(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098313
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 24/02 20060101AFI20220624BHJP
B43K 7/12 20060101ALI20220624BHJP
B43K 8/00 20060101ALI20220624BHJP
B43K 29/02 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B43K24/02 110
B43K7/12
B43K8/00 100
B43K29/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211781
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】飯島 達也
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HC03
2C350KF01
2C353HA01
2C353HA09
2C353HC04
2C353HJ03
2C353HL03
2C353MA06
(57)【要約】
【課題】 筆記時にチップのガタつきが防止されて安定した筆記感が得られる一方、作動不良の虞が小さい出没式筆記具を提供すること。
【解決手段】 本発明は、前端に開口を有する軸筒と、軸筒の軸方向に移動可能なチップホルダーと、チップホルダーの移動に伴って出没可能なチップと、軸筒の開口の内周に遊嵌され軸方向に移動可能な環状部材と、軸筒と環状部材とを互いに相対移動可能に接続する弾性部材と、を備える。環状部材の外周の少なくとも一部には、軸筒の開口の内面の一部に当接する当接面が形成されており、環状部材の一部には、切欠きが形成されており、前記当接面において荷重を受ける時に環状部材の内径が縮径するようになっている。前記軸筒の開口の内面の一部には、前記環状部材の後端側への移動に伴って前記当接面が当接する案内面が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端に開口を有する軸筒と、
前記軸筒の内部に収容され、前記軸筒の軸方向に移動可能なチップホルダーと、
前記チップホルダーの前端に固定され、前記チップホルダーの移動に伴って前記軸筒の前記開口から出没可能なチップと、
前記軸筒の前記開口の内周に遊嵌され、当該軸筒に対して当該軸筒の軸方向に移動可能な環状部材と、
前記軸筒と前記環状部材とを互いに相対移動可能に接続する弾性部材と、
を備え、
前記環状部材の外周の少なくとも一部には、前記軸筒の前記開口の内面の一部に当接する当接面が形成されており、
前記環状部材の一部には、切欠きが形成されており、前記当接面において荷重を受ける時に当該環状部材の内径が縮径するようになっており、
前記軸筒の前記開口の内面の一部には、前記環状部材の後端側への移動に伴って前記当接面が当接する案内面が形成されている
ことを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
前記環状部材は、前記チップホルダーの前端側への移動に伴って、前記弾性部材を弾性変形させながら前記チップホルダーと共に前端側へと移動するようになっており、その後の前記チップホルダーの後端側への移動に伴って、前記弾性部材の復元力によって後端側へと移動するようになっており、
前記当接面は、前記環状部材が後端側へ移動するのに伴って、
前記案内面から前記荷重を受けるようになっている
ことを特徴とする請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記切欠きは、前記環状部材の周方向に等間隔に複数が配置されており、
前記複数の切欠きの各々は、前記環状部材の軸方向に延びるスリットである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記当接面は、後端に向かって先細状である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記当接面は、切頭円錐面を有している
ことを特徴とする請求項4に記載の出没式筆記具。
【請求項6】
前記弾性部材は、コイルバネである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項7】
チップ没入時に、前記当接面と前記案内面とは、常時当接している
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項8】
前記環状部材は、前記軸筒の前記開口から前方側に突出している
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項9】
前記チップの出没操作のための操作部、または、前記軸筒の後部に、軟質部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の出没式筆記具。
【請求項10】
前端にチップが固定されたチップホルダーを軸方向に移動可能に収容可能であって、前端に開口を有し、前記チップホルダーの移動に伴って前記チップを前記開口から出没させることが可能な出没式筆記具用の軸筒であって、
前記軸筒の前記開口の内周に遊嵌され、当該軸筒に対して当該軸筒の軸方向に移動可能な環状部材と、
前記軸筒と前記環状部材とを互いに相対移動可能に接続する弾性部材と、
を備え、
前記環状部材の外周の少なくとも一部には、前記軸筒の前記開口の内面の一部に当接する当接面が形成されており、
前記環状部材の一部には、切欠きが形成されており、前記当接面において荷重を受ける時に当該環状部材の内径が縮径するようになっており、
前記軸筒の前記開口の内面の一部には、前記環状部材の後端側への移動に伴って前記当接面が当接する案内面が形成されている
ことを特徴とする出没式筆記具用の軸筒。
【請求項11】
前記環状部材は、前記チップホルダーの前端側への移動に伴って、前記弾性部材を弾性変形させながら前記チップホルダーと共に前端側へと移動するようになっており、その後の前記チップホルダーの後端側への移動に伴って、前記弾性部材の復元力によって後端側へと移動するようになっており、
前記当接面は、前記環状部材が後端側へ移動するのに伴って、
前記案内面から前記荷重を受けるようになっている
ことを特徴とする請求項10に記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項12】
前記切欠きは、前記環状部材の周方向に等間隔に複数が配置されており、
前記複数の切欠きの各々は、前記環状部材の軸方向に延びるスリットである
ことを特徴とする請求項10または11に記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項13】
前記当接面は、後端に向かって先細状である
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項14】
前記当接面は、切頭円錐面を有している
ことを特徴とする請求項13に記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項15】
前記弾性部材は、コイルバネである
ことを特徴とする請求項10乃至14のいずれかに記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項16】
