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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098677
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220627BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20220627BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212198
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】山川 敬士
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG01
4G077PD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ルツボ変形を抑制しつつシリコン単結晶の収率を向上することのできる石英ガラスルツボ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶を引上げる石英ガラスルツボにおいて、所定の曲率を有する底部と、底部の周りに形成され、所定の曲率を有する下部コーナーと、下部コーナーから上方に延びる直胴部7とを有し、直胴部の厚さ寸法t1が、下部コーナーの厚さ寸法t2の70%以下に、底部の厚さ寸法t3が、下部コーナーの厚さ寸法t2の80%以上に形成されている。ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップと、ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップとを備え、原料石英粉を供給し、ルツボ成形体を形成するステップにおいて、供給する原料石英粉の量を調整する石英ガラスルツボの製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶を引上げるための石英ガラスルツボにおいて、
所定の曲率を有する底部と、前記底部の周りに形成され、所定の曲率を有する下部コーナーと、前記下部コーナーから上方に延びる直胴部とを有し、
前記直胴部の厚さ寸法が、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成され、
前記底部の厚さ寸法が、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成されていることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
厚さ寸法が最大となる位置は、前記下部コーナーより前記底部側に位置し、径方向における前記底部の稜線と前記下部コーナーの稜線との接点から、前記石英ガラスルツボの外径に対して±6%の範囲内に位置していることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載された石英ガラスルツボの製造方法であって、
ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップと、
前記ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップとを備え、
前記原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップにおいて、供給する前記原料石英粉の量を調整することによって、前記直胴部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成し、前記底部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載された石英ガラスルツボの製造方法であって、
ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップと、
前記ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップとを備え、
前記ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップにおいて、原料石英粉をさらに供給し、供給する前記原料石英粉の量を調整することによって、前記直胴部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成し、前記底部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン溶融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
引上げられるシリコン単結晶の大口径化に伴い、石英ガラスルツボは年々大型化しており、このルツボの大型化により、多結晶シリコンの装填量を増大させることができ、スループットの向上をもたらす反面、溶融の長時間化、加熱用カーボンヒータの大出力化といった厳しい環境下で使用されている。
【0003】
図6に示すように石英ガラスルツボ50は、上端が開口した筒状の直胴部51と、直胴部51の下端周りに形成された下部コーナー52と、下部コーナー52の内側に形成された底部53とで構成される。石英ガラスルツボ50が大型化すると、単結晶製造中の石英ガラスルツボ50の変形問題が顕著になり、このため、石英ガラスルツボ50の粘性を高める工夫や、石英の粘性を補うために直胴部の厚さを20mm以上と厚くする方法が採られている。
