(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009864
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】神経培養システム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20220106BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220106BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12Q1/06
G01N33/50 Z
G01N33/48 M
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179119
(22)【出願日】2021-11-02
(62)【分割の表示】P 2018513734の分割
【原出願日】2016-05-25
(31)【優先権主張番号】14/724,365
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517415528
【氏名又は名称】アクソジェン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ダイスター、カート
(72)【発明者】
【氏名】タジダラン、カスラ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045BA13
2G045BB20
2G045BB24
2G045BB25
2G045CB01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS33
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】抹消神経系を刺激するニューロンを用いた抹消神経生成をインビトロで模倣するバイオアッセイのための技術とシステムを提供する。
【解決手段】本開示に係る神経移植片のバイオアッセイを実施する方法は、ニューロン(例えば、DRG)を神経移植片セグメントに付着させ、試験構築物を形成し、試験構築物を培地で培養し、試験構築物を分析して、突起成長神経組織の量を分析し、分析から導出される測定基準から神経移植の有効性を判断することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロンまたはニューロンの群を、神経移植片セグメントの第1の端部に付着させて、試験構築物を形成し、
前記ニューロンが前記神経移植片セグメントへと神経が突起成長する期間にわたって、前記試験構築物を培地で培養し、
突起成長神経組織の量が示されるように、前記試験構築物の分析をし、
前記分析から導出される測定基準から前記神経移植片の有効性を判断する
ことを含む、
神経移植片のバイオアッセイを実施する方法。
【請求項2】
前記試験構築物の分析工程は、
細切用の前記試験構築物を準備し、
所定の距離で長手方向に、垂直側面から第1の端部へと採取されるように、前記試験構築物を複数の細片にそれぞれ細切し、
各細片を1種類以上の染料で染色して、突起成長神経組織を前記ニューロンから識別し、
前記神経移植片セグメントの前記第1の端部から最長の突起成長神経組織の端部までの距離を求める
ことを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細切用の前記試験構築物の準備工程が、前記試験構築物を固定し、前記試験構築物をパラフィン包埋することを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種類以上の染料の1つが、βIII-チューブリン、PGP9.5およびS100抗体からなる群から選択される、
請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記試験構築物の分析工程が、
拡散テンソル画像により、前記試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長神経組織を識別するトラクトグラフィー画像を生成し、
前記突起成長神経組織の量を前記トラクトグラフィー画像により定量化する
ことを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ニューロンが、後根神経節(DRG)外植片である、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試験構築物の分析工程が、前記突起成長神経組織に関連する標的タンパク質の量を求めて評価することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記標的タンパク質が、βIII-チューブリン、S100およびGAP-43からなる群から選択される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記突起成長神経組織が、神経突起またはシュワン細胞である、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ニューロンを前記神経移植片セグメントに付着させる前に、前記神経移植片セグメントを不動態化することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記培養期間が、約3~約7日間である、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ニューロンの前記神経移植片セグメントへの付着工程が、前記ニューロンを、コラーゲンゲルにより前記神経移植片セグメントに固定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記神経移植片セグメントが、無細胞の処理済み神経同種移植から採取される、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
研究プロトコルに従って神経移植片セグメントを処理し、
ニューロンを神経移植片セグメントの第1の端部に付着させ、試験構築物を形成し、
前記ニューロンが前記神経移植片セグメントへ神経突起成長する期間にわたって、媒地で前記試験構築物を培養し、
突起成長神経組織の量が示されるように、前記試験構築物の分析を実施し、
前記分析から導出された1つ以上の分析測定基準を、前記研究プロトコルによる処理がされていない神経移植片セグメントから求められた1つ以上の対照測定基準と比較することにより、前記研究プロトコルの影響を判断する、ことを含む、
条件が神経突起成長に与える影響を試験する方法。
【請求項15】
前記研究プロトコルが、
試験化合物を含む溶液に、前記神経移植片セグメントを浸漬する、
前記神経移植片セグメントに放射線または熱を与える、
前記神経移植片セグメントに突起成長抑制剤を与える、
前記神経移植片セグメントのミクロ構造またはマクロ構造に機械的に修飾する、
前記神経移植片セグメントに突起成長促進剤を与える、
前記神経移植片セグメントに電場を与える、および
前記神経移植片セグメントに幹細胞もしくはシュワン細胞を播種する、
の1つ以上を含む、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記突起成長抑制剤が、
