(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009935
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】直流電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 9/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
H01B9/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179573
(22)【出願日】2021-11-02
(62)【分割の表示】P 2019555632の分割
【原出願日】2017-12-07
(31)【優先権主張番号】10-2017-0047555
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】513096691
【氏名又は名称】エルエス ケーブル アンド システム リミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ヨンウン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ギジュン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】空間電荷(space charge)蓄積による直流絶縁耐力の低下及びインパルス破壊強度の低下を同時に防止することができ、絶縁層などの押出性を低下せずに製造コストを節減することができる直流電力ケーブルを提供する。
【解決手段】直流電力ケーブル100は、導体10と、導体10を取り囲む内部半導電層12と、内部半導電層12を取り囲む絶縁層14と、絶縁層14を取り囲む外部半導電層16と、外部半導電層16を取り囲み、金属シース又は中性線からなり、電気遮蔽及び短絡電流の帰路のための遮蔽層18と、遮蔽層18を外被20と、を含む。内部半導電層又は外部半導電層は、ベース樹脂としてオレフィンと極性単量体の共重合樹脂及び樹脂内に分散された伝導性粒子を含む半導電組成物から形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力ケーブルであって、
導体と、
前記導体を取り囲む内部半導電層と、
前記内部半導電層を取り囲む絶縁層と、
前記絶縁層を取り囲む外部半導電層と、
前記外部半導電層を取り囲む外被とを含み、
前記内部半導電層又は前記外部半導電層は、ベース樹脂としてオレフィンと極性単量体の共重合樹脂及び前記樹脂内に分散された伝導性粒子を含む半導電組成物から形成され、 前記極性単量体の含量は前記共重合樹脂の総重量を基準に18重量%以下であり、
前記半導電組成物は架橋剤をさらに含み、
前記架橋剤の含量は、前記ベース樹脂100重量部を基準に、0.1~5重量部であり、
下記の数学式1によって定義される前記絶縁層の電界集中係数(Field Enhancement Factor;FEF)が100~150%であることを特徴とする、直流電力ケーブル。
【数1】
前記数学式1で、
前記試片は、厚さが120μmであり、前記絶縁層を形成する絶縁組成物から形成された絶縁フィルム、及び前記絶縁フィルムの上面及び下面にそれぞれ接着され、それぞれの厚さが50μmであり、前記半導電組成物から形成された半導電フィルムを含む試片であり、
前記試片に印加された電界は前記絶縁フィルムに1時間の間に印加された50kV/mmの直流電界であり、
前記試片において最大に増加した電界は前記絶縁フィルムに直流電界が印加される1時間の間に増加した電界値の中で最大値である。
【請求項2】
前記極性単量体の含量は1~12重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項3】
前記極性単量体は、アクリレート単量体を含むことを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項4】
前記共重合樹脂は、エチレンビニルアセテート(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンメチルメタクリレート(EMMA)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、エチレンエチルメタクリレート(EEMA)、エチレン(イソ)プロピルアクリレート(EPA)、エチレン(イソ)プロピルメタクリレート(EPMA)、エチレンブチルアクリレート(EBA)及びエチレンブチルメタクリレート(EBMA)からなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の直流電力ケーブル。
【請求項5】
