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特開2022-98961貼付剤支持体用フィルム、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098961
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】貼付剤支持体用フィルム、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/02 20060101AFI20220627BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220627BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220627BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
A61F13/02 310D
A61K47/34
A61K47/32
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212659
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐貴泰
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA78
4C076BB31
4C076EE03
4C076EE06
4C076EE13
4C076EE24
4C076EE48
(57)【要約】
【課題】剥がれの抑制に適切な伸び性と曲げ剛性を両立した貼付剤支持体用フィルムと、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤を提供する。
【解決手段】薬剤バリア性を有する樹脂フィルムに対し、樹脂フィルムの厚さ方向と直交する方向から見て凹部2bと凸部2aが交互に形成され、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿った10%モジュラス値は、0.1N/15mm以上4N/15mm以下の範囲内であり、樹脂フィルムの凹部2bと凸部2aとが配列された方向に対して同一平面内の垂直方向へのループスティフネス値は、1mN/15mm以上15mN/15mm以下の範囲内である貼付剤支持体用フィルム1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤バリア性を有する樹脂フィルムに対し、前記樹脂フィルムの厚さ方向と直交する方向から見て凹部と凸部が交互に形成され、
前記凹部と前記凸部とが配列された方向に沿った10%モジュラス値は、0.1N/15mm以上4N/15mm以下の範囲内であり、
前記凹部と前記凸部とが配列された方向に対して同一平面内の垂直方向へのループスティフネス値は、1mN/15mm以上15mN/15mm以下の範囲内であることを特徴とする貼付剤支持体用フィルム。
【請求項2】
前記凸部の頂部及び前記凹部の底面は、前記厚さ方向と直交する方向から見て平坦な面であり、
前記頂部と前記底面とを接続する面は、前記厚さ方向と直交する方向から見て前記頂部から前記底面へ向かうにつれて頂部から離れる斜面であり、
前記厚さ方向と直交する方向から見た、前記凸部の幅をW1[μm]、前記凹部の幅をW2[μm]、隣り合う一組の前記凹部と前記凸部との、前記凹部と前記凸部とが配列された方向に沿った長さであるピッチ幅をP[μm]、前記樹脂フィルムの厚さをT[μm]、前記頂部と前記底面との高低差をH[μm]、前記樹脂フィルムのヤング率をE[GPa]としたときに、下記の式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載した貼付剤支持体用フィルム。
0.1≦E×T/H×0.0165≦4 … (1)
1≦(W1+W2)/P×T/12×(3H+T)×E×0.0016≦15 … (2)
【請求項3】
前記凹部と前記凸部とが配列された方向に沿った破断強度が5N/15mm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した貼付剤支持体用フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムを形成する樹脂は、ポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体のうち少なくとも二つが重合した変性重合体、のうちいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載した貼付剤支持体用フィルム。
【請求項5】
前記10%モジュラス値は、0.1N/15mm以上2N/15mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載した貼付剤支持体用フィルム。
【請求項6】
前記10%モジュラス値は、0.1N/15mm以上1N/15mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載した貼付剤支持体用フィルム。
【請求項7】
前記ループスティフネス値は、1mN/15mm以上5mN/15mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載した貼付剤支持体用フィルム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載した貼付剤支持体用フィルムと、
