(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098646
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】呼吸用保護具
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220627BHJP
A62B 23/02 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212157
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】寺田 庄一
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA05
2E185BA02
2E185CA03
2E185CB07
2E185CB09
2E185CB18
2E185CC16
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】活性炭等の吸着媒体の頻繁な交換を必要とせず、VOC等の有害物質を含む雰囲気下での呼吸の保護を可能とする、呼吸用保護具を提供する。
【解決手段】呼吸用保護具は、着用者の呼吸域を包囲するカバー体と、取り込まれた外気に対して処理を行って処理済気体に変換し、カバー体と着用者の顔面との間に位置する呼吸域に向けて処理済気体を送気する処理ユニットとを備える。処理ユニットは、外気を吸気する吸気口と、吸気口から取り込まれた外気に対してオゾンを供給するオゾン供給部と、オゾンが供給された後の外気である処理済気体を呼吸域に向かって送気する送気口とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸用保護具であって、
着用者の呼吸域を包囲するカバー体と、
取り込まれた外気に対して処理を行って処理済気体に変換し、前記カバー体と前記着用者の顔面の間に位置する前記呼吸域に向けて前記処理済気体を送気する処理ユニットとを備え、
前記処理ユニットは、
前記外気を吸気する吸気口と、
前記吸気口から取り込まれた前記外気に対してオゾンを供給するオゾン供給部と、
オゾンが供給された後の前記外気である前記処理済気体を前記呼吸域に向かって送気する送気口とを備えることを特徴とする呼吸用保護具。
【請求項2】
前記オゾン供給部は、ピーク波長が200nm未満の紫外線を出射する紫外光源を含んで構成されることを特徴とする、請求項1に記載の呼吸用保護具。
【請求項3】
前記処理ユニットは、前記吸気口からの前記外気の吸気量を制御するファンを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の呼吸用保護具。
【請求項4】
前記処理ユニットは、前記紫外光源の点灯状態に応じて、前記吸気口からの前記外気の吸気量を制御可能なファンを備えることを特徴とする、請求項2に記載の呼吸用保護具。
【請求項5】
前記処理ユニットは、前記外気の通流方向に関して、前記オゾン供給部からオゾンが供給される領域よりも下流側の位置に、オゾン分解部材を備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の呼吸用保護具。
【請求項6】
前記処理ユニットは、前記外気の通流方向に関して、前記オゾン分解部材よりも下流側の位置に、前記オゾン分解部材とは異なるエアフィルタを備えることを特徴とする、請求項5に記載の呼吸用保護具。
【請求項7】
前記カバー体は、
前記処理ユニットから送気された前記処理済気体を当該カバー体内に形成された通気路に導入する導入口と、
前記通気路を通流する前記処理済気体を前記呼吸域に送気する通気口と、
前記着用者の呼気を前記カバー体の外側に排気するための排気口とを備えることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の呼吸用保護具。
【請求項8】
前記カバー体に設けられた前記導入口と、前記処理ユニットに設けられた前記送気口とを連結する送気管を備え、
前記送気管は、前記処理ユニットの前記吸気口と前記送気口との間の離間距離よりも長いことを特徴とする、請求項7に記載の呼吸用保護具。
【請求項9】
前記処理ユニットを前記着用者に固定するハーネスを備えたことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の呼吸用保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呼吸用保護具に関し、特に、雰囲気にVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)に属する物質が含まれるおそれのある環境下で、着用者の呼吸を保護する目的で用いられる呼吸用保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に有害なおそれのある環境空気中で呼吸保護の目的で着用される器具として、呼吸用保護具が知られている。例えば、下記特許文献1には、粒子状物質のガス吸引を防ぎつつ呼吸を保護する道具として、フィルタ素子が内蔵されたマスクが開示されている。また、特許文献2には、有害な汚染物質を吸着する目的で、活性炭等の吸着媒体が内蔵されたフィルタカートリッジを含むマスクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004-523277号公報
【特許文献2】特表2013-508082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
VOCに属する物質(以下、単に「VOC」と称することがある。)は、人体に対して影響を及ぼすことが知られている。このため、VOCが雰囲気中に含まれる可能性のある環境(以下、「VOC含有環境」と称することがある。)下で作業等を行う作業従事者は、安全な呼吸を確保する観点から呼吸用保護具を着用することが推奨される。