前記架橋剤の含量は、0.1~1.5重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項6】
前記架橋剤は、過酸化物系架橋剤であることを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項7】
前記過酸化物系架橋剤は、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルペルオキシドからなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、請求項6に記載の直流電力ケーブル。
【請求項8】
前記伝導性粒子の含量は、前記ベース樹脂100重量部を基準に、45~70重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項9】
前記絶縁層は、ベース樹脂としてポリオレフィン樹脂を含む絶縁組成物から形成されることを特徴とする、請求項1に記載の直流電力ケーブル。
【請求項10】
前記絶縁層は、架橋ポリエチレン(XLPE)樹脂から形成されることを特徴とする、請求項9に記載の直流電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直流電力ケーブルに関するものである。具体的に、本発明は空間電荷(space charge)の蓄積による直流絶縁耐力の低下及びインパルス破壊強度の低下を同時に防止することができ、絶縁層などの押出性を低下せずに製造コストを節減することができる直流電力ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、大容量及び長距離の送電が要求される大型電力系統では、電力損失の減少、建設用地の問題、送電容量の増大などの観点で送電電圧を高める高圧送電が必須だと言える。
【0003】
送電方式は、大別して交流送電方式と直流送電方式に区分されることができる。このうち、直流送電方式は直流で電気エネルギーを伝送することを言う。具体的に、前記直流送電方式は、まず送電側の交流電力を適当な電圧に変え、順変換装置によって直流に変換した後、送電線路を介して受電側に伝送すれば、受電側では逆変換装置によって直流電力を再び交流電力に変換する方式である。
【0004】
特に、前記直流伝送方式は、大容量の電力を長距離輸送するのに有利であり、非同期電力系統の相互連携が可能であるという利点があるだけではなく、長距離送電において直流が交流より電力損失が少なくて安定度が高いので多く用いられている実情である。
【0005】
ところが、高圧直流送電ケーブルを用いて送電が進行される場合、ケーブル絶縁体の温度が上昇するときあるいは負極性インパルス又は極性反転がなされた場合、前記絶縁体の絶縁特性が著しく低下する現象を示す問題点がある。これは、絶縁体内に一端の電荷が捕獲されるか放電されることなしに寿命の長い空間電荷(space charge)が蓄積されるからであると知られている。
【0006】
上述した空間電荷は高圧直流送電ケーブル絶縁体内の電場を歪ませて最初設計の絶縁破壊電圧より低い電圧で絶縁破壊を引き起こすことがある。
【0007】
したがって、空間電荷(space charge)蓄積による直流絶縁耐力の低下及びインパルス破壊強度の低下を同時に防止することができ、絶縁層などの押出性を低下せずに製造コストを節減することができる直流電力ケーブルが切実に要求されている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、空間電荷(space charge)の蓄積による直流絶縁耐力の低下及びインパルス破壊強度の低下を同時に防止することができる直流電力ケーブルを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、絶縁層などの押出性を低下せずに製造コストを節減することができる直流電力ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、直流電力ケーブであって、導体と、前記導体を取り囲む内部半導電層と、前記内部半導電層を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層を取り囲む外部半導電層と、前記外部半導電層を取り囲む外被とを含み、前記内部半導電層又は前記外部半導電層は、ベース樹脂としてオレフィンと極性単量体の共重合樹脂及び前記樹脂内に分散された伝導性粒子を含む半導電組成物から形成され、前記極性単量体の含量は前記共重合樹脂の総重量を基準に18重量%以下であり、下記の数学式1によって定義される前記絶縁層の電界集中係数(Field Enhancement Factor;FEF)が100~150%であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【数1】
