(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099145
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】センターシフト量推定装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20220627BHJP
【FI】
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020212927
(22)【出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】太田 卓見
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA14
2G001JA08
2G001SA29
(57)【要約】
【課題】周囲と極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を利用して正確にセンターシフト量を特定できるセンターシフト量推定装置、方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】CT装置200内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定装置300であって、再構成された未補正画像において関心領域を特定する領域特定部330と、関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させる仮補正部340と、仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索する指標解析部360と、極値に対し、実際のセンターシフト量を特定するセンターシフト量特定部380と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定装置であって、
再構成された未補正画像において関心領域を特定する領域特定部と、
前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させる仮補正部と、
前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索する指標解析部と、
前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定するセンターシフト量特定部と、を備えることを特徴とするセンターシフト量推定装置。
【請求項2】
前記領域特定部は、ユーザ指定に基づいて前記関心領域を特定することを特徴とする請求項1記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項3】
前記関心領域は、回転軸に垂直な断面上の2次元領域であることを特徴とする請求項2記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項4】
前記CT装置のスキャン方式を判定する方式判定部を更に備え、
前記指標解析部は、前記判定されたスキャン方式に応じて、前記指標の極大値または極小値を探索することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項5】
前記方式判定部は、前記CT装置から受信した情報から前記CT装置のスキャン方式を判定することを特徴とする請求項4記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項6】
前記指標解析部は、前記仮定したセンターシフト量に対する前記指標のプロットに対して統計処理または形状判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項7】
前記仮定されたセンターシフト量に対する前記指標のプロットを出力させるプロット出力部を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項8】
前記実際のセンターシフト量を補正して補正済み画像を再構成させる補正部を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のセンターシフト量推定装置。
【請求項9】
CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定の方法であって、
再構成された未補正画像において関心領域を特定するステップと、
前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させるステップと、
前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索するステップと、
前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定のプログラムであって、
再構成された未補正画像において関心領域を特定する処理と、
前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させる処理と、