チップ没入時に、前記当接面と前記案内面とは、常時当接している
ことを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項17】
前記環状部材は、前記軸筒の前記開口から前方側に突出している
ことを特徴とする請求項10乃至16のいずれかに記載の出没式筆記具用の軸筒。
【請求項18】
前記チップの出没操作のための操作部、または、前記軸筒の後部に、軟質部材が設けられている
ことを特徴とする請求項10乃至17のいずれかに記載の出没式筆記具用の軸筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップホルダーの移動に伴って軸筒の開口からチップが出没可能な出没式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筆記先端部の振れ防止装置が開示されている。当該装置の構成は、筆記先端部の適宜位置に凹溝を設け、軸筒先端部の内径とほぼ等しい外径の弾性を有するOリングを前記凹溝に嵌着したものである。当該装置によれば、鉛筆タイプ及びノック式筆記具において、筆記時の筆記先端部が軸筒先端部の先端孔に当接しておこるガタツキ音を防止することができる。
【0003】
特許文献2にも、筆記先端部の振れ防止装置が開示されている。当該装置の構成は、軸筒の先端内に設けた係止段部に、筆記先端部外径より僅かに小内径の弾性リングを係合したものである。当該装置によれば、弾性リングが筆記先端部を係止するため、軸筒の先端内径と筆記先端部との間に隙間があっても、筆記時にガタつく事を防止することができる。
【0004】
特許文献3には、軸筒に対し前後方向に摺動して該軸筒の開口部から筆記体の筆記部を繰り出す筆記具が開示されている。筆記体の先端部外周に環状部材が配設されていて、筆記部が出没する軸筒先端の開口部周辺の内側面に、環状部材が当接する略球面状の内面が形成されている。環状部材は、筆記体に対してスプリングを介して固定されていて、前方に向けて付勢されている。筆記部が繰り出されると、スプリングの弾発力によって環状部材が軸筒先端の内側面に密着される。これにより、筆記時にガタつく事を防止することができる。
【0005】
本件出願人による特許文献4は、チップのガタつきを防止した出没式筆記具として、4タイプの構成を開示している。
【0006】
<特許文献4の第1タイプ>
図11は、特許文献4の第1タイプにおける出没式筆記具110の概略縦断面図であって、チップ114(筆記体)が突出していない状態を示す図である。
図12(a)は、第1タイプの出没式筆記具110の先端部分の拡大縦断面図であり、
図12(b)は、
図12(a)のA-A線断面図である。
図13(a)は、チップ114(筆記体)が突出した状態における第1タイプの出没式筆記具110の先端部分の拡大縦断面図であり、
図13(b)は、
図13(a)のB-B線断面図である。
【0007】
また、
図14(a)は、第1タイプの出没式筆記具110の環状部材115の斜視図であり、
図14(b)は、環状部材115の側面図であり、
図14(c)は、
図14(b)のC-C線断面図であり、
図14(d)は、環状部材115の正面図(先端側から見た図)であり、
図14(e)は、環状部材115の背面図である。
【0008】
更に、
図15は、第1タイプの出没式筆記具110において、交換等のためチップホルダー113を引き抜いた状態を示す概略図である。
【0009】
図11乃至
図15に示す第1タイプの出没式筆記具110は、前端に開口を有する円筒形状の軸筒111を備えている。
図11乃至
図13に示すように、当該軸筒111は、第1タイプでは、後方部111a、内筒部111b、前方部111c及び口金部111dを有しており、後方部111aと内筒部111bとは、ネジ結合(螺合)によって取り外し可能に固定されており、内筒部111bと前方部111cとは、二色成形により一体に形成されている。一方、口金部111dは、ネジ結合(螺合)によって、内筒部111bに取り外し可能に固定されている。
【0010】
軸筒111の内部には、軸筒111の軸方向に移動可能なチップホルダー113が収容されている。チップホルダー113の前端に、筆記体であるチップ114が固定されている。チップ114は、チップホルダー113の移動に伴って、
図12(a)及び
図13(a)に示すように、軸筒111の開口から出没可能となっている。
【0011】
チップホルダー113は、
図15に示すように、基端側から先端側に向かって、基端部113a、第1カラー部113b、第2カラー部113c、バネ固定補助部113f及び先端部113dを当該順序で有している。基端部113a、第1カラー部113b、第2カラー部113c、バネ固定補助部113f及び先端部113dは、いずれも円筒形状の部位であり、それらの断面直径の相互関係は、基端部113a>第1カラー部113b>第2カラー部113c>バネ固定補助部113f>先端部113dとなっている。
【0012】
特に
図12(b)に示すように、チップホルダー113の先端部113dの外周に樹脂製または金属製の環状部材115が遊嵌されている。環状部材115は、同様にチップホルダー113の先端部113dの外周を遊嵌状態で(僅かな隙間を空けて)取り囲むコイルバネ116(弾性部材の一例)を介して、チップホルダー113の第2カラー部113cに固定されている。これにより、
図12(a)及び
図13(a)に示すように、コイルバネ116の伸縮変形に伴って、環状部材115は、チップホルダー113の先端部113dに対して当該チップホルダー113の軸方向に移動可能となっている。
【0013】
チップホルダー113には、コイルバネ116と第2カラー部113cとの固定を補助するために、バネ固定補助部113fが設けられている。
【0014】
また、特に
図14(a)乃至
図14(e)に示すように、環状部材115の外周の前方側領域には、前端に向かって先細状の当接面として切頭円錐面状の当接面115tが形成されている。当該当接面115tの後方側には、大外径円筒部115aが連続して設けられ、更にその後方側には、小外径円筒部115bが段差を介して設けられている。
【0015】
環状部材115には、切欠きとして、4本のスリット115sが設けられている。
図14(a)乃至
図14(e)に示すように、4本のスリット115sは、環状部材115の周方向に等間隔に(90°おきに)配置されている。また、4本のスリット115sは、いずれも、環状部材115の軸方向に前端から小径円筒部115bの略中央まで延びている。これにより、当接面115tにおいて荷重を受ける時、環状部材115の内径は柔軟に縮径するようになっており、且つ、当該荷重が解除される時、環状部材115の内径は弾性的に復帰するようになっている。
【0016】
また、
図12(a)及び
図13(a)に示すように、軸筒111の口金部111dの内面の一部に、前端に向かって先細状の案内面として凹切頭円錐面状の案内面111tが形成されている。これにより、当接面115tは、チップホルダー113の前端側への移動に伴って(
図12(a)→
図13(a))、案内面111tから荷重を受けるようになっている。
【0017】
