(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099003
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】遠心圧縮機およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 17/12 20060101AFI20220627BHJP
F04D 29/44 20060101ALI20220627BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
F04D17/12
F04D29/44 P
F04D29/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212725
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 裕太
(72)【発明者】
【氏名】西岡 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】平舘 澄賢
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和寛
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AA12
3H130AB22
3H130AB27
3H130AB46
3H130AB62
3H130AB65
3H130AB69
3H130AC01
3H130BA07B
3H130BA66B
3H130CA03
3H130CA05
3H130CA08
3H130CA12
3H130CB01
3H130CB06
3H130CB09
3H130CB14
3H130DA02Z
3H130EA02B
3H130EA06B
3H130ED01B
(57)【要約】
【課題】遠心圧縮機のリターン流路に備えられた前置翼および後置翼の旋回速度成分除去能力を向上させる。
【解決手段】遠心圧縮機において、リターン流路4は、ハブ側の壁面80とシュラウド側の壁面90との間に配置されている。リターン流路4は、上流側に円状に列をなす前置翼61と下流側に円状に列をなす後置翼62とを有している。前置翼61および後置翼62は、双方ともシュラウド側の壁面90に形成されている。前置翼61は、後置翼62とは別体として形成された環状部材92aに形成されている。環状部材92aは、リターン流路4に取り付けられている。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
該回転軸に取り付けられた複数の遠心羽根車と、
該遠心羽根車から流出した流体を前記回転軸から遠心方向に流すディフューザと、
該ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記遠心羽根車に流入する流体を前記回転軸に向かう戻り方向に流すリターン流路と、を備え、
前記リターン流路は、ハブ側の壁面とシュラウド側の壁面との間に配置され、
前記リターン流路は、上流側に円状に列をなす前置翼と下流側に円状に列をなす後置翼とを有し、
前記前置翼および前記後置翼は、双方とも前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の一方に形成されており、
前記前置翼および前記後置翼の一方は、前記前置翼および前記後置翼の他方とは別体として形成された環状部材に形成されており、
前記環状部材は、前記リターン流路に取り付けられていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記前置翼および前記後置翼の他方は、前記リターン流路の壁面が直接加工されて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記前置翼は、前記環状部材に形成されたものであり、
前記後置翼は、前記リターン流路の壁面が直接加工されて形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記前置翼の最内径が前記後置翼の最外径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
ハブ側の壁面とシュラウド側の壁面との間に配置されたリターン流路において上流側に円状に列をなす前置翼および下流側に円状に列をなす後置翼の一方を、前記前置翼および前記後置翼の他方とは別体として形成された環状部材に形成する形成工程と、