【0005】
上記特許文献1に記載されたマスクの場合、雰囲気中に含まれる粉塵等の微粒子を除去する機能は奏するが、VOCを含む雰囲気はそのまま通過してしまう。したがって、このマスクは、前記VOC含有環境で作業する作業従事者に対して安全性を確保する観点では、十分な効果が得られない。
【0006】
一方、特許文献2に記載されたマスクの場合、前記VOC含有環境下で使用された場合、VOC等の有害物質が活性炭等の吸着媒体に吸着される。このため、有害物質が除去された空気を作業従事者に供給できるため、従事者に対する安全性が確保できる。
【0007】
しかしながら、VOCの中には吸着媒体で吸着されにくい物質が存在する。例えば、炭素数が4以下の分子量が比較的小さい物質や親水性を示す物質は、活性炭等には吸着しづらい。このため、この種の物質が雰囲気中に含まれている場合には、マスクに内蔵された吸着媒体で吸着されず、混在した状態で作業従事者の呼吸用の空気として送られることになる。この結果、作業従事者に対する高い安全性が確保できない可能性がある。
【0008】
また、作業従事者が、活性炭等の吸着媒体を内蔵したマスクを用いて作業を行う場合、使用に伴って吸着媒体に有害物質が吸着されることで、経時的に吸着性能が低下する。このため、高い安全性を確保するためには、頻繁に吸着媒体を交換する必要があり、交換作業が追加的に必要になる。この結果、高い安全性を担保するためには、吸着媒体の交換時期を管理する必要があり、管理や交換作業に伴う作業負担が増大する可能性がある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、活性炭等の吸着媒体の頻繁な交換を必要とせず、VOC等の有害物質を含む雰囲気下での呼吸の保護を可能とする、呼吸用保護具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る呼吸用保護具は、
着用者の呼吸域を包囲するカバー体と、
取り込まれた外気に対して処理を行って処理済気体に変換し、前記カバー体と前記着用者の顔面との間に位置する前記呼吸域に向けて前記処理済気体を送気する処理ユニットとを備え、
前記処理ユニットは、
前記外気を吸気する吸気口と、
前記吸気口から取り込まれた前記外気に対してオゾンを供給するオゾン供給部と、
オゾンが供給された後の前記外気である前記処理済気体を前記呼吸域に向かって送気する送気口とを備えることを特徴とする。
【0011】
本明細書において、VOCとは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称であり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、アセトン、イソプロピルアルコール、エチレンオキサイド等を含む物質群の総称である。
【0012】
上記の呼吸用保護具によれば、外気にVOCが含まれている場合であっても、このVOCを含む外気が処理ユニット内に取り込まれた後、この外気に対してオゾン供給部からのオゾンが供給される。オゾンは、反応性が比較的高いため、処理ユニット内において以下の(1)式に従って分解される。なお、下記(1)式内におけるEは、オゾンに加えられるエネルギーを示している。このエネルギーとしては、処理ユニット内に取り込まれて通流する外気の気流が有する運動エネルギーや熱エネルギーが対応する。また、処理ユニット内に紫外光源が内蔵されている場合には、前記エネルギーは、この紫外光源から出射される紫外線の光エネルギーに対応する。
O3 + E → O2 + O ‥‥(1)
【0013】
(1)式で得られた反応性の高い原子状酸素の一部は、外気中の水分と反応して、(2)式に従って更に反応性の高いヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。
O + H2O → 2・OH ‥‥(2)
【0014】
例えば、外気中にVOCの一種であるホルムアルデヒド(HCHO)が含まれていた場合、以下の(3a)~(3c)の反応を経て分解される。
HCHO + ・OH → ・CHO + H2O ‥‥(3a)
・CHO + O2 → CO + ・HO2 ‥‥(3b)
CO + ・OH → CO2 + ・H ‥‥(3c)
【0015】
水素ラジカル(・H)は、下記式(3d)に従ってヒドロペルオキシルラジカル(・HO2)に変換される。ヒドロペルオキシルラジカルは、下記式(3e)に従ってヒドロキシラジカルに変換されて更にVOCの分解反応に利用される他、ヒドロペルオキシルラジカル単独でもVOCの分解反応に利用される。
・H + O2 →・HO2 ‥‥(3d)
・HO2 + O3 →・OH + 2O2 ‥‥(3e)
【0016】
ここでは、VOCの例としてHCHOの場合を挙げて説明したが、処理ユニット内に供給されたオゾンから、反応性の高い酸素原子やヒドロキシラジカルが生成されることで、C-C結合、C-H結合、C-O結合等を含む他のVOC物質に対しても、同様に分解処理を行うことができる。
【0017】
なお、VOCの一種であるエチレンオキサイド(ここでは「C2H4O」と記載する。)は、酸素原子(O)と反応することで、下記(4)式のようにヒドロキシラジカルを生成する。この(4)式は、エチレンオキサイドの分解反応の途中で生じる反応を示している。
C2H4O + O → ・OH + Oxiranyl (C2H3O) ‥‥(4)
【0018】
VOCが雰囲気中に含有されている可能性の高い環境においては、特定のVOC物質のみが雰囲気中に含有されていることは少なく、複数種のVOC物質が雰囲気中に含まれていることが一般的である。このため、上記エチレンオキサイドのように、オゾンが分解されて得られた原子状酸素と反応してヒドロキシラジカルを生成する物質が外気中に含まれることがある。