また、第1タイプの出没式筆記具110には、チップ114の没入操作(例えばチップ114の突出状態を維持するロック機構を解除するための筆記具後端部に設けられた押圧ボタンの押圧操作)がなされた時に、チップホルダー113を自動的に没入させるための第2コイルバネ112(第2弾性部材)が設けられている。第2コイルバネ112は、コイルバネ116の更に外周を取り囲むように、口金部111dの内面に設けられた肩部と、チップホルダー113の第1カラー部113bと、の間に挿嵌されている。
【0018】
第2コイルバネ112は、口金部111dの内面に固定されていてもよいし、フリーな状態(いずれの部材にも固定されていない状態)であってもよい。あるいは、チップホルダー113の第1カラー部113bの方に固定されていてもよい。
【0019】
以上のような第1タイプの出没式筆記具110は、以下のように作用する。
【0020】
非使用時においては、出没式筆記具110のチップ114(筆記体)は、
図12(a)に示すような没入状態にある。この時、コイルバネ116の軸方向長さは、8.2mmであり、第2コイルバネ112の軸方向長さは、16.4mmである。そして、チップの突出操作(例えば筆記具後端部に設けられた押圧ボタンの押圧操作)がなされると、出没式筆記具110のチップ114(筆記体)は、
図13(a)に示すような突出状態になる。通常は、当該突出状態においてチップホルダー113の位置がロックされ、その後にチップの没入操作がなされるまで、チップ114の突出状態が維持される。この時、コイルバネ116の軸方向長さは、5.6mmであり(2.6mm圧縮)、第2コイルバネ112の軸方向長さは、9.4mmである(7.0mm圧縮)。
【0021】
図12(a)の没入状態から
図13(a)の突出状態に至る過程において、チップホルダー113の前端側への移動に伴って、環状部材115の当接面115tが口金部111dの案内面111tから荷重を受ける。この時、環状部材115の4本のスリット115sの存在によって、環状部材115の内径が縮径する(
図12(b)→
図13(b))。この結果、
図13(b)に示すように、口金部111dと環状部材115とが協働して、チップホルダー113の先端部113dをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。
【0022】
更に、チップホルダー113と環状部材115とがコイルバネ116によって互いに相対移動可能に接続されているため、環状部材115の内径の縮径の程度等について高精度の寸法管理をしなくても、チップホルダー113の先端部113dをガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【0023】
その後、チップの没入操作(例えば筆記具後端部に設けられた押圧ボタンの再押圧操作)がなされると、例えば不図示のロック機構が解除され、出没式筆記具110のチップ114(筆記体)は第2コイルスプリング112の作用によって
図12(a)に示す没入状態に戻る。
【0024】
図13(a)の突出状態から
図12(a)の没入状態に至る過程において、チップホルダー113の後端側への移動に伴って、環状部材115の当接面115tが口金部111dの案内面111tから受けていた荷重が消失する。これに伴って、縮径していた環状部材115の内径が元の状態に戻る(
図13(b)→
図12(b))。
【0025】
<特許文献4の第2タイプ>
図16は、特許文献4の第2タイプにおける出没式筆記具120の先端部分の拡大縦断面図であり、
図17は、チップ124(筆記体)が突出した状態における第2タイプの出没式筆記具120の先端部分の拡大縦断面図である。更に、
図18は、第2タイプの出没式筆記具120において、交換等のためチップホルダー123(基端部123a、第1カラー部123b、第2カラー部123c及び先端部123d)を引き抜いた状態を示す概略図である。
【0026】
第2タイプの出没式筆記具120は、第1タイプの出没式筆記具110におけるコイルバネ116の代わりに、筒状の樹脂バネ部126eが設けられている。樹脂バネ部126eは、上下に向き合う略半円状のスリットの対と、左右に向き合う略半円状のスリットの対とが、軸方向に1対毎に交互に、それぞれ6対ずつ形成されている。これにより、樹脂バネ部126eは、軸方向に伸縮可能となっている。
【0027】
また、樹脂バネ部126eは、環状部材125と一体成形されている。環状部材125は、第1タイプの出没式筆記具110の環状部材115と略同様に、切欠きとして、4本のスリット125sが設けられている。
【0028】
第2タイプの出没式筆記具120によっても、第1タイプの出没式筆記具110と略同様の作用効果が得られる。すなわち、口金部111dと環状部材125(の当接面125t)とが協働して、チップホルダー123の先端部123dをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。
【0029】
<特許文献4の第3タイプ>
図19は、特許文献4の第3タイプにおける出没式筆記具130の先端部分の拡大縦断面図であり、
図20は、チップ134(筆記体)が突出した状態における第3タイプの出没式筆記具130の先端部分の拡大縦断面図である。更に、
図21は、第3タイプの出没式筆記具130において、交換等のためチップホルダー133(基端部133a、中間カラー部133m及び先端部133d)を引き抜いた状態を示す概略図である。
【0030】
第3タイプの出没式筆記具130は、第1タイプの出没式筆記具110のコイルバネ112(第2弾性部材)の後方端にカラー部材132(第1カラー部133b及び第2カラー部133c)を固定して、前方端が環状部材115に接続されたコイルバネ116(弾性部材)の後方端を、チップホルダー113の第2カラー部113cではなく、カラー部材132に固定したものである。
【0031】
第3タイプの出没式筆記具130によっても、第1タイプの出没式筆記具110と略同様の作用効果が得られる。すなわち、口金部111dと環状部材115とが協働して、チップホルダー133の先端部133dをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。
【0032】
また、第3タイプの出没式筆記具130によれば、チップホルダー133の方に環状部材115を設けておく必要がないため、従来のチップホルダーを有する既存の交換用レフィルをも利用することができる。
【0033】
<特許文献4の第4タイプ>
図22は、特許文献4の第4タイプにおける出没式筆記具140の先端部分の拡大縦断面図であり、
図23は、チップ144(筆記体)が突出した状態における第4タイプの出没式筆記具140の先端部分の拡大縦断面図である。更に、
図24は、第4タイプの出没式筆記具140において、交換等のためチップホルダー143(基端部143a、中間カラー部143m及び先端部143d)を引き抜いた状態を示す概略図である。
【0034】
第4タイプの出没式筆記具140は、第2タイプの出没式筆記具120の樹脂バネ部126(第2弾性部材)の後方端にカラー部材142(第1カラー部143b及び第2カラー部143c)を固定して、前方端が環状部材125に一体化された樹脂バネ部126(弾性部材)の後方端を、チップホルダー123の第2カラー部123cではなく、カラー部材142に固定したものである。
【0035】
第4タイプの出没式筆記具140によっても、第2タイプの出没式筆記具120と略同様の作用効果が得られる。すなわち、口金部111dと環状部材125とが協働して、チップホルダー143の先端部143dをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。
