】
ジルコニアからなる第1相と、前記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有し、前記第1相は、前記第2相の中で分散して点在し、前記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むエレクトレット材料の製造方法であって、
前記ジルコニア、前記酸化物系セラミックス及び有機バインダを混合した混合物を準備する混合物準備工程と、
前記混合物を所定の形状に成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体から前記有機バインダを除去する脱脂工程と、
前記有機バインダが除去された前記成形体を焼結させる焼結工程と、
からなることを特徴とするエレクトレット材料の製造方法。
【請求項11】
前記準安定相は、正方晶ジルコニアである請求項10に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項12】
前記混合物準備工程で用いられる前記ジルコニアは、安定化剤を含んでいない、請求項10または11に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項13】
前記混合物準備工程で用いられる前記ジルコニアは、安定化剤を含んでおり、
前記ジルコニア中の前記安定化剤の含有量は、5mol%以下である請求項10または11に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項14】
前記焼結工程における焼結温度が、1300℃~1500℃である請求項10~13のいずれか1項に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項15】
前記成形工程または前記焼結工程において、前記成形体に一軸加圧を加える請求項10~14のいずれか1項に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項16】
前記一軸加圧は前記焼結工程において行われ、
前記一軸加圧の面圧は、15MPa~150MPaである、請求項15に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項17】
前記混合物中に占める前記ジルコニアと前記酸化物系セラミックスの合計重量に対する前記ジルコニアの重量割合は、5wt%~15wt%である請求項10~16のいずれか1項に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【請求項18】
前記酸化物系セラミックスが、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含む請求項10~17のいずれか1項に記載のエレクトレット材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット材料及びエレクトレット材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石のように、ある種の誘電体において、電界が消失した後において誘電分極が残留する場合がある。このような物質は、磁石と対比して電石(エレクトレット)と呼ばれ、集塵機等のフィルタ、マイクロフォン等に用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイミド樹脂と強誘電性セラミックス粒子とを有する化合物をエレクトレット化してなる高分子複合圧電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、150℃程度の高温下でも長期に使用が可能なことを開示している。しかしながら、特許文献1に記載された圧電体は、耐熱性がまだ充分ではなく、さらに、高分子の粘弾性によって、分極の緩和が生じてしまい、長期にわたって分極を維持することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレット材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトレット材料は、ジルコニアからなる第1相と、上記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有するエレクトレット材料であって、上記第1相は、上記第2相の中で分散して点在し、上記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のエレクトレット材料は、ジルコニアからなる第1相が、結晶系が室温において準安定な準安定相を含む。準安定相を含む第1相は、第2相の中で分散して点在しているので、焼結後、冷却の過程で大きな体積膨張を伴う準安定相から安定相への相変化が阻害され、室温まで冷却しても準安定相が一部残留している。このため強い圧縮応力が加わるとともに、双極子の復元力が拘束されるので分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。また、高い温度まで安定なセラミックス材料のみで形成されているため、高温で使用可能な優れた耐熱性を備える。
【0009】
本発明のエレクトレット材料においては、上記準安定相は、正方晶ジルコニアであることが好ましい。
準安定相が正方晶ジルコニアであると、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。
【0010】
本発明のエレクトレット材料においては、上記第1相は、安定化剤を含有していないことが好ましい。
第1相が安定化剤を含有していないと、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0011】