前記貼付剤支持体用フィルムの一方の面に積層された粘着剤層と、
前記粘着剤層の前記貼付剤支持体用フィルムと対向する面と反対の面に積層された剥離ライナー層と、を備える貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付剤支持体用フィルムと、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野で用いられる貼付剤は、肌に貼り付けることで薬剤を経皮吸収させて体内へ取り込ませることを目的とした製剤である。貼付剤の構成の一例として、支持体の表面に薬剤と粘着剤とを混合した粘着剤層を積層させ、さらに、粘着剤層の表面に剥離ライナーを積層させた構成のものがある。
支持体は粘着剤と密着しているため、剥離ライナーから粘着剤を容易に剥離させることが可能であり、貼付剤を肌に貼付した際には、剥離ライナーによって粘着剤を覆っていることで、衣服等へ粘着剤が付着することを抑制することが可能となる。
その他、支持体に要求される特性として、薬剤バリア性を有することや、伸び性を有すること等がある。
【0003】
薬剤バリア性とは、薬剤の経皮吸収を妨げないために、支持体が薬剤を吸収しない特性や、吸収し難い特性である。一例として、温度が40[℃]であり、湿度が75[%RH]の環境下で1ヶ月保管した際に、支持体の薬剤吸収率が10[%]未満であれば、薬剤バリア性があると定義する。
伸び性とは、支持体が引っ張られた際に一定の伸び率に到達するまでに要する荷重を示しており、貼付剤を肌に貼り付けた際に、突っ張りやごわつきを感じないことや、体を動かした際に貼付剤を剥がれにくくさせること等のために、重要な要素である。
【0004】
しかしながら、薬剤バリア性と伸び性を両立させることは、以下の要因により、困難である場合が多い。
薬剤バリア性を有する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体等、一部の材料に限定される。また、これらの材料は、一般的にヤング率が大きく、伸びにくいという欠点がある。
【0005】
上述した問題を解決するために、例えば、特許文献1には、薬剤バリア性を有する樹脂フィルムを用いて形成された貼付剤支持体用フィルムが開示されている。
特許文献1に開示されている技術では、樹脂フィルムの全体が厚さ方向にうねった形状に構成され、樹脂フィルムの面に沿って凹部と凸部を繰り返す凹凸構造を有している。さらに、凸部の頂部及び凹部の底部は、それぞれ、断面が平坦な形状となっており、貼付剤支持体用フィルムの膜厚が5μm以上150μm以下であり、凹部と凸部との高低差が、貼付剤支持体用フィルムの膜厚よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-63221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された貼付剤支持体用フィルムを用いて形成された貼付剤では、伸び性を持たないフィルムに対し、構造形成によって伸び性を付与することは可能である。しかしながら、肌に貼り付けた際に発生する貼付剤の剥がれを抑制する効果は十分ではない。
本発明の発明者等による研究によれば、貼付剤を肌に貼り付ける際には、フィルムの伸び性だけではなく、フィルムの曲げ剛性も、剥がれの抑制に影響を与えることが判明している。すなわち、フィルムの曲げ剛性が上昇すると、肌の湾曲や筋肉による凹凸に対する、フィルムの追従性が低下するため、剥がれやすくなってしまう。このため、フィルムの曲げ剛性は、小さいことが望ましい。
【0008】
特許文献1に開示された技術のように、凹部と凸部を繰り返す凹凸構造にてフィルムの伸び性を高める構成では、凸部の高さを高くする構成や、凹部と凸部のピッチを狭める構成が必要となる。しかしながら、フィルムの伸び性を高める構造設計を実施すると、トレードオフで、伸び性が付与される方向に対して、同一平面内の垂直方向への、フィルムの曲げ剛性が上昇するという問題点がある。
本発明は、上記問題点を鑑み、剥がれの抑制に適切な伸び性と曲げ剛性を両立した貼付剤支持体用フィルムと、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために、本発明の一態様は、薬剤バリア性を有する樹脂フィルムに対し、樹脂フィルムの厚さ方向と直交する方向から見て凹部と凸部が交互に形成された貼付剤支持体用フィルムである。また、凹部と凸部とが配列された方向に沿った10%モジュラス値は、0.1N/15mm以上4N/15mm以下の範囲内である。さらに、樹脂フィルムの凹部と凸部とが配列された方向に対して同一平面内の垂直方向へのループスティフネス値は、1mN/15mm以上15mN/15mm以下の範囲内である。
また、本発明の一態様は、貼付剤支持体用フィルムと、貼付剤支持体用フィルムの一方の面に積層された粘着剤層と、粘着剤層の貼付剤支持体用フィルムと対向する面と反対の面に積層された剥離ライナー層と、を備える貼付剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、薬剤バリア性を有する樹脂フィルムに対して適切な凹凸構造を設けることで、樹脂フィルムに対し、曲げ剛性の上昇を抑制することが可能となるとともに、伸び性を付与することが可能となる。これにより、肌から剥がれにくい貼付剤支持体を提供することが可能となり、剥がれの抑制に適切な伸び性と曲げ剛性を両立した貼付剤支持体用フィルムと、貼付剤支持体用フィルムを備える貼付剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の貼付剤支持体用フィルムにおける構成の一例を示す斜視図である。