タンパク質を分解する薬剤、
前記神経移植片セグメントの前記ミクロ構造またはマクロ構造を破壊する薬剤、
前記神経移植片セグメントの前記化学構造に修飾する材料、および
機能性ブロック抗体
からなる群から選択される、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試験構築物の分析が、
拡散テンソル画像により、前記試験構築物の全てまたは一部を解析し、前記突起成長神経組織を識別するトラクトグラフィー画像を生成し、
前記突起成長神経組織の量が、前記トラクトグラフィー画像により定量化される
ことを含む、
請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ニューロンが、DRGである、
請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記突起成長神経組織が、神経突起またはシュワン細胞である、
請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記神経移植片セグメントが、無細胞の処理済み神経同種移植から採取される、
請求項14に記載の方法。
【請求項21】
請求項14に記載の前記神経移植片セグメントと前記培地とを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、神経培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
外傷により、末梢神経は損傷したり切断されることが多い。神経の外科的修復には、微小ギャップに対しては直接的な神経修復、大き目のギャップに対しては神経移植片の使用が含まれる。傷の部位に近い軸索セグメントは、新しい軸索芽を再生することができるが、傷の部位から遠位の軸索セグメントは、ワーラー変性することが多い。ワーラー変性により、非機能遠位軸索やミエリン鞘等の神経要素が破壊され排除される。軸索およびミエリンのデブリには、神経再生を縮小する増殖抑制の効果があると考えられている。神経要素の排除によって、遠位神経セグメントにおける軸索伸長が改善される、ということが実証されている。
【0003】
神経移植片、例えば、神経線維束と同様の構造および構成を有する無細胞移植片は、新たな軸索セグメントが増殖し得る足場を与えることによって、軸索再生を支援し得る。神経移植片は、増殖する軸索セグメントを支え、管理し、無細胞移植の場合には、軸索やミエリンのデブリのない経路を与える。
【0004】
後根神経節(DRG)は、抹消神経系の感覚ニューロンのための感覚ニューロン細胞体を含む解剖学的構造である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抹消神経系を刺激するニューロンを用いた抹消神経生成をインビトロで模倣するバイオアッセイのための技術とシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施形態において、本技術は、抹消神経生成を促進または支持する神経移植片(例えば、処理済み、無細胞ヒト同種移植)の生理活性または有効性を検出するのを支援する。バイオアッセイは、例えば、一般に、神経移植片の生理活性を確立したり、神経移植片の生成、保管またはその他処理の1つ以上の態様を確認したり認証するために用いられる。
【0007】
特定の実施形態において、本発明の方法は、試験構築物を形成するためにニューロンを神経移植片セグメントに固定し、構築物、試験構築物を培地中で培養し、構築物、突起成長神経組織の量を評価するために試験構築物を分析し、分析から導出される測定基準から神経移植の有効性を判断することを含む。
【0008】
特定の実施形態において、ニューロンは、例えば、後根神経節(DRG)や脊髄のセグメント等の一組の採取されたニューロンである。他の実施形態において、ニューロンは、例えば、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSCs)等の幹細胞から誘導されたニューロンとすることができる。hiPSCsの場合、アッセイを用いて、個々の細胞が、例えば、異なる薬剤等の異なる因子にどのように応答するか評価することができる。ニューロンは、抹消標的(例えば、抹消神経ニューロン)を刺激するものであるのが好ましい。ニューロンは、例えば、感覚ニューロンまたは運動ニューロンであってよい。
【0009】
一実施形態において、分析は、組織学的処理(例えば、固定、細切、スライドへの取り付け、培養神経移植片セグメントの染色)の後、最長突起成長神経組織の長さを求めるためにスライドの画像分析により実施される。
【0010】
他の実施形態において、分析は、拡散テンソル画像により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長神経組織を識別するトラクトグラフィー画像を生成することにより実施することができる。突起成長神経組織の量を、例えば、画像にある1つ以上の抹消神経の長さを測定することにより定量化することができる。
【0011】
他の実施形態において、DRGは、ニューロン細胞中で蛍光体を発現する蛍光性のトランスジェニック動物から得られる。分析は、蛍光顕微鏡検査により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長抹消神経組織を識別する画像を生成することにより実施される。突起成長神経組織の量を、例えば、画像にある1つ以上の抹消神経の長さを測定することにより定量化することができる。
【0012】
ある実施形態において、分析には、突起成長神経組織に関連するタンパク質またはタンパク質のためのmRNAの量の定量測定が含まれる。例えば、シュワン細胞または神経突起は、その存在を示すβIII-チューブリン等の標的タンパク質により識別される。試験構築物においてタンパク質(またはこれらのタンパク質に関連するmRNA)を溶解することにより、アッセイで、構築物中のタンパク質(または関連mRNA)の量を求めることができる。この量は、神経細胞の量に相関している。例えば、ELISAまたはrtPCRアッセイを用いて、関連標的タンパク質またはmRNAの量を求めることができる。
【0013】
ある実施形態において、変化する試験条件の神経成長への影響を試験するのに用いる技術および材料がある。本明細書に記載した技術および材料により、ベースライン生理活性による安定した一連のバイオアッセイ条件が得られる。これにより、他の安定したバイオアッセイ条件を変えることなく、試験する研究プロトコルの一部として条件を加えたり変更することができる。
【0014】
他の実施形態において、神経成長に与える異なる試験条件の影響を試験するための特定の材料を含むキットが提供される。
概念の選択を簡潔に述べてきたが、詳細については後述する。発明の概要は、発明の主題の主要な特徴または不可欠な特徴を特定したり、発明の主題の範囲を限定しようとするものでない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明のバイオアッセイにより実施できる特定のステップを説明する例示のプロセスフローを示す。
【
図1B】組織の組織学的処理および染色、その後の画像分析を含む実施形態の例示の方法フローを示す。
