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特開2022-98405血液異常予測装置、血液異常予測方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098405
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】血液異常予測装置、血液異常予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220624BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B5/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097982
(22)【出願日】2021-06-11
(62)【分割の表示】P 2020211888の分割
【原出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】515108727
【氏名又は名称】あっと株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】武野 團
(72)【発明者】
【氏名】待谷 貴央
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA05
4C038VB40
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】生活習慣病の罹患の有無や、将来的な罹患の可能性(罹患リスク)について、被験者にとって非侵襲的な方法で判定する技術が求められている。毛細血管を撮像することで被験者の健康状態を判定する技術が開示されているものの、具体的に、毛細血管の撮像画像を基に、どのように被験者の生活習慣病の罹患の有無や、将来的な罹患の可能性を判定するかは明らかではなかった。
【解決手段】本発明は、毛細血管頭頂部が撮像された画像情報を受け付ける画像受付部と、画像情報に基づき、被験者の血液異常の有無を予測する予測部とを少なくとも備え、予測部は、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の全幅、頂点幅、ループ直径、静脈肢幅、及び動脈肢幅からなる群より選ばれる一又は複数を測定し、当該測定結果から、被験者の血液異常の有無を予測する、血液異常予測装置を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細血管頭頂部が撮像された画像情報を受け付ける画像受付部と、
前記画像情報に基づき、被験者の血中脂質異常の有無を予測する予測部とを少なくとも備え、
前記予測部は、前記画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び/又は静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、被験者の血中脂質異常の有無を予測する、
血液異常予測装置
【請求項2】
前記予測部が、前記画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、前記動脈肢幅及び前記静脈肢幅の長さのうち、いずれか長い方の測定値と予め設けられた閾値とを比較することで、前記測定値が前記閾値を超える場合に、血中脂質異常があると予測する、
請求項1に記載の血液異常予測装置
【請求項3】
前記血中脂質異常が、被験者の低HDLコレステロール値、高LDLコレステロール値、及び高中性脂肪値からなる群から選ばれる1又は複数である、請求項1又は2に記載の血液異常予測装置
【請求項4】
前記予測部が、前記画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、前記動脈肢幅及び前記静脈肢幅の長さのうち、いずれか長い方の測定値と予め設けられた閾値とを比較することで、前記測定値が前記閾値を超える場合に、被験者のHDLコレステロール値、LDLコレステロール値、及び中性脂肪値からなる検査項目のうち異常と判定された項目数が多いと予測する、
請求項1に記載の血液異常予測装置
【請求項5】
前記被験者が健常者である、請求項1~4いずれか一項に記載の血液異常予測装置
【請求項6】
毛細血管頭頂部が撮像された画像情報を受け付ける画像受付ステップ、
前記画像情報に基づき、被験者の血中脂質異常の有無を予測する予測ステップを含み、
前記予測ステップでは、前記画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び/又は静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、被験者の血中脂質異常の有無を予測する血液異常予測方法をコンピュータに実行させるプログラム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細血管頭頂部の測定結果から被験者の血液異常の有無を予測する血液異常予測装置、血液異常予測方法、及び当該方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、指先の毛細血管を撮像することで、被験者の健康状態を判定する方法が注目されている。例えば、指の長手方向を横切る横方向に走る乳頭下血管叢の有無を判別する血管観測方法(特許文献1参照)、毛細血管の撮像画像から毛細血管の形態を鮮明化し、縦方向の毛細血管の長さ、太さ及び本数を算出する毛細血管画像処理方法(特許文献2参照)、毛細血管の形状を自動的に認識し、毛細血管の異常度を算出する健康状態評価支援システム(特許文献3参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6186663号公報
