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特開2022-98579炭酸カルシウムの製造方法ならびにその結晶成長方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098579
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法ならびにその結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20220627BHJP
   C30B 29/10 20060101ALI20220627BHJP
   C30B 7/00 20060101ALI20220627BHJP
   C09C 1/62 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C01F11/18 H
C30B29/10
C30B7/00
C09C1/62
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212035
(22)【出願日】2020-12-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 雄己
【テーマコード(参考)】
4G076
4G077
4J037
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB09
4G076AC04
4G076BA24
4G076BB03
4G076BB06
4G076BC07
4G076BD01
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA22
4G076DA02
4G076DA15
4G077AA01
4G077BD10
4G077CB02
4G077CB10
4G077EA10
4G077EJ10
4G077HA20
4J037AA10
4J037DD05
4J037DD07
4J037EE28
4J037EE46
4J037EE47
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大きさの制御された炭酸カルシウムを製造する方法、及び大きさの制御された炭酸カルシウムを製造するために、結晶を成長させる方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;を含む、炭酸カルシウムの製造方法とする。
【選択図】図2-a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または高圧下で酸性物質を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウム。
【請求項6】
以下の工程:
炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;
を含む、炭酸カルシウムの結晶成長方法。
【請求項7】
大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または高圧下で酸性物質を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法ならびに炭酸カルシウムの結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、各種工業製品の基材や填料として用いられるほか農業や食品の分野でも広く利用されている。炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムの水溶液に二酸化炭素を吹き込むことや、塩化カルシウム等の可溶性カルシウム塩水溶液と炭酸ナトリウム等の可溶性炭酸塩水溶液を混合させることで製造される。一方、石灰石(CaCO3)を焼成し脱炭酸して得られた生石灰(CaO)を水と反応させて石灰乳(CaOH2の水懸濁液)を得、石灰乳に焼成時に得られた二酸化炭素を導入して、液中で炭酸カルシウムを製造する白石法が広く知られている。
【0003】
炭酸カルシウムは、主に無機充填材として、紙、ゴム、シーリング材料、プラスチック等に適用されている。炭酸カルシウムは、たとえば、紙に充填することで、紙の白色度や不透明度を向上させたり、ゴムに添加することで、ゴムの力学的強度や耐摩耗性を改善したりすることができる。また炭酸カルシウムをシーリング材料に添加することで、シーリング材料の粘度やチキソ性を調整することができ、炭酸カルシウムをプラスチックに添加すると、プラスチックの力学的強度の向上や熱特性の調整を行うことができる。このように、炭酸カルシウムの各種用途に応じた所望の粒子径や結晶形を有するものを作り分ける試みが多数行われている。炭酸カルシウムには、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、バテライト結晶等の構造多形が存在するが、これらを作り分ける方法も提案されている。たとえば、特許文献1は、アラゴナイト型炭酸カルシウムを製造する方法を提案する。また特許文献2には、石膏と、シード、鉱酸又はその両方とを含む混合物と少なくとも1つの炭酸塩源とを反応させて、バテライト多形から変換することなく直接カルサイト及び/又はアラゴナイトの形態で沈降炭酸カルシウムを作製することを含む、石膏を沈降炭酸カルシウムへと変換するプロセスが開示されている。一方、特許文献3には、バイオマス発電所の籾殻灰と排煙を利用してナノサイズ二酸化ケイ素とナノサイズ炭酸カルシウムを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-203581号公報
【特許文献2】特表2018-510108号公報
【特許文献3】特表2017-500270号公報
【非特許文献1】The Royal Society of Chemistry CrystEngComm, 2020, 22,pp9-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸カルシウムの製造方法として従来から知られている、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込む方法は、大気圧下での二酸化炭素の溶解量に限界があり、したがって生成する結晶の大きさにも自ずと限界があった。また特許文献1、2および3にも、粒子径や結晶形の異なる炭酸カルシウムを製造する方法が種々提案されている。しかしながら、これらの従来技術でも、サイズの大きい炭酸カルシウムを効率よく得ることや、所望のサイズの炭酸カルシウムを得ることには困難があった。一方非特許文献1では、炭酸カルシウム水分散液に大気圧下で二酸化炭素を添加し、次いでこれを加熱して炭酸カルシウムの結晶成長を促す方法が提案されており、非特許文献1の方法により、比較的サイズの揃った炭酸カルシウム粒子に成長させることができるようになった。しかしながら、この方法においても、二酸化炭素の溶解量に限界があり、生成できる結晶の大きさに限界があることは、先に説明した水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込む方法と同様に問題であった。
