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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099285
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】義歯装着用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20220627BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220627BHJP
   A61K 6/35 20200101ALI20220627BHJP
   A61K 6/898 20200101ALI20220627BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20220627BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q11/00
A61K6/35
A61K6/898
A61K6/891
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203127
(22)【出願日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020212219
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小幡 佑季
(72)【発明者】
【氏名】北川 千晴
【テーマコード(参考)】
4C083
4C089
【Fターム(参考)】
4C083AC122
4C083AC132
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD271
4C083AD272
4C083AD281
4C083AD282
4C083AD301
4C083AD302
4C083AD351
4C083AD352
4C083BB32
4C083BB33
4C083BB36
4C083CC41
4C083DD12
4C083DD41
4C083EE06
4C089AA04
4C089BE02
4C089BE14
4C089BE15
4C089BE16
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】義歯装着時から装着中も義歯の密着感に優れ、義歯装着時の義歯の違和感も軽減され、義歯装着時から装着中においても優れた装着感を与える義歯装着用組成物を提供する。
【解決手段】(A)アニオン性水溶性高分子物質と、(B)ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)、並びに水溶性セルロース誘導体(B2)から選ばれる1種以上のノニオン性水溶性高分子物質とを含有する義歯装着用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アニオン性水溶性高分子物質と、
(B)ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)、並びに水溶性セルロース誘導体(B2)から選ばれる1種以上のノニオン性水溶性高分子物質と
を含有することを特徴とする義歯装着用組成物。
【請求項2】
(A)成分が、単量体としてアクリル酸及び/又はメタクリル酸単量体を含む重合体、酸性多糖類、並びにそれらの塩から選ばれる1種以上のアニオン性水溶性高分子物質である請求項1記載の義歯装着用組成物。
【請求項3】
(A)成分が、アルギン酸、ポリアクリル酸、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー及びそれらの水溶性塩から選ばれる1種以上のアニオン性水溶性高分子物質である請求項1又は2記載の義歯装着用組成物。
【請求項4】
ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)が、マンノースとガラクトースとの構成比率を示すマンノース/ガラクトースが2~4のものであり、水溶性セルロース誘導体(B2)が、セルロースの水酸基の一部をエーテル化した、置換基として炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を有するものである請求項1~3のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【請求項5】
ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)が、ローカストビーンガム、グァーガム及びタラガムから選ばれる1種以上である請求項4記載の義歯装着用組成物。
【請求項6】
水溶性セルロース誘導体(B2)が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロースから選ばれる1種以上である請求項4又は5記載の義歯装着用組成物。
【請求項7】
(A)/(B)が、質量比として0.3~4である請求項1~6のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【請求項8】
