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特開2022-98382空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置
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  • 特開-空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置 図1
  • 特開-空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置 図2
  • 特開-空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置 図3
  • 特開-空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置 図4
  • 特開-空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098382
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/16 20060101AFI20220624BHJP
   F24F 7/003 20210101ALI20220624BHJP
【FI】
A61L9/16 Z
F24F7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020220013
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】521016667
【氏名又は名称】太田 威
(72)【発明者】
【氏名】太田 威
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA16
4C180CB06
4C180DD09
4C180EA23X
4C180EA33X
4C180MM08
(57)【要約】
【課題】 空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を、単に補足するだけでなくトラップ槽中での無害化を図ることによって、故障対応やメンテナンス時の危険回避が可能となる空気清浄化装置を提供する。
【解決手段】 病原体を補足し無害化するトラップ槽と、病原体を含んだ空気を微細気泡化してトラップ槽に送るための空気微細化装置とで構成され、トラップ槽には、気泡を微細化する能力を有し、かつ病原体を無害化することができる液体が充填されており、トラップ槽に到達した病原体を含んだ微細気泡が液体中を上昇する間に、病原体は気泡から液体中に移動し、病原体が除去された空気は水面より上部に設置された排出口より排気される。一方、微細気泡からトラップ液中に移動した病原体はトラップ槽中に充填された液体と接触することで無害化される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に浮遊する感染性の高い細菌やウィルスなどの病原体を、液体中にトラップする水フィルター式空気清浄化装置であって、清浄化対象の空気を微細気泡の形で病原体を無害化できるトラップ液中に導入、洗浄することを特徴とする空気清浄化装置。
【請求項2】
前記のトラップ液は、病原体を溶解することができる強塩基性薬剤、もしくは強酸化性薬剤の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の空気清浄化装置。
【請求項3】
前記のトラップ液は、病原体を不活性化することができる強力な脱水効果を有する薬剤の水溶液あることを特徴とする請求項1記載の空気清浄化装置。
【請求項4】
前記のトラップ液は、病原体を死滅させることができる殺菌、殺ウィルス剤の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の空気清浄化装置。
【請求項5】
前記のトラップ液は、病原体が死滅する高水温あることを特徴とする請求項1記載の空気清浄化装置。
【請求項6】
