(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098798
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20220627BHJP
B60R 22/12 20060101ALI20220627BHJP
B60R 21/233 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R22/12
B60R21/233
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212396
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 周司
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
(72)【発明者】
【氏名】田中 志幸
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 友輔
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】平岩 佑都
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
【テーマコード(参考)】
3D018
3D054
【Fターム(参考)】
3D018BA17
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA21
3D054CC04
3D054EE19
3D054EE22
3D054EE26
3D054EE36
(57)【要約】
【課題】頭部の前方への移動を抑制して、乗員保護性能を高める。
【解決手段】エアバッグ装置40のエアバッグ41は、シートバック13のうち、幅方向における一方の側部15内に設けられた収納部35に収納される。エアバッグ41は、車両用シート11の前方から車両に衝撃が加わった場合に、膨張用ガスが供給されて膨張し、自身の一部を収納部35に残した状態で、ヘッドレスト16の側方へ出る。収納部35から出たエアバッグ41の一部は、シートバック13の後方へ展開及び膨張し、ヘッドレスト16よりも後方で、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて展開及び膨張する。収納部35から出たエアバッグ41の別の一部は、シートバック13の前方へ展開及び膨張し、乗員P1の頭部PHよりも前方で、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、頭部PHに巻き付くように展開及び膨張する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの幅方向における一方の側部の内部、又はヘッドレストの内部に収納部が設けられた乗物用シートに適用されるエアバッグ装置であり、
前記収納部に収納され、かつ前記乗物用シートの前方から乗物に対し衝撃が加わった場合、又は加わることが予測される場合に、膨張用ガスが供給されて膨張し、自身の一部を前記収納部に残した状態で同収納部から、前記幅方向における前記ヘッドレストの側方へ出るエアバッグを備え、
前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た前記エアバッグの一部は、前記シートバックの後方へ展開及び膨張し、前記ヘッドレストよりも後方で、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて展開及び膨張し、
前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た前記エアバッグの別の一部は、前記シートバックの前方へ展開及び膨張し、前記乗物用シートに着座した乗員の頭部よりも前方で、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記頭部に巻き付くように展開及び膨張するエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグのうち、前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た部分は、
前記収納部内に残った部分に連通され、かつ前記乗物用シートの前後両方向へ展開及び膨張する通路部と、
前記通路部の後端部を起点として、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記ヘッドレストの後方を展開及び膨張する後膨張部と、
前記通路部の前端部を起点として、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記頭部の前方を展開及び膨張する前膨張部と
を備え、
前記頭部の重心を前後方向に通る仮想線を中心線とした場合、
前記前膨張部は、前記幅方向であって、前記通路部の前記前端部から前記中心線までの領域と、前記中心線を越える領域とで展開及び膨張することで、前記頭部に巻き付く請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記乗物は、前記乗員をシートベルトにより前記乗物用シートに拘束するシートベルト装置を備えており、
前記シートベルトは、前記幅方向における前記シートバックの片方の側部の上端部から、前記シートバックの斜め前下方へ引き出されるショルダベルト部を備えており、
前記ショルダベルト部の上部を被規制部とした場合、
前記エアバッグは、下方へ突出して前記被規制部を下方へ押圧する、又は下方へ突出して前記被規制部と前記乗員の頸部との間に入り込む突出膨張部を有している請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記収納部は、前記幅方向における前記シートバックの両側部のうち、前記被規制部と同じ側の側部に設けられており、