(A)成分の含有量が1~10質量%であり、(B)成分の含有量が1~7質量%である請求項1~7のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【請求項9】
(A)成分と(B)成分との合計含有量が2~15質量%である請求項1~8のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【請求項10】
ジェル状である請求項1~9のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【請求項11】
塗布剤である請求項1~10のいずれか1項記載の義歯装着用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯装着者の感じる義歯装着時の痛みや違和感等を軽減し、義歯装着時から装着中においても優れた装着感を与える義歯装着用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、残存歯の増加に伴い義歯(入れ歯)、特に部分義歯装着者が増加しており、65歳以上の高齢者では約3人に1人が部分義歯を装着している。部分義歯は、顎堤(義歯を装着する歯茎部分)への負荷を軽減するため、就寝中は義歯を外すことが推奨されており、多くの部分義歯装着者は、朝起きてから部分義歯を装着しているが、朝の装着時は「義歯のなじみが悪く、違和感を感じる」、装着中は「義歯が浮いた感じがして、不快である」などの不具合が生じており、義歯装着時から装着中までの装着ケア剤の開発が望まれていた。
ところで、義歯の装着ケア剤としては、義歯安定剤があるが、従来の義歯安定剤は、合わなくなって外れ易くなった義歯を密着させたり、あるいは食事中に義歯と顎堤の隙間に物が入るのを防ぐために使用されており、装着時に感じる違和感を軽減する効果はなく、新たな装着ケア剤が望まれていた。
特許文献1(特開2020-105164号公報)には、比較的低粘度のアルギン酸及び/又はその塩と、湿潤剤の糖アルコール及び/又は多価アルコールとを併用した義歯装着用組成物が、装着部位への義歯のなじみ難さや義歯が浮いているような感覚といった不快な違和感を軽減し、あたり心地の良い装着感を与えることが提案されているが、これらは義歯装着直後についての使用感改善に留まっており、朝の装着時から就寝前に外すまでの長期的な違和感の軽減効果は不足しており、装着感は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-105164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、義歯装着時から装着中も義歯の密着感に優れ、義歯装着時の義歯の違和感も軽減され、義歯装着時から装着中においても優れた装着感を与える義歯装着用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、後述の(A)アニオン性水溶性高分子物質と、(B)特定のノニオン性水溶性高分子物質とを併用して配合した義歯装着用組成物を、例えば口腔内に装着する前の義歯(人工歯と義歯床を有する人工歯。以下、「義歯」と記載。)、特に部分義歯の義歯床表面に塗布等によって適用し、この義歯を装着部位の顎堤(義歯を装着する歯茎部分)に装着すると、義歯装着時の義歯の密着感が顕著に高まると共にその密着感が装着中も一定時間持続し、装着時の違和感を軽減させることもできることを知見した。即ち、本発明によれば、(A)アニオン性水溶性高分子物質と、(B)ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)、並びに水溶性セルロース誘導体(B2)から選ばれる1種以上のノニオン性水溶性高分子物質とを含有する義歯装着用組成物とすることによって、義歯装着時から装着中も義歯の密着感に優れ、義歯装着時の義歯の違和感も軽減され、義歯装着時から装着中においても優れた装着感を付与することができることを知見し、本発明をなすに至った。
なお、本発明においては、「装着時」を主に装着操作時から装着直後の比較的短い間、「装着中」は装着している間の意味合いで用いている。
【0006】
更に詳述すると、(A)成分、例えばポリアクリル酸塩は、義歯装着時の義歯のあたり心地を改善し、義歯の密着感等を高める作用を有するが、その効果は比較的短時間で消失し易く、これは、ポリアクリル酸塩が、口腔内の金属イオンと反応することや唾液による希釈等が原因の一つであると推測された。
これに対して、本発明によれば、(A)成分に(B)成分を併用することによって、(A)成分による、義歯装着における義歯の密着感、特に密着感の改善作用が向上し、高い密着感を持続させることができ、これにより、義歯装着時から装着中においても優れた密着感を与え、義歯装着時の違和感を軽減することもできた。
この場合、ノニオン性水溶性高分子物質には、義歯装着における義歯の密着感を改善する作用は認められず、また、(A)成分に、ノニオン性水溶性高分子物質以外の高分子物質であるカチオン化グァーガムや、(B)成分以外のノニオン性水溶性高分子物質であるグルコマンナンを併用すると、(A)成分による義歯装着時の密着感の付与効果が低下し、違和感を軽減することもできなかった。しかし、(A)及び(B)成分を併用すると、意外にも、両者が特異的に相互作用し、(A)成分による義歯装着時の密着感の付与効果が低下することなく、義歯装着時のみならず装着中においても顕著に高い密着感を付与し、違和感を軽減することもできた。
