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特開2022-99306自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置、および関連する自転車ギアシフト装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099306
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置、および関連する自転車ギアシフト装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/122 20100101AFI20220627BHJP
【FI】
B62M9/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021206761
(22)【出願日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】102020000031877
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】592072182
【氏名又は名称】カンパニョーロ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】CAMPAGNOLO SOCIETA A RESPONSABILITA LIMITATA
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】デ・ポリ・ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ミント・マルコ
(57)【要約】
【課題】小型かつ部品総数の点から単純な自転車ギアシフトのアクチュエータ装置の提供。
【解決手段】アクチュエータ装置100は、作動リンク機構101と、同機構の変形を制御する駆動部材120と、伝動エレメント122と接続ロッド102間に動作可能に配置された留め/切離し機構150と、を備える。該機構は、伝動エレメント122と回転軸心X回りに一体回転可能な第1の部材160、接続ロッドと一緒に回転軸心Xを中心として回転可能な第2の部材170、並びに第1及び第2の部材に所定の予圧応力を加える弾性エレメント180を含む。機構は、前記所定の予圧応力を下回る応力に曝されると留め動作状態に設定されて第1と第2の部材が軸心X周りに一体回転可能となり、前記所定の予圧応力を上回る応力に曝されていると切離し動作状態に設定されて第1の部材と第2の部材とが互いに対して回転可能となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車ギアシフト装置(200)のアクチュエータ装置(100)であって、
-自転車のフレームに設けられるように構成された第1の本体部(112)、前記自転車ギアシフト装置のディレイラ(130)に設けられるように構成された第2の本体部(113)、および前記第1の本体部(112)と前記第2の本体部(113)とを接続する一対の関節駆動型の接続ロッド(102,104)を含む作動リンク機構(101)と、
-前記作動リンク機構(101)の変形を制御するように構成されており、前記第1の本体部(112)及び第2の本体部(113)のうちの一方に固定連結したモータ(121)、ならびに前記モータ(121)によって回転軸心(X)回りに回転させられるように構成された伝動エレメント(122)を含む駆動部材(120)と、
-前記伝動エレメント(122)と前記一対の接続ロッド(102,104)のうちの一方の接続ロッド(102)との間に動作可能に配置されており、
-前記伝動エレメント(122)と前記回転軸心(X)回りに一体回転可能な第1の部材(160)、
-前記接続ロッド(102)と一緒に前記回転軸心(X)を中心として回転可能な第2の部材(170)、ならびに
-前記第1の部材(160)と前記第2の部材(170)との間に動作可能に配置されており、前記第1の部材(160)及び前記第2の部材(170)に所定の予圧応力を加える弾性エレメント(180)、
を含む、留め/切離し機構(150)と、
を備え、前記留め/切離し機構(150)は、前記第1の部材(160)が前記第2の部材(170)と前記回転軸心(X)を中心として一体回転可能な留め動作状態と、前記第1の部材(160)と前記第2の部材(170)とが前記回転軸心(X)回りに/を中心として互いに対して回転可能な切離し動作状態とに選択的に設定可能であり、前記留め/切離し機構(150)が前記所定の予圧応力を下回る応力に曝されていると前記留め動作状態に設定され、前記留め/切離し機構(150)が前記所定の予圧応力を上回る応力に曝されていると前記切離し動作状態に設定される、アクチュエータ装置(100)。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第2の部材(170)は、前記接続ロッド(102)に回転可能に設けられて前記回転軸心(X)と平行な軸心(Y)に沿って延びている回転ピン(171)に固定連結している、アクチュエータ装置(100)。
【請求項3】
請求項2に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記接続ロッド(102)が、
-前記伝動エレメント(122)の第1の端部(123b)を収容するように構成された第1の孔(102f)、および前記回転ピン(171)の端部(171a)を収容するように構成された第2の孔(102g)を有する第1のフレーム(102a)、ならびに
-前記第1のフレーム(102a)に固定して設けられた第2のフレーム(102b)、
を有し、前記留め/切離し機構(150)が、前記第1のフレーム(102a)と前記第2のフレーム(102b)との間に動作可能に配置されている、アクチュエータ装置(100)。
【請求項4】
請求項2または3に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第2の部材(170)が2つのアーム(173,174)を有し、前記回転ピン(171)が前記2つのアーム(173,174)間に配置されている、アクチュエータ装置(100)。
【請求項5】