前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索する処理と、
前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CT装置の回転軸のずれを推定するセンターシフト量推定装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
CT装置は、試料またはガントリを回転させながら取得された複数の投影像から3次元画像を再構成する。その際にX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とがずれるセンターシフトが生じると本来得られるはずの画像に比べ再構成画像の質が低下する。
【0003】
このようなセンターシフトを解消するため、従来、センターシフト量を見積もって補正する方法が考えられてきた。例えば、非特許文献1記載の技術は、シンクロトロンの平行ビームを用いて180°スキャンで測定し、全変動(TV:Total Variation)をセンターシフト量を推定するための指標として用いている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Correction of center of rotation and projection angle in synchrotron X-ray computed tomography”, C-C. Cheng et al., Scientific Reports volume 8, Article number: 9884 (2018), https://www.nature.com/articles/s41598-018-28149-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、試料の一部が金属である場合などにはその部分の再構成画像の境界位置において画素値の変動が大きくなるため、センターシフト量に応じて全変動が増加または減少するとは言えないことがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、周囲と極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できるセンターシフト量推定装置、方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のセンターシフト量推定装置は、CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定装置であって、再構成された未補正画像において関心領域を特定する領域特定部と、前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させる仮補正部と、前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索する指標解析部と、前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定するセンターシフト量特定部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように未補正画像において特定した関心領域を用いて実際のセンターシフト量を特定するため、例えば金属が映った領域のように周囲と極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できる。
【0009】
(2)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記領域特定部が、ユーザ指定に基づいて前記関心領域を特定することを特徴としている。これにより、ユーザが任意に判定材料となる画像領域を特定できる。
【0010】
(3)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記関心領域が、回転軸に垂直な断面上の2次元領域であることを特徴としている。これにより、簡易かつ有効に関心領域を特定することができる。
【0011】
(4)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記CT装置のスキャン方式を判定する方式判定部を更に備え、前記指標解析部は、前記判定されたスキャン方式に応じて、前記指標の極大値または極小値を探索することを特徴としている。これにより、360°スキャンと180°スキャンに分けてそれぞれに応じて極大値および極小値を探索することができる。
【0012】
(5)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記方式判定部が、前記CT装置から受信した情報から前記CT装置のスキャン方式を判定することを特徴としている。これにより、容易かつ確実にスキャン方式を判定することができる。
【0013】
