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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099009
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】飼料用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/158 20160101AFI20220627BHJP
   C11B 3/06 20060101ALI20220627BHJP
   C11C 1/04 20060101ALI20220627BHJP
   A23K 20/24 20160101ALI20220627BHJP
【FI】
A23K20/158
C11B3/06
C11C1/04
A23K20/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212734
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】591193037
【氏名又は名称】辻製油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】梅本 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄城
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 喬
(72)【発明者】
【氏名】辻 威彦
【テーマコード(参考)】
2B150
4H059
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AB02
2B150AB05
2B150AE02
2B150AE26
2B150AE27
2B150BB03
2B150BC01
2B150DA36
2B150DF15
2B150DH04
4H059BA26
4H059BB03
4H059BC13
4H059BC48
4H059CA05
4H059CA32
4H059CA39
4H059CA72
4H059EA03
(57)【要約】
【課題】汎用性に優れ、作業性の効率化が図れるとともに、脂肪酸カルシウムの生成率を向上でき、高含量の脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物の製造方法は、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドとリパーゼを水存在下で混合してトリグリセリドを酵素分解する酵素分解工程(S1)と、酵素分解工程(S1)で得られた分解物と水酸化カルシウムを混合して脂肪酸カルシウムを生成する塩生成工程(S2)と、塩生成工程(S2)後の処理物から固形物を分離する固液分離工程(S3)と、分離された固形物と抗酸化性カラメルを混合する酸化防止工程(S4)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物の製造方法であって、
構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドとリパーゼを水存在下で混合して前記トリグリセリドを酵素分解する酵素分解工程と、前記酵素分解工程で得られた分解物と水酸化カルシウムを混合して脂肪酸カルシウムを生成する塩生成工程とを有することを特徴とする飼料用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記リパーゼは、前記トリグリセリドの位置非特異性のリパーゼであることを特徴とする請求項1記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記酵素分解工程は30℃~50℃で2時間以上行なう工程であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、さらに、前記塩生成工程後の処理物から固形物を分離する固液分離工程と、分離された前記固形物と抗酸化性カラメルを混合する酸化防止工程とを有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記固液分離工程は、分離された前記固形物の含水率が10質量%~30質量%になるように脱水する脱水処理を有することを特徴とする請求項4記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記塩生成工程は、抗酸化性カラメル存在下で、前記脂肪酸カルシウムの融点付近の温度で加熱する工程であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、さらに、前記塩生成工程後の処理物を固化させる固化工程と、固化した処理物を粉砕する粉砕工程とを