請求項4に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第2の部材(170)が略L字状である、アクチュエータ装置(100)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記弾性エレメント(180)がトーションスプリングである、アクチュエータ装置(100)。
【請求項7】
請求項6に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第2の部材(170)は前記接続ロッド(102)に回転可能に設けられて回転軸心(X)と平行な軸心(Y)に沿って延びている回転ピン(171)に固定連結しており、
前記トーションスプリングが、前記回転ピン(171)と同軸に配置された中央部(182)、前記第1の部材(160)に接触した第1の端部(184)、および前記第2の部材(170)に接触した第2の端部(186)を有する、アクチュエータ装置(100)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第1の部材(160)及び第2の部材(170)のうちの一方(170)は、トルク伝達エレメント(172)を有し、前記第1の部材(160)及び第2の部材(170)のうちの他方(160)は、前記留め/切離し機構(150)が前記留め動作状態にあるときに前記トルク伝達エレメント(172)を収容するように構成された収容座部(162)を有する、アクチュエータ装置(100)。
【請求項9】
請求項8に記載のアクチュエータ装置(100)において、
前記第2のメンバー(170)は2つのアーム(173、174)を有し、前記回転ピン(171)が前記2つのアーム(173,174)の間に配置されており、
前記トルク伝達エレメント(172)が、前記2つのアーム(173,174)のうちの一方(173)に設けられている、アクチュエータ装置(100)。
【請求項10】
請求項9に記載のアクチュエータ装置(100)において、
前記トーションスプリングが、前記回転ピン(171)と同軸に配置された中央部(182)、前記第1の部材(160)に接触した第1の端部(184)および前記第2の部材(186)に接触した第2の端部(186)を備えており、
前記2つのアーム(173,174)のうちの他方(174)が、前記トーションスプリングの前記第2の端部(186)に接触したピン(175)を有する、アクチュエータ装置(100)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第1の部材(160)が、前記回転軸心(X)と同軸である、アクチュエータ装置(100)。
【請求項12】
請求項11に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記トーションスプリングが、前記回転ピン(171)と同軸に配置された中央部(182)、前記第1の部材(160)に接触した第1の端部(184)、および前記第2の部材(170)に接触した第2の端部(186)を有し、前記第1の部材(160)が、前記トーションスプリングの前記第1の端部(184)に接触した略円筒状の環状体(164)、および前記略円筒状の環状体(164)に軸方向に隣接する形状加工された環状体(163)を含む、アクチュエータ装置(100)。
【請求項13】
請求項12に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記第1の部材(160)及び前記第2の部材(170)のうちの一方(170)は、トルク伝達エレメント(172)を有し、前記第1の部材(160)及び前記第2の部材(170)のうちの他方(160)は、前記留め/切離し機構(150)が前記留め動作状態にあるときに前記トルク伝達エレメント(172)を収容するように構成された収容座部(162)を有し、前記収容座部(162)が、前記形状加工された環状体(163)に形成されている、アクチュエータ装置(100)。
【請求項14】
請求項13に記載のアクチュエータ装置(100)において、前記収容座部(162)は、同じ直径である2つの略円筒状表面部(162b,162c)間に凹状表面部(162a)を形成したものである、アクチュエータ装置(100)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のアクチュエータ装置(100)を備える、自転車ギアシフト装置(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置、およびこのようなアクチュエータ装置を備える自転車ギアシフト装置に関する。
好ましくは、前記自転車は、競走用自転車である。
【0002】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、ギアシフト装置とは、自転車の後輪に設けられたスプロケットアセンブリにおける種々のスプロケット間でチェーンを動かす後輪用ギアシフト装置(添付の図面に本発明を限定しない例として図示したギアシフト装置)と、クランクアームに設けられたクランクセットにおける種々のクラウン間でチェーンを動かす前輪用ギアシフト装置とを区別することなく指しているものとする。典型的に、上記チェーンは、作動リンク機構と繋がったディレイラが動くことによって移動させられる。上記作動リンク機構は、自転車のフレームに設けられる第1の本体部、ディレイラに設けられる第2の本体部、およびこれら第1の本体部と第2の本体部とを接続する一対の関節駆動型の接続ロッドを含む。
【背景技術】
【0003】
モータ駆動の自転車ギアシフト装置が商品化されて暫くが経つ。適切な制御を受ける(典型的には、電気制御された)駆動部材により、ディレイラが動かされる。
ギアシフト装置の開発では、機器作動の品質、すなわち、ギアシフト動作を高速かつ正確に行うというギアシフト装置の能力に大きな配慮が向けられてきた。
【0004】
しかし、通常使用時に、例えば自転車の落下等や、あるいは、車への積み込み作業や積み下ろし作業や輸送作業程度だけでも、ギアシフト装置に衝撃が加わってギアシフト装置の性能が低下するという可能性がある。最悪の場合、衝撃があまりにも強過ぎて、ギアシフト装置における一部の部材が破損することもある。一方、衝撃がそこまで強くない場合であっても、ギアシフト装置において部材の小さな変形や部材同士のごく僅かな相対変位が生じ、しばしば一見直ぐには分からないような程度のものであったとしても、ギアシフト装置の精度、つまり、ギアシフト装置の適切な動作を損なわせる可能性がある。変形や相対変位は、上記駆動部材に対してリンク機構が一時的にブロックする(しばしば、チェーンとスプロケットとの機械的なインターフェアレンスの結果として起こり、特に、あるスプロケットから大径側の別のスプロケットへと移行する際に起こる)というかたちでギアシフト動作中に明らかになることもある。
