(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098913
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20220627BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C5/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212582
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 法行
(72)【発明者】
【氏名】松延 裕子
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA18
3D131BC44
3D131CB01
3D131CB03
(57)【要約】
【課題】寒冷地での走行においても制音性能を良好とすることができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10と制音材30とを備える。制音材30は、タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aに接着体40によって貼り付けられている。空気入りタイヤ1は、接着体40のガラス転移温度が制音材30のガラス転移温度よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ本体と、
前記タイヤ本体の内腔面に接着体によって貼り付けられた制音材と、
を備え、
前記接着体のガラス転移温度が前記制音材のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記接着体は、前記タイヤ本体の周方向に延びており、前記内腔面に線状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記タイヤ本体は、成型時にブラダーを前記内腔面に押し付けることによって形成された凸状または凹状の条部を有し、
前記接着体は、前記条部に交差していることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記条部は、前記周方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制音材を設けた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着された空気入りタイヤは、車両の走行によってタイヤ内腔の空気によって空洞共鳴が発生する。タイヤの空洞共鳴によって生じた音は、車両に伝わり、車室内では騒音となるため、低減化のためにタイヤ空洞共鳴対策が講じられてきた。
【0003】
特許文献1には、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるベルト層と、トレッド部の内腔面に配された制音材を備え、制音材のガラス転移温度が-55℃~―45℃である空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/139084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、制音材のガラス転移温度について言及されているが、制音材をタイヤの内腔面に貼り付ける接着体のガラス転移温度については考慮されていなかった。接着体が低温環境下で破損した場合、制音材がタイヤの内腔面から剥がれることによって異音が発生し、さらに破損した接着体がタイヤの内部を浮遊し、例えばタイヤの内腔面に衝突して損傷するという問題点があった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、寒冷地での走行においても制音性能を良好とすることができる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は空気入りタイヤである。空気入りタイヤは、タイヤ本体と、前記タイヤ本体の内腔面に接着体によって貼り付けられた制音材と、を備え、前記接着体のガラス転移温度が前記制音材のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、寒冷地での走行においても制音性能を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る制音材を備える空気入りタイヤの縦断面を示す断面図である。
【
図2】タイヤ内腔に配設した状態の制音材の外観を示す斜視図である。
【
図3】タイヤ本体および接着体の縦断面を示す断面図である。
【
図4】
図3に示すA-A線による空気入りタイヤの断面図である。
【
図5】変形例に係るタイヤ内腔面の条部を示す模式図である。
【
図6】
図5に示すB-B線による空気入りタイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図6を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る制音材30を備える空気入りタイヤ1の縦断面を示す断面図である。空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10、ホイール20、制音材30および接着体40を備える。タイヤ本体10は、リング状に形成されたトレッド部11によって地面に接触する。トレッド部11の軸方向(タイヤの幅方向)の両端に連続してサイド部12が設けられ、サイド部12のホイール20側の端部にビード部13が形成されている。