【0036】
また、第4タイプの出没式筆記具140によれば、チップホルダー143の方に環状部材125を設けておく必要がないため、従来のチップホルダーを有する既存の交換用レフィルをも利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】実開平5-85683
【特許文献2】実開平5-93884
【特許文献3】特開2013-220602
【特許文献4】特開2019-111657
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、Oリングが径方向に変形し得るため、ガタつきを防止する効果が不十分である。また、Oリングの表面に筆記部が食いついてしまうことがあり、繰り出した筆記部をスムーズに収納することができない場合がある。
【0039】
一方、特許文献3に開示された技術では、筆記時のガタツキを防止する効果を高めるためには、環状部材の内面と筆記部の外周面との間の寸法関係を適切に管理する必要がある。例えば、筆記部の外周面と軸筒の先端部内面との間の隙間寸法より筆記部の外周面と環状部材の内面との間の隙間寸法の方が大きければ、筆記時のガタツキを防止する効果を得られない。このため、高い寸法精度が要求され、生産性の点で問題がある。
【0040】
また、特許文献4の第1タイプの構成及び第4タイプの構成では、2種類のコイルバネ112、116が併用されているため、これらのコイルバネ112、116が組立時やレフィル交換時に引っ掛かり合って、作業の円滑性が損なれる場合がある。更に、チップ113、143の出没動作に伴うコイルバネ112、116の収縮時に、これらのコイルバネ112、116が絡み合って作動不良を生じてしまう虞がある。
【0041】
一方、特許文献4の第2タイプの構成及び第3タイプの構成では、樹脂バネ部126の伸縮の程度(撓み量)を大きくすることが難しいため、設計の自由度が低い。
【0042】
本発明は、以上のような知見に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筆記時にチップのガタつきが防止されて安定した筆記感が得られる一方、作動不良の虞が小さい出没式筆記具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明は、前端に開口を有する軸筒と、前記軸筒の内部に収容され、前記軸筒の軸方向に移動可能なチップホルダーと、前記チップホルダーの前端に固定され、前記チップホルダーの移動に伴って前記軸筒の前記開口から出没可能なチップと、前記軸筒の前記開口の内周に遊嵌され、当該軸筒に対して当該軸筒の軸方向に移動可能な環状部材と、前記軸筒と前記環状部材とを互いに相対移動可能に接続する弾性部材と、を備え、前記環状部材の外周の少なくとも一部には、前記軸筒の前記開口の内面の一部に当接する当接面が形成されており、前記環状部材の一部には、切欠きが形成されており、前記当接面において荷重を受ける時に当該環状部材の内径が縮径するようになっており、前記軸筒の前記開口の内面の一部には、前記環状部材の後端側への移動に伴って前記当接面が当接する案内面が形成されていることを特徴とする出没式筆記具である。
【0044】
本発明によれば、環状部材の後端側への移動に伴って環状部材の当接面が軸筒の案内面から荷重を受けることによって、環状部材の切欠きの存在によって環状部材の内径が縮径する。これにより、軸筒と環状部材とが協働してチップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。また、軸筒と環状部材とが弾性部材によって互いに相対移動可能に接続されることにより、環状部材の内径の縮径の程度等について高精度の寸法管理をしなくても、チップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【0045】
好ましくは、前記環状部材は、前記チップホルダーの前端側への移動に伴って、前記弾性部材を弾性変形させながら前記チップホルダーと共に前端側へと移動するようになっており、その後の前記チップホルダーの後端側への移動に伴って、前記弾性部材の復元力によって後端側へと移動するようになっており、前記当接面は、前記環状部材が後端側へ移動するのに伴って、前記案内面から前記荷重を受けるようになっている。この場合、例えば「ノックバネ」を用いたチップホルダーの出没動作に対応して、チップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【0046】
好ましくは、前記切欠きは、前記環状部材の周方向に等間隔に複数が配置されており、前記複数の切欠きの各々は、前記環状部材の軸方向に延びるスリットである。この場合、環状部材の内径が周方向にバランス良く縮径することができる。
【0047】
前記当接面は、後端に向かって先細状であることが好ましい。前記当接面は、例えば切頭円錐面を有していることが好ましい。この場合、前記案内面は、対応する凹円筒面や凹切頭円錐面であることが好ましい。あるいは、前記当接面は、軸線周りに回転対称な凸曲面を有していることが好ましい。この場合、前記案内面は、軸線周りに回転対称であって前記凸曲面の曲率よりも緩やかな曲率の凹曲面または凹切頭円錐面であることが好ましい。
【0048】
また、好ましくは、前記弾性部材は、コイルバネである。
【0049】
また、好ましくは、チップ没入時に、前記当接面と前記案内面とは、常時当接している。この場合、環状部材と軸筒内面とが離間しないため、振動によるガタつきを抑制することができる。
【0050】
また、好ましくは、前記環状部材は、前記軸筒の前記開口から前方側に突出している。この場合、チップまたはチップホルダーをより長い範囲で把持することができるため、チップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様でより効果的に把持することを保証できる。
【0051】
また、好ましくは、前記チップの出没操作のための操作部、または、前記軸筒の後部に、軟質部材が設けられている。従来の構成を熱変色性筆記具に採用した場合、筆跡擦過時の振動によってチップまたはチップホルダーのガタつきが生じ、ノイズを発生させる虞があったが、本発明の構成ではそのような虞がない。従って、本発明の構成は、熱変色性筆記具に採用することも推奨される。
【0052】
