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  • 特開-果菜の評価方法及び果菜の評価装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099018
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】果菜の評価方法及び果菜の評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20220627BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
G01N21/64 B
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212749
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正
(72)【発明者】
【氏名】勝又 政和
(72)【発明者】
【氏名】山口 正己
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA05
2G043EA01
2G043FA03
2G043HA01
2G043HA11
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA05
2G043LA02
2G043NA02
2G043NA11
(57)【要約】
【課題】外観による区別が困難な場合でも果菜の内部品質を評価することができる果菜の評価方法及び果菜の評価装置を提供する。
【解決手段】果菜の評価方法は、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10に、表皮を透過する波長の光を含む励起光L1を照射する第1ステップと、果菜10から発せられる遅延発光L2を検出する第2ステップと、第2ステップにおける検出結果に基づいて果菜10の内部品質を評価する第3ステップと、をこの順に備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜に、前記表皮を透過する波長の光を含む励起光を照射する第1ステップと、
前記果菜から発せられる遅延発光を検出する第2ステップと、
前記第2ステップにおける検出結果に基づいて前記果菜の内部品質を評価する第3ステップと、をこの順に備える、果菜の評価方法。
【請求項2】
前記第3ステップでは、前記検出結果に基づいて前記果菜の糖度を評価する、請求項1に記載の果菜の評価方法。
【請求項3】
前記第3ステップでは、前記第2ステップで検出された前記遅延発光の量が少ないほど、前記果菜の糖度が高いと評価する、請求項2に記載の果菜の評価方法。
【請求項4】
前記果菜は、ブルーベリー又はトマトである、請求項1~3のいずれか一項に記載の果菜の評価方法。
【請求項5】
前記第2ステップでは、前記第1ステップにおける前記励起光の照射の完了時点から1秒後までの期間に前記遅延発光を検出する、請求項1~4のいずれか一項に記載の果菜の評価方法。
【請求項6】
成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜に、前記表皮を透過する波長を含む励起光を照射する照射部と、
前記果菜から発せられる遅延発光を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて前記果菜の内部品質を評価する評価部と、を備える、果菜の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果菜の評価方法及び果菜の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、果菜の選別方法が記載されている。非特許文献1に記載の選別方法では、トマトから発せられる遅延発光を検出し、遅延発光量に基づいてトマトの着色度を4段階に分級している。トマトが緑色から赤色に変化するにつれて、クロロフィル(葉緑素)の含有量が減少し、遅延発光量が減少することを利用して、トマトの分級を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中馬、中司“果菜・野菜の光学的性質とその選別工程への利用(第4報)”、農業機械学会誌、1976年、第38巻、第2号、p.217-224
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような方法では、緑色の果菜と、緑色から他の色に変化した果菜との間の選別を行うことができるが、後者の果菜を更に細かく選別することはできない。すなわち、外観により区別可能な果菜については選別することができるが、外観による区別が難しい果菜については選別が困難である。
