(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098378
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】SiOC膜、積層構造体及び抗菌性製品
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20220624BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220624BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220624BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220624BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220624BHJP
B32B 9/02 20060101ALI20220624BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20220624BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220624BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01N25/34 A
A01P3/00
A01P1/00
B32B9/00 A
B32B9/02
C09D5/14
C09D7/61
C09D183/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211898
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】519041622
【氏名又は名称】株式会社甑園
(72)【発明者】
【氏名】有路 友一
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA15
4F100AA15A
4F100AA20
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4H011DG14
4J038DL161
4J038HA066
4J038KA06
4J038NA11
4J038PB02
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】優れた強度を有しており、優れた衛生性を長期間持続することができるコーティング膜、積層構造体及び抗菌性製品を提供する。
【解決手段】 基材の表面の一部又は全部に、不純物として抗菌剤を含むSiOC膜を、複数種のポリシラザン系コーティング剤と有機溶媒とを用いて、親水処理と撥水処理とをそれぞれ行って塗布することにより形成して積層構造体を製造し、さらに、前記積層構造体を人間の手や体が直接接触する可能性がある製品に用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、O及びCを含むSiOC膜であって、不純物として抗菌剤を含むことを特徴とするSiOC膜。
【請求項2】
前記抗菌剤の膜中の不純物濃度が、1×1018~1019/cm3である請求項1記載のSiOC膜。
【請求項3】
膜厚が1μm以下である請求項1又は2に記載のSiOC膜。
【請求項4】
膜中のSiに対するOの原子比が0を超え2未満である請求項1~3のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項5】
膜中のSiに対するCの原子比が0を超え2未満である請求項1~4のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項6】
膜中のSiに対するO及びCの原子比がそれぞれ0を超え2未満である請求項1~5のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項7】
Si-O結合及びSi-C結合を有する化合物を含む請求項1~6のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項8】
可撓性を有する請求項7記載のSiOC膜。
【請求項9】
透明である請求項7又は8に記載のSiOC膜。
【請求項10】
撥水性を有する請求項1~9のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項11】
前記抗菌剤が、抗菌性金属である請求項1~10のいずれかに記載のSiOC膜。
【請求項12】
