(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099325
(43)【公開日】2022-07-04
(54)【発明の名称】スフェロイド及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220627BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20220627BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207263
(22)【出願日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020212684
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】島 史明
(72)【発明者】
【氏名】牧野 朋未
(72)【発明者】
【氏名】下田 浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 大一
(72)【発明者】
【氏名】千葉 智博
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BB32
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、リンパ管内皮細胞の網状構造を内部に有するスフェロイドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のスフェロイドは、線維芽細胞の凝集体と、該線維芽細胞の凝集体中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞の凝集体と、
該線維芽細胞の凝集体中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造とを含む、スフェロイド。
【請求項2】
前記線維芽細胞の凝集体の表面を覆うリンパ管内皮細胞の層をさらに含む、請求項1に記載のスフェロイド。
【請求項3】
前記網状構造が前記リンパ管内皮細胞の層と接続している、請求項2に記載のスフェロイド。
【請求項4】
前記線維芽細胞がリンパ管線維芽細胞又は皮膚線維芽細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載のスフェロイド。
【請求項5】
細胞接着性の細胞培養基材と接着している、請求項1~4のいずれか一項に記載のスフェロイド。
【請求項6】
前記細胞接着性の細胞培養基材が、フッ素化ポリイミド樹脂を含む細胞培養基材である、請求項5に記載のスフェロイド。
【請求項7】
細胞接着性の細胞培養基材上で線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する工程を備える、請求項1に記載のスフェロイドを作製する方法。
【請求項8】
共培養を内皮細胞用培地中で行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞接着性の細胞培養基材上で第一の線維芽細胞を培養して、第一の線維芽細胞のスフェロイドを形成する工程と、
第一の線維芽細胞のスフェロイドが接着された細胞接着性の細胞培養基材上で第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する工程と、を備える、請求項2又は3に記載のスフェロイドを作製する方法。
【請求項10】
第一の線維芽細胞の培養を線維芽細胞用培地で行い、
第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞の共培養を内皮細胞用培地で行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
線維芽細胞用培地が血清を含まない、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生体内でリンパ節を形成するために用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のスフェロイド。
【請求項13】
細胞接着性の細胞培養基材上で線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養することにより製造された、線維芽細胞とリンパ管内皮細胞を含むスフェロイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスフェロイド及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫反応の評価、免疫疾患の治療等への応用を期待して、人工リンパ節の開発を目的とした数々の研究がなされている。例えば、特許文献1には、ストローマ細胞を付着させた高分子生体材料をサイトカインの存在下で培養することを特徴とする方法により、サイトカイン、ストローマ細胞、及び高分子生体材料を含む人工リンパ節を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、単一のスフェロイドによってリンパ節を模する試みはなされていなかった。そこで本発明は、リンパ管内皮細胞の網状構造を内部に有するスフェロイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の側面に係るスフェロイドは、線維芽細胞の凝集体と、該線維芽細胞の凝集体中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造とを含む。