前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の一方に形成された、前記前置翼および前記後置翼の他方を、前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の他方に接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、前記環状部材を、前記リターン流路に取り付ける取付工程と、を含むことを特徴とする遠心圧縮機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機は、回転することで流体にエネルギーを与える遠心羽根車、昇圧された流体の動圧を静圧へ変換するディフューザ、流体の旋回速度成分を除去するリターンベーンが配置されたリターン流路等で構成されている。
【0003】
リターン流路を流体が通過する際に、回転軸の中心軸を中心として周方向に等間隔で並ぶリターンベーンを通過することで流体の旋回速度成分を除去することができる。しかし、流体の旋回速度成分が十分に除去されていない場合には、次段の羽根車での圧縮効率や圧力上昇が低下することが一般的に知られている。
【0004】
リターンベーンで効率よく流れを転向し、流体の旋回速度成分を除去、整流するための構造として、特許文献1に記載されたものが提案されている。
【0005】
特許文献1には、上流側にリターンベーン(以下、前置翼)を配置し、下流側に旋回除去部材(後置翼)を配置する二重翼列リターンベーン構造が開示されている。特に、段落0047,0053には、旋回除去部材(後置翼)をそれぞれシュラウド側の壁面またはハブ側の壁面に接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術によれば、前置翼は、後置翼が形成されたハブ側の壁面またはシュラウド側の壁面に直接接合されるとしている。
しかし、接合には溶接棒などをハブ側の壁面またはシュラウド側の壁面の径方向内外から挿入するルートが必要となる。特に、前置翼と後置翼との間は、ハブ側の壁面とシュラウド側の壁面とを翼を挟んで向かい合わせた状態で内外周の隙間から溶接棒が届きにくい位置となる。そのため、出願人はこれまで、接合不良を避けるように、翼(ベーン)の形状設計およびレイアウトを行っていた。そのため、流体の旋回速度成分を除去する能力(以下、「旋回速度成分除去能力」ともいう)が低くなっていた。
このことは、前置翼と後置翼とをハブ側の壁面またはシュラウド側の壁面から削り出す構造でも、同様であった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、遠心圧縮機のリターン流路に備えられた前置翼および後置翼の旋回速度成分除去能力を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的を達成するために、本発明に係る遠心圧縮機は、回転軸と、遠心羽根車と、ディフューザと、リターン流路とを備える。前記遠心羽根車は、前記回転軸に複数取り付けられている。前記ディフューザは、前記遠心羽根車から流出した流体を前記回転軸から遠心方向に流す。前記リターン流路は、前記ディフューザの下流に設けられ、該ディフューザから後段の前記遠心羽根車に流入する流体を前記回転軸に向かう戻り方向に流す。前記リターン流路は、ハブ側の壁面とシュラウド側の壁面との間に配置されている。前記リターン流路は、上流側に円状に列をなす前置翼と下流側に円状に列をなす後置翼とを有している。前記前置翼および前記後置翼は、双方とも前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の一方に形成されている。前記前置翼および前記後置翼の一方は、前記前置翼および前記後置翼の他方とは別体として形成された環状部材に形成されている。前記環状部材は、前記リターン流路に取り付けられている。
また、本発明に係る遠心圧縮機の製造方法は、形成工程と、接合工程と、取付工程とを含む。前記形成工程において、前置翼および後置翼の一方が、前記前置翼および前記後置翼の他方とは別体として形成された環状部材に形成される。前記前置翼は、ハブ側の壁面とシュラウド側の壁面との間に配置されたリターン流路において上流側に円状に列をなす。前記後置翼は、前記リターン流路において下流側に円状に列をなす。前記接合工程において、前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の一方に形成された、前記前置翼および前記後置翼の他方が、前記ハブ側の壁面および前記シュラウド側の壁面の他方に接合される。前記接合工程の後に、前記取付工程において、前記環状部材が、前記リターン流路に取り付けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遠心圧縮機のリターン流路に備えられた前置翼および後置翼の旋回速度成分除去能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る遠心圧縮機の軸方向断面図である。