【0019】
つまり、処理ユニット内にオゾンが供給されることで、このオゾンが外気に含まれるVOC物質に対して反応し、反応性の高いヒドロキシラジカル等のラジカル物質が生成される。そして、このラジカルによって、VOCが二酸化炭素や水といった安全な物質に分解される。
【0020】
従って、上記呼吸用保護具によれば、処理ユニット内で上記の処理が行われて外気に含まれるVOCが分解されてなる処理済気体が、着用者の呼吸域に送気される。この結果、着用者に対して安全な呼吸用空気を供給できる。
【0021】
また、上記呼吸用保護具によれば、VOCに属する有害物質を処理ユニット内で分解する構成であるため、従来のように吸着によって多くの有害物質を除去する必要がない。この結果、高い安全性を確保する目的で吸着媒体を頻繁に交換する必要がなく、作業負担の増大を招くことが抑制される。
【0022】
ところで、光触媒フィルタに対して外光が照射されることでラジカルが生成されることは知られている。しかし、この場合、ラジカルは光触媒フィルタの表層にのみ生成される。ラジカルは、反応性の高さに起因して、その寿命が極めて短い。このため、VOCが含有された外気を光触媒フィルタに通過させても、そのフィルタ表面に短時間にわたって存在するラジカルが外気に接触するのみであるため、VOCの分解能力は極めて低い。このため、VOCが混在した外気に対して、作業者の呼吸用空気として利用できる程度にまでVOC濃度を低下させる目的で光触媒フィルタを利用することは、現実的に困難である。
【0023】
前記オゾン供給部は、ピーク波長が200nm未満の紫外線を出射する紫外光源を含んで構成されるものとして構わない。
【0024】
酸素分子は、200nm未満の紫外域にシューマン・ルンゲ帯(Schumann-Runge Bands)と呼ばれる吸収域を有している。このため、処理ユニット内に取り込まれた外気に含まれる酸素分子に対して、200nm未満の波長の紫外線が照射されると、下記(5)式に従って、原子状酸素に分解される。
O2 + hν(λ) → O + O ‥‥(5)
【0025】
一部の原子状酸素は、外気に含まれる酸素分子と反応してオゾンを生成する。なお、(6)式においてMは第三体を示す(以下同様)。
O + O2 + M → O3 + M ‥‥(6)
【0026】
よって、処理ユニット内に取り込まれた外気に対して紫外光源からの紫外線が照射されることで、オゾンが生成され、このオゾンが外気に対して反応することで、上述したように、VOCを分解することができる。
【0027】
特に、紫外線の波長が180nm未満である場合には、(5)式で生成される原子状酸素のうち、励起状態を示し反応性の極めて高い原子状酸素O(1D)の割合が高まる。このため、上記(2)式に従って生成されるヒドロキシラジカルの量が高められるため、VOCの分解速度を更に速めることができる。このような紫外線を発する紫外光源の例としては、たとえばキセノン(Xe)ガスが封入されたエキシマランプを利用できる。
【0028】
前記処理ユニットは、前記吸気口からの前記外気の吸気量を制御するファンを備えていても構わない。
【0029】
処理ユニット内に取り込まれる外気の流量が時間ごとに大きく変化してしまうと、処理ユニット内における処理ムラが生じるおそれがある。上記のように処理ユニットがファンを備えることで、吸気口から処理ユニットに取り込まれる外気の吸気量をほぼ一定に調整することが可能となるため、呼吸域に対して送気される処理済気体に含まれるVOC濃度を、常時安全な範囲内に抑制できる。
【0030】
なお、前記オゾン供給部が前記紫外光源を含んで構成される場合には、前記処理ユニットが、前記紫外光源の点灯状態に応じて、前記吸気口からの前記外気の吸気量を制御可能なファンを備えるものとしても構わない。
【0031】
仮に、紫外光源に不具合が生じると、処理ユニットに取り込まれた外気に含まれるVOCに対して、当該処理ユニット内で所望の分解性能を奏しない場合が想定される。上記の構成によれば、紫外光源が不点灯となったり、照度が低下した場合などの不具合が生じると、自動的にファンの吸気量を極力低下させるか又は停止させることができるため、有害物質が一定濃度以上含まれる外気(処理済気体)を、着用者の呼吸域に送気させないようにできる。
【0032】
なお、前記のように、紫外光源に不具合が生じた場合には、着用者に対してその旨の警告信号を報知して、着用者に対して現場から直ちに退避させることを促すのが好ましい。具体的な一例として、前記処理ユニットが、警告音を出力する警報出力部を備える構成を採用できる。
【0033】
前記処理ユニットは、前記外気の通流方向に関して、前記オゾン供給部からオゾンが供給される領域よりも下流側の位置に、オゾン分解部材を備えるものとしても構わない。
【0034】
上述したように、本発明に係る呼吸用保護具は、処理ユニット内に導入されるオゾンによって外気に含まれるVOCが分解されてなる処理済気体を、着用者の呼吸域に送気する構成である。このため、処理ユニット内に導入されたオゾンが、処理済気体に含有された状態で着用者の呼吸域に送気される可能性がある。万一、オゾンが高濃度で処理済気体に含有されてしまうと、着用者の人体に影響を及ぼす可能性が考えられる。
【0035】
これに対し、上記の構成によれば、オゾンが供給される領域よりも下流側にオゾン分解部材が配置されているため、外気に含まれるVOC分解に寄与せずに残存した、処理済気体に含有するオゾンを、オゾン分解部材によって分解することができる。これにより、処理ユニットから着用者の呼吸域に送気される処理済気体のオゾン含有濃度を確実に低下でき、着用者の安全性が担保される。
【0036】
オゾン分解部材としては、例えば基材にオゾン分解触媒が担持された構造のものを採用することができる。
【0037】