【0006】
本発明の第二の側面に係るスフェロイドは、線維芽細胞の凝集体と、該線維芽細胞の凝集体中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造と、該線維芽細胞の凝集体の表面を覆うリンパ管内皮細胞の層とを含む。上記網状構造は上記リンパ管内皮細胞の層と接続していてもよい。
【0007】
本発明の第一又は第二の側面に係るスフェロイドにおいて、線維芽細胞は、リンパ管線維芽細胞又は皮膚線維芽細胞であってよい。本発明の第一又は第二の側面に係るスフェロイドは、細胞接着性の細胞培養基材と接着していてよい。細胞接着性の細胞培養基材は、フッ素化ポリイミド樹脂を含む細胞培養基材であってよい。
【0008】
本発明の第三の側面に係るスフェロイドの作製方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する工程を備える。共培養は内皮細胞用培地中で行うことができる。本方法によれば、本発明の第一の側面に係るスフェロイドが作製される。
【0009】
本発明の第四の側面に係るスフェロイドの作製方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で第一の線維芽細胞を培養して、第一の線維芽細胞のスフェロイドを形成する工程と、第一の線維芽細胞のスフェロイドが接着された細胞接着性の細胞培養基材上で第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する工程と、を備える。第一の線維芽細胞の培養は線維芽細胞用培地で行うことができ、第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞の共培養は、内皮細胞用培地で行うことができる。線維芽細胞用培地は血清を含まない培地であってよい。本方法によれば、本発明の第二の側面に係るスフェロイドが作製される。
【0010】
本発明の第一又は第二の側面に係るスフェロイドは、生体内でリンパ節を形成するために用いられてもよい。
【0011】
本発明の第五の側面に係る、線維芽細胞とリンパ管内皮細胞を含むスフェロイドは、細胞接着性の細胞培養基材上で線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養することにより製造されたスフェロイドである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リンパ管内皮細胞の網状構造を内部に有するスフェロイドを提供することができる。当該スフェロイドは、リンパ節に類似した構造を有するため、人口リンパ節として、例えばin vitroでの免疫反応の評価に利用されることが期待される。また、注射で移植可能な免疫賦活剤、リンパ浮腫治療等への応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るスフェロイドの模式的な断面図である。
【
図2】実施例1~3において作製したスフェロイドの蛍光画像である。
図2の(A)、(C)、及び(E)、はそれぞれ実施例1、2、及び3におけるスフェロイドを上から見た蛍光画像のz-スタックであり、
図2の(B)、(D)、及び(F)は、それぞれ実施例1、2、及び3におけるスフェロイドのz-スタックの最大値投影法(MIP)画像である。
【
図3】実施例4におけるスフェロイドのz-スタックのMIP画像である。
【
図4】
図4の(A)は、実施例5において作製したスフェロイドの位相差顕微鏡画像であり、
図4の(B)は、当該スフェロイドを上から見た蛍光画像のz-スタックである。
【
図5】実施例5において回収したスフェロイドの顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に沿って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1の(A)は、本発明の一側面に係るスフェロイド10の模式的な断面図である。スフェロイド10は、線維芽細胞の凝集体1と、線維芽細胞の凝集体1中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造3とを含む。すなわち、スフェロイド10は、線維芽細胞とリンパ管内皮細胞とを含み、線維芽細胞は凝集体1を形成しており、リンパ管内皮細胞は、線維芽細胞の凝集体1中に分散して網状構造3を形成している。
【0016】
線維芽細胞は、特に限定されず、例えば、皮膚線維芽細胞、リンパ管線維芽細胞、心筋線維芽細胞、又はこれらの任意の組合せであってよい。線維芽細胞は、ヒト由来の線維芽細胞であっても、ヒト以外の動物に由来する線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞は、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞から分化された線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞の具体例は、ヒトリンパ管線維芽細胞(Human lymphatic fibroblast:HLF)及びヒト皮膚線維芽細胞(Normal human dermal fibroblast:NHDF)である。
【0017】
