(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098271
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】渦電流探傷システム及び渦電流探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20220624BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211708
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成重 将史
(72)【発明者】
【氏名】三木 将裕
(72)【発明者】
【氏名】長沼 潤一郎
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB05
2G053CB24
2G053CB25
2G053DA01
2G053DA09
2G053DA10
2G053DB02
(57)【要約】
【課題】検査対象物の表面きずと裏面きずを識別して検出することができる渦電流探傷システム及び渦電流探傷方法を提供する。
【解決手段】渦電流探傷システムは、励磁コイル22、第1検出コイル23A、及び第2検出コイル23Bを有する渦電流プローブ11と、探傷装置13と、コンピュータ14とを備え、円管2の表面きず4及び裏面きず5を検出する。コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が、識別マップの基準範囲ABCD又は基準範囲GHIJ内にあるか否かにより、検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、識別マップの基準範囲ABCEF又は基準範囲GHIKL内にあるか否かにより、検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定し、その判定結果を出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの励磁コイル、前記励磁コイルに対し一方側に配置された第1検出コイル、及び前記励磁コイルに対し他方側に配置された第2検出コイルを有する渦電流プローブと、
前記励磁コイルに励磁信号を印加すると共に、前記第1検出コイルの検出信号及び前記第2検出コイルの検出信号を取得する探傷装置と、
コンピュータとを備え、
検査対象物の表面きず及び裏面きずを検出する渦電流探傷システムであって、
前記コンピュータは、
前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角を座標とする座標系にて予め設定された第1基準範囲及び第2基準範囲を記憶し、
前記探傷装置で取得された前記第1検出コイルの検出信号に対して位相角を演算すると共に、前記探傷装置で取得された前記第2検出コイルの検出信号に対して位相角を演算し、
演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第1基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第2基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定し、
その判定結果を出力することを特徴とする渦電流探傷システム。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流探傷システムにおいて、
前記コンピュータは、高周波数の交流信号を前記励磁コイルに印加した場合の前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第1基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、低周波数の交流信号を前記励磁コイルに印加した場合の前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第2基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定することを特徴とする渦電流探傷システム。
【請求項3】
請求項1に記載の渦電流探傷システムにおいて、
前記コンピュータは、前記検出信号が裏面きず信号に相当すると判定した場合に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角のうちの少なくとも一方に基づき、前記検査対象物の表面と前記裏面きずの間の残肉の厚さを推定することを特徴とする渦電流探傷システム。
【請求項4】
少なくとも1つの励磁コイル、前記励磁コイルに対し一方側に配置された第1検出コイル、及び前記励磁コイルに対し他方側に配置された第2検出コイルを有する渦電流プローブと、
前記励磁コイルに励磁信号を印加すると共に、前記第1検出コイルの検出信号及び前記第2検出コイルの検出信号を取得する探傷装置とを用いて、
検査対象物の表面きず及び裏面きずを検出する渦電流探傷方法であって、
前記探傷装置で取得された前記第1検出コイルの検出信号に対して位相角を演算すると共に、前記探傷装置で取得された前記第2検出コイルの検出信号に対して位相角を演算し、