後述の比較例に示すように、(A)成分が配合され、(B)成分が配合されていないと、カチオン化グァーガム又はグルコマンナンが添加されていても、義歯装着時(装着直後)の義歯の密着感及び違和感のなさが劣り(比較例2、3)、デンプンが添加された比較例4は、義歯装着中(装着して3時間経過後)に義歯の密着感が低下し、義歯の密着感の持続性が劣っていた。これに対して、本発明の(A)及び(B)成分が配合された義歯装着用組成物(実施例)は、義歯装着時(装着直後)の義歯の密着感及び違和感のなさが優れ、かつ義歯装着中(装着して3時間経過後)も義歯の密着感が高く、義歯の密着感の持続性が優れていた。
【0007】
従って、本発明は、下記の義歯装着用組成物を提供する。
〔1〕
(A)アニオン性水溶性高分子物質と、
(B)ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)、並びに水溶性セルロース誘導体(B2)から選ばれる1種以上のノニオン性水溶性高分子物質と
を含有することを特徴とする義歯装着用組成物。
〔2〕
(A)成分が、単量体としてアクリル酸及び/又はメタクリル酸単量体を含む重合体、酸性多糖類、並びにそれらの塩から選ばれる1種以上のアニオン性水溶性高分子物質である〔1〕記載の義歯装着用組成物。
〔3〕
(A)成分が、アルギン酸、ポリアクリル酸、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー及びそれらの水溶性塩から選ばれる1種以上のアニオン性水溶性高分子物質である〔1〕又は〔2〕記載の義歯装着用組成物。
〔4〕
ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)が、マンノースとガラクトースとの構成比率を示すマンノース/ガラクトースが2~4のものであり、水溶性セルロース誘導体(B2)が、セルロースの水酸基の一部をエーテル化した、置換基として炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を有するものである〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
〔5〕
ガラクトマンナン及びその誘導体(B1)が、ローカストビーンガム、グァーガム及びタラガムから選ばれる1種以上である〔4〕記載の義歯装着用組成物。
〔6〕
水溶性セルロース誘導体(B2)が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロースから選ばれる1種以上である〔4〕又は〔5〕記載の義歯装着用組成物。
〔7〕
(A)/(B)が、質量比として0.3~4である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
〔8〕
(A)成分の含有量が1~10質量%であり、(B)成分の含有量が1~7質量%である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
〔9〕
(A)成分と(B)成分との合計含有量が2~15質量%である〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
〔10〕
ジェル状である〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
〔11〕
塗布剤である〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の義歯装着用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、義歯装着時から装着中も義歯の密着感に優れ、義歯装着時の義歯の違和感も軽減され、義歯装着時から装着中においても優れた装着感を与える義歯装着用組成物を提供できる。本発明の義歯装着用組成物は、義歯、特に部分義歯を装着前にその義歯床へ適用し、義歯の装着感を改善する製剤として有効であり、装着時の不快な痛みや違和感等を軽減させ、あたり心地の良い装着感を与えるケアに応用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳述する。
本発明の義歯装着用組成物は、後述の(A)アニオン性水溶性高分子物質と、(B)特定のノニオン性水溶性高分子物質を含有する。
なお、本発明において、「水溶性」とは、20℃の水100gに1g以上溶解するものを意味する。
【0010】
(A)成分は、アニオン性水溶性高分子物質であり、アクリル酸系ポリマー(単量体として(メタ)アクリル酸を含む重合体)、酸性多糖類又はそれらの塩等が挙げられる。これらは、義歯装着時における義歯の密着感を改善して高い密着感を与え、また、義歯装着時における違和感を軽減する作用を有する。