本発明のエレクトレット材料においては、上記第1相はさらに安定化剤を含有しており、上記第1相中の上記安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましい。
第1相に含まれる安定化剤の含有量が5mol%以下であれば、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化がより大きくなるため、第2相との相互作用がより大きくなり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0012】
本発明のエレクトレット材料において、上記ジルコニアの含有量は、5wt%~15wt%であることが好ましい。
ジルコニアの含有量が5wt%以上であると、充分な分極作用を発揮できエレクトレットとして作用する。ジルコニアの含有量が15wt%以下であると、酸化物系セラミックスからの強い圧縮応力を受け分極を維持することができる。
なお、ジルコニアの含有量には、安定化剤の重量を考慮しないものとする。
【0013】
本発明のエレクトレット材料において、上記第1相の少なくとも一部は、扁平形状で存在しており、上記扁平形状の配向方向が揃っていることが好ましい。
第1相を扁平形状にすることにより、第2相から等しく応力を受けやすくなり、準安定相を維持しやすくなると考えられる。また、扁平形状の配向方向が揃っているので、強く分極させることができる。
【0014】
本発明のエレクトレット材料において、上記扁平形状の最大長さは、0.2μm~10μmであることが好ましい。
扁平形状の最大長さが0.2μm以上であると、第1相から受ける圧縮応力の方向が揃い、双極子の復元力をより強く拘束することができる。扁平形状の最大長さが10μm以下であると、内部応力が集中しにくく、第1相と第2相との相互作用による破壊を起こりにくくすることができる。
【0015】
本発明のエレクトレット材料においては、気孔率が0.01%~0.5%であることが好ましい。
気孔率が0.5%以下であると、第2相から受ける圧縮応力を第1相に効率よく伝達できるので、エレクトレットとしての作用をより強くすることができる。
【0016】
本発明のエレクトレット材料において、上記酸化物系セラミックスは、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むことが好ましい。
上記セラミックス材料は、ジルコニアをエレクトレット化する温度域まで安定であり、焼結後、冷却の過程でジルコニアの双極子を拘束し続けることができる。また、ジルコニアとの混合物を形成しにくいため、第1相と第2相の界面が明確に形成され相互作用をより強固にできる。
【0017】
本発明のエレクトレット材料の製造方法は、ジルコニアからなる第1相と、上記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有し、上記第1相は、上記第2相の中で分散して点在し、上記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むエレクトレット材料の製造方法であって、上記ジルコニア、上記酸化物系セラミックス及び有機バインダを混合した混合物を準備する混合物準備工程と、上記混合物を所定の形状に成形して成形体を作製する成形工程と、上記成形体から上記有機バインダを除去する脱脂工程と、上記有機バインダが除去された上記成形体を焼結させる焼結工程と、からなることを特徴とする。
【0018】
本発明のエレクトレット材料の製造方法では、第1相に結晶系が室温において準安定な準安定相が含まれるようにエレクトレット材料を製造する。ジルコニアからなる第1相の場合、通常は室温では安定相が大部分を占めるが、第1相を第2相の中に分散して点在させることにより、焼結後、冷却の過程で大きく体積膨張を伴う準安定相から安定相への相変化が阻害され、室温まで冷却しても準安定相が一部残留する。このため第1相に強い圧縮応力が加わり、双極子の復元力が拘束されるので分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できるエレクトレット材料が得られる。
【0019】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記準安定相は、正方晶ジルコニアであることが好ましい。
準安定相が正方晶ジルコニアであると、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。
【0020】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記混合物準備工程で用いられる上記ジルコニアは、安定化剤を含んでいないことが好ましい。
ジルコニアが安定化剤を含まないことで、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0021】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記混合物準備工程で用いられる上記ジルコニアは、安定化剤を含んでおり、上記ジルコニア中の上記安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましい。
ジルコニアに安定化剤を含有させることで、第1相中の準安定相の割合を増加させることができる。一方、第1相に含まれる安定化剤の含有量が5mol%を超える場合、安定化剤によるイオン伝導効果によって、分極が緩和されてしまう場合がある。
【0022】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記焼結工程における焼結温度が、1300℃~1500℃であることが好ましい。
焼結温度が1300℃以上であると、原材料段階では単斜晶ジルコニアであった第1相のジルコニアを、準安定相である正方晶ジルコニアに転移させることができる。また焼結温度が1500℃以下であるので粒子の粗大化が起こりにくく、細かな組織が得られ分極しやすくなる。