【0006】
そこで本発明は、大きさの制御された炭酸カルシウムを製造する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、大きさの制御された炭酸カルシウムを製造するために、結晶を成長させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の工程:炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法にかかる。
【0008】
さらに、本発明は、上記の製造方法により製造された、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムにかかる。
【0009】
本発明は、以下の工程:炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;
を含む、炭酸カルシウムの結晶成長方法にかかる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、比較的サイズの大きい炭酸カルシウムを効率的に製造する新規の方法ならびに新規の結晶成長方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-a】図1-aは、本発明の製造方法の、原料の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率40000倍)である。
図1-b】図1-bは、本発明の製造方法の、原料の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20万倍)である。
図2-a】図2-aは、実施例1-1で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率40000倍)である。
図2-b】図2-bは、実施例1-1で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20万倍)である。
図3図3は、実施例2-2で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。
図4図4は、実施例3で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率20000倍)である。
図5図5は、実施例4で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
本発明の一の実施形態は、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、炭酸カルシウムの製造方法にかかる。本実施形態の概略は、原料となる炭酸カルシウム水分散体から結晶を成長させることにより、所望の形状や平均粒子径を有する炭酸カルシウムを得る方法、すなわちオストワルド熟成に関連した製造方法である。
【0014】
本実施形態において、原料として使用する炭酸カルシウム水分散体に分散している炭酸カルシウム、ならびに、製造される炭酸カルシウムとは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態で原料として使用する炭酸カルシウム水分散体に分散している炭酸カルシウムは、それらのいずれであっても良い。また炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものを使用しても良いが、カルサイト結晶の炭酸カルシウムを使用することが好ましい。炭酸カルシウムの粒子径(電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径)は、いかなるのでも良いが、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは30~100nmのものを使用することができる。また、炭酸カルシウムのBET比表面積(日本工業規格JIS Z 8830)はいかなるものでも良いが、本実施形態により所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを製造するためには、2~50m2/g程度のBET比表面積を有する炭酸カルシウムが水に分散した炭酸カルシウム味を用いるのが好適である。
【0015】
実施形態において、まず、炭酸カルシウムが水に分散した、炭酸カルシウム水分散体を用意する。本明細書で炭酸カルシウム水分散体とは、炭酸カルシウムが水に懸濁または分散したスラリーのことである。炭酸カルシウム水分散体を得るには、炭酸カルシウムと水とを混合し、撹拌機による撹拌や超音波を利用した撹拌など、従来から行われている方法を適宜行うことができる。また、従来から知られている白石法により製造した炭酸カルシウム水分散体をそのまま用いることもできる。炭酸カルシウム水分散体を用意した後、この炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる。本実施形態では、たとえば、大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または高圧下で酸性物質を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。このような方法により、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させることが好ましい。
【0016】
炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質として、炭酸水、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性物質は、単独で用いても任意の2種以上を用いても良い。炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質は、気体、液体、固体のいずれの形状のものでも良いが、液体または固体の状態の酸性物質を添加することが特に好ましい。なお、炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質として、気体状の二酸化炭素は除かれる。大気圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、これらの酸性物質を添加し、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。
【0017】