前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角を座標とする座標系にて予め設定された第1基準範囲内に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角があるか否かにより、前記検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、前記座標系にて予め設定された第2基準範囲内に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角があるか否かにより、前記検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項5】
請求項4に記載の渦電流探傷方法において、
高周波数の交流信号を前記励磁コイルに印加した場合の前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第1基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、低周波数の交流信号を前記励磁コイルに印加した場合の前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第2基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項6】
請求項4に記載の渦電流探傷方法において、
前記検出信号が裏面きず信号に相当すると判定した場合に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角のうちの少なくとも一方に基づき、前記検査対象物の表面と前記裏面きずの間の残肉の厚さを推定することを特徴とする渦電流探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物の探傷検査を行う渦電流探傷システム及び渦電流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、検査対象物の探傷検査を行う渦電流検査装置を開示する。この渦電流検査装置は、2列で配列されたコイル群を有する渦電流プローブと、渦電流プローブに接続された検査制御装置とを備える。
【0003】
検査制御装置は、渦電流プローブのコイル群のうちの励磁コイルと検出コイルの組み合わせを順次切り替える制御を行う。詳細には、1列目のコイルのうちの一のコイルを励磁コイルとして選択し、励磁コイルに励磁信号を印加する。これにより、検査対象物に渦電流を発生させる。また、1列目のコイルのうちの他のコイル(言い換えれば、励磁コイルに対し一方側に配置されたコイル)を第1検出コイルとして選択し、その検出信号(詳細には、検査対象物のきずによって生じる渦電流の乱れに相当する信号)を取得する。また、2列目のコイルのうちの一のコイル(言い換えれば、励磁コイルに対し他方側に配置されたコイル)を第2検出コイルとして選択し、その検出信号を取得する。
【0004】
検査制御装置は、第1検出コイルの検出信号からX成分(詳細には、励磁信号の位相と同じ成分)とY成分(詳細には、励磁信号の位相と90度異なる成分)を取得し、それらに基づいて第1検出コイルの検出信号の位相角を演算する。同様に、第2検出コイルの検出信号からX成分とY成分を取得し、それらに基づいて第2検出コイルの検出信号の位相角を演算する。
【0005】
検査制御装置は、第1検出コイルの検出信号の位相角及び第2検出コイルの検出信号の位相角を座標とする座標系にて予め設定された基準範囲を記憶する。そして、演算された第1検出コイルの検出信号の位相角及び第2検出コイルの検出信号の位相角が基準範囲内にあるか否かにより、検出信号がきず信号に相当するか否かを判定する。そして、検査対象物の表面上の検出位置を示す座標系にて、きず信号に相当すると判定された検出信号の範囲を示す探傷画像を生成し、探傷画像を表示器に表示させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、渦電流プローブを検査対象物の表面側に配置して、検査対象物の表面きず(言い換えれば、検査対象物の表面に開口したきず)を検出する。ここで、渦電流プローブを検査対象物の表面側に配置したまま、検査対象物の表面きずだけでなく、裏面きず(言い換えれば、検査対象物の裏面に開口したきず)も検出すれば、検査時間の短縮を図ることが可能である。しかし、検査対象物の表面きずと裏面きずを識別できなければ、その後の対応を判断することが困難である。
【0008】
本発明の目的は、検査対象物の表面きずと裏面きずを識別して検出することができる渦電流探傷システム及び渦電流探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの励磁コイル、前記励磁コイルに対し一方側に配置された第1検出コイル、及び前記励磁コイルに対し他方側に配置された第2検出コイルを有する渦電流プローブと、前記励磁コイルに励磁信号を印加すると共に、前記第1検出コイルの検出信号及び前記第2コイルの検出信号を取得する探傷装置と、コンピュータとを備え、検査対象物の表面きず及び裏面きずを検出する渦電流探傷システムであって、前記コンピュータは、前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角を座標とする座標系にて予め設定された第1基準範囲及び第2基準範囲を記憶し、前記探傷装置で取得された前記第1検出コイルの検出信号に対して位相角を演算すると共に、前記探傷装置で取得された前記第2検出コイルの検出信号に対して位相角を演算し、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第1基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定すると共に、演算された前記第1検出コイルの検出信号の位相角及び前記第2検出コイルの検出信号の位相角が前記第2基準範囲内にあるか否かにより、前記検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定し、その判定結果を出力する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検査対象物の表面きずと裏面きずを識別して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態における渦電流探傷システムの構成を検査対象物と共に表す概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における渦電流プローブの構造を表す側面図及び断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態における識別マップを表す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における表面きず信号が検出された場合の位相角の具体例を説明するための図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態における裏面きず信号が検出された場合の位相角の具体例を説明するための図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態における位相角マップを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本実施形態における渦電流探傷システムの構成を検査対象物と共に表す概略図である。
図2(a)は、本実施形態における渦電流プローブの構造を表す側面図であり、
図2(b)は、
図2(a)の断面B-Bによる断面図である。
【0014】
本実施形態の検査対象物は、圧力容器1の貫通穴に挿入されて溶接された円管2であり、検査部位は、円管2において溶接部3と隣接する部分である。なお、円管2の材質は、ステンレス鋼(非磁性材)であり、圧力容器1の材質は、低合金鋼(磁性材)である。
【0015】
本実施形態の渦電流探傷システムは、円管2の表面きず4(言い換えれば、円管2の内面に開口したきず)及び裏面きず5(言い換えれば、円管2の外面に開口したきず)を検出するためのものである。この渦電流探傷システムは、円管2内に配置されてコイル群を有する渦電流プローブ11と、円管2の軸方向(
図1の上下方向)における渦電流プローブ11の位置を調整するプローブ位置調整装置12と、渦電流プローブ11のコイル群を制御する探傷装置13と、プローブ位置調整装置12及び探傷装置13に接続されたコンピュータ14と、コンピュータ14に接続された表示器(モニタ)15とを備える。
【0016】
渦電流プローブ11は、円柱形の筐体21と、筐体21の外周側に2列で千鳥配列されたコイル群とを有する。軸方向一方側(
図1及び
図2の上側)に配置された1列目のコイルは、互いに間隔dで離間され、軸方向他方側(
図1及び
図2の下側)に配置された2列目のコイルは、互いに間隔dで離間されている。1列目のコイルのうちの一のコイルとこれに隣り合う2列目のコイルのうちの一のコイルは、互いに間隔(d×2)で離間されている。各コイルは、その中心に磁性コアが挿入されており、その中心軸が筐体21の断面中心に向けられている(
図2(b)参照)。なお、筐体21の材質は、例えば非導電性の樹脂材である。
【0017】
探傷装置13は、図示しないものの、渦電流プローブ11のコイル群のうちの励磁コイルと検出コイルの組み合わせを選択するマルチプレクサ回路と、マルチプレクサ回路を介し励磁コイルに励磁信号を印加する発信器と、円管2にきずが無い場合の検出コイルの検出信号がゼロとなるように設定され、マルチプレクサ回路を介し検出コイルの検出信号を取得するブリッジ回路と、検出コイルの検出信号からX成分(詳細には、励磁信号の位相と同じ成分)を取得する同期検波回路と、検出コイルの検出信号からY成分(詳細には、励磁信号の位相と90度異なる成分)を取得する同期検波回路とを有する。
【0018】
探傷装置13は、コンピュータ14からの指令に応じて、渦電流プローブ11のコイル群のうちの励磁コイルと検出コイル(詳細には、後述する第1検出コイル又は/及び第2検出コイル)の組み合わせを順次切り替える制御を行う。
【0019】
詳しく説明すると、探傷装置13は、1列目のコイルのうちの一のコイルを励磁コイル22として選択し、励磁コイル22に励磁信号を印加する。これにより、円管2に渦電流を発生させる。なお、本実施形態では、100kHz以上の高周波数(例えば100kHz)の励磁信号を励磁コイル22に印加するように設定されている。これにより、100kHz未満の低周波数の励磁信号を励磁コイル22に印加する場合と比べ、円管2の内面側における渦電流を大きくする。
【0020】
また、探傷装置13は、1列目のコイルのうちの他のコイル(言い換えれば、励磁コイル22に対し一方側に配置され、間隔(d×2)だけ離れたコイル)を第1検出コイル23Aとして選択し、その検出信号を取得する。そして、第1検出コイル23Aの検出信号からX成分とY成分を取得し、コンピュータ14に出力する。
【0021】
また、探傷装置13は、2列目のコイルのうちの一のコイル(言い換えれば、励磁コイル22に対し他方側に配置され、間隔(d×2)だけ離れたコイル)を第2検出コイル23Bとして選択し、その検出信号を取得する。そして、第2検出コイル23Bの検出信号からX成分とY成分を取得し、コンピュータ14に出力する。
【0022】
コンピュータ14は、プローブ位置調整装置12を制御して、円管2の軸方向における渦電流プローブ11の位置を調整する。そして、渦電流プローブ11の位置と励磁コイル22の選択位置に基づいて、円管2の内面上の検出位置を演算する。