前記処理ユニットは、前記外気の通流方向に関して、前記オゾン分解部材よりも下流側の位置に、前記オゾン分解部材とは異なるエアフィルタを備えるものとしても構わない。
【0038】
上記の構成によれば、外気に含まれる有害物質のうち、オゾンによって分解されなかった残留物が存在する場合であっても、エアフィルタによって除去することができるため、着用者に対する安全性を更に高めることができる。また、エアフィルタがオゾン分解触媒よりも後段に配置されているため、オゾンによって外気に含まれるVOCが分解処理された後であって、且つ、オゾン分解触媒によってオゾンが分解除去された後の処理済ガスがエアフィルタを通過する。したがって、エアフィルタを通過する前段階で、外気中に含まれる有害物質の量はそもそも低下されているため、エアフィルタの交換頻度は従来よりも大幅に抑制される。
【0039】
前記カバー体は、
前記処理ユニットから送気された前記処理済気体を当該カバー体内に形成された通気路に導入する導入口と、
前記通気路を通流する前記処理済気体を前記呼吸域に送気する通気口と、
前記着用者の呼気を前記カバー体の外側に排気するための排気口とを備えるものとしても構わない。
【0040】
前記排気口は、着用者が呼気を吐き出して呼吸域が高い陽圧状態になった時点で開口状態を示し、着用者が吸気中には閉塞状態を示すような弁(排気弁)構造であっても構わない。
【0041】
前記呼吸用保護具は、前記カバー体に設けられた前記導入口と、前記処理ユニットに設けられた前記送気口とを連結する送気管を備え、
前記送気管は、前記処理ユニットの前記吸気口と前記送気口との間の離間距離よりも長いものとしても構わない。
【0042】
上記構成によれば、着用者によって顔面近傍に装着されるカバー体と、外気に含まれるVOC等の有害物質を分解処理するために設置される処理ユニットとを離間させた状態で配置できる。これにより、着用者の利用ニーズに応じて呼吸用保護具の装着態様を変えることができ、装着時の自由度を上げることができる。
【0043】
更に、上記構成によれば、送気管内にVOCの含有濃度が低下した処理済気体を一定流量確保することができる。このため、仮に処理ユニット側に不具合が生じて、外気中に含まれる有害物質の処理性能が低下した場合であっても、ある程度の時間にわたって、送気管内に存在する処理済気体が着用者の呼吸域に対して送気できるため、直ちに有害物質を多く含む外気が着用者の呼吸域に送気されるリスクが低下する。これにより、不測の事態が生じた場合であっても、着用者の安全性が担保される。
【0044】
なお、送気管の内部に、オゾン分解部材が搭載されていても構わない。例えば、送気管に対してオゾン分解部材を着脱可能に取り付けることができる構成であれば、オゾン分解部材の交換作業が簡素化できる。
【0045】
前記呼吸用保護具は、前記処理ユニットを前記着用者に固定するハーネスを備えるものとしても構わない。
【0046】
上記構成によれば、着用者が作業従事中に移動した場合であっても、処理ユニットが着用者に対して固定されるため、着用者の安全性が確保できる。ハーネスは、背負具、腰ベルト、肩ベルト等の構造を採用することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の呼吸用保護具によれば、活性炭等の吸着媒体の頻繁な交換を必要とすることなく、VOC等の有害物質を含む雰囲気下であっても、着用者に対して呼吸の保護を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の呼吸用保護具の一実施形態を模式的に示す図面である。
【
図2】呼吸用保護具が備えるカバー体の一例を模式的に示す図面である。
【
図3】呼吸用保護具の構成を模式的に示す図面である。
【
図4A】紫外光源としてのエキシマランプの構成例を模式的に示す側面図である。
【
図5】Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプから出射される紫外光のスペクトルと、酸素(O
2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
【
図6】呼吸用保護具が備える処理ユニットを模擬した実験系の構造を模式的に示す図面である。
【
図7】呼吸用保護具の別の構成を模式的に示す図面である。
【
図8】呼吸用保護具の更に別の構成を模式的に示す図面である。
【
図9】呼吸用保護具の更に別の構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明に係る呼吸用保護具の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。また、各図面間においても、寸法比は必ずしも一致していない。
【0050】
図1は、本発明に係る呼吸用保護具の一実施形態を模式的に示す図面である。呼吸用保護具1は、着用者2に取り付けられて利用される。着用者2は、例えば化学工場や、薬品倉庫、医療現場、滅菌工場、廃液処理工場等、有害物質が雰囲気中に含まれる可能性のある環境下で作業に従事する人間が想定されている。
【0051】
呼吸用保護具1は、処理ユニット10とカバー体20とを有する。処理ユニット10は、後述されるように、外気G1を取り込んで、外気G1中に含まれる有害物質を分解処理する装置である。処理ユニット10内で外気G1に対して処理された後の気体(処理済気体G2)は、カバー体20へと送気される。
【0052】
カバー体20は、着用者2の顔又は頭部に取り付けられて、着用者2の鼻や口といった呼吸域21を覆うように構成される。
図1の例では、カバー体20と処理ユニット10とは、送気管30によって連結されている。処理ユニット10は、ハーネス41によって着用者2に固定されている。
図1の例では、処理ユニット10が着用者2の腰付近に固定されている例が図示されているが、固定方法は任意である。他の例として、処理ユニット10が着用者2の背中に背負われる形で固定されていても構わない。