リンパ管内皮細胞は、ヒト由来のリンパ管内皮細胞であっても、ヒト以外の動物に由来するリンパ管内皮細胞であってもよい。リンパ管内皮細胞は、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞から分化されたリンパ管内皮細胞であってもよい。リンパ管内皮細胞の具体例は、ヒト皮膚リンパ管微小血管内皮細胞(Human dermal lymphatic microvascular endothelial cell:HDLEC)である。
【0018】
リンパ管内皮細胞の網状構造3は、線維芽細胞の凝集体1中に網状に分散されたリンパ管内皮細胞の集団である。網状構造3は、線維芽細胞の凝集体1の全体にわたって形成されていてもよく、線維芽細胞の凝集体1の一部に局所的に形成されていてもよい。網状構造3は、線維芽細胞の凝集体1の少なくとも中心部に形成されていてよい。
【0019】
一実施形態において、スフェロイド10は、上記線維芽細胞の凝集体1の表面を覆うリンパ管内皮細胞の層をさらに含んでよい。すなわち、
図1の(B)に示す本発明の別の側面に係るスフェロイド20は、線維芽細胞の凝集体1と、線維芽細胞の凝集体1中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造3と、線維芽細胞の凝集体1の表面を覆うリンパ管内皮細胞の層5とを含む。
【0020】
リンパ管内皮細胞の層5は、線維芽細胞の凝集体1の表面の少なくとも一部又は全体を覆う、連続的又は断続的な層である。リンパ管内皮細胞の層5の厚みは特に限定されず、リンパ管内皮細胞の層5は、細胞単層であっても細胞重層であってもよい。スフェロイド20は表面がリンパ管内皮細胞で覆われているため、実際のリンパ節により近い構造を有する。したがって、スフェロイド20は、人口リンパ節としてより有用であると考えられる。スフェロイド10及びスフェロイド20は、生体内でリンパ節を形成するために用いることができる。
【0021】
網状構造3の少なくとも一部は、リンパ管内皮細胞の層5まで延在していてよい。すなわち、網状構造3はリンパ管内皮細胞の層5と少なくとも一箇所において接続していてよい。
図1の(B)においては、網状構造3がリンパ管内皮細胞の層5と位置Aで接続しているが、網状構造3は、リンパ管内皮細胞の層5と接続していなくてもよい。
【0022】
スフェロイド10及び20の大きさは特に限定されず、スフェロイド10及び20は、例えば、10~1500μm、10~1000μm、又は10~800μmの直径を有してよい。ここで、スフェロイド10及び20の直径は、例えば、画像解析ソフト又は粒度分布計を用いて常法により測定される。
【0023】
スフェロイド10及び20において、線維芽細胞とリンパ管内皮細胞の比率は特に限定されないが、リンパ管内皮細胞の十分な網状構造3を形成する観点から、例えば、20:1~2:1、19:1~5:1、19:1~8:1、又は19:1~9:1であってよい。
【0024】
一実施形態において、スフェロイド10及び20は、細胞接着性の細胞培養基材(図示せず)に接着されていてよい。細胞培養基材に接着されたスフェロイドには、スフェロイドを損傷することなく安全に運搬することができるという利点があり、また、スフェロイドを単離することなくスクリーニング又は各種評価に用いることが可能であるという利点もある。
【0025】
細胞培養基材は細胞を接着できる基材であれば特に限定されず、公知の接着培養用の基材であってよく、より具体的には公知の接着培養用の培養容器であってよい。すなわち、基材の表面の一部又は全部は細胞接着性を有する。細胞接着性の表面とは、培養液中で細胞が該表面上に沈降したときに、該細胞がある一定の接着点で接着することのできる表面のことである。
【0026】
より具体的には、基材は細胞接着性物質を含んでよい。細胞接着性物質は、例えば、タンパク質又は合成樹脂であってよい。タンパク質は、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、又はラミニンであってよい。合成樹脂は、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリジメチルシロキサン、又はこれらの混合物であってよい。合成樹脂は、好ましくはフッ素化ポリイミド樹脂である。フッ素化ポリイミド樹脂とは、いいかえれば含フッ素ポリイミド樹脂である。フッ素化ポリイミド樹脂を含む基材は適度な細胞接着性を有するため、細胞剥離剤を使用せずに、また過度なピペッティングを行わずに、基材からスフェロイドを剥離し、回収することができる。このため、フッ素化ポリイミド樹脂を含む基材を用いた場合、スフェロイドを、その形態を維持したまま回収しやすい。
【0027】
フッ素化ポリイミド樹脂は、例えば、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)/1,4-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)共重合体、6FDA/4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)/TPEQ共重合体、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸(BPADA)/2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)共重合体、6FDA/2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(BAPP)共重合体、6FDA/2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)共重合体、6FDA/4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)共重合体、又は6FDA/4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)共重合体であってよい。
