(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098564
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】パイプレンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 13/50 20060101AFI20220627BHJP
【FI】
B25B13/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212005
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000146135
【氏名又は名称】株式会社松阪鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 周作
(57)【要約】
【課題】締付け及び緩め時にパイプ表面を傷付けることがないパイプレンチを提供すること。
【解決手段】ハンドルレバー1と、ハンドルレバーの先端部に基部が回動自在に枢支された第1パイプ掴み部材2と、第1パイプ掴み部材の先端部に基部がピンにより回動自在に枢支された第2パイプ掴み部材3を備え、第2パイプ掴み部材3の先端部にはハンドルレバーの先端の押圧部11と当接する係止片32が設けられていて、押圧部11と係止片32を係合させた状態で第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3との間にパイプ7を挟んで掴むようにしたパイプレンチである。第1パイプ掴み部材2及び第2パイプ掴み部材3の内面に凹部21、31を形成し、これらの凹部に、パイプを把持する一対の弾性アタッチメント5をそれぞれ圧入して対向配置した構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルレバーと、
ハンドルレバーの先端部に基部が回動自在に枢支された第1パイプ掴み部材と、
第1パイプ掴み部材の先端部に基部がピンにより回動自在に枢支された第2パイプ掴み部材を備え、
第2パイプ掴み部材の先端部にはハンドルレバーの先端の押圧部と当接する係止片が設けられていて、前記押圧部と係止片を係合させた状態で第1パイプ掴み部材と第2パイプ掴み部材との間にパイプを挟んで掴むようにしたパイプレンチであって、
第1パイプ掴み部材及び第2パイプ掴み部材の内面に凹部を形成し、これらの凹部に、パイプを把持する一対の弾性部材をそれぞれ圧入して対向配置したことを特徴とするパイプレンチ。
【請求項2】
前記弾性部材がウレタンゴムであることを特徴とする請求項1に記載のパイプレンチ。
【請求項3】
前記凹部に前記弾性部材の方向に突出する突起を形成し、前記弾性部材の外周面に形成された窪みに係合させたことを特徴とする請求項1または2に記載のパイプレンチ。
【請求項4】
第1パイプ掴み部材に形成された凹部の、前記弾性部材の端面と接する面であって前記ピンに近い側の面、及び第2パイプ掴み部材に形成された凹部の、前記弾性部材の端面と接する面であって前記係止片に近い側の面がいずれも、内側がパイプの中心に近づく方向に傾斜していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のパイプレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付け及び緩め時にパイプ表面の傷付きを防止することができるパイプレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パイプの締め付け及び緩め作業にはパイプレンチが広く利用されている。このパイプレンチとしては、特許文献1に示されるように、植歯と、この植歯に対向配置された可動歯の間にパイプを挟んで保持するようにしたものが一般的である。
【0003】
しかし、前記レンチの場合はパイプを挟んだ際に、植歯および可動歯がパイプの表面に食い込んでしまいパイプを傷付けるという問題があった。また最近では、表面にメッキ処理やコーティング処理が施されて外観が美しい給水管が使用されるケースも多く、パイプの傷付き防止の要求が高まってきている。