前記のトラップ液が空気を微細化する能力が小さい場合に、前記トラップ液に空気を微細化する効果を有する薬剤を共存させることを特徴とする請求項1~5記載の空気清浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に浮遊する感染性の高い細菌やウィルスなどの病原体によって引き起こされる感染症の検査や治療に必要な隔離検査室や隔離病棟、隔離病室、あるいはこれらの病原体に対する治療法やワクチン開発のための研究施設において必須となる空気清浄化装置に関するものである。
なお当然ながら、隔離病室や研究室などのような大規模な施設、実験研究用のグローブドボックス、陰圧室等、高度な無害化対策を要求される施設だけでなく、感染性病原体が付着しているエアロゾルや塵埃などを、できるだけ減らすことで感染リスクを下げることが要求される簡易陰圧室、劇場やデパート、航空機や列車、バスなどの交通機関、オフィスや一般家庭の居室などの屋内換気用の空気清浄化装置等として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
粉塵などを対象とした空気清浄化装置としては、目の細かなフィルターを使用する物理濾過方式、大量のシャワー水で洗浄する方式、電気集塵を応用した装置などが採用されているが、いずれも大規模かつ精密な設計施工が必要とされ、設備投資額も大きく、装置の運転やメンテナンスにも専門知識を有するスタッフが必要となる。
これらの方式を感染性の高い病原体の除去に適用した場合に問題となるのは、トラブル発生時や定期点検などの場合で、空気清浄化に使用されたフィルターや洗浄水中には菌やウィルスが生きたまま濃縮されており、このフィルター交換や水交換には事前の完全消毒と注意深い大規模なしかも極めて長期間の大修理が必要となることである。
【0003】
ラッサ熱、MERS(中東呼吸器症候群)、インフルエンザや新型コロナウィルス感染症、古くはペストなどのように、飛沫やエアロゾル起因、もしくはウィルス自体が空気中に浮遊する感染性の高い細菌やウィルスなどの病原体によって引き起こされる感染症は、発生時の感染拡大を最小限にとどめるための方策として感染者の隔離検査や隔離治療が行われる。この隔離検査室、隔離病室内等での検査や治療においては、使用された器具や汚物の消毒は勿論、検査や治療、看護にあたる医療スタッフ自身の感染対策や消毒だけでなく、検査室や検査病棟、隔離病室や隔離病棟から排気される空気の清浄化が感染拡大を防ぐための必要条件となる。また、これら感染症対策のために行われる新薬の研究開発やワクチンの製造においては対象となる実際の病原体を使用した研究開発が行われることもあり、隔離病棟や隔離病室と同等またはそれ以上の安全対策が必要となる。
現在、これらの施設で採用されている空気清浄化装置は、ヘパフィルターを使用した物理濾過方式がメインである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3667780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気感染性の病気は、罹病した患者または保菌者がする咳やくしゃみ、会話、大笑いなどの際に呼吸器や口の粘膜にあった病原体が唾液や痰の細かい粒とともに空気中に飛散し、この細かい粒子が空気中に浮遊、これが感染源となる。また、飛散した比較的大きな粒子の場合には衣服、寝具、床などに一旦付着し、時間が経って乾燥すると病原体は塵埃とともに風で舞い上がり空気中に浮遊してこれが感染源となる。
ラッサ熱、MERS(中東呼吸器症候群)などは抵抗力の弱い幼児、子供や老人だけでなく治療に当たる医師や看護師の命さえ脅かすため、治療にあたる医療スタッフにも完全防備が要求され、使用するマスクも通常のマスクより目が細かく、かつ静電気を利用して微粒子を補足する能力を有する特殊なマスクの着用が義務付けられ、使用後は専用の炉で焼却処分されるほどである。しかし、さらに重要なことは隔離病室、隔離病棟から排気される空気の中にも当然ながら病原体が含まれる可能性が高いため、この空気を清浄化する必要があることである。このことは隔離病棟やこれら感染性の高い病原体を対象とした研究施設、検査試験所など、感染症撲滅に必要欠くべからざる施設の新設や移設に際して周辺住民の賛同が得られないことが多い理由の一つにもなっている。