有することを特徴とする請求項6記載の飼料用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記抗酸化性カラメルを、0.5mMの1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液と37℃で30分間反応した後の1mg当たりの517nmの吸光度の減少量が、0.6~1.1であることを特徴とする請求項4から請求項7までのいずれか1項記載の飼料用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛、豚などの畜産動物に与える飼料に、トリグリセリドや脂肪酸などが配合された飼料用組成物が広く用いられている。これらは、エネルギーを効率的に供給することを目的として配合されており、中でも脂肪酸の金属塩である脂肪酸カルシウムは、主に乳牛に対して夏場の乳脂低下を抑える目的で配合されている。また、アマニ油などを原料油脂に用いたn-3系脂肪酸を含む脂肪酸カルシウムは、肉質(牛、豚、鶏など)や鶏卵へのn-3系脂肪酸の移行による品質改良を目的として飼料に配合される。脂肪酸カルシウムは、例えば、飼料会社にて予め飼料に混合されたり、各畜産場で給餌直前に各々の飼料に添加される。
【0003】
脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物に関する製造技術として、特許文献1が提案されている。特許文献1には、当該飼料用組成物の製造方法として、不飽和脂肪酸を主成分とするトリグリセリド、水酸化カルシウム、水、抗酸化性を有するカラメル、リパーゼを混合する工程と、該混合物を60℃以下の温度で反応させて脂肪酸カルシウムを含む組成物を生成する工程とを有する方法が記載されている。この方法によれば、酸化安定性が高く、匂いや嗜好性に優れた飼料用組成物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-108076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、油脂の加水分解酵素であるリパーゼを用いる酵素分解法によって、脂肪酸カルシウムを得ている。このような酵素分解法ではリパーゼの種類などによって加水分解効率が影響され、その結果、脂肪酸カルシウムの生成率が異なってくる。上記特許文献1では、アルカリ性条件下で酵素分解を行っており、使用できるリパーゼが制限を受けることで、加水分解効率に影響するおそれがある。また、アルカリ性リパーゼは比較的高コストであり、汎用性の面でも改善の余地がある。
【0006】
また、上記特許文献1の製造方法では、トリグリセリド、水酸化カルシウム、抗酸化性を有するカラメル、リパーゼを含む原材料を約30分間混合した後、粘度が上昇した段階で別容器に移し、別容器内で油脂の酵素分解反応と脂肪酸カルシウムの生成反応を約30時間かけて行い、固化させている。その後、容器から固化物を取り出し、粉砕することで、脂肪酸カルシウムを得ている。しかし、このような方法は作業性の観点で改善の余地があると考えられる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、汎用性に優れ、作業性の効率化が図れるとともに、脂肪酸カルシウムの生成率を向上でき、高含量の脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物を製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の飼料用組成物の製造方法は、脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物の製造方法であって、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドとリパーゼを水存在下で混合して上記トリグリセリドを酵素分解する酵素分解工程と、上記酵素分解工程で得られた分解物と水酸化カルシウムを混合して脂肪酸カルシウムを生成する塩生成工程とを有することを特徴とする。
【0009】
上記リパーゼは、上記トリグリセリドの位置非特異性のリパーゼであることを特徴とする。また、上記酵素分解工程は30℃~50℃で2時間以上行なう工程であることを特徴とする。
【0010】
上記製造方法は、さらに、上記塩生成工程後の処理物から固形物を分離する固液分離工程と、分離された上記固形物と抗酸化性カラメルを混合する酸化防止工程とを有することを特徴とする。
【0011】
上記固液分離工程は、分離された上記固形物の含水率が10質量%~30質量%になるように脱水する脱水処理を有することを特徴とする。
【0012】
上記塩生成工程は、抗酸化性カラメル存在下で、上記脂肪酸カルシウムの融点付近の温度で加熱する工程であることを特徴とする。
【0013】