【0053】
図2は、カバー体20の一例を模式的に示す図面である。カバー体20は、送気管30に連結される導入口24と、導入口24から導入された処理済気体G2を通流させる通気路25と、通気路25に設けられた通気口26と、着用者2(
図1参照)の呼気G3を排出するための排気口23とを備える。
【0054】
外気G1中に含まれる有害物質が処理ユニット10で分解された後の気体である、処理済気体G2は、送気管30を経由して、導入口24よりカバー体20内に導入される。この処理済気体G2は、通気路25及び通気口26を介して、着用者2の呼吸域21に送気される。着用者2は、この呼吸域21に送気された、外気G1に対して有害物質が処理された後の空気である処理済気体G2を、呼吸用の吸気として利用できる。着用者2は、処理済気体G2を吸気した後、呼気G3を吐き出すと、この呼気G3が排気口23より外部に排出される。これにより、着用者2に対する安全な呼吸が確保される。
【0055】
図3は、呼吸用保護具1の構成を模式的に示す図面である。
図3に示すように、処理ユニット10は、外気G1を吸気するための吸気口11と、紫外線L1を出射する紫外光源12と、処理済気体G2を送気管30に向けて送気する送気口13を備える。本実施形態において、紫外光源12から紫外線L1が照射される領域(紫外線照射領域)5が、「オゾン供給部」に対応する。
【0056】
図3に示す処理ユニット10は、ファン14を備える。このファン14は、吸気口11から取り込まれる外気G1の流量(吸気量)を制御する。
【0057】
図3に示す処理ユニット10は、外気G1の通流方向に関して、紫外線照射領域5よりも下流側の位置にオゾン分解部材16を備える。このオゾン分解部材16の機能については後述される。
【0058】
吸気口11から処理ユニット10内に取り込まれた外気G1は、紫外線照射領域5を通過する間に、紫外光源12からの紫外線L1が照射される。紫外光源12は、ピーク波長が200nm未満の紫外線L1を出射する。一例として、紫外光源12は、エキシマランプで構成される。
【0059】
図4A及び
図4Bは、紫外光源12の一例としてのエキシマランプの構成例を模式的に示す図面である。
図4Aは、エキシマランプの側面図に対応し、
図4Bは、
図4A内のA1-A1線における断面図に対応する。
【0060】
紫外光源12としてのエキシマランプは、管軸方向d1に沿って延伸する管体43を有する。
図4A及び
図4Bに示す例では、管体43は二重管構造を呈している。より詳細には、
図4Bに示すように、管体43は、円筒形状を呈し外側に位置する外側管43aと、外側管43aの内側において外側管43aと同軸上に配置され外側管43aよりも内径が小さい円筒形状を呈した内側管43bとを有する。いずれの管体43(43a,43b)も、合成石英ガラスなどの誘電体材料で構成される。
【0061】
外側管43aと内側管43bとは、共に管軸方向d1に係る端部において封止されており(不図示)、両者の間には管軸方向d1から見たときに円環形状を呈する発光空間が形成される。この発光空間内には、放電によってエキシマ分子を形成する発光ガス45Gが封入されている。
【0062】
外側管43aの外壁には、一方の電極44aが配設されている。本実施形態では、この電極44aはメッシュ形状又は線形状を呈している。また、内側管43bの内側には、管軸方向d1に沿って延在する棒状の電極44bが挿通されている。電極(44a,44b)は、例えばステンレス、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、ニッケル等の金属材料で構成される。
【0063】
不図示の点灯電源から、給電線を介して電極(44a,44b)の間に例えば1kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されることで、発光ガス45Gに対して管体43を介して前記電圧が印加される。このとき、発光ガス45Gが封入されている放電空間内で放電プラズマが生じ、発光ガス45Gの原子が励起されてエキシマ状態となり、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。
【0064】
発光ガス45Gの材料によって、管体43から発せられる紫外線L1の波長が決定される。発光ガス45Gとして、キセノン(Xe)を含むガスを用いた場合には、このエキシマ発光は、172nm近傍にピーク波長を有する紫外線L1となる。
【0065】
なお、発光ガス45Gとして利用する物質を異ならせることで、紫外線L1の波長を変えることができる。例えば、発光ガス45Gとしては、ArBr(主ピーク波長165nm近傍)、ArCl(主ピーク波長175nm近傍)、ArF(主ピーク波長193nm近傍)などを利用することができる。ここでは、発光ガス45GがXeを含むガスである場合について説明する。
【0066】
上述したように、本実施形態の紫外光源12において、外側管43aの外壁に配設された電極44aはメッシュ形状を呈している。このため、電極44aには隙間が存在し、紫外線L1は、この隙間を通じて外側管43aよりも外側に向かって取り出される。この紫外線L1が、処理ユニット10内を通流する外気G1に対して照射される。
【0067】
図5は、Xeを含む発光ガス45Gが封入されたエキシマランプ(紫外光源12)から出射される紫外線L1のスペクトルと、酸素(O
2)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
図5において、横軸は波長を示し、左縦軸は紫外線L1の光強度の相対値を示し、右縦軸は酸素(O
2)の吸収係数を示す。
【0068】
発光ガス45GとしてXeを含むガスを用いる場合、