【0004】
そこで、パイプを傷付けずに締め付け及び緩めることができるパイプレンチとして、特許文献2に示されるように、パイプ挟持部材の内表面にベルトを装着し、このベルトによってパイプを締め付け保持する構造のベルト捲締めレンチが提案されている。しかし、このベルト捲締めレンチは、連続して回動操作を行う際にレンチを作業しやすい位置に移動しようとすると、前記ベルトをいったん緩めて手でパイプに締め直す必要があった。また、前記ベルトは圧入されたピンによりレンチに固定されているため、摩耗した前記ベルトを交換する際にはピン抜き及びハンマーで圧入されたピンを叩いて抜く必要があり、交換作業が面倒であった。
【0005】
また、特許文献3に示されるように、内面が半円形の第1パイプ掴み部材と内面が半円形の第2パイプ掴み部材の間でパイプを掴むことで、傷付けずに締め付け及び緩めるようにしたパイプレンチも提案されている。しかし、このパイプレンチは、第1パイプ掴み部材及び第2パイプ掴み部材の掴み部の内径をパイプ外径よりも小さく形成したものであり、掴み部とパイプとが密着した状態で締め付けまたは緩み操作が行われる場合にはパイプ表面の傷付きを少なくすることができるが、掴み部が金属製であるため完全に傷が付かないというものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-19966号公報
【特許文献2】実開昭50-136896号公報
【特許文献3】特開2019-25588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件の発明者は、これらの点について鋭意検討することにより、解決を試みた。本発明が解決しようとする課題は、締付け及び緩め時にパイプ表面を傷付けることがないパイプレンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、ハンドルレバーと、ハンドルレバーの先端部に基部が回動自在に枢支された第1パイプ掴み部材と、第1パイプ掴み部材の先端部に基部がピンにより回動自在に枢支された第2パイプ掴み部材を備え、第2パイプ掴み部材の先端部にはハンドルレバーの先端の押圧部と当接する係止片が設けられていて、前記押圧部と係止片を係合させた状態で第1パイプ掴み部材と第2パイプ掴み部材との間にパイプを挟んで掴むようにしたパイプレンチであって、第1パイプ掴み部材及び第2パイプ掴み部材の内面に凹部を形成し、これらの凹部に、パイプを把持する一対の弾性部材をそれぞれ圧入して対向配置したことを特徴とするパイプレンチとする。
【0009】
また、前記弾性部材がウレタンゴムであることが好ましい。
【0010】
また、前記凹部に前記弾性部材の方向に突出する突起を形成し、前記弾性部材の外周面に形成された窪みに係合させた構成とすることが好ましい。
【0011】
また、第1パイプ掴み部材に形成された凹部の、前記弾性部材の端面と接する面であって前記ピンに近い側の面、及び第2パイプ掴み部材に形成された凹部の、前記弾性部材の端面と接する面であって前記係止片に近い側の面がいずれも、内側がパイプの中心に近づく方向に傾斜している構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、締付け及び緩め時にパイプ表面を傷付けることがないパイプレンチを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図15】本発明のパイプレンチでパイプを掴んで回すときにかかる力についての説明図である。
【
図16】第1パイプ掴み部材、第2パイプ掴み部材及び弾性アタッチメントの対応関係を示した図である。
【
図17】第1パイプ掴み部材の凹部の開口を狭める形状の例を示す正面図である。
【
図18】本発明のパイプレンチでパイプを掴む前の状態を示す断面図である。
【
図19】本発明のパイプレンチでパイプを掴んだ状態を示す断面図である。
【
図20】本発明のパイプレンチで径の小さいパイプを掴んだ状態を示す断面図である。
【
図21】本発明のパイプレンチをパイプに対して空転させるときの状態を示す断面図である。
【