上記製造方法は、さらに、上記塩生成工程後の処理物を固化させる固化工程と、固化した処理物を粉砕する粉砕工程とを有することを特徴とする。
【0014】
上記抗酸化性カラメルを、0.5mMの1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液と37℃で30分間反応した後の1mg当たりの517nmの吸光度の減少量が、0.6~1.1であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の飼料用組成物の製造方法は、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を含むトリグリセリドとリパーゼとを水存在下で混合してトリグリセリドを酵素分解する酵素分解工程と、その分解物と水酸化カルシウムを混合して脂肪酸カルシウムを生成する塩生成工程とを有するので、酵素分解工程を中性条件下で行なうことができ、リパーゼの種類について制限を受けにくいことから、汎用性に優れ、トリグリセリドの加水分解効率に適したリパーゼを用いることができる。その結果、脂肪酸カルシウムの生成率を向上でき、高含量の脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物を得ることができる。
【0016】
上記リパーゼは、トリグリセリドの位置非特異性のリパーゼであるので、トリグリセリド中のエステル結合をランダムに加水分解できるため、不飽和脂肪酸を含む遊離脂肪酸の生成率を向上できる(例えば、リパーゼ分解後の油層の遊離脂肪酸の生成率は95~97%程度である)。また、位置非特異性のリパーゼは、一般にアルカリ性リパーゼに比べて安価であり、低コスト化を図ることができる。また、酵素分解工程は30℃~50℃で2時間以上行なう工程であるので、リパーゼの活性を促し、酵素分解をより確実に行なうことができる。
【0017】
本発明の製造方法は、さらに、固形物を分離する固液分離工程と、得られた固形物と抗酸化性カラメルを混合する酸化防止工程とを有するので、例えば従来技術のように固化した固化物を容器から取り出す作業が必要にならない。また、従来技術の場合、反応液を別の容器に流し込んだ後、タンク内に残った反応液も固化する可能性があり、該タンクの洗浄などに時間を要することも考えられるが、その洗浄なども必要にならない。その結果、作業性の効率化が図れる。
【0018】
固液分離工程は、分離された固形物の含水率が10質量%~30質量%になるように脱水する脱水処理を有するので、後続の酸化防止工程を適切に行いやすくなる。具体的には、ダブルコーンなどによる真空乾燥時において抗酸化性カラメルの添加に伴う発泡を抑えることができるともに、10質量%以上の水分を含むことで抗酸化性カラメルが脂肪酸カルシウムの粒子に馴染みやすく、かつ、均一に混合されることで、抗酸化性カラメルを脂肪酸カルシウムにより適切にコーティングできる。
【0019】
塩生成工程は、脂肪酸カルシウムの融点付近の温度で加熱して、酵素分解後の脂肪酸(水を含む)と水酸化カルシウムを反応させ、半溶融状態で脂肪酸カルシウムを生成させることから、脂肪酸カルシウムの生成反応を速やか(例えば1時間以内)に完了できる。その結果、作業性の効率化が図れる。
【0020】
上記抗酸化性カラメルは、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)を用いた抗酸化性の評価で所定の抗酸化性を有するので、例えばアマニ油などの不飽和脂肪酸の含有割合が多いトリグリセリドを用いた場合であっても、不飽和脂肪酸の酸化を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の飼料用組成物の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の飼料用組成物の製造方法の他の例を示すフロー図である。
図3】実施例と比較例の飼料用組成物の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の飼料用組成物の製造方法を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の飼料用組成物の製造方法の一例を示すフロー図である。図1に示す製造方法は、酵素分解工程(S1)と、塩生成工程(S2)と、固液分離工程(S3)と、酸化防止工程(S4)とを備えてなる。この製造方法によって得られた飼料用組成物は、畜産動物に与える飼料などに使用される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0023】
[酵素分解工程(S1)]
