IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人フロンティア株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098743
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】電池セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20220627BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212322
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021CC01
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE08
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れ、厚みが小さく、孔径が小さい電池セパレータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂塗工液を塗工して電池セパレータを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セパレータであって、繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂層を積層してなることを特徴とする電池セパレータ。
【請求項2】
前記ナノファイバーがポリエステル繊維である、請求項1に記載の電池セパレータ。
【請求項3】
前記不織布に、前記ナノファイバーが不織布重量対比40重量%以上含まれる、請求項1または請求項2に記載の電池セパレータ。
【請求項4】
厚みが10~30μmの範囲内である、請求項1~3のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項5】
平均孔径1.0μm以下、最大孔径2.0μm以下であり、最大孔径を平均孔径で除した値が2.5以下である、請求項1~4のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項6】
180℃で1時間静置後の熱収縮率がMD方向、CD方向ともに3.0%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項7】
突刺し強度が1.1N以上である、請求項1~6のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項8】
マクミラン数が15以下、かつ該マクミラン数と前記厚みとの積が200μm以下である、請求項1~7のいずれかに記載の電池セパレータ。
【請求項9】
請求項1に記載の電池セパレータの製造方法であって、繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂塗工液を塗工することを特徴とする電池セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、厚みが小さく、孔径が小さい電池セパレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴を有しているため、携帯型電気機器の電源として広く利用されている。また、EV、PHVなどの大型機器にも、リチウムイオン二次電池の利用の動きがある。金属イオン二次電池は、急速充電・急速放電(ハイレート特性)、寿命(サイクル特性)といった性能とだけでなく、発煙、発火、破裂等の危険性をいかに抑制するかという安全性も要求されている。そのため、厚みが小さく、強度が強く、孔径が小さくて均一であり、耐熱性に優れたセパレータが求められている。
【0003】
ポリオレフィン系微多孔膜からなる電池セパレータは耐熱性が低いため、フィラーを含む塗工液を塗工し熱収縮性を改善することが提案されている(特許文献1)。しかしながら、かかるポリオレフィン系微多孔膜を基材とした塗工セパレータは基材自体の耐熱性が低いため、セパレータ内部の形状保持性が低く、高温環境下では基材の劣化が進行し、イオン移動の不均一化などによる寿命低下やセパレータの不安定化による安全性の懸念があった。
【0004】
一方、融点の高いポリエステル系繊維で構成した不織布セパレータやアラミド繊維を配合したアラミド不織布セパレータや、これらの不織布にフィラーを含む塗工液を塗工した例が提案されている(特許文献2、3、4)。
【0005】
しかしながら、かかる不織布セパレータは熱収縮性には優れるものの、孔径が大きく、両極活物質の接触による内部短絡、あるいは負極上に生成するデンドライトによる微小短絡が発生しやすいという問題があった。また、そのような孔径が大きく不均一な構造の不織布に塗工層を設けた場合でも、塗工液の裏抜けによる塗工不良や不織布自体の表面凹凸により、塗工層の厚みのムラが発生して、電極との密着性が低く、イオン移動の不均一化による微小短絡、デンドライトの発生や寿命の低下、ひいては安全性の懸念があった。孔径を小さく均一にするために有機フィラーや無機フィラーで不織布自体の空隙を埋めるとフィラーによる抵抗の増加や塗工層による厚み増加が生じ、寿命やハイレート特性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-123465号公報
【特許文献2】特開2014-175075号公報
【特許文献3】特開2003-123728号公報
【特許文献4】特開2006-19191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は耐熱性に優れ、厚みが小さく、孔径が小さい電池セパレータおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、前記課題を達成できる電池セパレータおよびその製造方法を発明するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、「電池セパレータであって、繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂層を積層してなることを特徴とする電池セパレータ。」が提供される。
【0010】