【0005】
そのため、ギアシフト装置を望ましくない一時的変形/変位や衝撃から保護するように構成された保護システム付きのアクチュエータ装置が開発されてきた。以降、簡略化のために、そのような望ましくない一時的変形/変位や衝撃のことを「過剰な応力」(excess stresses)という表現で表す。
【0006】
US 8,066,597(特許文献1)には、モータ駆動のギアシフト装置のアクチュエータ装置であって、過剰な応力に対する保護を行うために、作動リンク機構の関節駆動型の内側の接続ロッドと上記モータのうちの上記リンク機構の第1の本体部に固定連結された伝動軸との間に、留め/切離し機構(fastening/release mechanism)が設けられた、アクチュエータ装置が記載されている。このような留め/切離し機構は、駆動部材、被駆動部材、および被駆動部材を駆動部材に押し付けるトーションスプリングからなる。駆動部材は、上記モータの上記軸に固定連結されているのに対し、被駆動部材は、上記作動リンク機構の上記関節駆動型の内側の接続ロッドと繋がっていると共に、上記関節駆動型の内側の接続ロッドに固定連結されて上記モータの回転軸心と平行に配置された支点ピンを中心として回動する第1のてこによるレバーで実質的に形成されている。上記トーションスプリングが、上記レバーの一方の端部にて動作しているのに対し、上記レバーの他方の端部は、通常動作状態下で上記駆動部材に形成された座部に収容される歯部を有している。上記トーションスプリングは、上記関節駆動型の内側の接続ロッドと第2の本体部との間の回転ピンと同軸に配置された中央部、上記レバーの上記端部に接触した第1の端部、および上記関節駆動型の内側の接続ロッドに設けられた適切なさらなる構成要素に収容されている予圧調節ねじに接触した第2の端部からなる。過剰な応力が働くと、すなわち、上記トーションスプリングの予圧で決まる所定の閾値を超えると、被駆動部材と駆動部材との間に相対回転が生じ、結果として上記レバーの上記歯部が上記座部から抜け出す。つまり、上記作動リンク機構と上記伝動軸との切離しを可能にする留め/切離し機構によって、過剰な応力が吸収される。これにより、過剰な応力が上記モータの上記伝動軸に伝達されることがなくなる。
【0007】
US 8,974,331(特許文献2)には、モータ駆動のギアシフト装置のアクチュエータ装置であって、上記モータの伝動軸と作動リンク機構における関節駆動型の一方の接続ロッドとの間に留め/切離し機構が動作可能に配置された、アクチュエータ装置が記載されている。このような留め/切離し機構は、強固に連結された2つの部位に分割されている関節駆動型の外側の接続ロッドに配置されている。この場合の留め/切離し機構も、駆動部材、被駆動部材、および被駆動部材を駆動部材に押し付けるトーションスプリングからなる。駆動部材は、上記モータの上記軸に固定連結されているのに対し、被駆動部材は、上記作動リンク機構の上記関節駆動型の外側の接続ロッドと繋がっていると共に、上記関節駆動型の外側の接続ロッドに固定連結されて上記モータの回転軸心と平行に配置された支点ピンを中心として回動する第2のてこによるレバーで実質的に形成されている。上記トーションスプリングが、上記レバーの一方の端部にて動作しているのに対し、上記レバーの中間部は、通常動作状態下で上記駆動部材に形成された座部に収容される歯部を有している。上記トーションスプリングは、上記関節駆動型の外側の接続ロッドにおける2つの部位同士を連結する取付エレメントと同軸に配置された中央部、上記レバーの上記端部に接触した第1の端部、および上記関節駆動型の外側の接続ロッドに形成された適切な座部に接触している第2の端部からなる。特許文献1の留め/切離し機構と全く同じように、過剰な応力が働くと、すなわち、上記トーションスプリングの予圧で決まる所定の閾値を超えると、被駆動部材と駆動部材との間に相対回転が生じ、結果として上記レバーの上記歯部が上記座部から抜け出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8066597号明細書
【特許文献2】米国特許第8974331号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願の出願人は、先述の先行技術文献に記載されたアクチュエータ装置の留め/切離し機構に、多数の部品が必要になることや、各々の被駆動部材を形成する各レバーの形状・配置構成や各々のトーションスプリングの配置構成が主に原因となって占有スペースが大幅なものになることを含め、様々な短所があることに気付いた。
【0010】
本発明の根底にある課題は、先行技術を参照しながら上述したものよりも小型かつ部品総数の観点からみてシンプルな、自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
よって、本発明は、第1の態様において、自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置であって、
-自転車のフレームに設けられるように構成された第1の本体部、前記自転車ギアシフト装置のディレイラに設けられるように構成された第2の本体部、および前記第1の本体部と前記第2の本体部とを接続する一対の関節駆動型の接続ロッドを含む作動リンク機構と、
-前記作動リンク機構の変形を制御するように構成されており、前記第1の本体部及び第2の本体部のうちの一方に固定連結したモータ、ならびに前記モータによって回転軸心回りに回転させられるように構成された伝動エレメントを含む駆動部材と、
-前記伝動エレメントと前記一対の接続ロッドのうちの一方の接続ロッドとの間に動作可能に配置されており、
-前記伝動エレメントと前記回転軸心回りに一体回転可能な第1の部材、
-前記接続ロッドと一緒に前記回転軸心を中心として回転可能な第2の部材、ならびに
-前記第1の部材と前記第2の部材との間に動作可能に配置されており、前記第1の部材及び前記第2の部材に所定の予圧応力を加える弾性エレメント、
を含む、留め/切離し機構と、