【0005】
そこで、本発明は、外観による区別が困難な場合でも果菜の内部品質を評価することができる果菜の評価方法及び果菜の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の果菜の評価方法は、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜に、表皮を透過する波長の光を含む励起光を照射する第1ステップと、果菜から発せられる遅延発光を検出する第2ステップと、第2ステップにおける検出結果に基づいて果菜の内部品質を評価する第3ステップと、をこの順に備える。
【0007】
この果菜の評価方法では、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜に、表皮を透過する波長の光を含む励起光を照射し、果菜から発せられる遅延発光を検出し、検出結果に基づいて果菜の内部品質を評価する。これにより、外観による区別が困難な場合でも、果菜の内部品質を評価することができる。これは、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜(外観による区別が困難な果菜)から発せられる遅延発光の量が、果菜の内部品質に応じて変化するためである。なお、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜から発せられる遅延発光の量が、果菜の内部品質に応じて変化することは、本発明者らが新たに見出した知見である。これは、果菜の成熟が進行するにつれて果菜内部の葉緑体が光合成を行わなくなるためであると考えられる。
【0008】
第3ステップでは、検出結果に基づいて果菜の糖度を評価してもよい。この場合、外観による区別が困難な場合でも果菜の糖度を評価することができる。
【0009】
第3ステップでは、第2ステップで検出された遅延発光の量が少ないほど、果菜の糖度が高いと評価してもよい。この場合、遅延発光の量に基づいて果菜の糖度を評価することができる。
【0010】
果菜は、ブルーベリー又はトマトであってもよい。この場合、外観による区別が困難な場合でもブルーベリー又はトマトの内部品質を評価することができる。
【0011】
第2ステップでは、第1ステップにおける励起光の照射の完了時点から1秒後までの期間に遅延発光を検出してもよい。この場合、果菜を短時間で評価することができる。
【0012】
本発明の果菜の評価装置は、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜に、表皮を透過する波長を含む励起光を照射する照射部と、果菜から発せられる遅延発光を検出する検出部と、検出部の検出結果に基づいて果菜の内部品質を評価する評価部と、を備える。この果菜の評価装置によれば、上述した理由により、外観による区別が困難な場合でも果菜の内部品質を評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外観による区別が困難な場合でも果菜の内部品質を評価することができる果菜の評価方法及び果菜の評価装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る果菜の評価装置を示す図である。
図2】成熟したブルーベリーにおける糖度と励起光消灯時点から0.1秒~180秒後までの遅延発光量との関係を示すグラフである。
図3】成熟したブルーベリーにおける糖度と励起光消灯時点から0.1秒~1.0秒後までの遅延発光量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[評価装置の構成]
【0016】
図1に示されるように、実施形態に係る果菜の評価装置1は、光源2と、検出部3と、筐体4と、制御部5と、を備えている。光源2及び検出部3は、筐体4内に収容されている。評価装置1は、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10の内部品質を評価するための装置である。評価装置1では、内部品質として果菜10の糖度が評価される。
【0017】