アクリル酸系ポリマー又はその塩としては、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸/メチルビニルエーテル共重合体等や、それらの水溶性塩が挙げられる。酸性多糖類又はその塩としては、アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアガム、ペクチン、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース等や、それらの水溶性塩が挙げられる。水溶性塩としては、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩が好ましい。中でも、義歯装着時の義歯の密着感及び違和感のなさの点から、アルギン酸、ポリアクリル酸、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマーや、それらの水溶性塩が好ましく、より好ましくはアルギン酸、ポリアクリル酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースや、それらの水溶性塩であり、特に義歯装着時の義歯の違和感のなさの点から、ポリアクリル酸、アルギン酸や、それらの水溶性塩が更に好ましい。これらは、1種を単独でも、本効果発現の点から、2種以上を組み合わせてもよく、また、市販品を使用できる。
【0011】
(A)成分の配合量は、組成物全体の1~10%(質量%、以下同様)が好ましく、より好ましくは1~5%、更に好ましくは2~4%である。配合量が1%以上であると、義歯装着時の義歯の密着感が十分に優れ、また、義歯装着時の違和感が十分に軽減する。10%以下であると、適度な製剤粘度が維持され、ベタツキやヌルツキ、更には使用者への圧迫感が抑えられ、良い使用感が十分に確保される。
【0012】
(B)成分は、ノニオン性水溶性高分子物質であり、ガラクトマンナン又はその誘導体(B1)及び/又は水溶性セルロース誘導体(B2)を使用することができる。これらは、(A)成分と併用することによって、特に義歯装着中の密着感(密着感の持続性)を改善し、義歯装着時から装着中も優れた密着感を与える作用を奏し、また、義歯装着時の義歯の違和感を軽減する作用も奏する。
【0013】
ガラクトマンナン又はその誘導体(B1)として、ガラクトマンナンは、β-D-マンノースがβ-1,4結合した主鎖と、α-D-ガラクトースがα-1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類であり、マンノースとガラクトースの構成比率により特性が異なる。例えば、マンノースとガラクトースとの構成比を示すマンノース/ガラクトースが4のものはローカストビーンガムと呼ばれ、2のものはグァーガムと呼ばれ、3のものがタラガムと呼ばれる。マンノース/ガラクトースが2~4が好ましく、より好ましくは2~3、更に好ましくは2である。
ガラクトマンナン又はその誘導体(B1)としては、上記ローカストビーンガム、グァーガム、タラガムが好ましく、より好ましくはグァーガム、タラガムであり、グァーガムが更に好ましい。
これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよく、また、市販品を使用できる。
【0014】
水溶性セルロース誘導体(B2)としては、セルロースの水酸基の一部をエーテル化した誘導体を用いることができ、下記の置換基を有するものが好ましい。
水溶性セルロース誘導体の水酸基をエーテル化した置換基は、本効果発現の点から、アルキル基又はヒドロキシアルキル基であるものが好ましく、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、更に好ましくはメトキシ基又はヒドロキシプロポキシ基である。ヒドロキシアルキル基とは、ヒドロキシ基によって置換されたアルキル基及びそれらの異性体基である。
水溶性セルロース誘導体のエーテル化の置換度は、本効果発現の点から、0.1~3であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1~2であることがより好ましい。
ここで、置換度とは、セルロース主鎖を構成するグルコース単位1モルあたりの分子中に存在する各置換基の平均モル数をいう。
このような水溶性セルロース誘導体として具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。中でも、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがより好ましい。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよく、また、市販品を使用できる。
【0015】
(B)成分((B1)成分及び/又は(B2)成分)の配合量は、組成物全体の1~7%が好ましく、より好ましくは1~4%である。配合量が1%以上であると、義歯装着時及び装着中の義歯の密着感が十分に優れ、また、義歯装着時の違和感が十分に軽減する。7%以下であると、適度な製剤粘度が維持され、ベタツキやヌルツキ、更には使用者への圧迫感が抑えられ、良い使用感が十分に確保される。
【0016】
また、(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)は、質量比として0.3~4が好ましく、0.5~3がより好ましい。(A)/(B)の質量比が上記範囲内であると、義歯装着時及び装着中の義歯の密着感が一層優れ、また、義歯装着時の義歯の違和感も一層軽減する。(A)/(B)の質量比が上記範囲外であると、特に義歯装着中の義歯の密着感が劣り、義歯の違和感のなさも劣る場合がある。