前記抗菌性金属が銀である請求項11記載のSiOC膜。
【請求項13】
基材の表面の一部又は全部にSiOC膜が積層されている積層構造体であって、前記SiOC膜が、請求項1~12のいずれかに記載のSiOC膜であることを特徴とする積層構造体。
【請求項14】
前記基材が、生物由来材料を含む請求項13記載の積層構造体。
【請求項15】
SiOC膜又は積層構造体を含む抗菌性製品であって、前記SiOC膜が、請求項1~9のいずれかに記載のSiOC膜であり、前記積層構造体が請求項13又は14に記載の積層構造体であることを特徴とする抗菌性製品。
【請求項16】
木製品である請求項15記載の抗菌性製品。
【請求項17】
繊維製品である請求項15記載の抗菌性製品。
【請求項18】
紙製品である請求項15記載の抗菌性製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌コーティングが施された基材、コーティング膜及びこれらの製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スマートフォン等にガラスコーティングが行われているが、何らかの原因によりディスプレイの表面の保護用コーティング皮膜に傷が付いたり剥がれたりした時には、ユーザーが保護用コーティング皮膜の修復を行うことは困難であり、そのまま使用するか、携帯電話機を買い換える等の対処法しかなかった。
【0003】
近年においては、例えば特許文献1に記載されているように、保護用コーティング皮膜の修復方法の検討が進められているが、このような方法もコーティング皮膜が均一に形成されるには至っておらず、例えばガラスコーティングされたスマートフォンが衝撃を受けると、容易にひび割れたり、傷が付いたりする問題があった。また、ガラスコーティング皮膜を厚くすることは考えられる方法ではあるが、上記方法等では、何度コーティングしてもガラス薄膜を厚くすることそのものが困難であり、このような方策も必ずしも満足のいくものではなかった。
【0004】
ところで、最近、新型コロナウィルス等の感染症対策が重要性を増している。特に、接触感染を防ぐ目的で、人が接触しそうな物に対しては、抗菌加工を施すこと等が望まれてきており、ガラスコーティングにおいてもコーティング剤に抗菌剤を含ませる等して、抗菌加工も行えるようにすることが望まれてきている。しかしながら、実際には、抗菌剤をコーティング液に分散させることそのものが困難であり、分散性が極めて悪く、また、膜割れも生じやすく、ガラスコーティングの皮膜が全くつかない箇所が出てくる等の均質性がますます悪くなるなどの問題があった。また、従来では、例えば特許文献1に記載されているように、抗菌剤を含ませた定着液を用いて予め基材に塗布し、その後ガラスコーティングを行っていたが、抗菌性、特に接触感染を防ぐ目的等では全く効果はなかった。
なお、抗菌加工は、接触感染を防ぐ目的で抗菌剤を吹き付ける等が行われるものであるが、このような抗菌剤を単に吹き付けるだけでは、抗菌剤の吹き付け効果が長時間持続せず、毎日抗菌加工処理しなければならない等の問題があった。また、従来のガラスコーティングが行われている車両外装品やスマートフォン等ではなく、ステンレスやプラスチック、さらには、生物由来基材等に対しても適用することが望まれるが、例えば生物由来基材はガラス薄膜のようなコーティングを均質に行うことが難しいという問題等もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた強度を有しており、優れた衛生性を長期間持続することができるコーティング膜、積層構造体及び抗菌性製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、抗菌性金属のナノ粒子をSiOC膜前駆体溶液に分散させ、親水処理した後に撥水処理してコーティングすることにより、生物由来材料であっても、膜中に抗菌剤が良好に拡散しているコーティング膜を容易にかつ均質に形成することができ、得られた積層構造体が、基材強度が優れているのみならず、風合いも残しながら、長期間抗菌性が持続することができることを知見し、このような積層構造体等が上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] Si、O及びCを含むSiOC膜であって、膜中1×1018~1019/cm3の濃度で抗菌剤を含むことを特徴とするSiOC膜。
[2] 前記抗菌剤の膜中の不純物濃度が、1×1018~1019/cm3である前記[1]記載のSiOC膜。
[3] 膜厚が1μm以下である前記[1]又は[2]に記載のSiOC膜。
[4] 膜中のSiに対するOの原子比が0を超え2未満である前記[1]~[3]のいずれかに記載のSiOC膜。