この工程は、リパーゼを用いてトリグリセリドを酵素分解する工程である。原料油脂となるトリグリセリドは、構成脂肪酸の少なくとも1つが不飽和脂肪酸であればよい。不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、ビスホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが挙げられる。これら不飽和脂肪酸を含む原料油脂としては、例えば、アマニ油、大豆油、ナタネ油、コーン油、エゴマ油、魚油、グリーンナッツ油などがあり、これらは単独で、または混合油として用いることができる。
【0024】
原料油脂としては、α-リノレン酸、EPA、DHAなどのn-3系脂肪酸の含有割合が、構成脂肪酸全体に対して50質量%以上であることが好ましく、α-リノレン酸の含有割合が、構成脂肪酸全体に対して50質量%以上であることがより好ましい。このような原料油脂として、具体的には、アマニ油、エゴマ油が挙げられる。
【0025】
また、別の観点では、原料油脂は、原料油脂の構成脂肪酸中におけるn-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸との質量比(n-3系脂肪酸/n-6系脂肪酸)が1~10が好ましく、2~6がより好ましい。
【0026】
アマニ油は、アマ(Linum usitatissimum)の種子であるアマニから搾油された植物性油脂である。アマニから搾油した後、脱ガム、脱酸、脱色などを経て、水分、ガム質、遊離脂肪酸、色素成分などが除去されたアマニ油が市販されており、このような市販品を原料油脂として用いることができる。また、アマニ油として、アマニ脱臭油を用いてもよい。
【0027】
S1工程で用いるリパーゼは、特に制限されず、動物由来や、植物由来、微生物由来のリパーゼを用いることができる。例えば、キャンディダ(Candida)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属などを起源とするリパーゼを用いることができる。トリグリセリドの位置特異性に関して、リパーゼには、1、3位-特異性のリパーゼと位置非特異性のリパーゼがある。1、3位-特異性のリパーゼの市販品としては、例えば、リパーゼAK「アマノ」(天野エンザイム社製、Pseudomonas fluorescence起源)、リパーゼAS「アマノ」(天野エンザイム社製、Aspergillus niger起源)、リパーゼPL(名糖産業社製、Pseudomonas pseudoalcaligenes起源)、リパーゼQLM(名糖産業社製Burkholderia ubonensis起源)などがある。
【0028】
本発明では、加水分解効率の観点から、位置非特異性のリパーゼ、つまりトリグリセリド中のエステル結合をランダムに加水分解可能なリパーゼを用いることが好ましい。このような位置非特異性のリパーゼは、アルカリ性で失活しやすい。位置非特異性のリパーゼとして、具体的にはキャンディダ属を起源とするリパーゼが好ましく、市販品として、例えば、リパーゼOF(名糖産業社製、Candida cylindracea起源)、リパーゼAYS「アマノ」(天野エンザイム社製、Candida rugosa起源)などがある。
【0029】
S1工程におけるリパーゼの添加量は、リパーゼの活性などによって適宜設定されるが、例えば原料油脂1gに対して力価100U~1000Uのリパーゼが添加され、好ましくは300U~1000Uのリパーゼが添加される。なお、リパーゼは、例えば、予め水でねりながら溶解させてリパーゼ溶液とし、そのリパーゼ溶液を原料油脂に撹拌しながら添加する。
【0030】
S1工程における水の添加量(リパーゼ溶液中の水も含む)は、例えば原料油脂の重量に対して0.5倍量~5倍量である。加水分解効率や後続の工程でのハンドリングなどを考慮すると、水の添加量は、原料油脂の重量に対して0.5倍量~3倍量が好ましく、0.5倍量~2倍量がより好ましい。
【0031】
S1工程は30℃~60℃で行なうことが好ましい。この温度範囲であれば、リパーゼの反応温度と活性、熱安定性などに優れ、高い効果が期待できる。より好ましくは30℃~50℃であり、さらに好ましくは30℃~45℃である。S1工程の加熱時間は酵素分解を完了させるため、2時間以上が好ましく、4時間以上がより好ましい。不飽和脂肪酸の含有割合が多い原料油脂を用いる場合は、酸化防止の観点から、30℃~45℃での加熱時間の上限は10時間程度が好ましい。なお、加熱時間終了後、必要に応じて、加熱を行わない状態を所定時間継続して反応させてもよい。
【0032】
また、S1工程では、原料油脂中の不飽和脂肪酸残基の酸化を抑制するため、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
[塩生成工程(S2)]
この工程は、水酸化カルシウムを用いて脂肪酸カルシウムを生成する工程である。例えば、S1工程後の反応液を、水酸化カルシウムおよび水を含む別の反応槽へ撹拌しながら添加していく。なお、水は必要に応じて使用すればよく、使用する場合の使用量は、例えば、原料油脂の重量に対して2倍量~10倍量である。S1工程後の反応液を全量添加した後、常温(例えば、25℃)で10分以上、好ましくは1時間以上撹拌する。この工程では、熱を意図的に加えない点で、上述のS1工程とは異なる。S1工程で生じた遊離脂肪酸が水酸化カルシウムと反応し、脂肪酸カルシウムの粒子が固形物として析出する。