【0004】
特許文献1には、石英ガラスルツボ50の直胴部51を構成する石英の粘性率と、その直胴部51の厚さとに一定の関係を持たせて規定し石英ガラスルツボ50の変形を防ぐ単結晶成長方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1に開示された石英ガラスルツボにあっては、ルツボ形状を従来の形状に保ったまま、石英の粘性率あるいは直胴部51の厚さを増加させるものであり、その場合、次のような課題があった。
【0005】
先ず、石英の粘性率を増加は石英の物質的な限界があるため、粘性を無理に高めようとすると石英ガラスルツボ50自身の製造工程が複雑になるという課題があった。
また、直胴部51の肉厚を厚くする方法は、厚い直胴部51を支えるために、下部コーナー52を極端に厚くする必要があり、石英ルツボ自身が大重量になり、製造工程やハンドリングが複雑になり、石英ガラスルツボ50の原料増大につながり、コストがかかるという課題があった。
【0006】
このような課題に対し、特許文献2には、直胴部51の肉厚が10~15mmであり、かつ、前記下部コーナー52の肉厚の70~80%と下部コーナー52よりも肉薄の構造である石英ガラスルツボ50が開示されている。
このように特許文献2に開示された石英ガラスルツボにあっては、直胴部51の重量を可能な限り小さくして自重を軽減し、下部コーナー52にかかる負荷を小さくすることにより、大口径の単結晶を引上げても直胴部51の沈み込みや直胴部51が内側へ垂れ込む変形を抑制することができる。また、一般的な石英ガラスルツボの製造工程により製造することができ、コスト増加を抑制することができる。
尚、特許文献2に開示された石英ガラスルツボにあっては、ルツボ底部53の厚さは下部コーナー52の厚さ以下に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-47092号公報
【特許文献2】特開2005-041723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された石英ガラスルツボによれば、直胴部51の厚さよりも下部コーナー52の厚さが大きいため、シリコン溶融液の高さが下部コーナー52の位置に減少するまで、ルツボの変形を抑制することができる。また、このときシリコン溶融液の荷重による圧力がルツボ底部53に加わっているため、ルツボ底部53の厚さが比較的薄く、耐久性が低くても、ルツボ底部53における変形を防止することができる。
【0009】
しかしながら、シリコン単結晶の引き上げが進み、図7に示すようもシリコン溶融液Mが下部コーナー52よりも下方になると、溶融液Mの荷重が小さくなるため、直胴部51と下部コーナー52とを合わせた荷重がルツボ底部53に大きく加わり、図示するようにルツボ底部53が変形するという課題があった。
【0010】
本発明は、前記事情の下になされたものであり、シリコン単結晶の引き上げに用いる石英ガラスルツボにおいて、ルツボ変形を抑制しつつシリコン単結晶の収率を向上することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、シリコン単結晶を引上げるための石英ガラスルツボにおいて、所定の曲率を有する底部と、前記底部の周りに形成され、所定の曲率を有する下部コーナーと、前記下部コーナーから上方に延びる直胴部とを有し、前記直胴部の厚さ寸法が、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成され、前記底部の厚さ寸法が、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成されていることに特徴を有する。
尚、厚さ寸法が最大となる位置は、前記下部コーナーより前記底部側に位置し、径方向における前記底部の稜線と前記下部コーナーの稜線との接点から、前記石英ガラスルツボの外径に対して±6%の範囲内に位置していることが望ましい。
【0012】
このように本発明によれば、直胴部の厚さ寸法が、下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成されている。これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー付近まで減少しても、下部コーナーは直胴部の荷重を受けるだけの耐久性を有するため、直胴部の沈み込みや直胴部が内側へ垂れ込む変形を抑制することができる。
さらに、ルツボ底部の厚さ寸法が、下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成される。これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナーより低い位置まで減少しても、底部に直胴部及び下部コーナーの荷重を受けるだけの耐久性を持たせることができ、ルツボ底部における変形を防止することができる。
その結果、ルツボにおける変形を抑制しつつ、シリコン単結晶の収率を向上することができる。
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、前記石英ガラスルツボの製造方法であって、ルツボ成形用型の内側部材を軸周りに回転させるとともに、原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップと、前記ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップとを備え、前記原料石英粉を供給し、少なくとも1層のルツボ成形体を形成するステップにおいて、供給する前記原料石英粉の量を調整することによって、前記直胴部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成し、前記底部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成することに特徴を有する。