【0023】
本発明のエレクトレット材料の製造方法では、上記成形工程または上記焼結工程において、上記成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
成形体に一軸加圧を加えることで、成形体中の第1相の配向方向を揃え、扁平形状に潰すことができる。このような操作により、第1相を強く分極させることができるエレクトレット材料を得ることができる。
【0024】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記一軸加圧は上記焼結工程において行われ、上記一軸加圧の面圧は、15MPa~150MPaであることが好ましい。
焼結工程において一軸加圧を行うことで、成形体中の第1相の配向状態を固定したままで焼結を進行させることができるため、第1相を強く分極させることができるエレクトレット材料を得ることができる。
また、面圧15MPa以上の加圧下で焼結することによって、焼結後、冷却時に第1相が準安定相から安定相に相転移する際の膨張を抑制できる強固な第2相を形成することができる。さらに、第1相と第2相の焼結温度が異なる場合であっても、圧力の作用により低い側の焼結温度で同時に焼結させることができる。
【0025】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記混合物中に占める上記ジルコニアと上記酸化物系セラミックスの合計重量に対する上記ジルコニアの重量割合は、5wt%~15wt%であることが好ましい。
ジルコニアの上記重量割合が5wt%以上であると、充分な分極作用を発揮できエレクトレットとして作用する。ジルコニアの上記重量割合が15wt%以下であると、酸化物系セラミックスからの強い圧縮応力を受け分極を維持することができる。
なお、ジルコニアの含有量には、安定化剤の重量を考慮しないものとする。
【0026】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記酸化物系セラミックスが、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むことが好ましい。
上記酸化物系セラミックス材料は、ジルコニアをエレクトレット化する温度域まで安定であり、焼結後、冷却の過程でジルコニアの双極子を拘束し続けることができる。また、ジルコニアとの混合物を形成しにくいため、第1相と第2相の界面が明確に形成され相互作用をより強固にできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエレクトレット材料によれば、ジルコニアからなる第1相が、結晶系が室温において準安定な準安定相を含んでいるため、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。また、高い温度まで安定なセラミックス材料のみで形成されているため、高温で使用可能な優れた耐熱性を備える。
本発明のエレクトレット材料の製造方法によれば、ジルコニアからなる第1相が、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むようにエレクトレット材料が製造されるため、得られるエレクトレット材料は、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。また、高い温度まで安定なセラミックス材料のみで形成できるため、高温で使用可能な耐熱性の高いエレクトレット材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明のエレクトレット材料における第1相と第2相の分布の状態を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、エレクトレット化処理の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1、3及び比較例1に係るエレクトレット材料のXRDパターンを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例2に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真である。
【
図6】
図6は、実施例3に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真である。
【
図7】
図7は、エレクトレット材料の分極特性を測定する測定装置の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例1に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートである。
【
図9】
図9は、実施例2に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートである。
【
図10】
図10は、実施例3に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートである。
【
図11A】
図11Aは、実施例1に係るエレクトレット材料の表面(+側)の表面電位の分布を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、実施例1に係るエレクトレット材料の表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、実施例2に係るエレクトレット材料の表面(+側)の表面電位の分布を示す図である。
【
図12B】