【特許文献2】特許第6551729号公報
【特許文献3】特開2019-106202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被験者の生活習慣病の罹患の有無、将来的な罹患の可能性(罹患リスク)について、被験者にとって非侵襲的な方法で判定する技術が求められている。上述したように、毛細血管を撮像することで、被験者の健康状態を判定する技術が複数開示されている。しかし、これらの先行文献からは、毛細血管の撮像画像を基に、どのようにして、被験者の生活習慣病の罹患の有無や、将来的な罹患の可能性を判定するかは明らかではなかった。したがって、被験者の毛細血管の撮像画像から、迅速且つ的確に被験者の健康状態を判定可能な技術が求められていた。
【0005】
そこで、本発明は、少なくとも毛細血管の頭頂部の形状が撮像された撮像画像から、被験者の血管異常に代表される生活習慣病罹患の有無及びその将来的な罹患リスクを評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、毛細血管頭頂部が撮像された画像情報を受け付ける画像受付部と、画像情報に基づき、被験者の血液異常の有無を予測する予測部とを少なくとも備え、予測部は、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の形状、具体的には動脈肢幅及び/又は静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、被験者の血中脂質異常の有無を予測する、血液異常予測装置である。本発明における被験者は、健常者であり得る。
【0007】
また、別の本発明は、血中脂質異常は、低HDLコレステロール値、高LDLコレステロール値、高中性脂肪値からなる群から選ばれる1又は複数である。また、被験者のHDLコレステロール値、LDLコレステロール値、及び中性脂肪値からなる検査項目のうち異常と判定された項目数も予測される。
【0008】
別の本発明は、予測部が、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、動脈肢幅及び静脈肢幅の長さのうち、いずれか長い方の測定値と予め設けられた閾値とを比較することで、測定値が閾値を超える場合に、血中脂質異常があると予測する。また、別の本発明は、予測部が、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、動脈肢幅及び静脈肢幅の長さのうち、いずれか長い方の測定値と予め設けられた閾値とを比較することで、測定値が閾値を超える場合に、被験者のHDLコレステロール値、LDLコレステロール値、及び中性脂肪値からなる検査項目のうち異常と判定された項目数が多いと予測する。
【0009】
さらに本発明は、毛細血管頭頂部を撮像した画像情報を受け付ける画像受付ステップ、画像情報に基づき、被験者の血液異常の有無を予測する予測ステップを含み、予測ステップでは、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の動脈肢幅及び/又は静脈肢幅を測定し、当該測定結果から、被験者の血中脂質異常の有無を予測する、血液異常予測方法、並びにコンピュータに血液異常予測方法を実行させるプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、被験者の生活習慣病の罹患の有無や、その将来的な罹患リスクを、非侵襲的な手法で、迅速且つ的確に予測することが可能である。本発明は、生活習慣病の罹患者だけでなく、健常者であっても、潜在的なリスクを判定することができるため、生活習慣病の早期発見や予防、ひいては医療費の削減に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が測定する毛細血管頭頂部の形状の模式図である。
図2】本発明が測定する毛細血管頭頂部の形状の測定箇所を示した図面である。
図3】本発明の実施例のシステムフロー図である。
図4】本発明の実施例の血液異常予測の一例を示す図である。
図5】本発明の実施例の血液異常予測の一例を示す図である。
図6】本発明の実施例の血液異常予測の一例を示す図である。
図7】本発明の実施例の血液異常予測の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の血液異常予測装置、血液異常予測方法及びプログラムについて、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
本発明の血液異常予測装置は、少なくとも画像受付部と予測部とを備える。画像受付部は、被験者の毛細血管の頭頂部を撮像した画像情報を受け付ける。予測部は、画像受付部が受け付けた画像情報に基づき、毛細血管頭頂部の形状を測定し、当該測定結果から被験者の血液異常の有無を予測する。
【0014】
本発明における測定対象である毛細血管は、皮下血管の他、粘膜下血管等も含む。本発明では、指爪床部毛細血管の撮像画像が好ましく用いられる。本発明者らが既に開発した技術によって、被験者の負担が少ない非侵襲的な方法で、鮮明な毛細血管の撮像画像を得ることができるためである。