前記突出膨張部は、前記通路部に設けられている請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記収納部は、前記幅方向における前記シートバックの両側部のうち、前記被規制部から遠い側の側部に設けられており、
前記エアバッグは、前記通路部から前記被規制部に向けて、前記頭部と前記ヘッドレストとの間を展開及び膨張する副膨張部をさらに備え、
前記突出膨張部は前記副膨張部に設けられている請求項3に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物に対し乗物用シートの前方から衝撃が加わった場合、又は加わることが予測される場合にエアバッグを展開及び膨張させることにより、乗員を衝撃から保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等により、車両に対し車両用シートの前方から衝撃が加わった場合、又は加わることが予測される場合に、乗員を衝撃から保護する装置としてエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置の一形態として、例えば、特許文献1では、車両用シートの内部、より詳しくは、シートバックの幅方向における中央部の内部、又はヘッドレストの内部に収納部が設けられ、この収納部にエアバッグが収納されている。エアバッグは、それぞれテアシームを有する2つの膨張部を備えている。
【0003】
上記の構成を有するエアバッグ装置において、エアバッグに膨張用ガスが供給されると、エアバッグは、一部を収納部内に残した状態で同収納部から外部へ出る。エアバッグの両膨張部は、膨張開始当初は、テアシームの拘束によって、シートバックの幅方向における互いに反対方向へ展開及び膨張する。次いで、テアシームが破断されることで、各膨張部は、上記幅方向における乗員の頸部の両側方で、同頸部に沿って弧状に湾曲した形状に展開及び膨張する。従って、頸部を両膨張部によって拘束して、同頸部を衝撃から保護することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に記載されたエアバッグ装置では、各膨張部が頸部に沿って弧状に湾曲したときに、各膨張部の前端部が、頸部の前方で互いに上記幅方向に離間する。両膨張部の前端部間に間隙が生ずる。そのため、車両に対し、車両用シートの前方から衝撃が加わって、乗員が慣性によって前方へ移動しようとした場合、頸部が両膨張部の前端部間の間隙からすり抜けるおそれがある。従って、頭部の前方への移動抑制を通じて、乗員を衝撃から保護する性能を高める点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するエアバッグ装置は、シートバックの幅方向における一方の側部の内部、又はヘッドレストの内部に収納部が設けられた乗物用シートに適用されるエアバッグ装置であり、前記収納部に収納され、かつ前記乗物用シートの前方から乗物に対し衝撃が加わった場合、又は加わることが予測される場合に、膨張用ガスが供給されて膨張し、自身の一部を前記収納部に残した状態で同収納部から、前記幅方向における前記ヘッドレストの側方へ出るエアバッグを備え、前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た前記エアバッグの一部は、前記シートバックの後方へ展開及び膨張し、前記ヘッドレストよりも後方で、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて展開及び膨張し、前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た前記エアバッグの別の一部は、前記シートバックの前方へ展開及び膨張し、前記乗物用シートに着座した乗員の頭部よりも前方で、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記頭部に巻き付くように展開及び膨張する。
【0007】
上記の構成によれば、乗物用シートの前方から乗物に対し衝撃が加わると、又は加わることが予測されると、膨張用ガスがエアバッグに供給される。エアバッグは膨張し、自身の一部を収納部に残した状態で同収納部から、シートバックの幅方向におけるヘッドレストの側方へ出る。収納部からヘッドレストの側方へ出たエアバッグの一部は、シートバックの前方へ展開及び膨張する。エアバッグの上記一部は、乗物用シートに着座した乗員の頭部よりも前方で、上記幅方向のうち収納部から遠ざかる側へ向けて、頭部に巻き付くように展開及び膨張する。エアバッグの上記部分は頭部を拘束し、同頭部が前方へ移動するのを規制する。従って、乗物に対し衝撃が加わって、乗員が慣性によって前方へ移動しようとしても、その移動は、上記エアバッグによる頭部の拘束を通じて適切に規制される。
【0008】
また、上記乗物用シートが前席を構成するものであり、上記乗物用シートの後方に、後席を構成する乗物用シートが配置され、後席の乗員がその乗物用シートに着座している場合には、上記衝撃に応じ、後席の乗員の頭部が慣性によって前方へ移動しようとする。
【0009】
この点、上記の構成によれば、収納部から出たエアバッグの一部は、シートバックの後方へ展開及び膨張し、ヘッドレストよりも後方を、上記幅方向のうち収納部から遠ざかる側へ向けて展開及び膨張する。エアバッグの上記部分は、後席の乗員の頭部を前方から受け止めることで、衝撃から同頭部を保護する。
【0010】
また、エアバッグのうち、収納部から出てシートバックの後方へ展開及び膨張する上記部分は、収納部から出てシートバックの前方へ展開及び膨張する部分(頭部に巻き付くように展開及び膨張する部分を含む)が収納部を起点として回動するのを規制する機能を発揮する。このように、シートバックの後方へ展開及び膨張する上記部分は、エアバッグによる頭部の拘束に寄与する。
【0011】