図5に示されるように、紫外光源12から出射される紫外線L1は、ピーク波長が172nm近傍であり、およそ155nm以上200nm未満の範囲内に帯域を有する。酸素(O
2)は、光の波長が190nmよりも長くなるに伴い、吸収係数の低下が顕著となり、波長が200nmを超えると吸収係数が極めて低くなる。つまり、200nmよりも長波長の光(例えば波長222nmの光)を酸素に照射しても、酸素をほとんど透過してしまう。
【0069】
外気G1に対して、紫外光源12から出射された200nm未満の波長λの紫外線L1が照射されると、紫外線L1が酸素(O2)に吸収されて、上述した(5)式の反応が進行する。以下において、(5)式を再掲する。
O2 + hν(λ) → O + O ‥‥(5)
【0070】
なお、紫外線L1の波長が200nmよりも長波長である場合には、酸素に対して吸収される光量が極めて少ないため、(5)式の反応がほとんど生じないことになる。
【0071】
(5)式によって生成された原子状酸素(O)は、外気G1中の酸素分子と反応し、上述した(6)式によってオゾン(O3)を生成する。以下において、(6)式を再掲する。
O + O2 + M → O3 + M ‥‥(6)
【0072】
処理ユニット10内において、紫外光源12からの紫外線L1が照射される領域(紫外線照射領域5)を外気G1が通過することで、オゾンが生成される。つまり、本実施形態では、この紫外線照射領域5が「オゾン供給部」に対応する。
【0073】
紫外線照射領域5内を外気G1が通過中に生成されたオゾンに対して、紫外光源12からの紫外線L1が照射されると、上述した(1)式の反応が進行する。以下において、(1)式を再掲する。なお、(1)式におけるEは、本実施形態においては紫外線L1の光エネルギーhν(λ)に対応する。
O3 + E → O2 + O ‥‥(1)
【0074】
(5)式や(1)式の反応によって生成された、反応性の高い原子状酸素は、外気G1中に水蒸気として含まれる水と反応し、上記(2)式に従って更に反応性の高いヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。以下において、(2)式を再掲する。
O + H2O → 2・OH ‥‥(2)
【0075】
このヒドロキシラジカルが外気G1中に含まれるVOCに作用することで、VOCが分解される。この結果、吸気口11から取り込まれた外気G1は、紫外線照射領域5を通過した後に、VOC濃度が低下した処理済気体G2に変化する。
【0076】
図6は、処理ユニット10を模擬した実験系の構造を模式的に示す図面である。実験系60は、VOCを含む外気G1を模擬するための被処理気体G1aが貯留されているガス源61と、処理用筐体62と、処理用筐体62から排気される処理済気体G2が導入されるサンプリングバッグ63とを備えて構成される。
【0077】
処理用筐体62は、上述したエキシマランプからなる紫外光源12を備える。このエキシマランプは、外径20mmで発光長X1が95mmであった。また、処理用筐体62は、内径40mm(直径)、肉厚3mmのSUS製の筒状体であり、長さが350mmであった。エキシマランプは、管体43の管軸を処理用筐体62の中心軸にほぼ一致させた状態で、処理用筐体62内に配置された。エキシマランプからの紫外線L1が進行する長さ(光路長)Y1は、約10mmとされた。
【0078】
エキシマランプはXeを含む発光ガス45Gが管体43内に封入されており、不図示の電源から各電極(44a,44b)に対して投入電力14W、印加電圧4kVppの高周波電圧が印加されることで、ピーク波長が172nmの紫外線L1を出射した。
【0079】
ガス源61から供給される被処理気体G1aとして、純粋空気に対してVOCとしてのホルムアルデヒド(HCHO)の含有濃度を異ならせた5種類を準備した。それぞれの被処理気体G1aを、紫外光源12から紫外線L1を出射させた状態の処理用筐体62内に導入し、サンプリングバッグ63で収容された処理済気体G2に含まれるホルムアルデヒドの濃度を測定した。この結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1の結果によれば、紫外光源12からの紫外線L1が被処理気体G1aに照射されることで、被処理気体G1a中に含まれるホルムアルデヒドが分解されていることが確認される。よって、(1)式、(2)式、(5)式及び(6)式を参照して上述したように、空気とVOCが混在する被処理気体G1aに対して紫外線L1が照射されることで、オゾンが生成されると共に、このオゾンから反応性の高いヒドロキシラジカルが生成されることで、VOCが分解されることが分かる。特に、VOCとしてホルムアルデヒドを含む場合には、上述した(3a)~(3c)式に基づいてH2OやCO2に分解されることが分かる。
【0082】
なお、(3b)式に示したように、分解反応過程では中間生成物としてCOが生成される。しかし、(3c)式に従って最終的にはCO
2にまで反応が進むため、COによる中毒の恐れはない。ただし、反応の進行が不十分となってCOが残留する可能性に鑑み、安全性をより担保する観点から、処理後気体G2内のCO濃度が、許容濃度とされる50ppmよりも低い値であることを確認するための濃度検知部を、送気口13又は送気管30内に設けても構わない。この場合、濃度検知部において許容濃度に近い所定値(例えば40ppm)に達したことを検知すると、例えば後述する
図7に示す警報出力部52より警告信号i52を出力するものとしても構わない。
【0083】
図3に戻って説明を続ける。処理済気体G2は、オゾン分解部材16を通過した後、送気口13を介して送気管30に送られる。この処理済気体G2は、送気管30内をカバー体20に向かって通流した後、着用者2の呼吸域21に対して供給される。以上により、呼吸用保護具1によれば、外気G1と比較して含有VOC濃度が大幅に低下した処理済気体G2を着用者2の呼吸用気体として供給できるため、着用者2の呼吸を保護することができる。