一方、炭酸カルシウム水分散体に高圧下で添加する酸性物質として、二酸化炭素、炭酸水、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性物質は、単独で用いても任意の2種以上を用いても良い。炭酸カルシウム水分散体に高圧下で添加する酸性物質は、気体、液体、固体のいずれの形状のものでも良い。なお、炭酸カルシウム水分散体に高圧下で酸性物質を添加する場合は、気体状の二酸化炭素を用いることもできる。ここで、高圧とは、大気圧を超える圧力のことであり、具体的には1気圧を超え10気圧未満、好ましくは2~4気圧程度の圧力を指すものとする。このような高圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、これらの酸性物質を添加し、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。
【0018】
大気圧下または高圧下でこれらの酸性物質が水に溶解して炭酸カルシウム水分散体が酸性側に傾くことにより、炭酸カルシウムが溶解する。すなわち、炭酸カルシウム水分散体中に含まれている比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムの少なくとも一部は水に溶解する。一方、比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムは、少なくともその周囲部が溶解して、粒子径が若干減少した炭酸カルシウムとなる。なお、この工程で、炭酸カルシウムのすべてが溶解してしまわないように、炭酸カルシウム水分散体のpHを調整することが非常に好ましい。
【0019】
ついで、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を静置する、炭酸カルシウム水分散体を撹拌する、炭酸カルシウム水分散体を減圧する、炭酸カルシウム水分散体を昇温する、および炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加する等の方法を採り得る。先の工程で添加した酸性物質が二酸化炭素のような気体の場合は、炭酸カルシウム水分散体を静置しているだけでも徐々に酸性物質が水から蒸発していくため、炭酸カルシウム水分散体のpHは上昇する。このような場合であっても、炭酸カルシウム水分散体のpHをより効率的に上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、塩基性物質を添加したりするのが良い。一方、炭酸カルシウム水分散体に添加した酸性物質が液体または固体の場合は、pHの上昇を促進すべく、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加するのが好ましい。炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら、減圧、昇温、塩基性物質の添加等の他の方法を追加で行うことが非常に好ましい。なお炭酸カルシウム水分散体を昇温させる場合、室温(25℃)よりは高い温度、具体的には約50℃、好ましくは約70℃、さらに好ましくは約100℃になるように昇温させるのが好ましい。また炭酸カルシウム水分散体を減圧する場合、大気圧未満、具体的には102~1×105Pa程度の圧力まで減圧することが好ましい。また、炭酸カルシウム水分散体に添加することができる塩基性物質として、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アミン類、ピリジン類等の有機塩基およびこれらの組み合わせを挙げることができる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させると、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水分散体中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。なお、実施形態の製造方法において、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる工程と、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返し、所望のBET比表面積および/または平均粒子径を有する炭酸カルシウムを製造することもできる。
【0020】
本発明の二の実施形態は、上記の一の実施形態で製造される炭酸カルシウムである。本実施形態の炭酸カルシウムは、一の実施形態の製造方法により得られる合成炭酸カルシウムである。上記の通り、炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形を有するが、本実施形態で製造される炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有することが好ましい。カルサイト結晶は、一般に方解石として産出される結晶の形状であり、他の結晶形と比較すると常温常圧で最も安定である。本実施形態で製造される炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有し、BET比表面積は2~50m2/gであることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態で使用する炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~50m2/gであることが好ましく、より好ましくは~45m2/g、さらに好ましくは20~45m2/gである。また、実施形態の炭酸カルシウムは、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmであることが好ましい。粒子径の測定方法にはいくつかの方法が知られているが、本実施形態では、電子顕微鏡を用いて粒子を直接観察および計測し、個数基準による粒子径分布から算出した平均粒子径の値を用いる。実施形態において平均粒子径が30nm~1.0μmであることは、すなわち、ナノオーダーサイズの粒子径の炭酸カルシウム粒子が大部分を占めることを意味する。実施形態の炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは40~500nm、さらに好ましくは50~100nmであってよい。
【0021】
実施形態の炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の粒子を含んでいる場合がある。本明細書において、環状とは、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本明細書において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の炭酸カルシウムには、その一部に、概ね環状の粒子が含んでいても良い。なお、概ね環状の炭酸カルシウムの大きさは、10~150nm程度である。概ね環状の炭酸カルシウムの粒子は、後述する炭酸カルシウムの製造過程に起因して生成する。実施形態の炭酸カルシウムには、概ね環状の粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の粒子が含まれていて良い。また実施形態の炭酸カルシウムには、球状や略直方体状等の形状の粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。