【0034】
S2工程で使用する水酸化カルシウムのモル比は、特に限定されないが、原料油脂に対して1.2~2.0であることが好ましく、1.3~1.8であることがより好ましい。水酸化カルシウムのモル比は、例えば原料油脂にアマニ油を用いた場合には、該アマニ油の構成脂肪酸の組成に基づいて算出されるトリグリセリドの分子量(分子量872)と、アマニ油の使用重量とから求められるモル比に基づいて算出される。
【0035】
[固液分離工程(S3)]
この工程は、S2工程後の処理物から固形物を分離する工程である。固液分離の手段としては、周知の固液分離の手段を採用でき、メッシュ濾過、吸引濾過、遠心分離などの手段を採用できる。例えば、メッシュ濾過を行なう場合、フィルターとしては、32メッシュ(目開き50μm)~100メッシュ(目開き154μm)の篩を用いることが好ましい。なお、分離された液体物は、pH調整などされて廃液として処理される。
【0036】
固液分離の手段によって得られた固形物は、後続のS4工程にそのまま用いてもよいが、必要に応じて、固形物の含水率を所定以下にする脱水処理を行なってもよい。例えば、メッシュ濾過によって分離された固形物の含水率は40質量%程度であり、この固形物を含水率が10質量%~30質量%になるように脱水処理を行う。後続の酸化防止工程における真空乾燥で生じる発泡をできるだけ抑えるため、含水率は低い方が好ましいが、抗酸化性カラメルが脂肪酸カルシウムの粒子に馴染みやすく、カラメルを均一に混合させるため、例えば10質量%以上としている。脱水処理後の固形物の含水率は、好ましくは20質量%~30質量%である。
【0037】
脱水処理は、酸化防止の観点から、品温が40℃以下、好ましくは25℃~35℃に維持される条件で行なうことが好ましい。脱水処理としては、各種乾燥装置を用いる方法や、吸引濾過、遠心分離などを行ってもよい。例えば、エバポレータなどの減圧乾燥装置を用いる場合、減圧度10Torr~50Torr、加熱温度(湯浴温度)50℃~90℃で行われる。その他、ダブルコーンなどの伝導伝熱式回転乾燥装置を用いて加温により乾燥を行ってもよい。なお、上記の脱水処理では、複数の方法を組み合わせてもよい。例えば、遠心分離を行った後、ダブルコーンによる乾燥を行うことができる。
【0038】
固形物の含水率は、乾燥減量法(飼料分析基準収載法)によって算出することができる。上記の脱水処理は、算出された含水率に基づいて脱水処理を完了する。
【0039】
なお、固液分離の手段として、メッシュ濾過の代わりに、例えば、吸引濾過や遠心分離を行なう場合には、固形物を分離しつつ、その固形物の含水率を上記数値範囲のように30質量%以下になるまで処理を継続することができる。
【0040】
[酸化防止工程(S4)]
この工程は、S3工程で分離された固形物と抗酸化性カラメルを混合撹拌して、飼料用組成物を得る工程である。抗酸化性カラメルは、例えば、ペントースまたはヘキソースの単糖類の水溶液を、塩基性化合物の存在下、所定の条件下で加熱することによって得られる、抗酸化性を有するカラメルである。抗酸化性カラメルを固形物に添加する際には、抗酸化性カラメルを予め40℃程度に加温し、流動性を持たせた状態で添加することが好ましい。
【0041】
また、抗酸化性カラメルの添加量は、脂肪酸カルシウムの重量に対して1質量%~10質量%であることが好ましく、4質量%~10質量%であることがより好ましい。なお、脂肪酸カルシウムの重量は、例えば、脱水処理されたS3工程後の固形物から乾燥減量法(飼料分析基準収載法)によって含水率を算出し、その固形物重量から水分量を差し引くことなどで求められる。
【0042】
抗酸化性カラメルの原料に用いる単糖としては、グルコース、キシロース、ガラクトース、フラクトースなどが挙げられ、これらの中でも入手が容易で安価なグルコースが好ましい。また、塩基性化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、酢酸やクエン酸などの有機酸のナトリウム塩やアンモニウム塩、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。本発明に用いる抗酸化性カラメルとしては、グルコースと炭酸ナトリウムを加熱処理して得られたカラメルを用いることが好ましい。
【0043】
抗酸化性カラメルは、例えば、75質量%~95質量%の単糖の水溶液100質量部に対して、塩基性化合物1質量部~10質量部の存在下、1時間~10時間程度加熱することで得られる。加熱温度は、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120~150℃である。得られたカラメルのpHは5以下であることが好ましい。