また、本発明は、以上の出没式筆記具の軸筒のみをも対象とするものである。すなわち、本発明は、前端にチップが固定されたチップホルダーを軸方向に移動可能に収容可能であって、前端に開口を有し、前記チップホルダーの移動に伴って前記チップを前記開口から出没させることが可能な出没式筆記具用の軸筒であって、前記軸筒の前記開口の内周に遊嵌され、当該軸筒に対して当該軸筒の軸方向に移動可能な環状部材と、前記軸筒と前記環状部材とを互いに相対移動可能に接続する弾性部材と、を備え、前記環状部材の外周の少なくとも一部には、前記軸筒の前記開口の内面の一部に当接する当接面が形成されており、前記環状部材の一部には、切欠きが形成されており、前記当接面において荷重を受ける時に当該環状部材の内径が縮径するようになっており、前記軸筒の前記開口の内面の一部には、前記環状部材の後端側への移動に伴って前記当接面が当接する案内面が形成されていることを特徴とする出没式筆記具用の軸筒である。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、環状部材の後端側への移動に伴って環状部材の当接面が軸筒の案内面から荷重を受けることによって、環状部材の切欠きの存在によって環状部材の内径が縮径する。これにより、軸筒と環状部材とが協働してチップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。また、軸筒と環状部材とが弾性部材によって互いに相対移動可能に接続されることにより、環状部材の内径の縮径の程度等について高精度の寸法管理をしなくても、チップまたはチップホルダーをガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の一実施形態における出没式筆記具の概略縦断面図であって、チップ(筆記体)が突出していない状態を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1の出没式筆記具の環状部材の斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)の環状部材の側面図である。
図3(c)は、
図3(a)の環状部材の底面図である。
図3(d)は、
図3(b)のA-A線断面図である。
図3(e)は、
図3(a)の環状部材の正面図(先端側から見た図)である。
図3(f)は、
図3(a)の環状部材の背面図である。
【
図4】
図1の出没式筆記具において、チップの突出操作の過程で、チップが環状部材と接触した状態を示す概略図である。
【
図5】
図1の出没式筆記具において、チップの突出操作の過程で、チップホルダーが環状部材と接触した状態を示す概略図である。
【
図6】
図5の状態の出没式筆記具の全体の概略縦断面図である。
【
図7】
図1の出没式筆記具において、チップの突出操作の過程で、チップが最も突出した状態を示す概略図である。
【
図8】
図7の状態の出没式筆記具の全体の概略縦断面図である。
【
図9】
図1の出没式筆記具において、チップの突出操作が終了した後の、チップが突出した状態を示す概略図である。
【
図10】
図9の状態の出没式筆記具の全体の概略縦断面図である。
【
図11】特許文献4の第1タイプにおける出没式筆記具の概略縦断面図であって、チップ(筆記体)が突出していない状態を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、特許文献4の第1タイプの出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
図12(b)は、
図12(a)のA-A線断面図である。
【
図13】
図13(a)は、チップ(筆記体)が突出した状態における特許文献4の第1タイプの出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
図13(b)は、
図13(a)のB-B線断面図である。
【
図14】
図14(a)は、特許文献4の第1タイプの出没式筆記具の環状部材の斜視図である。
図14(b)は、
図14(a)の環状部材の側面図である。
図14(c)は、
図14(b)のC-C線断面図である。
図14(d)は、
図14(a)の環状部材の正面図(先端側から見た図)である。
図14(e)は、
図14(a)の環状部材の背面図である。
【
図15】特許文献4の第1タイプの出没式筆記具において、交換等のためチップホルダーを引き抜いた状態を示す概略図である。
【
図16】特許文献4の第2タイプにおける出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図17】チップ(筆記体)が突出した状態における特許文献4の第2タイプの出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図18】特許文献4の第2タイプの出没式筆記具において、交換等のためチップホルダーを引き抜いた状態を示す概略図である。
【
図19】特許文献4の第3タイプにおける出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図20】チップ(筆記体)が突出した状態における特許文献4の第3タイプの出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図21】特許文献4の第3タイプの出没式筆記具において、交換等のためチップホルダーを引き抜いた状態を示す概略図である。
【
図22】特許文献4の第4タイプにおける出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図23】チップ(筆記体)が突出した状態における特許文献4の第4タイプの出没式筆記具の先端部分の拡大縦断面図である。
【
図24】特許文献4の第4タイプの出没式筆記具において、交換等のためチップホルダーを引き抜いた状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0056】
図1は、本発明の一実施形態における出没式筆記具10の概略縦断面図であって、チップ14(筆記体)が突出していない状態を示す図である。
図2は、本実施形態の出没式筆記具10の先端部分の拡大縦断面図である。
【0057】
また、
図3(a)は、本実施形態の出没式筆記具10の環状部材15の斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)の環状部材15の側面図であり、
図3(c)は、
図3(a)の環状部材の底面図であり、
図3(d)は、
図3(b)のA-A線断面図であり、
図3(e)は、
図3(a)の環状部材の正面図(先端側から見た図)であり、
図3(f)は、
図3(a)の環状部材の背面図である。
【0058】
更に、
図4は、本実施形態の出没式筆記具10において、チップ14の突出操作の過程で、チップ14が環状部材15と接触した状態を示す概略図であり、
図5は、
図1の出没式筆記具10において、チップ14の突出操作の過程で、チップホルダー13が環状部材15と接触した状態を示す概略図であり、
図6は、
図5の状態の出没式筆記具10の全体の概略縦断面図であり、
図7は、本実施形態の出没式筆記具10において、チップ14の突出操作の過程で、チップ14が最も突出した状態を示す概略図であり、
図8は、
図7の状態の出没式筆記具10の全体の概略縦断面図であり、
図9は、本実施形態の出没式筆記具10において、チップ14の突出操作が終了した後の、チップ14が突出した状態を示す概略図であり、
図10は、
図9の状態の出没式筆記具10の全体の概略縦断面図である。
【0059】
本実施形態の出没式筆記具10は、前端に開口を有する円筒形状の軸筒11を備えている。
図1に示すように、当該軸筒11は、本実施形態では、後方部11rと、前方部11mと、を有している。後方部11rと前方部11mとは、ネジ結合(螺合)によって取り外し可能に固定されている。もっとも、後方部11rと前方部11mとは、嵌め合い結合によって固定されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。
【0060】
軸筒11の内部には、軸筒11の軸方向に移動可能なチップホルダー13が収容されている。チップホルダー13の前端に、筆記体であるチップ14が固定されている。チップ14は、チップホルダー13の移動に伴って、
図4乃至
図10に示すように、軸筒11の開口から出没可能となっている。
【0061】
チップホルダー13は、