を備え、前記留め/切離し機構は、前記第1の部材が前記第2の部材と前記回転軸心を中心として一体回転可能な留め動作状態と、前記第1の部材と前記第2の部材とが前記回転軸心回りに/を中心として互いに対して回転可能な切離し動作状態とに選択的に設定可能であり、前記留め/切離し機構が前記所定の予圧応力を下回る応力に曝されていると前記留め動作状態に設定され、前記留め/切離し機構が前記所定の予圧応力を上回る応力に曝されていると前記切離し動作状態に設定される、アクチュエータ装置に関する。
【0012】
「弾性エレメント」(elastic element)という用語は、ねじり、引張、圧縮、曲げといったあらゆる種類の弾性反応を奏することが可能なエレメントのことを包括的に指すのに用いる。前記弾性エレメントは、例えばトーションスプリング等であり得る。
【0013】
「予圧応力」(pre-load stress)という表現は、取付形態(具体的には、前記留め動作状態)のときの前記弾性エレメントが休止形態(取り外された弾性エレメント)とは別の形状になっていることで当該弾性エレメントから前記第1の部材および前記第2の部材に加わる応力のことを指すのに用いる。そのような別の形状は、前記留め動作状態にあるときの前記弾性エレメントの状態が予め応力のかかった状態となることで、前記第1および第2の部材にゼロではない弾性応力が加わることを示唆し、これは「所定の応力閾値」[以降、「切離しトルク」(release torque)と称することもある]に直接的に影響する。よって、前記弾性エレメントは、衝撃時のように、所定の応力閾値の値を超える応力が当該弾性エレメントに送り込まれた場合にのみ弾性変形を生じる状態となる。反対に、前記ギアシフト装置の通常使用時のように、所定の応力閾値の値よりも低い応力が前記弾性エレメントに送り込まれる場合であれば、当該弾性エレメントが変形することは全くない。つまり、この後者の状態では、前記弾性エレメントが実質的に剛体のように振る舞い、当該弾性エレメントの変形で前記ギアシフト装置の通常動作が妨げられることはない。
【0014】
前記アクチュエータ装置が敏速に応答する動作範囲を広く取りたいのであれば、閾値の応力を高めに選択するのが有利である。一方で、前記アクチュエータ装置を小さな衝撃も吸収できるようにしたいのであれば、閾値の応力を低めの値に選択する。閾値の応力の値は、前記弾性エレメントおよび/または前記第1の部材および/または前記第2の部材を適宜寸法決めすることで簡単に定めることが可能である。
【0015】
前述した留め/切離し機構により、前記接続ロッドが前記伝動エレメントと一体回転してその動きが前記ギアシフト装置の前記ディレイラへと伝わる留め動作状態から、前記接続ロッドが前記伝動エレメントと一体回転せず当該接続ロッド及び前記ギアシフト装置の前記ディレイラが前記作動リンク機構の残りの部品に対して自由運動可能となる切離し動作状態への移行が可能になる。
【0016】
前記切離し動作状態は、望ましくない衝撃や変位/変形によって自動的に有効化させることができ、かつ、前記留め動作状態を復元したいと考えるときまで有効のまま維持することが可能である。これにより、ある程度の望ましくない一時的変形/変位や衝撃が前記留め/切離し機構によって完全に吸収されるため、これらが伝動軸(結果として、前記駆動部材)に伝達されるようなことがなくなる。
【0017】
前記切離し動作状態は、車への前記自転車の積み込み作業や積み下ろし作業や輸送作業の実行前や前記自転車の利用前後において、手動で有効にすることも可能である。前記作動リンク機構を手動で動かすことができるので、前記ギアシフト装置の動作不良やブロッキング時であっても、所望の変速比に設定することが可能となる。さらに、後輪用ギアシフト装置の場合には、車輪の取付作業や取外し作業を簡単に行うことも可能になる。実際、作業者は、前記切離しを利用することでスプロケットへのチェーンの係合やスプロケットからのチェーンの脱係合を簡単に行うことができるようになる。
【0018】
つまり、上述の留め/切離し機構は、可逆的なタイプのものである。すなわち、前記留め/切離し機構は、前記ギアシフト装置の動作を簡単に妨げてしまい得るような変形が残存したり部品の交換が必要となったりすることなく、その前の動作形態(すなわち、切離し前の状態の回復)に復元させることができる。実際、機械部品が変形したり破損したりすることがないほか、(破損したり定位置に維持されなくなったりしたことで)拘束を解かれて自由に動くようになって前記ギアシフト装置及び/又は前記自転車の部材に不意に衝突し損傷を与え得るような機械部品を使用せずに済むようになる。
【0019】
前記切離し動作状態でも前記アクチュエータ装置の構造統合性が保たれるので、部品の交換を必要とせずに前記留め動作状態へと復元させることができる。
前記弾性エレメントが前記第1の部材と前記第2の部材との間に配置されているので、トーションスプリングを第2の部材と関節駆動型の(内側又は外側の)接続ロッドとの間に配置する前述の先行技術文献に記載されたアクチュエータ装置に対し、アクチュエータ装置の占有スペースを削減することができる。
【0020】
さらに、本発明にかかるアクチュエータ装置は、前述の先行技術文献に記載されたアクチュエータ装置よりも部品総数が少なくなる。具体的に述べると、例えば特許文献1に記載されたもの等のように、予圧調節ねじが収容された構成要素を関節駆動型の内側の接続ロッドに設けたり、例えば特許文献2に記載されたもの等のように、関節駆動型の外側の接続ロッドにおける2つの部位を連結するエレメントにトーションスプリングを配置したりする必要がなくなる。
【0021】
以下では、本発明にかかる自転車ギアシフト装置のアクチュエータ装置の好ましい構成および/または任意の構成について説明する。特に別記しない限り、これらの構成は、それ単独でも複数の組合せとしても設けられることが可能であるとする。
【0022】
好ましくは、前記第2の部材は、前記接続ロッドに回転可能に設けられた回転ピンに固定連結している。より好ましくは、このような回転ピンは、前記回転軸心と平行な軸心に沿って延びている。
【0023】
前記切離し動作状態では、前記第2の部材が、前記接続ロッドに対して前記回転ピンを中心として回転することが可能である一方で、前記留め動作状態では、前記第2の部材が、前記接続ロッドと前記回転軸心を中心として一体運動する。
【0024】
好ましくは、前記接続ロッドは、
-前記伝動エレメントの第1の端部を収容するように構成された第1の孔、および前記回転ピンの端部を収容するように構成された第2の孔を有する第1のフレーム、ならびに
-前記第1のフレームに固定して設けられた第2のフレーム、
を有し、前記留め/切離し機構が、前記第1のフレームと前記第2のフレームとの間に動作可能に配置されている。