【0023】
コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号におけるX成分とY成分に基づいて、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1を演算する。また、第2検出コイル23Bの検出信号におけるX成分とY成分に基づいて、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2を演算する。
【0024】
コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角を横軸、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角を縦軸とする座標系にて、予め設定された基準範囲ABCD、基準範囲GHIJ、基準範囲ABCEF、及び基準範囲GHIKLを示す、識別マップ(
図3参照)を記憶している。そして、演算された第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角が基準範囲ABCD又は基準範囲GHIJに含まれるか否かにより、検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定する。また、演算された第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が基準範囲ABCEF又は基準範囲GHIKLに含まれるか否かにより、検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定する。以下、その詳細を説明する。
【0025】
図4(a)で示すように、円管2の表面きず4が円管2の周方向に延在する場合、渦電流プローブ11の励磁コイル22と第1検出コイル23Aの配置方向は、表面きず4の長さ方向に対しほぼ平行となる。そのため、
図4(b)で示すように、第1検出コイル23Aの検出信号をリサージュ図にプロットすると、リサージュ波形31が現れ、例えば位相角θ1=90°が得られる。渦電流プローブ11の励磁コイル22と第2検出コイル23Bの配置方向は、表面きず4の長さ方向に対しほぼ垂直となる。そのため、第2検出コイル23Bの検出信号をリサージュ図にプロットすると、リサージュ波形32が現れ、例えば位相角θ2=250°が得られる。したがって、表面きず信号は、識別マップの基準範囲ABCD、詳細には、点A(座標((θ1a-Δθ),(θ2a+Δθ)))、点B(座標((θ1a-Δθ),(θ2a-θ)))、点C(座標((θ1a+Δθ),(θ2a-Δθ)))、及び点D(座標((θ1a+Δθ),(θ2a+Δθ)))で囲まれる領域に含まれる(但し、例えばθ1a=90°、θ2a=250°、Δθ=20°)。
【0026】
図示しないが、円管2の表面きず4が円管2の軸方向に延在する場合は、反対に、励磁コイル22と第1検出コイル23Aの配置方向が表面きず4の長さ方向に対しほぼ垂直となり、励磁コイル22と第2検出コイル23Bの配置方向が表面きず4の長さ方向に対しほぼ平行となる。そのため、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=250°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=90°が得られる。したがって、表面きず信号は、識別マップの基準範囲GHIJ、詳細には、点G(座標((θ1b-Δθ),(θ2b+Δθ)))、点H(座標((θ1b-Δθ),(θ2b-Δθ)))、点I(座標((θ1b+Δθ),(θ2b-Δθ)))、及び点J(座標((θ1b+Δθ),(θ2b+Δθ)))で囲まれる領域に含まれる(但し、例えばθ1b=250°、θ2b=90°、Δθ=20°)。
【0027】
図5(a)で示すように、円管2の裏面きず5が円管2の周方向に延在する場合、渦電流プローブ11の励磁コイル22と第1検出コイル23Aの配置方向は、裏面きず5の長さ方向に対しほぼ平行となる。そのため、円管2の内面と裏面きず5の間における残肉の厚さが0.3mmである場合は、
図5(b)で示すように、第1検出コイル23Aの検出信号をリサージュ図にプロットすると、リサージュ波形33が現れ、例えば位相角θ1=15°が得られる。渦電流プローブ11の励磁コイル22と第2検出コイル23Bの配置方向は、裏面きず5の長さ方向に対しほぼ垂直となる。そのため、
図5(c)で示すように、第2検出コイル23Bの検出信号をリサージュ図にプロットすると、リサージュ波形34が現れ、例えば位相角θ2=175°が得られる。なお、残肉の厚さが0.6mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=0°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=160°が得られる。すなわち、座標は、残肉の厚さに応じて、図中の一点鎖線に沿って変化する。したがって、裏面きず信号は、識別マップの基準範囲ABCEF、詳細には、点A、点B、点C、点E(座標(0,(θ2a-θ)-(θ1a+Δθ)))、及び点F(座標(0,(θ2a+Δθ)-(θ1a-Δθ)))で囲まれる領域に含まれる。
【0028】
