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  • 特開-板体補強用積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099295
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】板体補強用積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20220627BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220627BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220627BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220627BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20220627BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/00 D
B32B27/38
B32B15/08 U
B32B15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205594
(22)【出願日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2020212747
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000101905
【氏名又は名称】イイダ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】假屋 房亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善継
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 有季哉
(72)【発明者】
【氏名】吉村 友沙
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 直樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 繁明
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB03B
4F100AK53A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CB00A
4F100DD07B
4F100GB32
4F100JA02B
4F100JB13A
4F100JK01
4F100JL11A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】本発明は、板体の剛性を十分に補強しつつも、板体の歪みを抑制することができる、補強用板体積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の板体補強用積層体は、熱硬化性樹脂からなる接着層と、前記接着層の片面に積層される補強層と、を備え、前記補強層は、熱膨張係数が11~14(10-6/K)であり、厚さが0.050mm以上0.30mm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以上4.0μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂からなる接着層と、
前記接着層の片面に積層される補強層と、を備え、
前記補強層は、熱膨張係数が11~14(10-6/K)であり、厚さが0.050mm以上0.30mm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以上4.0μm以下であることを特徴とする、板体補強用積層体。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂からなる接着層は、エポキシ樹脂系の接着層である、請求項1に記載の板体補強用積層体。
【請求項3】
前記補強層は、金属板である、請求項1又は2に記載の板体補強用積層体。
【請求項4】
前記補強層は、鋼板である、請求項3に記載の板体補強用積層体。
【請求項5】
前記補強層の厚さが、0.075mm以上0.25mm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の板体補強用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板体の一方の面に貼着されて該板体を補強し、該板体の剛性を向上させる、板体補強用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業界では、構造体を構成する板体の薄肉化が要請されている。例えば、車両では、車体の軽量化により燃費性の向上を図るため、車体を構成する板体の薄肉化が強く要請されている。しかし、板体の薄肉化を図ると、板体の剛性が低下するという問題が生じる。
【0003】
そこで、近年、板体の一方の面に貼着されて該板体を補強し、該板体の剛性を向上させる、板体補強用部材が用いられている。この板体補強用部材として、引張弾性率の大きなエポキシ系樹脂を基材としたパッド材を用い、該パッド材を板体の一方の面に貼着し、板体塗装時における加熱処理により該パッド材を硬化させ、これにより板体を補強し、該板体の剛性を確保したものが知られている。また、パッド材にガラスクロスや金属板を積層し、剛性を一層確保したもの、さらに、パッド材に積層したガラスクロスにアルミ箔を表皮として張り付け、ガラスクロスの吸湿性を抑えたものも知られている(特許文献1)。
【0004】
また、板体補強用部材として、熱硬化性樹脂層に埋設する織布や不織布等を耐熱樹脂で目止め処理し、布のほぐれを抑えるとともに、布の剛直性を確保したものも知られている(特許文献2)。一方、板体補強用部材に熱硬化性樹脂を使用した場合、熱硬化性樹脂の特性によって収縮を伴うことがある。そして、板体補強用部材の収縮によって生じる収縮力が板体に伝達されることで板体に歪みが生じることがあった。これに対し、該歪みを低減させるべく板体補強用部材を、補強層を積層させて構成するとともに、補強層の中央部を厚く形成する構成が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-279550号公報