【0044】
得られたカラメルの抗酸化性は、例えば、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)を用いた以下の方法によって評価できる。まず、上記のカラメルを所定量エタノールに溶解し、これに0.5mMのDPPHエタノール溶液を加えて、37℃で30分間保持する。その後、517nmの吸光度を測定し、カラメル量とカラメル添加による吸光度の減少量の回帰直線を作成する。この回帰直線から、カラメル1mg当たりの吸光度の減少量を求め、その値をカラメルの抗酸化性の評価に用いることができる。この値は、好ましくは0.6~1.1である。
【0045】
S4工程は、固形物と抗酸化性カラメルの混合と、その処理物の乾燥を同時に行ってもよい。例えば、所定の減圧度、所定の温度条件下で、混合撹拌することができる。この場合、品温が40℃以下、好ましくは25℃~35℃に維持される条件で行なうことが好ましい。減圧度は10Torr~50Torrが好ましく、加熱温度は50℃~90℃が好ましい。
【0046】
S4工程において、混合と乾燥を同時に行わずに、別々の処理として行ってもよい。この場合、固形物と抗酸化性カラメルの混合は加熱せずに常温(例えば、25℃)下で行う。また、その後の乾燥は、品温が40℃以下を維持できるような条件で減圧乾燥を行う。例えば、減圧度10Torr~50Torr、加熱温度50℃~90℃で乾燥させる。
【0047】
S4工程における乾燥は、処理物の含水率が所定の水分含量(例えば、13.5質量%)になるまで行われる。乾燥によって得られた飼料用組成物は、必要に応じて、ハンマーミル粉砕装置などによって、粉末状に粉砕してもよい。
【0048】
図1の製造方法において、S3工程およびS4工程として好ましい形態は、固液分離工程(S3)で、まず固液分離して固形物(含水率:約40質量%)を得た後、遠心分離またはエバポレータなどを用いて、固形物の含水率を10質量%~30質量%になるように脱水し、その後、酸化防止工程(S4)で、抗酸化性カラメルを添加して、さらに固形物の含水率を10質量%~13.5質量%になるまで乾燥する形態である。この場合、固液分離工程は脱水処理を有しており、また、酸化防止工程の中に乾燥工程が含まれている。
【0049】
上記の好ましい形態の具体的な例を以下に示す。塩生成工程(S2)で生成させた脂肪酸カルシウムを水を含んだ状態で、全てダブルコーンに投入する。このダブルコーンは出口にメッシュが装着されており、このダブルコーンによって固液分離を行なうとともに、脱水(乾燥)を行なう。まず、メッシュを用いた固液分離によって固形物を分離し、その後、ダブルコーン内でその固形物を乾燥させる。そして、含水率が10質量%~30質量%になるまで乾燥した段階で、真空を解除せずにダブルコーンを回転させながら、ノズルを通して抗酸化性カラメルを添加し、カラメルを脂肪酸カルシウムの粒子と混合させながら、含水率が10質量%~13.5質量%となるまで乾燥させる。このような一連の流れでS3工程およびS4工程を行なうことで、作業性の一層の効率化を図ることができる。
【0050】
図2は、本発明の飼料用組成物の製造方法の他の例を示すフロー図である。図2に示す製造方法は、酵素分解工程(S1)と、塩生成工程(S2’)と、固化工程(S5)と、粉砕工程(S6)とを備えてなる。以下、各工程について説明する。なお、酵素分解工程(S1)は、上述した図1の酵素分解工程と同じ工程であり、説明を省略する。
【0051】
[塩生成工程(S2’)]
この工程は、水酸化カルシウムを用いて脂肪酸カルシウムを生成する工程である。例えば、S1工程の反応液の油層(水を含む)を別の反応槽へ移し、これに水酸化カルシウム、水、および抗酸化性カラメルを撹拌しながら添加していく。なお、水は必要に応じて使用すればよく、使用する場合の使用量は、例えば、原料油脂の重量に対して0.001倍量~1.0倍量である。また、この工程で使用する水酸化カルシウムのモル比や、抗酸化性カラメルの添加量、抗酸化性カラメルの抗酸化性などは、上述した数値範囲を適宜適用できる。S1工程後の反応液の油層(水を含む)に対して、水酸化カルシウム、水、および抗酸化性カラメルを添加した後、例えば脂肪酸カルシウムの融点付近の温度で、1時間以下、好ましくは10分~30分撹拌する。
【0052】
S2’工程は、上述した図1の製造方法におけるS2工程とは異なり、所定の加熱条件下で行う。上記の脂肪酸カルシウムの融点付近の温度とは、例えば脂肪酸カルシウムの融点の±30℃の範囲内である。この脂肪酸カルシウムは、原料油脂の構成脂肪酸から誘導される脂肪酸カルシウムのうち少なくとも1つをいう。例えば、原料油脂にアマニ油を用いた場合、S2’工程は70℃~200℃で加熱して行う。より好ましくは90℃~160℃で加熱して行う。少量の水の存在下で反応温度をコントロールしながら反応させることで、半溶融状態で脂肪酸カルシウムを生成させることができ、反応を速やかに完結させることができる。