【0022】
実施形態の炭酸カルシウムは、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理しても良い。ここで脂肪酸として、たとえば、酢酸、酪酸等の低級脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。樹脂酸として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸等、樹脂由来の酸を挙げることができる。シリカは、組成式SiO2で表される化合物(二酸化ケイ素)である。また有機ケイ素化合物として、たとえば、一分子内に有機材料に結合する官能基(ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等)と、無機材料と結合する官能基(メトキシ基、エトキシ基等)とがケイ素原子(Si)を介して結合したシランカップリング剤を挙げることができる。縮合リン酸として、オルトリン酸を加熱脱水して得られた無機高分子化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1つまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の三の実施形態は、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、炭酸カルシウムの結晶成長方法にかかる。本実施形態の概略は、原料となる炭酸カルシウム水分散体から結晶を成長させることにより、所望の形状や平均粒子径を有する炭酸カルシウムを得る方法、すなわちオストワルド熟成に関連した結晶成長方法である。
【0024】
本実施形態において、原料として使用する炭酸カルシウム水分散体に分散している炭酸カルシウム、ならびに、得られる炭酸カルシウムとは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態で原料として使用する炭酸カルシウムは、それらのいずれであっても良い。また炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものを使用しても良いが、カルサイト結晶の炭酸カルシウムを使用することが好ましい。炭酸カルシウムの粒子径(電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径)は、いかなるのでも良いが、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは30~100nmのものを使用することができる。また、炭酸カルシウムのBET比表面積(日本工業規格JIS Z 8830)はいかなるものでも良いが、本実施形態により所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを得るためには、2~50m2/g程度のBET比表面積を有する炭酸カルシウムが水に分散した炭酸カルシウム水分散体を用いるのが好適である。
【0025】
実施形態において、まず、炭酸カルシウムが水に分散した、炭酸カルシウム水分散体を用意する。本明細書で炭酸カルシウム水分散体とは、炭酸カルシウムが水に懸濁または分散したスラリーのことである。炭酸カルシウム水分散体を得るには、炭酸カルシウムと水とを混合し、撹拌機による撹拌や超音波を利用した撹拌など、従来から行われている方法を適宜行うことができる。また、従来から知られている白石法により製造した炭酸カルシウム水分散体をそのまま用いることもできる。炭酸カルシウム水分散体を用意した後、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる。本実施形態では、たとえば、大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または高圧下で酸性物質を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。このような方法により、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させることが好ましい。
【0026】
炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質として、炭酸水、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性物質は、単独で用いても任意の2種以上を用いても良い。炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質は、気体、液体、固体のいずれの形状のものでも良いが、液体または固体の状態の酸性物質を添加することが特に好ましい。なお、炭酸カルシウム水分散体に大気圧下で添加する酸性物質として、気体状の二酸化炭素は除かれる。大気圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、これらの酸性物質を添加し、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。
【0027】
一方、炭酸カルシウム水分散体に高圧下で添加する酸性物質として、二酸化炭素、炭酸水、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性物質は、単独で用いても任意の2種以上を用いても良い。炭酸カルシウム水分散体に高圧下で添加する酸性物質は、気体、液体、固体のいずれの形状のものでも良い。なお、炭酸カルシウム水分散体に高圧下で酸性物質を添加する場合は、気体状の二酸化炭素を用いることもできる。ここで、高圧とは、大気圧を超える圧力のことであり、具体的には1気圧を超え10気圧未満、好ましくは2~4気圧程度の圧力を指すものとする。このような高圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、これらの酸性物質を添加し、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させることができる。
【0028】
大気圧下または高圧下でこれらの酸性物質が水に溶解して炭酸カルシウム水分散体が酸性側に傾くことにより、炭酸カルシウムが溶解する。すなわち、炭酸カルシウム水分散体中に含まれている比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムの少なくとも一部は水に溶解する。一方、比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムは、少なくともその周囲部が溶解して、粒子径が若干減少した炭酸カルシウムとなる。なお、この工程で、炭酸カルシウムのすべてが溶解してしまわないように、炭酸カルシウム水分散体のpHを調整することが好ましい。