【0028】
フッ素化ポリイミド樹脂の重量平均分子量は、例えば、5000~2000000であり、好ましくは8000~1000000であり、より好ましくは20000~500000である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、下記手法により測定される。
【0029】
(重量平均分子量の測定)
装置:HCL-8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel Super AWM-H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りN-メチルピロリドン):0.01mol/L
測定方法:0.5質量%の溶液を溶離液で作製し、ポリスチレンで作製した検量線に基づいて分子量を算出する。
【0030】
一実施形態において、基材は、開口部を有する凹部を複数備えていてよい。凹部の底面は細胞接着性を有していてよく、より具体的には、凹部の底面は上記細胞接着性物質により構成されていてよい。
【0031】
凹部の個数は特に限定されず、基材の1cm2あたりの凹部の個数は、1個以上、10個以上、20個以上、30個以上、又は50個以上であってよく、1000個以下、500個以下、300個以下、200個以下、又は100個以下であってよい。本実施形態に係る基材における凹部の総数は、例えば、1個以上、10個以上、100個以上、1000個以上、10000個以上、又は50000個以上であってよい。
【0032】
凹部の開口部の形状は特に限定されず、例えば、円、多角形、又は楕円であってよい。開口部の口径は、例えば、2000μm以下、10~2000μm、10~1000μm、10~700μm、10~600μm、又は10~500μmであってよい。本明細書において、ある部位の口径とは、該部位に外接する円の直径、すなわち該部位の最大長さのことである。
【0033】
凹部の底面の形状は特に限定されず、例えば、円、多角形、又は楕円であってよい。底面の形状は、開口部の形状と同一であっても異なってもよい。底面の口径は、開口部の口径と同一であっても異なってもよく、開口部の口径より小さくても大きくてもよい。底面の口径は、例えば、10~2000μm、10~1000μm、10~700μm、10~600μm、10~500μm、10~400μm、又は10~300μmであってよい。凹部の底面は、平坦な面であってよく、平坦かつ平滑な面であってよい。
【0034】
開口部と、それに隣接する開口部との間の距離、すなわち間隙の長さは、特に限定されない。間隙の長さは、例えば、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、又は100μm以下であってよい。
【0035】
凹部の深さは特に限定されず、例えば、100nm~500nm、10μm~1000μm、又は10μm~300μmであってよい。
【0036】
本実施形態において、基材の全表面のうち凹部の底面以外の表面、すなわち凹部の内側面と基材の上面(凹部の辺縁部ともいえる)は細胞非接着性であってよい。細胞非接着性の表面とは、細胞が全く接着しないか、一時的に弱く接着しても自然に脱離する、表面のことである。より具体的には、基材の全表面のうち凹部の底面以外の表面は、細胞非接着性物質から構成されていてよい。
【0037】
細胞非接着性物質は、細胞の表面に存在するタンパク質、糖鎖等の分子に結合しない物質であれば特に限定されない。細胞非接着性物質としては、例えば、ポリエチレングリコール及びその誘導体、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びその誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)及びその誘導体等を含む化合物あるいはそれら化合物の重合体、セグメント化ポリウレタン(SPC)及びその誘導体等を含む化合物、アルブミン等のタンパク質、細胞が接着しない糖鎖(アガロース、セルロース等)等を、細胞の種類に応じて適宜選択して用いることができる。これらの物質は、1種又は2種以上を使用することができる。なかでも、細胞接着性部位との接着性、基材の製造工程の簡素化、培養によって得られる細胞の均一性向上等の観点から、MPC及びその誘導体あるいはそれらの重合体が好ましく、より好ましくはMPCポリマーが挙げられる。
【0038】
別の実施形態において、基材は、細胞接着性表面と細胞非接着性表面とで形成された微細パターンを備える、細胞培養用シートであってよい。一例として、細胞培養用シートは、細胞接着性物質の層と、該層の表面に設けられた細胞非接着性物質のマスクとで形成された微細パターンを有してよい。微細パターンは、例えば凹部であってよい。この場合、凹部の深さは細胞非接着性物質のマスクの厚みに依存する。したがって、凹部の深さの下限は、細胞がマスクの非接着性を認識できる最小厚みである。凹部の深さは、例えば、10μ未満であってよく、100nm~500nmであってよい。凹部の個数、凹部の開口部及び底面の形状及び口径、並びに凹部間の距離は、上記実施形態と同様であってよい。