また新型コロナ騒ぎの昨今、空気清浄化装置の必要性は入国管理や感染症発生時の検査機関においても重要事項としてクローズアップされてきている。
【0006】
現在報告されている粉塵等の空気清浄化方法について詳しく記すと、目の細かいフィルターで濾しとるクリーンルーム方式、高圧の電気を利用して電極部分に吸着する電気集塵方式、汚染空気を大量のシャワー水で洗い流す流水洗浄方式、汚染空気を微細な気泡にして水中に導入し気泡が水中を上昇する間に気泡から前記物質を液中に移動させることによって空気を清浄化する気泡洗浄方式、などが考案されている。しかるに、空気清浄化の対象物が細菌や微細なウィルスである場合、クリーンルーム方式は使用するフィルターの目はウィルス補足能を有するだけの目の細かいものを使用する必要がある。また、このフィルター濾過方式の場合はある程度フィルターを目詰まりさせてからでないと濾過能力が発揮されないため、運転当初は濾過対象物が僅かではあるが排気中に混じってくる。このため危険な病原体などを濾過対象とする場合にはごく短時間、ごく微量でも外に漏れだすことが許されないためフィルターは最初の段階から対象物が通過できない極々微細な目開きのフィルターを使用しなくてはならない。すなわち、フィルターの微細化、濾過面積の増大が必要となり、結果として、設備投資額の巨大化、メンテナンス間隔の短命化への対応、運転上熟練した管理者専任の必要性など多くの問題がある。電気集塵方式は設備の大型化が避けられないだけでなく、対象空気の流量調整は元より、対象空気の湿度や温度が変化すると集塵能力が大きく変化してしまうため通常の粉塵が対象でも運転員には運転上の慣れ、高い習熟度が要求される。流水洗浄方式は大量のシャワー水での空気洗浄であり洗浄効果は比較的高いが、病原体などが大量の洗浄水中に拡散しこの洗浄水の処理に大規模な消毒設備が必要となる。気泡洗浄方式は、空気中の粉塵や煙を水中にトラップすることのみを目的としており、トラップした粉塵や煙の処理は考慮されていない。粉塵や煙などはそれ自体が有害でないためトラップ液の処理は問題にならないが、本発明が対象としている病原体を含んだ空気の清浄化においては、トラップ液中に病原体が存在しているため、トラップ液を廃棄する際に処理が必要となりコストが高くなるだけでなく、処理する人のリスクも高くなる。さらに、トラップ液の病原体を無害化しない場合には、気泡が水面ではじける際に生じる飛沫中に病原体が含まれるため、排気する空気中に再び病原体が混入してしまい、空気を完全に清浄化することができない。
【0007】
前記したように細菌やウィルスなどの病原体除去装置としての可能性を有する方式は数多く考えられるが、実用化されている装置としてはフィルターで病原体を濾過する方式が最も確実、安全であるため感染症専門の隔離病棟、検査機関、研究施設などで採用されている。今回我々が考案した方式は汚染空気からの病原体除去のみを目的とした従来方式と異なり、発明の名称に記したように「空気中に浮遊する細菌やウィルスなどの病原体を無害化する空気清浄化装置」すなわち、清浄化対象室内の空気中に浮遊する病原体を、単に捕捉するだけでなく捕捉した病原体を捕捉した場所での無害化を可能にするというものである。すなわち、清浄化対象室内の空気を微細気泡の形で、病原体を無害化することができるトラップ液中に導入し、この液体中で導入空気を洗浄し液体での洗浄によって清浄化された空気を外部に排出するか、もしくは再度室内に戻すということを行おうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、空気中に含まれる病原体を無害化するトラップ槽と、病原体を含んだ空気を微細気泡化してトラップ槽に送るための空気微細化装置とで構成され、トラップ槽には、空気を微細化する効果を高める能力を有し、かつ病原体を無害化することができる液体が充填され、トラップ槽に供給された病原体を含んだ微細気泡が液体中を上昇する間に、気泡から液体中に病原体は移動し、病原体が除去された空気は水面より上部に設置された排気口より排出される。一方、微細気泡からトラップ液中に移動した病原体は充填された液体と接触することで無害化される。
【0009】