[5] 膜中のSiに対するCの原子比が0を超え2未満である前記[1]~[4]のいずれかに記載のSiOC膜。
[6] 膜中のSiに対するO及びCの原子比がそれぞれ0を超え2未満である前記[1]~[5]のいずれかに記載のSiOC膜。
[7] Si-O結合及びSi-C結合を有する化合物を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載のSiOC膜。
[8] 可撓性を有する前記[7]記載のSiOC膜。
[9] 透明である前記[7]又は[8]に記載のSiOC膜。
[10] 撥水性を有する前記[1]~[9]のいずれかに記載のSiOC膜。
[11] 前記抗菌剤が、抗菌性金属である前記[1]~[10]のいずれかに記載のSiOC膜。
[12] 前記抗菌性金属が銀である前記[11]記載のSiOC膜。
[13] 基材の表面の一部又は全部にSiOC膜が積層されている積層構造体であって、前記SiOC膜が、前記[1]~[12]のいずれかに記載のSiOC膜であることを特徴とする積層構造体。
[14] 前記基材が、生物由来材料を含む前記[13]記載の積層構造体。
[15] SiOC膜又は積層構造体を含む抗菌性製品であって、前記SiOC膜が、前記[1]~[9]のいずれかに記載のSiOC膜であり、前記積層構造体が前記[13]又は[14]に記載の積層構造体であることを特徴とする抗菌性製品。
[16] 木製品である前記[15]記載の抗菌性製品。
[17] 繊維製品である前記[15]記載の抗菌性製品。
[18] 紙製品である前記[15]記載の抗菌性製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のSiOC膜、積層構造体及び抗菌性製品は、優れた強度を有しており、優れた衛生性を長期間持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例におけるSIMS分析結果を示す図である。
【
図2】実施例における抗ウイルス性試験の結果を示す図である。
【
図3】実施例における抗ウイルス性試験の結果を示す図である。
【
図4】実施例における抗菌性試験の結果を示す図である。
【
図5】実施例における抗菌性試験の結果を示す図である。
【
図6】実施例におけるXPS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のSiOC膜は、ケイ素(Si)、酸素(O)及び炭素(C)を含むSiOC膜であって、不純物として抗菌剤を含むことを特長とする。本発明においては、前記SiOC膜が、Si、O及びCを主成分として含むのが好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、前記のSi、O及びCが、原子比で、前記SiOC膜の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味する。
【0012】
本発明においては、前記SiOC膜中のSiに対するOの原子比が0を超え2未満であるのが好ましい。また、前記SiOC膜中のSiに対するCの原子比が0を超え2未満であるのも好ましく、前記SiOC膜中のSiに対するO及びCの原子比がそれぞれ0を超え2未満であるのがより好ましい。このような好ましい範囲によれば、抗菌剤をより良好に拡散することができ、さらに、基材との密着性をより良好なものとすることができる。また、本発明においては、前記SiOC膜が、Si-O結合及びSi-C結合を有する化合物を含むのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記SiOC膜を、可撓性により優れたものとすることができ、また、透明性もより良好なものとすることができる。
【0013】
本発明においては、前記抗菌剤の膜中の不純物濃度が、1×1018~1019/cm3であるのが好ましい。前記不純物濃度は、通常、ラマン分光法又は公知の質量分析法を用いて測定されるが、本発明においては、二次イオン質量分析(SIMS)により測定される不純物濃度であるのが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記SiOC膜の膜厚が1μm以下であるのが好ましく、0.1μm~0.5μmであるのがより好ましい。なお、前記膜厚は、SEM又はTEM等にて断面における前記SiOC膜の膜厚を測定して得られる膜厚であってよいが、SIMS観察にて組成分析とともに測定される膜厚であるのが好ましい。また、前記SiOC膜が撥水性を有するのがより抗菌性等を向上させることができるので好ましい。
【0015】