【0017】
(A)成分と(B)成分との合計配合量を示す(A)+(B)は、組成物全体の2~15%が好ましく、3~7%がより好ましい。合計配合量が上記範囲内であると、義歯装着時及び装着中の義歯の密着感が一層優れ、また、義歯装着時の義歯の違和感が一層軽減する。
【0018】
本発明の義歯装着用組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、水を配合することができ、水を媒体に含む含水組成物とすることが好ましい。
水の含有量は、組成物全体の10%以上が好ましく、より好ましくは30%以上である。含有量の上限は、特に制限されないが、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下である。水の配合量が10%以上であると、(A)成分と(B)成分が十分に膨潤し、義歯装着中のベタツキやヌルツキが防止されて良い使用感を十分に確保できる。水を多く配合し過ぎると、特に義歯装着中の義歯の密着感(密着感の持続性)に影響する場合があり、80%以下であると、義歯装着時及び装着中の義歯の密着感が十分に得られる。
【0019】
本発明の義歯装着用組成物には、義歯床への広がり易さを改善すると共に、義歯装着時の義歯の密着感を改善し、また、義歯装着時の違和感を軽減する点で、多価アルコールを配合することが好ましい。多価アルコールとしては、糖アルコール、糖アルコール以外の好ましくは水酸基の数が12以下、より好ましくは4以下、特に2~3の多価アルコールが挙げられる。
【0020】
糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール等が挙げられる。中でも、ソルビトール、キシリトールが好ましく、より好ましくはソルビトールである。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0021】
糖アルコール以外の多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン等が挙げられる。中でも、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールが好ましく、より好ましくはグリセリン、プロピレングリコールである。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
なお、ポリエチレングリコールは、平均分子量(医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量)が300~4,000であるものが好ましく、平均分子量190~630のポリエチレングリコール(PEG200、PEG300、PEG400、PEG600)がより好ましい。
【0022】
多価アルコールの配合量は、組成物全体の15~70%が好ましく、より好ましくは30~60%である。配合量が15%以上であると、粘着力が十分に発現し、義歯装着時及び装着時の義歯の密着感と義歯装着時の違和感のなさとが十分に得られる。70%以下であると、適度な製剤粘度が維持されて義歯床への広がり易さを十分に確保できる。また、製剤安定性が十分に得られる。
【0023】
水と上記多価アルコールとの量比は、質量比として水:多価アルコールが1:4~9:1の範囲であることが、本効果発現性の点から、好ましい。
【0024】
本発明の義歯装着用組成物は、特にジェル状の形態に調製され、ジェル状組成物として調製されることが好ましく、また、塗布剤として好適に使用される。
本発明の義歯装着用組成物には、上記成分に加えて、必要に応じて、形状や剤型等に応じたその他の公知成分を任意成分として、本発明の効果に影響しない範囲で配合することができる。任意成分としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤、香料、着色剤、防腐剤、有効成分(殺菌剤、抗菌剤、抗炎症剤、各種ビタミン等の薬効成分)、pH調整剤を配合し得る。
【0025】
義歯装着用組成物の好ましいpH(25℃)は6~8.5、特に6.5~8である。pHは、必要に応じてpH調整剤を配合して調整してもよい。
【0026】
組成物の粘度は、25℃における粘度(レオメーター(MCR302、アントンパール社製)、コーンプレート型回転粘度計(せん断速度3s-1、測定時間10秒間)を使用して測定)が10~500Pa・sが好ましく、より好ましくは50~300Pa・sである。
【0027】
本発明の義歯装着用組成物は、部分義歯、全部義歯に用いることができ、特に部分義歯用として好適である。本発明の義歯装着用組成物の使用方法は、義歯床に適量を置くか又は塗布する方法を採用することができ、このようにして使用された後は、義歯を顎堤の装着部位に嵌めて装着することができる。その使用量は、義歯に応じて調整することができる。例えば、部分義歯では、人工歯1歯を支持する義歯床に対し、1回使用量が0.01~0.3gであることが好ましい。また、装着部位から義歯を外した後は、義歯を水で洗浄することで、容易に義歯装着用組成物を除去することができる。