図22】本発明の弾性アタッチメントの曲率半径がパイプの曲率半径より小さい場合に、弾性アタッチメントとパイプの間に生じる隙間を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(全体構造)
以下に本発明を実施するための形態を示す。
図1に示されるように、本発明のパイプレンチは、ハンドルレバー1と、第1パイプ掴み部材2と、第2パイプ掴み部材3とを備え、第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3との間にパイプ7を挟んで掴む構造である。この実施形態ではハンドルレバー1は棒状であるが、板状その他の形状とすることもできる。第1パイプ掴み部材2及び第2パイプ掴み部材3の内面に凹部を形成し、これらの凹部に、パイプを保持する一対の弾性部材をそれぞれ圧入して対向配置している。
【0015】
(第1パイプ掴み部材及び第2パイプ掴み部材)
図1及び2に示されるように、第1パイプ掴み部材2の基部は、丸棒状のハンドルレバー1の先端部において、ピン4aにより回動自在に枢支されており、一方、他端側である第1パイプ掴み部材2の先端部には第2パイプ掴み部材3の基部がピン4bにより回動自在に枢支されている。また、この第2パイプ掴み部材3の先端部にはハンドルレバー1の先端の押圧部11と当接する係止片32が設けられており、ハンドルレバー1の押し下げ動作により押圧部11が係止片32を押し上げて、第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3の間にパイプ7をしっかりと掴む構造となっている。
【0016】
図2に示されるように、第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3の枢支部には、前記第2パイプ掴み部材3が自重で開く方向に回動するのを防止するための圧縮コイルバネ6が装着されている。これにより、ピン4bの軸方向に弾発力が発生して第2パイプ掴み部材3が第1パイプ掴み部材2に対して回動するのを防止する力が加わるため、第2パイプ掴み部材3が自重で自然に開く方向に垂れ下がるのを防止する。この結果、第2パイプ掴み部材3の垂れ下がりがないためパイプレンチをパイプに対して空転させ、パイプレンチを作業しやすい位置に移動しようとした際にハンドルレバー1と第2パイプ掴み部材3が離れても不用意にパイプから外れることを防止できる。
【0017】
図3に示されるように、第1パイプ掴み部材2の前方部の内面には、後述する弾性部材を圧入するための円弧状の凹部21が形成されている。また、
図3乃至5に示されるように、第1パイプ掴み部材2の基部はハンドルレバー1を跨ぐように二股に形成され、ピン4aを挿通するための孔が形成されており、先端部も第2パイプ掴み部材3と連結できるように二股に形成され、ピン4bを挿通するための孔が形成されている。
【0018】
図6乃至8に示されるように、第2パイプ掴み部材3は、基部にピン4bを挿通するための孔が形成されており、中間の内面には、後述する弾性部材を圧入するための円弧状の凹部31が形成されている。また、先端部にはハンドルレバー1の先端の押圧部11と当接する係止片32が設けられている。
図9に示されるように、第2パイプ掴み部材3の係止片32には、ハンドルレバー1の押圧部11を受ける円弧状の凹部32aを形成することもできる。これにより、丸棒状のハンドルレバー1を押圧方向へ操作すると押圧力が常に前記凹部32aの中心に向けて作用し安定した押圧力を付与するため、確実に締付け作業を行うことができ好ましい。また、接触面積が大きいのでハンドルレバー1及び押圧部11の摩耗も低減できる。
【0019】
(凹部及び弾性部材)
第1パイプ掴み部材2の凹部21及び第2パイプ掴み部材3の凹部31には、パイプを把持する弾性部材が圧入されて対向配置されている。
図1に示されるように、実施形態の弾性部材は、内側の円弧曲面5cでパイプ7を把持する弾性アタッチメント5である。実施形態の凹部21、凹部31及び弾性アタッチメント5はパイプ7の形状に沿うようにパイプ7の外周に沿って延びる円弧状である。
【0020】