前記数学式1で、前記試片は、厚さが120μmであり、前記絶縁層を形成する絶縁組成物から形成された絶縁フィルム、及び前記絶縁フィルムの上面及び下面にそれぞれ接着され、それぞれの厚さが50μmであり、前記半導電組成物から形成された半導電フィルムを含む試片であり、前記試片に印加された電界は前記絶縁フィルムに1時間の間に印加された50kV/mmの直流電界であり、前記試片において最大に増加した電界は前記絶縁フィルムに直流電界が印加される1時間の間に増加した電界値の中で最大値である。
【0011】
ここで、前記半導電組成物は架橋剤をさらに含み、前記架橋剤の含量は、前記ベース樹脂100重量部を基準に、0.1~5重量部であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0012】
また、前記極性単量体の含量は1~12重量%であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0013】
そして、前記極性単量体は、アクリレート単量体を含むことを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0014】
ここで、前記共重合樹脂は、エチレンビニルアセテート(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンメチルメタクリレート(EMMA)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、エチレンエチルメタクリレート(EEMA)、エチレン(イソ)プロピルアクリレート(EPA)、エチレン(イソ)プロピルメタクリレート(EPMA)、エチレンブチルアクリレート(EBA)及びエチレンブチルメタクリレート(EBMA)からなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0015】
一方、前記架橋剤の含量は、0.1~1.5重量部であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0016】
そして、前記架橋剤は、過酸化物系架橋剤であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0017】
ここで、前記過酸化物系架橋剤は、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルペルオキシドからなる群から選択された1種以上を含むことを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0018】
一方、前記伝導性粒子の含量は、前記ベース樹脂100重量部を基準に、45~70重量部であることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0019】
また、前記絶縁層は、ベース樹脂としてポリオレフィン樹脂を含む絶縁組成物から形成されることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【0020】
ここで、前記絶縁層は、架橋ポリエチレン(XLPE)樹脂から形成されることを特徴とする、直流電力ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明による直流電力ケーブルは、半導電層のベース樹脂及び架橋度を精密に制御することによって絶縁層内部の空間電荷の蓄積及びこれによる直流絶縁耐力の低下及びインパルス破壊強度の低下を同時に防止することができる優れた効果を示す。
【0022】
また、本発明は、絶縁層に含まれて空間電荷の蓄積を抑制する無機粒子の添加量を減縮させることにより前記無機粒子による絶縁層などの押出性低下を抑制し、かつ前記絶縁層の厚さ増加を抑制してケーブルの製造コストを節減させることができる優れた効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による電力ケーブルの実施例の断面構造を概略的に示す図である。
【
図2】本発明による電力ケーブルの他の実施例の断面構造を概略的に示す図である。
【
図3】実施例のFT-IR評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。しかし、本発明はここで説明する実施例に限定されず、他の形態に具体化されることもできる。むしろ、ここで紹介する実施例は開示する内容が徹底的で完全になることができるように、かつ当業者に本発明の思想が充分に伝達されるようにするために提供するものである。明細書全般にわたって同じ参照番号は同じ構成要素を示す。
【0025】
図1は本発明による直流電力ケーブルの実施例の断面構造を概略的に示す図である。