図示しないが、円管2の裏面きず5が円管2の軸方向に延在する場合は、反対に、励磁コイル22と第1検出コイル23Aの配置方向が裏面きず5の長さ方向に対しほぼ垂直となり、励磁コイル22と第2検出コイル23Bの配置方向が裏面きず5の長さ方向に対しほぼ平行となる。そのため、残肉の厚さが0.3mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=175°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=15°が得られる。また、残肉の厚さが0.6mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=160°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=0°が得られる。したがって、裏面きず信号は、識別マップの基準範囲GHIKL、詳細には、点G、点H、点I、点K(座標((θ1b+Δθ)-(θ2b-Δθ),0)))、及び点L(座標((θ1b-Δθ)-(θ2b+Δθ),0)))で囲まれる領域に含まれる。
【0029】
なお、渦電流プローブ11が円管2の内面から浮いた場合に、リフトオフ信号が検出される。リフトオフ信号は、|θ2-θ1|≦Δθの範囲に含まれ、上述した基準範囲ABCD、基準範囲GHIJ、基準範囲ABCEF、及び基準範囲GHIKLに含まれない。
【0030】
上述した観点により、コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が基準範囲ABCD又は基準範囲GHIJに含まれるか否かにより、検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定することが可能である。また、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が基準範囲ABCEF又は基準範囲GHIKLに含まれるか否かにより、検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定することが可能である。
【0031】
コンピュータ14は、円管2の周方向及び軸方向における検出位置を示す座標系にて、表面きず信号に相当すると判定された検出信号の範囲を示す第1の探傷画像を生成し、第1の探傷画像を表示器15に出力して表示させる。これにより、作業者は、円管2の表面きず4を確認することができ、その後の対応として、例えば表面きず4のサイジングを実施する。
【0032】
また、コンピュータ14は、円管2の周方向及び軸方向における検出位置を示す座標系にて、裏面きず信号に相当すると判定された検出信号の範囲を示す第2の探傷画像を生成し、第2の探傷画像を表示器15に出力して表示させる。これにより、作業者は、円管2の裏面きず5を確認することができ、その後の対応として、例えば超音波探傷又は目視検査を実施する。
【0033】
以上のように本実施形態においては、円管2内に配置された渦電流プローブ11を用いて、円管2の表面きず4だけでなく、円管2の裏面きず5を検出することができる。そのため、検査時間の短縮を図ることができる。また、円管2の表面きず4と裏面きず5を識別することができる。そのため、その後の対応を容易に判断することができる。
【0034】
また、本実施形態においては、渦電流プローブ11の励磁コイル22に印加する励磁信号の周波数を高くすることにより、円管2の内面側における渦電流を大きくして、表面きずの検出精度を高めることができる。
【0035】
本実施形態の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0036】
本実施形態では、100kHz未満の低周波数(例えば25kHz)の励磁信号を励磁コイルに印加するように設定されている。これにより、100kHz以上の高周波数の励磁信号を励磁コイル22に印加する場合と比べ、円管2における渦電流の浸透深さを深くする。
【0037】
コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角を横軸、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角を縦軸とする座標系にて、予め設定された基準範囲ABCD、基準範囲GHIJ、基準範囲ABCE’F’、及び基準範囲GHIK’L’を示す、識別マップ(
図6参照)を記憶している。そして、演算された第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が基準範囲ABCD又は基準範囲GHIJに含まれるか否かにより、検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定する。また、演算された第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2が基準範囲ABCE’F’又は基準範囲GHIK’L’に含まれるか否かにより、検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定する。
【0038】
ここで、表面きず信号の判定に用いる基準範囲ABCD及び基準範囲GHIJは、第1の実施形態と同じであるものの、裏面きず信号の判定に用いる基準範囲ABCE’F’及び基準範囲GHIK’L’は、第1の実施形態と異なる理由について説明する。一般的に、円管2の表面側の渦電流が裏面側の渦電流より大きいことから、探傷装置13は、円管2の表面側の渦電流を基準として校正されている。そのため、表面きず信号に相当する第1検出コイル23Aの検出信号及び第2検出コイル23Bの検出信号に関し、それらの位相角は、励磁コイル22に印加する励磁信号の周波数が変化しても、ほとんど変化しない。
【0039】