或いは、前記ルツボ成形体の内側から加熱溶融し、石英ガラスルツボを形成するステップにおいて、原料石英粉をさらに供給し、供給する前記原料石英粉の量を調整することによって、前記直胴部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成し、前記底部の厚さ寸法を、前記下部コーナーの厚さ寸法の80%以上に形成してもよい。
このような方法によれば、前記した本発明に係る石英ガラスルツボを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリコン単結晶の引き上げに用いる石英ガラスルツボにおいて、ルツボ変形を抑制しつつシリコン単結晶の収率を向上することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図である。
図2図2は、図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
図3図3は、本発明におけるルツボの各部位の厚さの変化を示すグラフである。
図4図4は、本発明におけるルツボの変形例の各部位の厚さの変化を示すグラフである。
図5図5は、図1の石英ガラスルツボを製造するための装置の概略図である。
図6図6は、従来の石英ガラスルツボの断面図である。
図7図7は、図6の石英ガラスルツボの課題を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法の実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は本発明に係る石英ガラスルツボ1の断面図である。図2は、図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
この石英ガラスルツボ1は、例えば単結晶引上装置(図示せず)において用いられ、装置内でカーボンサセプタ(図示せず)によって抱持された状態で使用される。
即ち、単結晶引上装置では、石英ガラスルツボ1内に原料シリコンが溶融され、溶融液からシリコン単結晶が引上げられる。
【0017】
石英ガラスルツボ1は、例えば直径(口径)32インチに形成され、所定の曲率(第一の曲率)を有する底部9と、前記底部9の周りに形成され、所定の曲率(第二の曲率)を有する下部コーナー8と、前記下部コーナー8から上方に延びる直胴部7とを有する。
図1に示すように、直胴部7において一番外側には、ルツボ上端6から直胴部7の下方まで、外層2が形成されている。外層2は、結晶化促進剤として例えばAlを添加したAl添加石英ガラス層により形成されている。
【0018】
具体的には、前記外層2(結晶化促進剤添加層)は、使用前(高温加熱前)においては、例えばAl濃度が100ppmの一次添加原料がガラス中に分散し、外層2におけるAl濃度が25ppmの状態となされている。即ち、ガラス化する部分と結晶化する部分とが層内に混在した状態に形成されている。使用後(高温加熱後)においては、外層2が結晶の単一層となるのではなく、前記一次添加原料が結晶化し、ガラス部分と結晶化部分とが混在することになる。
【0019】
図1に戻り、外層2より内側には、天然原料石英ガラスからなる不透明中間層3が形成されている。
さらに、この不透明中間層3より内側には、シリコン単結晶引上げ時に溶融シリコンと接する高純度の合成原料石英ガラス(または天然原料石英ガラス)からなる透明内層4が形成されている。
【0020】
ここで不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然石英層とは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味し、合成石英層とは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味する。
【0021】
また、外層2は、前記したようにルツボ外側全体には形成されない。即ち、下部コーナー8及び底部9には外層2は形成されず、直胴部7のみに形成されている。
即ち、図示するように下部コーナー8及び底部9は、直胴部7の不透明中間層3から連続して形成された天然原料石英ガラスからなる不透明外層5と、合成原料石英ガラス(または天然原料石英ガラス)からなる透明内層4とで形成された2層構造となされている。
これは、単結晶引上げの開始初期段階において、下部コーナー8及び底部9(不透明外層5)を軟化させ、石英ガラスルツボ1を支持するカーボンサセプタと密着させるためである。
【0022】
また、図2に示す直胴部7の厚さ寸法t1は、下部コーナー8の厚さ寸法t2の70%以下に形成されている。これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8付近まで減少しても、下部コーナー8は直胴部7の荷重を受けるだけの耐久性を有するため、直胴部7の沈み込みや直胴部7が内側へ垂れ込む変形を抑制することができる。
前記直胴部7の厚さ寸法t1が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の70%より大きいと、単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8付近まで減少すると、下部コーナー8は直胴部7の荷重を受けるだけの耐久性がなく、石英ガラスルツボ1の変形を防止することができない。