その際、前記ナノファイバーがポリエステル繊維であることが好ましい。また、前記不織布に、前記ナノファイバーが不織布重量対比40重量%以上含まれることが好ましい。また、厚みが10~30μmの範囲内であることが好ましい。また、平均孔径1.0μm以下、最大孔径2.0μm以下であり、最大孔径を平均孔径で除した値が2.5以下であることが好ましい。また、180℃で1時間静置後の熱収縮率がMD方向、CD方向ともに3.0%以下であることが好ましい。また、突刺し強度が1.1N以上であることが好ましい。また、マクミラン数が15以下、かつ該マクミラン数と前記厚みとの積が200μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の電池セパレータの製造方法であって、繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂塗工液を塗工することを特徴とする電池セパレータの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性に優れ、厚みが小さく、孔径が小さい電池セパレータおよびその製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の電池セパレータは、繊維径100~500nmのナノファイバーを含む不織布に、フィラーを含有しない樹脂層を積層してなる。その際、不織布層内部に樹脂が入りこみ複合化していてもよい。
【0014】
すなわち、繊維が細いことにより、非常に薄い不織布シートでありながら、平均孔径・最大孔径を小さくし、イオン移動、電池反応を均一にすることができ、長寿命や微小短絡防止による安全性を可能にする。ここで、ナノファイバーの繊維径は500nm以下が重要であり、これより大きなマイクロファイバーとなると、孔径が大きくなるおそれがある。また100nm以上(好ましくは200nm以上)が重要である。これよりも小さい場合は、繊維自身の分散性が難しく、むしろ凝集が進行し、抄紙工程で網の目を通過してシート形成が困難になるおそれがある。ここで、前記の繊維径は、透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影し測定することができる。その際、測長機能を有するTEMでは、測長機能を活用して測定することができる。また、測長機能の無いTEMでは、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0015】
前記ナノファイバーにおいて、アスペクト比(繊維径Dに対する繊維長Lの比L/D)としては、100~2500の範囲内であることが好ましい。
【0016】
前記ナノファイバーの繊維種類としてはポリエステル繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などが例示され、なかでもポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル繊維は、繊維の融点が260~270℃であり、耐熱性、耐溶剤性、加水分解性に優れ、セパレータまたはセパレータ基材として、信頼性の高い繊維である。ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレートの他、これらを主たる繰返し単位とし、その他のコモノマー成分としてイソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等を更に共重合させた共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0017】
前記ナノファイバーの製造方法としては、特に限定されないが、国際公開第2005/095686号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、繊維径およびその均一性の点で、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分を有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。
【0018】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300~3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の繊維が得られないおそれがある。
【0019】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。さらに具体例を挙げれば、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが、アルカリ水溶液に対して溶解しやすく好ましい。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液等を言う。これ以外にも、海成分と、該海成分を溶解する溶液の組合せとしては、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0020】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングリコールを3~10質量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10質量%以上になると、溶融粘度が低下するおそれがある。
【0021】
一方、島成分を形成する難溶解性ポリマーとしては、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリオレフィン類等が好適な例として挙げられる。具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステル類では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。また、ポリアミド類では、ナイロン6(Ny-6)、ナイロン66(Ny-66)等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。また、ポリオレフィン類は酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸等のビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合率が20モル%以下のポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が高い融点による耐熱性や力学的特性を備えているので、ポリビニルアルコール/ポリアクリロニトリル混合紡糸繊維からなる極細フィブリル化繊維に比べ、耐熱性や強度を要求される用途へ適用でき、好ましい。なお、島成分は丸断面に限らず、三角断面や扁平断面等の異型断面であってもよい。
【0022】