(6)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記指標解析部が、前記仮定したセンターシフト量に対する前記指標のプロットに対して統計処理または形状判定を行うことを特徴としている。これにより、例えば、露光時間の不足、ノイズ、または不十分な関心領域の選択が原因で一定の傾向が得られない場合には、それらの修正を促すことができる。
【0014】
(7)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記仮定されたセンターシフト量に対する前記指標のプロットを出力させるプロット出力部を更に備えることを特徴としている。これにより、ユーザがプロットを見て極値の探索が妥当か否かを判断し、必要な対策を行うことができる。
【0015】
(8)また、本発明のセンターシフト量推定装置は、前記実際のセンターシフト量を補正して補正済み画像を再構成させる補正部を更に備えることを特徴としている。これにより、センターシフトにより生じたアーチファクトを取り除いた再構成画像を得ることができる。
【0016】
(9)また、本発明の方法は、CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定の方法であって、再構成された未補正画像において関心領域を特定するステップと、前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させるステップと、前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索するステップと、前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できる。
【0017】
(10)また、本発明のプログラムは、CT装置内のX線源に対する試料の回転軸と検出器の中心とのずれを推定するセンターシフト量推定のプログラムであって、再構成された未補正画像において関心領域を特定する処理と、前記関心領域に対し、仮定されたセンターシフト量を補正して仮補正画像を再構成させる処理と、前記仮補正画像内の画素値の変動を表す指標の極値を探索する処理と、前記極値に対し、実際のセンターシフト量を特定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、周囲と極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】センターシフトが生じたCT装置の構成を示す概略図である。
【
図2】(a)、(b)センターシフトが無い場合および有る場合それぞれにおける180°スキャン測定の再構成画像を模式的に示す例である。
【
図3】(a)、(b)センターシフトが無い場合および有る場合それぞれにおける360°スキャン測定の再構成画像を模式的に示す例である。
【
図4】180°スキャン測定におけるセンターシフト量と全変動の関係を示すグラフである。
【
図5】360°スキャン測定におけるセンターシフト量と全変動の関係を示すグラフである。
【
図7】本発明のセンターシフト量推定装置(処理装置)の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明のセンターシフト量推定装置(処理装置)の動作を示すフローチャートである。
【
図9】測定データそのものから生成した再構成画像を模式的に示す例である。
【
図11】180°スキャン測定における全変動のプロットを示すグラフである。
【
図12】(a)、(b)仮定したセンターシフト量が-1(極小値)および5のz=0断面の180°スキャン測定の再構成画像である。
【
図13】(a)、(b)仮定したセンターシフト量がそれぞれ-4(極大値)および0のz=0断面の360°スキャン測定の再構成画像である。
【
図14】(a)、(b)それぞれ
図13(a)、(b)におけるA-B上の画素値を示すグラフである。
【
図15】(a)、(b)指標値のばらつきが大きい場合と小さい場合の全変動のプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
[原理]
CT装置は、あらゆる角度からコーン状または平行ビームのX線を試料に照射し、検出器によりX線の吸収係数の分布、すなわち投影像を取得する。あらゆる角度からX線を照射するために、CT装置は、固定されたX線源および検出器に対して、試料台を回転させるか、X線源と検出器が一体となったガントリを回転させるように構成されている。
【0022】
このようにして様々な角度から投影を行い得られた試料の投影像の濃淡で試料の線吸収係数fの分布を推測できる。そして、2次元的な投影像から3次元的な線吸収係数分布を求めることを再構成という。基本的には投影像の逆投影を行う。
【0023】
上記のようなCT装置においては、線源と検出器の中心を結ぶ直線上に、試料もしくはガントリの回転中心が位置するように調整を行う。線源と検出器の中心を結ぶ直線上から回転中心がずれること(センターシフト)により、再構成画像が劣化する。
図1は、センターシフトが生じたCT装置の構成を示す概略図であり、回転軸方向に構成を見た図である。X線源F0と回転軸P0とを結ぶ直線R1と検出器D0の中心線R2との間にセンターシフトY1が生じている。
【0024】