【
図3】第1実施形態のリターンベーン構造の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】環状部材とシュラウド側構造体とを仮付接合した状態を示す斜視図である。
【
図5】前置翼および後置翼がそれぞれ形成された環状部材およびシュラウド側構造体を示す斜視図である。
【
図6】後置翼が形成されたシュラウド側構造体を示す斜視図である。
【
図7】前置翼が形成された環状部材を示す斜視図である。
【
図8】シュラウド側構造体に形成された後置翼と、ハブ側構造体とを接合した後の構造を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示した構造に、
図7に示した構造を半割れに分離させて半径方向外側からそれぞれ取り付けた後の構造を示す斜視図である。
【
図10】第1実施形態のリターンベーン構造を示す拡大断面図である。
【
図11】第2実施形態のリターンベーン構造を示す拡大断面図である。
【
図12】第2実施形態のリターンベーン構造の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、同一の部材または相当する部材については、同一の参照符号を付し、重複した説明を適宜省略する。また、部材のサイズおよび形状は、説明の便宜のため、変形または誇張して模式的に表す場合がある。例えば
図2において、前置翼と後置翼との間の隙間は、説明の便宜上、実際とは異なる大きさに描かれている。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向断面図(子午面断面図)である。ここで、軸方向断面(子午面断面)は、遠心圧縮機100を回転軸2の中心軸を含む平面で切断した断面に各部を投影したものをいう。
図1では、上半分のみ示されている。
【0014】
図1に示すように、遠心圧縮機100は、遠心羽根車1と、回転軸2と、ディフューザ3と、リターン流路4とを備える。遠心羽根車1は、回転することで流体にエネルギーを付与する。遠心羽根車1は、回転軸2に複数取り付けられており、
図1では一例として2枚のみ示している。ディフューザ3は、遠心羽根車1の半径方向外側に設けられ、遠心羽根車1から流出した流体を回転軸2から遠心方向に流す。ディフューザ3は、遠心羽根車1から流出された流体の動圧を静圧へと変換する。リターン流路4は、ディフューザ3の下流に設けられ、後段の遠心羽根車1へ流体を導く。すなわち、リターン流路4は、ディフューザ3から後段の遠心羽根車1に流入する流体を回転軸2に向かう戻り方向に流す。
【0015】
遠心羽根車1は、周方向に間隔をおいて配置された複数枚の羽根11を有している。羽根11は、通常、回転軸2に締結するハブ(円盤)12とハブ12に対向して配置されるシュラウド(側板)13との間に位置している。なお、本実施形態では、シュラウド13を有するクローズド型の遠心羽根車1の一例が示されている。ただし、シュラウド13を有さないオープン型の遠心羽根車が使用されてもよい。
【0016】
ディフューザ3には、本実施形態では、翼を有さないベーンレスディフューザが用いられているが、周方向にほぼ等ピッチで配置された複数枚の翼を有するベーン付きディフューザが用いられてもよい。
【0017】
リターン流路4は、流路を流れる流体の旋回速度成分を除去し、流体を整流しながら次段の遠心羽根車1へと流入させる役割を担っている。また、リターン流路4は、回転軸2の中心軸を中心に周方向にほぼ等ピッチに配置された複数枚のリターンベーン6を備えているが、詳細は後述する。
【0018】
これら遠心羽根車1、回転軸2、ディフューザ3およびリターン流路4は、ケーシング5内に収容されている。ケーシング5は、フランジ51および52によって支持されている。ケーシング5の流体吸込み側には吸込流路53が設けられており、ケーシング5の流体吐出側には吐出流路54が設けられている。
【0019】
遠心圧縮機100には、回転軸2を回転自在に支持するラジアル軸受55および56が回転軸2の両端側に配置されている。
【0020】
このように構成された遠心圧縮機100では、吸込流路53から吸引された流体が各段の遠心羽根車1、ディフューザ3、リターン流路4を通過する毎に昇圧され、最終的に所定圧力になって吐出流路54から吐出される。