【0039】
微細パターンの形成は、例えば、マイクロコンタクトプリンティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スプレイコーティング法、バーコーティング法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法、インクジェット法、又はパターニング法により行ってもよい。パターニング法とは、ベース材表面に形成された凹凸構造の間隙に、該間隙に生じる毛細管力を利用して所望の物質を注入することにより、微細パターンを形成する方法である。
【0040】
顕微鏡を用いてスフェロイド10又は20を観察する観点から、基材の厚みは、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。基材の面積は特に限定されず、例えば、0.01~10000cm2又は0.03~5000cm2であってよい。
【0041】
本発明は、上記スフェロイド10及び20を作製する方法も提供する。本発明の一側面に係るスフェロイド10の作製方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する工程を備える。かかる方法によれば、線維芽細胞の凝集体1と、線維芽細胞の凝集体1中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造3とを含む、上記スフェロイド10を作製することができる。細胞接着性の細胞培養基材、線維芽細胞、及びリンパ管内皮細胞の詳細は上述のとおりである。
【0042】
共培養に用いる培地は特に限定されず、任意の培地、例えば、任意の基本培地、分化培地、又は初代培養専用培地を用いることができる。培地は、細胞の増殖又は分化に必要な成分を含む培地であればよく、具体的には、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α-MEM、グラスゴーMEM(GMEM)、IMDM、RPMI1640、ハムF-12、MCDB培地、ウィリアムス培地E、内皮細胞用培地、線維芽細胞用培地、角化細胞用培地、又はこれらの混合培地であってよい。リンパ管内皮細胞の密な網状構造を形成する観点から、培地は、好ましくは内皮細胞用培地を含む培地であり、より好ましくは内皮細胞用培地である。培地は、必要に応じて、血清、各種成長因子、分化誘導因子、抗生物質、ホルモン、アミノ酸、糖、塩類等の添加成分を含んでいてもよい。
【0043】
内皮細胞用培地とは、内皮細胞の培養に適した組成を有する培地であって、典型的には、人上皮成長因子(hEGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、R3インスリン様成長因子1(R3 IGF-1)、アスコルビン酸、ヒドロコルチゾン、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hFGF-β)、及びウシ胎児血清(FBS)を含む。内皮細胞用培地としては、例えば、ロンザ社製のEGM(登録商標)-2MV BulletKit(登録商標)(カタログ番号:CC-3202)を用いて調製されるEGM-2MV培地等の市販品を用いることができる。線維芽細胞用培地とは、線維芽細胞の培養に適した組成を有する培地であって、典型的には10%FBSを含む。線維芽細胞用培地としては、例えば、サイエンセル リサーチ ラボラトリーズ社製のFibroblast medium(カタログ番号:2301)等の市販品を用いることができる。
【0044】
培養温度は特に限定されないが、通常は25~40℃程度である。培養時の相対湿度は特に限定されず、例えば、40~95%RHであってよい。
【0045】
培養の時間は特に限定されず、細胞の増殖速度と所望のスフェロイド10の大きさに応じて、適宜決定することができる。培養の時間は、例えば、4時間~30日(4時間~720時間)、1日~14日(24時間~336時間)、又は1日~7日(24時間~168時間)であってよい。
【0046】
線維芽細胞とリンパ管内皮細胞の比率は特に限定されないが、リンパ管内皮細胞の十分な網状構造3を形成する観点から、例えば、20:1~2:1、19:1~5:1、19:1~8:1、又は19:1~9:1であってよい。
【0047】
細胞を培養する前に、細胞培養基材を脱泡することが好ましい。脱泡処理の方法は特に限定されず、霧吹き、ピペッティング、振盪、加温及び冷却、遠心処理、真空脱気、超音波処理等の一般的な方法を利用することができる。
【0048】
本発明の別の側面に係るスフェロイド20の作製方法は、細胞接着性の細胞培養基材上で第一の線維芽細胞を培養して、第一の線維芽細胞のスフェロイドを形成する、第一の培養工程と、第一の線維芽細胞のスフェロイドが接着された細胞接着性の細胞培養基材上で第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞を共培養する、第二の培養工程と、を備える。第二の培養工程では、第一の線維芽細胞のスフェロイド内にリンパ管内皮細胞が入り込んで網状構造3を形成する。また、第二の線維芽細胞が第一の線維芽細胞のスフェロイドと合わさって凝集体1を形成し、凝集体1の表面はリンパ管内皮細胞の層5により覆われる。したがって、かかる方法によれば、線維芽細胞(第一及び第二の線維芽細胞)の凝集体1と、凝集体1中に形成されたリンパ管内皮細胞の網状構造3と、凝集体1の表面を覆うリンパ管内皮細胞の層5とを含む、上記スフェロイド20を作製することができる。