【0029】
ついで、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を静置する、炭酸カルシウム水分散体を撹拌する、炭酸カルシウム水分散体を減圧する、炭酸カルシウム水分散体を昇温する、および炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加する等の方法を採り得る。先の工程で添加した酸性物質が二酸化炭素のような気体の場合は、炭酸カルシウム水分散体を静置しているだけでも徐々に酸性物質が水から蒸発していくため、炭酸カルシウム水分散体のpHは上昇する。このような場合であっても、炭酸カルシウム水分散体のpHをより効率的に上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、塩基性物質を添加したりするのが良い。一方、炭酸カルシウム水分散体に添加した酸性物質が液体または固体の場合は、pHの上昇を促進すべく、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加するのが好ましい。炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら、減圧、昇温、塩基性物質の添加等の他の方法を追加で行うことが非常に好ましい。なお炭酸カルシウム水分散体を昇温させる場合、室温(25℃)よりは高い温度、具体的には約50℃、好ましくは約70℃、さらに好ましくは約100℃になるように昇温させるのが好ましい。また炭酸カルシウム水分散体を減圧する場合、大気圧未満、具体的には102~1×105Pa程度の圧力まで減圧することが好ましい。また、炭酸カルシウム水分散体に添加することができる塩基性物質として、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アミン類、ピリジン類等の有機塩基およびこれらの組み合わせを挙げることができる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させると、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水分散体中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。なお、実施形態の結晶成長方法において、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる工程と、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返し、所望のBET比表面積および/または平均粒子径を有する炭酸カルシウムにまで成長させることができる。
【0030】
本実施形態で結晶成長させて得た炭酸カルシウムは、合成炭酸カルシウムである。上記の通り、炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形を有するが、本実施形態で製造される炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有することが好ましい。カルサイト結晶は、一般に方解石として産出される結晶の形状であり、他の結晶形と比較すると常温常圧で最も安定である。本実施形態で得られる炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有し、BET比表面積は2~50m2/gであることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態で得られる炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~50m2/gであることが好ましく、より好ましくは5~45m2/g、さらに好ましくは20~45m2/gである。また、実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムは、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmであることが好ましい。粒子径の測定方法にはいくつかの方法が知られているが、本実施形態では、電子顕微鏡を用いて粒子を直接観察および計測し、個数基準による粒子径分布から算出した平均粒子径の値を用いる。実施形態において平均粒子径が30nm~1.0μmであることは、すなわち、ナノオーダーサイズの粒子径の炭酸カルシウム粒子が大部分を占めることを意味する。実施形態の炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは40~500nm、さらに好ましくは50~100nmであってよい。
【0031】
本実施形態で結晶成長させて得た炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の粒子を含んでいる場合がある。本明細書において、環状とは、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本明細書において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の炭酸カルシウムには、その一部に、概ね環状の粒子が含んでいても良い。なお、概ね環状の炭酸カルシウムの大きさは、10~150nm程度である。概ね環状の炭酸カルシウムの粒子は、後述する炭酸カルシウムの製造過程に起因して生成する。実施形態の炭酸カルシウムには、概ね環状の粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の粒子が含まれていて良い。また実施形態の炭酸カルシウムには、球状や略直方体状等の形状の粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。
【0032】