図2(a)、(b)は、センターシフトが無い場合および有る場合それぞれにおける180°スキャン測定の再構成画像を模式的に示す例である。例えば、CT装置200は、リガク製nano3DX(登録商標)が使用される。nano3DXのような平行ビームを使用する装置では、180°スキャンで測定が行われる。センターシフトが無い場合の再構成画像10には、点などの特徴的な構造の像11が現れるが、センターシフトが有る場合の再構成画像20には、特徴的な構造の像21に加えて周りには半円状のアーチファクト22が現れる。
【0025】
図3(a)、(b)は、センターシフトが無い場合および有る場合それぞれにおける360°スキャン測定の再構成画像を模式的に示す例である。例えば、CT装置200は、リガク製CTLabHXが使用される。CTLabHXのようなコーンビームを使用する装置は、360°スキャンで測定が行われる。センターシフトが無い場合の再構成画像30には、特徴的な構造の像31が現れるが、センターシフトが有る場合の再構成画像40は全体的に特徴的な構造の像41がぼやける。
【0026】
本発明は、画像の劣化度合いを定量的に評価する指標を導入し、自動で統一的にセンターシフト量を算出する。具体的には、再構成画像の劣化度合いを定量的に評価する指標を計算する。探索範囲のセンターシフト量に対してその値を計算し、極値をとるセンターシフト量を探索する。これにより、画像ブレやアーチファクトが低減された画像を得ることができる。指標には、例えば全変動(Total Variation、TV)のように微分を用いた指標が挙げられる。また、画像の標準偏差値を用いた指標として鮮鋭度を用いてもよい。
【0027】
全変動の計算は、数式(1)に示すように任意のz断面の画像f(x,y)の関心領域に対し、領域内の各ピクセルでの微分値を足し合わせることで行う。z方向に複数枚画像を指定した場合、それらの平均値を用いる。
【数1】
【0028】
図4は、180°スキャン測定におけるセンターシフト量と全変動の関係を示すグラフである。180°スキャンのCT装置の場合、半円状のアーチファクトは画像の全変動を大きくするはずである。数値計算により検出器を仮想的にシフトさせたときの全変動の変化を求め、その極小値T1を与えるセンターシフトY1が測定時のセンターシフト量だと推測できる。
【0029】
図5は、360°スキャン測定におけるセンターシフト量と全変動の関係を示すグラフである。360°スキャンのCT装置の場合、画像がぼやけると全変動は小さくなるはずである。数値計算により検出器を仮想的にシフトさせたときの全変動の変化を求め、その極大値T2を与えるセンターシフトY2が測定時のセンターシフト量だと推測できる。
【0030】
[全体のシステム]
図6は、CT装置200とこれに接続された処理装置300、入力装置410および表示装置420を含む全体のシステム100の構成を示す概略図である。ここで、
図6に示すCT装置200は、X線源260および検出器270に対し試料を回転させる構成であるが、これに限定されることはなく、X線源と検出器が一体となったガントリを回転させる構成でもよい。
【0031】
処理装置300(センターシフト量推定装置)は、CT装置200に接続され、CT装置200の制御および取得されたデータの処理を行う。処理装置300は、PC端末であってもよいし、クラウド上のサーバであってもよい。処理装置300は、CT装置内のX線源に対する回転軸と検出器の中央とのずれを推定する。入力装置410は、例えばキーボード、マウスであり、処理装置300への入力を行う。表示装置420は、例えばディスプレイであり、投影像や再構成画像を表示する。
【0032】
[CT装置]
図6に示すように、CT装置200は、回転制御ユニット210、試料台250、X線源260、検出器270および駆動部280を備えている。X線源260と検出器270の間に設置された、試料台250を回転させてX線CT撮影を行う。なお、X線源260および検出器270は、ガントリ(図示しない)に設置し、試料台250に固定された試料に対しガントリを回転させてもよい。
【0033】
CT装置200は、処理装置300により指示されたタイミングで試料台250を駆動し、試料の投影像を取得する。測定データは、処理装置300に送信される。CT装置200は、半導体デバイス等の精密な工業製品に用いることに適しているが、産業用装置のみならず動物用装置にも適用できる。
【0034】
X線源260は、X線を検出器270に向けて照射する。検出器270は、X線を受ける受光面を有し、多数のピクセルにより試料を透過したX線の強度分布を測定できる。回転制御ユニット210は、駆動部280によりCT撮影時に設定された速度で試料台250を回転させる。
【0035】
[処理装置]
図7は、処理装置300(センターシフト量推定装置)の構成を示すブロック図である。処理装置300は、CPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メモリをバスに接続してなるコンピュータによって構成されている。処理装置300は、CT装置200に接続され情報を受け取る。
【0036】