【0012】
タイヤ本体10の中央部にはホイール20が嵌め合わされている。ホイール20は、車軸を連結するハブ部21を中心にして、ディスク部22が放射状に延びて円筒状をなすリム部23を支持している。リム部23にタイヤ本体10のビード部13が嵌め合わされる。タイヤ本体10およびリム部23によって囲まれたタイヤ内腔14に空気が充填されている。
【0013】
制音材30は、トレッド部11のタイヤ内腔14側の面であるタイヤ内腔面14aに接着体40によって貼り付けられている。制音材30は、発泡材料で形成されたスポンジであり、多数の気孔を備え、外部の空気との通気性を有する連続気泡体である。制音材30は、例えば軟質ウレタンフォーム製であり、空気入りタイヤ1における重量バランスの観点から密度60kg/m3以下のものが好ましく、密度40kg/m3以下のものがより好ましい。また、制音材30は、耐久性の観点から引っ張り強さが30kPa以上で、引き裂き強度が2.0N/cm以上(JIS K 6400-5)のものが好ましい。制音材30は、少なくとも1つの部材でタイヤ内腔面14aにリング状に配設される。制音材30は、2つ以上の部材でリングを構成するようにしてもよい。
【0014】
図2は、タイヤ内腔14に配設した状態の制音材30の外観を示す斜視図である。上述のように、制音材30は、タイヤ内腔面14aに配設した状態でリング状となる。
図2には、制音材30をタイヤ内腔面14aに貼り付けるための接着体40も図示している。制音材30は、タイヤ内腔面14aへ接着体40を塗布した後、タイヤ内腔面14aへ押し付けるようにして貼り付けられる。
【0015】
接着体40は、周方向に延びて線状に形成され全体としてリング状にタイヤ内腔面14aに塗布されており、
図2では3本の接着体40が設けられている。接着体40の本数は図示した3本に限られず、2本以上であればよい。制音材30は、外周面32が接着体40によってタイヤ内腔面14aによって貼り付けられ、内周面31がタイヤ内腔14に臨む。接着体40は、耐久性の観点からJIS K 6850におけるせん断接着強さとして0.1MPa以上の接着剤を使用することが好ましく、0.3MPa以上のものがより好ましい。
【0016】
制音材30は、タイヤ内腔14に配設される前の状態では、細長い板状となっており、リング状に変形させてタイヤ内腔面14aに貼り付けられる。タイヤ内腔面14aに制音材30を貼り付けた状態で、制音材30の周方向における両端部は、突き合わされており、両端部の擦れによる摩耗を防止するために接着体41によって接合されているとよい。
【0017】
また制音材30の外周面32の長手方向の寸法は、タイヤ内腔面14aの内周長の100%以上105%以下とし、制音材30のタイヤ内腔面14aへの貼り付けの際に端面間にすきまが生じないようにするとよい。
【0018】
図3は、タイヤ本体10および接着体40の縦断面を示す断面図である。タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aには、成型時において、ブラダーをタイヤ内腔面14aに押し付けることによって条部50が形成されている。条部50は、凸状または凹状に形成されている。
図3に示す例では、条部50は、周方向に対して傾斜する方向へ延びるように設けられており、タイヤ本体10の軸方向の中心を挟んで両側に形成されている。条部50は、タイヤ本体10の軸方向の中心寄りの位置から外側へ延び、ビード部13まで形成されている。また、条部50は、周方向に対して直交する方向へ延びるように設けられていてもよい。
【0019】
接着体40は、上述のように周方向に延びており、条部50に交差する。
図4は、
図3に示すA-A線による空気入りタイヤ1の断面図である。
図4では、タイヤ本体10、制音材30および接着体40の断面を示す。また
図3に示したA-A線は、接着体40を含む位置における周方向に延びる線分である。
【0020】
図4に示すように、接着体40は、凸状の条部50、および条部50間に塗布されており、タイヤ内腔面14aに制音材30を貼り付けて固定する。接着体40の厚みは、凸状の条部50で薄くなり、条部50間では厚くなる。条部50が凹状に形成されている場合には、接着体40の厚みは、凹状の条部50で厚くなり、条部50間では薄くなる。
【0021】
制音材30を接着体40によってタイヤ内腔面14aに固定し、乾燥硬化等によって接着が完了した後において、接着体40のガラス転移温度は、制音材30のガラス転移温度よりも低い値とする。尚、接着体40と制音材30のガラス転移温度に関して、一例として、接着体40のガラス転移温度が、-130℃以上、-70℃以下(動的粘弾性測定であるDMA法による)、制音材30のガラス転移温度が、-60℃以上、-45℃以下(示差操作熱量測定であるDSC法による)などを用いるとよい。接着体40は、硬化前後でのガラス転移温度の変化が小さいものや、硬化後にガラス転移温度が変化したとしても制音材30のガラス転移温度よりも低くなるものであれば良い。
【0022】
次に空気入りタイヤ1の動作について制音材30および接着体40に着目して説明する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行している際、タイヤ内腔14で発生する空洞共鳴が、制音材30によって吸収されて熱エネルギーとして消散し、空気入りタイヤ1での騒音が低減される。寒冷地では、制音材30および接着体40のガラス転移温度が高いと、これらの部材がガラス転移して破損してしまう。本実施形態における制音材30および接着体40のガラス転移温度は低く設定されており、寒冷地での走行においても制音材30による制音性能が良好に保たれる。