【特許文献2】特開平2-80479号公報
【特許文献3】特開2003-127897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、ガラスクロスやアルミ箔と板材とで熱膨張係数が異なるため、熱歪みの発生を大幅に小さくすることは困難であり、板体において高い意匠性を実現することが困難である。また、特許文献2では、補強基材にガラスクロスを用いていることから補強基材と板体との間で熱膨張差が生じるため、熱歪みの発生は十分に抑えられず、板体において高い意匠性を実現することが困難である。また、特許文献3では、常温硬化型樹脂を塗布型補強材として使用し、板体の表面に一定幅で塗布して板体に剛性を与え、かつ塗布して形成した塗膜厚みを制御することで波打ち等の変形を抑制している。しかし、剛性は樹脂を塗布して厚みを形成させることで確保しているのみであることから、剛性を高める効果が十分であるとはいえない。
【0007】
そこで、本発明は、板体の剛性を十分に補強しつつも、板体の歪みを抑制することができる、板体補強用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)熱硬化性樹脂からなる接着層と、
前記接着層の片面に積層される補強層と、を備え、
前記補強層は、熱膨張係数が11~14(10-6/K)であり、厚さが0.050mm以上0.30mm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以上4.0μm以下であることを特徴とする、板体補強用積層体。
【0009】
ここで、「熱膨張係数」は、補強層と同一素材のシート材を直径4mm長さ20mmに加工して試験片を作製し、JIS Z2285に準拠して熱膨張率を測定する。測定条件は、20~300℃とし、昇温速度は5℃/分とし、押し棒荷重は0.196Nとする。20℃の熱膨張率を0として、300℃の熱膨張率を測定して、20~300℃の平均熱膨張係数を算出して、線膨張係数とする。
また、「表面粗さRa」は、補強層と同一素材のシート材を50mm角に加工して試験片を作製し、表面に平行に10mmの領域を、触針式表面粗度計を用いて繰返し100μmピッチで10回走査し、JIS B0601に準拠して、各走査線における算術平均粗さ(Ra)を算出し、その平均を表面粗さRaとする。
【0010】
(2)前記熱硬化性樹脂からなる接着層は、エポキシ樹脂系の接着層である、上記(1)に記載の板体補強用積層体。
【0011】
(3)前記補強層は、金属板である、上記(1)又は(2)に記載の板体補強用積層体。
【0012】
(4)前記補強層は、鋼板である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の板体補強用積層体。
【0013】
(5)前記補強層の厚さが、0.075mm以上0.25mm以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の板体補強用積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板体の剛性を十分に補強しつつも、板体の歪みを抑制することができる、板体補強用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】板体、及び該板体に接着された本発明の一実施形態にかかる板体補強用積層体を示す、正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、板体、及び該板体に接着された本発明の一実施形態にかかる板体補強用積層体を示す、正面図である。
【0018】
板体1は、一方の面1a及び他方の面1bを有している。本実施形態の板体補強用積層体2は、板体1の一方の面1aに貼着されて該板体1を補強するものである。先に、板体補強用積層体2によって剛性を補強する対象となる板体1について説明する。
【0019】
<板体>
板体1は、例えば車体を構成する板体であり、板体1の一方の面1aが車両の内側に対向し、他方の面1bが車両の外側に対向する。板体1の材質は特には限定されないが、本実施形態では鋼板である。板体1の厚さは、特には限定されないが、0.60~0.75mmとすることができ、軽量化の観点からは0.70mm以下とすることが特に好適である。
【0020】
<板体補強用積層体>
図1に示すように、薄板補強用積層体2は、熱硬化性樹脂からなる接着層3と、接着層3の片面3bに積層される補強層4と、を備えている。
【0021】
<<接着層>>
接着層3は、自己粘着性(他の接着剤等を用いなくても、それ自体が粘着性を有するものである)を有する層である。これにより、接着層3は、片面3bが後述のように補強層4に貼着し、また、反対側の片面3aが板体1の面(図示では一方の面1a)に貼着することができる。このように、板体補強用積層体2は、接着層3の粘着力を利用して構成されている。図示例では、接着層3はシート状に形成されている。図示例では、補強層4の長さ(図示奥行き方向)及び幅(図示上下方向)は、板体1の長さ及び幅より小さく、接着層3の長さ及び幅は、補強層4の長さ及び幅と同じとなっている。
【0022】
熱硬化性樹脂は、(所定の硬化条件下にて)熱硬化される。接着層3が硬化されることにより、板体1の剛性を補強する効果を発揮することができる。本実施形態では、接着層3は、熱硬化性樹脂からなり、加熱処理により硬化させることができる。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂系の公知の材料を適用することができる。また、接着層3は、非発泡層でも良く、あるいは、発泡層でも良い。
【0023】
<<補強層>>