一方、裏面きず信号に相当する第1検出コイル23Aの検出信号及び第2検出コイル23Bの検出信号に関し、それらの位相角は、表面きず信号に相当する第1検出コイル23Aの検出信号及び第2検出コイル23Bの検出信号のものより変化しており、それらの変化量は、励磁コイル22に印加する励磁信号の周波数が低くなるほど、小さくなる。
【0040】
具体例として、円管2の裏面きず5が円管2の周方向に延在し、残肉の厚さが0.3mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=45°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=205°が得られる。円管2の裏面きず5が円管2の周方向に延在し、残肉の厚さが0.6mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=30°、第2検出コイルの検出信号の位相角θ2=190°が得られる。円管2の裏面きず5が円管2の軸方向に延在し、残肉の厚さが0.3mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=205°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=45°が得られる。円管2の裏面きず5が円管2の軸方向に延在し、残肉の厚さが0.6mmである場合は、例えば第1検出コイル23Aの検出信号の位相角θ1=190°、第2検出コイル23Bの検出信号の位相角θ2=30°が得られる。
【0041】
上述した本実施形態においても、第1の実施形態と同様、円管2内に配置された渦電流プローブ11を用いて、円管2の表面きず4だけでなく、円管2の裏面きず5を検出することができる。そのため、検査時間の短縮を図ることができる。また、円管2の表面きず4と裏面きず5を識別することができる。そのため、その後の対応を容易に判断することができる。
【0042】
また、本実施形態においては、渦電流プローブ11の励磁コイル22に印加する励磁信号の周波数を低くすることにより、円管2における渦電流の浸透深さを深くして、裏面きず5の検出精度を高めることができる。
【0043】
なお、第1の実施形態においては、高周波数の励磁信号を用いる場合を例にとり、第2の実施形態においては、低周波数の励磁信号を用いる場合を例にとって説明したが、それらを組み合わせてもよい。この変形例について説明する。
【0044】
本変形例の探傷装置13は、高周波数(例えば100kHz)の励磁信号と低周波数(例えば25kHz)の励磁信号を励磁コイル22に選択的に印加する。これにより、高周波数の励磁信号を励磁コイル22に印加した場合の第1検出コイル23Aの検出信号及び第2検出コイル23Bの検出信号と、低周波数の励磁信号を励磁コイル22に印加した場合の第1検出コイル23Aの検出信号及び第2検出コイル23Bの検出信号を取得する。
【0045】
本変形例のコンピュータ14は、第1の実施形態と同様、高周波数の励磁信号を励磁コイル22に印加した場合の第1検出コイル23Aの検出信号の位相角及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角が基準範囲内にあるか否かにより、検出信号が表面きず信号に相当するか否かを判定する。また、第2の実施形態と同様、低周波数の交流信号を励磁コイル22に印加した場合の第1検出コイル23Aの検出信号の位相角及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角が基準範囲内にあるか否かにより、検出信号が裏面きず信号に相当するか否かを判定する。
【0046】
上述した本変形例においても、第1及び第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本変形例においては、表面きず4の検出精度と裏面きず5の検出精度を両方とも高めることができる。
【0047】
なお、第1及び第2の実施形態並びに変形例において、特に説明しなかったが、コンピュータ14は、検出信号が裏面きず信号に相当すると判定した場合に、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角のうちの少なくとも一方に基づき、円管2の内面(検査対象物の表面)と裏面きず5の間の残肉の厚さを推定してもよい。すなわち、コンピュータ14は、第1検出コイル23Aの検出信号の位相角及び第2検出コイル23Bの検出信号の位相角のうちの少なくとも一方と残肉の厚さとの関係を予め記憶しており、これを用いて残肉の厚さを推定してもよい。
【0048】
また、第1及び第2の実施形態並びに変形例において、検査対象物が円管2であり、渦電流プローブ11は、円管2に対応するように円柱状に構成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。検査対象物が平板であり、渦電流探傷プローブは、平板に対応するように平板状に構成されてもよい。
【0049】
また、第1及び第2の実施形態並びに変形例において、渦電流プローブ11は、2列で配列されたコイル群を有する場合を例にとって説明したが、これに限られず、3列以上で配列されたコイル群を有してもよい。
【0050】
また、第1及び第2の実施形態並びに変形例において、コンピュータ14は、探傷画像を表示器15に出力して表示させる場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば、印刷機に出力して印刷させてもよいし、あるいは、記憶媒体に出力して記憶させてもよい。
【符号の説明】
【0051】
2 円管
11 渦電流プローブ
13 探傷装置
14 コンピュータ
22 励磁コイル
23A 第1検出コイル
23B 第2検出コイル