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特開2022-98233エレクトレットの製造方法及びエレクトレット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098233
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】エレクトレットの製造方法及びエレクトレット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/119 20060101AFI20220624BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20220624BHJP
   H01L 41/257 20130101ALI20220624BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C04B35/119
H01L41/187
H01L41/257
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211649
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】脇原 義範
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 治英
(57)【要約】
【課題】 耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ジルコニアからなる第1相がアルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を分極させる分極工程を有することを特徴とするエレクトレットの製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアからなる第1相がアルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、前記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を分極させる分極工程を有することを特徴とするエレクトレットの製造方法。
【請求項2】
前記ジルコニアは、結晶系が室温において準安定な正方晶と、室温において安定な単斜晶とを含有する請求項1に記載のエレクトレットの製造方法。
【請求項3】
前記第1相は、安定化剤を含有していない、請求項1または2に記載のエレクトレットの製造方法。
【請求項4】
前記第1相はさらに安定化剤を含有しており、
前記第1相中の前記安定化剤の含有量は、5mol%以下である請求項1または2に記載のエレクトレットの製造方法。
【請求項5】
前記分極工程は、前記セラミックス材を1対の電極で挟み、
前記1対の電極に電圧を加えたまま、700℃~1000℃で加熱する加熱工程と、
前記1対の電極に電圧を加えたまま冷却する冷却工程と、
からなる請求項1~4のいずれか1項に記載のエレクトレットの製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記1対の電極に印加する電圧は1kV~10kVである請求項5に記載のエレクトレットの製造方法。
【請求項7】
ジルコニアからなる第1相が、アルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、前記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を有し、
前記第1相が分極していることを特徴とするエレクトレット。
【請求項8】
前記セラミックス材の表面電位の最大値が100V~10kVである請求項7に記載のエレクトレット。
【請求項9】
前記セラミックス材の表面電位が不均一である請求項7または8に記載のエレクトレット。
【請求項10】
前記セラミックス材の表面が露出している請求項7~9のいずれか1項に記載のエレクトレット。
【請求項11】
前記セラミックス材の形状は、厚さ方向に対向する第1主面及び第2主面を有する板状であり、
前記第1主面及び前記第2主面の少なくとも一方の主面において、主面の中央よりもエッジ部分の表面電位が低い請求項7~10のいずれか1項に記載のエレクトレット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットの製造方法及びエレクトレットに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石のように、ある種の誘電体において、電界が消失した後において誘電分極が残留する場合がある。このような物質は、磁石と対比して電石(エレクトレット)と呼ばれ、集塵機等のフィルタ、マイクロフォン等に用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイミド樹脂と強誘電性セラミックス粒子とを有する化合物をエレクトレット化してなる高分子複合圧電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-287448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、150℃程度の高温下でも長期に使用が可能なことを開示している。しかしながら、特許文献1に記載された圧電体は、耐熱性がまだ充分ではなく、さらに、高分子の粘弾性によって、分極の緩和が生じてしまい、長期にわたって分極を維持することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトレットの製造方法は、ジルコニアからなる第1相がアルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を分極させる分極工程を有することを特徴とする。