前記抗菌剤としては、好適には抗菌性金属が挙げられる。前記抗菌性金属を用いることにより、前記SiOC膜の形成をより容易とすることができる。前記抗菌性金属としては、銀、金、白金、銅及び亜鉛から選ばれる1種又は2種以上の金属などが好適な例として挙げられ、本発明においては、前記抗菌性金属がナノ粒子であるのが前記SiOC膜形成のためのコーティング剤により容易に分散させて含ませることができるのが好ましい。前記ナノ粒子の平均粒径としては1~100nmが好ましい。前記ナノ粒子の含有率は、特に限定されないが、前記コーティング剤に対し、0.001~1質量%が好ましく、0.01~0.2質量%であるのがより好ましい。
【0016】
前記SiOC膜は、基材表面に形成されて積層構造体として好適に用いることができ、このような積層構造体も本発明に包含される。本発明の積層構造体は、基材の表面の一部又は全部にSiOC膜が積層されている積層構造体であって、前記SiOC膜が、請求項1~12のいずれかに記載のSiOC膜であることを特長とする。
【0017】
前記基材は、特に限定されず、公知の基材であってよいが、本発明においては、前記生物由来材料を含むものであるのが好ましい。前記基材の形状等も特に限定されず、本発明の目的を阻害しない限り、どのような形状等であってもよく、あらゆる形状等に対して有効である。前記基材の形状としては、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられる。
【0018】
前記生物由来材料は、生物に由来する材料であれば特に限定されず、公知のものであってよい。前記生物由来材料としては、例えば、植物由来材料又は動物由来材料などが挙げられる。前記植物由来材料としては、例えば、木材、セルロース系繊維又は紙等が挙げられる。前記木材としては、特に限定されないが、例えば、樫、桐、欅、チーク若しくはローズウッドなどの広葉樹、杉、檜、松若しくはヒバなどの針葉樹、集成材、又は合板などが挙げられる。セルロース系繊維に含有されるセルロース繊維としては、任意の適切なセルロース繊維を採用し得る。セルロース繊維としては、例えば、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、半再生セルロース繊維、およびこれらの組み合わせが挙げられる。前記天然セルロース繊維は、植物性のセルロース繊維であってもよく、動物性のセルロース繊維であってもよい。前記天然セルロース繊維としては、例えば、綿、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、および被嚢類に由来する繊維が挙げられる。前記綿としては、例えば、短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、および超・超長綿が挙げられる。前記再生セルロース繊維としては、例えば、レーヨン繊維(例えば、ビスコースレーヨン、および銅アンモニアレーヨン)が挙げられる。前記半再生セルロース繊維としては、例えば、アセテート繊維(例えば、ビスアセテート、およびトリアセテート)が挙げられる。前記紙としては、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙、包装紙、段ボール、研磨紙、カップ原紙、ボードなどが挙げられる。
【0019】
以下、前記基材の表面の一部又は全部への好適な前記SiOC膜の形成方法について、より具体的に説明するが、本発明は、これら好ましい態様に限定されるものではない。
【0020】
前記SiOC膜は、コーティング剤及び前記抗菌剤を溶媒に溶解又は分散させ、ついで得られた溶解分散液を前記基材に塗布、含浸又はスプレーすることにより形成することができる。前記塗布、含浸又はスプレーの各手段は、特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、前記溶解分散液を前記基材に塗布するのが好ましい。
【0021】
前記コーティング剤は、通常Si含有成分を含んでいるが、本発明においては、2種以上のSi含有成分を含んでいるのが好ましい。前記Si含有成分としては、ポリアルキルシラザン、ペルヒドロポリシラザン等が挙げられる。前記ポリアルキルシラザンとしては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、1,3ージビニルー1,1,3,3ーテトラメチルジシラザン、オクタメチルシクロシラザンおよびへキサメチルシクロトリシラザンなどが挙げられる。前記ペルヒドロポリシラザンは、-SiH2-NH-SiH2-で表される構造を有する線状や環状のオリゴマーであり、1分子あたりのケイ素原子の数は2~500が好ましい。ペルヒドロポリシラザンとしては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。前記市販品としては、例えばメルクパフォーマンスマテリアルズ社のAZ無機シラザンコーティング材(NAXシリーズ、NLシリーズ、NNシリーズ)等が挙げられる。本発明においては、前記ポリアルキルシラザンと、前記ペルヒドロポリシラザンとを前記抗菌剤とともに、例えば前記溶媒に対して、前記コーティング剤を1~45質量%の濃度で前記溶媒に溶解又は分散させるのが好ましい。