上記エアバッグ装置において、前記エアバッグのうち、前記収納部から前記ヘッドレストの側方へ出た部分は、前記収納部内に残った部分に連通され、かつ前記乗物用シートの前後両方向へ展開及び膨張する通路部と、前記通路部の後端部を起点として、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記ヘッドレストの後方を展開及び膨張する後膨張部と、前記通路部の前端部を起点として、前記幅方向のうち前記収納部から遠ざかる側へ向けて、前記頭部の前方を展開及び膨張する前膨張部とを備え、前記頭部の重心を前後方向に通る仮想線を中心線とした場合、前記前膨張部は、前記幅方向であって、前記通路部の前記前端部から前記中心線までの領域と、前記中心線を越える領域とで展開及び膨張することで、前記頭部に巻き付くことが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、収納部からヘッドレストの側方へ出たエアバッグの通路部は、乗物用シートの前後両方向へ展開及び膨張する。
エアバッグの前膨張部は、通路部の前端部を起点として、上記幅方向のうち収納部から遠ざかる側へ向けて、頭部の前方を展開及び膨張する。そして、前膨張部は、上記幅方向であって、通路部の前端部から中心線までの領域と、中心線を越える領域とで展開及び膨張することによって、頭部に巻き付く。前膨張部は、頭部を拘束し、同頭部の前方への移動を規制する。従って、乗物に対する衝撃により、乗員が慣性によって前方へ移動しようとしても、その移動は、前膨張部による頭部の拘束を通じて適切に規制される。
【0013】
また、前膨張部の先端部の位置が中心線から遠ざかるに従い、すなわち、前膨張部が長くなるに従い、次の効果も期待できる。それは、乗物用シートが上下方向へ延びる回転軸を回転中心として回転された場合や、乗物用シートの斜め前方から乗物に衝撃が加わった場合であっても、頭部を前膨張部によって受け止め、衝撃の加わった方向への頭部の移動を規制することが可能となることである。
【0014】
また、エアバッグの後膨張部は、通路部の後端部を起点として、上記幅方向のうち収納部から遠ざかる側へ向けて、ヘッドレストの後方を展開及び膨張する。後膨張部の前方にはヘッドレストが位置し、後膨張部は、前方への移動をヘッドレストによって規制される。従って、後席の乗員の頭部が後膨張部によって前方から受け止められ、衝撃から同頭部が保護される。
【0015】
上記エアバッグ装置において、前記乗物は、前記乗員をシートベルトにより前記乗物用シートに拘束するシートベルト装置を備えており、前記シートベルトは、前記幅方向における前記シートバックの片方の側部の上端部から、前記シートバックの斜め前下方へ引き出されるショルダベルト部を備えており、前記ショルダベルト部の上部を被規制部とした場合、前記エアバッグは、下方へ突出して前記被規制部を下方へ押圧する、又は下方へ突出して前記被規制部と前記乗員の頸部との間に入り込む突出膨張部を有していることが好ましい。
【0016】
ここで、乗物用シートに着座した乗員は、シートベルト装置によって同乗物用シートに拘束される。この状態では、ショルダベルト部の被規制部は、乗員の頸部の側方近傍に位置する。
【0017】
この点、上記の構成によれば、エアバッグに設けられた突出膨張部は、同エアバッグが展開及び膨張したとき、下方へ突出して上記被規制部を下方へ押圧する。この押圧により、突出膨張部と被規制部との間に摩擦が生じ、被規制部が頸部に近づくことを規制される。又は、突出膨張部は、下方へ突出して上記被規制部と頸部との間に入り込む。突出膨張部の入り込んだ部分が障壁として機能する。被規制部が突出膨張部に接触することで、上記被規制部が頸部に近づくことを規制される。従って、上記いずれの場合にも、上記突出膨張部が設けられない場合に比べ、ショルダベルト部が頸部に食い込みにくくなる。
【0018】
上記エアバッグ装置において、前記収納部は、前記幅方向における前記シートバックの両側部のうち、前記被規制部と同じ側の側部に設けられており、前記突出膨張部は、前記通路部に設けられていることが好ましい。
【0019】
上記の構成によるように、収納部が、上記幅方向におけるシートバックの両側部のうち、ショルダベルト部の被規制部と同じ側の側部に設けられている場合には、通路部の一部に設けられた突出膨張部が下方へ突出して、上記被規制部を下方へ押圧する。又は、通路部から下方へ突出した突出膨張部は、被規制部と頸部との間に入り込む。このように、通路部に突出膨張部を設けることで、同通路部を介して突出膨張部に膨張用ガスを導き、同突出膨張部を下方へ突出させることが可能である。
【0020】
上記エアバッグ装置において、前記収納部は、前記幅方向における前記シートバックの両側部のうち、前記被規制部から遠い側の側部に設けられており、前記エアバッグは、前記通路部から前記被規制部に向けて、前記頭部と前記ヘッドレストとの間を展開及び膨張する副膨張部をさらに備え、前記突出膨張部は前記副膨張部に設けられていることが好ましい。
【0021】
上記の構成によるように、収納部が、上記幅方向におけるシートバックの両側部のうち、被規制部から遠い側の側部に設けられている場合には、エアバッグが次のように展開及び膨張する。収納部から、上記幅方向におけるヘッドレストの側方へ出た通路部が、上記前後両方向へ展開及び膨張する点は、上述した通りである。この通路部からは、副膨張部がショルダベルト部の被規制部に向けて、乗員の頭部とヘッドレストとの間を展開及び膨張する。頭部は、前膨張部と副膨張部とによって前後両方向から挟み込まれる。頭部が上記前後両方向から拘束された状態となる。副膨張部が設けられない場合に比べ、頭部の前後方向の移動が規制される。乗員の頸部への負荷がより一層低減される。
【0022】
また、副膨張部に設けられた突出膨張部は、同副膨張部から下方へ突出して、上記被規制部を下方へ押圧する。又は、副膨張部から下方へ突出した突出膨張部は、上記被規制部と頸部との間に入り込む。このように、副膨張部に突出膨張部を設けることで、通路部の膨張用ガスを、副膨張部を介して突出膨張部に導き、同突出膨張部を下方へ突出させることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
上記エアバッグ装置によれば、頭部の前方への移動を抑制して、乗員保護性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態におけるエアバッグ装置を、車両用シート、乗員及びシートベルト装置とともに示す部分側面図。
【