前記したように、トラップ槽で使用されるトラップ液に要求される最も大事な能力は、細菌やウィルスなどの病原体を無害化する能力である。トラップ液に病原体を無害化する能力を付与するためには、病原体本体を溶解することができる苛性ソーダや苛性カリなどの強塩基性物質の濃厚溶液や、濃硫酸に重クロム酸カリをいれた通称クロム酸混液を使用する。病原体が活動不能になる強力な脱水作用を有する塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの濃厚溶液とする。病原体自体に働きかけ殺すことができる薬剤、すなわち、殺菌、殺ウィルス剤を含有させる。トラップ液の液温を、病原体を死滅させることが可能となる温度にする。の以上四つの手段のうち最低一つ以上を満たしていることである。
また、トラップ液に要求されるもう一つの大事な能力は、導入する汚染空気の気泡径を小さくすることによって導入空気とトラップ液との接触効率を向上させるための能力である。このためにはトラップ液の表面張力の低下を図ることができる薬剤、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの塩類、苛性ソーダや苛性カリなど強塩基性薬剤は極めて有効である。
【0010】
本発明で採用する空気微細化装置としては、散気管方式、ベンチュリー方式、スタティックミキサー方式、羽根車方式、翼剪断方式などいろいろな方式の採用が可能であるが、単にトラップ槽中に空気を導入する散気管方式と翼剪断方式。トラップ液と導入空気両者を完全に移動させながらトラップ液で無害化するスタティックミキサー方式、両者の併用であるベンチュリー方式に分かれる。散気管方式、翼剪断方式とベンチュリー方式は、単に装置自体の大型化を図ることだけでなく、空気微細化装置の数を増やし、トラップ槽の大きさや槽の数を増やすことで処理空気量の増減を図ることができる。また、この空気微細化装置とトラップ槽のセットを並列に複数個併設することで、2基で2倍、10基で10倍と処理空気量を変えられるため、同一能力の空気清浄化装置を適正個数セットすることで小さな部屋から大きな病棟までの対処が可能となり、更にはこの空気清浄化装置を直列に配置することで、処理レベルの完全性を向上させることができる。スタティックミキサー方式の場合にはパイプラインの太さと長さ、そして数を適正化することで同様に対処可能となる。
【0011】
空気清浄化装置への汚染空気導入は正圧でも負圧でも行うことができるが小型の簡易陰圧室や簡単な検査ボックスなどのように処理空気量が少なく処理精度の要求度が低い場合に採用すべき方式と、小型ではあっても処理対象物の危険性が高いグローブドボックス、大型の隔離病棟や研究施設などのように処理空気量が大きな施設ではおのずから採用する空気導入方式は変える必要がある。また、処理精度を第一義とする場合、処理精度と処理速度の両方を要求される場合、処理精度や処理速度は若干劣っても繰り返し同装置を経由させることで対象室内の感染源を減少させる場合など、その要求度によっても空気導入方式を選択もしくは組合せることで可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる水質浄化システムによれば次の効果を奏する。本発明の空気清浄化装置は細菌やウィルスなどの病原体を捕捉するだけでなく補足した病原体を無害化することができる空気清浄化装置である。現在多くの現場で採用されているフィルター方式の設備と比較すると、設備のコンパクト化が図れるため設備投資費用が小さくて済む。細菌やウィルスなどの病原体を捕捉するのにヘパフィルターのように高価な部材を使用することなく、工業的に使用されている化学薬品等の水溶液中や温水中にトラップするため、補足材料の価格が極端に低く抑えられる。補足材料の交換作業を実施するに当たり補足された病原体は生きて濃縮されているヘパフィルターと異なり、トラップ槽中の病原体は既に無害化されているためトラップ液交換時の感染リスクも軽減できることは勿論交換にかかる時間も大幅に短縮できるためメンテナンス費用も大幅に低減できる。病原体の危険度や処理精度、処理対象施設の規模と設備価格によって空気微細化装置やトラップ液用薬剤を自由に選択できるため要求度に合わせた多種多様な設備の設計が可能となる。微細気泡の形で汚染空気を空気清浄化装置に負圧導入する方式では、装置が故障した場合は汚染空気の導入ができなくなるため装置故障による「病原体の外部への洩れ」は最小限に留めることができる。処理装置を並列に複数個併設することで、2基で2倍、10基で10倍と処理空気量を変えられるため、小さな部屋から大きな病棟まで同一システムで対処可能となる。更には処理装置を直列に配置することで、処理レベルの向上が図れる。