図12Bは、実施例2に係るエレクトレット材料の表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のエレクトレット材料およびエレクトレット材料の製造方法について、詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。本発明の好ましい実施形態を適宜組み合わせたものも本発明である。
【0030】
[エレクトレット材料]
本発明のエレクトレット材料は、ジルコニアからなる第1相と、上記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有するエレクトレット材料であって、上記第1相は、上記第2相の中で分散して点在し、上記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むことを特徴とする。
【0031】
図1は、本発明のエレクトレット材料における第1相と第2相の分布の状態を模式的に示す図である。
図1に示すように、エレクトレット材料1は、第1相10と第2相20とを含有する。
第1相10は、第2相20の中で分散して点在している。
また、第1相10は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含んでいる。
【0032】
第1相10が第2相20の中で分散して点在している状態では、第1相10の周囲が第2相20で覆われている。そのため、エレクトレット材料を加熱した後に冷却する際に、第1相10が第2相20から圧縮応力を受ける。この圧縮応力によって第1相10の体積膨張が制限されるため、約4%の体積膨張となる準安定相から安定相への相転移が妨げられ、室温においても準安定相が残留した状態となる。
【0033】
なお、第1相の形状を特定する際には、第1相を構成するジルコニア粒子の形状や結晶子の形状ではなく、第2相で囲まれた第1相を1つの単位として、その形状を特定する。
【0034】
第1相は、ジルコニアからなる。
ジルコニアの結晶系としては、室温で安定な安定相である単斜晶ジルコニア、室温で準安定な準安定相である正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアが挙げられる。
【0035】
安定相は、単斜晶ジルコニアである。
準安定相は、正方晶ジルコニアであることが好ましい。
正方晶ジルコニアは分極が強く残留しやすい。そのため、準安定相が正方晶ジルコニアであると、分極特性に優れるエレクトレット材料となる。
【0036】
ジルコニアの結晶系の種類は、X線回折(XRD)により得られる回折パターンにおけるピークの位置を、既知の測定試料と比較することにより確認することができる。
【0037】
ジルコニアを昇温すると、1170℃で安定相が単斜晶から正方晶に相転移する。単斜晶から正方晶に相転移する際には約4%の体積収縮が起きるため、1170℃以上の温度まで加熱された第1相は、急激に堆積が小さくなる。一方で、冷却された場合には、正方晶から単斜晶へと相転移しようとするが、約4%の体積膨張を伴う。
本発明のエレクトレット材料では、ジルコニアからなる第1相が、酸化物系セラミックスからなる第2相の中で分散して点在しているため、第1相及び第2相は複合材を形成している。このため互いに力学的な相互作用を及ぼし、第2相である酸化物系セラミックスが、第1相であるジルコニアに強い拘束力をかけて、体積膨張を拘束して準安定相である正方晶を残留させる。さらに、上記第2相の強い拘束力によって、準安定相内部の双極子が容易に回転できず、強い分極を維持できると考えられる。
【0038】
本発明のエレクトレット材料におけるジルコニアの含有量は、5wt%~15wt%であることが好ましい。
ジルコニアの含有量が5wt%以上であると、充分な分極作用を発揮できエレクトレットとして作用する。ジルコニアの含有量が15wt%以下であると、酸化物系セラミックスからの強い圧縮応力を受け分極を維持することができる。
なお、ジルコニアの含有量には、後述する安定化剤の重量を考慮しないものとする。
【0039】
第1相は、安定化剤を含有していなくてもよいし、含有していてもよい。
ジルコニアが含有する安定化剤は特に限定されないが、金属酸化物が利用できる。例えば、CaO、Y2O3、CeO2などが利用でき、CaOを添加したものは、CaO安定化ジルコニア(CSZ)、Y2O3を添加したものはY2O3安定化ジルコニア(YSZ)と呼ばれる。中でもY2O3を添加したものは、高温でも安定して利用することができる。
上記安定化剤の添加により、室温で正方晶となる安定化ジルコニアでは、上述した分極作用が見られないが、上記安定化剤の添加により、室温で安定相と準安定相とが混在する部分安定化ジルコニアや、実質的に安定化剤を含まないジルコニアは上述した分極作用を示す。
従って、部分安定化ジルコニアや実質的に安定化剤を含まないジルコニアを含む第1相は、相転移温度以下で第2相から強い圧縮応力を受けているので、第1相を構成するジルコニアの双極子が固定された状態を維持でき、分極が強く残留したエレクトレットを得ることができる。
一方、第1相が安定化剤を含有していないと、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0040】
第1相が安定化剤を含有している場合、第1相中の安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましく、実質的に安定化剤を含んでいないことがさらに好ましい。
第1相中の安定化剤の含有量が5mol%以下であれば、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化がより大きくなるため、第2相との相互作用がより大きくなり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。この効果はY2O3を添加したときに、より効果的に発現できる。従って、添加剤としては、Y2O3が特に好ましい。
【0041】