図2】貼付剤支持体用フィルムに設定した各種のパラメータを示す断面図である。
図3】ループスティフネス値の測定方法を示す模式図である。
図4】貼付剤の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本技術の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本技術の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本技術の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
なお、各図は模式的に示したものであり、各部の大きさや形状等は理解を容易にするために適宜誇張して示している。また、本明細書で用いる表面と裏面とは、便宜上の記載であり、貼付剤支持体用フィルムにおける一対の面のいずれかを、表面及び裏面としても良い。
【0013】
(第1実施形態)
以下、図1から図3を参照して、貼付剤支持体用フィルム1の構成について説明する。
貼付剤支持体用フィルム1は、薬剤バリア性を有する樹脂フィルムに対して、図1に示すように、樹脂フィルムの厚さ方向と直交する方向から見て凹部2bと凸部2aが交互に形成された凹凸構造2を有する。貼付剤支持体用フィルム1の構成を、凹凸構造2を有する構成とすることで、貼付剤支持体用フィルム1の断面は、うねった形状に構成される。貼付剤支持体用フィルム1の断面をうねった形状に構成することで、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿って、凹凸構造2の形状に由来する伸び性を付与することが可能となる。
【0014】
なお、図1には、樹脂フィルムの厚さ方向を、「厚さ方向」と示す。また、図1には、凹凸構造2の形状に由来する伸び性を示す方向を、「伸び性を示す方向」と示す。
凹凸構造2の形状に由来する伸び性を示す方向は、凹部2bと凸部2aとが交互に配列された方向である。
図2に示すように、凸部2aの頂部及び凹部2bの底面は、貼付剤支持体用フィルム1の厚さ方向と直交する方向から見て、平坦な面である。
凸部2aの頂部と凹部2bの底面とを接続する面である接続面2cは、貼付剤支持体用フィルム1の厚さ方向と直交する方向から見て、凸部2aの頂部から凹部2bの底面へ向かうにつれて凸部2aの頂部から離れる斜面である。
【0015】
貼付剤支持体用フィルム1には、JIS K7161に準拠する引張試験における10%モジュラス値が、0.1N/15[mm]以上4N/15[mm]以下の範囲内である伸び性を付与する。10%モジュラス値を0.1N/15[mm]以上4N/15[mm]以下の範囲内に設定した理由は、10%モジュラス値が0.1N/15[mm]未満である場合は、貼付剤として肌に貼付する際に、容易に伸びてしまい取り扱いが難しくなるという理由である。また、10%モジュラス値が4N/15[mm]よりも大きい場合は、貼付剤支持体用フィルム1の伸び性が不足し、肌の伸縮に対して追従しづらく、剥がれ抑制効果が不足するという理由である。また、10%モジュラス値は、さらに好ましくは0.1N/15[mm]以上2N/15[mm]以下の範囲内であり、さらにより好ましくは0.1N/15[mm]以上1N/15[mm]以下の範囲内である。
【0016】
貼付剤支持体用フィルム1の伸び性は、樹脂フィルムの厚さ、樹脂フィルムのヤング率、凹凸構造2の形状によって変動する数値である。本発明の発明者等は、研究により、凹凸構造2の形状が、図2に示すような台形の形状である場合、10%モジュラス値を、(3)式を用いて表せることを見出した。なお、(3)式では、樹脂フィルムの厚さをT[μm]、樹脂フィルムのヤング率をE[GPa]、凸部2aの頂部と凹部2bの底面との高低差をH[μm]とする。
E×T/H×0.0165 … (3)
【0017】
また、(3)式を用いて表した10%モジュラス値が、0.1以上4以下の範囲内となる条件を満たすことで、貼付剤支持体用フィルム1の適切な伸び性を得ることが可能となる。(3)式を用いて表した10%モジュラス値を0.1以上4以下の範囲内に設定する理由は、(3)式を用いて表した10%モジュラス値が0.1未満の場合は、貼付剤として肌に貼付する際に、容易に伸びてしまい取り扱いが難しくなるという理由である。また、(3)式を用いて表した10%モジュラス値が4よりも大きい場合は、伸び性が不足し、肌の伸縮に対して追従しづらく、剥がれ抑制効果が不足するという理由である。また、(3)式を用いて表した10%モジュラス値は、さらに好ましくは0.1以上2以下の範囲内であり、さらにより好ましくは0.1以上1以下の範囲内である。
【0018】
さらに、貼付剤支持体用フィルム1は、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に対する同一平面内の垂直方向について、曲げ剛性の指標であるループスティフネス値が、1mN/15mm以上15mN/15mm以下の範囲内である。
なお、図1には、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に対する同一平面内の垂直方向を、「曲げ剛性を示す方向」と示す。