【0008】
アルミナからなる第2相の中に室温において準安定な準安定相のジルコニアを含有する第1相が分散して点在するセラミックス材は、第1相に含まれる準安定相のジルコニアの誘電特性により、分極しやすい。したがって、このようなセラミックス材を分極させる分極工程を有する本発明のエレクトレットの製造方法を用いることにより、耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレットを製造することができる。
【0009】
本発明のエレクトレットの製造方法において、上記ジルコニアは、結晶系が室温において準安定な正方晶と、室温において安定な単斜晶とを含有することが好ましい。
結晶系が室温において準安定な正方晶ジルコニアは、優れた分極特性を示す。ジルコニアが、結晶系が室温において準安定な正方晶と、室温において安定な単斜晶とを含有していると、分極特性に優れたエレクトレットとなる。
【0010】
本発明のエレクトレットの製造方法において、上記第1相は、安定化剤を含有していないことが好ましい。
第1相が安定化剤を含有していないと、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0011】
本発明のエレクトレットの製造方法において、上記第1相はさらに安定化剤を含有しており、上記第1相中の上記安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましい。
第1相中の安定化剤の含有量が5mol%以下であれば、焼結後、冷却時の準安定相から安定相への体積変化がより大きくなるため、第2相との相互作用がより大きくなり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0012】
本発明のエレクトレットの製造方法において、上記分極工程は、上記セラミックス材を1対の電極で挟み、上記1対の電極に電圧を加えたまま、700℃~1000℃で加熱する加熱工程と、上記1対の電極に電圧を加えたまま冷却する冷却工程と、からなることが好ましい。
分極工程における加熱温度を700℃以上とすることで、第1相の双極子を充分に配向させることができ、優れた分極特性が得られる。また分極工程における加熱温度を1000℃以下とすることで、内部応力によって室温における準安定相を安定相に相変化させることなく、内部応力を維持したまま分極させることができる。
【0013】
本発明のエレクトレットの製造方法では、上記加熱工程において、上記1対の電極に印加する電圧は1kV~10kVであることが好ましい。
加熱工程において1対の電極に印加する電圧が上記範囲であると、セラミックス材を充分に分極させることができる。
上記電圧が1kV以上であると、セラミックス材を充分に分極させることができる。一方、上記電圧が10kV以下であると、空間やセラミックス材に絶縁破壊が生じにくく安定してエレクトレット化処理を施すことができる。
【0014】
本発明のエレクトレットは、ジルコニアからなる第1相が、アルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を有し、上記第1相が分極していることを特徴とする。
【0015】
本発明のエレクトレットは、ジルコニア及びアルミナからなるため、耐熱性に優れる。また、本発明のエレクトレットは、結晶系が室温において準安定な準安定相を含む第1相が分極しているため、分極特性に優れる。
【0016】
本発明のエレクトレットは、上記セラミックス材の表面電位の最大値が100V~10kVであることが好ましい。
セラミックス材の表面電位の最大値が上記範囲であると、エレクトレットとして優れた特性を示しているといえる。
【0017】
本発明のエレクトレットは、上記セラミックス材の表面電位が不均一であることが好ましい。
セラミックス材の表面電位が不均一であると、局部的に高い電位を発生させ、センサーとしてなど高い電位を利用し感度を高めるなど積極的に利用できる。
【0018】
本発明のエレクトレットは、上記セラミックス材の表面が露出していることが好ましい。
セラミックス材の表面が露出していると、面内で発生する分極のムラを平均化することなく高い電位を得ることができる。
【0019】
本発明のエレクトレットにおいて、上記セラミックス材の形状は、厚さ方向に対向する第1主面及び第2主面を有する板状であり、上記第1主面及び上記第2主面の少なくとも一方の主面において、主面の中央よりもエッジ部分の表面電位が低いことが好ましい。
中央よりもエッジ部分の表面電位が低いと、各種デバイス等としたときに利用しやすい主面の中央部分で高い電位が得られ、電子部品として好適に利用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のエレクトレットの製造方法によれば、結晶系が室温において準安定な準安定相を含むジルコニアからなる第1相が、第2相の中に分散して点在しているセラミックス材を分極させる工程を備える。そのため、耐熱性が高く、分極が強く残留しやすいエレクトレットを製造することができる。