図2に示すように、基端側から先端側に向かって、基端部13a、第1カラー部13b及び第2カラー部13cを当該順序で有している。基端部13a及び第1カラー部13bは、本実施形態ではいずれも円筒形状の部位であり、第2カラー部13cは、本実施形態では切頭円錐形状の部位であり、それらの断面直径の相互関係は、基端部13a>第1カラー部13b>第2カラー部13cとなっている。
【0062】
本実施形態では、
図2に示すように、軸筒11の開口の内周に、当該軸筒11に対して当該軸筒11の軸方向に移動可能な環状部材15が遊嵌されている。環状部材15の前方端は、軸筒11の前方端よりも前方側に位置している。環状部材15の後方側は、外径も内径も拡径されていて、チップ14(φ2.5とする)の周囲を非接触に覆っている。
【0063】
また、環状部材15は、コイルバネ16(弾性部材の一例)の後方端に固定されている。コイルバネ16は、環状部材15の外周を遊嵌状態で(隙間を空けて)取り囲んでおり、コイルバネ16の前方端が軸筒11の開口近傍の内周面に固定されている。これにより、コイルバネ16は、軸筒11と環状部材15とを互いに相対移動可能に接続している。そして、
図4乃至
図10に示すように、チップホルダー13の移動及びコイルバネ16の伸縮変形に伴って、環状部材15は、軸筒11に対して当該軸筒11の軸方向に移動可能となっている。
【0064】
環状部材15は、樹脂製(例えばポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン製)または金属製(例えば真鍮製)である。
【0065】
また、
図3(a)乃至
図3(f)に示すように、環状部材15の外周面は、前方側から、先端部切頭円錐外面15g(最大径φ4.2mm、最小径φ4.8mm、軸方向長さ0.3mm)と、先端部円筒面15h(φ4.8mm、軸方向長さ0.5mm)と、後端側に先細状の当接面としての当接切頭円錐外面15t(最大径φ4.2mm、最小径φ3.4mm、軸方向長さ0.4mm)と、小外径円筒面15a(φ3.4mm、軸方向長さ1.6mm)と、第1切頭円錐外面15b(軸方向長さ1.2mm)と、中外径円筒面15c(φ4.8mm、軸方向長さ2mm)と、第2切頭円錐外面15d(軸方向長さ0.3mm)と、第1大外径円筒面15e(φ5.2mm、軸方向長さ2.4mm)と、第2大外径円筒面15f(φ6.5mm、軸方向長さ1mm)と、が当該順序で設けられている。
図2を参照して、本実施形態では、第1大外径円筒面15eと第2大外径円筒面15fとの間に規定される段差部上に、コイルバネ16の後方端が固定されている。
【0066】
また、
図3(d)に示すように、環状部材15の内周面は、前方側から、小内径円筒面15ia(φ2.4mm、軸方向長さ3.9mm)と、大内径円筒面15ib(φ3.6mm、軸方向長さ5.9mm)と、が当該順序で設けられている。
【0067】
また、本実施形態の環状部材15には、切欠きとして、3本のスリット15sが設けられている。
図3(a)乃至
図3(f)に示すように、3本のスリット15sは、環状部材15の周方向に等間隔に(120°おきに)配置されている。また、3本のスリット15sは、いずれも、幅1mmで、環状部材15の軸方向に前端から第1大外径円筒面15eの後端で延びている(軸方向最大長さ8.8mm)。
【0068】
これにより、当接切頭円錐外面15t(当接面)において荷重を受ける時、環状部材15の内径は柔軟に縮径するようになっており、且つ、当該荷重が解除される時、環状部材15の内径は弾性的に復帰するようになっている。
【0069】
一方、
図2及び
図4乃至
図10に示すように、軸筒11の開口近傍の内周面は、前方側から、小内径円筒面11ia(φ3.6mm、軸方向長さ0.6mm)と、切頭円錐内面11ib(最大径φ4.95mm、最小径φ3.6mm、軸方向長さ1.2mm)と、大内径円筒面11ic(φ6.8mm)と、が当該順序で設けられている。
【0070】
これにより、当接切頭円錐外面15t(当接面)は、環状部材15の後端側への移動に伴って、小内径円筒面11iaの前方端縁(案内面)から荷重を受けるようになっている。
【0071】
その他、本実施形態の出没式筆記具10は、チップ14の没入操作(例えばチップ14の突出状態を維持するロック機構を解除するための筆記具側面に設けられた操作部のスライド操作)がなされた時に、チップホルダー13を自動的に没入させるノックバネ12を備えている(操作荷重は50gf~300gf程度(0.49N~2.94N)である。例えば、非使用時(
図2)からの操作荷重は67gf、フルストローク時(
図5)の荷重は285gf、筆記時(
図6)からの操作荷重は225gfである。また、バネ定数は0.23N/mmである。機能上明らかであるが、ノックバネ12の復元力(バネ定数)は、コイルバネ16の復元力(バネ定数)よりも大きい。
【0072】
以上のような構成の出没式筆記具10は、以下のように作用する。
【0073】
非使用時においては、出没式筆記具10のチップ14(筆記体)は、
図1及び
図2に示すような没入状態にある。この時、コイルバネ16の軸方向長さは6.0mmであり、自然長から2.0mmだけ圧縮された状態にあり、環状部材15は僅かに縮径していて、環状部材15の小内径円筒面15iaはφ2.39mm程度(<チップ14の外径)となっている。
【0074】
そして、チップの突出操作(例えば筆記具側面に設けられた操作部のスライド操作)がなされると、出没式筆記具10のチップ14(筆記体)は、
図4に示す状態に至る。
【0075】
図4の状態では、チップ14の突出操作によって、チップホルダー13が前方側に移動されているが、チップ14及びチップホルダー13は未だ環状部材15及びコイルバネ16に移動力を伝達させておらず、依然として、コイルバネ16の軸方向長さは6.0mmであり、自然長から2.0mmだけ圧縮された状態にあり、環状部材15は僅かに縮径していて、環状部材15の小内径円筒面15iaはφ2.39mm程度(<チップ14の外径)となっている。
【0076】
続いて、チップの突出操作(例えば筆記具側面に設けられた操作部のスライド操作)が継続されると、出没式筆記具10のチップ14(筆記体)は、
図5に示す状態に至る。
【0077】
図5の状態では、チップ14の突出操作によって、チップホルダー13が前方側に移動されているが、チップホルダー14の先端部が、僅かに縮径していた環状部材15を拡径しながら前方側に移動されている(環状部材15の小内径円筒面15iaはφ2.5mm(=チップ14の外径)となっている)。また、環状部材15の拡径作用に伴って、環状部材15の当接切頭円錐外面15tが軸筒11の小内径円筒面11iaとの干渉を回避するべく僅かに前方側に移動される。これに伴って、コイルバネ16の軸方向長さは5.9mmとなり、すなわち、自然長から2.05mmだけ圧縮された状態となる。
図6は、
図5の状態の出没式筆記具10の全体の概略縦断面図である。
【0078】
続いて、チップの突出操作(例えば筆記具側面に設けられた操作部のスライド操作)が継続されると、出没式筆記具10のチップ14(筆記体)は、
図7に示す状態に至る。
【0079】
図7の状態では、チップ14の突出操作によって、チップホルダー13が更に前方側に移動されているが、チップ14と第2カラー部13cとの間に規定される段差部が、環状部材15の小内径円筒面15iaと大内径円筒面15ibとの間に規定される段差部を前方側に押圧し、コイルバネ16の軸方向長さは5.1mmとなり、自然長から2.9mmだけ圧縮された状態となる。これに伴って、環状部材15の当接切頭円錐外面15tは、軸筒11の小内径円筒面11iaから完全に離れ、