【0025】
前記留め/切離し機構は、前記第1および第2のフレームによって保護されている。前記留め/切離し機構の装着は簡単であり、有利なことに、まず前記伝動エレメントの前記第1の端部と前記回転ピンの前記端部を前記第1のフレームの前記第1および第2の孔に配置することで実行可能である。
【0026】
好ましくは、前記第2の部材が2つのアームを有する。より好ましくは、前記回転ピンが前記2つのアーム間に配置されている。
よって、前記第2の部材は、第1次レバー(first order lever)のように振る舞う。
【0027】
好ましくは、前記第2の部材が略L字状であり、当該L字の(前記第2の部材の前記2つのアームに相当する)2つのアームの長さは同一であっても相異なるものであってもよい。
好ましくは、前記2つのアームが90°以下の角度で角度方向に互いに離間しており、これにより、前記第2の部材の占有スペースが削減される。
【0028】
好ましくは、前記弾性エレメントがトーションスプリングである。
好ましくは、前記トーションスプリングは、前記回転ピンと同軸に配置された中央部、前記第1の部材に接触した第1の端部、および前記第2の部材に接触した第2の端部を有する。
前記トーションスプリングの前記第1および第2の端部によって前記所定の予圧応力(切離しトルクと同義)が加わり、これが前記第1の部材と前記第2の部材との間に作用する。
【0029】
本願の出願人は、前記トーションスプリングを前記回転ピンと同軸に配置して前記第1の部材と前記第2の部材とに働きかけさせることにより、切離しトルクが前記回転ピンの軸心から前記第2の部材との接触点までの距離に実質依存しなくなることを見出した。したがって、特殊な構成にしない限り、切離しトルクが、前記トーションスプリングの弾性定数と当該トーションスプリングのプレロードのみからなる関数となる。
【0030】
好ましくは、前記第1の部材及び第2の部材のうちの一方は、トルク伝達エレメントを有し、前記第1の部材及び第2の部材のうちの他方は、前記留め/切離し機構が前記留め動作状態にあるときに前記トルク伝達エレメントを収容するように構成された収容座部を有する。
好ましくは、前記トルク伝達エレメントは、前記第1の部材または前記第2の部材との一体品として形成されており、かつ、歯状プロファイル、好ましくは、先端が丸みを帯びた歯状プロファイルを有している。
【0031】
変形例として、前記トルク伝達エレメントは、前記第1の部材または第2の部材に対してピボットされた円筒ローラまたはボールであってもよい。当該円筒ローラの半径および長さ、ならびに当該ボールの半径を適宜設定することで、前記留め動作状態から前記切離し動作状態への移行が起きる閾値の応力の値を決めることが可能である。閾値の応力を高くする場合には、ボールよりも円筒ローラを使用したほうが有利であり得る。というのも、円筒ローラの長さに沿ってそのような応力が分散させられ、荷重の強い集中による前記収容座部の変形リスクが抑えられるからである。
【0032】
好ましい第1の実施形態では、前記トルク伝達エレメントが前記2つのアームのうちの一方に設けられており、前記収容座部が前記第1の部材に配置されている。変形例では、前記収容座部が前記2つのアームのうちの一方に配置されて、前記トルク伝達エレメントが前記第1の部材に配置される。
【0033】
前記トーションスプリングの弾性定数を変えずとも、切離しトルク(すなわち、前記所定の予圧応力)をその他の要因で左右させることも可能である。これらの要因は、設計段階や設計完了後に勘案することが可能である。
例えば、設計段階では、前記回転ピンの軸心から前記トルク伝達エレメントと前記収容座部との接触点までの距離を変えることによって切離しトルクを調節することが可能である。また、設計段階では、前記トルク伝達エレメント及び/又は前記収容座部の形状形態を変えたり、前記トルク伝達エレメント及び/又は前記収容座部の表面粗さを変えたりすることにより、切離しトルクを調節することも可能である。
設計完了時では、前記ばねの前記第1の端部と前記第1の部材との間に何らかの厚みやスペーサを配置することによって切離しトルクを調節することが可能である。
【0034】
好ましくは、前記2つのアームのうちの他方は、前記トーションスプリングの前記第2の端部に接触したピンを有する。つまり、このようなピンに、トーションスプリングと第2の部材との接触点が位置することになる。前述したように、切離しトルクは前記回転ピンの軸心からトーションスプリングと第2の部材との接触点までの距離に依存しないので、上記ピンを前記回転ピンの近傍に位置させることができ、結果的に、前記アームのうちの上記ピンが位置する箇所までの長さを縮めることができるため、前記第2の部材の占有スペース、結果的に、前記アクチュエータ装置の占有スペースが削減される。
【0035】
好ましくは、前記第1の部材は、前記回転軸心と同軸である。このような構成により、前記第1の部材の占有スペース、結果的に、前記アクチュエータ装置の占有スペースを削減することができる。
本発明のアクチュエータ装置の好ましい第1の実施形態では、前記伝動エレメントが、前記モータの伝動軸によって形成される。この場合、好ましくは、前記第1の部材が、前記伝動軸の一部に同軸固定される。好ましくは、そのような一部は、前記第1の部材が前記伝動軸に対して実用的に且つ高い信頼度で確実に固定されるように溝加工されている。
【0036】
好ましくは、前記第1の部材が、前記トーションスプリングの前記第1の端部に接触した略円筒状の環状体、および前記略円筒状の環状体に軸方向に隣接する成形された環状体を含む。
【0037】
好ましい第1の実施形態において、前記収容座部は、前記形状加工された環状体に形成されている。変形例では、前記トルク伝達エレメントが、前記形状加工された環状体に形成されている。
【0038】
有利なことに、設計段階において、前記トーションスプリングに接触する前記略円筒状の環状体の直径を適宜選択することにより、前記予圧応力(およびこれと同義の切離しトルク)を調節することが可能である。例えば、前記略円筒状の環状体は、校正済みの直径を有するワッシャで形成したものとされてもよい。
【0039】
前記略円筒状の環状体と前記形状加工された環状体は、一体品として形成されてもよいし、2つの別々の部品として形成されてもよい。この後者の場合には、前記略円筒状の環状体が、前記形状加工された環状体と一体回転しないようにすることも可能になる。
【0040】
好ましくは、前記収容座部は、同じ直径である2つの略円筒状表面部間に凹状表面部を形成したものである。