本発明のエレクトレットによれば、ジルコニアからなる第1相が、結晶系が室温において準安定な準安定相を含んでいるため、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。また、高い温度まで安定なセラミックス材料のみで形成されているため、高温で使用可能な優れた耐熱性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、セラミックス材の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、分極工程の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、実施例1、3及び比較例1に係るエレクトレットのXRDパターンを示す図である。
図4図4は、実施例1に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真である。
図5図5は、実施例2に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真である。
図6図6は、実施例3に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真である。
図7A図7Aは、実施例1に係るエレクトレットの表面(+側)の表面電位の分布を示す図である。
図7B図7Bは、実施例1に係るエレクトレットの表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。
図8A図8Aは、実施例2に係るエレクトレットの表面(+側)の表面電位の分布を示す図である。
図8B図8Bは、実施例2に係るエレクトレットの表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のエレクトレット及びエレクトレットの製造方法について、詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。本発明の好ましい実施形態を適宜組み合わせたものも本発明である。
【0023】
[エレクトレットの製造方法]
本発明のエレクトレットの製造方法は、ジルコニアからなる第1相がアルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を分極させる分極工程を有することを特徴とする。
【0024】
ジルコニアからなる第1相がアルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材は、第1相に含まれる準安定相のジルコニアの誘電特性により、分極しやすい。従って、このようなセラミックス材を分極させる分極工程を有する本発明のエレクトレットの製造方法を用いることにより、耐熱性が高く、分極の緩和が生じにくいエレクトレットを製造することができる。
【0025】
まず、分極工程において用いられるセラミックス材について簡単に説明する。
【0026】
分極工程で用いられるセラミックス材は、アルミナからなる第2相の中にジルコニアからなる第1相が分散して点在してなる。
第1相は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含む。
本明細書において室温とは25℃とする。
【0027】
第1相は、ジルコニアからなる。
ジルコニアの結晶系としては、室温で安定な安定相である単斜晶ジルコニア、室温で準安定な準安定相である正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアが挙げられる。
【0028】
安定相は、単斜晶ジルコニアである。
準安定相は、正方晶ジルコニアであることが好ましい。
準安定相が正方晶ジルコニアであると、分極が強く残留しやすく、エレクトレット用の材料として好適に利用できる。
【0029】
ジルコニアは、結晶系が室温において準安定な正方晶と、室温において安定な単斜晶とを含有することが好ましい。
結晶系が室温において準安定な正方晶ジルコニアは、優れた分極特性を示す。ジルコニアが、結晶系が室温において準安定な正方晶と、室温において安定な単斜晶とを含有していると、分極特性に優れたエレクトレットとなる。
【0030】
ジルコニアを構成する結晶系の種類は、X線回折(XRD)により得られる回折パターンにおけるピークの位置を、既知の測定試料と比較することにより確認することができる。
【0031】
ジルコニアを昇温すると、1170℃で安定相が単斜晶から正方晶に相転移する。単斜晶から正方晶に相転移する際には約4%の体積収縮が起きるため、1170℃以上の温度まで加熱された第1相は、急激に体積が小さくなる。一方で、冷却された場合には、正方晶が単斜晶へと相転移しようとするが、約4%の体積膨張を伴う。
本発明のエレクトレットでは、ジルコニアからなる第1相が、アルミナからなる第2相の中で分散して点在しているため、第1相及び第2相は複合材を形成しているといえる。このため互いに力学的な相互作用を及ぼし、第2相であるアルミナが、第1相であるジルコニアに強い拘束力をかけて、体積膨張を拘束して室温においても準安定相である正方晶を残留させる。さらに、上記第2相の強い拘束力によって、準安定相内部の双極子が容易に回転できず、強い分極を維持できると考えられる。
