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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099134
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】硬質皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20220627BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20220627BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20220627BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220627BHJP
【FI】
B22F3/105
B22F7/04 D
C23C24/08
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212913
(22)【出願日】2020-12-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)予稿集 ▲1▼発行日 令和2年11月1日 ▲2▼刊行物 令和2年度日本セラミックス協会東北北海道支部研究発表会講演要旨集,第27頁,会長 有岡雅行 公益財団法人日本セラミックス協会 (2)学会発表 ▲1▼開催日 令和2年11月13日~令和2年11月14日 ▲2▼集会名 令和2年度日本セラミックス協会東北北海道支部研究発表会 ▲3▼開催場所 オンライン開催
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亨
(72)【発明者】
【氏名】畠山 孝
(72)【発明者】
【氏名】林 大和
(72)【発明者】
【氏名】三好 功介
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正資
【テーマコード(参考)】
4K018
4K044
【Fターム(参考)】
4K018AA40
4K018AB01
4K018AB03
4K018AB05
4K018AB10
4K018BA20
4K018BB05
4K018JA22
4K044AA04
4K044AB10
4K044BA02
4K044BA15
4K044BA18
4K044BA19
4K044BB01
4K044BB11
4K044CA24
4K044CA41
4K044CA53
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】簡単な装置で容易に焼結することができる硬質皮膜の形成方法を提供する。
【解決手段】不活性ガスを用いたアーク放電により、ナノ粒子を含む皮膜材料を焼結し、硬質皮膜を形成する。ナノ粒子としては、金属クロムを含有する金属クロム含有ナノ粒子を用いることが好ましく、クロムの酸化物を含有するクロム酸化物含有ナノ粒子を混合して用いるようにすればより好ましい。アーク放電は、TIG溶接機16を用いることが好ましく、アーク放電の際に、電極16aを移動させることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを用いたアーク放電により、ナノ粒子を含む皮膜材料を焼結し、硬質皮膜を形成することを特徴とする硬質皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記皮膜材料に対してアーク放電の電極を相対的に移動させて焼結することを特徴とする請求項1記載の硬質皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記皮膜材料は、金属クロム含有ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の硬質皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記皮膜材料は、更に、クロム酸化物含有ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項3記載の硬質皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子を用いた硬質皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質クロムめっき皮膜は耐食性、耐摩耗性、保油性等に優れた金属膜であり、金型、ロール、ピストンロッド等、多岐にわたる分野で利用されている。