本発明のエレクトレット材料において、第1相の少なくとも一部は、扁平形状で存在していることが好ましい。
さらに、上記扁平形状の配向方向が揃っていることが好ましい。
第1相を扁平形状にすることにより、第2相から等しく応力を受けやすくなり、準安定相を維持しやすくなると考えられる。また、扁平形状の配向方向が揃っているので、強く分極させることができる。
図1に示す第1相10の形状は、x方向の長さがy方向の長さよりも長い扁平形状である。また、
図1において、第1相10は、x方向に沿って配向しているといえる。
【0042】
扁平形状の最大長さは、0.2μm~10μmであることが好ましい。
扁平領域の最大長さが0.2μm以上であると、第1相から受ける圧縮応力の方向が揃い、双極子の復元力をより強く拘束することができる。扁平領域の最大長さが10μm以下であると、内部応力が集中しにくく、第1相と第2相との相互作用による破壊を起こりにくくすることができる。
なお、
図1に示すエレクトレット材料1において、第1相10の最大長さはx方向における長さである。
扁平形状の最大長さは、エレクトレット材料の断面をSEM(倍率1000倍~10000倍)で観察した観察像において、視野内に確認できる第1相の長径の最大値である。
【0043】
第2相は、第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる。
酸化物系セラミックスは、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むことが好ましく、アルミナを含むことがより好ましい。
上記酸化物系セラミックス材料は、ジルコニアをエレクトレット化する温度域まで安定であり、冷却の過程でジルコニアの双極子を拘束し続けることができる。また、ジルコニアとの混合物を形成しにくいため、第1相と第2相の界面が明確に形成され相互作用をより強固にできる。
【0044】
本発明のエレクトレット材料の断面において、望ましい第1相の面積割合は3.5%~10%である。第1相の面積割合が3.5%以上であると充分な分極が得られエレクトレットとして好適に利用できる。第1相の面積比が10%以下であると、第2相の中で第1相が分散して点在した状態を維持でき、第2相による圧縮応力を受けやすくすることができる。
エレクトレット材料の断面における第1相の面積割合は、SEM(倍率1000倍~10000倍)により観察されるエレクトレット材料の断面の視野中の全面積に対する、第1相の総面積の割合により求められる。
【0045】
本発明のエレクトレット材料において、気孔率は0.01%~0.5%であることが好ましい。
気孔率が0.5%以下であると、第2相から受ける圧縮応力を第1相に効率よく伝達できるので、エレクトレットとしての作用をより強くすることができる。
エレクトレット材料を成形する際の成形圧力を調整することにより、エレクトレット材料の気孔率を調整することができる。成形圧力が大きいほど、気孔率が小さくなる。
なお、セラミックス材の気孔率は、水銀圧入式ポロシメトリを利用して測定されるセラミックス材の孔容積及び細孔径分布より求めることができる。セラミックス材の孔容積及び細孔径分布の測定は、水銀の表面張力及び接触角を、それぞれ485mN/m及び130°に設定し、水銀の圧入圧力は大気圧~200MPaまでの範囲で測定する。
【0046】
本発明のエレクトレット材料は、エレクトレット化処理を行うことで分極させることができる。
エレクトレット化処理の一例について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、エレクトレット化処理の一例を模式的に示す図である。
図2に示すように、エレクトレット化処理では、y方向に対向するエレクトレット材料1の面に一対の電極30を形成して加熱下で電圧を印加し、そのまま冷却することによって、第1相10に含まれる準安定相を分極させることができる。第1相10が分極する方向は、一対の電極30を介してエレクトレット材料1に印加された電圧の方向と逆方向である。
分極は、準安定相の結晶子の表面で起こるため、第1相10が扁平形状で、x方向に沿って配向している場合、y方向に強く分極させることができる。
【0047】
[エレクトレット材料の製造方法]
本発明のエレクトレット材料の製造方法は、ジルコニアからなる第1相と、上記第1相と異なる酸化物系セラミックスからなる第2相と、を含有し、上記第1相は、上記第2相の中で分散して点在し、上記第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むエレクトレット材料の製造方法であって、上記ジルコニア、上記酸化物系セラミックス及び有機バインダを混合した混合物を準備する混合物準備工程と、上記混合物を所定の形状に成形して成形体を作製する成形工程と、上記成形体から上記有機バインダを除去する脱脂工程と、上記有機バインダが除去された上記成形体を焼結させる焼結工程と、からなることを特徴とする。
【0048】
[混合物準備工程]
混合物準備工程では、ジルコニア、上記ジルコニアと異なる酸化物系セラミックス及び有機バインダを混合した混合物を準備する。
【0049】
ジルコニアは、結晶系が室温で準安定な準安定相を含む。
準安定相は、正方晶ジルコニアであることが好ましい。
【0050】
ジルコニアは、安定化剤を含んでいなくてもよいし、含んでいてもよい。
ジルコニアが含有する安定化剤は特に限定されないが、金属酸化物が利用できる。例えば、CaO、Y2O3、CeO2などが利用でき、CaOを添加したものは、CaO安定化ジルコニア(CSZ)、Y2O3を添加したものではY2O3安定化ジルコニア(YSZ)と呼ばれる。
上記安定化剤の添加により、室温でも正方晶となる安定化ジルコニアでは、上述した分極作用が見られないが、上記安定化剤の添加により、室温で安定相と準安定相とが混在する部分安定化ジルコニアや、実質的に安定化剤を含まないジルコニアは上述した分極作用を示す。