【0023】
また、底部9の厚さ寸法t3は、下部コーナー8の厚さ寸法t2の80%以上に形成されている。ここで、図3は石英ガラスルツボ1の各部位における厚さの変化を示すグラフである。このグラフの縦軸は厚さ、横軸は各部位を示している。このグラフから明らかなように底部9は肉厚が最も厚い下部コーナー8の80%以上の肉厚を有し、石英ガラスルツボ1の肉厚は下部コーナー8から直胴部7の開口方向に向かって徐々に薄く形成されている(グラフでは従来の下部コーナーの肉厚が最も厚い例を同時に示している)。
より詳しくは、底部9の厚さは、肉厚が最も厚い下部コーナー8の150%以下であり、好ましくは110%以上130%以下である。且つ、直胴部7の厚さは、肉厚が最も厚い下部コーナー8の60%以下であり、好ましくは40%以上50%以下である。
【0024】
これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8より低い位置まで減少しても、底部9に直胴部7及び下部コーナー8の荷重を受けるだけの耐久性を持たせることができ、底部9における変形を防止することができる。
底部9の厚さ寸法t3が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の80%未満であると、単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8より低い位置まで減少した際、底部9に直胴部7及び下部コーナー8の荷重を受けるだけの耐久性がなく、底部9における変形が生じる虞がある。
【0025】
また、石英ガラスルツボ1において肉厚が最大となる位置は、図2に示すように下部コーナー8より底部側に位置し、特に前記最大となる位置が、径方向における底部9の稜線と前記下部コーナー8の稜線との接点Pから、前記石英ガラスルツボの外径に対して±6%の範囲内に位置していることが望ましい。この場合、図4のグラフに示すように最も厚い肉厚部の位置は下部コーナー8から底部9側に移動することになる(本発明2)。
それにより、シリコン溶融液が下部コーナー8より低い位置まで減少した際に、底部9の変形抑制の効果を最も奏することができる。
【0026】
また、前記外層2のAl添加石英ガラスのAl濃度は、10~300ppmの範囲で形成され、各結晶粒の粒度分布は、全結晶粒の90%が50~400μmの範囲に含まれる。
このように外層2においてガラス層中に結晶粒が分布していることにより、ガラス層である不透明中間層3との間に生じる引張応力を結晶粒単位の僅かな力に分散し、クラックの発生を防止することができる。
【0027】
次に、前記構造を有する石英ガラスルツボ1の製造方法について説明する。
先ず、図5に示すような石英ガラスルツボ製造装置10を用いて高純度化処理前の石英ガラスルツボを製造する。石英ガラスルツボ製造装置10のルツボ成形用型11は、例えば複数の貫通孔が穿設された金型、もしくは高純化処理した多孔質カーボン型などのガス透過性部材で構成された内側部材12と、その外周に通気部13を設けて、前記内側部材12を保持する保持体14とから構成されている。
【0028】
また、保持体14の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸15が固着されていて、ルツボ成形用型11を回転可能に支持している。通気部13は、保持体14の下部に設けられた開口部16を介して、回転軸15の中央に設けられた排気路17と連結されており、この排気路17は、減圧機構18と連結されている。
内側部材12に対向する上部にはアーク放電用のアーク電極19と、Al添加原料供給ノズル20と、天然石英粉供給ノズル22と、高純度合成石英粉供給ノズル23が設けられている。
【0029】
外層2に用いられるAl添加石英粉は、次のように得ることができる。例えばAl硝酸塩(Al(NO33)を石英粉のAl濃度が例えば濃度100ppmとなるような量だけ水に溶かして作られた硝酸Al水溶液を、石英粉に添加して攪拌する。攪拌後、脱水、酸分除去を目的として800~1100℃で加熱処理する。これにより、Al濃度の高い一次添加原料が得られる。
次いで、前記一次添加原料を同量の石英粉と混合し、前記一次添加原料が均一に分散したAl濃度が例えば25ppmの二次添加原料を得る。これを外層2に供給するAl添加石英粉とする。
【0030】
尚、前記Al添加石英粉において、全体の平均粒度±25%の範囲に前記一次添加原料C1の90%以上が含まれる。これにより輸送中の振動や、Al添加石英粉をルツボ形状に成型する際の撹拌等により一次添加原料が偏析することを防止することができる。
また、上記例では、一次添加原料を同量の石英粉と混合し、Al添加石英粉を形成するものとしたが、Al添加石英粉中の一次添加原料の含有割合は1~50%の範囲であることが望ましく、それにより一次添加原料間に無添加の石英粉が介在する状態とすることができる。
【0031】
こうして得られたAl添加石英粉を用い、石英ガラスルツボ製造装置10により石英ガラスルツボの製造を行う場合、図示しない回転駆動源を稼働させて回転軸18を矢印の方向に回転させ、これによりルツボ成形用型11を高速で回転させる。
次いで、ルツボ成形用型11内にAl添加原料供給ノズル20からAl添加石英粉(Al濃度25ppm)を供給する。供給されたAl添加石英粉は、遠心力によって内側部材12の内面側に押圧され、外層2として形成される。尚、このときの外層2中の一次添加原料は、石英粉中に分散した状態である。
【0032】
ここで、外層2は、図2を用いて説明したように下端の位置が決められ、下部コーナー8及び底部9が除去される。即ち、製造する石英ガラスルツボ1の下部コーナー8から底部9にかけて、外層2が除去される。