【0032】
セラミックス材におけるジルコニアの含有量は、5wt%~15wt%であることが好ましい。
ジルコニアの含有量が5wt%以上であると、充分な分極作用を発揮できエレクトレットとして作用する。ジルコニアの含有量が15wt%以下であると、第2相からの強い圧縮応力を受け分極を維持することができる。
なお、ジルコニアの含有量には、安定化剤の重量を考慮しないものとする。
【0033】
第1相は、安定化剤を含有していなくてもよいし、含有していてもよい。
ジルコニアが含有する安定化剤は特に限定されないが、金属酸化物が利用できる。例えば、CaO、Y、CeOなどが利用でき、CaOを添加したものは、CaO安定化ジルコニア(CSZ)、Yを添加したものはY安定化ジルコニア(YSZ)と呼ばれる。中でもYを添加したものは、高温でも安定して利用することができる。
上記安定化剤の添加により、室温でも正方晶となる安定化ジルコニアでは、上述した分極作用が見られないが、上記安定化剤の添加により、室温で安定相と準安定相とが混在する部分安定化ジルコニアや、実質的に安定化剤を含まないジルコニアは上述した分極作用を示す。
従って、部分安定化ジルコニアや実質的に安定化剤を含まないジルコニアを含む第1相は、相転移温度以下で第2相から強い圧縮応力を受けているので、第1相を構成するジルコニアの双極子が固定された状態を維持でき、分極が強く残留したエレクトレットを得ることができる。
一方、第1相が安定化剤を含有していないと、焼結後、冷却時の体積変化が最大となるため、第2相との相互作用が最大となり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。
【0034】
第1相が安定化剤を含有している場合、第1相中の安定化剤の含有量は、5mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましく、実質的に安定化剤を含んでいないことがさらに好ましい。
第1相中の安定化剤の含有量が5mol%以下であれば、冷却時の準安定相から安定相への体積変化がより大きくなるため、第2相との相互作用がより大きくなり、準安定相を残留させやすくなるので、エレクトレット作用をより強くすることができる。この効果はYを添加したときに、より効果的に発現できる。従って、添加剤としては、Yが特に好ましい。
【0035】
セラミックス材において、第1相の少なくとも一部は、扁平形状で存在していることが好ましい。さらに、上記扁平形状の配向方向が揃っていることが好ましい。
第1相が扁平形状であると、第2相から等しく応力を受けやすくなり、準安定相を維持しやすくなると考えられる。また、扁平形状の配向方向が揃っているので、分極工程において強く分極させることができる。
【0036】
扁平形状の最大長さは、0.2μm~10μmであることが好ましい。
扁平形状の最大長さが0.2μm以上であると、第1相から受ける圧縮応力の方向が揃い、双極子の復元力をより強く拘束することができる。扁平形状の最大長さが10μm以下であると、内部応力が集中しにくく、第1相と第2相との相互作用による破壊を起こりにくくすることができる。
なお、図1に示すセラミックス材1において、第1相10の最大長さはx方向における長さである。
扁平形状の最大長さは、セラミックス材の断面をSEM(倍率1000倍~10000倍)で観察した観察像において、視野内に確認できる第1相の長径の最大値である。
【0037】
第2相は、アルミナからなる。
アルミナは、ジルコニアをエレクトレット化する温度域まで安定であり、冷却の過程でジルコニアの双極子を拘束し続けることができる。また、ジルコニアとの混合物を形成しにくいため、第1相と第2相の界面が明確に形成され相互作用をより強固にできる。
【0038】
セラミックス材の断面において、望ましい第1相の面積割合は3.5%~10%である。第1相の面積割合が3.5%以上であると充分な分極が得られエレクトレットとして好適に利用できる。第1相の面積比が10%以下であると、第2相の中で第1相が分散して点在した状態を維持でき、第2相による圧縮応力を受けやすくすることができる。
セラミックス材の断面における第1相の面積割合は、SEM(倍率1000倍~10000倍)により観察されるセラミックス材の断面の視野中の全面積に対する、第1相の総面積の割合により求められる。
【0039】
セラミックス材の気孔率は、0.01%~0.5%であることが好ましい。
気孔率が0.5%以下であると、第2相から受ける圧縮応力を第1相に効率よく伝達できるので、エレクトレットとしての作用をより強くすることができる。
セラミックス材を成形する際の成形圧力を調整することにより、セラミックス材の気孔率を調整することができる。成形圧力が大きいほど、気孔率が小さくなる。
セラミックス材の気孔率は、水銀圧入式ポロシメトリを利用して測定される孔容積及び細孔径分布より求めることができる。セラミックス材の孔容積及び細孔径分布の測定は、水銀の表面張力及び接触角を、それぞれ485mN/m及び130°に設定し、水銀の圧入圧力は大気圧~200MPaまでの範囲で測定する。
【0040】