従って、部分安定化ジルコニアや実質的に安定化剤を含まないジルコニアを含む第1相は、相転移温度以下で第2相から強い圧縮応力を受けているので、第1相を構成するジルコニアの双極子が固定された状態を維持でき、分極が強く残留したエレクトレットを得ることができる。
一方、ジルコニアが安定化剤を含有していないと、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0051】
ジルコニアが安定化剤を含有している場合、ジルコニア中の安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましく、実質的に安定化剤を含んでいないことがさらに好ましい。
ジルコニア中の安定化剤の含有量が5mol%以下であれば、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化がより大きくなるため、第2相との相互作用がより大きくなり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。この効果はY2O3を添加したときに、より効果的に発現できる。
【0052】
混合物準備工程において、安定化剤を含有する第1相を形成する場合には、安定化剤を含有するジルコニアを用いることが好ましい。
【0053】
酸化物系セラミックスは、アルミナ、ムライト及びマグネシアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含むことが好ましく、アルミナを含むことがより好ましい。
上記酸化物系セラミックス材料は、ジルコニアをエレクトレット化する温度域まで安定であり、焼結後、冷却の過程でジルコニアの双極子を拘束し続けることができる。また、ジルコニアとの混合物を形成しにくいため、第1相と第2相の界面が明確に形成され相互作用をより強固にできる。
【0054】
本発明のエレクトレット材料の製造方法において、上記混合物中に占める上記ジルコニアと上記酸化物系セラミックスの合計重量に対する上記ジルコニアの重量割合は、5wt%~15wt%であることが好ましい。
ジルコニアの上記重量割合が5wt%以上であると、充分な分極作用を発揮できエレクトレットとして作用する。ジルコニアの上記重量割合が15wt%以下であると、酸化物系セラミックスからの強い圧縮応力を受け分極を維持することができる。
【0055】
有機バインダとしては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系有機バインダ、ポリビニルアルコール、パラフィン等の有機バインダ等が挙げられる。
【0056】
混合物には、ジルコニア、酸化物系セラミックス、有機バインダのほかに適宜添加物を加えることができる。添加物としては、可塑剤、溶媒、分散剤などが挙げられ、混合物の特性に応じて適宜使用することができる。
溶媒としては、1-ブタノール、トルエン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
上記溶媒のうち、有機バインダに対する溶解性の低いもの(貧溶媒)が好ましい。
アクリル系有機バインダの場合は、1-ブタノール等が挙げられる。
【0057】
なお、混合物準備工程では、安定化剤を含有する部分安定化ジルコニアを用いてもよいが、ジルコニアと、安定化剤をそれぞれ別に準備し、あらかじめ混合したのち、酸化物系セラミックスの原材料と混合する2段階の方法で行ってもよい。このときジルコニアと安定化剤との第1段階の混合では均一に混ざるよう、凝集しにくい乾式の混合を行うことが好ましい。一方、酸化物系セラミックスとの混合は、ペースト状にしてから湿式の混合を行うことが好ましい。このような方法で行うことにより、ジルコニアと安定化剤は均一に混合され、かつ、第1相が第2相中に分散して点在した構造を得ることができる。
【0058】
また、第1相と第2相とを均一に混合した混合物から、第1相を析出させてもよい。
具体的には、例えば有機バインダと貧溶媒とを混合した溶液に酸化物系セラミックスであるアルミナと、ジルコニアとを分散させ、貧溶媒の蒸発とともにスピノーダル分解によって有機バインダを析出させるとともに有機バインダとの親和性の高いジルコニアの凝集を促進させる方法が挙げられる。原材料の段階でジルコニアが凝集しているので、その後の成形によって扁平形状の第1相が得られ、分極特性を高めることができる。
【0059】
[成形工程]
成形工程では、混合物を所定の形状に成形して成形体を作製する。
成形体の形状は特に限定されず、例えば、板状、リング状などの形状が挙げられる。
板状の成形体は、例えば、上記混合物をシート状に成形したシート状物を積層することにより作製してもよいし、上記混合物を直接板状に加圧成形や押出成形することにより作製してもよい。
加圧成形では、第1相に相当するジルコニアが加圧方向に潰されるため、扁平形状となる。
なお、板状に成形できる一軸加圧では、加圧方向に垂直な面に沿って第1相が配向するように潰され、押出成形では押出方向に沿って第1相が配向する。
【0060】
成形工程においては、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
成形体に一軸加圧を加えることで、成形体中の第1相の配向方向を揃え、扁平形状に潰すことができる。このような操作により、第1相を強く分極させることができるエレクトレット材料を得ることができる。
【0061】
[脱脂工程]
脱脂工程では、成形体から有機バインダを除去する。
脱脂工程に先立って、成形体から溶媒を乾燥させてもよい。
脱脂工程は、例えば、成形体を1000℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
【0062】
[焼結工程]
焼結工程では、有機バインダが除去された成形体(脱脂体ともいう)を焼結させる。