【0049】
細胞接着性の細胞培養基材及びリンパ管内皮細胞の詳細は、上述のとおりである。第一の線維芽細胞と第二の線維芽細胞は、同じ種類の線維芽細胞であっても、異なる種類の線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞の詳細は上述のとおりである。例えば、第一の線維芽細胞及び第二の線維芽細胞は、それぞれリンパ管線維芽細胞及び皮膚線維芽細胞であってよく、ヒトリンパ管線維芽細胞及びヒト皮膚線維芽細胞であってよい。
【0050】
第一の培養工程において用いる培地は限定されず、上述した任意の培地を用いることができる。第一の培養工程において用いる培地は、例えば線維芽細胞用培地である。線維芽細胞用培地の詳細は、上述のとおりである。線維芽細胞が細胞接着性の細胞培養基材の培養面の外に移動するのを防ぐ観点から、第一の培養工程において用いる培地は、血清を含まない培地であってよい。
【0051】
第一の培養工程における培養温度は特に限定されないが、通常は25~40℃程度である。第一の培養工程における相対湿度は特に限定されず、例えば、40~95%RHであってよい。
【0052】
第一の培養工程における培養時間は、第一の線維芽細胞がスフェロイドを形成できる長さであればよい。第一の培養工程における培養時間は、細胞の増殖速度及び播種密度にもよるが、例えば、4時間以上又は1日以上であってよい。第二の培養工程において第一の線維芽細胞のスフェロイド内にリンパ管内皮細胞の網状構造3を形成する観点から、第一の培養工程における培養時間は、例えば、2日以下又は5日以下であってよい。
【0053】
第一の培養工程の前に、細胞培養基材を脱泡することが好ましい。脱泡処理には、上述のとおり一般的な方法を利用することができる。
【0054】
第二の培養工程において用いる培地は、好ましくは内皮細胞用培地を含む培地であり、より好ましくは内皮細胞用培地である。内皮細胞用培地の詳細は、上述のとおりである。
【0055】
第二の培養工程における培養温度は特に限定されないが、通常は25~40℃程度である。第二の培養工程における相対湿度は特に限定されず、例えば、40~95%RHであってよい。
【0056】
第二の培養工程における培養時間は特に限定されず、細胞の増殖速度、播種密度、及び所望のスフェロイド20の大きさに応じて、適宜決定することができる。第二の培養工程における培養時間は、例えば、4時間~30日(4時間~720時間)、1日~14日(24時間~336時間)、又は1日~7日(24時間~168時間)であってよい。
【0057】
第一の培養工程における第一の線維芽細胞の数と、第二の培養工程における第二の線維芽細胞及びリンパ管内皮細胞の合計数の比率は、特に限定されず、例えば、10:1~1:10であってよい。第二の線維芽細胞とリンパ管内皮細胞の比率は特に限定されないが、リンパ管内皮細胞の十分な網状構造3を形成する観点から、例えば、20:1~2:1、19:1~4:1、19:1~5:1、又は19:1~9:1であってよい。
【0058】
本発明の上記側面に係る、スフェロイド10を作製する方法及びスフェロイド20を作製する方法は、基材からスフェロイドを回収する工程をさらに含んでよい。基材からスフェロイドを回収する方法は特に限定されず、スフェロイドの形態が維持される限り、公知の方法によりスフェロイドを回収することができる。例えば、培地をピペッティングにより攪拌して基材からスフェロイドを剥離し、剥離されたスフェロイドを回収することができる。あるいは、培地の一部又は全部を除去し、次いでVitroGel溶液(ザウェルバイオサイエンス社製)等の公知のハイドロゲル溶液を添加することで、培地をハイドロゲルで置換し、その後、ピペッティングによりスフェロイドを剥離し、剥離されたスフェロイドを回収することができる。スフェロイドを剥離する前に培地をハイドロゲルで置換することにより、培地中でスフェロイドを剥離する場合と比べて、スフェロイドの回収にかかる時間を短縮できる。
【実施例0059】
[HDLECの準備]
凍結されたヒト皮膚リンパ管微小血管内皮細胞(カタログ番号:CC-2812、ロンザ社から購入)を37℃の恒温水槽で溶解させ、EGM(登録商標)-2MV BulletKit(登録商標)(カタログ番号:CC-3202、ロンザ社製)を用いて調製したEGM-2MV培地9mLに懸濁して細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を100mm細胞培養ディッシュ(型式:130182、サーモフィッシャー サイエンティフィック社製)に、細胞の量が0.5×106細胞/ディッシュとなるように細胞懸濁液を加え、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で、90~95%コンフルエントになるまで培養(拡大培養)した。培養後、ディッシュから培地を除去し、6mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。0.25w/v%のトリプシン-1mmol/L EDTA・4Na溶液(製品コード:209-16941、富士フイルム和光純薬株式会社製)を1mL添加した後、ディッシュを上記インキュベーター内で5分程度静置して細胞を剥離した。次いで、ディッシュに5%FBSを含むDMEMを6mL加えて混合後し、細胞を含む剥離液を15mLチューブに回収し、上清を除去した。
【0060】
[NHDFの準備]