図1は、セラミックス材の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、セラミックス材1は、ジルコニアからなる第1相10と、アルミナからなる第2相20とを含有する。第1相10は、第2相20の中で分散して点在している。
また、第1相10は、結晶系が室温において準安定な準安定相を含んでいる。
図1に示す第1相10の形状は、x方向の長さがy方向の長さよりも長い扁平形状である。また、図1において、第1相10は、x方向に沿って配向しているといえる。
【0041】
第1相10が第2相20の中で分散して点在している状態では、第1相10の周囲が第2相20で覆われている。そのため、セラミックス材1を加熱した後、冷却する際に、第1相10が第2相20から圧縮応力を受ける。この圧縮応力によって第1相10の体積膨張が制限されるため、約4%の体積膨張となる準安定相から安定相への相転移が妨げられ、室温においても準安定相が生成した状態となる。
【0042】
なお、第1相の形状を特定する際には、第1相を構成するジルコニア粒子の形状や結晶子の形状ではなく、第2相で囲まれた第1相を1つの単位として、その形状を特定する。
【0043】
続いて、上述したセラミックス材を製造する方法について説明する。
セラミックス材を製造する方法としては、例えば、ジルコニア、アルミナ及び有機バインダを混合した混合物を所定の形状に成形し、脱脂、焼成(焼結ともいう)を行う方法が挙げられる。
【0044】
上記ジルコニアの平均粒子径は、特に限定されないが、0.1μm~10μmであることが好ましい。
【0045】
上記アルミナの平均粒子径は、特に限定されないが、0.05μm~1μmであることが好ましい。
【0046】
ジルコニア及びアルミナの平均粒子径は、レーザー回折法により求められる累積体積50%粒子径D50である。
【0047】
上記混合物におけるジルコニアとアルミナの合計重量に対するジルコニアの重量割合は、5%~15%であることが好ましい。
【0048】
また、上記混合物におけるジルコニアとアルミナの合計体積に対するジルコニアの体積の割合は、3.5%~10%であることが好ましい。
なお、上記ジルコニアの体積の割合は、使用する原材料(混合前のジルコニア及びアルミナ)の質量と真密度から体積を算出し、その体積比を比較する。原材料段階で体積比を設定することにより、真密度に差がある原材料を使用しても、目的の第1相と第2相の体積比の焼結体を得ることができる。
【0049】
上記ジルコニアとアルミナの合計100重量%に対し、有機バインダの含有量は、20重量%~50重量%であることが好ましい。
有機バインダとしては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系有機バインダ、ポリビニルアルコール、パラフィン等の有機バインダ等が挙げられる。
【0050】
上記混合物には、ジルコニア、アルミナ及び有機バインダのほかに適宜添加物を加えることができる。添加物としては、可塑剤、溶媒、分散剤などが挙げられ、混合物の特性等に応じて適宜使用することができる。
溶媒としては、1-ブタノール、トルエン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
上記溶媒のうち、有機バインダに対する溶解性の低いもの(貧溶媒)が好ましい。
アクリル系有機バインダに対する貧溶媒としては、ブタノール等が挙げられる。
【0051】
なお、第1相が安定化剤を含有するジルコニアである場合には、安定化剤を最初から含有するジルコニアを用いてもよいし、アルミナ及び有機バインダを混合する際に、ジルコニアと、安定化剤をそれぞれ別に準備し、あらかじめ混合したのち、アルミナと混合する2段階の方法で行ってもよい。このとき、ジルコニアと安定化剤との第1段階の混合では均一に混ざるよう、凝集しにくい乾式の混合を行うことが好ましい。一方、アルミナとの混合は、ペースト状にしてから湿式の混合を行うことが好ましい。このような方法で混合物を準備することにより、ジルコニアと安定化剤は均一に混合され、かつ、第1相とが第2相中に分散して点在した構造を得ることができる。
【0052】
また、第1相と第2相とを均一に混合した混合物から、第1相を析出させてもよい。
具体的には、例えば有機バインダと貧溶媒とを混合した溶液にアルミナ及びジルコニアを分散させ、貧溶媒の蒸発とともにスピノーダル分解によって有機バインダを析出させるとともに有機バインダとの親和性の高いジルコニアの凝集を促進させる方法が挙げられる。原材料の段階でジルコニアが凝集しているので、その後の成形によって扁平形状の第1相が得られ、分極特性を高めることができる。
【0053】
上記混合物を所定の形状に成形する方法としては、例えば、混合物をシート状に成形したシート状物を積層する方法、上記混合物を直接加圧成形や押出成形する方法が挙げられる。
なお、板状に成形できる一軸加圧では、加圧方向に垂直な面に沿って第1相が配向するように潰され、押出成形では、押出方向に沿って第1相が配向する。
【0054】
混合物を成形する際には、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
成形体に一軸加圧を加えることで、成形体中の第1相の配向方向を揃え、扁平形状に潰すことができる。このような操作により、第1相を強く分極させることができるセラミックス材を得ることができる。
【0055】
得られた成形体を、脱脂及び焼結することで、セラミックス材を得ることができる。