弾性アタッチメント5の内側の円弧曲面5cの曲率半径は、パイプ7の曲率半径より大きくなるように形成されていることが好ましい。仮に、円弧曲面5cの曲率半径がパイプ7の曲率半径未満であった場合、パイプ7を軽く掴んだ際にパイプ7と円弧曲面5cとの間に
図22に示すような隙間8が生じる。このような隙間8が生じると、パイプ7を軽く掴んだ際と負荷を加えた際とでハンドルレバー1の振り角度が大きく変化することになり、その分の作業スペースを要する。一方、円弧曲面5cの曲率半径がパイプ7の曲率半径より大きければ、パイプ7を軽く掴んだ際にパイプ7と円弧曲面5cとの間に隙間8が生じないので、パイプ7を軽く掴んだ際と負荷を加えた際とでハンドルレバー1の振り角度が大きく変化しない。したがって、ハンドルレバー1の可動範囲を小さくし、狭い作業スペースでも使いやすくなる。それだけでなく、ラチェット操作の操作性も良くなる。仮に、円弧曲面5cの曲率半径がパイプ7の曲率半径より小さい場合、弾性アタッチメント5がパイプ7を挟み込んでパイプ7に引っ付いてしまい、ラチェット操作時にパイプを手で押さえておかないとパイプ7が継手に対して供回りしやすくなったり、第1パイプ掴み部材2から弾性アタッチメント5が外れてしまうおそれが生じたりする。円弧曲面5cの曲率半径をパイプ7の曲率半径より大きくすることで上記の問題の発生を抑制できる。
【0021】
本発明のパイプレンチでパイプ7を掴むと、前記したように押圧部11が係止片32を押し上げ、てこの原理により弾性アタッチメント5を取り付けた第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3とがパイプ7を挟み込んで固定する。パイプ7の外周面に接触するのは柔らかい弾性アタッチメント5なので、パイプ7の表面が傷付くことを防ぐことができる。
【0022】
なお、弾性アタッチメント5は、凹部21及び凹部31に圧入されて保持されるので、ピンや金具等による固定は必ずしも必要ない。そのため、弾性アタッチメント5を取付ける際は人手で圧入することが可能で工具を使う必要がない。取り外すときも、例えばマイナスドライバを弾性アタッチメント5と凹部21または凹部31との間に差し入れることで、容易に取り外すことができる。
図5及び7に示されるように、実施形態の凹部21の天井面21cの端部にはドライバ差し込み孔23が、凹部31の天井面31cの端部にはドライバ差し込み孔33が形成されている。弾性アタッチメント5と凹部21または凹部31との隙間に差し入れたマイナスドライバの先端をドライバ差し込み孔23またはドライバ差し込み孔33に差し、マイナスドライバの持ち手側を弾性アタッチメント5と反対側に傾けることで弾性アタッチメント5を取り外すことができる。したがって、消耗品である弾性アタッチメント5が摩耗した際の交換を容易に行うことができる。
【0023】
また、
図3及び6に示されるように、凹部21及び凹部31に、弾性アタッチメント5の方向に突出する突起21d、31dを形成することが好ましい。実施形態では、第1パイプ掴み部材2の天井面21cに略半円筒形の突起21dが2つ、第2パイプ掴み部材3の天井面31cに略半円筒形の突起31dが2つ設けられているが、突起の形状及び個数はこの限りではない。さらに、
図10乃至12に示されるように、弾性アタッチメント5の外側の円弧曲面5dに、突起21dまたは31dに係合する窪み5eを設けることが好ましい。段落[0024]で詳述するように、本発明のパイプレンチでパイプ7を掴んで回す際には、弾性アタッチメント5の端面のうち被圧端面5a側に強い負荷がかかる。被圧端面5a側に負荷がかかると、反対側の端面5bは、それまで当接していた凹部21の当接面21bまたは凹部31の当接面31bから離れる方向に変形しようとする。負荷が加わった際に弾性アタッチメント5が凹部21または凹部31から離れてしまうと、弾性アタッチメント5が凹部21または凹部31より脱落するおそれがある。突起21d、31d及び窪み5eを設けて係合させることで、押圧によって生じる弾性アタッチメント5の圧縮応力を分散し、弾性アタッチメント5の変形を抑制することができるため、弾性アタッチメント5の脱落を防止することができる。
【0024】