図5の状態よりも更に環状部材15は拡径された状態となる。
図8は、
図7の状態の出没式筆記具10の全体の概略縦断面図である。
【0080】
そして、チップの突出操作が終了する(例えば筆記具側面に設けられた操作部のスライド操作が解除される)と、チップホルダー13は後端側へと戻り、すなわち、チップホルダー13から環状部材15に与えられていた前方側への移動力が解除される。これにより、環状部材15も、コイルバネ16の復元力によって後端側へと戻る。ここで、当該環状部材15の後端側への移動に伴って、当接切頭円錐外面15t(当接面)が軸筒11の小内径円筒面11iaの前方端縁(案内面)から荷重を受けて、環状部材15の内径が縮径する。この状態が、
図9の状態である。これにより、チップホルダー14をガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。
【0081】
ここで、軸筒11と環状部材15とがコイルバネ16によって互いに相対移動可能に接続されているため、環状部材15の内径の縮径の程度等について高精度の寸法管理をしなくても、チップ14をガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【0082】
なお、
図9の状態では、コイルバネ16の軸方向長さは5.9mmとなっており、すなわち、自然長から2.1mmだけ圧縮された状態となっている(本実施形態では
図5の状態と同一である)。通常は、
図9の突出状態においてチップホルダー13の位置がロックされ、その後にチップの没入操作がなされるまで、チップ14の突出状態が維持される。
【0083】
その後、チップの没入操作(例えば筆記具側面に設けられた操作部の再スライド操作)がなされると、例えば不図示のロック機構が解除され、出没式筆記具10のチップ14(筆記体)は再び
図7及び
図8の状態となり、更にノックバネ12の作用(復元力)によって、
図4乃至
図6の状態を経由して
図2の没入状態に戻る。
【0084】
なお、チップの出没操作の前述の過程において(特にチップ没入時(
図2)において)、環状部材15の当接面(当接切頭円錐外面15t)と軸筒11の案内面(小内径円筒面11iaの前方端縁)とは、常時当接している。また、チップ14の突出状態から没入状態になる過程においても同様である。
【0085】
以上の通り、本実施形態の出没式筆記具10によれば、環状部材15の後端側への移動に伴って環状部材15の当接面(当接切頭円錐外面15t)が軸筒11の案内面(小内径円筒面11iaの前方端縁)から荷重を受けることによって、環状部材15のスリット15sの存在によって環状部材15の内径が縮径する。これにより、軸筒11と環状部材15とが協働してチップ14をガタつき(遊び)の無い態様で把持することができる。更に、軸筒11と環状部材15とがコイルバネ16によって互いに相対移動可能に接続されていることにより、環状部材15の内径の縮径の程度等について高精度の寸法管理をしなくても、チップ14をガタつき(遊び)の無い態様で効果的に把持することを保証できる。
【0086】
また、本実施形態の出没式筆記具10によれば、切欠きとしての3本のスリット15sが環状部材15の周方向に等間隔に配置されており、各スリット15sが環状部材15の軸方向に延びているため、環状部材15の内径が周方向にバランス良く縮径することができる。
【0087】
また、環状部材15の当接面(当接切頭円錐外面15t)と軸筒11の案内面(小内径円筒面11iaの前方端縁)とが、互いに対応する切頭円錐外面と凹円筒面であることにより、環状部材15の当接面は周方向にバランスよく荷重を受けることができ、結果的に環状部材15が周方向にバランス良く縮径することができる。
【0088】
また、スリット15sの数、サイズ、形状等を適宜に変更することによって、環状部材15の弾性(縮径のしやすさ)の程度を調整することができる。また、環状部材15の材料及び/または肉厚を変更することによっても、環状部材15の弾性(縮径のしやすさ)の程度を調整することができる。
【0089】
また、本実施形態の出没式筆記具10によれば、チップ没入時に、環状部材15の当接面(当接切頭円錐外面15t)と軸筒11の案内面(小内径円筒面11iaの前方端縁)とが、常時当接している。これにより、環状部材と軸筒内面とが離間しないため、振動によるガタつきを抑制することができる。
【0090】
また、本実施形態の出没式筆記具10によれば、環状部材15は、軸筒11の開口から前方側に突出している。これにより、チップ14をより長い軸方向範囲で把持することができるため、チップ14をガタつき(遊び)の無い態様でより効果的に把持することを保証できる。
【0091】
また、本実施形態の出没式筆記具10において、チップ14の出没操作のためのノック操作部、または、軸筒11の後部に、熱変色性筆記具用の軟質部材(擦過部材)が設けられることが好ましい。従来の構成を熱変色性筆記具に採用した場合、筆跡擦過時の振動によってチップ(またはチップホルダー)のガタつきが生じ、ノイズを発生させる虞があったが、本実施形態の構成ではそのような虞がない。従って、本実施形態の構成は、熱変色性筆記具に採用することも推奨される。
【0092】
(レフィルについての補足)
本実施形態の出没式筆記具10は、軸筒11と、当該軸筒11内に収容されるレフィル(筆記体)と、当該レフィルのチップ14を軸筒11の開口より出没自在にさせる出没機構と、を備えた筆記具である。
【0093】
レフィルの一例について、
図25乃至
図27を用いて補足説明する。
図25を参照して、レフィル6は、例えば、ペン先(チップ)61と、当該ペン先61が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管62と、当該インキ収容管62内に充填された熱変色性インキと、当該熱変色性インキの後端側に隣接して充填され当該熱変色性インキの消費に伴って前進する追従体(例えば高粘度流体)と、インキ収容管62の後端開口部に取り付けられた尾栓63と、からなる。尾栓63には、後端に向けて開口する空気孔63aが設けられている。空気孔63aは、インキ収容管62の内部と外部とを通気可能としている。
【0094】
ペン先61は、例えば、前端に回転可能にボールを抱持した金属製のボールペンチップのみからなる構成、または、そのようなボールペンチップと当該ボールペンチップの後部外面を保持した合成樹脂製のペン先ホルダーとの組合せからなる構成、のいずれかである。ペン先61の内部には、前端のボールを前方に押圧するスプリングが収容されている。当該スプリングは、例えば、圧縮コイルスプリングの前端部にロッド部を備えた構成となっており、当該ロッド部の前端がボールの後面と接触している。非筆記時には、当該スプリングの前方付勢により、ボールはボールペンチップ前端の内向きの前端縁部内面に密接されている。これにより、ペン先61の前端からのインキの漏出及びインキの蒸発が防止されている。
【0095】
(軸筒11の後端部についての補足)
本実施形態の軸筒11は、例えば、先細円筒状の前軸3(
図28参照)と、当該前軸3の後端部に連結される円筒状の中間軸4(
図29参照)と、当該中間軸4の後端部に連結される円筒状の後軸5(
図30参照)と、からなる。
【0096】
例えば、