【
図1C】拡散テンソル画像を用いた変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
【
図1D】蛍光顕微鏡を用いた変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
【
図1E】突起成長神経組織に関連する標的タンパク質のmRNAの検出を用いる変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
【
図1F】突起成長神経組織に関連する標的タンパク質の検出を用いる変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
【
図2】試験構築物の免疫組織化学分析を含む実験で用いられる特定の材料および関連する方法の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
抹消神経系を刺激する感覚ニューロンを用いた抹消神経生成をインビトロで模倣するDRGをベースとしたバイオアッセイについて開示された技術およびシステムが開示されている。
【0017】
「バイオアッセイ」には、試験する材料および/または方法の生物活性および/または波及効果を評価するための、生動物もしくは植物(インビボ)または組織あるいは細胞(インビトロ)の使用が含まれる。バイオアッセイは、通常、物質または方法論による生体への影響を測るために実施される。
【0018】
本発明のある実施形態において、本技術は、抹消神経再生を促進または支持する神経移植片の生理活性または有効性を検出するのを支援する。バイオアッセイは、例えば、一般に、神経移植片の生理活性を確立したり、神経移植片の生成、保管またはその他処理の1つ以上の態様を確認したり認証するために用いられる。例えば、バイオアッセイを用いて、生成、処理または保管パラメータの変更後に、神経移植片の生理活性を再認証する。バイオアッセイはまた、神経移植片の生成プロセス中、周期的な品質管理尺度として用いてもよい。
【0019】
ある実施形態において、本技術は、ニューロンを、試験構築物を形成するために神経移植片セグメントに固定して構築物、試験構築物を培地中で培養し、突起成長する抹消神経組織の量を評価するために試験構築物を分析して、分析から導出される測定基準から神経移植片の有効性を判断することを含む。
【0020】
特定の実施形態において、ニューロンは、例えば、後根神経節(DRG)または脊髄のセグメントのような一組の採取されたニューロンである。他の実施形態において、ニューロンは、例えば、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSCs)等の幹細胞から誘導されたニューロンである。hiPSCsの場合には、アッセイを用いて、個々の細胞が、例えば、異なる薬剤等の異なる因子にどのように応答するか評価することができる。ニューロンは、抹消の標的(例えば、抹消神経ニューロン)を刺激するものであるのが好ましい。ニューロンは、例えば、感覚ニューロンまたは運動ニューロンであってよい。
【0021】
試験構築物の分析はいくつかのやり方で実施することができる。一実施形態において、分析は、組織学的処理(例えば、培養神経移植片セグメントの固定、細切、スライドへの取り付け、染色)の後、最長の突起成長神経組織の長さを求めるためのスライドの画像分析により実施される。
【0022】
他の実施形態において、分析は、拡散テンソル画像形成により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長する神経組織(突起成長神経組織)を識別するトラクトグラフィー画像を生成することにより実施することができる。突起成長神経組織の量は、例えば、画像にある1つ以上の抹消神経の長さを測定することにより定量化することができる。
【0023】
他の実施形態において、DRGは、ニューロン細胞中の蛍光体を発現する蛍光トランスジェニック動物から得られる。分析は、蛍光顕微鏡検査により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長抹消神経組織を識別する画像を生成することにより実施される。突起成長神経組織の量は、例えば、画像にある1つ以上の抹消神経の長さを測定することにより定量化することができる。最長の突起成長神経組織の長さも定量化することができる。
【0024】
ある実施形態において、分析には、突起成長神経組織に関連するタンパク質またはタンパク質のためのmRNAの量の定量測定が含まれる。例えば、シュワン細胞または神経突起は、その存在を示すβIII-チューブリン等の標的タンパク質により識別される。試験構築物においてタンパク質(またはこれらのタンパク質に関連するmRNA)を溶解することにより、アッセイで、構築物中のタンパク質(または関連mRNA)の量を求めることができる。この量は、神経組織の量に相関している。例えば、ELISAまたはrtPCRアッセイを用いて、関連標的タンパク質またはmRNAの量を求めることができる。
【0025】
ある実施形態において、神経移植片は、欠陥全体の再生を支持するために、抹消神経断絶の外科的修復を担う処理済みの神経同種移植片(ヒト)である。処理済みの神経同種移植片の一例を挙げると、AxoGenのAvance(登録商標)神経移植片である。神経同種移植片は、外科医にとって、例えば、外傷により損傷したり、手術の最中に除去された抹消神経を修復するための入手容易な神経移植片となるものである。
【0026】
処理済みのヒト神経同種移植を脱細胞処理すると、軸索再生を導く自然構成経路を有する外科的インプラントとなる。かかる神経移植片は、様々な長さおよび直径のものが入手可能であり、二次手術部位に関連する合併症がなく、自家移植神経片と同様に機能する。神経同種移植の脱細胞処理により、大半の軸索およびミエリンのデプリが除去されて、神経が、再増殖する妨げのない経路を持つようになる。処理によってまた、受容体における有害免疫応答を生じさせる恐れのある材料や分子も除去される。
【0027】
特定の実施形態において、神経移植片は、例えば、自家移植(患者の体の他の部分から採った神経)、同系移植(一卵性双生児から採った神経)または異種移植(他の種から採った神経)であってよい。
【0028】
場合によっては、陽性対照を用いると、神経移植片から独立したニューロン生存率を実証することができる。陰性対照を用いると、分析方法の適切さを実証することができる。場合によっては、不動態化技術を用いると、神経移植片を抑制剤で処理する際に、試料において、減少した突起成長活性を示す。不動態化試料の減少した突起成長活性のレベルを用いて、神経再生における因子として神経移植片の生理活性を評価することができる。
【0029】
ある実施形態において、本技術および材料を用いて、抹消神経の突起成長および再生に与える異なる試験条件の影響を試験することができる。本明細書に記載した技術および材料により、ベースラインの生理活性を備えた安定した一連のバイオアッセイ条件をつくることができる。これによって、他のバイオアッセイ条件を変えることなく、試験する研究プロトコルの一部としての条件を追加または変更することができる。研究プロトコル有りおよび無しの実験結果の分析を行って、研究プロトコルの抹消神経突起成長に与える影響について評価する。
【0030】