図2】第1実施形態におけるエアバッグ装置を、車両用シート、乗員及びシートベルト装置とともに示す部分平面図。
【
図3】第1実施形態において、シートベルト装置によって乗員が車両用シートに拘束された状態を示す部分斜視図。
【
図4】
図2に対応する図であり、第2実施形態におけるエアバッグ装置を、車両用シート、乗員及びシートベルト装置とともに示す部分平面図。
【
図5】
図2に対応する図であり、第2実施形態の変形例におけるエアバッグ装置を、車両用シート、乗員及びシートベルト装置とともに示す部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、乗物としての車両における前席用のエアバッグ装置に具体化した第1実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。第1実施形態では、自動運転機能を有する車両を、エアバッグ装置40が搭載される対象の車両10としている。
【0026】
なお、以下の記載において、上下方向は車両10の上下方向を意味する。また、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が、正規の姿勢で着座しているものとする。
【0027】
図1及び
図2に示すように、車両10の室内には、前席を構成する乗物用シートとして、車両用シート11が配置されている。車両用シート11は、シートクッション12、シートバック13及びヘッドレスト16を備えている。シートクッション12は、車体の床に設置されたレール(図示略)に対し、車両用シート11の前後方向の位置を調整可能に取付けられている。シートバック13は、シートクッション12の後部から、上側ほど後方に位置するように傾斜した状態で起立しており、傾斜角度を調整可能に構成されている。
【0028】
なお、車両用シート11は、上下方向へ延びる回転軸(図示略)を回転中心として回転可能である。この回転により、シートバック13が向く方向を変更可能である。
図1及び
図2では、シートバック13が車両10の前方を向いている。この場合、車両10の前後方向と、車両用シート11の前後方向とは合致する。また、車両用シート11の幅方向と、車幅方向とは合致する。シートバック13が車両10の前方を向いた状態から車両用シート11が回転されると、同車両用シート11の前後方向は、車両10の前後方向及び車幅方向の両方向に対し傾斜する。
【0029】
そのため、以降の記載では、特に断わりがない限り、車両用シート11の前後方向を基準に、前後方向を特定する。また、車両用シート11の幅方向を基準に、幅方向を特定する。従って、「前後方向」と記載した場合には、車両用シート11の前後方向を意味する。「幅方向」と記載した場合には、車両用シート11の幅方向を意味するものとする。
【0030】
また、車両10の上記室内において上記車両用シート11の後方には、後席を構成する車両用シート(図示略)が配置されている。
車両10には、その車両用シート11に着座している乗員P1を同車両用シート11に拘束するためのシートベルト装置20が搭載されている。シートベルト装置20は、シートベルト21、巻取り装置(リトラクタとも呼ばれる)24、タング31及びバックル32を備えている。なお、
図1では、バックル32が一部のみ図示されている。
【0031】
シートベルト21は乗員P1を直接拘束する部材であり、ウェビングとも呼ばれる。シートベルト21の一方の端部22は、アンカプレート23に取付けられている。アンカプレート23は、シートクッション12の一方の側方に配置され、車両用シート11を構成する部材のうち、強度の高い部材に固定されている。
【0032】
巻取り装置24は、車両10の自動運転時に、車両用シート11が回転されたり、シートバック13がリクライニングされたりしても、後述するベルトガイド25との位置関係が変化しないように、同シートバック13の内部、より詳しくは、上記幅方向における一方の側部15の内部に配置されている。上記シートベルト21の他方の端部は、巻取り装置24に連結されている。
【0033】
そして、シートベルト21に対し加えられる引張り力が、巻取り装置24がシートベルト21を巻き取る方向へ付勢する付勢力を上回ると、シートベルト21が巻取り装置24から引き出される。その逆に、上記付勢力が引張り力を上回ると、シートベルト21が巻取り装置24によって巻き取られる。
【0034】
図1~
図3に示すように、上記幅方向におけるシートバック13の両側部14,15のうち、片方の側部の上端部には、ベルトガイド25が配置されている。第1実施形態では、ベルトガイド25は、側部15の直上に配置されている。ベルトガイド25は、シートバック13内に配置された剛性の高い部材、例えば、シートフレーム(図示略)に取付けられている。巻取り装置24から引き出されたシートベルト21の一部は、ベルトガイド25に摺動可能に挿通され、シートバック13の前方に配置されている。
【0035】
タング31は、シートベルト21に対し、長さ方向へ移動可能に取り付けられている。バックル32は、上記幅方向におけるシートクッション12の上記アンカプレート23とは反対側に配置されている。バックル32は、車両用シート11を構成する部材のうち、強度の高い部材に固定されている。バックル32には、タング31が係脱可能に装着される。
【0036】
シートベルト装置20では、シートベルト21に対してタング31を摺動させることで、ラップベルト部26及びショルダベルト部27の各長さを変更可能である。ラップベルト部26は、シートベルト21において、タング31からシートベルト21のアンカプレート23側の端部22までの部分であり、着座した乗員P1の腰部PPであって、上記幅方向における一側方から同腰部PPの前を経由して他側方に架け渡される。
【0037】
ショルダベルト部27は、シートベルト21において、シートバック13の側部15の上記上端部のベルトガイド25から、同シートバック13の斜め前下方へ引き出される部分である。表現を変えると、ショルダベルト部27は、シートベルト21において、上記ベルトガイド25とタング31との間の部分である。ショルダベルト部27は、着座した乗員P1の側部15側の肩部PSから斜めに胸部PTの前方を経由して腰部PPの側部14側の側方に架け渡される。