【0013】
国立感染症研究所へのエボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱の5種類の第1類感染症に指定されている病原体を輸入し、訪日客増加による感染症対策を開始することが報じられている。これら国内で発生することが少ない特殊な感染症関連の研究などには必要以上に安全であるとの世間一般への説明が必要となる。このためには、病原体などの補足能力が極めて高いことだけを強調するのでなく、装置が故障しても外部には一切悪影響は与えない安全性を兼ね備えている施設であることをアピールする必要がある。
また、現在世界中に脅威を与えている新型コロナウィルス対応の検査室や検査病棟、治療室や治療病棟、新薬開発などの研究機関などにも病原体の補足能力、故障時の安全性、メンテナンスの安全性が優れている本装置は必須の装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係わる空気清浄化装置の概略構成図
図2】本発明の別の実施形態に係わる空気清浄化装置の概略構成図
図3】空気微細化装置を複数台設置した本発明の空気清浄化装置の概略構成図
図4】本発明の空気清浄化装置を3台直列2系列組み込んだ空気清浄化システムの概略構成図
図5】本発明の小型空気清浄化装置をオフィス内に設置した事例
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図示した例とともに詳説するが、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。すなわち、空気清浄化装置に組み込む空気微細化装置として翼剪断方式と散気管式について図示しているが、ベンチュリー方式や、これらを組み合わせた方式でも良い。しかし能力の異なる異種方式の空気微細化装置を組み合わせる場合には、並列方式での設置は避け直列位置での組み合わせることが望ましい。当然ながら能力の異なる空気清浄化装置を組み合わせる場合も同様であり、本発明の水フィルター式空気清浄化装置の後段に乾式のフィルター濾過方式の空気清浄化装置を組み合わせることがあっても構わない。
【0016】
図1は翼剪断方式の空気微細化装置を組み込んだ空気清浄化装置1を図示したもので、空気中に含まれる病原体を無害化するトラップ槽3と、病原体を含んだ空気を微細気泡化してトラップ槽3に送る空気微細化装置2aとで構成され、前記トラップ槽3には、病原体を無害化するためのトラップ液4が充填され、トラップ槽3に供給された病原体を含んだ気泡がトラップ槽3に充填されたトラップ液4中を上昇する間に、気泡から液中に病原体が移動し、トラップ槽3中に充填されたトラップ液4と病原体が接触することで病原体が無害化され、病原体がトラップ液4に移行した空気はトラップ液4の水面より上部に設置された清浄化空気排出口7より排気することで、病原体を含んだ空気を無害化することを特徴とする。
【0017】
トラップ液4中に捕捉された細菌、ウィルスはトラップ液4としてどのような薬液を使用するかによって、その後の状態が異なる。すなわち、クロム酸混液などのように極めて酸化力の強い薬剤を溶かした溶液をトラップ液4として使用した場合には、細菌やウィルスはクロム酸混液中の濃硫酸の力である低pHと脱水力に加えて、重クロム酸カリウムと硫酸の反応によって生成したクロム酸イオンと発生期の酸素の酸化力によって死滅するだけでなく、細菌やウィルス本体も溶解してしまう。苛性ソーダや苛性カリのような不揮発性の強塩基薬品の水溶液をトラップ液4として使用すると、細菌やウィルスは溶解処理でき、しかも装置の材質も通常の耐塩基性材料であるステンレスでの製作が可能となる。ここで使用する強塩基性薬剤は人間の皮膚なども溶かしてしまうためメンテナンス時には耐薬品性の手袋や防護眼鏡の着用が必須となる。