評価対象の果菜10には、果実及び野菜が含まれる。評価対象の果菜10は、例えばブルーベリー又はトマトである。これらの果菜10のうちブルーベリーは、表皮の着色が内部の成熟よりも先行する着色先行型の果菜である。着色先行型の果実では、内部が成熟する前に表皮の着色が進むため、外観により熟度を評価することが難しい。ブルーベリーの表皮の色は、成熟に伴い、緑色、赤色、青色の順に変化する。成熟後には、ブルーベリーの表皮は、暗紫色(紫黒色、青藍色)となる。また、果菜10のうち着色先行型ではないが外観だけでは品質の評価が難しい果菜を代表するトマトの表皮の色は、成熟に伴い、緑色から赤色に変化する。
【0018】
光源2は、果菜10の表皮(外皮)を透過する波長の光を含む励起光L1を果菜10に照射する照射部として機能する。光源2は、例えば600nm~750nmの波長域の光を励起光L1として出射する。光源2は、例えば、LED(Light Emitting Diode)又はレーザーダイオード、波長選択フィルタを備えたランプ光源等を含んで構成されている。ブルーベリーの表皮に含まれる暗紫色の色素であるアントシアニン、及びトマトの表皮に含まれる赤色の色素であるリコピンは、紫外域から600nm程度までの波長の光を吸収する一方、600nm以上の波長の光を吸収せずに透過させる。
【0019】
検出部3は、励起光L1の照射によって果菜10から発せられる遅延発光(遅延蛍光)L2を検出し、遅延発光L2の光量を測定する。検出部3は、例えば、光電子増倍管、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)(SiPM)やAPD(avalanchephotodiode)等の光検出器、又は高感度カメラ等を含んで構成されている。遅延発光L2の波長は、例えば600nm~750nmである。
【0020】
果菜10は、配置部6に固定されている。配置部6は、筐体4内に配置されており、固定爪(図示省略)を有している。果菜10が固定爪によって固定されることにより、又は、果菜10を収容した容器が固定爪によって固定されることにより、果菜10が配置部6において保持される。
【0021】
検出部3と配置部6との間には、フィルタ7、シャッタ8及び集光光学系9が配置されている。フィルタ7は、遅延発光L2の波長のみを透過させる波長透過フィルタである。シャッタ8は、開閉可能に構成されており、開状態において遅延発光L2を通過させ、閉状態において遅延発光L2を遮断する。シャッタ8は、検出部3にゲート機能を持たせた場合には省略されてもよい。集光光学系9は、果菜10から発せられた微弱な遅延発光L2を集光しつつ導光する光学系である。
【0022】
筐体4は、本体部41と、蓋部42と、を有している。筐体4は、遮光性材料により形成されており、光を遮断する。筐体4は、遮光性の塗料が塗布された部材により構成されることで光を遮断してもよい。蓋部42は、果菜10の出し入れが可能となるように、本体部41に対して着脱可能に取り付けられている。
【0023】
制御部5は、例えば、プロセッサ(CPU)、記録媒体であるRAM及びROMを含むコンピュータによって構成されている。制御部5は、機能的構成として、評価部51と、記憶部52と、表示部53と、を有している。評価部51は、検出部3から検出結果を受け付け、検出部3の検出結果に基づいて果菜10の内部品質を評価する。評価部51は、一定数の果菜10についての測定結果に基づいて、果菜10の順位付け及び/又はランク分けを行ってもよい。順位付け及びランク分けには統計的な計算が用いられてもよい。
【0024】
記憶部52は、検出部3による検出結果を記憶する。記憶部52に記憶されたデータは、評価部51により用いられる。表示部53は、評価部51の評価結果及び記憶部52の記憶内容を表示する。制御部5は、光源2及び検出部3の動作を制御すると共に、シャッタ8の開閉動作及び蓋部42の開閉動作を制御する。
[評価方法]
【0025】
評価装置1を用いた果菜10の評価時には、まず、光源2によって、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10に、表皮を透過する波長の光を含む励起光L1を照射する(第1ステップ)。続いて、検出部3によって、果菜10から発せられる遅延発光L2を検出する(第2ステップ)。第2ステップでは、例えば、第1ステップにおける励起光L1の照射の完了時点から1秒後までの期間に遅延発光L2を検出し、当該期間に検出された遅延発光L2の合計量を遅延発光量とする。
【0026】
続いて、評価部51によって、第2ステップにおける検出部3の検出結果に基づいて果菜10の内部品質を評価する(第3ステップ)。より具体的には、第3ステップでは、第2ステップで検出された遅延発光量が少ないほど、果菜10の糖度が高いと評価する。換言すれば、第3ステップでは、遅延発光量が少ないほど、果菜10の熟度が高い(果菜10の成熟が進んでいる)と評価する。
[効果確認実験]
【0027】