【実施例0028】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0029】
[実施例、比較例]
表1~3に示す組成の義歯装着用組成物(ジェル剤)を下記方法で試験し、評価した。結果を表に併記した。
なお、(A)及び(B)成分が配合された実施例の義歯装着用組成物は、pH(25℃)が6~8.5の範囲内、25℃における粘度(レオメーター(MCR302、アントンパール社製)、コーンプレート型回転粘度計(せん断速度3s-1、測定時間10秒間)を使用して測定)が10~500Pa・sの範囲内であった。
【0030】
<試験方法>
各組成の義歯装着用組成物(ジェル剤)を常法によって調製し、これらをサンプルとしてチューブ容器に収容し、下記の実験1、2に示す方法で評価した。表中の各成分の配合量を示す数値は、全て純分量(質量%)を意味する。
被験者は部分義歯装着者10名であり、その義歯の内訳は、上顎2本:2名、上顎3本:3名、下顎2本:4名、下顎3本:1名である。
【0031】
<実験1;義歯装着時の義歯の装着感(義歯の密着感、義歯の違和感のなさ)の評価方法>
部分義歯装着直後に違和感を感じている部分義歯装着者10名に対して、試験を実施した。チューブ容器からサンプルを部分義歯の義歯床上に押し出し(2歯分の義歯:サンプル量0.1~0.2g、3歯分の義歯:サンプル量0.2~0.3g)、口腔内の所定位置に装着した。装着直後に感じた義歯の装着感として、義歯の密着感(義歯の義歯床が装着部位の口腔粘膜に適度に密着し、グラツキがなく、隙間全体が埋められて心地よく装着されている感覚)と義歯の違和感のなさ(義歯由来の異物感や圧迫感が軽減された感覚)について、サンプルを使用せずに装着した場合と比較し、下記の評点基準にて評価した。それぞれの10名の平均点を算出し、下記の評価基準にて義歯の密着感と義歯の違和感のなさを判定した。
義歯の密着感の評点基準
4点:高い密着感を感じた
3点:密着感を感じた
2点:密着感があまり感じられなかった
1点:密着感が感じられなかった
義歯の違和感のなさの評点基準
4点:義歯の違和感が十分軽減され、違和感を感じなかった
3点:義歯の違和感が軽減され、違和感をあまり感じなかった
2点:義歯の違和感があまり軽減せず、違和感を感じた
1点:義歯の違和感も軽減せず、強い違和感を感じた
義歯の密着感、義歯の違和感のなさの評価基準
◎:3.5点以上4.0点以下
○:3.0点以上3.5点未満
△:2.0点以上3.0点未満
×:2.0点未満
【0032】
<実験2;義歯装着中の装着感(義歯の密着感の持続性)の評価方法>
部分義歯装着時に違和感を感じている部分義歯装着者10名に対して、試験を実施した。サンプルをチューブ容器から部分義歯の義歯床上に押し出し(2歯分の義歯:サンプル量0.1~0.2g、3歯分の義歯:サンプル量0.2~0.3g)、口腔内の所定位置に装着した。装着中の義歯の装着感として、義歯装着3時間後に感じる義歯の密着感(義歯の密着感の持続性)を、装着直後と比較し、下記の評点基準にて評価した。10名の平均点を算出し、下記の評価基準にて義歯の密着感の持続性を判定した。
義歯の密着感の持続性の評点基準
3点:装着直後と比べて義歯の密着感は変わらなかった
2点:装着直後と比べて義歯の密着感はやや弱くなったが許容範囲であった
1点:義歯の密着感を感じなかった
評価基準
◎:2.5点以上3.0点以下
○:2.0点以上2.5点未満
×:2.0点未満
【0033】
使用した主原料を下記に示す。
(A)成分
・アルギン酸ナトリウム:キミカアルギン(タイプ:I-8)(キミカ社製)
・ポリアクリル酸ナトリウム:レオジック260-H(東亞合成社製)
・カラギーナン:GENU VISCO CF02(CPケルコ社製)
・カルボキシメチルセルロースナトリウム:CMC1260(ダイセルファインケム社製)
・キサンタンガム:モナートガムDA(DSP五経フード&ケミカル社製)
・カルボキシビニルポリマー:カーボポール980(ルーブリゾール社製)
(B)成分
・グァーガム:メイプロガット 90S(デュポン社製)
・タラガム:スピノガム(扶桑化学工業社製)
・ローカストビーンガム:メイプロLBG フレールM-200(デュポン社製)
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース:メトローズ90SH-4000SR(メトキシ基置換度1.4、ヒドロキシプロポキシ基置換度0.2、信越化学工業社製)
・ヒドロキシエチルセルロース:LF-15(ヒドロキシエポキシ基置換度2.0、住友精化社製)
・メチルセルロース:メトローズSM-4000(メトキシ基置換度1.8、信越化学工業社製)
比較成分
・カチオン化グァーガム(比較成分):ジャグァー C-14S(ローヌプーラン社製)
・グルコマンナン(比較成分):プロポールA(清水化学社製)
・デンプン(比較成分):コーンスターチ NON-GMO(日本コーンスターチ社製)
その他成分
・グリセリン:化粧品用濃グリセリン(阪本薬品工業社製)
・プロピレングリコール:プロピレングリコール(旭硝子社製)
・ソルビトール:70%ソルビット液(三菱商事フードテック社製)
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】