実施形態で結晶成長させて得た炭酸カルシウムは、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理しても良い。ここで脂肪酸として、たとえば、酢酸、酪酸等の低級脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。樹脂酸として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸等、樹脂由来の酸を挙げることができる。シリカは、組成式SiO2で表される化合物(二酸化ケイ素)である。また有機ケイ素化合物として、たとえば、一分子内に有機材料に結合する官能基(ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等)と、無機材料と結合する官能基(メトキシ基、エトキシ基等)とがケイ素原子(Si)を介して結合したシランカップリング剤を挙げることができる。縮合リン酸として、オルトリン酸を加熱脱水して得られた無機高分子化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1つまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明の一の実施形態で製造された炭酸カルシウム、ならびに二の実施形態の炭酸カルシウムは、樹脂等と混合して樹脂組成物を製造することに用いられる。炭酸カルシウムは、無機フィラーとして従来用いられている硫酸バリウムや酸化チタン等と比較して比重が小さい。このため、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることにより、樹脂組成物を軽量化することができる。樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、各種ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい。ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂およびジエン系樹脂等のエラストマー樹脂は、それぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて用いることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物以外の樹脂を必要に応じて含むこともできる。
【0034】
ポリオレフィン樹脂とは、オレフィン(アルケン)または環状オレフィン単量体を重合させた単独重合体、共重合体、およびこれらの混合物のことである。ポリオレフィン樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1、ポリ1-ヘキセン、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体、ポリアセタールが挙げられる。ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合物からなるポリエステル類およびこれらの混合物である。ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(シクロヘキサン-1,4-ジメチレン-テレフタレート)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。さらに、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリマーや、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物を挙げることができる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものを用いてもよい。ポリアルキレンテレフタレートの混合物としては、たとえば、PBTとPBT以外のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT以外のアルキレンテレフタレートコポリエステルとの混合物が挙げられる。なかでも、PBTとPETとの混合物や、PBTとポリトリメチレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT/ポリアルキレンイソフタレートとの混合物などが好ましい。ジエン系のエラストマー樹脂として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系モノマーを重合して得たゴム材料が挙げられる。またウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のエラストマー樹脂を用いても良い。
【0035】
二の実施形態の炭酸カルシウムを充填材として用いる場合、単独で用いることが最も好ましいが、必要に応じて、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク等の従来から用いられている無機フィラーを混合することもできる。なお、実施形態の炭酸カルシウムを含む樹脂組成物は、通常の添加剤、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料を含有することができる。これらの添加剤の含量は、樹脂組成物の10質量%以下であることが好ましい。
【0036】
上記の通り、一の実施形態で製造される炭酸カルシウム、二の実施形態の炭酸カルシウムならびに三の実施形態で得られる炭酸カルシウムは、その一部に概ね環状の粒子が含まれていても良い。概ね環状の粒子が含まれた炭酸カルシウムを、そのまま用いることができるほか、概ね環状の粒子を選択的に分離することもまた可能である。概ね環状の粒子の分離は、たとえば、篩いにかけて特定の範囲の粒子径の炭酸カルシウム粒子を取り出し、ついで顕微鏡観察により概ね環状の粒子のみを分離することで行うことができる。
【0037】
上記の通り、一の実施形態で製造される炭酸カルシウム、二の実施形態の炭酸カルシウムならびに三の実施形態で得られる炭酸カルシウムは、各種樹脂と混合して樹脂組成物として使用できる。炭酸カルシウムは樹脂の無機フィラーとして使用するほか、紙、塗料、インキ等の填料として使用可能である。さらに食品、化粧品等の充填材としての使用もできる。分離操作を行い得られた概ね環状の炭酸カルシウムは、その特殊な形状を利用して、たとえば、ナノ材料の鋳型、薬剤担体、触媒担体、軽量フィラーとして用いることが期待できる。
【実施例0038】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1:本発明による炭酸カルシウムの製造>
[炭酸カルシウム水分散体の調製]
1リットルのビーカー内にBET比表面積39.1m2/g(日本工業規格JIS Z 8830)、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が38nmの炭酸カルシウムの水分散体(炭酸カルシウム水スラリー、固形分含量10重量%)を10g調製した。
【0040】
[炭酸カルシウム水分散体への炭酸水の添加]
得られた炭酸カルシウム水分散体10gを緩やかに撹拌しながら、大気圧下、室温(25℃)で、炭酸水490gを添加したところ、炭酸カルシウム水分散体のpHが6.2に低下した。
【0041】
[炭酸カルシウム水分散体のpH上昇]
こうして得た炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら、ビーカーを放置した。60分間撹拌を続けたところ、炭酸カルシウム水分散体のpHが7.0に上昇した。
【0042】
[サンプリング試料の処理]