前記の海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の主体繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、艶消し剤、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0023】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合質量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合や、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0024】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1~2.0、特に1.3~1.5の範囲であるこの比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0025】
次に島数は、100以上(より好ましくは300~1000)であることが好ましい。また、その海島複合質量比率(海:島)は、20:80~80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80質量%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方、20質量%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0026】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するもの等任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200~5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪くなるおそれがある。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪くなるおそれがある。
【0027】
得られた繊維は、海成分を抽出後に得られる極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもよい。
【0028】
次に、かかる複合繊維を、島径Dに対する繊維長Lの比L/Dが100~2500の範囲内となるようにカットする。かかるカットは、数十本~数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッター等でカットすることが好ましい。
【0029】
前記の繊維径を有する繊維は、前記複合繊維にアルカリ減量加工を施すことにより得られる。その際、アルカリ減量加工において、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1~5%であることが好ましく、さらには0.4~3%であることが好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%を越えると繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
【0030】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5~60分であることが好ましく、さらには10~30分であることが好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分を越えると島成分までも減量されるおそれがある。
【0031】
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2~10質量%であることが好ましい。2質量%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10質量%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0032】
なお、前記のカット工程とアルカリ減量工程の順序を逆にして、まずアルカリ減量加工を行った後、カットを行ってもよい。
【0033】
前記不織布において、前記ナノファイバーが不織布重量対比40重量%以上(より好ましくは40~90重量%)含まれることが好ましい。特に、前記不織布において、前記ナノファイバーに加えて、さらに未延伸繊維や複合繊維からなる熱融着性繊維(バインダー繊維)が含まれることが好ましい。
【0034】
前記の未延伸繊維や複合繊維からなる熱融着性繊維としては、繊維径が100~1500nmの熱融着性極細ファイバーや単繊維繊度が0.1dtex(繊維径3μm)以上のる熱融着性繊維が例示される。かかる熱融着性繊維は未延伸繊維(複屈折率(Δn)が0.05以下)でもよいし複合繊維でもよい。
【0035】
未延伸繊維からなる熱融着性繊維を用いる場合、抄紙後のドライヤーの後、熱圧着工程が必要であるため、抄紙後、カレンダー/エンボス処理を施すことが好ましい。未延伸繊維としては、紡糸速度が好ましくは800~1200m/分、さらに好ましくは900~1150m/分で紡糸された未延伸ポリエステル繊維や未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維が挙げられる。ここで、未延伸繊維に用いられるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられ、好ましくは生産性、水への分散性等の理由から、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、未延伸繊維に用いられるポリフェニレンスルフィドとしては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができる。その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0036】
一方、熱融着性繊維のうち、複合繊維としては、抄紙後に施す80~170℃の熱処理によって融着し接着効果を発現するポリマー成分(例えば、非晶性共重合ポリエステル)が鞘部に配され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の通常のポリエステル)が芯部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。なお、バインダー成分(低融点成分)が単繊維の表面の全部または一部を形成している、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維等でもよい。
【0037】