処理装置300は、測定データ記憶部311、装置情報記憶部312、再構成部320、領域特定部330、仮補正部340、方式判定部350、指標解析部360、プロット出力部370、センターシフト量特定部380および補正部390を備える。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。入力装置410および表示装置420は適宜のインターフェースを介してCPUに接続されている。
【0037】
測定データ記憶部311は、CT装置200から取得した測定データを記憶する。測定データには、回転角度情報とそれに対応する投影像が含まれる。装置情報記憶部312は、CT装置200から取得した装置情報を記憶する。装置情報には、装置名、ビーム形状、測定時のジオメトリ、スキャン方式等が含まれる。再構成部320は、対象となる投影像から3次元画像を再構成する。
【0038】
領域特定部330は、未補正画像において関心領域を特定する。未補正画像は、投影像を再構成した再構成画像である。領域特定部330は、ユーザによる関心領域の指定に基づいて関心領域を特定することが好ましい。例えば、マウス操作で長方形の領域を指定する等、関心領域を設定できるUI機能を用いる。
【0039】
これにより、ユーザが任意に判定材料となる画像領域を特定できる。ユーザは、特徴的な構造が現れている箇所を含むように画像領域を設定することが好ましい。例えば、点状の構造が現れている箇所を含む画像を基に指標値を算出すると、ノイズがのりにくく極値の探索がしやすくなる。また、メタルやメタルに起因して現れるアーチファクトが現れている箇所を含まないように設定することも好ましい。吸収係数が極端に下がるところを特定して、それを避けるように領域を設定することで、センターシフト補正への悪影響を少なくできる。
【0040】
関心領域は、回転軸に垂直な断面上の2次元領域であることが好ましい。関心領域の形状は、任意の形状を指定して、その形状の大きさを指定してもよい。また、画像上に座標点を任意の数定めてもよい。これにより、簡易かつ有効に関心領域を特定することができる。ただし、必ずしも1断面上の2次元領域でなくてもよく、複数のz断面を選択し、それぞれの断面に対して2次元領域を設定してもよい。
【0041】
仮補正部340は、関心領域に対し、仮定されたセンターシフトを補正して投影像を再構成して仮補正画像を取得する。「仮定された」とは、複数の補正した再構成画像を生成するために少しずつ試行的にセンターシフトを変えることを指している。このように未補正画像において特定した関心領域を用いて実際のセンターシフト量を特定するため、例えば金属が映った領域のように周囲と極端に画素値が異なる領域があってもそれを避けた画像領域を用いて正確にセンターシフト量を特定できる。
【0042】
方式判定部350は、CT装置のスキャン方式を判定する。方式判定部350は、CT装置から受信した情報からCT装置のスキャン方式を判定する。ビーム形状や投影角度範囲に対して、極大値、極小値のどちらを探索するかを関連づけて設定しておくことが好ましい。なお、スキャン方式は、対象となる投影像のスキャン角度範囲で判定してもよい。例えば、0°~160°のスキャンを180°スキャンとみなすこともできる。これにより、容易かつ確実にスキャン方式を判定することができる。このようにして、180°スキャンと360°スキャンの両方に対応した自動のセンター補正が可能になる。
【0043】
指標解析部360は、仮補正画像内の画素値の変動を表す指標を算出し、仮定されたセンターシフト量に対する指標値の極値を探索する。これにより、再構成画像の劣化度合いを定量的に評価する指標を与えることができる。
【0044】
指標解析部360は、判定されたスキャン方式に応じて、極値探索アルゴリズムが自動で選ばれ、指標の極大値または極小値を探索する。平行ビーム法を用いた180°スキャンの場合には、極小値を探索し、コーンビーム法を用いた360°スキャンの場合には、極大値を探索する。これにより、単一のプログラムの実行で180°スキャンと360°スキャンに分けてそれぞれに応じて極小値および極大値を探索することができる。その結果、センターシフト量を定量的に見積もることができる。
【0045】
指標解析部360は、極値の探索と並行して、仮定されたセンターシフト量に対する指標のプロットに対して統計処理や形状判定を行う。仮定されたセンターシフト量に対する指標値のプロットに対して、適当な関数でプロファイルフィッティングを行う。
【0046】
プロット出力部370は、仮定されたセンターシフト量に対する指標のプロットを出力させる。これにより、ユーザがプロットを見て極値の探索が妥当か否かを判断し、必要な対策を行うことができる。
【0047】
センターシフト量特定部380は、極値に対し、実際のセンターシフト量を特定する。すなわち、センターシフト量特定部380は、スキャン方式に応じた特定の極値をとるときのセンターシフト量を特定する。
【0048】
補正部390は、実際のセンターシフト量を補正して投影像を再構成し、補正済み画像を取得する。これにより、センターシフトにより生じたアーチファクトを取り除いた再構成画像を得ることができる。なお、処理装置300において、スキャン方式に応じたセンターシフト量の推定と関心領域の設定のそれぞれの機能は、両方が必須ではなく一方のみであってもよい。