【0038】
ショルダベルト部27の上部は、乗員P1の頸部PNの側方近傍に位置する。ショルダベルト部27のこの部分を、他の部分と区別するために「被規制部28」というものとする。
【0039】
シートバック13の上部のうち、上記幅方向における一方の側部内には、収納部35が設けられている。第1実施形態では、収納部35は側部15内に設けられている。この側部15は、上記幅方向における両側部14,15のうち、上記被規制部28と同じ側の側部である。
【0040】
収納部35には、エアバッグ装置40の主要部をなすエアバッグモジュールABMが収納されている。エアバッグモジュールABMは、エアバッグ41と、膨張用ガスを発生して、ガス噴出部から同膨張用ガスをエアバッグ41に供給するガス発生器50とを備えている。
【0041】
ガス発生器50には、膨張用ガスの生成態様の違いから複数のタイプがあるが、ここでは、パイロタイプと呼ばれるタイプが用いられている。このパイロタイプのガス発生器50の内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。
【0042】
なお、ガス発生器50として、上記パイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるストアードガスタイプが用いられてもよい。また、ガス発生器50として、パイロタイプとストアードガスタイプの両者を組み合わせた形態のハイブリッドタイプが用いられてもよい。
【0043】
エアバッグ41は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等によって形成した織布等を基布として用い、この基布の周縁部を縫製糸で縫着すること等によって形成されている。
【0044】
エアバッグ41は、膨張用ガスが供給されて膨張し、自身の一部を上記収納部35に残した状態で同収納部35から、ヘッドレスト16の側方へ出る。
図1及び
図2の二点鎖線は、エアバッグ41のうち、収納部35からヘッドレスト16の側方へ出て、展開及び膨張させられた部分を模式的に示している。エアバッグ41の上記部分は、通路部42、前膨張部44及び後膨張部45を備えている。通路部42は、エアバッグ41のうち収納部35内に残った部分に連通されている。通路部42は、車両用シート11の前後方向へ展開及び膨張する。後膨張部45は、通路部42の後端部42rから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、ヘッドレスト16の後方を展開及び膨張する。
【0045】
前膨張部44は、通路部42の前端部42fから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、頭部PHの前方を展開及び膨張する。ここで、
図2に示すように、頭部PHの重心を前後方向に通る仮想線を、中心線CLというものとする。前膨張部44は、上記幅方向であって、通路部42の前端部42fから上記中心線CLまでの領域と、中心線CLを越える領域とで展開及び膨張することで、頭部PHに巻き付く。前膨張部44の前端部42fとは反対側の端部を先端部というものとすると、この先端部は、中心線CLよりも側部14側に位置している。
【0046】
図1及び
図2に示すように、上記通路部42の一部は、ショルダベルト部27における被規制部28の上方に位置する。通路部42は、上記部分に、下方へ突出して被規制部28を下方へ押圧する突出膨張部43を有している。
【0047】
上記ガス発生器50の少なくともガス噴出部は、エアバッグ41の内部に配置されている。第1実施形態では、ガス発生器50の全体がエアバッグ41の内部に収容されている。図示はしないが、エアバッグ41は、ガス発生器50を収容した箇所とは異なる箇所が折り畳まれることにより、コンパクトな形態にされている。これは、エアバッグ41を、シートバック13における限られた大きさの収納部35に対し、収納に適したものとするためである。
【0048】
ガス発生器50はエアバッグ41と一緒に、上記収納部35に配置され、シートバック13内のシートフレーム(図示略)に締結されている。
エアバッグ装置40は、さらに
図1に示す衝撃センサ51及び制御装置52を備えている。衝撃センサ51は加速度センサ等からなり、車両10に対し車両用シート11の前方から加わる衝撃を検出する。制御装置52は、衝撃センサ51からの検出信号に基づきガス発生器50の作動を制御する。
【0049】
また、車両10には、加減速、制動、操舵等の運転操作を運転者に代わって自動的に行って同車両10を走行させる自動運転制御装置(図示略)が搭載されている。なお、ここでいう自動運転には、指定された目的地まで車両10を完全に自動で走行させるものが含まれるほか、例えば、車線逸脱防止支援機能、車間制御機能、車線制御機能等のように、車両10の走行に係る運転操作の一部を担う運転支援を受ける走行も含まれる。
【0050】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。なお、前提条件として、車両用シート11に着座した乗員P1が、シートベルト装置20によって同車両用シート11に拘束されているものとする。
【0051】
<エアバッグ装置40の非作動時>
車両10に対し、車両用シート11の前方から衝撃が加わったことが衝撃センサ51によって検出されないときには、制御装置52からガス発生器50に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ41は、折り畳まれた状態で収納部35に収納され続ける。
【0052】
<エアバッグ装置40の作動時>
車両10の走行中等に、衝突等により、同車両10に対し車両用シート11の前方から衝撃が加わった場合には、乗員P1が慣性によって前方へ移動しようとする。
【0053】