ジルコニアと酸化物系セラミックスとの固相反応速度が極めて遅いため、焼結工程では、第1相と第2相がほとんど混ざることなく混合物段階の凝集状態に対応した第1相の分散状態が形成される。従って、焼結工程により、第2相である酸化物系セラミックス中に第1相であるジルコニアが分散して点在した状態で固定される。
【0063】
焼結工程における焼結温度は、1300℃~1500℃であることが好ましい。
焼結温度が1300℃以上であると、原材料段階では単斜晶ジルコニアであった第1相のジルコニアを、準安定相である正方晶ジルコニアに転移させることができる。また焼結温度が1500℃以下であると、粒子の粗大化が起こりにくく、細かな組織が得られ分極しやすくなる。
【0064】
焼結工程においては、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
特に、成形工程において成形体に一軸加圧が加えられていない場合には、特に、焼結工程において、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
焼結工程において行われる一軸加圧の面圧は、15MPa~150MPaであることが好ましい。
焼結工程において一軸加圧を行うことで、成形体中の第1相の配向状態を固定したままで焼結を進行させることができるため、第1相を強く分極させることができるエレクトレット材料を得ることができる。
また、面圧15MPa以上の加圧下で焼結することによって、焼結後、冷却時に第1相が準安定相から安定相に相転移する際の膨張を抑制できる強固な第2相を形成することができる。さらに、第1相と第2相の焼結温度が異なる場合であっても、過度に粒子を粗大化させることなく、圧力の作用により低い側の焼結温度で同時に焼結させることができる。
【0065】
扁平形状の第1相は、成形段階だけでなく焼結段階でも形成することができる。焼結段階で扁平形状を形成するためには、一軸成形型を用いたホットプレス、SPS等が利用できる。また、焼結時に同時に加圧することで、相転移温度におけるジルコニアの安定相への相転移を抑制することができる。
【0066】
本発明のエレクトレット材料の製造方法では、上記混合物準備工程において、上記ジルコニアと上記酸化物系セラミックの合計体積に占める上記ジルコニアの体積の割合が、3.5%~10%であることが好ましい。
なお、上記ジルコニアの体積の割合は、混合物準備工程においてそれぞれ使用する原材料(混合前のジルコニア及び酸化物系セラミックス)の質量と真密度から体積を算出し、その体積比を比較する。原材料段階で体積比を設定することにより、真密度に差がある原材料を使用しても、目的の第1相と第2相の体積比の焼結体を得ることができる。
【実施例0067】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
(混合物準備工程)
アルミナ0.480重量部、ジルコニア0.053重量部、アクリル系有機バインダ0.182重量部、アジピン酸エステル系可塑材(アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル))0.027重量部、可塑剤であるフローレンG-700(カルボキシル基含有ポリマー編成物)0.008重量部、溶媒である1-ブタノール0.246重量部をボールミルで混合して混合物を得た。
【0069】
(成形工程)
得られた混合物をドクターブレード法によりシート状に成形し、100℃で2時間乾燥させた。
【0070】
(脱脂工程)
得られた成形体を、温度1000℃で1時間加熱し、成形体を脱脂した。
【0071】
(焼結工程)
脱脂した成形体を、ホットプレスを用いて40MPaの面圧で一軸加圧を加えながら1450℃で3時間加熱し、実施例1に係るエレクトレット材料を得た。実施例1に係るエレクトレット材料の形状は、厚さ1mmの板状であった。
【0072】
(実施例2)
1-ブタノール0.246重量部をトルエン0.246重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2に係るエレクトレット材料を得た。
【0073】
(実施例3)
ジルコニア0.053重量部を、6mol%のY2O3を含有する部分安定化ジルコニア(p-YSZ)0.053重量部に変更した以外は、実施例2と同様の手順で、実施例3に係るエレクトレット材料を得た。
【0074】
(比較例1)
ジルコニアを添加せず、アルミナの添加量を0.533重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1に係るエレクトレット材料を得た。
【0075】
(比較例2)
アルミナを添加せず、ジルコニアの添加量を0.533重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例2に係るエレクトレット材料を得た。
【0076】
(比較例3)
ジルコニアを、10mol%のY2O3を含有する安定化ジルコニア(YSZ)に変更した以外は、比較例2と同様の手順で、比較例3に係るエレクトレット材料を得た。
【0077】
(結晶系の測定)
各実施例及び比較例に係るエレクトレット材料に対してX線回折(XRD)測定を行い、得られた回折パターンを既知の化合物と比較することで、エレクトレット材料に含まれるジルコニアの結晶系を特定した。結果を表1に示す。
また、
図3は、実施例1、3及び比較例1に係るエレクトレット材料のXRDパターンを示す図である。
【0078】
(第1相の分散状態及び形状の観察)
エレクトレット材料の断面をSEMにより観察して、第2相に対する第1相の分散状態及び第1相の形状を観察した。このとき、第1相が配向している方向及び第1相の最大長さについても求めた。結果を表1に示す。また、実施例1~3については、SEM写真を
図4~6に示す。
図4は、実施例1に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真であり、