場合によっては、ニューロンを神経移植片セグメントの末端に付着させる前に、神経移植片セグメントを研究プロトコルに従って処理してもよい。研究プロトコルは、調査または実験対象の試験条件または試験物質を定義するものである。研究プロトコルは、例えば、突起成長抑制または突起成長促進の潜在性、あるいは研究プロトコルの神経突起成長に与える影響を判断するために選択することができる。
【0031】
例えば、研究プロトコルには、神経成長を刺激する化合物(または化合物の混合物)を含む溶液に浸漬することにより神経移植片セグメントを与えることが含まれる。放出系有りまたは無しで、突起成長を潜在的に促進する薬剤としては、神経栄養因子、FK506、EPOおよびステロイドもしくは非ステロイド抗炎症剤が例示される。
【0032】
研究プロトコルにはまた、神経突起成長を抑制することが予測される化合物(または化合物の混合物)を含む溶液に神経移植片セグメントを浸漬することにより与えることも含まれる。例えば、患者が晒される環境因子の影響を判断したり、試験プロトコルにおいて制限測定を実行するために、かかる物質は研究される。潜在的な抑制剤としては、プロテアーゼ等の、タンパク質を分解する薬剤、アルデヒド等の移植組織の化学構造を修飾する材料、またはインテグリン等の、神経細胞と移植組織の間の界面の分子もしくは、界面移植組織に影響する機能性ブロック抗体が例示される。
【0033】
研究プロトコルの他の例としては、神経移植片セグメントに放射線を放射する、神経移植片セグメントに幹細胞もしくはシュワン細胞を播種する、または再生構築物(例えば、神経移植片もしくは試験構築物全体)を電界に晒すことが挙げられる。研究プロトコルから誘導された結果を、研究プロトコルから誘導されなかった結果と比べることにより(例えば、対照条件または参照測定)、研究プロトコルの有効生理活性を分析することができる。
【0034】
他の実施形態において、異なる試験条件が、神経突起成長に与える影響を試験するための特定の材料を含むキットが提供される。キットは、ニューロンが配置される神経移植片セグメントを含む。キットについてユーザーは、ニューロンを与えることができ、場合によっては、ニューロンをキットの一部として与えてもよい。キットはまた、神経移植片セグメントを培養する標準培地を含んでいてもよい。キットはまた、実施形態によっては、神経組織を識別するための1つ以上の染料、タンパク質若しくはmRNAアッセイキットまたはコンポーネントを含んでいてもよい。キットはさらに、提供された材料の中で試験条件または研究プロトコルを実施し、上述した技術を用いる詳細な指示書を含んでいてよい。
【0035】
図1Aは、本発明のバイオアッセイに従って実施できる特定のステップを記載した例示のプロセスフローを示す。後根神経節(DRG)を神経移植片セグメントの第1の端部に付着(affix)させる(100)。神経移植片セグメントは、大きめの神経移植片から切断される。場合によっては、例えば、神経移植片全体を分析するときは、神経移植片セグメントを連続的に除去、識別または追跡して、特定の神経移植片の特定のセグメントを試験してよい。
【0036】
場合によっては、神経移植片セグメントは、無細胞であってよい。例えば、同種の動物(ここでは、典型的に、ヒト)の死体から神経セグメントを除去し、様々な技術を用いて、それらを処理または処置して、ミエリンおよび軸索のデプリを除去することにより、無細胞神経同種移植が得られる。処理された無細胞神経同種移植は、主に、新たな神経突起および関連のヘルパー構造(例えば、シュワン細胞)の突起成長をサポートし、誘導する生来の神経内膜管の足場である。
【0037】
DRGは、出生直後の子ラットから得られる(方法と材料参照)。場合によっては、DRGは、神経根(および同じく、軸索の大半)およびその他構造から得られ、主に、神経突起なしの細胞体(およびシュワン細胞等の関連支持細胞)を与える。
【0038】
ある実施形態において、ニューロンの神経移植片セグメントの端部への付着は、一滴のコラーゲンIゲルを用いて行われ、ニューロンは、神経移植片の端部に接合されて、培地から離れないようにする。ニューロンを神経移植片セグメントの端部へ付着させる他の方法は、当業者に認識されている。
【0039】
場合によっては、おおよそ断面の径となるように、神経移植片セグメントを選択してもよい。好ましいサイズは、ニューロンの直径の約2倍、すなわち、1ミリメートルである。好ましいサイズだと、神経突起を配置し、移動する空間が得られるが、サイズが大きくないと、断面のかなりの量で神経組織の成長が観察されない。
【0040】
ある実施形態において、セグメントの生理活性を抑制するために、神経移植片セグメントを、例えば、不動態化薬剤を含む溶液にセグメントを浸漬することにより、不動態化技術によって処理してもよい。神経移植片の生理活性は、例えば、神経内膜管の内側層のラミニンに影響する不動態化剤を用いることにより、抑制される。不動態化試料対非不動態化試料のニューロン突起成長の結果は、分析され、神経移植片セグメントの神経再生プロセスへの寄与を測る補助する。
【0041】
試験構築物または試料は、ニューロンを付加した神経移植片セグメントで形成される。神経突起がニューロンから神経移植片セグメントへ突起成長するのに妥当な期間にわたって、試験構築物を培地培地で培養する(110)。
【0042】
一般に、この種の培養は「器官型培養」と呼ばれ、接合培養のサブタイプである。インビトロで細胞を成長させるには、接着と懸濁の2つの基本的な機構がある。接着培養においては、細胞は、コラーゲンやラミニン等の細胞外マトリックスでコートされた、組織培養プラスチックまたはマイクロキャリアなどの人工基質で単層として成長し、接着力が増大し、成長と分化がなされる。懸濁培養においては、細胞は、培地中に浮遊している。大半の脊椎動物細胞は、接着培養を用いた培養が最適である。器官型培養によって、細胞は、二次元でなく三次元で成長し得る。このように、器官型培養は、多くの場合、生組織における真の成長条件を良好に模倣するものである。というのは、成長条件が、生体条件に生化学的かつ生理学的に、より似ているからである。
【0043】
場合によっては、培地は、全試料について「標準」培地、例えば、ビタミン、アミノ酸、神経成長因子、および抗菌抗真菌剤を含む培地である。他の場合において、培地は、1種類以上の神経突起成長を促進するまたは抑制する、物質または薬剤を含んでよい。例えば、神経移植片のあるセグメントは、標準培地に入れ、同じ神経移植片からの他のセグメントは、研究対象の他の物質を含む標準培地に入れて、抑制または成長の誘導効果を判断する。研究中培養試料における標準培養試料および薬剤に起因する結果を比べて、研究中薬剤の神経再生への影響を分析する。
【0044】
試験構築物を培養する期間は、神経突起の再生が測定可能となる妥当な期間である。これは、例えば、約3~約7日間である。培養条件およびその他パラメータに応じて、例えば、培地中または細胞片に適用された「研究中薬剤」の影響を評価するのに、より長い、あるいはより短い期間が必要なときには、異なる長さの期間を用いて構わない。
【0045】
試験構築物の分析が実施され、突起成長神経組織の量を示す(120)。試験構築物の分析は、いくつかのやり方で実施することができる。場合によっては、例えば、分析により、神経移植片セグメントへの1つ以上の突起成長神経組織の長さを定量化する。