【0053】
[固化工程(S5)]
S2’工程後の処理物を別の容器に取り出し、冷却して固化させる。例えば、室温下、1時間~15時間静置する。
従来技術は、別容器内で油脂の酵素分解反応と脂肪酸カルシウムの生成反応を行っており、長時間(30時間程度)かけて静置している。これに対して、図2の製造方法では、S5工程前に、油脂の酵素分解反応と脂肪酸カルシウムの生成反応を段階的に完了させており、このS5工程は、半溶融状態の脂肪酸カルシウムを固化させるために行っている。つまり、従来技術と図2の製造方法では、別容器に移してからの目的が異なっている。その結果、S5工程の静置時間を、従来技術の静置時間(30時間程度)よりも短くすることができ、作業性の効率化を図ることができる。
【0054】
[粉砕工程(S6)]
S5工程で得られた固化物をハンマーミル粉砕装置などによって、粉末状に粉砕する。
【0055】
本発明の製造方法では、原料油脂、リパーゼ、水酸化カルシウム、水、抗酸化性カラメル以外にも、他の添加物を適宜添加してもよい。例えば、糖蜜などの嗜好性改良剤、グリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤、プロピオン酸などの防かび剤、サッカリンナトリウムなどの甘味料、香料などを適宜添加してもよい。
【0056】
上記製造方法によって得られた飼料用組成物は、畜産動物にそのまま与えられたり、他の飼料用組成物と配合され飼料として与えられる。得られた飼料用組成物は、組成物全量に対して脂肪酸カルシウムが52質量%以上含まれることが好ましく、55質量%以上含まれることがより好ましい。
【0057】
また、得られた飼料用組成物は、酸化安定性にも優れる。製造直後の飼料用組成物の過酸化物価(POV)は5以下であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは1以下である。
【実施例0058】
実施例1
アマニ油(脱臭油)600gを反応槽に添加し、その反応槽に、アマニ油1gに対して345UのリパーゼOF(名糖産業社製)を水420g(アマニ油重量の0.7倍量)に分散させたリパーゼ溶液を撹拌させながら添加して、40℃で6時間以上、混合撹拌した。別の反応槽に水1634gと水酸化カルシウム81.58g(アマニ油に対してモル比1.5以上)を撹拌混合しておき、そこに、リパーゼを含む上記の反応液を少量ずつ全量添加して、25℃で6時間以上、混合撹拌した。撹拌後、100メッシュのフィルターを用いて固液分離し、固形物を分取した。分離された液体物は廃液として処理した。
【0059】
得られた固形物の含水量は、約40質量%であった。この固形物をエバポレータで真空度10Torr~20Torr、湯浴温度85℃の条件で、品温が27℃~35℃を維持するようにして、含水率が25質量%~28質量%になるまで脱水した。続いて、脱水した固形物に対して、予め40℃程度に加温した抗酸化性カラメル(脂肪酸カルシウムの固形物重量に対して6.5質量%)を添加して、減圧下で混合と乾燥を行った。具体的には、エバポレータで真空度10Torr~20Torr、湯浴温度85℃の条件で、品温が27℃~35℃を維持するようにして、含水率が12質量%~13.5質量%になるまで混合と乾燥を行い、飼料用組成物を得た。得られた飼料用組成物は、茶系の粒状であった(図3(a)参照)。
【0060】
なお、実施例1で用いた抗酸化性カラメルは、グルコース72.5質量部、塩基性化合物として炭酸ナトリウムを4.5質量部および水23質量部を混合し、130℃で3時間反応させた後、水を23質量部添加して粘度を調整した。その抗酸化性カラメルの抗酸化性は1.064であった。
【0061】
得られた飼料用組成物の水分、粗脂質、灰分の重量を以下の方法によってそれぞれ測定し、飼料用組成物全量に対する質量%を算出した。結果を表1に示す。
<水分>
飼料用組成物2g~5gを正確にガラスビーカー(あらかじめ乾燥して重さを正確に量っておいたもの)に量り、これに15gの海砂を添加してよくかき混ぜ、105±2℃で3時間乾燥し、デシケーター中で放冷後、重さを正確に量って、乾燥前後の重量差から水分の重量を求めた。
<粗脂質>
酸分解ジエチルエーテル抽出法を用いて、粗脂質を求めた。その粗脂質の酸価を測定することによって、遊離脂肪酸(Ca結合型)およびトリアシルグリセロール(TG)、ジアシルグリセロール(DG)、モノアシルグリセロール(MG)の総量を求めた。また、Ca非結合型の遊離脂肪酸含量は、飼料用組成物にエーテル-エタノール混液(2:1)を加え、激しく振り混ぜ、濾紙を用いて濾過し、濾液にフェノールフタレイン指示薬を数滴加え、これを0.1N水酸化カリウム-エタノール液で滴定する方法で求めた。
<灰分>
飼料用組成物2g~5gを正確に量り、るつぼに入れ、穏やかに加熱して炭化させた後、550℃~600℃で4時間加熱して灰化し、デシケーター中で放冷後、重さを正確に量って灰分の重量を求めた。
【0062】