【0021】
図2は、
図1のA領域の拡大断面図である。
リターン流路4は、リターンベンド部41と、リターンベーン部42とを備えている。リターンベンド部41は、第1転向部411と、第2転向部412とを有している。第1転向部411では、ディフューザ3を流れた流体の流れが径方向外側に向かう方向から軸方向に転向する。第2転向部412では、第1転向部411を流れた流体の流れが更に軸方向から径方向内側に向かう方向に転向する。リターンベーン部42は、リターンベーン6を備えた流路である。
【0022】
リターン流路4は、ハブ側の壁面80とシュラウド側の壁面90との間に配置されている。シュラウド側の壁面90とは、遠心羽根車1のシュラウド13側を通った流体が主に流れる側のリターン流路4の壁面をいう。シュラウド側の壁面90は、リターンベーン部42では
図2における右側の壁面であり、ケーシング5に固定される外部構造9の表面に相当する。また、ハブ側の壁面80とは、遠心羽根車1のハブ12側を通った流体が主に流れる側のリターン流路4の壁面をいう。ハブ側の壁面80は、リターンベーン部42では
図2における左側の壁面であり、リターンベーン6を介して外部構造9に固定される内部構造8の表面に相当する。
【0023】
リターンベーン6は、前置翼61と後置翼62とを備えている。本実施形態では、リターンベーン6は、二重翼列リターンベーンである。後置翼62は、前置翼61の下流に配置されている。リターン流路4のリターンベーン部42において、前置翼61は上流側に円状に列をなして複数配置されており、後置翼62は下流側に円状に列をなして複数配置されている(
図5参照)。
【0024】
本実施形態では、前置翼61の最内径D1>後置翼62の最外径D2、という関係になっている。前置翼61と後置翼62との間に設けられる半径方向の隙間は、旋回速度成分除去能力を向上させるために小さな隙間とされている。
【0025】
図3は、第1実施形態のリターンベーン構造の製造方法を示すフローチャートである。
以下、
図3のフローチャートに示す順序で製造方法を説明する。
【0026】
まず、前置翼61(
図5参照)が未だ形成されていない(前置翼形成前の)環状部材92と後置翼62(
図5参照)が未だ形成されていない(後置翼形成前の)シュラウド側構造体91との仮付接合が行われる(S11)。
図4は、前置翼形成前の環状部材92と後置翼形成前のシュラウド側構造体91とを仮付接合した状態を示す斜視図である。
【0027】
前置翼形成前の環状部材92と後置翼形成前のシュラウド側構造体91とは、それぞれ環状の金属素材から形成されている。シュラウド側構造体91のリターン流路4側には、リターン流路4とは反対側の部分よりも外径が小さい小径部93(
図6も参照)が設けられている。前置翼形成前の環状部材92と後置翼形成前のシュラウド側構造体91とは、同心となるように位置決めされた状態で、仮付接合される。ここで、環状部材92は、シュラウド側構造体91の小径部93の径方向外側に配置される。位置決めと仮付接合は、径方向外側から内側に向けて延びる、一般的に用いられるボルトやノックピン等の、後に分解できる締結部材(図示省略)を用いて行われる。締結部材は、後工程で前置翼61と後置翼62とを形成する際に工具と干渉しない位置に、配置される。このようにして、前置翼形成前の環状部材92と後置翼形成前のシュラウド側構造体91との相対位置がずれないようにされる。
【0028】
なお、前置翼形成前の環状部材92と後置翼形成前のシュラウド側構造体91とは半割れ構造となっているが、後工程で前置翼61と後置翼62とを形成する際には治具等で
図4に示す状態に保持されるように固定される。
【0029】
次に、前置翼61および後置翼62を形成する形成工程が行われる(S12)。
図5は、前置翼61および後置翼62がそれぞれ形成された環状部材92aおよびシュラウド側構造体91aを示す斜視図である。
図5に示すように、
図4で示した構造に対して、前置翼61と後置翼62とが形成される。ここでの形成は、例えば削り出し等の加工である。これにより、前置翼61と後置翼62との相対位置は、一般的な加工機の加工精度で保障することが可能となる。
【0030】
次に、前置翼形成後の環状部材92aと、後置翼形成後のシュラウド側構造体91aとの分解が行われる(S13)。
図6は、後置翼62が形成されたシュラウド側構造体91aを示す斜視図である。
図7は、前置翼61が形成された環状部材92aを示す斜視図である。分解は、ボルトやノックピン等の締結部材(図示省略)を外すことによって行われる。
【0031】
次に、シュラウド側構造体91aに形成された後置翼62と、内部構造8とを接合する接合工程が行われる(S14)。