効果確認実験を行った。当該実験では、成熟が進み、外観により区別が難しいブルーベリー果実を評価対象の果菜とした。具体的には、神奈川県厚木市内で購入したチリ産のブルーベリーを用いた。遅延発光の測定時には、まずブルーベリーを暗所に300秒間置いた。続いて、波長680nm、強度103.85μmol/m/sの励起光L1をブルーベリーに3秒間照射した。続いて、0.1秒毎に遅延発光量に相関する信号値(カウント)を記録した。励起光L1の照射完了時点(消灯時点)から0.1秒~1.0秒後までと0.1秒~180秒までの期間に取得された信号の合計値を遅延発光量(遅延発光積算値)とした。このように、遅延発光量の測定において果菜は非破壊的に扱われる。
【0028】
図2は、糖度(%)と励起光消灯時点から0.1秒~180秒後までの遅延発光量との関係を示している。糖度と遅延発光量との間の相関係数はr=-0.69であり、両者の間には有意な負の相関がみられた。このことから、ブルーベリーにおける成熟の進行による糖度の上昇を、遅延発光量の低下により把握することができることが分かる。これは、成熟が進行するにつれて、果菜内部の葉緑体が光合成を行わなくなり(葉緑体が色素体に変化することで光合成反応が低下し)、遅延発光を発しなくなるためであると考えられる。
【0029】
特に、図2では、糖度の変化範囲が約12%~約20%と比較的狭い範囲であるのに対し、遅延発光量は約68万~約789万と広い範囲で変化している。したがって、遅延発光量を果菜の糖度(熟度)の指標として用いることにより、糖度を細かく評価することができる。これは、果菜の仕分け又はランク分けにおいて有用である。また、図2から、外観による区別が難しい(外観に差が無い)場合でも、ブルーベリー間で遅延発光量が大きく異なることが分かる。
【0030】
図3は、糖度(%)と励起光消灯時点から0.1秒~1.0秒後までの遅延発光量との関係を示している。糖度と遅延発光量との間の相関係数はr=-0.65であり、図2の0.1秒~180秒までの場合と比べて僅かに相関係数が低下するものの、両者の間には有意な負の相関がみられた。このことから、遅延発光の測定時間を1秒まで短縮しても、ブルーベリーにおける成熟の進行による糖度の上昇を、遅延発光量の低下により把握することができることが分かる。このような短い測定時間は、大量の試料を測定する必要のある選果などの用途に特に有効である。
[作用及び効果]
【0031】
以上説明した評価方法では、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10(緑色でない果菜)に、表皮を透過する波長の光を含む励起光L1を照射し、果菜10から発せられる遅延発光L2を検出し、検出結果に基づいて果菜10の内部品質を評価する。これにより、外観による区別が困難な場合でも、果菜10の内部品質を評価することができる。これは、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10(外観による区別が困難な果菜)から発せられる遅延発光L2の量が、果菜10の内部品質に応じて変化するためである。なお、成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜10から発せられる遅延発光L2の量が、果菜10の内部品質に応じて変化することは、本発明者らが新たに見出した知見である。これは、果菜10の成熟が進行するにつれて果菜10の内部の葉緑体が光合成を行わなくなるためであると考えられる。なお、成熟した果菜においては、クロロフィルの含有量と遅延発光量との間に有意な相関がみられない。このことから、「成熟により表皮が緑色から他の色に変化した果菜」とは、「クロロフィルの含有量と遅延発光量との間に有意な(高い)相関が認められなくなる程度に熟した果菜である」とみなすこともできる。
【0032】
また、上述した評価方法の第3ステップでは、検出部3の検出結果に基づいて果菜10の糖度を評価する。これにより、外観による区別が困難な場合でも果菜10の糖度を評価することができる。
【0033】
また、上述した評価方法の第3ステップでは、第2ステップで検出された遅延発光L2の量が少ないほど、果菜10の糖度が高いと評価する。これにより、遅延発光L2の量に基づいて果菜10の糖度を評価することができる。
【0034】
また、上述した評価方法では、果菜10がブルーベリー又はトマトである。この評価方法によれば、外観による区別が困難な場合でもブルーベリー又はトマトの内部品質を評価することができる。
【0035】
また、上述した評価方法の第2ステップでは、第1ステップにおける励起光L1の照射の完了時点から1秒後までの期間に遅延発光を検出する。これにより、果菜10を短時間で評価することができる。