脱脂は、例えば、成形体を1000℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
なお、脱脂に先立って、成形体から溶媒を乾燥させてもよい。
【0056】
続いて、脱脂した成形体を焼結する。
焼結温度は、1300℃~1500℃であることが好ましい。
焼結温度が1300℃以上であると、原材料段階では単斜晶ジルコニアであった第1相のジルコニアを、準安定相である正方晶ジルコニアに転移させることができる。また焼結温度が1500℃以下であると、粒子の粗大化が起こりにくく、細かな組織が得られ分極しやすくなる。
【0057】
ジルコニアとアルミナとの固相反応速度は、極めて遅いため、上記条件による焼結では、第1相と第2相がほとんど混ざることなく混合物段階の凝集状態に対応した第1相の分散状態が形成される。従って、焼結により、第2相であるアルミナ中に第1相であるジルコニアが分散して点在した状態で固定される。
【0058】
焼結では、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
特に、成形工程において成形体に一軸加圧が加えられていない場合には、特に、焼結時において、成形体に一軸加圧を加えることが好ましい。
一軸加圧の面圧は、15MPa~150MPaであることが好ましい。
焼結時に一軸加圧を行うことで、成形体中の第1相の配向状態を固定したままで焼結を進行させることができるため、第1相を強く分極させることができるセラミックス材を得ることができる。
また、面圧15MPa以上の加圧下で焼結することによって、冷却時に第1相が準安定相から安定相に相転移する際の膨張を抑制できる強固な第2相を形成することができる。さらに、第1相と第2相の焼結温度が異なる場合であっても、圧力の作用により低い側の焼結温度で同時に焼結させることができる。
【0059】
扁平形状の第1相は、成形段階だけでなく焼結段階でも形成することができる。焼結段階で扁平形状を形成するためには、一軸成形型を用いたホットプレス、SPS等が利用できる。また、焼結時に同時に加圧することで、相転移温度におけるジルコニアの安定相への相転移を抑制することができる。
【0060】
以上の手順により、アルミナからなる第2相の中に室温において準安定な準安定相のジルコニアを含有する第1相が分散して点在するセラミックス材を得ることができる。
【0061】
[分極工程]
本発明のエレクトレットの製造方法は、上述したセラミックス材を分極させる分極工程を備える。
セラミックス材を分極させる方法は特に限定されないが、セラミックス材に電圧を印加しながら加熱する方法(熱エレクトレット処理ともいう)や、放射線を照射したり、コロナ放電を作用させる方法等が挙げられる。
【0062】
熱エレクトレット処理は、例えば、セラミックス材を1対の電極で挟み、1対の電極に電圧を加えたまま、700℃~1000℃で加熱する加熱工程と、1対の電極に電圧を加えたまま、冷却する冷却工程と、を有することが好ましい。
【0063】
また、電極に関しては、単に挟むだけでなく、セラミックス材の表面に形成してもよい。
1対の電極を形成する方法としては、例えば、金属粒子と溶媒とを含む電極ペーストをセラミックス材の表面に塗布し乾燥させる方法や、セラミックス材の表面に蒸着等の方法で金属層を形成する方法、メッキによる方法等が挙げられる。
【0064】
電極を構成する金属としては、Pt、Au、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられる。
【0065】
1対の電極を形成する位置は、互いに対向する2つの面であることが好ましい。
セラミックス材の形状が板状である場合、厚さ方向に対向する2面であることが好ましい。
このとき、セラミックス材の厚さは0.1mm~5mmであることが好ましい。
【0066】
加熱工程では、1対の電極に電圧を加えたまま、700℃~1000℃でセラミックス材を加熱する。
加熱時の雰囲気は特に限定されないが、酸化被膜を形成しやすい金属を電極に使用する場合には、当該金属が酸化しないような非酸化性雰囲気であることが好ましい。
セラミックス材を加熱する方法としては、マッフル炉による加熱が挙げられる。
【0067】
加熱工程において、セラミックス材に印加される電圧は、1kV~10kVであることが好ましい。
印加電圧が上記範囲であると、セラミックス材の絶縁破壊を防ぎつつ、充分に分極させることができる。
印加電圧が1kV以上であると、セラミックス材を充分に分極させることができる。一方、印加電圧が10kV以下であると、セラミックス材や空間に絶縁破壊が生じにくく、安定してエレクトレット化処理を施すことができる。
【0068】
冷却工程では、加熱工程を終えたセラミックス材に対して、1対の電極に電圧を加えたまま冷却する。
冷却は、加熱工程において用いた熱源からの熱の供給を止める自然冷却であってもよいし、セラミックス材に対して送風等を行う強制冷却であってもよい。
【0069】
分極工程の一例について、図2を参照しながら説明する。図2は、分極工程の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示す分極工程では、セラミックス材1の互いに対向する面1a及び面1bに1対の電極30a及び30bを形成し、マッフル炉100を用いて、セラミックス材1を700℃~1000℃に加熱するとともに、1対の電極30a、30b間に電圧を印加する。所定の温度に加熱しながら電圧を印加することによって、第1相10に含まれる準安定相を分極させることができる。第1相10が分極する方向は、セラミックス材1に印加された電圧の方向と逆方向である。