【0046】
場合によっては、分析によって、関連タンパク質の量の測定により、神経組織の量を定量することができる。試験構築物を分析する態様についての実施形態を、
図1B~1Fを参照して以下に説明する。
【0047】
神経移植片の有効性を、分析から導出される測定基準を用いて判断する(190)。場合によっては、測定基準(例えば、距離や量)を、ベースラインや、複数の試料から導出された参照測定基準と比較してもよい。場合によっては、ベースラインや参照測定基準により、特定の条件下(制御条件、参照条件、不動態化条件等)で、神経移植片の有効性を定量化できる。特定の条件と異なる条件下での、神経移植片の有効性の比較を行って、異なる条件が、神経移植片の生理活性に与える影響または意味を判断することができる。
【0048】
複数のバイオアッセイからの多数の測定基準を、実験目的で統計的に分析してもよい。例えば、数多くの試料を用いた多くのバイオアッセイを行って、信頼閾値に適合する結果の有効な統計分析を行うことができる。かかる実験技術および統計分析は、当業者に知られている。
【0049】
上記のとおり、試験構築物の分析はいくつかのやり方で実施することができる。一実施形態において、分析は、組織学的処理(例えば、固定、細切、スライドへの取り付け、培養神経移植片セグメントの染色)がされた後、最長突起成長神経組織の長さを求めるためにスライドの画像分析を実施することができる。
図1Bは、組織学的処理および組織の染色、その後の画像分析を含む実施形態の例示の方法フローを示す。
【0050】
培養期間後、試験構築物を培地から取り出し、組織学的処理のために準備する(131)。試験構築物の準備には、試験構築物の「固定」が含まれる。固定は、組織形態を保存し、標的分子の抗原性を保持するプロセスである。固定によって、組織の化学組成が変わり、組織構造の保存かエピトープの保存かで妥協が必要となることが多い。固定不足だと、組織中の標的タンパク質が分解し、固定過剰だと、エピトープのマスキングや、試料を染色したときに、非特異的バックグラウンド染色となる恐れがある。固定の方法やタイミングは、試料作製におけるファクターである。
【0051】
ある実施形態において、試験構築物は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋がされて、細切が可能となる。パラフィン包埋組織のある固定剤は、中性緩衝ホルマリン(NBF)である。これは、緩衝液中4%パラホルムアルデヒドと保存剤(メタノール)であり、ホルムアルデヒドがギ酸に変換されるのを防ぐ。パラフィン包埋は、組織試料または試験構築物を、熱により軟化させたパラフィンブロックに配置し、試験構築物を溶融パラフィンでカバーし、パラフィンを硬化させることによりなされる。包埋されると、試料は、顕微鏡検査用の薄切片へ細切される。
【0052】
細片および組織を調べるための試料を作製する他の方法は、低温切片である。低温細切のために作製された試料は、型で急速冷凍されて、NBF等のアルデヒドの代わりにアセトン等の沈殿固定剤をはじめとする様々な物質を用いて固定される。NBFを用いた固定、パラフィン包埋、および低温切片は、当業者に知られた技術である。
【0053】
作製した試験構築物を、染色用にいくつかの細片に長手方向に細切する(132)。各片はある厚さを有しており、ある高さ、または深さで試料から採取される。長手方向細切は、ニューロン-神経移植片の試験構築物で行われる。すなわち、切片は、ニューロンが配置された端部から略垂直な線に沿った、ある深さで除去される。
図2の符号291は長手方向セグメントの向きを示す点線である。この細切技術によって、ニューロンから成長した、ある長さの1つ以上の神経突起を含む試験構築物から切片が作製される。
【0054】
細片は、いくつかの高さで、すなわち、垂直面から、ニューロンが配置された第1の端部までの距離で採取される。様々な高さを選択して、神経移植片細片の断面全体へと神経突起成長する代表的な試料が得られる。例えば、ある場合には、細片は、試料の200(高さ1)、400(高さ2)、600(高さ3)および800(高さ4)ミクロンの深さで除去される。
【0055】
細片の厚さは、光学顕微鏡に適したものである。ある実施形態において、細片の厚さは、約4μm~約8μmである。試験構築物の細切は、ミクロトームを用いたパラフィン包埋試料で実施してもよい。
【0056】
除去された細片を、スライドに置き、1種類以上の染料で染色して、ニューロンから神経移植片セグメントへ突起成長または再成長する神経組織を識別することができる(133)。神経組織は、例えば、神経突起、およびミエリンを生成するシュワン細胞を含むことができる。いくつかの染色方法、例えば、βIII-チューブリン抗体染色、PGP9.5抗体染色およびS100抗体染色を用いて、神経組織を識別することができる。
【0057】
βIII-チューブリン抗体染色
βIII-チューブリン抗体染色のある種類は、TU-20である。TU-20は、ヒト由来のβIII-チューブリンのアミノ酸441-448に対するマウスモノクローナルIgG1である。
【0058】
PGP9.5抗体染色
タンパク質遺伝子生成物(PGP9.5)は、ニューロン特異的エノラーゼとは、構造的および免疫学的に異なるニューロン特異的タンパク質である。標準的な免疫組織化学によれば、他の体細胞と同様に、多くの神経内分泌細胞における、中枢および抹消神経系のあらゆるレベルで、ニューロンおよび神経繊維でPGP9.5の存在が示された。この抗体は、ニューロンのマーカーとして価値のあるものである。
【0059】
S100抗体染色
S100タンパク質は、脊椎動物に存在する低分子量タンパク質の系列であり、ヘリクス-ループ-ヘリクス配座を有する2つのカルシウム結合部位という特徴を持つ。S100タンパク質は、通常、神経堤から誘導される細胞、例えば、シュワン細胞およびメラノサイトに存在する。S100抗体染色は、通常のヒトシュワン細胞の存在を示すものである。
【0060】
なお、実験因子が、染料の選択に影響する。例えば、パラフィン包埋は、低温切片にはある技術的な利点があるものの、染色応答に影響し得る。パラフィン包埋で用いる物質(例えば、アルコール、アルデヒド)は、特定のタンパク質の構造を変性したり、特定のタンパク質の構造に影響を与えたり、ある種類の抗体染色において反応応答を示す。低温切片は、染色に異なる影響を与えるので、染料の選択が変わる。
【0061】
次に、神経移植片セグメントの第1の端部(すなわち、ニューロンが配置された端部)から最長の突起成長神経組織までの距離を測定する(134)。場合によっては、特定の試験構築物から採取された長手方向細片全部を1枚のスライドが含み、最長の突起成長神経組織を識別することを補助する。さらに、スライドの画像形成等追加の標準技術を用いて、標準画像処理ソフトウェアが距離を求める補助をすることもできる。突起成長神経組織の最長成長の位置を求めるために、評価者は、画像を注意深く検査する。
【0062】
場合によっては、2つ以上の最長の突起成長神経組織を、特定の試験構築物について測定してもよい。例えば、特定の試験構築物について長手方向細片の全てにわたって存在する3つの最長組織が識別され、平均化される。平均化したものが、その試料の測定距離として記録される。
【0063】