最もメンテナンスする人間に優しいトラップ液4は塩化ナトリウムや塩化カリウムなど、強酸と強塩基の反応によってできた溶解性の高い中性塩の濃厚溶液の使用である。この薬剤を使用した場合には細菌やウィルスは塩漬け状態となって無害化されるが細菌やウィルス本体が溶解してしまうことは無い。トラップ液4に殺菌、殺ウィルス効果を有する薬品を使用することも可能であるが、その薬品自体が気泡微細化効果を持たない場合は塩化ナトリウムなどを一定量加えることで微細気泡化が可能となり病原体を効果的に死滅させ易くなる。但し使用する殺菌、殺ウィルス剤は不揮発性の薬剤とする必要がある。高温水で無害化を図る場合には殺菌、殺ウィルス効果を有する薬品を使用する場合同様、表面張力低減効果のある塩化ナトリウムなどを加えることで可能となる。
【0018】
空気微細化装置としては図1で示した、回転翼が高速回転することで翼背面に生じる負圧により空気を自吸し、回転翼の剪断力で空気を微細化する翼剪断式空気微細化装置2aが最良であるが、図2に示した微細孔が開いた筒状の管にブロワーを用いて空気を送り微細化する散気管式空気微細化装置2bを用いても良く、空気を微細化できる装置なら何ら制限されるものではない。
【0019】
空気を自吸する空気微細化装置において、必要空気量よりも自吸する空気量が少ない場合は、図3に示すように複数台の空気微細化装置2aを設置するか、送風機10で空気を送るかで対応することができる。また、必要処理量よりも多く処理ができるように複数台の空気微細化装置を設置2aしておけば、1台故障しても未処理の空気を排気することは無いため、装置停止のリスクが無くなる。
【実施例
【実施例0020】
図4は上記空気清浄化装置を隔離病室の空気清浄化に適用した例で、細菌、ウィルス等の病原体を含んでいる空気は、空気清浄化装置1の空気微細化装置2aの負圧により、隔離病室11の右側壁面から隔離病室内の汚染空気を完全密閉された前室12を経由して空気微細化装置2aに送られ、空気微細化装置2aにより微細気泡化されトラップ液4中に導入される。気泡がトラップ液4中を上昇する間に病原体がトラップ液4中に捕捉、殺菌され、清浄化された空気はトラップ槽3の上部空間に集まり、清浄化空気輸送管14、バルブ9、清浄化空気排出管8を通して室外に放出される。この空気を循環再利用する場合にはバルブ9を切り替え清浄化空気を清浄化空気返送管15に送り、除湿器13を通して気体中に含有する水分を除去し湿度を下げた後に隔離病室11に戻す。
複数個並列設置することで処理空気量の大小に対応することが可能となるだけでなく、一つの系列を待機させておき空気清浄化装置の故障時やメンテナンスが必要になった場合に待機セットに切り換えることで通常通りに空気清浄化が行える。また、これを直列設置することで処理の精度、すなわち病原体の除去率を大幅に向上させることが可能となる。
【実施例0021】
図5は、翼剪断式空気微細化装置2aを組み込んだ小型の空気清浄化装置1をオフィス内に設置した事例であり、空気清浄化装置1を設置することで現在推奨されている新型コロナ対策のように、一定時間ごとに窓を開けることなく空調を利かせたままで室内のエアロゾルや浮遊している病原体を空気清浄化装置1中にトラップし無害化することが可能となる。なお、家庭用、オフィス用などの場合は、トラップ剤として病原体を完全に溶解できるが取扱いに注意を要する苛性ソーダなどは使用せず、安全性の高い塩化ナトリウムすなわち食塩の濃厚溶液を使用するのが望ましい。また、空気清浄化装置1を通過した空気をエアコン16の入り口に戻すことで屋内の湿度コントロールを図っているが、湿度が上がることに意義が見いだせる場合や特に問題が無い場合にはオフィス内に直接排気することがあっても構わない。小型の空気清浄化装置は処理空気量が8m/h程度であるので屋内の空気を繰り返しこの浄化装置を通すことで室内の病原体を徐々に無くして行こうというものである。
【符号の説明】
【0022】
1 空気清浄化装置
2a 翼剪断式空気微細化装置
2b 散気管式空気清浄化装置
3 トラップ槽
4 トラップ液
5 汚染空気導入口
6 汚染空気導入管
7 清浄化空気排出口
8 清浄化空気排出管
9 バルブ
10 送風機
11 隔離病室
12 前室
13 除湿器
14 清浄化空気輸送管
15 清浄化空気返送管
16 エアコン
17 窓(閉)
図1
図2
図3
図4
図5