図1に示したように、本発明による直流電力ケーブル100は、中心導体10、前記導体10を取り囲む内部半導電層12、前記内部半導電層12を取り囲む絶縁層14、前記絶縁層14を取り囲む外部半導電層16、前記外部半導電層16を取り囲み、金属シース又は中性線からなり、電気遮蔽及び短絡電流の帰路のための遮蔽層18、前記遮蔽層18を取り囲む外被20などを含むことができる。
【0026】
図2は本発明による直流電力ケーブルの他の実施例の断面構造を概略的に示すもので、海底ケーブルの断面構造を概略的に示す図である。
【0027】
図2に示したように、本発明による直流電力ケーブル200において、導体10、内部半導電層12、絶縁層14及び外部半導電層16は前述した
図1の実施例と類似しているので、その繰り返し説明は省略する。
【0028】
前記外部半導電層16の外部には、外部の水のような異物が浸入すれば絶縁層14の絶縁性能が低下するので、これを防止するために鉛(lead)からなる金属シース(metal sheath)、いわゆる‘鉛被シース’30を備える。
【0029】
さらに、前記鉛被シース30の外部に、ポリエチレン(polyethylene)などの樹脂から構成されたシース32と水が直接接触しないように、ベッディング層34を備える。前記ベッディング層34上には鉄線外装40を備えることができる。前記鉄線外装40は前記ケーブルの外側に備えられ、海底の外部環境からケーブルを保護するように機械的強度を高める役割をすることになる。
【0030】
前記鉄線外装40の外側、すなわちケーブルの外側にはケーブルの外装としてジャケット42を備える。ジャケット42はケーブルの外側に備えられ、ケーブル200の内部構成を保護する役割をする。特に、海底ケーブルの場合、ジャケット42は海水などの海底環境に耐えることができる耐候性及び機械的強度に優れた性質を有することになる。例えば、前記ジャケット42はポリプロピレンヤーン(polypropylene yarn)などからなることができる。
【0031】
前記中心導体10は、銅、アルミニウム、好ましくは銅からなる単線又は複数の導線が連合した撚線によってなることができ、前記中心導体10の直径、撚線を構成する素線の直径などを含む規格はこれを含む直流電力ケーブルの送電圧、用途などによって違い、通常の技術者によって適切に選択できる。例えば、本発明による直流電力ケーブルが海底ケーブルのように敷設性、可撓性などが要求される用途に使われる場合、前記中心導体10は単線よりは、柔軟性に優れた撚線からなることが好ましい。
【0032】
前記内部半導電層12は前記中心導体10と前記絶縁層14との間に配置され、前記中心導体10と前記絶縁層14間の浮き上がりを引き起こす空気層をなくし、局部的な電界集中を緩和させるなどの機能を果たす。一方、前記外部半導電層16は、前記絶縁層14に均等な電界がかかるようにする機能、局部的な電界集中の緩和及び外部からケーブル絶縁層を保護する機能を果たす。
【0033】
通常、前記内部半導電層12及び外部半導電層16はベース樹脂にカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノプレート、グラファイトなどの伝導性粒子が分散されており、架橋剤、酸化防止剤、スコッチ抑制剤などがさらに添加された半導電組成物の押出しによって形成される。
【0034】
ここで、前記ベース樹脂は、前記半導電層12、16と前記絶縁層14間の層間接着力のために、前記絶縁層14を形成する絶縁組成物のベース樹脂と類似した系のオレフィン樹脂を使うことが好ましく、より好ましくは前記伝導性粒子との相溶性を考慮して、オレフィンと極性単量体、例えばエチレンビニルアセテート(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンメチルメタクリレート(EMMA)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、エチレンエチルメタクリレート(EEMA)、エチレン(イソ)プロピルアクリレート(EPA)、エチレン(イソ)プロピルメタクリレート(EPMA)、エチレンブチルアクリレート(EBA)、エチレンブチルメタクリレート(EBMA)などを使うことが好ましい。
【0035】
また、前記架橋剤は、前記半導電層12、16に含まれたベース樹脂の架橋方式によってシラン系架橋剤、又はジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドなどの有機過酸化物系架橋剤であってもよい。
【0036】
本発明者は、前記内部半導電層12及び前記外部半導電層16を形成する半導電組成物に含まれるベース樹脂として、オレフィンと極性単量体の共重合樹脂及び/又は極性単量体が前記半導電層12と前記絶縁層14間の界面を通して前記絶縁層14の内部に移動することによって前記絶縁層14の空間電荷の蓄積をもっと加重させ、また前記半導電層12、16の架橋時に生成される架橋副産物が前記半導電層12と前記絶縁層14間の界面を通して前記絶縁層14の内部に移動し、これによって前記絶縁層14の内部に異種電荷(heterocharge)を蓄積させて電界の歪みを加重させることによって前記絶縁層14の絶縁破壊電圧を低下させる問題を引き起こすことを実験的に確認することによって本発明を完成した。