2種類以上の神経組織の距離測定が記録される。例えば、神経突起とシュワン細胞の両方を染色する場合は、神経突起、シュワン細胞のどちらかまたは両方の最長の突起成長を測定し記録する。
【0064】
図1Cは、拡散テンソル画像形成を用いた変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
図1Cに示す実施形態において、拡散テンソル画像形成で試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長神経組織を識別することにより分析を行う(141)。
【0065】
トラクトグラフィーによる拡散テンソル画像形成(DTI)は、MRIの一種であり、長手方向に配向した神経繊維を有する神経経路における水の拡散の異方性を測定することにより、神経通路を視認する助けとなる。水は、神経管の長手方向軸に沿って自由に拡散するが、垂直面のミエリン鞘により制限される。拡散の方向性は、様々な方向から拡散強調一次微分を適用することにより決めることができ、これによって、拡散テンソルをモデル化できる。異方性比率マップをテンソルから計算し、ボクセルの最大拡散性の方向をモデル化することによりトラクトグラフィー画像を生成することができる。これらトラクトグラフィー画像を用いて、神経突起成長の可視描画が可能となる。
【0066】
突起成長する神経突起の可視描画が得られたら、例えば、画像の1つ以上の神経組織の長さを測定することにより、突起成長神経組織の量を定量する(142)。場合によっては、最長突起成長神経組織を測定する。場合によっては、ある試験構築物について2つ以上の最長突起成長神経組織を測定する。例えば、特定の試験構築物について、長手方向細片の全てに存在する3つの最長組織を識別し平均化し、平均をその試料の測定距離として記録する。神経突起成長の集合長さや、神経突起毎の平均長さといったさらなる測定基準も計算することができる。
【0067】
図1Dは、蛍光顕微鏡を用いた変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。
図1Dに示す実施形態において、ニューロン細胞において蛍光体を発現する蛍光トランスジェニック動物からDRGが得られる。
【0068】
蛍光体は、光励起により光を再発光する蛍光化学化合物である。トランスジェニック動物はまた、様々なニューロンサブセットにおいて蛍光体を発現する臨床検査で得られる。神経組織は、ニューロンから神経移植片へ突起成長するため、蛍光体は、軸索等の成長細胞組織に存在する。蛍光顕微鏡で見ると、細胞構造は全長に沿って明るく均一な蛍光である。ニューロン構造を示すのに用いられる蛍光体としては、イエロー蛍光タンパク質(YFP)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)およびシアン蛍光タンパク質(CFP)が例示される。
【0069】
分析は、蛍光顕微鏡で試験構築物の全てまたは一部を解析し、明るい蛍光体により示される、突起成長神経組織を識別する画像を生成することにより、実施される。蛍光顕微鏡の種類として、例えば、共焦点蛍光顕微鏡、2光子蛍光顕微鏡および統計的デコンボリューションによる超解像蛍光顕微鏡が挙げられる。
【0070】
例えば、画像の1つ以上の神経組織の長さを測定することにより、突起成長神経組織の量を定量化することができる(152)。場合によっては、最長の突起成長神経組織を測定することができる。場合によっては、2つ以上の最長の突起成長神経組織を、ある試験構築物について測定してもよい。例えば、特定の試験構築物について長手方向細片の全てを越えて存在する3つの最長組織が識別されて平均化されてもよい。平均化したものが、その試料の測定距離として記録される。神経突起成長の集合長さや、神経突起毎の平均長さおよび/または画像における蛍光画素の量といったさらなる測定基準も計算することができる。
【0071】
図1Eは、突起成長神経組織に関連する標的タンパク質のmRNAの検出を用いる変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。測定されるmRNAは、その測定が神経組織の突起成長と関連するものが選択される。突起成長神経組織に関連する標的タンパク質、例えば、シュワン細胞または神経突起は、例えば、βIII-チューブリン、S100およびGAP-43を含むことができる。
【0072】
図1Eにおいて、標的タンパク質に関連するmRNAは、試験構築物から抽出される(161)。抽出には、アッセイによる後の検出で用いる、試験構築物(ここでは、標的タンパク質についてのmRNA)に存在する分析分子を溶解することが含まれる。アッセイの種類に応じて、様々な種類の溶媒を用いて構わない。rtPCRアッセイを用いる場合は、例えば、プロテアーゼベースまたはフェノールベースの溶媒を用いて、mRNAを溶解する。
【0073】
抽出プロセスからの上澄みを、標準rtPCRアッセイ等のmRNAアッセイに用いる。rtPCRアッセイにおいて、mRNAを増幅、検出および定量する(162)。突起成長神経組織の量に比例する、rtPCRアッセイからのmRNAの量を用いて、神経移植片の有効性を判断することができる。
【0074】
図1Fは、突起成長神経組織に関連する標的タンパク質の検出を用いる変形実施形態の例示のプロセスフローを示す。測定されるタンパク質は、その測定が神経組織の突起成長と関連するものが選択される。突起成長神経組織に関連する標的タンパク質、例えば、シュワン細胞または神経突起は、例えば、βIII-チューブリン、S100およびGAP-43を含むことができる。
【0075】
図1Fにおいて、標的タンパク質が、試験構築物から抽出される(171)。抽出工程には、アッセイによる後の検出に使われる、試験構築物(ここでは、標的タンパク質)に存在する分析分子を溶解することが含まれる。アッセイの種類に応じて、様々な種類の溶媒を用いて構わない。ELISAアッセイを用いる場合は、例えば、尿素ベースまたはグアニジンベースの溶媒を用いて、タンパク質を溶解する。
【0076】
抽出プロセスからの上澄みを、標準ELISAアッセイ等の定量タンパク質アッセイに用いる(172)。突起成長神経組織の量に比例する、ELISAアッセイからのタンパク質の量を用いて、神経移植片の有効性を判断することができる。
【0077】
rtPCRアッセイおよびELISAアッセイを用いた、標的タンパク質または標的タンパク質に関連するmRNAの測定技術は、当業者に知られている。
【実施例0078】
実験:
実験を行って、バイオアッセイ方法の能力を判断して、神経移植片の量を評価し、かつ/または組織標本の作製、染色および細切を含む実施形態における試験条件の影響を評価した。場合によっては、予備実験も行って、あるバイオアッセイパラメータの特性を改善した。例えば、陽性および陰性対照、不動態化技術、培養条件ならびに組織標本作製および染色技術について評価および試験した。本技術の利点を、実験結果により例証する。実験の詳細を後述する。実施例および実験は、本技術を限定するものではない。
【0079】
材料および方法
図2は、試験構築物の免疫組織化学分析を含む実験に用いられる特定の材料および関連の方法の図を示す。