【0022】
前記溶媒は、特に限定されないが、有機溶媒が好ましい。また、本発明においては、前記コーティング剤に炭素(C)が含まれていない場合には、通常、前記溶媒として前記有機溶媒を用いる。前記有機溶媒は、特に限定されないが、エーテル系有機溶媒等が好適な例として挙げられる。前記エーテル系有機溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオクチルエーテル、ジイソアミルエーテル、tert-アミルメチルエーテル、tert-ブチルエチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、1-メトキシエタン(モノグライム)、1-エトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、エチレングリコールジエチルエーテル、2-メトキシエチルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジエチルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の脂肪族鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、2,2,5,5-テトラメチルヒドロフラン、2,3-ジヒドロフラン、2,5-ジヒドロフラン、テトラヒドロピラン、3-メチルテトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン等の脂肪族環状エーテル、アニソール、フェネトール(エチルフェノール)、ジフェニルエーテル、3-フェノキシトルエン、p-トリルエーテル、1,3-ジフェノキシベンゼン、1,2-ジフェノキシエタン等の芳香族エーテルなどが挙げられる。本発明においては、前記エーテル系有機溶媒が、アルキルエーテルであるのが好ましく、ジブチルエーテルであるのがより好ましい。
【0023】
本発明においては、前記分散溶解液を用いて親水処理及び撥水処理にそれぞれ付すのが好ましく、前記親水処理後に前記撥水処理を行うのがより好ましい。前記親水処理は、例えば、前記分散溶解液を前記基材に塗布し、親水化した後、乾燥させる手段などが挙げられる。前記撥水処理は、例えば、前記分散溶解液を前記基材に塗布し、親水化する前に乾燥させる手段などが挙げられる。
【0024】
上記のようにして前記SiOC膜を前記基材に形成することより、本発明において好ましい前記SiOC膜を形成することができ、優れた撥水性及び優れた抗菌性を有する積層構造体を得ることができる。特に、上記のようにして得られた好ましい前記SiOC膜は、実質的に無色透明であり、各種外装へのコーティングに好適に用いることができる、なお、本発明において「実質的に無色透明」とは、着色が認められないかほとんど認められず、透き通っている状態を意味し、具体的には、可視光領域(420nm以上700nm以下の波長範囲)の光の透過率が80%以上、好ましくは90%以上であることを意味する。また、得られた積層構造体は、常法に従い、抗菌性製品に用いることができる。前記抗菌性製品は、家庭用品、食品、農業分野、水産分野、医療分野、工業分野、建築分野などの様々な分野で使用できる製品が挙げられ、特に、人間の手や体が直接接触することとなる製品が好ましい。本発明においては、前記抗菌性製品が、木製品、繊維製品又は紙製品であるのが好ましい。前記木製品としては、特に限定されないが、例えば、家具、ベンチ、棚、階段、フェンス、畳、テーブル、内装材、床材、外壁、くし、しゃもじ、バターナイフ、まな板、桶、樽、曲げわっぱ、樺細工、木製の器、漆器、カッティングボード、その他の調理用具などが挙げられる。前記繊維製品としては、例えば、織物、編物若しくは不織布、衣料品形態の布、カーペット、畳、又は繊維若しくは糸又はこれらの中間繊維製品(例えば、スライバーまたは粗糸等)などが挙げられる。前記紙製品としては、例えば、段ボール、塗工紙、ペーパーハニカム材、紙管等が挙げられる。
【0025】
以上のように、前記抗菌性製品は、前記積層構造体が用いられているので、ガラスコーティングのように強度等が付与されるだけでなく、例えば前記生物由来材料特有の風合いやエネルギー吸収性等も損なうことなく、さらに、優れた防汚性及び優れた抗菌性を奏するので、人間の手や体が直接接触することとなる製品として特に好適に用いられ得る。