図8は、シュラウド側構造体91aに形成された後置翼62と、内部構造8とを接合した後の構造を示す斜視図である。つまり、
図6に示した構造の後置翼62と内部構造8とが、溶接等の接合方法によって接合される。
この接合方法では、二重翼列リターンベーンであるリターンベーン6の内部構造8への接合を、単翼列リターンベーンの内部構造8への接合と同等に行うことができる。したがって、二重翼列リターンベーンの製造性に関する前置翼61と後置翼62との間の隙間の制約条件を緩和することが可能となる。
【0032】
次に、
図8に示した構造に前置翼形成後の環状部材92aを取り付ける取付工程が行われる(S15)。
図9は、
図8に示した構造に、
図7に示した構造を半割れに分離させて半径方向外側からそれぞれ取り付けた後の構造を示す斜視図である。
図10は、第1実施形態のリターンベーン構造を示す拡大断面図であり、
図9に示した構造の軸方向断面図(子午面断面図)である。
図10では、上半分(
図1のA領域)のみ示されている。取付は、ボルトやノックピン等の締結部材(図示省略)を用いて行われる。本実施形態では、環状部材92aおよびシュラウド側構造体91aが、外部構造9を構成する。
なお、内部構造8は、後置翼62を介して外部構造9に固定されるため、前置翼61との接合は行われない。
【0033】
次に、
図9および
図10に示した構造に対して、仕上げ加工が行われる(S16)。
これにより、
図2に示すような、前置翼61、後置翼62、内部構造8および外部構造9を含むリターンベーン構造が形成される。
【0034】
このように、本実施形態では、形成工程(S12)において、前置翼61が、後置翼62とは別体として形成された環状部材92aに形成される。また、接合工程(S14)において、シュラウド側の壁面90に形成された後置翼62が、ハブ側の壁面80に接合される。接合工程(S14)の後に、取付工程(S15)において、環状部材92aがリターン流路4に取り付けられる。
【0035】
なお、ケーシング5にリターンベーン構造を搭載する場合、半割れに分離させられたケーシング5に、半割れに分離させられたリターンベーン構造がそれぞれ組み込まれて固定される。この後、半割れのリターンベーン構造が組み込まれた半割れのケーシング5同士が互いに接合されて一体化される。
【0036】
前記したように、本実施形態に係る遠心圧縮機100において、リターン流路4は、ハブ側の壁面80とシュラウド側の壁面90との間に配置されている。リターン流路4は、上流側に円状に列をなす前置翼61と下流側に円状に列をなす後置翼62とを有している。前置翼61および後置翼62は、双方ともシュラウド側の壁面90に形成されている。前置翼61は、後置翼62とは別体として形成された環状部材92aに形成されている。環状部材92aは、リターン流路4に取り付けられている。
【0037】
このような本実施形態では、
図10に示すように、前置翼61は、後置翼62とは別体として形成された環状部材92aに形成され、この環状部材92aがリターン流路4に取り付けられる。このため、前置翼61と後置翼62とを有する例えば二重翼列リターンベーンの接合を、単翼列リターンベーンの接合と同等に行うことができる。つまり、前置翼61と後置翼62との間が、ハブ側の壁面80とシュラウド側の壁面90とを翼を挟んで向かい合わせた状態で内外周の隙間から溶接棒が届きにくい位置となって接合作業が困難になる事態は生じない。したがって、例えば二重翼列リターンベーンの製造性に関する前置翼61と後置翼62との間の隙間の制約条件を緩和することが可能となる。すなわち、前置翼61と後置翼62との間の隙間を、旋回速度成分除去能力を向上させるために小さくすることが可能となる。
これにより、特に前置翼61と後置翼62の翼形状に制限を与えずに、翼の接合が容易に達成可能な二重翼列リターンベーンを含む構造を提供できる。したがって、例えば二重翼列リターンベーンにとって重要な前置翼61と後置翼62との相互作用を高めることで、流体の旋回速度成分を除去する能力を高めることができる。
このように、本実施形態によれば、遠心圧縮機100のリターン流路4に備えられた前置翼61および後置翼62の旋回速度成分除去能力を向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態では、環状部材92aに形成されない方の翼は、リターン流路4の壁面が直接加工されて形成されたものである。この構成では、翼が形成された環状部材92aを別体としてリターン流路4に取り付けることによって、前置翼61と後置翼62とを有するリターンベーン構造を容易に形成することができる。