分極は、準安定相の結晶子の表面で起こる。従って、図1に示すセラミックス材1のように、第1相10が扁平形状で、x方向に沿って配向している場合、y方向に強く分極させることができる。
【0070】
本発明のエレクトレットの製造方法では、セラミックス材の表面に電極を形成しているので、冷却工程の後で、1対の電極を除去する電極除去工程をさらに有することが好ましい。
分極によってエレクトレットとしての特性を示すのは、セラミックス材の電極が形成されていた部分である。従って、電極除去工程によって1対の電極を除去することで、エレクトレットの表面を有効に活用することができる。
【0071】
[エレクトレット]
本発明のエレクトレットは、ジルコニアからなる第1相が、アルミナからなる第2相の中で分散して点在し、かつ、上記第1相が結晶系が室温において準安定な準安定相を含むセラミックス材を有し、上記第1相が分極していることを特徴とする。
【0072】
本発明のエレクトレットは、ジルコニアからなる第1相が、アルミナからなる第2相の中に分散して点在しており、第1相が、結晶系が室温において準安定な準安定相を含んでいるため、エレクトレットとしての特性を示す。
【0073】
本発明のエレクトレットは、本発明のエレクトレットの製造方法において製造されるセラミックス材を分極させたものに相当する。
従って、本発明のエレクトレットを構成するセラミックス材の構成は、本発明のエレクトレットの製造方法において分極工程が行われるセラミックス材の構成と同じである。
従って、以降、本発明のエレクトレットを構成するセラミックス材の構成については省略する。
【0074】
本発明のエレクトレットにおいて、セラミックス材の表面電位の最大値が、100V~10kVであることが好ましい。
セラミックス材の表面電位は、表面電位計により測定することができる。
【0075】
本発明のエレクトレットにおいて、セラミックス材の表面電位は均一であってもよく、不均一であってもよいが、セラミックス材の表面電位が不均一であることが好ましい。
表面電位が不均一であると、局部的に高い電位を発生させ、センサーとしてなど高い電位を利用し感度を高めるなど積極的に利用できる。
【0076】
本発明のエレクトレットにおいて、セラミックス材の表面が露出していることが好ましい。
セラミックス材の表面が露出している露出面は、セラミックス材を製造した段階から露出しているものであってもよいし、分極工程において形成された1対の電極を除去したことによりセラミックス材の表面が露出したものであってもよい。
【0077】
本発明のエレクトレットにおいて、セラミックス材の形状は、厚さ方向に対向する第1主面及び第2主面を有する板状であり、上記第1主面及び上記第2主面の少なくとも一方の主面において、主面の中央よりもエッジ部分の表面電位が低いことが好ましい。
中央よりもエッジ部分の表面電位が低いと、利用しやすい中央部分で高い電位が得られ、電子部品として好適に利用できる。
【実施例0078】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
(セラミックス材の作製)
アルミナ0.480重量部、ジルコニア0.053重量部、アクリル系有機バインダ0.182重量部、アジピン酸エステル系可塑剤(アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル))0.027重量部、可塑剤であるフローレンG-700(カルボキシル基含有ポリマー編成物)0.008重量部、溶媒である1-ブタノール0.246重量部をボールミルで混合して混合物を得た。
【0080】
得られた混合物をドクターブレード法によりシート状に成形し、100℃で2時間乾燥させた。
【0081】
得られた成形体を、温度1000℃の条件で1時間加熱し、成形体を脱脂した。
【0082】
脱脂した成形体を、ホットプレスを用いて40MPaの面圧で一軸加圧を加えながら1450℃で3時間加熱し、厚さ1mmの板状のセラミックス材を得た。
【0083】
(分極工程)
得られたセラミックス材の表面及び裏面にPt電極を形成し、マッフル炉内に静置した。
セラミックス材の表面に形成した1対のPt電極間に4kVの電圧を印加しながら、マッフル炉によってセラミックス材を非酸化性雰囲気で900℃まで昇温し、3時間保持した後、マッフル炉の電源を切って室温まで冷却し、実施例1に係るエレクトレットを得た。
【0084】
(実施例2)
1-ブタノール0.246重量部をトルエン0.246重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2に係るエレクトレットを得た。
【0085】
(実施例3)
ジルコニア0.053重量部を、6mol%のYを添加した部分安定化ジルコニア(p-YSZ)0.053重量部に変更した以外は、実施例2と同様の手順で、実施例3に係るエレクトレットを得た。
【0086】
(比較例1)
ジルコニアを添加せず、アルミナの添加量を0.533重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1に係るエレクトレットを得た。
【0087】