【0084】
また、
図3によれば、オゾン分解部材16を通過した処理済気体G2を着用者2に対して供給できるため、処理ユニット10内で生成されたオゾンが高濃度で処理済気体G2に含有された状態で着用者2に供給されることがなく、着用者2に対する安全性は担保される。
【0085】
オゾン分解部材16は、例えばアルミニウム、ステンレス、セラミックスなどの金属製のハニカム構造体からなる基材に触媒を担持した構造のものを採用することができる。触媒としては、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)などの貴金属触媒や、二酸化マンガン(MnO2)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ニッケル(NiO)など金属酸化物を利用することができる。
【0086】
図3に示すように、呼吸用保護具1がファン14を備えることで、外気G1を所定の流量で処理ユニット10に対して取り込むことが可能となる。この結果、処理ユニット10側から着用者2の呼吸域21に向かう気流が常に確保されるため、排気口23から呼吸域21に向かって外気G1が逆流することが防止される。なお、
図2に示すように、カバー体20が着用者2の頭部を覆うようなヘルメット型の構造である場合には、呼吸域21が外気G1に対して陽圧となるため、そもそも排気口23から外気G1が呼吸域21に向かって逆流する現象は生じにくい。
【0087】
図7に示すように、処理ユニット10は、ファン14を制御する制御部51を備えるものとしても構わない。
図7の例では、処理ユニット10が、紫外光源12の点灯状態を検知する検知手段(不図示)を設けており、この検知手段からの検知結果に関する信号(検知信号)i12が、制御部51に送られる構成が図示されている。例えば、検知手段は、紫外光源12に対して供給される電流量を検知すると共に、検知された電流量が正常の発光動作時に流れるであろう基準値よりも大きく低下している場合には、紫外光源12の運転状態が不良であると認識し、その旨の不良検知信号i12を制御部51に出力する。
【0088】
別の例として、検知手段が紫外線L1の照度を検知するものとしても構わない。この場合には、検知手段は、検知した照度値が、紫外光源12が正常の発光動作時に検知されるであろう基準値よりも大きく低下しているときに、紫外光源12の運転状態が不良であると認識し、その旨の不良検知信号i12を制御部51に出力する。
【0089】
不良検知信号i12が制御部51に対して入力されることは、紫外光源12が正しく動作していないことを意味するため、処理ユニット10内においてVOCに対する分解性能が低下している蓋然性が高い。このため、制御部51は、この不良検知信号i12が入力されると、ファン14に対して回転数を低下させる又は停止させる制御を行う。これにより、含有VOC濃度があまり低下できていない処理済気体G2が、着用者2の呼吸域21に対して多く供給されることを防止できる。
【0090】
なお、
図7に示すように、呼吸用保護具1は、不良検知信号i12が制御部51に対して入力されたことを着用者2に対して報知するための警報出力部52を備えるものとしても構わない。この警報出力部52は、警告信号i52を音声信号として出力するものとしても構わないし、着用者2が携帯するスマートフォンなどの通信機器に対して通知するための通信信号として出力するものとしても構わない。着用者2は、この警告信号i52によって処理ユニット10の異常を認識でき、作業現場から直ちに退避する等、安全面を考慮した適切な行動を行うことができる。
【0091】
ここで、
図1に示す呼吸用保護具1によれば、処理ユニット10とカバー体20とは、送気管30によって連結されている。このため、仮に紫外光源12に対して運転異常が生じた場合であっても、この運転異常が発現する前段階で外気G1に対して処理が行われることで生成された処理済気体G2が、送気管30内に残存している。よって、紫外光源12に対して異常が発生した時点からしばらくの間にわたって、着用者2に対して含有VOC濃度が低下した安全な処理済気体G2を供給することができる。これにより、着用者2に対する高い安全性が担保される。
【0092】
上記の観点からは、送気管30の長さは、処理ユニット10内において外気G1が流れる方向に係る長さ、すなわち、吸気口11と送気口13との間の離間距離よりも長く構成されるのが好適である。これにより、送気管30内にある程度の流量の処理済気体G2を確保できる。
【0093】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0094】
〈1〉処理ユニット10は、オゾン分解部材16の他に、1以上の別のフィルタ(エアフィルタ)を備えていても構わない。
図8は、この別実施形態の呼吸用保護具1の構成を模式的に示す図面であり、処理ユニット10が、防塵フィルタ17a、活性炭フィルタ17b、及びHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air)17cを備えている例が図示されている。なお、
図8の例では、防塵フィルタ17aが紫外光源12よりも前段(吸気口11側)に配置されており、活性炭フィルタ17b及びHEPAフィルタ17cがオゾン分解部材16よりも後段(送気口13側)に配置されている。
【0095】
図8に示す構造によれば、外気G1中に含まれる粉塵が事前に防塵フィルタ17aによって除去されるため、紫外光源12の表面に付着することに伴う紫外線L1の照度低下等の不具合を未然に防ぐことができる。また、処理ユニット10が追加的に活性炭フィルタ17bやHEPAフィルタ17cを備えることで、処理済気体G2内に含有される有害物質を更に低下できる。
【0096】