【実施例0026】
(実施例1)
1.コーティング液の調整
ジブチルエーテルに、スターラーで攪拌しながら、ヘキサメチルジシラザンとペルヒドロポリシラザンとを4:1(質量比)の割合で混合したコーティング剤を、前記溶媒に対して20質量%の割合となるように混合し、さらに、前記コーティング剤に対し、0.1質量%となるように平均粒径40nmの銀ナノ粒子を混合分散させ、SiOC膜形成用の分散溶解液(コーティング液)を得た。
【0027】
2.塗布
2-1.親水性処理
木片(4.5cm角)及びSi基板(1cm角)をそれぞれ基板として用い、洗浄後、アプリケーターを用いて前記分散溶解液を塗布した。塗布後、10分経過後、なじんできたところで、マイクロファイバークロスで拭き上げ、これを2回繰り返した。
【0028】
2-2.撥水処理
上記2-1.にて親水性処理を行った基板の表面の水分をふき取り、前記分散溶解液を塗布し、1分以内にマイクロファイバークロスで拭き上げ、本発明の積層構造体を得た。得られた積層構造体(Si基板)は、断面を顕微鏡で観察すると、膜厚が0.2μmであった。また、木片の積層構造体も同様の厚さであった。得られた積層構造体(Si基板)に関し、SIMSにて積層構造体表面に形成された透明な膜の組成を調べたところ、良質なSiOC膜が形成されており、抗菌剤であるAgの含有量は、SiO
2標準試料により定量したところ、1×10
18~1×10
19/cm
3であった。SIMS分析結果を
図1に示す。
図1から、得られた積層構造体表面にSiOC膜が形成され、SiOC膜中に銀(Ag)が良好に拡散されていることがわかる。また、SiOC膜のXPS測定結果も
図6に示す。
図6から、SiOC膜中、OとCは、主にSiに結合していることが分かった。また、XPS分析による定量結果は、原子比で、Si:O:C=28.9:41.2:29.9であった。
【0029】
3.評価
3-1.防カビ持続性の評価
上記2.にて得られた積層構造体(木片)と、比較用の未処理の木片とをカビの繁殖環境下、シャーレ上に3か月放置し、防カビ持続性を評価した。その結果、カビが大量に繁殖した未処理の木片に対し、本発明品では、3か月後もカビが繁殖せず、本発明の長期間にわたる良好な防カビ持続性が確認された。
【0030】
3-2.抗ウイルス性試験
上記2.にて得られた積層構造体のSiOC膜の抗ウイルス性を、ISO21702:2019に準じて、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスを試験ウイルスとして用いて試験評価した。なお、比較用に、コーティングしない比較例品についてもあわせて試験評価した。インフルエンザの試験評価の結果を
図2に示し、ネコカリシウイルスの試験評価の結果を
図3に示す。
図2及び
図3から、本発明品は比較例品に比べ明らかに抗ウイルス性を有していることがわかる。
【0031】
3-3.抗菌性試験
上記2.にて得られた積層構造体のSiOC膜の抗菌性を、JIS Z 2801に準じて、黄色ブドウ球菌及び大腸菌を試験菌株として用いて試験評価した。なお、比較用に、コーティングしない比較例品についてもあわせて試験評価した。黄色ブドウ球菌の試験評価の結果を
図4に示し、大腸菌の試験評価の結果を
図5に示す。
図4及び
図5から、本発明品は比較例品に比べ明らかに抗菌性を有していることがわかる。
【0032】
(実施例2)
基材として鉛筆(uni三菱鉛筆社製)、プラスチックケース及び不織布をそれぞれ用いたこと以外、実施例1と同様にして積層構造体を得た。形成された膜はそれぞれ基材が分かるほど透明であり、また、積層構造体表面にSiOC膜が形成されていることはXPS測定により確認した。XPS測定結果を
図6の実施例1の測定結果に重ねて示す。
図6から明らかなとおり、ほぼ実施例1と同じSiOC膜が得られたが、XPS分析による定量結果は、原子比で、Si:O:C=25.5:38.9:35.6であった。なお、炭素の量が実施例1の膜に比べて多いのは、XPSのピークの傾向から、アルキル基(主にメチル基)が多く含まれているものと思われ、塗布工程における表面処理の程度で変わったものと思われる。
得られた積層構造体に対し、落下試験を実施しても特に剥離やひび割れ等もなく、優れた強度を有していた。また、手で強く力を入れて曲げても膜割れを起こすこともなく、良好な可撓性を有していた。
本発明のSiOC膜及び積層構造体は、家庭用品、食品、農業分野、水産分野、医療分野、工業分野、建築分野などの様々な分野で使用できる製品に利用可能であり、特に、人間の手や体が直接接触することとなる製品に有用である。