HDLECの準備と同様にして、ヒト皮膚線維芽細胞(カタログ番号:CC-2509、ロンザ社から購入)を拡大培養し、回収した。ただし、培地としては最終濃度で10%のFBS(カタログ番号:10270106、サーモフィッシャー サイエンティフィック社製)を含むDMEM(製品コード:043-30085、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0061】
[HLFの準備]
HDLECの準備と同様にして、ヒトリンパ管線維芽細胞(カタログ番号:2530、サイエンセル リサーチ ラボラトリーズ社から購入)を拡大培養し、回収した。ただし、培地としてはFibroblast medium(カタログ番号:2301、サイエンセル リサーチ ラボラトリーズ社製)を用いて、細胞培養ディッシュとしては100mmポリ-L-リジンコートディッシュ(品種コード:4020-040、AGCテクノグラス社(IWAKI)製)を用いた。また、細胞の剥離には、0.25w/v%のトリプシン-1mmol/L EDTA・4Na溶液のかわりに0.05w/v%の同溶液を用いた。
【0062】
[脱泡処理]
各試験例で用いる培地を含む培養容器を、次のように脱泡した。まず、培養容器に0.3mL程度のPBSを加えてピペッティングを行い、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーター内で培養容器を15分間静置した。再びピペッティングを行った後、PBSをアスピレーターで吸引した。その後、各試験例で用いる培地を培養容器に0.3mL加え、上記インキュベーター内で培養容器を一晩静置した。
【0063】
[試験例1]
<実施例1>
NHDF及びHDLECを、各々5%のFBS含むDMEM 1mLに懸濁して細胞数をカウントし、3.6×105細胞のNHDFと0.4×105細胞のHDLECを含む細胞懸濁液300μLを調製した。脱泡処理後の培養容器から培地を除去し、1000細胞/穴の細胞数となるように、培養容器に上記細胞懸濁液300μLを加えた。培養容器をクリーンベンチ内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに移して3時間静置した。次いで、培養容器に5%のFBS含むDMEMを2mL加え、再び37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに培養容器を入れて3日間培養し、スフェロイドを作製した。培養容器としては、直径約300μmの円状の開口部及び底面を有する穴(ウェル)を400個備える培養容器を用いた。かかる培養容器は6FDA/TPEQ共重合体を底面に含み、底面以外はMPCポリマーでコートされている。
【0064】
得られたスフェロイドを4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で固定した後、HDLECを蛍光標識抗CD31抗体で蛍光染色した。得られた全組織標本を、共焦点レーザー顕微鏡(株式会社ニコン製のC2si)を用いて観察し、スフェロイドの上部から底面(すなわち、培養容器の穴の底面)に向けて蛍光画像を撮影した。
【0065】
空の穴、及び細胞がスフェロイドを形成せずに培養容器の底面又は壁面に張り付いた穴が多くみられたが、400穴中10個程度の穴ではスフェロイドが形成されていた。形成されたスフェロイドの一例を、
図2の(A)と(B)に示す。
図2の(A)は、上から見た蛍光画像のz-スタック(三次元画像)であり、(B)はz-スタックの最大値投影法(MIP)画像である。これらの画像から示されるように、スフェロイドは、内部にHDLECの網状構造を有していた。
【0066】
<実施例2>
5%のFBS含むDMEMのかわりにEGM-2MV培地を用いた以外は実施例1と同様にして、スフェロイドを作製し、観察した。
【0067】
400個の穴のうち、実施例1よりも多い、78個の穴で直径約180μmのスフェロイドが形成されていた。形成されたスフェロイドの一例を、
図2の(C)と(D)に示す。
図2の(C)は、上から見た蛍光画像のz-スタックであり、(D)はz-スタックのMIP画像である。これらの画像から示されるように、実施例2のスフェロイドは、実施例1と比べてHDLECのより密な網状構造を有していた。
【0068】
<実施例3>
5%のFBS含むDMEMのかわりに、EGM-2MV培地と、10%のFBS含むDMEMと、正常ヒト表皮角化細胞用増殖添加剤(製品番号:KK-6150、倉敷紡績株式会社)を含むEpiLife(登録商標)(製品番号:MEPI500CA、サーモフィッシャー サイエンティフィック社製)と、を等量含み、かつ8.4μg/mLのアスコルビン酸(製品コード:013-12061、富士フイルム和光純薬株式会社製)を含む混合培地を用いたこと、及び細胞懸濁液として該混合培地に3.8×105細胞のNHDFと0.2×105細胞のHDLECを含む細胞懸濁液300μLを用いたこと以外は実施例1と同様にして、スフェロイドを作製し、観察した。
【0069】
実施例3では、実施例2と同程度のサイズ(すなわち、直径約180μm)のスフェロイドが同程度の数観察された。形成されたスフェロイドの一例を、
図2の(E)と(F)に示す。
図2の(E)は、上から見た蛍光画像のz-スタックであり、(F)はz-スタックのMIP画像である。これらの画像から示されるように、スフェロイド内部にはHDLECの網状構造が見られたものの、実施例2と比較すると、網状構造の量は少なかった。
【0070】
[試験例2]
<実施例4>