自動運転機能を有しない車両では、一般に、前席の乗員を上記衝撃から保護するために、ステアリングホイールの内部、インストルメントパネルの内部等にエアバッグを内蔵したタイプのエアバッグ装置が用いられる。このタイプのエアバッグ装置では、シートバックが車両の前方を向いた状態で起立されていることを前提としている。エアバッグをステアリングホイール、インストルメントパネル等から後方へ展開及び膨張させることで、前席の乗員をエアバッグによって受け止め、衝撃から同乗員を保護する。
【0054】
しかし、自動運転機能を有する車両では、シートバックが車両の前方を向き、かつリクライニングされた状態で自動運転が行なわれることがある。この場合、乗員は、リクライニングの角度が大きくなるに従いステアリングホイール、インストルメントパネル等に対し、上記前提の状況よりも後方に遠ざかる。エアバッグは、前席の乗員から前方へ遠く離れた箇所で展開及び膨張する。しかも、ステアリングホイール、インストルメントパネル等は、エアバッグの前方への移動を規制することで、乗員の前方への移動を規制する性能をエアバッグに発揮させる。そのため、上記のようなリクライニング時には、エアバッグが乗員を衝撃から保護する性能を発揮する時期が遅くなる。
【0055】
これに対し、第1実施形態では、車両10の走行中等に、衝突等により、車両10に対し、車両用シート11の前方から所定値以上の衝撃が加わると、そのことが衝撃センサ51によって検出される。衝撃センサ51の検出信号に基づき制御装置52からガス発生器50に対し上記作動信号が出力される。この作動信号に応じて、ガス発生器50で膨張用ガスが発生される。この膨張用ガスが供給されたエアバッグ41は、折り状態の解消(展開)を伴いながら膨張する。この膨張するエアバッグ41によって、シートバック13における側部15の上部が押圧されて、破断される。エアバッグ41は、一部を収納部35内に残した状態で、破断された箇所を通じてシートバック13から収納部35の外部、第1実施形態では側部15の上方であって、ヘッドレスト16の側方へ出る。このエアバッグ41のうち、通路部42は、前後両方向へ展開及び膨張する。
【0056】
通路部42内を前方へ流れる膨張用ガスは、同通路部42の前端部42fに至ると前膨張部44に供給される。前膨張部44は、前端部42fから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、頭部PHの前方を展開及び膨張する。そして、前膨張部44は、上記幅方向であって、前端部42fから頭部PHの中心線CLまでの領域と、中心線CLを越える領域とで展開及び膨張することによって、頭部PHに巻き付く。前膨張部44は、頭部PHを拘束し、同頭部PHの前方への移動を規制する。前膨張部44の先端部が、中心線CLよりも側部14側の箇所に位置するため、頭部PHの前方への移動を規制する性能が、従来技術よりも高い。従って、車両10に対する衝撃により、乗員P1が慣性によって前方へ移動しようとしても、その移動は、前膨張部44による頭部PHの拘束を通じて適切に規制される。
【0057】
第1実施形態では、上記のように、エアバッグモジュールABMが収納部35に収納されている。エアバッグ41の通路部42及び前膨張部44が、前席の乗員P1の頭部PHの近くで展開及び膨張する。そのため、頭部PHの前方への移動を抑制して、乗員保護性能を高める上記効果は、シートバック13の傾斜角度に拘わらず、しかも早期に得られる。すなわち、上記効果は、シートバック13が起立状態にされていても、リクライニング状態にされていても、車両10に衝撃が加わった後、短時間で得られる。
【0058】
また、第1実施形態では、車両用シート11が前席を構成し、同車両用シート11の後方には、後席を構成する車両用シートが配置されている。別の乗員が後席の車両用シートに着座している場合には、上記衝撃により、後席の乗員の頭部が慣性によって前方へ移動しようとする。
【0059】
この点、第1実施形態によれば、上記通路部42内を後方へ流れる膨張用ガスは、同通路部42の後端部42rに至ると後膨張部45に供給される。後膨張部45は、通路部42の後端部42rから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、ヘッドレスト16の後方を展開及び膨張する。後膨張部45の前方にはヘッドレスト16が位置し、後膨張部45は、ヘッドレスト16により前方への移動を規制される。従って、後席の乗員の頭部が後膨張部45によって前方から受け止められ、衝撃から同乗員が保護される。
【0060】
また、エアバッグ41のうち、収納部35から出てシートバック13の後方へ展開及び膨張する上記部分は、収納部35から出てシートバック13の前方へ展開及び膨張する部分が、収納部35を起点として、前膨張部44がヘッドレスト16から遠ざかる方向(
図2の時計回り方向)へ回動するのを規制する。これは、後膨張部45の前方にはヘッドレスト16があり、エアバッグ41の前者の部分が、収納部35を起点としてヘッドレスト16に近づく方向(
図2の時計回り方向)へ回動することが同ヘッドレスト16によって規制されるためである。このように、後膨張部45は後席乗員の頭部を保護するだけでなく、前膨張部44による前席の乗員P1の頭部PHの拘束に寄与する。
【0061】
ところで、乗員P1がシートベルト装置20によって車両用シート11に拘束された状態では、ショルダベルト部27の被規制部28は、乗員P1の頸部PNの側方近傍に位置する。
【0062】
一方で、車両10の自動運転時に、車両用シート11を回転軸の周りに僅かに回転させることで、シートバック13が車両10の斜め前方を向いていることがある。さらに、シートバック13が車両10の前方を向いているが、車両10に対し、斜め前方から衝撃が加わることがある。上記いずれの場合にも、衝撃により被規制部28が頸部PNを押圧したり、同頸部PNに食い込んだりする懸念がある。
【0063】
この点、第1実施形態では、エアバッグ41に突出膨張部43が設けられている。この突出膨張部43は、エアバッグ41が展開及び膨張したとき、下方へ突出して上記被規制部28を下方へ押圧する。この押圧により、被規制部28と突出膨張部43との間に摩擦が生じ、被規制部28が頸部PNに近づくことが規制される。従って、上記突出膨張部43が設けられない場合に比べ、被規制部28が頸部PNに食い込みにくくなる。
【0064】