これにより、前記切離し動作状態への移行時に、前記トルク伝達エレメントが前記2つの略円筒状表面部のうちのいずれかを自由に摺動することが可能となる。
【0041】
前記トルク伝達エレメントが円筒ローラ又はボールである場合には、前記切離し動作状態への移行時に、当該ローラ又はボールが前述した略円筒状表面部上を自由に回転することが可能となる。
【0042】
本発明は、第2の態様において、本発明の第1の態様の前述したアクチュエータ装置を備える、自転車ギアシフト装置に関する。
好ましくは、上述の自転車ギアシフト装置は、本発明のアクチュエータ装置を参照しながら既述した各々の構造的構成や機能的構成をそれ単独で又は複数の組合せとして備えており、それにより、既述した全ての利点や技術的効果を達成することが可能である。
【0043】
本発明のさらなる構成および利点は、あくまでも例示であって本発明を限定するものではない好適な実施形態についての、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明のアクチュエータ装置を備える、本発明にかかる自転車ギアシフト装置の斜視図である。
図2図1のアクチュエータ装置の一部の分解斜視図である。
図3図2のアクチュエータ装置の細部の拡大斜視図である。
図4図3の細部の、別の視点からみた斜視図である。
図5図3の細部の分解斜視図である。
図6図3の細部の、上からみた平面図である。
図7図3の細部の、ある動作形態のときの平面図である。
図8図3の細部の、他の動作形態のときの平面図である。
図9図3の細部の、さらなる他の動作形態のときの平面図である。
図10図3の細部の、さらなる他の動作形態のときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1において、参照符号200は、本発明にかかる自転車ギアシフト装置を指す。具体的に述べると、この自転車ギアシフト装置は、後輪用ギアシフト装置である。
ギアシフト装置200は、図2図10に詳細に示すアクチュエータ装置100を備える。
【0046】
アクチュエータ装置100は、ディレイラ130(本発明を限定しない後輪用ギアシフト装置の例で言い換えると、ロッカーアーム)を移動させるよう駆動部材120によって動かされるように構成された、関節駆動型の四辺形機構、好ましくは関節駆動型の平行四辺形機構として形成されている作動リンク機構101を備える。
【0047】
作動リンク機構101は、駆動部材120を収容し自転車のフレーム(図示せず)に固定されるように構成された第1の本体部112(上側の本体部とも称する)、ディレイラ130を支持する第2の本体部113(下側の本体部とも称する)、および第1の本体部112と第2の本体部113とを接続する一対の関節駆動型の接続ロッド102,104を含む。接続ロッド102および接続ロッド104は、前記自転車の中央平面に対するそれらの相対位置を基準にして、それぞれ「内側の接続ロッド」、「外側の接続ロッド」とも称される。
【0048】
駆動部材120は、作動リンク機構101の変形を制御して前記関節駆動型の四辺形機構の軸心のうちの一つ(本例では、上側の本体部112と内側の接続ロッド102との間の軸心X)に回転を生じさせる。具体的に述べると、アクチュエータ装置100が自転車の後輪用ギアシフト装置に使用されることを踏まえて、内側の接続ロッド102を、軸心Xを基準として(図1の視点で)反時計回りに回転させるとアップシフト、すなわち、スプロケットアセンブリにおける内側の歯車、すなわち、大径側の歯車へのギアシフトを実行することができる。逆に、内側の接続ロッド102を、軸心Xを基準として(図1の視点で)時計回りに回転させると、ダウンシフト、すなわち、スプロケットアセンブリにおける外側の歯車、すなわち、小径側の歯車へのギアシフトを行うことができる。
【0049】
図1を参照すると、駆動部材120は、第1の本体部112に固定連結し、図示しないケーブルや制御部材によって典型的に給電や制御を受ける電気モータ121を含む。
駆動部材120は、さらに、所定の回転軸心Xを有し電気モータ121によって回転させられる伝動エレメント122を含む。
駆動部材120は、全体としてギアモータである。
電気モータ121は、本発明を限定しない図1の例では内側の接続ロッド102に形成された適切な座部に設置されている、着脱可能なバッテリ121aによって給電される。
【0050】
伝動エレメント122は、電気モータ121の伝動軸123を形成している(図2)。
伝動エレメント122と内側の接続ロッド102との間には、留め/切離し機構150
が動作可能に配置されている。
留め/切離し機構150は、留め動作状態と切離し動作状態とに選択的に設定可能である。
前記留め動作状態では、接続ロッド102が伝動エレメント122と一体回転する一方で、前記切離し動作状態では、接続ロッド102が伝動エレメント122と一体回転しない。
【0051】
アクチュエータ装置100が所定の応力閾値を下回る応力に曝されていると前記留め動作状態に設定される一方で、アクチュエータ装置100が前記所定の応力閾値を上回る応力に曝されていると前記切離し動作状態に設定される。
本明細書で説明する具体例において、前記所定の応力閾値とは、閾値を超える値のトルクのことである。本明細書では、このようなトルクを、切離しトルクと称する。
【0052】
図2に示すように、留め/切離し機構150は、伝動エレメント122と一体回転する第1の部材160、および接続ロッド102に設けられた第2の部材170を含む。
第1の部材160は、回転軸心Xと同軸であり、回転軸心X回りに回転可能である。
第2の部材170は、後述するように、接続ロッド102と一緒に回転軸心Xを中心として回転可能である。
【0053】
第1の部材160は、伝動軸123の溝加工部分123aに固定されている(図5)。前記第1の部材は、機械的な干渉によって伝動軸123の同部分と連結するように構成された円筒状の内表面を有している。
第2の部材170は、接続ロッド102に回転可能に設けられて回転軸心Xと略平行な軸心Yに沿って延びている回転ピン171に固定連結している。
【0054】
本発明を限定しない図2の例に示すように、接続ロッド102は、互いに固定して設けられた第1のフレーム102aおよび第2のフレーム102bからなる。
具体的に述べると、第1のフレーム102aと第2のフレーム102bとは、両側にある固定ねじ102cによって繋げられている。
【0055】