「曲げ剛性を示す方向」は、図1に示す「伸び性を示す方向」に対する、同一平面内の垂直方向である。
【0019】
ループスティフネス値は、幅が15[mm]の貼付剤支持体用フィルム1の形状をループ状とし、さらに、ループの長さを85[mm]、押込み距離を20[mm]とした測定条件において測定される。ループスティフネス値を1mN/15mm以上15mN/15mmの範囲内に設定する理由は、ループスティフネス値が1mN/15mm未満である場合、貼付剤として肌に貼付する際に容易にフィルムが折り曲がりやすく粘着層同士がくっついてしまう等、取り扱い上の不具合が生じるという理由である。また、ループスティフネス値が15mN/15mmよりも大きい場合、肌の湾曲や肌の凹凸に対して追従しづらく、剥がれやすくなってしまうという理由である。また、ループスティフネス値は、さらに好ましくは、1mN/15mm以上5mN/15mm以下の範囲内である。
【0020】
また、ループスティフネス値は、例えば、株式会社東洋精機製作所製の「ループスティフネステスタ」を用いたループスティフネス試験により測定する。
ループスティフネス試験は、図3に示すように、貼付剤支持体用フィルム1をチャック21で固定することでループ状とした状態で、ループ状の貼付剤支持体用フィルム1を圧子22により押し込んだ時の、圧子22の荷重を測定する試験である。圧子22を押し込む距離は、押込み距離により規定されている。押込み距離とは、圧子22とチャック21が最も近づいた時の距離を表す。また、ループスティフネス値とは、ループスティフネス試験で得られる荷重の最大値を示すものである。
【0021】
貼付剤支持体用フィルム1の曲げ剛性は、貼付剤支持体用フィルム1の伸び性と同様、樹脂フィルムの厚さ、樹脂フィルムのヤング率、凹凸構造2の形状によって決まる数値である。本発明の発明者等が研究したところによれば、凹凸構造2の形状が、図2に示すような台形の形状である場合、ループ状の貼付剤支持体用フィルム1に対し、ループの長さを85[mm]、押込み距離を20[mm]とした測定条件で測定されるループスティフネス値を、(4)式を用いて表せることを見出した。なお、(4)式では、樹脂フィルムの厚さをT[μm]、樹脂フィルムのヤング率をE[GPa]、凸部2aの頂部と凹部2bの底面との高低差をH[μm]とする。さらに、(4)式では、隣り合う一組の凹部2bと凸部2aとの、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿った長さであるピッチ幅をP[μm]、貼付剤支持体用フィルム1の厚さ方向と直交する方向から見た凸部2aの幅をW1[μm]、貼付剤支持体用フィルム1の厚さ方向と直交する方向から見た凹部2bの幅をW2[μm]とする。
(W1+W2)/P×T/12×(3H+T)×E×0.0016 … (4)
【0022】
また、(4)式を用いて表したループスティフネス値が、1以上15以下の範囲内となる条件を満たすことで、貼付剤支持体用フィルム1の適切な曲げ剛性を得ることが可能となる。(4)式を用いて表したループスティフネス値を1以上15以下の範囲内に設定する理由は、(4)式を用いて表したループスティフネス値が1未満の場合は、貼付剤として肌に貼付する際に容易にフィルムが折り曲がりやすく、粘着層同士がくっついてしまう等取り扱い上の不具合が生じるという理由である。また、(4)式を用いて表したループスティフネス値が15よりも大きい場合は、肌の湾曲や肌の凹凸に対して追従しづらく、剥がれやすくなってしまうという理由である。また、(4)式を用いて表したループスティフネス値は、さらに好ましくは1以上5以下の範囲内である。
【0023】
(3)式を用いて表した10%モジュラス値と(4)式を用いて表したループスティフネス値は、一方のみが適切な値を満たしても、他方の物性の影響によって貼付時に剥がれを引き起こしやすくなるため、同時に満たさなければならない。
また、本実施形態の貼付剤支持体用フィルム1は、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿った破断強度が5N/15mm以上である。凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿った破断強度を5N/15mm以上に設定する理由は、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に沿った破断強度が5N/15mm未満である場合、剥離ライナーから貼付剤を剥がす際に破断してしまう恐れがあるという理由である。
【0024】
樹脂フィルムの材料としては、特に限定されるものではないが、薬剤バリア性を有する材料を用いる。薬剤バリア性を有する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体を用いることが可能である。ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びそれらの変性重合体を用いた樹脂フィルムであれば、例えば、リバスチグミンやツロブテロールのような薬剤に対して、薬剤バリア性を有する構成とすることが可能となる。
【0025】
また、樹脂フィルムの材料として、薬剤バリア性を有さない材料を用いた場合であっても、薬剤バリア性を有する材料との積層や、蒸着、コーティング等の手法で薬剤バリア層を付与することで、樹脂フィルムの材料として用いることが可能となる。
貼付剤支持体用フィルム1の製造方法については、例えば、熱プレスによる製造方法や、押出成形による製造方法等、各種の方法を適宜選択して用いることが可能である。