図5は、実施例2に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真であり、
図6は、実施例3に係るエレクトレット材料の断面におけるSEM写真である。
【0079】
(リーク電流の測定)
図7に示す測定装置を用いて、各実施例及び比較例に係るエレクトレット材料のエレクトレット特性を測定した。
図7は、エレクトレット材料の分極特性を測定する測定装置の一例を示す模式図である。
図7に示す測定装置では、エレクトレット材料1の互いに対向する面1aと1bに1対のPt電極30a、30bを設け、Pt電極30a、30bを介してエレクトレット材料1に所定の電圧(4kV)を印加しながら、マッフル炉100によってエレクトレット材料全体を900℃まで加熱し、電圧及びPt電極間に流れるリーク電流をモニターした。
900℃に到達した後は、電圧の印加を維持したまま室温まで冷却した。リーク電流の発生状態を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1~3については、リーク電流のチャートを
図8~10に示す。
図8は、実施例1に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートであり、
図9は、実施例2に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートであり、
図10は、実施例3に係るエレクトレット材料のリーク電流のチャートである。各チャートの結果より、ピーク電流の特性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:リーク電流にピークがみられる。
△:リーク電流は生じているが、ピークではない。
×:リーク電流が生じない。
【0080】
(分極状態の確認)
各実施例及び比較例に係るエレクトレットの分極の状態を、トレックジャパン社製表面電位計 Model1344により場所を変えつつ確認し、全体の分極状態を確認した。+電位側の面の表面の電位(電圧)の最大値と、-電位側の面の表面の電位(電圧)の最小値との差を分極電圧とした。実施例1及び2に係るエレクトレットの分極の状態を、
図11A、
図11B、
図12A、
図12Bに示す。
図11Aは、実施例1に係るエレクトレット材料の表面(+側)の表面電位の分布を示す図であり、
図11Bは、実施例1に係るエレクトレット材料の表面(-側)の表面電位の分布を示す図であり、
図12Aは、実施例2に係るエレクトレット材料の表面(+側)の表面電位の分布を示す図であり、
図12Bは、実施例2に係るエレクトレット材料の表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。なお
図11A、
図11B、
図12A、
図12Bにおける縦軸は表面電位を示しており、これに直交する2つの軸はエレクトレット表面の位置(座標)を示している。
図11A、
図11B、
図12A、
図12Bに示すように、実施例1、2に係るエレクトレットでは、表面の分極電圧が不均一であった。図示していないが、実施例3に係るエレクトレットも、表面の分極電圧が不均一であった。
【0081】
【0082】
実施例1及び2に係るエレクトレット材料では、700℃程度でリーク電流が増加したが、温度が上がるとリーク電流は流れなくなった。
以上より、実施例1、2に係るエレクトレット材料は、低温ではエレクトレット材料の双極子が回転できず誘電体として作用しなかったが、700℃前後で双極子が回転するために電流が流れ、誘電体として作用するようになったと考えられる。
また、実施例1及び2に係るエレクトレット材料の表面には、それぞれ、1061.9V(最大値:+959.9V、最小値:-102.0V)、175.9V(最大値:+103.8V、最小値:-72.1V)の分極電圧がみられた。
【0083】
実施例1と実施例2とを比較した際に、実施例1のほうが分極が大きくなった原因としては、焼結工程前のジルコニアの粒子形状にあると考えられる。
実施例1では、溶媒として1-ブタノールを用いた。1-ブタノールは有機バインダに対する溶解度が低い貧溶媒であるため、乾燥過程でジルコニアと有機バインダの凝集が生じ、扁平形状のジルコニア粒子が生じたことによると考えられる。
一方、実施例2では、溶媒としてトルエンを用いた。トルエンは有機バインダに対する溶解度が高い良溶媒であるため、乾燥過程でジルコニアと有機バインダの凝集が生じず、扁平形状のジルコニア粒子が得られなかったものと考えられる。
【0084】
実施例3は、700℃付近からリーク電流が生じたが、加熱を終了する900℃までリーク電流の発生が続いた。
一方で、実施例3に係るエレクトレット材料の表面にはわずかに分極がみられた。
以上より、実施例3に係るエレクトレット材料では、安定化剤の添加により第1相の分極が緩和されてしまったと考えられる。
【0085】
比較例1~2ではリーク電流が生じなかった。
比較例1がリーク電流を示さなかったのは、誘電体となるジルコニアが含まれていないためと考えられる。
比較例2がリーク電流を示さなかったのは、誘電体となるジルコニアが酸化物系セラミックス中に分散して点在していないため、冷却に伴って正方晶ジルコニアが単斜晶ジルコニアに相変化する際の体積膨張を、拘束する手段がなかったためだと考えられる。
また比較例1~2では、エレクトレット材料の表面に分極がみられなかった。
【0086】
比較例3は単なる酸素イオンの伝導体であった。そのため、所定の温度域においてリーク電流を示すが、エレクトレット特性は示さなかった。
本発明のエレクトレット材料は、高温でも分極を維持できるので、高温でプラズマを制御したり、パーティクルを捕集したりすることができ、サセプタ、プラズマエッチング用部品、ダミーウェハなど半導体製造装置用の部品として好適に利用することができる。