第1のフレーム102aと第2のフレーム102bとの間には、スペーサエレメント102dが配置されている。
スペーサエレメント102dは、略円筒状であり、前述の固定ねじ102cによって第1のフレーム102aと第2のフレーム102bに両側の端部102eで固定されている。
スペーサエレメント102dは、2つのフレーム102a,102b間に留め/切離し機構150の内部収容空間を画成している。
【0056】
第1のフレーム102aは、伝動軸123の第1の端部123bを収容するように構成された第1の孔102f、および回転ピン171の端部171aを収容するように構成された第2の孔102gを有する。
第1の孔102f内において伝動軸123は自由に回転し、第2の孔102g内において回転ピン171は自由に回転する。
本明細書に添付した図面の、本発明を限定しない例に示す第1の孔102fは貫通孔であるが、有底孔とされてもよい。
第2の孔102gは貫通孔である。
【0057】
回転ピン171の第1の端部171aのうちの、第1のフレーム102aに通された後は第2のフレーム102bとは反対側に位置することになる部分は、周方向座部171cを有しており、ここに弾性リング171bが収容されることにより、回転ピン171が第1のフレーム102aに対して軸方向に係止される。
【0058】
第2のフレーム102bは、伝動軸123の第2の端部123cまたは伝動軸123とは別体であるが回転軸心Xと同軸で且つ伝動軸123と一体回転するピン(図示せず)の端部を収容するように構成された第3の孔102hを有する。本明細書に添付した図面の、本発明を限定しない例に示す第3の孔102hは貫通孔であるが、有底孔とされてもよい。第3の孔102h内において伝動軸123または上記ピンは自由に回転する。
【0059】
本発明を限定しない図5の例に示すように、伝動軸123の溝加工部分123aは、伝動軸123の第2の端部123cよりも第1の端部123b側にある。
伝動軸123は、溝加工部分123aと第2の端部123cとの間に、駆動部材120からの回転運動を受けて伝動軸123にこれを与えるように構成された歯車123dを具備している。
【0060】
第1の部材160と第2の部材170との間には、弾性エレメント180が動作可能に配置されている。弾性エレメント180は、第1の部材160及び第2の部材170に所定の予圧応力を加える。これは、切離しトルクに直接的に影響する。
図面に示す本発明を限定しない例において、弾性エレメント180はトーションスプリングである。
【0061】
前記トーションスプリングは、回転ピン171と同軸に配置された中央部182、第1の部材160に接触した第1の端部184、および第2の部材170に接触した第2の端部186を有する。
前記トーションスプリングの2つの端部184,186は、それぞれ直線状の部分を有する。本明細書で説明する特定の実施形態では、端部186が、曲線状の端部部位186aを有している。
【0062】
前記留め動作状態(fastening operating condition)、すなわち、留め/切離し機構150が前記所定の予圧応力を下回る応力に曝されている場合には、第1の部材160が、第2の部材170と回転軸心Xを中心として一体回転可能となる。第2の部材170が、回転ピン171、したがって、接続ロッド102の、回転軸心Xを中心とした回転を生じさせる。
前記切離し動作状態(release operating condition)、すなわち、留め/切離し機構150が前記所定の予圧応力を上回る応力に曝されている場合には、第1の部材160と第2の部材170とが回転軸心X回りに/を中心として、互いに対して回転可能となる。
【0063】
第2の部材170は、2つのアーム173,174、および2つのアーム173,174間に位置した孔170aを有している(図5)。
添付の図面に示す孔170aは貫通孔であるが、有底孔とされてもよい。
回転ピン171は、孔170aに通される。回転ピン171は、例えば締まり嵌め、接着剤等によって(through a coupling with interference or gluing)、孔170aに固定して設けられる。
したがって、第2の部材170は、回転ピン171の軸心Yを支点に、2つのアーム173,174を具備した、第1次レバー(first-order lever)のように振る舞う。
【0064】
具体的に述べると、第2の部材170は略L字状であり、当該L字の2つの辺が2つのアーム173,174で形成されている。これらのアームは、長さが同一であっても相異なるものであってもよく、90°以下の角度で角度方向に互いに離間している。
アーム174の端部174aには、前記トーションスプリングの第2の端部186が接触すると共に当該第2の端部186のうちの曲線状の部位186aが部分的に巻き付けられるピン175が形成されている。
【0065】
アーム173の端部173aには、トルク伝達エレメント172が形成されている。トルク伝達エレメント172は、前記留め動作状態において第2の部材170を第1の部材160と一体回転させるように、かつ、前記切離し動作状態において第2の部材170を第1の部材160と共に回転しないよう切り離すように構成されている。
トルク伝達エレメント172は、第2の部材170との一体品として形成されている。本発明を限定しない図4の例に示すように、トルク伝達エレメント172は、先端が丸みを帯びた歯状プロファイルを有している。
【0066】
第1の部材160には、トルク伝達エレメント172と協働するように構成された収容座部162が形成されている。
収容座部162は、留め/切離し機構150が前記留め動作状態にあるときにはトルク伝達エレメント172を収容する一方で、留め/切離し機構150が前記切離し動作状態にあるときにはトルク伝達エレメント172を収容しない。
【0067】
本発明を限定しない図5の例では、第1の部材160が、形状加工された環状体(shaped annular body)163を含む。環状体163は、形状加工された環状部163a、および当該形状加工された環状部163aに軸方向に隣接する略円筒状の環状部163bを有する。
収容座部162は、形状加工された環状部163aに形成されている。
【0068】
第1の部材160は、さらに、形状加工された環状体163に軸方向に隣接して前記トーションスプリングの第1の端部184と接触する略円筒状の環状体164を含む。
図5の例において、略円筒状の環状体164は、校正済みの直径を有するワッシャで形成したものである。設計段階では、このようなワッシャの外径を適宜選択することによって前記予圧応力を調節することが可能である。