熱プレスによる製造方法では、製膜した樹脂フィルムを、表面に凹凸形状を設けた一対の加熱ロール間、又は、一対の加熱した平板状のプレス機に通すことで、貼付剤支持体用フィルム1を製造することが可能である。この際、一対の加熱ロール間、又は一対の平板が有する上下の凹形状と凸形状との精密な位置合わせを行い、熱プレス後の樹脂フィルムの表面と裏面が、連続的な凹凸構造2となっていることが重要となる。
【0026】
さらに、熱プレスによる別の製造方法では、離形性を有する複数のフラットフィルムを重ね、又は、離形性を有する複数の層を保持するフラットフィルムを、凹凸形状を設けた加熱ロール間、又は、加熱した平板状のプレス機に通すことで、凹凸構造2を付与することが可能である。この際、プレスの深さやプレス圧を調整することによって、フラットフィルムの表面及び層界面に所望の凹凸形状が付与され、冷却後に凹凸構造2を付与した複数の層のフィルムを剥離することにより、貼付剤支持体用フィルム1を製造することが可能である。
【0027】
押出成形による製造方法では、樹脂を加熱溶融してTダイから押し出し、フィルム化するための冷却工程において、凹凸形状が設けられた冷却ロール及びニップロールを用いて、ニップ圧力を付加しながら冷却することで、フィルムの表面と裏面に連続的な凹凸構造2を設けることが可能である。押出成形による製造方法においても、冷却ロールとニップロールが有する凹凸形状との精密な位置合わせが必要になる。
【0028】
さらに、押出成形による別の製造方法では、複数の押出機を使用し、複数種類の樹脂を、フィードブロック法、又はマルチマニホールド法により共押出することで、貼付剤支持体用フィルム1を片側表面に配置した、2層以上の多層構成のフィルムを得ることが可能である。この際、フィルム化するための冷却工程において、貼付剤支持体用フィルム1を配置した面に、凹凸構造2に対応する凹凸が表面に設けられた冷却ロールを用いて、ニップ圧力を付加しながら冷却することで、凹凸構造2を形成することが可能である。この時、冷却ロールと接する貼付剤支持体用フィルム1の厚さに対し、凹凸構造2の高低差が大きいときには、貼付剤支持体用フィルム1の冷却ロールと反対面の界面にも同様に凹凸構造2が付加されるため、冷却後に凹凸構造2を付与した貼付剤支持体用フィルム1を多層フィルムから剥離することにより、断面がうねった形状の貼付剤支持体用フィルム1を得ることが可能である。
【0029】
その他、射出成形等、凹凸構造2を付加するいずれかの製造方法を選択することが可能であり、特に方法が限定されるものではない。
また、貼付剤支持体用フィルム1は、後工程で、表面に印刷層や蒸着層、粘着剤との密着性を向上させるためのアンカーコート層等、機能層を積層した積層体とすることも可能である。さらに、貼付剤支持体用フィルム1は、別の熱可塑性樹脂等を積層した積層体とすることも可能である。別の熱可塑性樹脂としては、例えば、上述したような機能層を構成する場合や、強度等の機能アップ層を構成する場合がある。
なお、別の層を設ける場合には、別の層を設けた上で、貼付剤支持体用フィルム1の10%モジュラス値やループスティフネス値が既定の範囲を満たすことが必要である。
【0030】
(貼付剤)
第1実施形態の貼付剤支持体用フィルム1を用いて、図4に示す貼付剤100を形成してもよい。
貼付剤100は、貼付剤支持体用フィルム1と、粘着剤層10と、インキ層11と、剥離ライナー12を備える。
粘着剤層10は、貼付剤支持体用フィルム1の一方の面(図4では下方の面)に積層されている。
インキ層11は、貼付剤支持体用フィルム1の他方の面(図4では上方の面)に積層されている。
剥離ライナー12は、粘着剤層10の貼付剤支持体用フィルム1と対向する面と反対の面(図4では下方の面)に積層されている。
図4に示す構成であれば、薬剤バリア性と伸び性とを両立した貼付剤100を提供することが可能となる。
以上、本発明の第1実施形態を例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。また、二つ以上の実施形態を組み合わせて用いることは、任意である。
【実施例0031】
以下に、本発明に基づく実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
貼付剤支持体用フィルム1の材料として、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製のポリエチレンテレフタレート(PET)である、「EFG70(ヤング率:1.5GPa)」を選択した。
また、貼付剤支持体用フィルム1と共押出する樹脂の材料として、日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン(LDPE)である、「ノバテックLD LC600A」を選択した。
そして、選択した二種類の樹脂を用いて、押出成形により共押出を行い、その後、フィルム化するための冷却工程において、凹凸形状が設けられた冷却ロールを用いてニップ圧力を付加しながら冷却した。その後、共押出した低密度ポリエチレン層を剥離することで、樹脂フィルムの表面と裏面に連続的な凹凸構造2を設けた貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
厚さTを16[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを30[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を14[μm]、ピッチ幅Pを124[μm]とした。