中でも、金型においては、自動車産業をはじめとする工場で多く使用されている。硬質クロムめっき皮膜は、耐摩耗性に優れるものの、繰り返しの使用により部分的に摩耗や剥離が生じてしまうため、定期的に補修する必要がある。硬質クロムめっき皮膜を補修する方法としては、再めっきがあるが、再めっきは金型等を使用している工場内で行うことができず、めっき工場に運んで行うため、運搬費や運搬のためのリードタイムが必要となり、更に、部分補修ではなく全体を再めっきするためにむだが多いという問題があった。そこで、金型等を使用している工場内で部分補修する方法が検討されており、例えば、補修箇所にクロムナノ粒子を塗布し、ホットプレス加圧によりクロムナノ粒子を焼結させて皮膜を形成する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6281900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クロムナノ粒子の表面には安定な不動態酸化膜があるために、不動態酸化膜を還元除去しないと低温での焼結が進行しないという問題があった。また、ホットプレス加圧は昇温速度が遅いので、酸化開始温度である約200℃に達してからクロムの焼結開始温度である約300℃に至るまでに、粒子全体に酸化が進み不動態化してしまうという問題もあった。そのため、真空又は不活性ガス下で焼結しなければならないが、既設のプレス金型では設備の対応が困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、簡単な装置で容易に焼結することができる硬質皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の硬質皮膜の形成方法は、不活性ガスを用いたアーク放電により、ナノ粒子を含む皮膜材料を焼結し、硬質皮膜を形成するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、不活性ガスを用いたアーク放電により皮膜材料を加熱するようにしたので、簡単な装置で急速加熱することができ、容易に硬質皮膜を形成することができる。よって、例えば、既設の金型等について、設置場所において直接補修することができる。また、ナノ粒子の表面に存在する不動態酸化膜を還元除去しつつ、新たな不動態酸化膜が形成されることを抑制することができるので、表面に不動態酸化膜が形成される材料を用いることができる。よって、高い硬度を得ることができる金属クロム含有ナノ粒子を用いることができ、容易に高い硬度を有する硬質皮膜を形成することができる。
【0008】
更に、皮膜材料に対してアーク放電の電極を相対的に移動させて加熱するようにしたので、皮膜材料の加熱温度が高くなりすぎることを抑制することができる。よって、粒成長を抑制して、高硬度化することができる。
【0009】
加えて、皮膜材料に金属クロム含有ナノ粒子とクロム酸化物含有ナノ粒子とを含むようにしたので、粒成長を抑制し、より高い硬度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る硬質皮膜の形成方法の工程を表す図である。
図2図1に示した一工程を拡大して表す図である。
図3】実施例1-1の構造を表すSEM写真である。
図4】実施例1-1及び比較例1-1の組成を比較して表すXRDチャートである。
図5】実施例1-1及び比較例1-1のビッカース硬度を表す特性図である。
図6】実施例2-1~2-3の構造を表すSEM写真である。
図7】実施例2-1~2-3のビッカース硬度を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る硬質皮膜の形成方法の工程を表すものである。図2は、図1(C)の工程を拡大して表すものである。この硬質皮膜の形成方法は、不活性ガスを用いたアーク放電により、ナノ粒子を含む皮膜材料を焼結させて硬質皮膜を形成するものである。なお、本実施の形態では、例えば、図1(A)に示したように、金型11の表面に形成された硬質皮膜12が摩耗又は剥離等により損傷した損傷箇所13を補修する場合について説明する。