【0069】
また、図5の例において、略円筒状の環状体164は、形状加工された環状体163のうちの略円筒状の環状部163bの自由端部163cとカップリングしている。
具体的に述べると、略円筒状の環状体164は、自由端部163cに載置されている。
変形例として、略円筒状の環状体164は、形状加工された環状体163のうちの略円筒状の環状部163bの径方向外方位置に配置されて当該略円筒状の環状部163bに嵌合するものとされてもよい。
さらなる変形例では、略円筒状の環状体164が省略されてもよい。この場合、前記トーションスプリングの第1の端部184は、形状加工された環状体163のうちの略円筒状の環状部163bに直接接触することになる。
【0070】
図5の例では、略円筒状の環状体164と形状加工された環状体163が2つの別々の部品として形成されているが、一体品として形成されてもよい。形状加工された環状体163は、常に伝動軸123の溝加工部分123aに固定されるものである一方で、略円筒状の環状体164は、同様に溝加工部分123aに固定されるものとされてもよいし、あるいは、伝動軸123に固定しないことで形状加工された環状体163と回転軸心X回りに一体回転しないものとされてもよい。
【0071】
本発明を限定しない図6の例に示すように、収容座部162は、略同じ直径である2つの略円筒状表面部162b,162c間に凹状表面部162aを形成したものである。
これにより、前記切離し動作状態への移行時に、トルク伝達エレメント172が2つの略円筒状表面部のうちのいずれか162b,162cを自由に摺動することが可能となる。
【0072】
好ましくは、凹状表面部162aと2つの略円筒状表面部162b,162cのそれぞれとの間に、斜面状の繋ぎ面(bevelled joining surface)が設けられている。これにより、前記留め動作状態から前記切離し動作状態への移行が、つっかえを生じることなく(without jamming)簡単に行われる。望ましくない変位/変形や衝撃に対する反応は、トルク伝達エレメント172の形状(本明細書で説明する例では、前記歯状プロファイルの寸法や半径)、収容座部162の形状(本明細書で説明する例では、凹状表面部162aの開口角度や深さ)、および弾性エレメント180の予圧に影響される。
【0073】
アクチュエータ装置100が例えば図6に示す前記留め動作状態にあるとき、トルク伝達エレメント172が収容座部162に少なくとも部分的に収容されて、第1の部材160から第2の部材170への回転の伝達が可能となる。一方で、アクチュエータ装置100が例えば図7図10に示す前記切離し動作状態にあるときには、トルク伝達エレメント172が収容座部162に収容されておらず、第1の部材160と第2の部材170との相対回転が可能となる。弾性エレメント180からの押圧作用が加わるため、アクチュエータ装置100が前記留め動作状態にあるときのトルク伝達エレメント172は、収容座部162に押し込まれることになる。
【0074】
走行時のアクチュエータ装置100は、通常、前記留め動作状態にある。このような動作状態では、接続ロッド102が伝動エレメント122と一体回転し、その運動が前記ギアシフト装置のディレイラ130へと伝達される。図6に示すように、トルク伝達エレメント172は、収容座部162に収容されている。
【0075】
各種ギアシフト動作時には、駆動部材120を収容した本体部112と第1の部材160との相対位置(したがって、ディレイラ130と前記自転車のフレームとの相対位置)が変化するものの、第1の部材160と第2の部材170との相対位置は変化しない。実際、前記所定の応力閾値の値を上回る応力の値に達していないため、トルク伝達エレメント172は常に収容座部162に収容されたままである。
【0076】
前記所定の応力閾値の値を上回る応力を前記ギアシフト装置に生じさせるような手動による前記ギアシフト装置の作動動作や前記ギアシフト装置のつっかえ(jamming)や衝撃時には、(図7図10に示すように)トルク伝達エレメント172が収容座部162から抜け出して第1の部材160が第2の部材170に対して回転できるようになる。この場合のアクチュエータ装置100は、前記切離し動作状態になる。
【0077】
具体的に述べると、図7及び図8に、伝動エレメント122が(したがって、第1の部材160も)反時計回り方向(図7)や時計回り方向(図8)に回転する最中に作動リンク機構101がつっかえた場合の、アクチュエータ装置100の前記切離し動作状態を示す。このような動作状態では、トルク伝達エレメント172が2つの略円筒状表面部のうちのいずれか162b,162cを自由に摺動する。
【0078】
図9及び図10に、伝動エレメント122が静止している際に前記所定の応力閾値の値を上回る応力を生じさせるような衝撃が作動リンク機構101に加わった場合の、アクチュエータ装置100の前記切離し動作状態を示す。作動リンク機構101に対する衝撃の方向に応じて、第2の部材170は反時計回り方向(図9)にも時計回り方向(図10)にも回転することができ、トルク伝達エレメント172が2つの略円筒状表面部のうちのいずれか162c,162dを自由に摺動する。
【0079】
アクチュエータ装置100は回転型であり、留め/切離し機構150は回転・対称型である。すなわち、スプロケットアセンブリにおける大径側のスプロケットへの切替え時にも小径側のスプロケットへの切替え時にも自転車ギアシフト装置200の切離しが可能となるだけでなく、ディレイラ130を手動で配置し直して任意のスプロケットに位置合わせさせることも可能となる。
【0080】
これまでの説明から、本発明のアクチュエータ装置100の留め/切離し機構150の主な機能が、外部からの衝撃や、つっかえ時に前記ギアモータ(歯車とモータ121)や前記ギアシフト装置の部品を保護することと、(例えば前記ギアモータの故障等による)前記ギアシフト装置の動作不良やバッテリ121aのエネルギー切れ時に手動でのスプロケットの選択を可能にして運転者が確実に帰宅できるようにすることの両方である点は明らかであろう。
【0081】
当然ながら、当業者であれば、特定の要件やその時々の要件を満足するために、添付の特許請求の範囲に規定された保護範囲内で、前述した本発明に数多くの変形や変更を施すことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【外国語明細書】