HLFを、FBSを含まないFibroblast mediumに懸濁して細胞数をカウントし、2.5×105細胞のHLF含む細胞懸濁液300μLを調製した。脱泡処理後の培養容器から培地を除去し、培養容器にHLFの上記細胞懸濁液300μLを加えた。培養容器としては、試験例1と同じ培養容器を用いた。培養容器をクリーンベンチ内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに移して1日間培養し、HLFのスフェロイドを作製した。別途準備していたNHDF及びHDLECをEGM-2MV培地に懸濁して細胞数をカウントし、2.0×105細胞のNHDF及び0.4×105細胞のHDLECを含む細胞懸濁液300μLを調製した。HLFのスフェロイドを含む上記培養容器から培地を除去し、NHDF及びHDLECの上記細胞懸濁液を加えた。培養容器をクリーンベンチ内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに移して2日間培養し、スフェロイドを作製した。
【0071】
得られたスフェロイドを4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で固定した後、HDLECを蛍光標識抗CD31抗体で蛍光染色した。得られた全組織標本を、共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス社製のLSM 710)を用いて観察し、スフェロイドの底面(すなわち、培養容器の穴の底面)から上部に向けて蛍光画像を撮影した。
【0072】
400個の穴のうち、ほとんどの穴で直径約200μmのスフェロイドが形成されていた。形成されたスフェロイドの一例を
図3に示す。
図3は、z-スタックのMIP画像である。当該スフェロイドは、
図1の(B)のように内部にHDLECの網状構造を有するとともに、表面がHDLECの層で覆われており、網状構造がHDLECの層と接続していることが確認できた。
【0073】
[試験例3]
<実施例5>
HLFを、FBSを含まないFibroblast mediumに懸濁して細胞数をカウントし、2.0×105細胞のHLF含む細胞懸濁液300μLを調製した。脱泡処理後の培養容器から培地を除去し、培養容器にHLFの上記細胞懸濁液300μLを加えた。培養容器としては、試験例1と同じ培養容器を用いた。培養容器をクリーンベンチ内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに移して1日間培養し、HLFのスフェロイドを作製した。別途準備していたNHDF及びHDLECをDMEM培地とEGM-2MV培地の混合培地(1:1)に懸濁して細胞数をカウントし、2.0×105細胞のNHDF及び0.5×105細胞のHDLECを含む細胞懸濁液300μLを調製した。HLFのスフェロイドを含む上記培養容器から培地を除去し、NHDF及びHDLECの上記細胞懸濁液を加えた。培養容器をクリーンベンチ内で15分静置した後、37℃の5%(v/v)CO2インキュベーターに移して2日間培養し、スフェロイドを作製した。
【0074】
得られたスフェロイドを位相差顕微鏡で観察した。また、得られたスフェロイドを4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で固定した後、HDLECを蛍光標識抗CD31抗体で蛍光染色し、細胞核を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で蛍光染色した。得られた全組織標本を、共焦点レーザー顕微鏡(LSM 710)を用いて観察し、スフェロイドの上部から底面に向けて蛍光画像を撮影した。
【0075】
培養容器から培地を除去し、VitroGel溶液(ザウェルバイオサイエンス社より購入)300μLを加えて室温で10分静置した。続いて100回程度ピペッティングを行ってスフェロイドを回収し、1.5mLチューブに移した。これにFBS10%を含むDMEM培地150μLを加え、顕微鏡でスフェロイドを観察した。
【0076】
スフェロイドの位相差顕微鏡画像を
図4の(A)に示す。DMEM培地とEGM-2MV培地の混合培地(1:1)をEGM-2MV培地の代わりに用いた場合でも、実施例4と同様のスフェロイドが形成されることが分かった。
図4の(B)にスフェロイドを上から見た蛍光画像のz-スタックを示す。当該スフェロイドは、
図1の(B)のように内部にHDLECの網状構造を有するとともに、表面がHDLECの層で覆われていることが確認できた。
【0077】
回収したスフェロイドの顕微鏡画像を
図5に示す。ピペッティングにより、スフェロイドを約300個(収率75%)回収することができた。回収したスフェロイドは崩壊することなく、形態を維持していた。
【0078】
<実施例6>
実施例5と同様にしてスフェロイドの懸濁液450μL(スフェロイド約300個)を得た。この懸濁液を18ゲージの針が付いたシリンジで吸い取り、麻酔下のBALB/cAJcl-nu nu/nuマウス(日本クレア株式会社より購入)の腸骨に投与することで、スフェロイドを移植した。また、同じマウスの肩甲骨の間にも、上記と同様にして得られたスフェロイド懸濁液450μL(スフェロイド約300個)を投与することで、スフェロイドを移植した。針を抜いても、スフェロイド懸濁液はわずかににじみ出る程度で、漏れることはなかった。このマウスを2週間飼育した。移植から2週間後でもマウスは生存していたことから、スフェロイドの安全性が確認された。