【0013】
まず、硬質皮膜12の損傷箇所13を補修する材料、すなわち、損傷箇所13に新たな硬質皮膜12を形成する材料として、ナノ粒子を含む皮膜材料を用意する。ナノ粒子は、例えば、クロム(Cr)等の金属ナノ粒子、酸化物、窒化物、硫化物若しくはホウ化物等からなるセラミックスナノ粒子、又は、これらの混合ナノ粒子であってもよいが、皮膜材料は、金属クロムを含有する金属クロム含有ナノ粒子を含むことが好ましい。ニッケル(Ni)等と比べクロムの融点が高いため、後述する瞬間的に高熱を得るアーク放電でも溶融させずに粒成長を抑え焼結させることで、緻密なナノ粒子を維持し硬質化できるからである。金属クロム含有ナノ粒子としては、クロムの金属ナノ粒子を含むようにすればより好ましい。
【0014】
更に、皮膜材料は、金属クロム含有ナノ粒子に加えて、クロムの酸化物を含有するクロム酸化物含有ナノ粒子を含んでいることが好ましい。硬度の高いクロムの酸化物を含むことにより、金属クロム含有ナノ粒子の粒成長を抑制することができ、より高い硬度を得ることができるからである。クロム酸化物含有ナノ粒子としては、クロムの酸化物のナノ粒子を含むようにすればより好ましい。クロムとクロムの酸化物は、異なるナノ粒子に含まれていても、同一のナノ粒子に含まれていてもよいが、クロムの金属ナノ粒子と、クロムの酸化物よりなるナノ粒子とを混合して用いることが好ましい。クロムの酸化物の混合量を容易に調整することができるからである。
【0015】
皮膜材料における金属クロム含有ナノ粒子の含有量は多い方が好ましく、例えば、95質量%以上とすることが好ましい。更には、皮膜材料におけるクロムの金属ナノ粒子の含有量を70質量%以上とすることが好ましい。皮膜材料におけるクロム酸化物含有ナノ粒子の含有量は、1質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。高い硬度を得ることができるからである。ナノ粒子の平均粒子径は、例えば、1nm~100nm程度であってもよい。
【0016】
次いで、例えば、図1(B)に示したように、皮膜材料と有機溶媒等の溶媒とを混合して皮膜材料ペースト14とし、損傷箇所13に塗布する。続いて、例えば、損傷箇所13に塗布した皮膜材料ペースト14を自然乾燥またはドライヤー等である程度乾燥させる。次に、例えば、図1(C)に示したように、皮膜材料ペースト14に、不活性ガスを用いたアーク放電を行い、皮膜材料を焼結させる。アーク放電には、例えば、TIG溶接機(Tungsten Inert GAS(タングステン不活性ガス)溶接機)16を用いることが好ましい。
【0017】
具体的には、例えば、TIG溶接機16の電極16aを皮膜材料に対して間隔を開けて配置し、電極16aと硬質皮膜12を形成する母材である金型11との間に高電圧を加え、高電流を流すことで起こるアーク放電により生じる熱を利用して、皮膜材料を加熱して焼結する。TIG溶接機16を用いれば、簡単な装置で急速加熱することができる。よって、酸化反応が進行する前にナノ粒子の焼結を進行させることができる。また、不活性ガスを用いたアーク放電により還元雰囲気下での急速加熱をすることができるので、皮膜材料の表面に形成されている不動態酸化膜を還元除去することができると共に、皮膜材料の表面に新たな不動態酸化膜が生成することを抑制することができる。
【0018】
なお、TIG溶接機16は、例えば、電極16aの周りに不活性ガスの流路16bを設けたトーチ16cを用い、電極16aは、例えば、タングステン(W)、又は、タングステン合金により構成される。不活性ガスは、大気を遮断するためのいわゆるシールドガスであり、例えば、アルゴン(Ar)及びヘリウム(He)の少なくとも1種が好ましく挙げられる。電極16aと母材である金型11との間に流す電流は、交流とすることが好ましい。電極16aが陰極、母材が陽極の正極性において、母材側の皮膜材料をより加熱することができ、また、電極16aが陽極、母材が陰極の逆極性において、母材側の皮膜材料の表面に形成されている不動態酸化膜を還元除去する効果が直流に比べ強いからである。
【0019】