図2に示すとおり、陽性または陰性対照を除く実験の方法フローには、概して、神経移植片を固定させるセグメントへと切断し(200)、各セグメントを標準または不動態化培地で処理し(210)、DRGをセグメントに付着(affix)させて、試験試料を作製し(220)、試料を培地中で培養し(230)、試料を固定、および様々な組織の高さで長手方向に細切し(240)、細片をスライドに置き、1種類以上の染料を適用し(250)、神経組織の突起成長を測定する(260)ことが含まれる。
【0080】
各実験に用いた神経移植片270は、AxoGen(登録商標)のAvance(登録商標)神経移植片であった。神経移植片270を、長さ30~70mmの1つの大きな神経移植片270から約3mmのセグメント(例えば、符号275)へ切断した。第1のセグメント275を、移植端部に最も近いところから採取したが、元の移植片の端部は含まれていなかった。次のセグメントを第1のセグメントに隣接するところから採取し、以降の各セグメントを、前のセグメントに隣接するところから採取した。全てのセグメントを集めた後、安定させてセグメント端部にDRG285を配置して、試料/試験構築物286を作製した。
【0081】
解剖顕微鏡で扱うのに適したサイズであるため生後3~7日の子ラットを、DRG(例えば、285)として用いた。DRGとしての子ラットは、分析に適した、DRG285からの神経突起の高い移動度を可能とする外植片の得られる幼齢である。DRGは、多数のラットから集めてもよいが、各ラットからのDRGは別々にプールしておく。単一プールのDRGは、次のプールを使う前に消費される。実験では、チャールスリバーCD子ラットを用いた。「チャールスリバーCDラット」は、チャールスリバーラボラトリーインターナショナルのクローズドスプラグ-ダウリーコロニーの商品名である。
【0082】
培養
バイオアッセイ信号(すなわち、移動距離/突起成長量)を増やす手段として培養時間および培地290の神経栄養因子内容を変えてみた。培養は、B27、グルタミン、抗生物質/抗真菌薬を補充したニューロバーサル媒地から誘導された化学的に定義された培地290で行った。「標準」培養では、培地290中25ng/mlの神経成長因子(NGF)を用いた。
【0083】
まず、標準培地290中、3日間培養インキュベーション期間および7日間培養インキュベーション期間(3日目に培地を変えた)で試験した。標準培地で培養した試料は、7日目に神経突起/シュワン細胞が神経移植片セグメントへの良好な突起成長を示した。3日間標準培養試料は、培養7日目の試料よりも低い神経突起/シュワン細胞密度を示した。
【0084】
組織標本および染色
培養後、組織標本の細切および染色用の全試料を準備した。全試料をパラフィン包埋し、長手方向に細切した(例えば、291)。予備実験で、厚さ4μmまたは8μmの細片を用いて、パラフィンベースの組織学的処理を行った。細片を、高さ200(高さ1)、400(高さ2)、600(高さ3)および800(高さ4)ミクロンで試料から採取した。
【0085】
細片291をスライド292に固定した。4つの高さの全ての試料を同じスライドに置いてから、各試料を異なるスライドに置いた。試料を、意図する切断面と並行に神経内膜管に包埋し、試料の長手方向の細片を得た。
【0086】
細片を、1種類以上の染料を用いて染色し、神経突起の成長と支持シュワン細胞を識別した。予備実験で、PGP9.5またはβIIIチューブリンを用いて、神経突起を識別し、S100を用いてシュワン細胞を識別した。
【0087】
スライド292を解析して、スライド全体の画像を撮像した。画像295を用いて、DRGに最も近いセグメントの端部から、単一の神経突起の最も遠い先端またはシュワン細胞の位置までの神経突起の長さとシュワン細胞の突起成長を測定した。また、定性的スコアも割り付けて、神経突起およびシュワン細胞の突起成長について記した。
【0088】
対照
陽性対照を用いて、神経移植片セグメントで用いたのと同じ培養条件下であるが、神経移植片は用いない分析で用いたDRGの生存率を実証した。
【0089】
いくつかのサプライヤから入手可能な市販製剤であるエンゲルブレス-ホルム-スワム(EHS)マウス肉腫細胞の細胞外マトリックス(ECM)(例えば、コーニングライフサイエンスのマトリゲル、トレビゲンのカルトレックスBMEまたはシグマのECMゲル)を陽性対照として用いた。この製剤は冷凍すると液体であるが、周囲条件(37℃)ではゲルである。EHS細胞外マトリックスは、基本的に、ラミニン-11とコラーゲンIVに多い溶解した基底膜である。これらの特性が、同じく基底膜層である神経内膜管の組成と同様なものとさせている。ゲルは、インビボまたはインビトロアッセイで用いて、細胞移動をサポートする。
【0090】
用いた第1の陽性対照は、EHS誘導ゲルで充填したポリテトラフルオロエチレン(PTFEまたは「テフロン(登録商標)」)管であった。DRGを、ゲル/PTFE構築物の上部で培養した。予備実験で、第1の陽性対照構築物は、組織学的処理中、よくまとまらなかった。
【0091】
第2の陽性対照には、中に中空管ECM誘導培地デバイス(実験では、AxoGuard(登録商標)神経コネクタを用いた)のあるEHS誘導ゲルとコラーゲンIゲルの混合物を用いた。ゲルは、ECM管によく接合し、培養中、栄養拡散の透過性バリアとなった。混合物中のコラーゲンIは、機械的特性、取扱い性および組織学的処理後の特性を改善した。第2の陽性対照のECM管/EHSコラーゲンIゲル構築物は、PTFE/EHSゲル構築物より良い結果を示した。
【0092】
陰性対照を用いて、非特異的染色(例えば、DRGからの栄養素の移動/突起成長があるせいでない染色)のレベルを示した。各実験で用いた陰性対照は、DRGの配置のない神経移植片セグメントを含んでいて、標準培養条件(例えば、標準培地)で培養された。
【0093】
不動態化
不動態化は、生理活性の減じた神経移植片を作製して、バイオアッセイが、移植片の生理活性を測定することをさらに実証するものである。概して、不動態化により、神経移植片への神経突起/シュワン細胞の突起成長が減じる。実験結果の分析によれば、不動態化試料と不動態化処理していない試料には測定可能な差が示されており、バイオアッセイの妥当性を確認する補助となる。
【0094】
実験で用いたAvance(登録商標)神経移植片は、不溶性固体の足場であるため、典型的な用量反応実験は実施できなかった。変形例として、化学不動態化281を用いて、神経移植片の生理活性を減じた。ホルムアルデヒドによる処理は、タンパク質を非特異的変性し不活性化することが知られており、変性して、生理活性に影響し得る。10%中和緩衝ホルマリン(3~4%ホルムアルデヒド)による短い処理を、Avance(登録商標)神経移植片セグメントを不活性化する方法として試験した。10%中和緩衝ホルマリン中のホルムアルデヒド等のアルデヒドは、多くの生物製剤を化学変性し、概して、生理活性を減じる。
【0095】
不動態化しなかった神経移植片を、標準培地280で処理した。
実験結果
βIII-チューブリンを用いて染色を行って、神経突起成長を示し、S100を用いて、試料中のシュワン細胞の存在と位置を示した。全体として、βIII-チューブリンスライドの染色品質は分析で許容されるものであった。
【0096】
大半の陰性対照は、DRGが誤って配置された試料以外は、予想通りの染色(すなわち、セグメント中に神経突起成長やシュワン細胞があるものについては染色されなかった)を示した。
【0097】