特に、収納部35が、上記幅方向における両側部14,15のうち、被規制部28と同じ側の側部15に設けられている第1実施形態では、通路部42の一部が、被規制部28の上方に位置する。突出膨張部43は、通路部42から下方へ突出して、被規制部28を
図3において矢印で示すように下方へ押圧する。このように、通路部42を介して膨張用ガスを突出膨張部43に導いて下方へ突出させることができるため、エアバッグ41において、突出膨張部43に膨張用ガスを導く部分を別途設けなくてもすむ。
【0065】
(第2実施形態)
次に、エアバッグ装置40の第2実施形態について、
図4を参照して説明する。
第2実施形態では、エアバッグモジュールABMの収納部35が、上記幅方向におけるシートバック13の両側部14,15のうち、ショルダベルト部27の被規制部28から遠い側の側部14に設けられている。
【0066】
図4の二点鎖線は、一部を収納部35に残した状態で同収納部35からヘッドレスト16の側方へ出て、展開及び膨張させられた状態のエアバッグ41を模式的に示している。上記エアバッグ41が、通路部42、前膨張部44及び後膨張部45を備えている点は第1実施形態と同様である。ただし、通路部42は、エアバッグ41のうち、位置を変更された収納部35内に残った部分に連通されている。通路部42は、第1実施形態とは上記幅方向における反対側、すなわち、ヘッドレスト16よりも側部14側の側方で前後両方向へ展開及び膨張する。
【0067】
これに伴い、後膨張部45及び前膨張部44は、ともに第1実施形態とは逆方向へ展開及び膨張する。すなわち、後膨張部45は、通路部42の後端部42rから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、ヘッドレスト16の後方を展開及び膨張する。また、前膨張部44は、通路部42の前端部42fから、上記幅方向のうち収納部35から遠ざかる側へ向けて、頭部PHの前方を展開及び膨張する。前膨張部44は、上記幅方向であって、通路部42の前端部42fから上記中心線CLまでの領域と、中心線CLを越える領域とで展開及び膨張することによって、頭部PHに巻き付く。
【0068】
さらに、エアバッグ41は、前膨張部44及び後膨張部45の間に副膨張部46を備えている。副膨張部46は、通路部42の上記前後方向における中間部から、被規制部28に向けて頭部PHとヘッドレスト16との間を展開及び膨張する。
【0069】
副膨張部46の通路部42とは反対側の端部を先端部というものとすると、この先端部は、上記被規制部28の上方に位置する。副膨張部46は、上記先端部に、下方へ突出して被規制部28を下方へ押圧する突出膨張部43を有している。
【0070】
なお、エアバッグ41には、副膨張部46の展開及び膨張を遅延させるための遅延機構が設けられている。この遅延機構は、例えば、ベントホールを有する区画壁(図示略)によって構成されている。より詳しくは、副膨張部46内であって、通路部42と先端部との間には、副膨張部46を複数の部屋に区画し、かつベントホールを有する区画壁(図示略)が設けられている。膨張用ガスは、上流側の部屋から下流側の部屋へ流れる際に、ベントホールを通過することで流量を調整される。
【0071】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
第2実施形態によると、収納部35が、上記幅方向における両側部14,15のうち、被規制部28から遠い側の側部14に設けられているものの、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0072】
すなわち、第2実施形態では第1実施形態と同様に、収納部35から上記ヘッドレスト16の側方へ出た通路部42が、前後両方向へ展開及び膨張する。この通路部42からは、副膨張部46が被規制部28に向けて、乗員P1の頭部PHとヘッドレスト16との間を展開及び膨張する。遅延機構におけるベントホールを通過することに伴う膨張用ガスの上記流量調整により、副膨張部46の展開及び膨張が遅延される。
【0073】
そのため、乗員P1が頭部PHをヘッドレスト16に載せている状態で、車両10に対し、車両用シート11の前方から衝撃が加わった場合には、次の効果が期待できる。それは、衝撃により乗員P1が慣性によって前方へ移動し、頭部PHがヘッドレスト16から前方へ離れた状態で、副膨張部46を、頭部PHとヘッドレスト16との間で展開及び膨張させることが可能になることである。頭部PHをヘッドレスト16に載せている状態で、副膨張部46が遅延せずに展開及び膨張する場合に比べ、同副膨張部46の展開及び膨張に伴い頭部PH等に加わる力を小さくすることが可能となる。
【0074】
また、通路部42内の膨張用ガスは、副膨張部46内を流れることで、同副膨張部46の先端部に設けられた突出膨張部43に導かれる。この膨張用ガスにより、突出膨張部43が副膨張部46から下方へ突出して、上記被規制部28を下方へ押圧する。この押圧により、突出膨張部43と被規制部28との間に摩擦を生じさせ、同被規制部28が頸部PNに近づくのを規制し、同被規制部28の頸部PNに対する食い込みを抑制できる。
【0075】
そのほかにも、頭部PHは、前膨張部44と副膨張部46とによって前後両方向から挟み込まれる。頭部PHが前後両方向から拘束された状態となる。副膨張部46が設けられない場合に比べ、頭部PHの前後方向の移動を規制できる。乗員P1の頸部PNへの負荷をより一層低減できる。
【0076】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0077】
<シートベルト装置20について>
・巻取り装置24が、シートバック13において、側部15とは異なる箇所に設けられてもよい。また、巻取り装置24が、車両用シート11において、シートバック13とは異なる箇所に設けられてもよい。
【0078】
<収納部35について>
・収納部35がシートバック13の側部14,15に代えてヘッドレスト16に設けられてもよい。この場合、エアバッグ41は、自身の一部を収納部35に残した状態で同収納部35から、ヘッドレスト16の側方へ出る。