【0033】
次いで、外層2の内面側における厚さが3mm以上の不透明中間層3、下部コーナー8及び底部9における厚さが6mm以上の不透明外層5が形成されるように、天然石英粉を天然石英粉供給ノズル22から供給する。供給された天然石英粉は、遠心力によって外層2の内面側及び内側部材12の底部に押圧されて、不透明中間層3及び不透明外層5の成形体として成形される。
【0034】
次に、不透明中間層3及び不透明外層5の内面側に少なくとも3mm以上の厚さを有する透明層が形成されるように、Na、K、Alの金属不純物含有量が各々1ppm以下の高純度合成石英粉を高純度合成石英粉供給ノズル23から供給する。
供給された高純度合成石英粉は、遠心力によって不透明中間層3及び不透明外層5の内面側に押圧されて、透明内層4の成形体として成形される。
【0035】
このようにしてAl添加原料の分散した外層2、不透明中間層3、不透明外層5および透明内層4のルツボ成形体が得られる。
さらに、減圧機構18の作動により内側部材12内を減圧し、アーク電極19に通電してルツボ成形体の内側から加熱し、ルツボ成形体の透明内層4、不透明中間層3、不透明外層5および外層2をアーク溶融して石英ガラスルツボ1を製造する。
【0036】
ここで、前記アーク溶融中に、底部9に透明内層4の原料である高純度合成石英粉を高純度合成石英粉供給ノズル23から供給することにより底部9の厚さをより厚くし、底部の厚さ寸法t3が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の80%以上となされる。
また、その際、肉厚が最大となる位置が下部コーナー8より底部側に位置し、特に前記最大となる位置が、底部の稜線と前記下部コーナーの稜線との接点Pから石英ガラスルツボの外径に対して±6%の範囲内に位置するように形成することが望ましい。
或いは、前記したルツボ成形体の形成の際、外層2、不透明中間層3、不透明外層5及び透明内層4を形成するための原料石英粉の供給量を調整することによって、直胴部7の厚さ寸法t1が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の70%以下、且つ、底部9の厚さ寸法t3が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の80%以上となるようにしてもよい。
【0037】
以上のように本実施の形態によれば、直胴部7の厚さ寸法t1が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の70%以下に形成されている。これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8付近まで減少しても、下部コーナー8は直胴部7の荷重を受けるだけの耐久性を有するため、直胴部7の沈み込みや直胴部7が内側へ垂れ込む変形を抑制することができる。
さらに、底部9の厚さ寸法t3が、下部コーナー8の厚さ寸法t2の80%以上に形成される。これにより単結晶引き上げの際に、シリコン溶融液が下部コーナー8より低い位置まで減少しても、底部9に直胴部7及び下部コーナー8の荷重を受けるだけの耐久性を持たせることができ、底部9における変形を防止することができる。
その結果、石英ガラスルツボ1における変形を抑制しつつ、シリコン単結晶の収率を向上することができる。
【0038】
尚、前記実施の形態においては、ルツボ側部が3層構造のルツボを例に説明したが、本発明にあっては、それに限定されるものではなく、層の数は限定されるものではなく、例えば透明内層のみの単層の石英ガラスルツボ、或いは透明内層と不透明外層とを有する2層の石英ガラスルツボにも適用することができる。
【実施例0039】
本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
本実施例では、条件の異なる石英ガラスルツボを用いて単結晶の育成を行い、残溶融液面がコーナー部R頂点以下の高さとなった時点で単結晶を引き上げた。そして、回収した石英ガラスルツボの底部~コーナー部間において、内表面が元の稜線に対してどの程度隆起しているかを観察した。
【0040】
表1に実施例1~6、及び比較例1~3の条件及び結果を示す。
表1に示すように石英ガラスルツボの条件として、直胴部の厚さの下部コーナーの厚さに対する割合(%)、及び底部厚さの下部コーナーの厚さに対する割合(%)を変化させた。
評価方法は、石英ガラスルツボの底部~コーナー部間において、内表面が元の稜線に対して5mm以上隆起しているものはNG(×)とし、5mm未満の隆起はOK(○)とした。また、隆起が全く観察されないものは、最も好ましいもの(◎)とした。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように直胴部の厚さ寸法が、下部コーナーの厚さ寸法の70%以下に形成され、且つ底部の厚さ寸法が、下部コーナーの厚さ寸法の80%以上(上限150%)に形成されていることが好ましいことがわかる。
好ましくは、直胴部の厚さ寸法を、下部コーナーの厚さ寸法の40~50%に形成し、且つ底部の厚さ寸法を、下部コーナーの厚さ寸法の110~130%に形成すればよいことを確認した。
【符号の説明】
【0043】
1 石英ガラスルツボ
2 外層
3 不透明中間層
4 透明内層
5 不透明外層
7 直胴部
8 下部コーナー
9 底部
10 石英ガラスルツボ製造装置
30 高純度化処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7