図30に示すように、後軸5の後端部に、取付孔52が前後方向に貫設され得て、当該取付孔52に、弾性材料からなる摩擦部53が圧入嵌合され得る。これにより、後軸5の後端部の外面に、摩擦部53が固定され得る。また、後軸5の内面には、内向突起54が一体に形成され得る。
【0097】
摩擦部53を構成する弾性材料は、例えば、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又は2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物等が挙げられる。
【0098】
摩擦部53を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料からなることが好ましい。また、摩擦部53は、様々な態様で軸筒11の後端部外面に設けられ得る。例えば、軸筒11の後端部の外面もしくは後軸5の後端部の外面に弾性材料よりなる摩擦部53を圧入、係合、螺合、嵌合、接着、2色成形等によって設ける態様の他、軸筒11の全体もしくは後軸5の全体を弾性材料によって一体に形成する態様でもよい。
【0099】
(ノック部材8についての補足)
図31を参照して、ノック部材8には、前後方向に延びるクリップ83が固定され得る。クリップ83の裏面には、玉部が突設され得る。ノック部材8は、例えば、クリップ83の後端部が固定される基部81と、当該基部81と一体に連設され且つ当該基部81より前方に延びる円筒状の軸部82と、からなる。
【0100】
ノック部材8は、例えば合成樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂)の成形体により得られる。クリップ83は、例えば合成樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂)の成形体又は金属材料(例えばステンレス鋼)から得られる。ノック部材8とクリップ83は合成樹脂により一体に形成されてもよい。
【0101】
図31に示すように、軸部82の前端には、出没回転部材7の突条71の後端(
図32乃至
図35参照)と係合するカム歯82aが一体に形成され得る。
【0102】
ノック部材8の組付けについては、ノック部材8の基部81を、中間軸4の第1の長孔41の後端(開放部)より、当該第1の長孔41内へと挿入すると共に、ノック部材8の軸部82を中間軸4内に挿入する。その後、中間軸4の第1の長孔41と後軸5の第2の長孔51とが径方向に連通するように(径方向に重なるように)、後軸5の内面を中間軸4の縮径部の外面に嵌合させながら、ノック部材8の基部81を、後軸5の第2の長孔51の前端(開放部)より、当該第2の長孔51内へと挿入する。これにより、中間軸4と後軸5とが連結される(中間軸4の外向突起44と後軸5の内向突起54とが乗り越え係合される)と共に、第1の長孔41と第2の長孔51とによって前後方向に延びるスライド孔21が形成され、当該スライド孔21から径方向外方にノック部材8が突出された状態となる。ノック部材8は、スライド孔21に沿って、前後方向にスライド可能(前後方向に摺動可能)となっている。
【0103】
後端に摩擦部53が固定された後軸5が、中間軸4の後端部に連結されることによって、摩擦部53は軸筒11の後端に常時固定された状態となる。また、前軸3と中間軸4とが螺合によって着脱自在に連結されているため、レフィル6は随時に交換可能である。
【0104】
(出没機構についての補足)
本実施形態の出没機構は、回転カム機構を用いたサイドスライド式出没機構であり、前述のノック部材8と、ノック部材8が前方に移動される度に軸筒11の開口からペン先61を突出または没入させるよう前後に移動すると共にレフィル6(従ってペン先61)を回転させる出没回転部材7と、軸筒11内に設けられノック部材8の位置に応じて出没回転部材7と係合または係合解除可能な前述のカム部43と、軸筒11内に設けられ且つレフィル6を後方に付勢するノックバネ12(例えば圧縮コイルスプリング)と、からなる。
【0105】
本実施の形態の出没機構は、ペン先突出操作及びペン先没入操作のいずれもがノック部材8を前方に押圧操作(前方にスライド操作)するダブルノック式である。
【0106】
(熱変色性インキについての補足)
本実施形態において、熱変色性インキは、可逆熱変色性インキであることが好ましい。可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0107】
可逆熱変色性インキに含有される色材としては、例えば、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び、(ハ)前記両者が化学的に結びつく反応(呈色反応)の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性顔料が好適に用いられる。
【符号の説明】
【0108】
10 出没式筆記具
11 軸筒
11ia 小内径円筒面
11ib 切頭円錐内面
11ic 大内径円筒面
11m 前方部
11r 後方部
12 ノックバネ
13 チップホルダー
13a 基端部
13b 第1カラー部
13c 第2カラー部
14 チップ
15 環状部材
15a 小外径円筒面
15b 第1切頭円錐外面
15c 中外径円筒面
15d 第2切頭円錐外面
15e 第1大外径円筒面
15f 第2大外径円筒面
15g 先端部切頭円錐外面
15h 先端部円筒面
15ia 小内径円筒面
15ib 大内径円筒面
15s スリット
15t 当接切頭円錐外面
16 コイルバネ
3 前軸
32 本体
33 把持部
4 中間軸
41 第1の長孔
42 段部
43 カム部
43a カム歯
43b カム溝
44 外向突起
5 後軸
51 第2の長孔
52 取付孔
53 摩擦部
54 内向突起
6 レフィル(筆記体)
61 ペン先
62 インキ収容管
63 尾栓
63a 空気孔
63b 突片
63c 隙間
63d 小径部
63e 大径部
63f 鍔部
63g 係合面
63p 外向突起
63t 補助テーパ部
7 出没回転部材
71 突条
72 突起部
72a 係合面
73 当接部
74 環状補助突起部
74t 補助当接面
78 外向突起
8 ノック部材
81 基部
82 軸部
82a カム歯
83 クリップ
88 内向突起
110 出没式筆記具
111 軸筒
111a 後方部
111b 内筒部
111c 前方部
111d 口金部
111t 案内面
112 第2コイルバネ
113 チップホルダー
113a 基端部
113b 第1カラー部
113c 第2カラー部
113d 先端部
113f バネ固定補助部
114 チップ
115 環状部材
115a 大外径円筒部
115b 小外径円筒部
115s スリット
115t 当接面
116 コイルバネ
120 出没式筆記具
123 チップホルダー
123a 基端部
123b 第1カラー部
123c 第2カラー部
123d 先端部
124 チップ
125 環状部材
125s スリット
125t 当接面
126 樹脂バネ部
126e 樹脂バネ部
130 出没式筆記具
132 カラー部材
133 チップホルダー
133a 基端部
133b 第1カラー部
133c 第2カラー部
133d 先端部
133m 中間カラー部
134 チップ
140 出没式筆記具
142 カラー部材
143 チップホルダー
143a 基端部
143b 第1カラー部
143c 第2カラー部
143d 先端部
143m 中間カラー部
144 チップ