【0049】
[測定方法]
CT装置200に試料を設置し、所定の条件でX線を試料に照射しつつ投影像を取得する。CT装置200は、スキャン方式のような装置情報および取得された投影像を測定データとして処理装置300に送信する。
【0050】
[センターシフト量推定方法]
図8は、処理装置300(センターシフト量推定装置)の動作を示すフローチャートである。まず、処理装置300は、測定データおよび装置情報を取得する(ステップS1)。次に、得られた測定データおよび装置情報を用いて投影像を出力するとともに(ステップS2)、再構成画像を生成し、出力する(ステップS3)。
【0051】
出力された再構成画像に対して、ユーザによる関心領域の設定やステップ数やステップ幅等の処理条件の入力を受け付ける(ステップS4)。関心領域は、まずそのZ成分(回転軸に平行)を指定し、XY成分(回転軸に垂直)を指定するのが好ましい。このようにして設定された関心領域に対し、入力された処理条件に応じて指標算出のループを行う。センターシフトを変える範囲は、極値の探索範囲であり、探索範囲の幅とステップ、中心位置をあらかじめ決めておく。中心位置は、例えば、試料回転軸θ=0°、180°の投影像を用いて、画像の残差から推定された値を用いてもよい。
【0052】
ループでは、あるセンターシフト量を仮定し、仮定されたセンターシフト量を補正して再構成画像を生成する(ステップS5)。補正された再構成画像をもとに指標を算出する(ステップS6)。これらの処理をステップ数が所定の数値に達しループ条件が完了したか否かを判定する(ステップS7)。ループ条件が完了していない場合にはステップS5に戻る。ループ条件が完了した場合にはステップS8に進む。このようにして複数の仮定されたセンターシフト量それぞれに対し指標が得られる。
【0053】
次に、複数の仮定されたセンターシフト量に対して取得された指標値に対し、プロファイルフィッティングを行う(ステップS8)。得られたプロファイル関数を用いて極値を求めることができる。また、指標値のプロットに対して統計処理または形状判定を行う(ステップS9)。これらの処理から解析結果が得られ、ユーザは測定時間が短いか否かや試料のモーションの情報を知ることができる。そして、指標値のプロットおよび解析結果を出力する(ステップS10)。なお、ステップS9およびS10を行うか否かは任意であり、以下のステップS11~S15と並行して行うこともできる。
【0054】
次に、CT装置200のスキャン方式が360°スキャンか否かを判定する(ステップS11)。スキャン方式が360°スキャンである場合には、仮定されたセンターシフト量に対する指標の極大値を探索する(ステップS12)。スキャン方式が360°スキャンでない場合にはスキャン方式は180°スキャンであるものとして、仮定されたセンターシフト量に対する指標の極小値を探索する(ステップS13)。なお、360°スキャンか否かの判定に代えて180°スキャンか否かの判定であってもよい。
【0055】
このようにして探索された極値に対するセンターシフト量を実際のセンターシフト量として特定することができる(ステップS14)。得られた実際のセンターシフト量で測定データを補正して再構成画像を生成し、出力する(ステップS15)このようにして再構成画像の品質を向上できる。
【0056】
[スキャン方式に応じた推定]
処理装置300は、CT装置200から装置情報としてスキャン方式の情報を取得する。スキャン方式が360°スキャンである場合には、画素値の変動を表す指標の極大値を探索し、センターシフト量を特定する。一方、スキャン方式が180°スキャンである場合には、画素値の変動を表す指標の極小値を探索し、センターシフト量を特定する。
【0057】
[関心領域の設定]
図9は、測定データそのものから生成した再構成画像500を模式的に示す例である。
図9に示す再構成画像500は、z軸(回転軸)に垂直な断面を示している。この断面画像に対してユーザは、長方形の関心領域510を指定できる。このように関心領域510は、あるz軸断面に対して領域を入力することで指定できる。その際には、情報を得たい特徴的な構造の像501は関心領域510に含め、金属材料等で構成された構造の像502は関心領域510から外すよう関心領域510を設定する。
【0058】
図10は、補正時の表示画面600を示す例である。ボタン610は、測定データの取得を指示するためのボタンである。例えばボタン610をクリックしたときに、測定データのファイルをリストアップしたウィンドウを表示し、そこから特定のファイルを指定可能にすることができる。画像620は、測定データから得られた投影像である。画像630は、測定データから得られた再構成画像である。
【0059】
ユーザは、画像620上のライン640の位置を指定することで、再構成画像のz軸に垂直な断面を指定することができる。また、ユーザは、画像630上の境界650の位置を移動することで、再構成画像のz軸断面上のxy領域として関心領域を指定することができる。この再構成画像上の2次元領域に対して指標を求めればよい。
【0060】