【0039】
また、本実施形態では、前置翼61は、環状部材92aに形成されたものであり、後置翼62は、リターン流路4の壁面が直接加工されて形成されたものである。この構成では、前置翼61が形成された環状部材92aを取り付ける際に、半径方向外側から容易にリターン流路4に取り付けることができる。
【0040】
また、本実施形態では、前置翼61の最内径D1が後置翼62の最外径D2よりも大きい。この構成では、環状部材92aの内面を円筒面とすることができる。このため、環状部材92aは、簡易な構造になるとともに、リターン流路4に容易に取り付けることが可能となる。
【0041】
(第2実施形態)
図11、
図12を参照しながら本発明の第2実施形態について、前記した第1実施形態と相違する点を中心に説明し、共通する点の説明を適宜省略する。
【0042】
図11は、第2実施形態のリターンベーン構造を示す拡大断面図である。
図11では、上半分(
図1のA領域)のみ示されている。
図11に示すように、第2実施形態は、前置翼61および後置翼62が、双方ともハブ側の壁面80に形成されている点で、第1実施形態と相違している。そして、前置翼61は、後置翼62とは別体として形成された環状部材82aに形成されている。環状部材82aは、リターン流路4に取り付けられている。具体的には、環状部材82aは、ハブ側構造体81aのリターン流路4側に設けられた小径部83の径方向外側に配置されて取り付けられている。
【0043】
図12は、第2実施形態のリターンベーン構造の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図11を参照しながら、
図12のフローチャートで示す順序で製造方法を説明する。
まず、前置翼61が未だ形成されていない(前置翼形成前の)環状部材(図示省略)と、後置翼62が未だ形成されていない(後置翼形成前の)ハブ側構造体(図示省略)との仮付接合が行われる(S21)。
【0044】
次に、前置翼61および後置翼62を形成する形成工程が行われる(S22)。形成工程(S22)において、前置翼61が、後置翼62とは別体として形成された環状部材82aに形成される。
次に、前置翼形成後の環状部材82aと、後置翼形成後のハブ側構造体81aとの分解が行われる(S23)。
【0045】
次に、ハブ側構造体81aに形成された後置翼62と、外部構造9とを接合する接合工程が行われる(S24)。接合工程(S24)において、ハブ側の壁面80に形成された後置翼62が、シュラウド側の壁面90に接合される。
次に、前置翼形成後の環状部材82aを取り付ける取付工程が行われる(S25)。すなわち、接合工程(S24)の後に、取付工程(S25)において、環状部材82aがリターン流路4に取り付けられる。本実施形態では、環状部材82aおよびハブ側構造体81aが、内部構造8を構成する。
【0046】
次に、仕上げ加工が行われる(S26)。
これにより、
図2に示すような、前置翼61、後置翼62、内部構造8および外部構造9を含むリターンベーン構造が形成される。
【0047】
このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様に、遠心圧縮機100のリターン流路4に備えられた前置翼61および後置翼62の旋回速度成分除去能力を向上させることができる。
【0048】
以上、本発明について実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0049】
例えば、前記した実施形態では、前置翼61は、環状部材92a,82aに形成されたものであり、後置翼62は、リターン流路4の壁面が直接加工されて形成されたものであるが、これに限定されるものではない。後置翼62は、環状部材(図示省略)に形成されたものであり、前置翼61は、リターン流路4の壁面が直接加工されて形成されたものであってもよい。
【0050】
また、前記した実施形態では、リターン流路4に備えられるリターンベーン6は、前置翼61と後置翼62とを備える二重翼列リターンベーンであるが、これに限定されるものではない。例えば、リターン流路4に、円状に列をなす翼が上流側から下流側に三列備えられていてもよい。この場合、三列の翼のうち半径方向において隣設する二列の翼が、本発明における前置翼および後置翼に相当することになる。
【符号の説明】
【0051】
1 遠心羽根車
2 回転軸
3 ディフューザ
4 リターン流路
6 リターンベーン
61 前置翼
62 後置翼
80 ハブ側の壁面
82a,92a 環状部材
90 シュラウド側の壁面
100 遠心圧縮機
D1 前置翼の最内径
D2 後置翼の最外径