【0032】
(実施例2)
厚さTを16[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを45[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を47[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、実施例2の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
(実施例3)
貼付剤支持体用フィルム1の材料として、日本合成化学工業株式会社製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)である、「ソアノールD2908(ヤング率:1GPa)」を選択した。
厚さTを16[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを60[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を31[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、実施例3の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
【0033】
(実施例4)
厚さTを10[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを60[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を31[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、実施例4の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
(実施例5)
厚さTを8[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを45[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を47[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、実施例5の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
【0034】
(比較例1)
厚さTを25[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを30[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を14[μm]、ピッチPを124[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、比較例1の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
(比較例2)
厚さTを16[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを60[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を31[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、比較例2の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
(比較例3)
厚さTを16[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを100[μm]、幅W1を205[μm]、幅W2を189[μm]、ピッチPを425[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、比較例3の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
【0035】
(比較例4)
厚さTを5[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを60[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を31[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、比較例4の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
(比較例5)
厚さTを8[μm]とし、凹凸構造2は、図2に示すような断面が台形の形状を周期的に並べた形状とし、高低差Hを5[μm]、幅W1を75[μm]、幅W2を47[μm]、ピッチPを175[μm]とした。その他の条件は実施例1と同様にして、比較例5の貼付剤支持体用フィルム1を作製した。
【0036】
(10%モジュラス値の測定)