<脂肪酸カルシウム生成率>
原料油脂として用いたアマニ油(脱臭油)の全ての構成脂肪酸が脂肪酸カルシウムとなった場合の生成率を100%として、飼料用組成物中の脂肪酸カルシウム(Ca結合型の遊離脂肪酸)の生成率を算出した。
【0063】
実施例2
アマニ油(脱臭油)40kgを反応槽に添加し、その反応槽に、アマニ油1gに対して345UのリパーゼOF(名糖産業社製)を水40kg(アマニ油重量と等量)に分散させたリパーゼ溶液を撹拌させながら添加して、30℃で6時間以上、混合撹拌した。その後、撹拌と加温を停止して15時間静置分離し、水層36.8kgを排出した。
【0064】
反応槽に残った油層(アマニ油脂肪酸を含むリパーゼ処理液であって水を含む)を脂肪酸カルシウム生成用の反応槽に移し、そこに予め30℃に加温した抗酸化性カラメル(生成する脂肪酸カルシウムの固形物重量に対して5.25質量%)を添加した。さらに、撹拌させながら品温を95℃まで上昇させた後、水酸化カルシウム5.48kg(アマニ油に対してモル比1.5以上)を添加し、反応槽内にエアーを封入して圧力をかけながら約100℃で25分間撹拌を継続し、半溶融状態で脂肪酸カルシウムの生成反応を行った。反応後、反応槽下部より半溶融状態の脂肪酸カルシウムを排出し、トレイに回収した。回収した脂肪酸カルシウムは品温が低下するとともに固化するため、そのまま室温で15時間静置した。その後、固化した脂肪酸カルシウムをブロック状に砕いた後、フードミキサーを使用して粉砕し、飼料用組成物を得た。得られた飼料用組成物は、茶系の粉末状であった(図3(b)参照)。この飼料用組成物に対しても、実施例1と同様に、水分、粗脂質、灰分の重量を測定した。
【0065】
比較例
アマニ油(脱臭油)78質量部に、水酸化カルシウム10.6質量部を加え、混合槽内で混合撹拌した。この混合物に、上記と同様に製造した抗酸化性カラメル4質量部、水7.4質量部、リパーゼPL(名糖産業社製)0.04質量部を加えて、液温を40℃に加温し、さらに30分間撹拌し、混合槽からブロック状の固体物を容器に取り出した。その後、室温で30時間静置し、固化した混合物を容器から取り出して、ハンマーミル粉砕装置によって粉砕した。その結果、黄系の粉末状の飼料用組成物を得た(図3(c)参照)。なお、リパーゼPLは、アルカリ耐性リパーゼである。この飼料用組成物に対しても、実施例1と同様に、水分、粗脂質、灰分の重量を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~2および比較例の飼料用組成物の水分値は概ね10質量%程度であった。遊離脂肪酸(Ca結合型)については、実施例1~2の飼料用組成物の方が、比較例の飼料用組成物よりも高く、脂肪酸カルシウムがより高含量の飼料用組成物が得られることが分かった。また、別途算出した脂肪酸カルシウム生成率について、比較例が76.9%であったのに対して、実施例1が80.7%であり、実施例1の方が優れる結果であった。ここで、実施例1に係る製造方法は、比較例(従来技術)と異なり、酵素分解工程と塩生成工程を段階的に行うことで、位置非選択性のリパーゼを用いることができ、それによって加水分解効率が高まったと考えられる。また、実施例1に係る製造方法は、固液分離工程によって固形物を分離する工程はあるものの、従来技術のように固化した固化物を容器から取り出す作業は必要とならず、大量生産でも作業性は良好である。
【0068】
一方、実施例2の脂肪酸カルシウム生成率は75.0%であった。ただし、実施例2に係る製造方法は、半溶融法により短時間に脂肪酸カルシウム生成反応を行うことが可能であり、反応時間をさらに5~10分間程度延長することで脂肪酸カルシウム生成率をさらに上昇できると考えられる。また、実施例2では脂肪酸カルシウム生成用の反応槽内で反応を完結させることができるため、排出後は放冷により固化した段階で直ちに粉砕が可能となるため、従来技術よりも作業時間の短縮が可能となる。
【0069】
<過酸化物価(POV)>
実施例1の飼料用組成物の製造直後のPOV、および、アルミパウチ袋に充填して倉庫内(25℃)で保管7日後のPOVをそれぞれ測定した。測定は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」に準じた。その結果、製造直後のPOVが0.27であり、7日後のPOVが0.49であった。製造直後および7日後のPOVがいずれも1以下であり、優れた酸化安定性を有することが分かった。一方、実施例2も実施例1と同様にPOVを測定した結果、製造直後および7日後のPOVは0であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の飼料用組成物の製造方法は、酵素分解工程と、塩生成工程とを備え、脂肪酸カルシウムの生成率を向上でき、高含量の脂肪酸カルシウムを含む飼料用組成物を製造できるので、畜産分野における飼料用組成物の製造方法として、好適に利用できる。
図1
図2
図3