【0036】
遅延発光とは、クロロフィルを含んだ植物に光を照射した場合に、消灯直後から数分~数十分間生じる微弱な発光現象である。光合成エネルギーが電子受容体へ伝達され、その後、電子受容体から電子の逆反応が起こり、光合成光化学系IIが再励起され、主な光を発する。遅延発光は、非破壊かつ短時間で測定することが可能である。したがって、果菜の品質評価に利用することができる。上述した評価方法は、成熟に伴う表皮(果皮)の着色等により外観的に区別が困難な適熟果における内部品質(糖度、酸度等)を、果菜内部からの遅延発光を計測することにより評価する非破壊評価法である。
【0037】
遅延発光(遅延蛍光)と一般に知られる即時蛍光の違いは以下の通りである。遅延発光の発生原理は、即時蛍光の発生原理とは明確に異なる。具体的には、光合成に関わる色素(光合成色素)には、光エネルギーを捕集するためのアンテナ色素とアンテナ色素からエネルギー移動を受けて励起状態となり水分解反応に寄与する反応中心クロロフィルがある。アンテナ色素には、植物の種類によりクロロフィル類、フィコビリン類、カロテノイド類等、様々な種類がある。アンテナ色素は、反応中心クロロフィルに比べて多量に存在する。
【0038】
一般に、即時蛍光は、光エネルギーを吸収したアンテナ色素がそのまま励起状態から基底状態に戻る際に発生する。このため、即時蛍光は関与する色素の種類に応じて多様な励起波長と蛍光波長を示す。また、通常、即時蛍光は、励起光照射中と消灯直後のごく短い時間(ナノ秒からマイクロ秒)のみにおいて観察される。
【0039】
これに対して、遅延発光は複雑な段階を経て発生する。まず、アンテナ色素が光エネルギーを吸収して反応中心クロロフィルに励起エネルギーを伝達する。次に、励起エネルギーにより反応中心クロロフィルが水を分解して生じた電子を電子受容体に伝達する。この電子伝達体は、更に次の電子伝達体へ電子を伝達する電子供与体として機能する。光合成反応は、複数段階の電子伝達体の電子供与・受容反応により進行する。ここでは、それらの電子伝達体を電子伝達体群と呼ぶ。
【0040】
反応中心クロロフィルは、電子を電子受容体に伝達すると基底状態となる。しかし、電子伝達体群の一部においては受容側から供与側への逆伝達があり、電子伝達体群の中の電子の一部が反応中心クロロフィルに再伝達(電荷再結合)されることがある。遅延発光は、この電荷再結合により生じる反応中心クロロフィルの励起状態に由来する。このため、遅延発光は、光エネルギーを吸収するアンテナ色素の種類に関わらず、常に反応中心クロロフィルに由来する蛍光波長を示す(650nm~750nm)。また、遅延発光は、励起光の消灯後のミリ秒から数十秒まで、電子伝達体群の電荷保持に応じた長い発光寿命を示す。
【0041】
即時蛍光を計測する場合、励起光と即時蛍光とを分離するために、即時蛍光に対して十分に短い波長を励起光として、波長選択フィルタ等により励起光を除去する必要がある。これに対して、遅延発光を測定する場合、励起光の消灯後に測定するため、遅延発光と同じ波長の光を励起光とすることができる。
【0042】
上述したとおり、カロテノイド類又はアントシアニン類等の色素により着色する果菜で、着色による外観上の熟度が十分に進んでいると判断される果菜に、赤色(例えば600nm~750nmの光)の励起光を照射すると、緑色の組織と同様に暗所で数秒から数十秒の遅延発光を観察することができる。上述した評価方法は、その発光強度が果菜ごとに異なり、未熟度と関係する指標となり得ることに基づいている。
【0043】
上記確認実験から、次のことが分かる。遅延発光は、多様なアンテナ色素と連結した反応中心クロロフィルに由来し、600~750nmの波長の励起光を照射した場合、同じ600~750nmの波長で発光する。カロテノイド、アントシアニン等の色素により着色する果菜は、600~750nmの波長の光を透過する。遅延発光の発光寿命は、ミリ秒から秒領域まで遅延しており、植物体に含まれる他の分子に由来する、発光寿命がナノ秒からマイクロ秒の蛍光から時間的に容易に分離することができる。遅延発光の発光量の低下は、未熟度の低下(成熟の進行)を示しており、成熟度に関係する内部品質である糖度の非破壊的な評価に利用することができる。
【0044】
本発明は、上記実施形態に限られない。上記実施形態では内部品質として果菜10の糖度が評価されたが、糖度に代えて又は加えて、酸度等が評価されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…評価装置、2…光源(照射部)、3…検出部、10…果菜、51…評価部、L1…励起光、L2…遅延発光。
図1
図2
図3