突起21d、31d及び窪み5eを設けて弾性アタッチメント5の変形を抑制することのさらなる効果として、大きなトルクを加えても滑らずに安定してパイプ7を回すことができることが挙げられる。前記したように、本発明のパイプレンチはピン4bにより第1パイプ掴み部材2及び第2パイプ掴み部材3が軸支されており、第1パイプ掴み部材2に取り付けられたハンドルレバーで第2パイプ掴み部材3の先端部の係止片32を押し上げることで、弾性アタッチメント5を取り付けた第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3とでパイプ7を挟み込む構造となっている。よって、第1パイプ掴み部材2と係止片32とが接触してしまうと、それ以上は第2パイプ掴み部材3が押し上がらずパイプ7を挟み込む力は働かなくなる。すると、パイプ7を回そうとしても、挟み込む力が回そうとする力に対して十分でなくなるため滑ってしまう場合がある。突起21d、31d及び窪み5eがない形状の弾性アタッチメント5は変形が大きくなるため、突起21d、31d及び窪み5eがある場合と比べて小さなトルクで第1パイプ掴み部材2と係止片32とが接触してしまう。本発明者の実験では、突起21d、31d及び窪み5eを設けた弾性アタッチメント5を使用した場合、それらがない弾性アタッチメント5を用いた場合と比較しておよそ4割程度滑りにくくなるという結果が得られた。
【0025】
ここで、本発明のパイプレンチでパイプ7を挟み込む際に弾性アタッチメント5にかかる負荷の加わり方について説明する。
図15に示されるように、本発明のパイプレンチでパイプ7を掴んで回す場合、パイプ7と弾性アタッチメント5が固定と考えると、第1パイプ掴み部材2及び第2パイプ掴み部材3は時計回りの方向に回転するため弾性アタッチメント5には力81及び力82が加わる。
図15及び
図16に示されるように、第1パイプ掴み部材2が時計回りに回ろうとすると、凹部21の内面のうちピン4bに近い方の押圧面21aが弾性アタッチメント5の被圧端面5aを押圧する。また、第2パイプ掴み部材3も時計回りに回ろうとすると、凹部31の係止片32に近い方の押圧面31aが弾性アタッチメント5の被圧端面5aを押圧する。前記押圧による負荷がかかった弾性アタッチメント5は被圧端面5a側が圧縮される。すなわち、
図16において、凹部21の押圧面21a及び凹部31の押圧面31aが弾性アタッチメント5を圧縮する面であり、当接面21b及び当接面31bが、弾性アタッチメント5から離れようとする面である。
【0026】
このとき、
図15及び
図16に示されるように、押圧面21aが、掴まれたパイプ7の中心側に向かって下り傾斜していることが好ましい。同様に、押圧面31aが、掴まれたパイプ7の中心側に向かって上り傾斜していることが好ましい。また、弾性アタッチメント5の被圧端面5aも押圧面21aまたは押圧面31aの傾きに合わせて傾斜させることが好ましい。押圧面21a、押圧面31a及び被圧端面5aにこのような傾斜を設けることで、締結部品を用いなくても弾性アタッチメント5が脱落しにくくなり、柔らかいゴム製の弾性アタッチメント5であっても第1パイプ掴み部材2から外れることなくトルクを伝えることができる。
【0027】
また、弾性アタッチメント5の脱落を防ぐための凹部21及び凹部31の形状としては、前記した押圧面21a及び押圧面31aを傾斜させる形状に限定されない。例えば、
図17に示されるように、凹部21及び凹部31の開口部の両端に、弾性アタッチメント5の飛び出しを抑制する突起を設けた形状とすることもできる。
【0028】
なお、当接面21b及び当接面31bについては、必ずしも上記したような傾斜を設けなくてもよい。本発明のパイプレンチがパイプ7を掴んで回す際、弾性アタッチメント5の被圧端面5aの反対側の端面5bには押圧の負荷がかからないため、当接面21bまたは当接面31bは、端面5bから離れる方向に移動するからである。
【0029】
また、弾性アタッチメント5の長手方向の長さが、凹部21または凹部31の長手方向の長さより僅かに長いことが好ましい。弾性アタッチメント5を凹部21または凹部31よりも若干大きいサイズとすることで、弾性アタッチメント5が凹部21または凹部31にきつめに圧入されて外れにくくなり作業性がよくなる。