【0079】
<ガス発生器50について>
・ガス発生器50は、少なくともガス噴出部がエアバッグ41内に配置されることを条件に、第1及び第2実施形態とは異なる態様で配置されてもよい。例えば、ガス発生器50のうち、ガス噴出部を含む一部のみがエアバッグ41内に収容されるように配置されてもよい。
【0080】
<エアバッグ41について>
・前膨張部44が展開及び膨張する領域が、上記幅方向であって、通路部42の前端部42fから中心線CLまでの領域と、中心線CLを越える領域とであることを条件に、変更可能である。前膨張部44の先端部が、中心線CLを越えた領域において、同中心線CLに接近した箇所に位置する場合に、前膨張部44は最も短くなる。
【0081】
前膨張部44の先端部の位置が、第1実施形態では中心線CLから側部14側へ遠ざかるに従い、また第2実施形態では中心線CLから側部15側へ遠ざかるに従い、すなわち、いずれの場合も前膨張部44が長くなるに従い、次の効果も期待できる。それは、車両用シート11が上下方向へ延びる回転軸を回転中心として回転された場合や、車両用シート11の斜め前方から車両10に衝撃が加わった場合であっても、頭部PHを前膨張部44によって受け止め、衝撃の加わった方向への頭部PHの移動を規制することが可能となることである。
【0082】
・前膨張部44は、上記先端部からさらに後方へ展開及び膨張する部分を有してもよい。このようにすると、前膨張部44の追加した部分と、通路部42とによって、頭部PHをシートバック13の幅方向における両側から挟み込み、同幅方向における頭部PHの動きをさらに規制することができる。また、車両用シート11が上下方向へ延びる回転軸を回転中心として回転された場合や、車両用シート11の斜め前方から車両10に衝撃が加わった場合に、頭部PHを衝撃から保護する性能を高めることもできる。
【0083】
・上記幅方向における後膨張部45の長さは、同方向における前膨張部44の長さと同じであってもよいし、異なってもよい。
・エアバッグ41は、その略全体が、第1及び第2の各実施形態のように膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0084】
・エアバッグ41として、通路部42の内部が、複数の部屋(膨張室)に区画されたものが用いられてもよい。前膨張部44についても、また、後膨張部45についても同様の変更が可能である。
【0085】
・エアバッグ41における突出膨張部43の位置が、被規制部28の上方となる領域から、被規制部28と頸部PNとの間の領域に変更されてもよい。
図5は、第2実施形態の副膨張部46において、該当する箇所に突出膨張部43が設けられた変形例を示している。この変形例によると、突出膨張部43は、下方へ突出して被規制部28と頸部PNとの間に入り込む。突出膨張部43の入り込んだ部分が障壁として機能する。被規制部28が突出膨張部43に接触することで、頸部PNに近づくことを規制される。従って、この場合にも、第2実施形態と同様に、被規制部28の頸部PNに対する食い込みを起こりにくくすることができる。
【0086】
なお、図示はしないが、第1実施形態を示す
図2においても、突出膨張部43の位置が、被規制部28と頸部PNとの間の領域に変更されてもよい。この場合にも、被規制部28の頸部PNへの食い込みを抑制できる。
【0087】
・第1実施形態において、被規制部28の頸部PNに対する食い込みが問題とならない場合、又は他の手段によって食い込みを抑制することができる場合には、突出膨張部43が省略されてもよい。第2実施形態についても同様の変更が可能である。
【0088】
<適用対象について>
・上記エアバッグ装置40は、ヘッドレスト16とシートバック13が一体に設けられた車両用シートにも適用可能である。
【0089】
・上記エアバッグ装置40は、車両10の前席を構成する車両用シート11に限らず、後席を構成する車両用シートにも適用可能である。
・上記エアバッグ装置40が適用される車両10には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【0090】
・上記エアバッグ装置40は、車両10以外の乗物、例えば航空機、船舶等における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。
<その他>
・制御装置52は、車両10に対し、車両用シート11の前方から衝撃が加わることを予測した場合に、ガス発生器50に作動信号を出力する仕様に変更されてもよい。
【0091】
・上記エアバッグ装置40は、自動運転機能を有する車両10に適用されると特に大きな効果が得られるが、同機能を有さず、手動運転される通常の車両に適用されてもよい。この場合にも、頭部PHの前方への移動を抑制して、乗員保護性能を高める効果を得ることができる。
【0092】
・上記のように、上記エアバッグ装置40が、自動運転機能を有しない車両に適用される場合、巻取り装置24が車両用シートの外部に設けられてもよい。
また、例えば、シートバックの斜め後上方にシートベルト装置のアンカーが配置される2人乗りクーペ車のような車両では、シートバックの上部のうち、アンカー側の側部の上方にベルトガイド部が設けられる場合がある。この車両用シートにも、上記エアバッグ装置を適用可能である。
【0093】
この場合、シートベルト装置のシートベルトは、車両用シートの外部の巻取り装置から引き出される。シートベルトは、アンカーを経由して、ベルトガイド部に対し後方から前方に挿通され、シートバックの前方に導かれる。従って、この場合にも第1及び第2実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
10…車両(乗物)
11…車両用シート(乗物用シート)
13…シートバック
14,15…側部
16…ヘッドレスト
20…シートベルト装置
21…シートベルト
27…ショルダベルト部
28…被規制部
35…収納部
40…エアバッグ装置
41…エアバッグ
42…通路部
42f…前端部
42r…後端部
43…突出膨張部
44…前膨張部
45…後膨張部
46…副膨張部
CL…中心線
P1…乗員
PH…頭部
PN…頸部