【0037】
特に、本発明による直流電力ケーブルにおいて、下記の数学式1によって定義される前記絶縁層14の電界集中係数(Field Enhancement Factor;FEF)が100~150%であってもよい。
【数2】
ここで、本発明者は、前記絶縁層14の電界集中係数(FEF)が150%を超える場合、前記絶縁層14内に空間電荷が過度に蓄積して電界が大きく歪むことを実験的に確認することによって本発明を完成した。
【0038】
参考までに、前記絶縁層14の電界集中係数(FEF)は、厚さが約120μmであり、前記絶縁層14を形成する絶縁組成物から形成された絶縁フィルム、及び前記絶縁フィルムの上面及び下面にそれぞれ接着され、それぞれの厚さが約50μmであり、前記半導電層12を形成する半導電組成物から形成された半導電フィルムを含む試片において、前記絶縁フィルムに50kV/mmのDC電界を1時間印加する過程で印加された電界に対する、増加した電界値の中で最大値の比率を計算することによって測定することができる。
【0039】
具体的に、本発明による直流電力ケーブルにおいて、前記半導電層12を形成する半導電組成物は、その総重量を基準に、オレフィンと極性単量体の共重合樹脂の含量が約60~70重量%、前記共重合樹脂の総重量を基準に、前記極性単量体の含量が1~18重量%、好ましくは1~12重量%に精密に調節されることができる。
【0040】
ここで、前記極性単量体の含量が18重量%を超える場合、前記絶縁層14の空間電荷の蓄積が大きく加速化する反面、前記極性単量体の含量が1重量%未満の場合、前記ベース樹脂と前記伝導性粒子の相溶性が低下して前記半導電層12、16の押出性が低下し、半導電特性が具現されないこともある。
【0041】
また、本発明による直流電力ケーブルにおいて、前記半導電層12を形成する半導電組成物は、そのベース樹脂100重量部を基準に、前記架橋剤の含量が0.1~5重量部、好ましくは0.1~1.5重量部に精密に調節されることができる。
【0042】
ここで、前記架橋剤の含量が5重量部を超える場合、前記半導電組成物に含まれたベース樹脂の架橋時に必須に生成される架橋副産物の含量が余りにも多く、このような架橋副産物が前記半導電層12、16と前記絶縁層14間の界面を通して前記絶縁層14の内部に移動して異種電荷(heterocharge)を蓄積して電界の歪みを加重させて前記絶縁層14の絶縁破壊電圧を低下させる問題を引き起こすことができる反面、0.1重量部未満の場合、架橋度が十分でなくて前記半導電層12、16の機械的特性、耐熱性などが不十分になることがある。
【0043】
そして、本発明による直流電力ケーブルにおいて、前記内部及び外部半導電層12、14を形成する半導電組成物は、そのベース樹脂100重量部を基準に、カーボンブラックなどの伝導性粒子を45~70重量部含むことができる。前記伝導性粒子の含量が45重量部未満の場合、十分な半導電特性が具現されることができない反面、70重量部を超える場合、前記内部及び外部半導電層12、14の押出性が低下して表面特性が低下するかケーブルの生産性が低下する問題がある。
【0044】
前記内部及び外部半導電層12、16の厚さはケーブルの送電圧によって違える。例えば、345kV電力ケーブルの場合、前記内部半導電層12の厚さは1.0~2.5mmであってもよく、前記外部半導電層16の厚さは1.0~2.5mmであってもよい。
【0045】
前記絶縁層14は、例えばベース樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂であってもよく、好ましくはポリエチレン樹脂を含む絶縁組成物の押出しによって形成されることができる。
【0046】
前記ポリエチレン樹脂は、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線形低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又はこれらの組合せであってもよい。また、前記ポリエチレン樹脂は、単独重合体、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-オレフィンとランダム又はブロック共重合体、又はこれらの組合せであってもよい。
【0047】
また、前記絶縁層14を形成する絶縁組成物は架橋剤を含むことにより、前記絶縁層14は、押出しの際又は押出しの後、別途の架橋工程によって架橋ポリオレフィン(XLPO)、好ましくは架橋ポリエチレン(XLPE)からなることができる。また、前記絶縁組成物は、酸化防止剤、押出性向上剤、架橋助剤などのその他の添加剤をさらに含むことができる。
【0048】