【0023】
接着体40のガラス転移温度は、制音材30のガラス転移温度よりも低い値としており、温度が低下してきた際に、制音材30よりも先に接着体40がガラス転移して破損してしまうことが抑制されている。制音材30よりも先に接着体40が破損した場合、制音材30のタイヤ内腔面14aからの剥離、剥離後の制音材30の振動による摩耗、およびガラス転移した接着体40の破片によるタイヤ内腔面14aの損傷などが懸念される。本実施形態において、接着体40のガラス転移温度は制音材30のガラス転移温度よりも低い値としているため、制音材30の剥離、制音材30の摩耗、および接着体40の破片によるタイヤ内腔面14aの損傷などを抑制することができる。
【0024】
空気入りタイヤ1は、成型時にブラダーをタイヤ内腔面14aに押し付けることによって条部50が形成され、条部50と接着体40とが交差している場合、上述のように条部50および条部50間で接着体40の厚みに変化が生じる。接着体40のガラス転移温度が制音材30のガラス転移温度よりも高い値である場合、寒冷地での走行において、接着体40が制音材30よりも先にガラス転移温度に到達すると、接着体40の厚みに変化があるため局所的な応力集中が生じて接着体40の破損が進行し易くなる。
【0025】
本実施形態において、接着体40のガラス転移温度は制音材30のガラス転移温度よりも低い値としているため、少なくとも接着体40が制音材30よりも先にガラス転移温度に達して応力集中による接着体40の破損が進行することを抑制できる。尚、条部50は、タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aにおいて、周方向に対して傾斜または直交するように設けることで、成型時におけるブラダーの剥離の容易化が図られるが、いずれも周方向に延びる接着体40と交差しており、接着体40の厚みに変化が生じるものとなる。
【0026】
接着体40は、タイヤ本体10の周方向に延びる線状に設けられており、接着工程の簡潔化、およびタイヤ重量への影響の低減化を図ることができる。空気入りタイヤ1は、接着体40のガラス転移温度が制音材30のガラス転移温度よりも低い値としているため、少なくとも接着体40が制音材30よりも先にガラス転移温度に達して線状の接着体40の破片が生じることを抑制できる。
【0027】
(変形例)
図5は、変形例に係るタイヤ内腔面14aの条部50を示す模式図である。条部50は、タイヤ本体10の周方向に傾斜する方向へ延びる主条部51と、主条部51間に複数の凹状または凸状の網目模様のように形成される副条部52を有する。副条部52は、成型時にタイヤ内腔面14aに押し付けられるブラダー表面に、同程度のサイズの凸部または凹部を多数設けることによって形成される。
【0028】
図6は、
図5に示すB-B線による空気入りタイヤ1の断面図である。
図4に示すように、接着体40は、凸状の主条部51および副条部52、並びに各条部間に塗布されており、タイヤ内腔面14aに制音材30を貼り付けて固定する。接着体40の厚みは、凸状の主条部51および副条部52で薄くなり、各条部間では厚くなる。この変形例に示されるように、網目状に形成される副条部52の一部は、線状に周方向に延びるように設けられる接着体40に交差する関係となっており、上述の実施形態で説明した条部50と接着体40とが交差する関係と同等であると考えられる。
【0029】
次に実施形態および変形例に係る空気入りタイヤ1の特徴について説明する。
空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10と制音材30とを備える。制音材30は、タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aに接着体40によって貼り付けられている。空気入りタイヤ1は、接着体40のガラス転移温度が制音材30のガラス転移温度よりも低い。これにより、空気入りタイヤ1は、寒冷地での走行において、少なくとも制音材30よりも先に接着体40がガラス転移温度に到達して破損することが抑制され、制音性能を良好とすることができる。
【0030】
また接着体40は、タイヤ本体10の周方向に延びており、タイヤ内腔面14aに線状に設けられている。これにより、空気入りタイヤ1は、接着工程の簡潔化、およびタイヤ重量への影響の低減化を図ることができる。
【0031】
またタイヤ本体10は、成型時にブラダーをタイヤ内腔面14aに押し付けることによって形成された凸状または凹状の条部50を有する。接着体40は、条部50に交差している。これにより、空気入りタイヤ1は、接着体の厚みに変化が生じて応力集中が生じ易くなるものの、少なくとも制音材30よりも先に接着体40がガラス転移温度に到達して破損することが抑制されており、制音性能を良好とすることができる。
【0032】
また条部50は、タイヤ本体10の周方向に対して傾斜している。これにより、空気入りタイヤ1は、成型時におけるブラダーの剥離が容易になる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0034】
1 空気入りタイヤ、 10 タイヤ本体、 14a タイヤ内腔面(内腔面)、
30 制音材、 40 接着体、 50 条部。