サンプリングした炭酸カルシウム水分散体を直ちにエタノールで洗浄して結晶成長を停止させ、減圧濾過し、真空乾燥させて白色固体の状態の炭酸カルシウムを得た(日本工業規格JIS Z 8830に従い測定したBET比表面積:22.1m2/g、結晶子サイズ:53nm)。得られた炭酸カルシウムをエタノールに分散させ、カーボン補強コロジオン支持膜付き銅グリッドに滴下し、エタノールを乾燥させ、真空乾燥を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)用試料を作製した。試料を電子顕微鏡(装置名:日本電子株式会社 JEM-2100)で観察した(実施例1-1)。
【0043】
実施例1において、炭酸カルシウム水分散体に添加する炭酸水の量を190gとしたこと以外は実施例1を繰り返した(実施例1-2)。BET比表面積30.2m2/g、結晶子サイズ45nmの炭酸カルシウムが得られた。
実施例1において、炭酸カルシウム水分散体に添加する炭酸水の量を40gとしたこと以外は実施例1を繰り返した(実施例1-3)。BET比表面積36.8m2/g、結晶子サイズ40nmの炭酸カルシウムが得られた。
【0044】
図1-aおよび図1-bは、各々原料の炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である。図1-aは倍率40000倍の写真、図1-bは倍率20万倍の写真である。図2-aおよび図2-bは、各々実施例1-1で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である。図2-aは倍率40000倍の写真、図2-bは倍率20万倍の写真である。これらの写真のスケールバーの長さは、それぞれ、200nm(図1-a)、50nm(図1-b)、200nm(図2-a)、50nm(図2-b)を表す。図2-aおよび図2-bに見られる炭酸カルシウムには、70nm程度の菱面体形状の粒子が含まれていることが見て取れる。本発明の製造方法において、一度溶解させた炭酸カルシウムが、結晶の{104}面に沿って成長し、菱面体形状になったものと考えられる。他方、実施例1-2、1-3でも、炭酸カルシウムの結晶成長を促すことができた。炭酸カルシウム水分散体の量と、添加する酸性物質の量とのバランスを考慮することで、所望の大きさや形状を有する粒子を含む炭酸カルシウムを得ることができる。なお、実施例1にて測定した結晶子サイズとは、X線回折法を利用して測定した結晶子サイズである。X線回折法により測定した結晶子サイズの値は、少なくとも100nm程度の大きさまでは、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径の値とほぼ同じになることが知られている。
【0045】
<実施例2:サイズの異なる原料炭酸カルシウムからの結晶成長>
上記の実施例1-1において、炭酸カルシウム水分散体に用いる炭酸カルシウムのBET比表面積を18.4m2/g(実施例2-1)、15.3m2/g(実施例2-2)、および10.9m2/g(実施例2-3)(すべて日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定)としたこと以外は実施例1-1を繰り返した。炭酸カルシウムの結晶成長を実施例1-1と同様に停止させ、減圧濾過し、真空乾燥させて白色固体の状態の炭酸カルシウムを得た。これらの炭酸カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、10.8m2/g、8.3m2/g、および7.5m2/gであった。実施例2-1、2-2、2-3で得られた炭酸カルシウムの結晶には、いずれも菱面体形状の粒子が見られた。代表例として、実施例2-2で得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真を図3に示す(倍率:20000倍、スケールバーの長さ:500nm)。
【0046】
<実施例3:pH低下とpH上昇とを繰り返し行う炭酸カルシウムの結晶成長>
BET比表面積15.3m2/gの炭酸カルシウムを原料とし、実施例2-2を行って得られた炭酸カルシウム(BET比表面積8.3m2/g)を、再度実施例1-1と同様に水に分散させ、炭酸カルシウム水分散体を得た。この炭酸カルシウム水分散体10gに実施例1-1と同様に炭酸水490gを添加した。ついで炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら結晶を成長させた。このように、炭酸カルシウム水分散体のpH低下とpH上昇とを交互に2回ずつ繰り返すことによりBET比表面積6.1m2/gの炭酸カルシウムを得た(実施例3)。図3は、実施例2-2により得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である(倍率:20000倍)。一方、図4は、実施例3により得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である(倍率:20000倍)。これらの写真のスケールバーは、ともに500nmを表す。炭酸カルシウム水分散体のpH低下および炭酸カルシウム水分散体のpH上昇を繰り返して炭酸カルシウムの結晶成長を促し、菱面体形状の大きな結晶を得ることができた。
【0047】
<実施例4:希塩酸添加によるpH低下>
上記の実施例1-1において、炭酸水490gの代わりに希塩酸(濃度:1mol/L)3mLを添加したこと以外は実施例1-1を繰り返した。実施例4により得られた炭酸カルシウムのBET比表面積を日本工業規格JIS Z 8830にしたがい測定したところ、21.3m2/gであった。図5は、実施例4により得られた炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率:80000倍)である。この写真のスケールバーの長さは100nmを表す。実施例4で得られた炭酸カルシウムには100nm程度の大きさの概ね環状の結晶が含まれていた。
図1-a】
図1-b】
図2-a】
図2-b】
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2021-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または1気圧を超え10気圧未満の圧力下で酸性物質を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;
を含む、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
以下の工程:
大気圧下で二酸化炭素を除く酸性物質を添加すること、または1気圧を超え10気圧未満の圧力下で酸性物質を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;
を含む、炭酸カルシウムの結晶成長方法。
【請求項5】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項に記載の方法。
【請求項6】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下5.5以上に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項4または5に記載の方法。