前記絶縁組成物に含まれる架橋剤は前記半導電組成物に含まれる架橋剤と同一であってもよく、例えば前記ポリオレフィンの架橋方式によって、シラン系架橋剤、又はジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドなどの有機過酸化物系架橋剤であってもよい。ここで、前記絶縁組成物に含まれる架橋剤は、前記ベース樹脂100重量部を基準に、0.1~5重量部含まれることができる。
【0049】
前記絶縁層14は、これと接触する前記半導電層12、16に含まれるベース樹脂の極性単量体含量及び架橋剤含量の精密な制御によって前記絶縁層14と前記半導電層12、16間の界面での異種電荷(heterocharge)の生成を抑制し空間電荷の蓄積を低減させることができ、空間電荷低減のための酸化マグネシウムなどの無機粒子を含まないか前記無機粒子の含量を大きく低下させることができるので、前記無機粒子による絶縁層14の押出性の低下及びインパルス強度の低下を抑制することができる。
【0050】
前記絶縁層14の厚さは電力ケーブルの送電圧によって違える。例えば、345kV電力ケーブルの場合、前記絶縁層14の厚さは23.0~31.0mmであってもよい。
【0051】
前記ジャケット層20は、ポリエチレン、ポリビニルクロリド、ポリウレタンなどを含むことができ、例えばポリエチレン樹脂からなることが好ましく、ケーブルの最外側に配置される層であるので、機械的強度を考慮すると、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂からなることがより好ましい。また、前記ジャケット層20は、前記直流電力ケーブルの色相を具現するために、カーボンブラックなどの添加剤を少量、例えば2~3重量%含むことができ、例えば0.1~8mmの厚さを有することができる。
【0052】
[実施例]
1.試片製造例
PEA(pulsed electro acoustic)評価のために、以下の図に示したような絶縁薄膜フィルム及び絶縁+半導電薄膜フィルムをそれぞれ製造した。
【0053】
【0054】
具体的に、絶縁薄膜フィルムは、ポリエチレン樹脂、過酸化物架橋剤、その他の添加剤を含む絶縁組成物を120℃で5分間加熱圧縮して薄膜フィルムを製造し、180℃で8分間架橋した後、120℃に冷却し、さらに室温に冷却した。製造された絶縁薄膜フィルムの厚さは約120μmであった。
【0055】
一方、絶縁+半導電薄膜フィルムは、ポリエチレン樹脂、過酸化物架橋剤、その他の添加剤を含む絶縁組成物を120℃で5分間加熱圧縮して薄膜フィルムを製造し、ブチルアクリレート(BA)を含む樹脂、過酸化物架橋剤、その他の添加剤を含む半導電組成物を120℃で5分間加熱圧縮して半導電薄膜フィルムを製造し、前記半導電薄膜フィルムを前記絶縁薄膜フィルムの前面及び後面に付着し、120℃で5分間さらに溶融させて互いに熱的に結合させた後、180℃で8分間架橋した後、120℃に冷却し、さらに室温に冷却した。製造された絶縁薄膜フィルム及び半導電薄膜フィルムの厚さはそれぞれ約120μm及び約50μmであった。
【0056】
ここで、前記半導電組成物は、樹脂の総重量を基準に、ブチルアクリレート(BA)の含量が17重量%である半導電(SC-a)薄膜フィルム、及びブチルアクリレート(BA)の含量が3重量%である半導電(SC-b)薄膜フィルムがそれぞれ適用された絶縁+半導電薄膜フィルムを製造した。
【0057】
また、FT-IR評価のためには、もっと厚いフィルムを製造し、絶縁薄膜フィルムの厚さは20mm、半導電薄膜フィルムの厚さは1mmに製造した。そして絶縁+半導電薄膜フィルムは、半導電フィルムが絶縁フィルムの一面にのみ結合され、1mm厚さのミクロトーム(microtome)で断面を切断した。そして、前記絶縁薄膜フィルム、前記絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルム及び前記絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルムのそれぞれを真空及び70℃で5日間脱ガス化して架橋副産物を除去したフィルムも追加的に製造した。
【0058】
1.物性評価
1)FT-IR評価
絶縁フィルムと半導電フィルム間のアクリレート及び架橋副産物の移行可否を判断するために、4cm
-1の解像度で64スキャンにかけて4000~650cm
-1のスペクトルデータ(spectral data)を収集した。FT-IR評価は、マイクロスコープ及びMCT検出器を備えたVarian 7000e装備で遂行した。評価結果は
図3に示した通りである。
【0059】
図3に示したように、脱ガス化によって架橋副産物が除去されていないフィルムとして、絶縁薄膜フィルム(a)、絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルム(c)及び絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルム(e)は架橋副産物の一つであるアセトフェノンを示す1694.3cm