ここで、上記非晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の酸成分と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分とのランダムまたはブロック共重合体として得られる。中でも、従来から広く用いられているテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコストの面で好ましい。このような共重合ポリエステルは、ガラス転移点が50~100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0038】
前記不織布は湿式不織布からなることが好ましい。かかる湿式不織布を製造する方法としては、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機、あるいはこれらを複数台組み合わせて多層抄きなどとして抄紙した後、熱処理する製造方法が好ましい。その際、熱処理工程としては、抄紙工程後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも可能である。また、熱処理の後、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーなどのカレンダーを施してもよい。多層構造を有する不織布の製造方法としては、例えば、前記のような湿式不織布を得た後、カレンダー機などを用いて接着させるとよい。
【0039】
次いで、前記不織布(片面または両面)にフィラーを含有しない樹脂塗工液を塗工(積層)して複合化することが重要である。前記樹脂塗工液は有機フィラーや無機フィラーを含有しないことが重要である。塗工液に有機フィラーや無機フィラーなどのフィラーを含有する場合、それによる抵抗の増大が生じ、寿命低下やレート特性の低下を引き起こすおそれがある。また、フィラーによる表面の不均一化や塗工層が厚膜化するおそれがある。塗工液の種類は特に限定されるものではないが、アラミド系樹脂やフッ素系樹脂などが好ましい。塗工量(塗布量)としては固形分で0.5~5.0g/mの範囲内が好ましい。
【0040】
本発明の電池セパレータにおいて、厚みは30μm以下が好ましい。これよりも厚い場合は、抵抗が大きくなってしまい、また電池をよりコンパクトにする上で、デメリットがある。厚みは薄い方が好ましいが、不織布の均一性の観点から10μm以上が好ましい。
【0041】
また、電池セパレータにおいては小さな孔径でかつ、均一な孔径分布が好ましい。具体的には、平均孔径1.0μm以下であることが好ましい。また、最大孔径2.0μm以下であることが好ましい。さらには、最大孔径を平均孔径で除した値が2.5以下であることが好ましい。孔径が大きいとセパレータの絶縁性が低く、短絡が生じやすく、電池としての安全性に欠ける。また、最大孔径を平均孔径で除した数が2.5よりも大きい場合には孔径のムラが大きく、イオン伝導の偏りが生じやすいため寿命低下を引き起こすおそれがある。特に、ハイレートでの充放電試験ではイオンの移動が大きな孔径箇所に偏りが生じ、性能が劣ってしまうおそれがある。
【0042】
かくして得られた電池セパレータは熱安定性については、180℃、1時間放置後の熱収縮率がMD方向およびCD方向ともに3%以下(より好ましくは0.1~2.0%)であることが好ましい。セパレータが高温になったときに、収縮したり融けて破れが発生することにより孔が広がり短絡が発生することのないよう、熱安定性・耐熱性が高いことが好ましい。収縮率がこれよりも大きい場合は、耐熱性不足の発火や破裂などのおそれがある。また、不織布の強度については突き刺し強度は1.1N以上(より好ましくは1.2~5.0N)が好ましい。突き刺し強度は、応力が集中した時や捲回型製造時に靭性を示すものであり、応力を吸収できるよう大きいほど好ましい。また、マクミラン数が15以下(より好ましくは5~13)であることが好ましい。特に該マクミラン数と前記厚みとの積が200μm以下(より好ましくは50~200μm)であることが好ましい。マクミラン数はイオン抵抗の指標であり、マクミラン数が低い方が電極間のイオン移動がしやすい。マクミラン数×厚みが200μmよりも大きい場合には電極間の距離が大きく、イオン抵抗も大きいため、寿命やレート特性の低下が懸念される。また、ガーレ透気度としては5~20秒/100ccの範囲内であることが好ましい。
【0043】
本発明の電池セパレータは前記の構成を有するので、塗工層に有機フィラーや無機フィラーなどのフィラーを含んでおらず、耐熱性に優れ、薄膜で孔径の微小化均一化に優れる。
【実施例0044】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されているものではない。実施例中の物性は、以下の方法により測定した。
【0045】
(1)繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。ただし、繊維径は、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(n数5の平均値)。
【0046】
(2)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維(短繊維A)を基盤上に寝かせた状態とし、20~500倍で繊維長Lを測定した(n数5の平均値)。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長Lを測定した。
【0047】
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付を測定した。
【0048】
(4)厚さ
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cmにて、サンプル数5で測定し、平均値を求めた。
【0049】
(5)ガーレ透気度
JIS P8117(紙および板紙の透気度試験方法)に基づいて実施した。
【0050】
(6)孔径
ASTM-F-316にて平均孔径、最大孔径を求めた。
【0051】
(7)突き刺し強度
ハンディー圧縮試験機「KES-G5」(カトーテック製)を用いて測定した。針先端の曲率半径0.5mm、突き刺し速度50±5mm/分で突き刺し試験を行い、最大突き刺し荷重を突き刺し強度(N)とした。
【0052】
(8)熱収縮率
MD100mm×CD100mmのシートサンプルを180℃乾燥機中に1時間放置し、処理後のMDおよびCDの長さから、収縮率を算出した。
【0053】
(9)マクミラン数
セパレータを20mmφに切り出し、電解液に含侵させた後に2枚のSUS電極に挟み、10kHzでの交流インピーダンス法から算出した電導度で電解液の電導度を除し、算出した。電解液は1M LiPF6 EC/DEC(1:1)を用い、測定温度は25℃とした。
【0054】
[実施例1]