補強層4は、熱膨張係数が11~14(10-6/K)であり(本実施形態では、板状部材(鋼板)であり)、厚さが0.050mm以上0.30mm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以上4.0μm以下である。このような補強層4を用いることにより、硬化物である接着層3の変形を拘束する作用により、硬化物である接着層3による板体1の剛性向上に寄与する。すなわち、補強層4の熱膨張係数が11~14(10-6/K)であるため、補強層4の変形が、加熱処理の際のならびに常温に戻す際の板体1の熱変形に追随し、板体1bの歪みを抑制することができる。すなわち、補強層4の熱膨張係数が11(10-6/K)未満であると、加熱処理の際のならびに常温に戻す際に板体1の歪みを抑制できない。一方で、補強層4の熱膨張係数が14(10-6/K)超であると、加熱処理の際のならびに常温に戻す際に板体1の歪みを抑制できない。同様の理由により、補強層4の熱膨張係数が12.5(10-6/K)以上であることがより好ましく、13.5(10-6/K)以下であることがより好ましい。また、補強層4の表面粗さRaが0.05μm未満では、加熱処理の際ならびに常温に戻す際に板体1の歪みを抑制できない。一方で、4.0μm超となると、加熱処理の際ならびに常温に戻す際に板体1の歪みを抑制できない。同様の理由により、補強層4の表面粗さRaが0.10μm以上であることがより好ましく、3.5μm以下であることがより好ましい。また、補強層4の厚さが0.050mm未満では、板体補強用積層体2を貼着した板体1の剛性を向上させる効果がない。一方で、0.30mm超となると、板体1の剛性向上効果は高まるものの、軽量化することができない。同様の理由により、補強層4の厚さは、0.075mm以上であることが好ましく、0.25mm以下であることが好ましい。好ましくは、補強層4の接着層3に積層される面の面積は、板体1の面1a、1bの面積の10~50%である。10%以上とすることにより、板体1の剛性向上効果をより一層向上させることができ、一方で、50%以下とすることにより、軽量化をなるべく妨げないようにすることができるからである。上記補強層4としては、板状部材、特に金属板とすることが好ましいが、他にも樹脂板等を用いることができる。金属板としては、鋼板を用いることが好ましい。鋼板を用いる場合には、炭素鋼等の鋼種とすることが好ましく、また、引張強度で200MPa以上700MPa等の機械特性を有するものとすることが好ましい。
【0024】
以上のように、本実施形態の板体補強用積層体2によれば、板体1の一方の面1aに貼着された接着層3が、熱硬化性樹脂が熱硬化されるものであり、該接着層3の片面3bに積層される補強層4の板厚が0.050mm以上であるため、板体1の剛性を効果的に向上させることができる。そして、補強層4の熱膨張係数が11~14(10-6/K)であるため、板体1に接着層3を貼着した後で行われる塗装焼付け工程(一般的に170℃程度の熱処理温度、及び20分程度の熱処理時間で行われる)での加熱処理の際ならびに常温に戻す際の板体1の熱変形に追随して、補強層4が変形可能であり、板体1bの歪みを抑制することもできる。加えて、補強層4の厚さが0.30mm以下であるため、軽量化も可能である。例えば、本実施形態の板体補強用積層体2を、車体を構成する板体に適用すれば、車体の軽量化を図りつつ車体の剛性を確保し、さらに板体の歪みのない美麗な車体とすることができる。
【0025】
ここで、板体補強用積層体2は、接着層3を例えば押出成形、射出成型等によって成形し、接着層3の片面3bに別途準備した補強層4を積層することにより製造される。積層するに際しては、接着層3の片面3bを加熱されていない仮付けのような状態で補強層4と貼着させることにより行うことができる。こうして得られた板体補強用積層体2を、板体1に対しても仮付けしてから、例えば板体1に塗装を行う際の熱を利用して熱硬化させて接着層3を板体1と補強層4とで挟む積層構造とする。
【0026】
本開示において、車両構成材は、板体と、板体の一方の面に貼着されて前記板体を補強する、板体補強用積層体とを有し、該板体補強用積層体は、熱硬化性樹脂からなる接着層と、前記接着層の片面に積層される補強層と、を備え、前記接着層の前記片面とは反対側の片面が前記板体の一方の面に貼着され、前記補強層は、熱膨張係数が11~14(10-6/K)であり、厚さ0.050mm以上0.30mm以下であり、表面粗さRaが0.05μm以上4.0μm以下である。
【0027】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例には何ら限定されない。
【実施例0028】
(試験例)
板体補強用積層体による板体の剛性向上効果と意匠面歪みと、を確認する実験を行った。
[剛性試験]
板体(サイズ:板厚0.6mm×幅500mm×長さ500mm)の対向する辺を把持して曲げ、半径1200mmの曲面状とし、板体の一方の面の所定部位に板体補強用積層体(サイズ:幅150mm×長さ400mm)を貼着した。この状態で180℃の熱処理温度で30分間加熱し、接着層を板体に固着した。その後、常温まで冷却した。次に先端R幅80mmの付いた押し治具を用いて板体補強用積層体を貼着した面と背向する、他方の面の中心を押込み、100N負荷したときの変位を測定した。
[意匠面歪み試験]
板体(サイズ:板厚0.6mm×幅500mm×長さ500mm)をプレス成型で半径1200mmの曲面状とし、板体の一方の面の所定部位に板体補強用積層体を貼着した。この状態で板体補強用積層体(サイズ:幅150mm×長さ200mm)を貼着した面と背向する、他方の面の変位を3次元測定器で測定した。その後、180℃の熱処理時間で30分間加熱し、接着層を板体に固着した後、常温まで冷却した。この状態で、再度、板体補強用積層体(サイズ:幅150mm×長さ200mm)を貼着した面と背向する他方の面の変位を3次元測定器で測定した。加熱前後の変位差を求め、変位差が0.2mm以上を意匠面歪みが劣位(×)、0.2mm未満を意匠面歪みが良好(○)とした。
線膨張係数の測定は、補強層と同一素材のシート材を直径4mm長さ20mmに加工して試験片を作製し、JIS Z2285に準拠して熱膨張率を測定した。測定条件は、20~300℃とし、昇温速度は5℃/分とし、押し棒荷重は0.196Nとした。20℃の熱膨張率を0として、300℃の熱膨張率を測定して、20~300℃の平均熱膨張係数を算出して、線膨張係数とした。
表面粗さの測定は、補強層と同一素材のシート材を50mm角に加工して試験片を作製し、表面に平行に10mmの領域を、触針式表面粗度計を用いて繰返し100μmピッチで10回走査し、JIS B0601に準拠して、各走査線における算術平均粗さ(Ra)を算出し、その平均を表面粗さRaとした。
表1に試験結果を示す。No.1とNo.2とでは100N負荷時の変位が小さく、板体の剛性が向上していることがわかる。またNo.1とNo.2とでは意匠面歪みが良好であることが分かる。
【0029】
【表1】
【符号の説明】
【0030】
1:板体
2:板体補強用積層体
3:接着層
4:補強層
図1