【0030】
本発明のパイプレンチには大きな負荷が加わるため、弾性部材である弾性アタッチメント5には強度や耐摩耗性が求められる。実施形態の弾性アタッチメント5は、ウレタンゴムで形成されている。本発明者が実験し研究した結果、例えばアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)を用いた場合、実際にパイプを挟んで回動させた場合の耐久性に乏しく、10回程度の使用で劣化してしまい、頻繁に交換せざるを得ないものであった。また、本発明のパイプレンチは水回りでも使用するので、弾性アタッチメント5には耐水性が求められる。本発明のパイプレンチはエーテル系ウレタンゴムで形成されている。エステル系ウレタンゴムだと加水分解による劣化が起こりやすいが、エーテル系ウレタンゴムであれば加水分解が起こりづらく、水濡れによる劣化を防止することができる。
【0031】
(使用方法)
次に、以上のように構成したパイプレンチの使用方法について説明する。
図18は、本発明のパイプレンチでパイプ7を掴む前の状態を示す断面図である。ハンドルレバー1をピン4aを中心にして反時計方向に回動させるとともに、第2パイプ掴み部材3をピン4bを中心にして時計方向に回動させ、第2パイプ掴み部材3の先端部とハンドルレバー1の先端部の間に隙間を形成して、パイプ7を弾性アタッチメント5の内側の円弧曲面5c、5c間に導入できるように準備する。
【0032】
パイプ7を装着後は、
図19に示されるように、第2パイプ掴み部材3をピン4bを中心にして反時計方向に回動させて、パイプ7を弾性アタッチメント5の内側の円弧曲面5c、5c間に挟む。次に、ハンドルレバー1の先端にある押圧部11を第2パイプ掴み部材3の先端にある係止片32に係合した後、ハンドルレバー1を時計方向に僅かに回動させて、パイプ7を弾性アタッチメント5の内側の円弧曲面5c、5c間に固定する。
【0033】
パイプ7をパイプレンチで挟んで固定し、押圧部11を係止片32に係合させる方向にハンドルレバー1を回動させると、ハンドルレバー1の回動で生じた押圧力により、弾性アタッチメント5が変形してパイプ7の外周面に密着し、パイプを掴んで回すことができる。なお、弾性アタッチメント5は弾性を有しており加わる力に応じて変形するので、前記円弧曲面5c、5cの曲率半径がパイプ7の曲率半径とある程度異なっていてもパイプ7を掴んで回動させることができる。したがって、1本のパイプレンチで幅広い径のパイプ7に対応することができる。例えば、
図20に示されるように径の小さいパイプ7でも、係止片32が第1パイプ掴み部材2に干渉しない範囲であれば掴んで回すことができる。
【0034】
なお、パイプレンチを空転させて戻し、再び締め付けるラチェット操作を行うときは、
図19に示す状態でパイプ7を締め付けまたは緩める方向にハンドルレバー1を回動させた後、
図21に示されるように係止片32から押圧部11を離間させる方向に僅かにハンドルレバー1を動かす。係止片32から押圧部11が離れると、第1パイプ掴み部材2と第2パイプ掴み部材3との距離が開いてパイプ7を掴む力が緩み、パイプレンチをパイプ7に対して空転させることが可能になる。このような構造とすることで、連続的にパイプの締め付けまたは緩め作業を行うことができる。
【0035】
パイプレンチをパイプ7から取り外す場合は、ハンドルレバー1の押圧をやめた後、押圧部11と係止片32の係合を解き、第2パイプ掴み部材3を時計回りに回動させて先端部を開口させ、パイプ7から簡単に取り外すことができる。
【0036】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 ハンドルレバー
11 押圧部
2 第1パイプ掴み部材
21 凹部
21a 押圧面
21b 当接面
21c 天井面
21d 突起
23 ドライバ差し込み孔
3 第2パイプ掴み部材
31 凹部
31a 押圧面
31b 当接面
31c 天井面
31d 突起
32 係止片
32a 凹部
33 ドライバ差し込み孔
4a・4b ピン
5 弾性アタッチメント
5a 被圧端面
5b 端面
5c 内側の円弧曲面
5d 外側の円弧曲面
5e 窪み
6 圧縮コイルバネ
7 パイプ
8 隙間