【0015】
本発明では、毛細血管頭頂部の画像を撮像する撮像部を備えていても良い。本発明で用いられる撮像画像は、例えば本発明者による過去の特許公報に記載の手法で撮像される画像が好ましく用いられる。具体的には、上述した特許文献1及び2に記載された手法である。すなわち、被験者の指の爪床部分を観察対象とし、観察対象に可視光や赤外線等を照射し、CCDやCMOS等の撮像素子を具備する撮像手段によって、指爪床の毛細血管の撮像画像の画像情報が得られる。撮像画像の画像情報は、毛細血管の形状を鮮明化した画像処理を施したものであることが好ましい。
【0016】
毛細血管の頭頂部は、係蹄やキャピラリーループとも呼称される。毛細血管頭頂部は、皮下直下に形成される動脈から静脈への接続部位である。指爪床部毛細血管の場合は、指の長手方向に走る血管が屈曲して形成されたヘアピン状の先端部を指す。
【0017】
毛細血管の頭頂部の模式図を図1に示す。毛細血管頭頂部10は、動脈肢11、頂点12、及び静脈肢14から構成される。頭頂部の頂点12を境目として、動脈側の血管が動脈肢11、静脈側の血管が静脈肢14と呼称される。
【0018】
また、ここでは、指先床の毛細血管頭頂部を撮像した平面画像において、係蹄の周方向外側に観察される血管壁を、係蹄外側壁16、係蹄の周方向内側に観察される血管壁を、係蹄内側壁18と呼称する。
【0019】
測定部は、画像受付部が受け付けた毛細血管頭頂部の撮像画像、好ましくは平面画像から、毛細血管頭頂部の形状を測定する。具体的には、予測部は、画像情報に基づき、毛細血管頭頂部の形状、すなわち全幅、頂点幅、ループ直径、静脈肢幅、及び動脈肢幅からなる群より選ばれる一又は複数の長さを測定する。毛細血管頭頂部の測定箇所の具体例を図2に示す。図2には毛細血管頭頂部10の形状の測定箇所を両矢印で示している。以下、図2を参照し、毛細血管頭頂部10の平面画像に基づいた毛細血管頭頂部10の形状の測定箇所を説明する。
【0020】
全幅20とは、動脈肢11及び静脈肢14を含む毛細血管頭頂部10の被験者の指の短手方向の幅であり、動脈肢11のループ外側壁16から静脈肢14のループ外側壁16までの幅の長さを指す。
【0021】
頂点幅22とは、毛細血管頭頂部10に形成された血管内空間の幅である。図2では、頂点部12の係蹄外側壁18が形成する弓形の弦長に相当する。より好ましくは、頂点部12の係蹄外側壁16の弦をなし、且つ係蹄内側壁18の頂点に接する直線の長さを指す。
【0022】
ループ直径24とは、毛細血管頭頂部10のうち頂点12を構成する血管の直径であり、頂点部12の係蹄外側壁16から頂点部12の係蹄内側壁18までの長さをいう。
【0023】
静脈肢幅26とは、静脈肢14の直径であり、静脈肢14の係蹄内側壁18から係蹄外側壁16までの長さをいう。動脈肢幅28とは、動脈肢11の直径であり、静脈肢11の係蹄内側壁18から係蹄外側壁16までの長さをいう。
【0024】
毛細血管頭頂部の全幅、頂点幅、ループ直径、静脈肢幅、及び動脈肢幅の長さの数値は、画像情報に基づいた測定の結果、算出される統計量(例えば、得られた複数の数値の平均値、最大値、最小値、中央値、最頻値等)に基づいて決定され得る。
【0025】
本発明では、毛細血管頭頂部の形状の測定値から、被験者の血液異常の有無を予測することができる。本発明の被験者は、健常者であっても良い。本発明によれば、健常者の中から、血液異常による疾患は確認されないものの、血液異常の傾向が見られる健常者を特定することができるため、健常者の将来的又は潜在的な罹患リスクを把握することが可能となる。
【0026】
発明者らは、毛細血管頭頂部の形状の測定結果と、被験者の血液異常を数値化した数値化情報との間に高い相関関係が得られることを見出したために、本発明に到達した。被験者の血液異常を数値化した数値化情報とは、一の血液検査値だけでなく、複数の血液検査値の組み合わせでも良い。複数の血液検査値の組み合わせの場合は、血液検査の項目のうち基準値と比較して異常と判定された項目数や、複数の検査値を重篤度別にそれぞれスコア化して加算又は乗算等により組み合わせて得られた数値、複数の血液検査値に対しそれぞれ重み付けして加算又は乗算等により組み合わせて得られた数値であっても良い。
【0027】
本発明で予測対象となる血液異常とは、具体的には、血中脂質異常であり、これら血液異常の疑いも含まれる。本発明では、非侵襲的な方法で、被験者が血中脂質異常を持つか否かを迅速に予測することが可能である。
【0028】
血中脂質異常とは、血液中のHDLコレステロールが基準値よりも低い状態、LDLコレステロールが基準値よりも高い状態、及び、中性脂肪値が基準値よりも高い状態からなる群から選ばれる一又は複数であり、高脂血症とも呼称される。血中脂質異常を有する者は、動脈硬化や急性膵炎、脳梗塞、心筋梗塞、腎臓障害等の疾病の発症リスクが高いことが知られている。
【0029】
本発明では、被験者の毛細血管の形状の測定値から、被験者の血液が、低HDLコレステロール値、高LDLコレステロール値、及び高中性脂肪値からなる群から選ばれる一又は複数を示すか否かを予測することができる。高LDLコレステロール値や、高中性脂肪値は、被験者の血液検査値が診断基準等の予め定められた基準値と比較して高い場合、低HDLコレステロール値は被験者の血液検査値が基準値と比較して低い場合に、それぞれ判定される。
【0030】