皮膜材料を加熱する温度は、皮膜材料、すなわちナノ粒子の融点よりも低く、かつ、ナノ粒子が焼結を開始する温度よりも高い温度とすることが好ましい。ナノ粒子を溶融せずに焼結させるためである。例えば、金属クロム含有ナノ粒子を用いる場合であれば、金属クロム含有ナノ粒子の融点よりも低く、かつ、金属クロム含有ナノ粒子が焼結を開始する温度よりも高い温度とすることが好ましい。なお、クロムの融点は1900℃であり、クロムの金属ナノ粒子が焼結を開始する温度は300℃である。金属クロム含有ナノ粒子を焼結させる場合であれば、TIG溶接機16による瞬間的な高熱を放熱させることで、皮膜材料の温度を、例えば、300℃以上1500℃以下に制御することが好ましく、300℃以上500℃以下に制御するようにすればより好ましい。温度が高くなると粒成長し、硬度が低下してしまうからである。
【0020】
皮膜材料の加熱温度は、例えば、電極16aと皮膜材料との間の距離、アーク放電時間、又は、アーク放電の回数により調整することができる。また、アーク放電の際には、電極16aを皮膜材料に対して相対的に移動させるようにすることが好ましい。皮膜材料の温度が高くなり、粒成長してしまうことを抑制することができるからである。電極16aの皮膜材料に対する相対的移動速度は、例えば、5mm/s以上15mm/s以下とすることが好ましい。この範囲内において、皮膜材料の粒成長を抑制しつつ、容易に焼結することができるからである。
【0021】
このように本実施の形態によれば、不活性ガスを用いたアーク放電により皮膜材料を加熱するようにしたので、簡単な装置で急速加熱することができ、容易に硬質皮膜12を形成することができる。よって、例えば、既設の金型11等について、設置場所において直接補修することができる。また、ナノ粒子の表面に存在する不動態酸化膜を還元除去しつつ、新たな不動態酸化膜が形成されることを抑制することができるので、表面に不動態酸化膜が形成される材料を用いることができる。よって、高い硬度を得ることができる金属クロム含有ナノ粒子を用いることができ、容易に高い硬度を有する硬質皮膜12を形成することができる。
【0022】
更に、皮膜材料に対してアーク放電の電極16aを相対的に移動させて加熱するようにしたので、皮膜材料の加熱温度が高くなりすぎることを抑制することができる。よって、粒成長を抑制して、高硬度化することができる。
【0023】
加えて、皮膜材料に金属クロム含有ナノ粒子とクロム酸化物含有ナノ粒子とを含むようにしたので、粒成長を抑制し、より高い硬度を得ることができる。
【実施例0024】
(実施例1-1)
ナノ粒子としてクロムの金属ナノ粒子(平均粒径20.4nm)を用意し、皮膜材料とした。次いで、この皮膜材料と溶媒である酢酸ブチルと酢酸エチルとを混合して皮膜材料ペースト14とし、鋳鉄よりなる母材の上にドクターブレード法により0.1mmの厚みで塗布した。続いて、皮膜材料ペースト14を加熱して溶媒を除去し、TIG溶接機16により不活性ガスを用いたアーク放電を行い、皮膜材料のナノ粒子を焼結した。
【0025】
その際、TIG溶接機16の電流条件は交流10A、周波数は15Hz、不活性ガスはアルゴンガス、不活性ガス流量は7L/minとし、TIG溶接機16の電極16aと皮膜材料ペースト14との間の距離は8mmとした。また、アーク放電の際には、電極16aを皮膜材料ペースト14に対して、15mm/sの速度で移動させ、皮膜材料ペースト14の表面全体を加熱した。アーク放電している箇所の温度を放射温度計で測定したところ、600℃から1400℃の範囲内であった。
【0026】
得られた硬質皮膜12の表面を湿式研磨し、超音波洗浄した後、物性評価を行った。物性評価は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)による構造評価、X線回折(X-ray diffraction;XRD)による組成評価、及び、ビッカース硬さによる硬度評価を行った。図3にSEMの結果、図4にXRDの結果、図5にビッカース硬さの結果を示す。
【0027】
(比較例1-1)
実施例1-1に対する比較例1-1として、実施例1-1と同様にして、クロムの金属ナノ粒子を用いた皮膜材料ペーストを鋳鉄よりなる母材の上に形成した。次いで、作製した皮膜材料ペーストを電気炉により加熱し、皮膜材料のナノ粒子を焼結した。加熱条件は、80分かけて室温から800℃まで温度を上昇させ、800℃で30分間保持し、140分かけて室温まで冷却することによりナノ粒子を焼結した。得られた硬質皮膜について、実施例1と同様にしてXRDによる組成評価、及び、ビッカース硬さによる硬度評価を行った。図4にXRDの結果、図5にビッカース硬さの結果を実施例1-1の結果と共に示す。なお、図5には、参考例1として母材である鋳鉄のビッカース硬さと、参考例2として硬質クロムめっき皮膜のビッカース硬さを合わせて示す。