PTFE管に変えて、ECM管をEHSゲルで充填した変形の管材料、ECM管を用いた追加の陽性対照について調べた。ゲルで充填したECM管は、PTFE管より良好に構造を維持し、これは、陽性対照グループにとって望まれたことであった。この陽性対照は効果的であり、DRGの生存率が、ゲルへの移動/突起成長を通して、明確に視認された。
【0098】
化学不動態化の結果によれば、Avance(登録商標)神経移植片の生理活性を減じると予測された変化はまた、バイオアッセイで確認される突起成長も減じることが示された。抗体ベースの阻害よりも特異性は低いが、この方法は単純で、安価な試薬を用い、ロバスト性があり、再現性が高いと考えられる。
【0099】
個々の試料の神経突起伸長およびシュワン細胞突起成長を表1に示す。要約データは表2にある。試料の距離は、試料で観察された3つの最長の突起成長値を平均することにより得られた。各試料についてのこの「最長の3つの」平均は、グループ平均および標準偏差を得るために、グループで平均された。試料は、神経移植片処理タイプにより、標準培地グループと、化学不動態化グループにグループ分けされた。
【0100】
表2に示すとおり、7日目の標準培養条件では、セグメント端部から約2204μmの神経突起成長が示され、これは、セグメントの全長の約73%である。神経突起成長の範囲は、1672.3μm~2870.7μmであった。標準培養条件ではまた、平均で、セグメント端部から約2294μmでシュワン細胞が存在するのが示され、これは、セグメントの全長の約76%である。シュワン細胞の移植片端部からの移植片内への成長範囲は、1253μm~2838μmであった。
【0101】
【0102】
【0103】
不動態化分析-合計データセットを、一因子ANOVAを用いて分析したところ、データ内で大きな差があるのが示された(神経突起とシュワン細胞データの両方についてp<0.001、表2参照)。等分散を仮定するボンフェローニ補正によるT検定によれば、「化学不動態化」グループは、「標準培地」グループと大幅に異なる(神経突起長さ、補正なしP<0.00001、シュワン細胞突起成長、補正なしP<0.00001)ことが示された。
【0104】
さらに、スライド画像の検査中、いくつかの試料は、線維束の内側に最長の神経突起を有し、他は、線維束の外側または表面に沿って最長の神経突起を有していた。最長の神経突起は、神経突起の位置(すなわち、神経内膜の内側または外側)にかかわらずマークしたが、神経内膜の場所(神経内膜の内側または外側)も記録した。各グループについて、束の内側と比べた束の外側の神経突起の割合を分析した。標準培地グループは、13.9%の束の外側の最長神経突起を有していた。化学的に不動態化したグループは、より高い割合の束の外側の最長神経突起であって、80.6%の最長神経突起を有していた。この結果は、化学不動態化によって、所望の成長経路まで成長を阻止して、ラミニンを作用による神経内膜の内側表面の生理活性を効率的に減少させたという分析を支持するものである。
【0105】
まとめると、構築物の組み立ておよび培養に用いる方法は再現可能で、神経突起とシュワン細胞の神経移植片試料への突起成長が観察される。標準培地での7日間の培養は、最長細胞突起の測定と、神経移植片試料へのシュワン細胞の移動の高い信号を与える。組織標本作成および染色方法により、定義されたスコーリング方法論による分析にとって好ましい染色がなされる。βIII-チューブリンとS100染色の両方で、同様の測定結果となった。神経移植片のホルムアルデヒドベースの不動態化は、移植片の生理活性の再現可能な大幅な減衰となる。AxoGuard(登録商標)セグメントにECM/コラーゲンゲルを用いると、許容される陽性対照が生成され、大きなゲル容積が望ましいが、培養したDRGの生存率を実証した。
【0106】
なお、本明細書に記載した実施例および実施形態は、例証のためのみであって、様々な修正または変更が当業者には示唆され、本出願の主旨および範囲に含まれるものとする。
主題は、構造的な特徴および/または作用に特有の言葉で記載されているが、請求項に定義された主題は、上述した特定の特徴または作用を必ずしも限定するものではない。むしろ、上述した特定の特徴および作用は、請求項を実施する例として開示され、請求項の範囲内に含まれるものとする。
特定の実施形態において、ニューロンは、例えば、後根神経節(DRG)や脊髄のセグメント等の一組の採取されたニューロンである。他の実施形態において、ニューロンは、例えば、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSCs)等の幹細胞から誘導されたニューロンとすることができる。hiPSCsの場合、アッセイを用いて、個々の細胞が、例えば、異なる薬剤等の異なる因子にどのように応答するか評価することができる。ニューロンは、末梢標的(例えば、末梢神経ニューロン)を刺激するものであるのが好ましい。ニューロンは、例えば、感覚ニューロンまたは運動ニューロンであってよい。
他の実施形態において、分析は、拡散テンソル画像により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長神経組織を識別するトラクトグラフィー画像を生成することにより実施することができる。突起成長神経組織の量を、例えば、画像にある1つ以上の末梢神経の長さを測定することにより定量化することができる。
他の実施形態において、DRGは、ニューロン細胞中で蛍光体を発現する蛍光性のトランスジェニック動物から得られる。分析は、蛍光顕微鏡検査により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長末梢神経組織を識別する画像を生成することにより実施される。突起成長神経組織の量を、例えば、画像にある1つ以上の末梢神経の長さを測定することにより定量化することができる。
特定の実施形態において、ニューロンは、例えば、後根神経節(DRG)または脊髄のセグメントのような一組の採取されたニューロンである。他の実施形態において、ニューロンは、例えば、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSCs)等の幹細胞から誘導されたニューロンである。hiPSCsの場合には、アッセイを用いて、個々の細胞が、例えば、異なる薬剤等の異なる因子にどのように応答するか評価することができる。ニューロンは、末梢の標的(例えば、末梢神経ニューロン)を刺激するものであるのが好ましい。ニューロンは、例えば、感覚ニューロンまたは運動ニューロンであってよい。
他の実施形態において、分析は、拡散テンソル画像形成により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長する神経組織(突起成長神経組織)を識別するトラクトグラフィー画像を生成することにより実施することができる。突起成長神経組織の量は、例えば、画像にある1つ以上の末梢神経の長さを測定することにより定量化することができる。
他の実施形態において、DRGは、ニューロン細胞中の蛍光体を発現する蛍光トランスジェニック動物から得られる。分析は、蛍光顕微鏡検査により、試験構築物の全てまたは一部を解析し、突起成長末梢神経組織を識別する画像を生成することにより実施される。突起成長神経組織の量は、例えば、画像にある1つ以上の末梢神経の長さを測定することにより定量化することができる。最長の突起成長神経組織の長さも定量化することができる。