(比較例2)
アルミナを添加せず、ジルコニアの添加量を0.533重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例2に係るエレクトレットを得た。
【0088】
(比較例3)
ジルコニアを、10mol%のYを添加した安定化ジルコニア(YSZ)に変更した以外は、比較例2と同様の手順で、比較例3に係るエレクトレットを得た。
【0089】
(結晶系の測定)
各実施例及び比較例に係るエレクトレットに対してX線回折(XRD)測定を行い、得られた回折パターンを既知の化合物と比較することで、エレクトレットに含まれるジルコニアの結晶系を特定した。結果を表1に示す。
図3は、実施例1、3及び比較例1に係るエレクトレットのXRDパターンを示す図である。
【0090】
(第1相の分散状態及び形状の観察)
エレクトレットの断面をSEMにより観察して、第2相に対する第1相の分散状態及び第1相の形状を観察した。このとき、第1相が配向している方向及び第1相の最大長さについても求めた。結果を表1に示す。また、実施例1~3については、SEM写真を図4~6に示す。図4は、実施例1に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真であり、図5は、実施例2に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真であり、図6は、実施例3に係るエレクトレットの断面におけるSEM写真である。
【0091】
(分極状態の確認)
各実施例及び比較例に係るエレクトレットの分極の状態を、トレックジャパン社製表面電位計 Model1344により場所を変えつつ確認し、全体の分極状態を確認した。+電位側の面の表面の電位(電圧)の最大値と、-電位側の面の表面の電位(電圧)の最小値との差を分極電圧とした。実施例1及び2に係るエレクトレットの分極の状態を、図7A図7B図8A図8Bに示す。図7Aは、実施例1に係るエレクトレットの表面(+側)の表面電位の分布を示す図であり、図7Bは、実施例1に係るエレクトレットの表面(-側)の表面電位の分布を示す図であり、図8Aは、実施例2に係るエレクトレットの表面(+側)の表面電位の分布を示す図であり、図8Bは、実施例2に係るエレクトレットの表面(-側)の表面電位の分布を示す図である。なお図7A図7B図8A図8Bにおける縦軸は表面電位を示しており、これに直交する2つの軸はエレクトレット表面の位置(座標)を示している。
図7A図7B図8A図8Bに示すように、実施例1、2に係るエレクトレットでは、表面の分極電圧が不均一であった。図示していないが、実施例3に係るエレクトレットも、エレクトレット表面の表面電位が不均一であった。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1及び2に係るエレクトレットの分極電圧は、それぞれ1061.9V(最大値:+959.9V、最小値:-102.0V)、175.9V(最大値:+103.8V、最小値:-72.1V)であった。このため、エレクトレットとして優れた特性を有しているといえる。
一方、実施例3に係るエレクトレットの表面には、わずかに分極がみられた。
このため、わずかながら、エレクトレットとしての特性を有しているといえる。
一方、比較例1~3に係るエレクトレットの表面には、分極がみられなかった。
【0094】
実施例1と実施例2とを比較した際に、実施例1のほうの分極が大きくなった原因としては、焼結前のジルコニアの粒子形状にあると考えられる。
実施例1では、溶媒として1-ブタノールを用いた。1-ブタノールは有機バインダに対する溶解度が低い貧溶媒であるため、乾燥過程でジルコニアと有機バインダの凝集が生じ、扁平形状のジルコニア粒子が生じたことによると考えられる。
一方、実施例2では、溶媒としてトルエンを用いた。トルエンは有機バインダに対する溶解度が高い良溶媒であるため、乾燥過程でジルコニアと有機バインダの凝集が生じず、扁平形状のジルコニア粒子が得られなかったものと考えられる。
実施例3に係るエレクトレットでは、安定化剤の添加により第1相の分極が緩和されてしまったと考えられる。
【0095】
比較例1が分極を示さなかったのは、誘電体となるジルコニアが含まれていないためと考えられる。
比較例2が分極を示さなかったのは、誘電体となるジルコニアがアルミナ中に分散して点在していないため、ジルコニアの結晶系が正方晶から単斜晶に遷移することを妨害する作用が働かなかった為と考えられる。
比較例3が分極を示さなかったのは、酸素イオンの導電体として振る舞っているためと考えられる。比較例3は酸素イオンの移動によって分極が緩和されたため、分極を示さなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のエレクトレットは、高温でも分極を維持できるので、高温でプラズマを制御したり、パーティクルを捕集したりすることができ、サセプタ、プラズマエッチング用部品、ダミーウェハなど半導体製造装置用の部品として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 セラミックス材
1a、1b セラミックス材の面
10 第1相
20 第2相
30a、30b 電極
100 マッフル炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B