-1のピークが観察された反面、脱ガス化によって架橋副産物が除去されたフィルムとして、絶縁薄膜フィルム(b)、絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルム(d)及び絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルム(f)は架橋副産物の一つであるアセトフェノンを示す1694.3cm
-1のピークが観察されないことから、半導電フィルムから絶縁フィルムに架橋副産物が移行されることが確認された。
【0060】
また、半導電フィルムが結合されていない絶縁薄膜フィルム(a、b)はアクリレート樹脂を示す1735.6cm-1のピークが観察されない反面、半導電フィルムが結合された絶縁+半導電薄膜フィルム(c、d、e、f)はアクリレート樹脂を示す1735.6cm-1のピークが観察された。特に、半導電フィルムに結合された、アクリレート含量の相対的に低い絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルムに比べ、半導電フィルムに結合された、アクリレート含量の相対的に高い絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルムでアクリレート樹脂を示す1735.6cm-1のピークが大きいことから、半導電フィルムから絶縁フィルムへのアクリレート樹脂の移行が大きいことが確認された。
【0061】
2)異種電荷と空間電荷の挙動及び電界集中係数の評価
前記製造された絶縁薄膜フィルム、絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルム及び絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルムに対してPEA(pulsed electro acoustic)評価を遂行した。具体的に、前記フィルムに対し、室温で50kV/mmのDC電界を1時間印加した後、電界印加を中断し、1時間の間に短絡させる。DC電界を印加した場合と短絡させた場合、LabViewプログラムを用いて電荷密度を測定した。測定結果は
図4に示した通りである。
【0062】
また、時間別電荷密度を示す
図4のグラフから電界(Electric field)を示す積分値を計算し、積分値の中で最大値を選別して前記数学式1の電界集中係数(FEF)を計算した。試片(a)、(c)及び(e)に対する時間別に増加した電界測定結果及び電界集中係数(FEF)の計算結果は下記の表1に示した通りである。下記の表1に記載した数値は特別に表示された場合を除き、電界値を示すkV/mmである。
【表1】
【0063】
図4に示したように、絶縁薄膜フィルムは半導電薄膜フィルムと結合されていないから、前記半導電薄膜フィルムの架橋時に発生した架橋副産物が絶縁薄膜フィルム側に移動しなくて異種電荷(heterocharge)が形成されなく、半導電薄膜フィルムのブチルアクリレート(BA)が絶縁薄膜フィルム側に移動しないから、DC電界が印加された(a)及びDC電界印加が中断された(b)で空間電荷の蓄積が少ないことが確認され、これによって電界集中係数(FEF)も低いことが確認された。
【0064】
一方、
図4に示したピーク(peak)の数によって、絶縁+半導電薄膜フィルムは半導電薄膜フィルムの架橋時に発生した架橋副産物が絶縁薄膜フィルム側に移動して絶縁薄膜フィルムと半導電薄膜フィルム間の界面付近に異種電荷が形成され、半導電薄膜フィルムのブチルアクリレート(BA)が絶縁薄膜フィルム側に移動し、DC電界の印加された(c)(SC-a)と(e)(SC-b)及びDC電界の印加が中断された(d)(SC-a)と(f)(SC-b)で絶縁薄膜フィルムと半導電薄膜フィルム間の界面付近に空間電荷が相対的に多く蓄積され、これによって電界集中係数(FEF)も相対的に高いことが確認され、特にブチルアクリレート(BA)の含量が高い絶縁+半導電(SC-a)薄膜フィルムの場合、ブチルアクリレート(BA)の含量が相対的に低い絶縁+半導電(SC-b)薄膜フィルムに比べ、空間電荷が相対的に多く蓄積されたことが確認され、これによって電界集中係数(FEF)も相対的に大きいことが確認された。
【0065】
本明細書は本発明の好適な実施例を参照して説明したが、当該技術分野の当業者は以下で記述する特許請求範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更して実施することができるであろう。したがって、変形実施が基本的に本発明の特許請求範囲の構成要素を含むならばいずれも本発明の技術的範疇に含まれると見なさなければならない。