繊維径400nmのナノファイバー(ポリエステル繊維)60重量%と、繊維径1200nmの熱融着性極細繊維(ポリエステル未延伸繊維)20重量%と、繊維径4.5μmの熱融着性繊維(ポリエステル未延伸繊維)20重量%とからなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製した。かかる原紙をさらにカレンダー熱処理して、所望の厚みに調整した。さらに、有機フィラーも無機フィラーも含有しない(フィラーを含有しない)フッ素系樹脂塗工液を、バーコーターを使用して片面に塗工・乾燥後に、さらに同じフッ素系樹脂塗工液を裏面に塗工・乾燥し、塗工量2g/mとなるよう両面塗工シート(電池セパレータ)を作製した。
【0055】
かかる電池セパレータは、基材がポリエステル繊維から構成され、かつ樹脂塗工されているので耐熱性に優れるものであった。さらには不織布の繊維ネットワークに樹脂膜を形成し三次元構造を強化することで、孔径が小さく均一化し、突刺し強度が高いものであった。また、樹脂層にフィラーを含まないために塗工による厚みの増加やイオン抵抗の増加が抑制された。評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
塗工量を3g/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で不織布を作製し、物性を測定した。実施例1と同様に不織布の繊維ネットワークへの樹脂膜の形成により三次元構造を強固にすることで耐熱性、孔径の均一化に優れ、突刺し強度が高く、さらにガーレ―透気度が10秒/100cc以上の電池セパレータが得られた。また、塗工量を増やしてもフィラーを含まないために厚みの増加や内部抵抗の増加が抑制された。評価結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1の不織布と同様にカレンダー紙を得て、樹脂塗工は施さずに試料を作製し、物性を測定した。基材がポリエステル繊維から構成されるため耐熱性に優れるが、樹脂塗工をしていないために孔径分布が広く、また、最大孔径を平均孔径で除した数が大きく、不均一なイオン移動を引き起こすおそれがある。また、樹脂塗工による繊維ネットワークの膜化がないため、突刺し強度が低いものであった。評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1の不織布と同様にカレンダー紙を作製し、バインダーポリマーを含む水性塗工液に0.5μm粒子径の酸化アルミナ粒子を40重量%となるよう添加し、バーコーターを使用して片面を塗工・乾燥後に、さらに同じ塗工液を裏面に塗工・乾燥し、塗工量12.5g/mとなるよう両面塗工シートを作製し、物性を測定した。無機フィラーを含むために厚みの増加やセパレータのイオン抵抗が増加し、寿命やハイレート特性の低下が懸念される。評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例3]
繊維径400nmのナノファイバー(ポリエステル繊維)20重量%と繊維径3μmのマイクロファイバー(ポリエステル繊維)50重量%繊維径と繊維径4.5μmの熱融着性繊維(ポリエステル未延伸繊維)30重量%からなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製した。かかる原紙をさらにカレンダー熱処理して、所望の厚みに調整した。繊維径400nmのナノファイバー比率が20重量%と少ないために平均孔径が1.45μm、最大孔径が2.83μmと実施例1、2に比べると大きかった。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
繊維径700nmのナノファイバー(ポリエステル繊維)50重量%と繊維径1200nmの熱融着性極細繊維(ポリエステル未延伸繊維)30重量%および繊維径4.5μmの熱融着性繊維(ポリエステル未延伸繊維)20重量%からなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製した。かかる原紙をさらにカレンダー熱処理して、所望の厚みに調整した。ナノファイバーの繊維径が700nmのため平均孔径0.94μm、最大孔径2.52μmと孔径が大きくなり、短絡などの危険性が懸念される。また最大孔径を平均孔径で除した数が2.7と孔径分布が広くなり、イオン移動の偏りが生じてイオン抵抗が高いものであった。評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例4]
比較例3の不織布と同様にカレンダー紙を作製し、バインダーポリマーを含む水性塗工液に0.5μm粒子径の酸化アルミナ粒子を40重量%となるよう添加し、バーコーターを使用して片面を塗工・乾燥後に更に裏面を塗工・乾燥し塗工量25.5g/mとなるよう両面塗工シートを作製し、物性を測定した。無機フィラーを含むために厚みの増加やセパレータのイオン抵抗が増加し、寿命やハイレート特性の低下が懸念される。評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例5]
繊維径3μmのマイクロファイバー(ポリエステル繊維)50重量%と繊維径4.5μmの熱融着性繊維(ポリエステル未延伸繊維)50重量%からなるポリエステル不織布を湿式抄紙方法により作製した。かかる原紙をさらにカレンダー熱処理した。繊維径が太いために平均孔径、最大孔径が大きくなってしまい、短絡などの危険性が懸念される。評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例6]
比較例5の不織布と同様にカレンダー紙を作製し、バインダーポリマーを含む水性塗工液に0.5μm粒子径の酸化アルミナ粒子を40重量%となるよう添加し、バーコーターを使用して片面を塗工・乾燥後に更に裏面を塗工・乾燥し塗工量4.8g/mとなるよう両面塗工シートを作製し、物性を測定した。基材の繊維径が太く、孔径が大きいため塗工時の粒子の裏抜けが生じ加工性が悪かった。また、塗工をしても最大孔径は17μmと大きく、最大孔径を平均孔径で除した数が14.2と大きいため孔径分布が広く、不均一な構造体であり、イオン抵抗が大きいため短絡などの危険性が懸念される。評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例7]
ポリオレフィンから成る微多孔膜を評価した。微細な孔径制御に優れるものの、ポリオレフィンから構成されるため耐熱性が低く、高温時のセパレート機能の安全性が低い。また、イオン抵抗が大きいため、寿命やハイレート特性の低下が懸念される。評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、耐熱性に優れ、薄膜で孔径が小さい電池セパレータ用不織布および電池セパレータが提供され、その工業的価値は極めて大である。