なお、これらの活性炭フィルタ17bやHEPAフィルタ17cは、紫外光源12よりも後段、すなわち、紫外線L1が照射されることで外気G1に対してオゾンが導入される領域(紫外線照射領域5)よりも後段に配置されている。このため、活性炭フィルタ17bやHEPAフィルタ17cを通過する処理済気体G2は、事前に含有VOC濃度が低下されているため、これらのフィルタ(17b,17c)によって吸着除去される物質の量はそれほど多くない。よって、従来のように、フィルタ(17b,17c)を頻繁に交換することなく、安全な呼吸用空気(処理済気体G2)を着用者2に対して供給できる。
【0097】
〈2〉
図9に示すように、処理ユニット10は、紫外光源12によって外気G1に対して処理を行う経路(第一経路10a)とは別に、活性炭フィルタ17dによる吸着処理を行う経路(第二経路10b)を備えていても構わない。
図9に示す呼吸用保護具1の例では、処理ユニット10が流路切替用の閉塞板71を備えており、閉塞板71を移動させることで、外気G1に対して、紫外線L1による処理を行う第一経路10aを通流させるか、活性炭フィルタ17dによる吸着処理を行う第二経路10bを通流させるかを選択できる構成である。なお、
図9に示す例では、処理ユニット10内において、第二経路10b側にも防塵フィルタ17aが設けられている。
【0098】
第二経路10b側に配置された活性炭フィルタ17bは、紫外光源12からの紫外線L1が照射されることなく、外気G1中に含まれる有害物質を除去できる程度に、大型又は多段配置で構成される。すなわち、この活性炭フィルタ17bは、第一経路10a側に活性炭フィルタ17bが配置される場合には、この活性炭フィルタ17bよりも大型又は多段であることが好ましい。一方で、第一経路10a側には、活性炭フィルタ17bは必須ではない。
【0099】
かかる構成によれば、紫外光源12が正常に運転中である場合には、閉塞板71を第二経路10b側の吸気口72を閉塞するように配置させることで、上記実施形態と同様に、外気G1に対して紫外線L1が照射されることで、外気G1中に含まれるVOCを分解処理できる。また、仮に紫外光源12に対して故障が生じた場合には、閉塞板71の位置を切り替えて第一経路10a側の吸気口11を閉塞するように配置させることで、活性炭フィルタ17dによって外気G1中に含まれるVOCを吸着除去できる。つまり、紫外光源12が正常に動作しない等の非常時においても、着用者2の呼吸域21に対して、VOC濃度の低下した安全性の高い呼吸用空気を供給し続けることが可能となる。
【0100】
なお、この
図9に示す呼吸用保護具1において、第二経路12bはあくまでバックアップ用の経路として利用されるのが好適である。これにより、活性炭フィルタ17dでVOCを吸着除去する頻度は極めて低いため、活性炭フィルタ17dを高い頻度で交換する必要性が生じることはない。
【0101】
〈3〉
図4A及び
図4Bを参照して上述した紫外光源12の構造はあくまで一例である。紫外光源12は、ピーク波長が200nm未満の紫外線L1を処理ユニット10内に取り込んだ外気G1に対して照射可能な光源であれば、どのような構造であっても構わない。例えば、他の形状のエキシマランプであっても構わないし、LED素子などの固体光源であっても構わない。
【0102】
〈4〉上記実施形態では、処理ユニット10がオゾン供給部としての紫外光源12を備える場合について説明した。しかし、処理ユニット10は、取り込んだ外気G1に対してオゾンを供給できる構成であればよく、この限りにおいて、必ずしも紫外光源12を備えなくても構わない。例えば、処理ユニット10が、紫外光源12に代えて放電式のオゾナイザを備えるものとしても構わない。ただしこの場合、外気G1中の窒素分子の結合が切断されて窒素酸化物(NOx)が発生する可能性があるため、処理ユニット10内に窒素酸化物を除去する機能を別途搭載するのが好ましい。また、高効率なNOxフリーの放電式オゾナイザが実用化されれば、これを利用することも可能である。
【0103】
また、別の例として、処理ユニット10内にオゾンボンベを搭載しておき、このオゾンボンベから外気G1に対してオゾンを供給する構成を採用しても構わない。
【0104】
〈5〉処理ユニット10が、カバー体20に対して直接、連結固定されているものとしても構わない。すなわち、呼吸用保護具1が送気管30を備えないものとしても構わない。
【0105】
〈6〉処理ユニット10が、VOCの濃度を検知するためのガスセンサを備えるものとしても構わない。この場合、ガスセンサは、処理ユニット10内において、オゾン供給部よりも後段(
図3の例では、紫外光源12よりも後段)に配置されるのが好ましい。ガスセンサは、処理済気体G2に含有されるVOC濃度が、安全性が担保されるVOCの基準濃度よりも極めて高い場合には、処理ユニット10の運転状態が不良であると認識し、
図7の構成と同様に、不良検知信号i12を制御部51に出力するものとして構わない。
【符号の説明】
【0106】
1 :呼吸用保護具
2 :着用者
5 :紫外線照射領域
10 :処理ユニット
10a :第一経路
10b :第二経路
11 :吸気口
12 :紫外光源
12b :第二経路
13 :送気口
14 :ファン
16 :オゾン分解部材
17a :防塵フィルタ
17b :活性炭フィルタ
17c :HEPAフィルタ
17d :活性炭フィルタ
20 :カバー体
21 :呼吸域
23 :排気口
24 :導入口
25 :通気路
26 :通気口
30 :送気管
41 :ハーネス
43 :管体
43a :外側管
43b :内側管
44a :電極
44b :電極
45G :発光ガス
51 :制御部
52 :警報出力部
60 :実験系
61 :ガス源
62 :処理用筐体
63 :サンプリングバッグ
71 :閉塞板
72 :吸気口
G1 :外気
G2 :処理済気体
G3 :呼気
L1 :紫外線