【0028】
(評価)
図3に示したように、実施例1-1によれば、緻密な焼結体が得られたことが分かった。また、図4に示したように、実施例1-1では酸化物が見られなかったのに対して、比較例1-1では酸化物が見られた。更に、図5に示したように、比較例1-1は、参考例1に示した母材の強度よりも低いのに対して、実施例1-1によれば、参考例1の母材の強度よりも大幅に高い強度を得ることができた。更に、実施例1-1によれば、参考例2の硬質クロムめっき皮膜よりも高い強度を得ることができ、工業上必要とされる目標値の850Hvを超える強度が得られた。
【0029】
すなわち、不活性ガスを用いたアーク放電によれば、急速加熱によりナノ粒子を焼結し、緻密な硬質皮膜12を形成できることが分かった。また、ナノ粒子の表面の不動態酸化膜を還元除去しつつ、新たな不動態酸化膜が形成されることを抑制することができるので、ナノ粒子の焼結を進めることができ、高い硬度を得ることができることが分かった。
【0030】
(実施例2-1~2-3)
ナノ粒子としてクロムの金属ナノ粒子(平均粒径20.4nm)と、クロム酸化物のナノ粒子(Cr;平均粒径60nm)とを用意し、実施例2-1ではクロムの金属ナノ粒子のみにより皮膜材料を構成し、実施例2-2及び実施例2-3では、クロムの金属ナノ粒子とクロム酸化物のナノ粒子とを混合して用いた。皮膜材料におけるクロム酸化物のナノ粒子の割合は、実施例2が2質量%、実施例3が5質量%とした。次いで、この皮膜材料と溶媒である酢酸ブチルと酢酸エチルとを混合して皮膜材料ペースト14とし、鋳鉄よりなる母材の上にドクターブレード法により0.2mmの厚みで塗布した。続いて、皮膜材料ペースト14を乾燥させて溶媒を除去した後、TIG溶接機16により不活性ガスを用いたアーク放電を行い、皮膜材料のナノ粒子を焼結した。
【0031】
その際、TIG溶接機16の電流条件は交流5A、周波数は15Hz、不活性ガスはアルゴンガス、不活性ガス流量は7L/minとし、TIG溶接機16の電極16aと皮膜材料ペースト14との間の距離は8mm以上とした。また、アーク放電の際には、電極16aを皮膜材料ペレット15に対して、7.5mm/sの速度で移動させ、皮膜材料ペースト14の表面全体を加熱した。
【0032】
得られた硬質皮膜12の表面を湿式研磨し、超音波洗浄した後、物性評価を行った。物性評価は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)による構造評価、及び、ビッカース硬さによる硬度評価を行った。図6にSEMの結果、図7にビッカース硬さの結果を示す。
【0033】
(評価)
図6に示したように、実施例2-1~2-3のいずれについても、緻密な焼結体が得られたことが分かった。また、クロムの金属ナノ粒子のみを用いた実施例2-1に比べて、クロム酸化物のナノ粒子を複合化して用いた実施例2-1,2-3によれば、粒子サイズが全体的に微細化する傾向が見られた。更に、図7に示したように、クロムの金属ナノ粒子のみを用いた実施例2-1よりも、クロム酸化物のナノ粒子を複合化して用いた実施例2-1,2-3の方が、より高い硬度が得られた。これは、結晶粒が微細化したことによるものと考えられる。
【0034】
すなわち、皮膜材料に、金属クロム含有ナノ粒子に加えて、クロム酸化物含有ナノ粒子を混合して用いるようにすれば、結晶粒をより微細化することができ、硬度をより高くすることができることが分かった。
【0035】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、各構成要素の具体的な構造や形状は異なっていてもよく、また、上述した構成要素を全て備えていなくてもよく、他の構成要素を備えていてもよい。また、皮膜材料は、ペースト状に限定されず、有機溶剤中にクロムナノ粒子が混合し分散した状態であれば、スラリー状、パテ状、ペースト状でもよく、あらかじめ有機溶剤を揮発させたシート状であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
11…金型、12…硬質皮膜、13…損傷箇所、14…皮膜材料ペースト、16…TIG溶接機、16a…電極、16b…流路、16c…トーチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7