表示枠660a、660bは、それぞれセンターシフトを変更しつつ仮定する際のステップ数およびステップ幅を処理のループ条件として示している。また、表示枠670は、処理の開始前には、探索範囲の中心を入力し、極値探索が終了すると、特定された実際のセンターシフト量を表示する。AutoCenterボタン680は、指標解析の実行を指示するためのボタンである。
【0061】
[測定・解析条件の修正の示唆]
処理装置300は、仮定したセンターシフト量に対する指標のプロットを表示してもよい。センターシフト量に対する指標のプロットは測定自体の良し悪しの評価に応用できる。ユーザは、プロットから修正の示唆を汲み取ることができる。
【0062】
指標値のプロットに対して、適当な関数でプロファイルフィッティングを行った後、統計処理と形状判定を行うことができる。プロットを統計処理した結果からは、指標値のばらつきがわかる。例えば、ばらつきが大きいと、処理装置300は、再構成画像のノイズが大きく、測定時間が短いことを示唆できる。プロットを形状判定した結果からは、プロファイルの山と谷がいくつあるかがわかる。例えば、山もしくは谷が2つある場合は、極値になる箇所が2か所でてくるため、処理装置300は、センターシフト以外の試料のモーションを示唆できる。極値になる山や谷がない場合は、関心領域内にセンターがないことやメタルの影響を受けている可能性がある。解析結果にこれらの傾向が見られる場合には、処理装置300は、それらの修正を促すことができる。
【0063】
処理装置300が自動的にプロットの傾向から測定条件や解析条件の修正を示唆してもよい。例えば、プロットを適当な関数にフィッティングしたときの残差の二乗和が所定値を超えるか否かで、露光時間を長くすべき等の示唆を表示するようにしてもよい。
【0064】
[回転軸のチルト]
上記の技術は、z軸に沿ってセンターシフトが一定であることを前提としているが、一定でない場合を対象とする場合もありうる。z値を変えて複数断面でのセンターシフト量を見積もることにより、回転軸(検出器)のチルトを計算できる。このような補助機能により、CT装置の納入時に、設置サービス員により半日かけて行なわれる調整作業が短縮される。
【0065】
[実施例1]
上記のように構成されたシステム100を用いて竹串の断面を観察した。CT装置200には、180°スキャンのリガク製nano3DX(登録商標)を用いた。
図11は、180°スキャン測定における全変動のプロットを示すグラフである。
【0066】
図12(a)、(b)は、仮定したセンターシフト量が-1(極小値)および5のz=0断面の再構成画像である。
図12(a)の画像には竹の細胞が明瞭に表れているが、
図12(b)の画像では、半円状のアーチファクトが生じているのが分かる。
【0067】
[実施例2]
CT装置200に、360°スキャンのリガク製CTLabHXを用い、食パンを観察した。
図13(a)、(b)は、仮定したセンターシフト量がそれぞれ-4(極大値)および0のz=0断面の再構成画像である。
図13(a)の画像では、食パン内部の空隙の形状が明瞭に表れているが、
図13(b)の画像では、空隙の形状が不明瞭であることが分かる。
図14(a)、(b)は、仮定したセンターシフト量がそれぞれ-4(極大値)および0のz=0断面の画素値である。いずれも
図13(a)、(b)におけるA-Bの範囲(100ピクセル)の画素値を出力したものである。
図14(a)は、食パンと空隙の境界部分の画素値の変化が明確であるのに対し、
図14(b)は、食パンと空隙の境界部分の画素値の変化は不明確であることが確認できた。
【0068】
[実施例3]
図15(a)、(b)は、指標値のばらつきが大きい場合と小さい場合の全変動のプロットを示すグラフである。
図15(a)に示す全変動は、短い露光時間で測定したときの指標解析結果であり、センターシフト量に対する全変動のプロットに十分な傾向が見られない。一方、
図15(b)に示す全変動は、長い露光時間で測定したときの指標解析結果であり、全変動のプロットからセンターシフト量-1、-2の付近で極小値をとるのがよく分かる。このように、指標を画像の質の定量的な評価に用いることができる。また、露光時間が十分であるかの判断や、センターシフト以外のモーションの有無の判断にも使える。
【0069】
[実施例の総括]
上記と同様に、180°スキャンのCT装置であるリガク製nano3DX(登録商標)で42件の自動のセンターシフト補正を行い、360°スキャンのCT装置であるリガク製CTLabHXの画像再構成で、18件の自動のセンターシフト補正を行った。その結果、いずれの件でも再構成画像の品質が改善した。
【符号の説明】
【0070】
100 システム
200 CT装置
210 回転制御ユニット
250 試料台
260 X線源
270 検出器
280 駆動部
300 処理装置
311 測定データ記憶部
312 装置情報記憶部
320 再構成部
330 領域特定部
340 仮補正部
350 方式判定部
360 指標解析部
370 プロット出力部
380 センターシフト量特定部
390 補正部
410 入力装置
420 表示装置
600 表示画面
610 ボタン
620、630 画像
640 ライン
650 境界
660a、660b、670 表示枠
680 AutoCenterボタン