実施例及び比較例における貼付剤支持体用フィルム1が有する伸び性の指標として、10%モジュラス値を測定した。10%モジュラス値の評価は、株式会社エー・アンド・デイ製の「テンシロン万能材料試験機(RTC‐1250A)」を用いて実施した。また、JIS K7161に準拠し、サンプル幅を15[mm]、チャック間距離を50[mm]、引張速度を100[mm/min]とした条件下において、貼付剤支持体用フィルム1が破断するまで引っ張り力を付与した際の荷重を測定する引張試験を実施した。引張試験は、貼付剤支持体用フィルム1に対して、凹部2bと凸部2aとが配列された方向に対して行い、貼付剤支持体用フィルム1を10%伸ばした際の引張荷重を、10%モジュラス値とした。
すなわち、10%モジュラス値は、図1に示す「伸び性を示す方向」について測定した数値である。
【0037】
(ループスティフネス値の測定)
実施例及び比較例における貼付剤支持体用フィルム1が有する曲げ剛性の指標として、ループスティフネス値を測定した。ループスティフネス値の評価は、株式会社東洋精機製作所製の「ループスティフネステスタ(DA-S)」を用いて実施した。サンプル幅を15[mm]、ループの長さを85[mm]、押込み距離(チャック-圧子間距離)を20[mm]とした条件下において、貼付剤支持体用フィルム1の凹部2bと凸部2aとが配列された方向に対して同一平面内の垂直方向に対して行い、ループを押し込んだ時の最大荷重を、ループスティフネス値とした。
すなわち、ループスティフネス値は、図1に示す「曲げ剛性を示す方向」について測定した数値である。
【0038】
(10%モジュラス値の算出)
実施例及び比較例における厚さT[μm]、ヤング率E[GPa]、高低差H[μm]を(3)式に当て嵌めたときの数値計算を行うことで、10%モジュラス値を算出した。
(ループスティフネス値の算出)
実施例及び比較例における厚さT[μm]、ヤング率E[GPa]、高低差H[μm]、ピッチP[μm]、幅W1[μm]、幅W2[μm]を(4)式に当て嵌めたときの数値計算を行うことで、ループスティフネス値を算出した。
【0039】
(剥がれにくさの評価)
実施例及び比較例における貼付剤支持体用フィルム1について、肌に貼付した際の剥がれにくさを評価するために、実施例及び比較例のサンプルに粘着剤10を塗工し、5[cm]四方のサイズに切り出した。その後、切り出したサンプルを肌に貼付した。肌に貼付した直後の接着面積割合を100%とし、1日経過後の接着面積割合を剥がれにくさの指標とした。
1日経過後の接着面積が90%以上を保っていれば「○」と評価し、90%より小さければ「×」と評価した。
【0040】
(取り扱いやすさの評価)
実施例及び比較例における貼付剤支持体用フィルム1の取り扱いやすさを評価するために、実施例及び比較例のサンプルに粘着剤10を塗工し、剥離ライナー12に積層させた後に、5[cm]四方のサイズに切り出した。その後、貼付剤支持体用フィルム1と粘着剤10との積層体を剥離ライナー12から剥がした際に、貼付剤支持体用フィルム1と粘着剤10との積層体が伸びてしまったり、肌に貼り付ける作業において粘着剤10同士がくっついてしまったりしないかを確認した。評価は5人の被験者にそれぞれ5回実施してもらい、不具合が発生しなければ「○」と評価し、1度でも不具合が発生した場合を「×」と評価した。
【0041】
(総合評価)
「剥がれにくさ」と「取り扱いやすさ」のどちらか一方でも「×」だったものは「×」と評価し、どちらも「〇」だったものは「〇」と評価した。
実施例及び比較例における条件と、評価結果の一覧を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から分かるとおり、本発明に基づく実施例1~5の貼付剤支持体用フィルム1では、10%モジュラス値、ループスティフネス値が適切な範囲に収まっており、総合評価も「○」となった。
一方、比較例1~3は、10%モジュラス値又はループスティフネス値が適切な範囲から外れており、剥がれにくさの評価結果が「×」となったと考えられる。特に、比較例2、3は10%モジュラス値が低く、伸び性が良好であるにも関わらず剥がれやすい結果となっている。すなわち、評価結果は、貼付剤支持体用フィルム1に必要な特性が伸び性だけではないことを示しており、曲げ剛性も同様に必要な特性であることを示唆している。
【0044】
また、比較例4、5は、貼付できた際には十分な剥がれにくさを達成したが、10%モジュラス値又はループスティフネス値が低すぎることによって取り扱いが困難となり、剥離ライナーから剥がして肌に貼付するまでの工程で問題が発生してしまった。
また、表1から分かるとおり、10%モジュラス値とループスティフネス値は、貼付剤支持体用フィルム1のヤング率、フィルムの厚さ、フィルムの形状から算出される(3)式及び(4)式と近い値を示した。このことから、(1)式及び(2)式を満たす貼付剤支持体用フィルム1であれば、貼付剤として使用する際に、貼付時の取り扱いにおける不具合がなく、なおかつ剥がれにくいことが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の貼付剤支持体用フィルムを支持体として使用した貼付剤は、伸び性と曲げ剛性が適切な範囲を満たすことから、肌に貼付した際に剥がれにくい。したがって、本発明の貼付剤支持体用フィルムは、医療分野で用いられる貼付剤としての利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0046】
1…貼付剤支持体用フィルム、2…凹凸構造、2a…凸部、2b…凹部、2c…接続面、10…粘着剤層、11…インキ層、12…剥離ライナー、21…チャック、22…圧子、H…高低差、T…フィルムの厚さ、P…ピッチ幅、W1…凸部の幅、W2…凹部の幅、100…貼付剤
図1
図2
図3
図4