本発明の予測部は、毛細血管頭頂部の形状の測定結果と、予め設けられた閾値とを比較することで、被験者の血液異常の有無を予測する。閾値は、複数の被験者から集められた毛細血管頭頂部の形状の測定結果と、血液検査値とを統計的手法で解析することで、適宜設けることができる。
【0031】
本発明は表示部を備えていても良い。具体的な表示部の例としてはディスプレイが挙げられる。表示部は、予測部が予測した結果、例えば「血液異常の疑いあり」又は「血液以上の疑いなし」を、ユーザに対し表示する。
【0032】
本発明は、毛細血管頭頂部を撮像した画像情報を受け付ける画像受付ステップ、画像情報に基づき、被験者の血液異常の有無を予測する予測ステップを含み、予測ステップは、画像情報に基づき毛細血管頭頂部の全幅、頂点幅、ループ直径、静脈肢幅、及び動脈肢幅からなる群より選ばれる一又は複数を測定し、当該測定結果から、被験者の血液異常の有無を予測する、血液異常予測方法を提供する。また、本発明は、血液異常予測方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供する。
【実施例0033】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0034】
本実施例の血液異常予測装置は、画像受付部、予測部、及び表示部を備える。本実施例の血液異常予測装置のシステムフロー図を図3に示す。
【0035】
本実施例において、画像受付部は、毛細血管頭頂部を撮像した画像情報を受け付ける。さらに、予測部において、画像受付部が受け付けた当該画像情報を基に、毛細血管頭頂部の規定項目を測定し、測定値を得る。予測部は、さらに、予測部は、測定値と閾値とを比較し、測定値が閾値を超える場合には、表示部において「血液異常の可能性が高い」と表示し、測定値が閾値を超えない場合には、表示部において「血液異常の可能性が低い」と表示する。
【0036】
本実施例の被験者の血液異常予測の具体例を下記に示す。
【0037】
1.被験者の血液脂質異常項目数の予測
本実施例では、被験者の毛細血管頭頂部の動脈肢幅の長さ及び静脈肢幅の長さの測定値から、血液脂質異常の有無、より具体的には、血中脂質の検査項目のうち異常と判定された項目数を予測する。本実施例の予測の妥当性は、健常者の毛細血管頭頂部画像及び血液脂質に関する検査値を使用して検証した。
【0038】
本検証に同意を得た健常な被験者1020名の毛細血管の撮像画像から動脈肢幅の長さ及び静脈肢幅の長さを測定した。また、同被験者の血液検査により得られたHDLコレステロール値、LDLコレステロール値、及び中性脂肪値から、診断基準(日本動脈硬化学会2012年改訂)を基に、異常と判定された検査項目数毎に4集団(異常項目数0、異常項目数1、異常項目数2、及び異常項目数3)に分けた。当該集団毎に、動脈肢幅及び静脈肢幅の長さのうち、いずれか長い方の測定値を算出した。
【0039】
血液脂質の異常項目数毎の毛細血管の撮像画像の解析結果を図4に示す。異常項目数0、1及び2の被験者の毛細血管撮像画像の測定値の中央値はそれぞれ22.8 μm、23.9 μm、及び25.0 μmであるのに対して、異常項目数3の中央値は29.0 μmであり、当該測定値が高い場合には、血液の異常項目数が多い傾向が見出された。
【0040】
異常項目数0、1及び2の被験者の毛細血管撮像画像の測定値から、ランダムに5サンプルを抜き出して、その中央値を算出した。100,000回行った算出結果を図5に示す。異常項目数3の中央値である29.0 μmを越える値は5.5%であり、血液異常項目数が2以内の被験者の当該測定値が29.0 μmを越えることは稀であると判定された。したがって、本実施例では、被験者の毛細血管撮像画像の測定値が閾値である29.0 μmを越えるか否かにより、被験者の血液異常項目数が3か否かを高い確率で予測できることが示された。
【0041】
2.被験者のLDLコレステロール値の予測
本実施例では、被験者の毛細血管頭頂部の頂点幅の長さの測定値から、LDLコレステロール値の異常の有無を予測する。本実施例の予測の妥当性は、本検証に同意を得た健常な50代男性の毛細血管頭頂部画像、及び血中LDLコレステロール値を使用して、両値の相関性を検証した。
【0042】
毛細血管画像の測定値20 μm未満、及びLDLコレステロール値200 mg/dl以上を異常値として除去した、残りの88名のLDLコレステロール値と毛細血管頭頂部の測定値の相関の検証の結果を図6に示す。相関係数を算出したところ、0.41であり、両値の間には高い相関が得られた。
【0043】
診断基準(日本動脈硬化学会2012年改訂)を基に、LDLコレステロール140 mg/dl以上を異常として、毛細血管頭頂部の測定値による診断の真陽性率と偽陽性率を計算し、ROC (Receiver Operating Characteristic)カーブを作成した。作成したROCカーブを図7に示す。本実施例の曲線下面積(AUC: Area Under the Curve)は0.64であり、最適なカットオフ値は47.80 μmであった。以上の結果から、本実施例は、毛細血管頭頂部の頂点幅の長さの測定値の閾値を47.80 μmとすることで、高LDLコレステロール値の非侵襲的な一次スクリーニングとして十分に活用できることが示された。
【符号の説明】
【0044】
10 毛細血管頭頂部
11 動脈肢
12 頂点
14 静脈肢
16 係蹄外側壁
18 係蹄内側壁
20 全幅
22 頂点幅
24 ループ直径
26 静脈肢幅
28 動脈肢幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7