(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099362
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/94 20060101AFI20220628BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20220628BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B60T8/94
B60T17/22 Z
B60T13/138 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213066
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB06
3D048CC54
3D048HH15
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH53
3D048HH70
3D048QQ07
3D048RR11
3D049BB03
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3D049QQ04
3D049RR05
3D246BA02
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3D246GA01
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA43A
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3D246JB12
3D246LA04Z
3D246LA33Z
3D246LA61Z
3D246LA62Z
3D246LA73Z
3D246MA05
3D246MA16
3D246MA23
(57)【要約】
【課題】電動シリンダでピストンのロック故障が発生した場合でも、下流ユニットによる助勢制御が可能となる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】本発明は、ピストン23の位置に応じてリザーバ45と第2液圧出力部32とを液圧的に接続または遮断し、ピストン23の摺動に応じてフルードを出力する電動シリンダ2と、電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であるか否かを判断する故障判断部92と、を備え、制御部93は、故障判断部92により電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉じた状態で第1液圧出力部31に第1ホイルシリンダ81、82に向けて液圧を出力させ、第2液圧出力部32に第2ホイルシリンダ83、84に向けて液圧を出力させない特定助勢制御を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバと第1ホイルシリンダを接続する第1液路に設けられていて、前記リザーバ側と前記第1ホイルシリンダ側に選択的に液圧を出力可能な第1液圧出力部と、
前記第1液路において前記リザーバと前記第1液圧出力部との間に設けられているマスタシリンダと、
前記リザーバと第2ホイルシリンダを接続する第2液路に設けられていて、前記リザーバ側と前記第2ホイルシリンダ側に選択的に液圧を出力可能な第2液圧出力部と、
前記第2液路において前記リザーバと前記第2液圧出力部との間に設けられていて、シリンダと前記シリンダ内で摺動するピストンとを有し、前記ピストンの位置に応じて前記リザーバと前記第2液圧出力部とを液圧的に接続または遮断し、前記ピストンの摺動に応じてフルードを出力する電動シリンダと、
前記電動シリンダから出力されたフルードが供給される液路であって、前記第1液路において前記マスタシリンダと前記第1液圧出力部との間の部分に接続された連通路に設けられている連通制御弁と、
前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であるか否かを判断する故障判断部と、
前記第1液圧出力部と前記第2液圧出力部と前記連通制御弁とを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記故障判断部により前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、前記連通制御弁を閉じた状態で前記第1液圧出力部に前記第1ホイルシリンダに向けてフルードを出力させ、前記第2液圧出力部に前記第2ホイルシリンダに向けてフルードを出力させない特定助勢制御を実行する、車両用制動装置。
【請求項2】
前記故障判断部は、前記リザーバと前記第2液圧出力部が前記電動シリンダを介して液圧的に接続されているか否かを判断し、
前記制御部は、
前記故障判断部により前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であると判断され且つ前記リザーバと前記第2液圧出力部とが液圧的に遮断されていると判断されている場合、
前記制動力を増大させるにあたり、前記特定助勢制御ではなく、前記連通制御弁を開けた状態で、前記第1液圧出力部に前記第1ホイルシリンダに向けて液圧を出力させ且つ前記第2液圧出力部に前記第2ホイルシリンダに向けて液圧を出力させる遮断時助勢制御を実行し、
前記遮断時助勢制御において、前記第2液圧出力部に前記リザーバに向けて液圧を出力させる場合には、前記連通制御弁を開弁させる、請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記故障判断部は、前記リザーバと前記第2液圧出力部が前記電動シリンダを介して液圧的に接続されているか否かを判断し、
前記制御部は、
前記故障判断部により前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であると判断され且つ前記リザーバと前記第2液圧出力部とが前記電動シリンダを介して液圧的に接続されていると判断されている場合、
前記制動力を増大させるにあたり、前記特定助勢制御ではなく、前記連通制御弁を閉じた状態で、前記第1液圧出力部に前記第1ホイルシリンダに向けて液圧を出力させ且つ前記第2液圧出力部に前記第2ホイルシリンダに向けて液圧を出力させる連通時助勢制御を実行し、、
前記連通時助勢制御において、前記第1液圧出力部と前記第2液圧出力部の少なくとも一方に、前記リザーバに向けて液圧を出力させる場合、前記連通制御弁を閉弁させる、請求項1又は2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記故障判断部は、前記リザーバと前記第2液圧出力部が前記電動シリンダを介して液圧的に接続されているか否かを判断し、
前記制御部は、前記故障判断部により前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であると判断され且つ前記リザーバと前記第2液圧出力部とが前記電動シリンダを介して液圧的に接続されているか否かが判断できない場合、前記制動力を増大させるにあたり、前記特定助勢制御を実行する、請求項1~3の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許6202741号公報で開示されているブレーキシステムは、リザーバと電動シリンダとホイルシリンダとを備えている。このシステムにおいて、リザーバとホイルシリンダとは、電動シリンダを介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記システムでは、例えば電動シリンダに電気的故障が発生した場合、電動シリンダの制御を禁止し、切替弁を非通電状態としてマスタシリンダと第1系統のホイルシリンダとを連通状態とし、且つマスタシリンダと第2系統のホイルシリンダとを遮断状態とすることが可能である。例えば、この状態で、ブレーキペダルの操に応じてESC装置(アクチュエータ)を作動させることで、第1系統のホイルシリンダにマスタシリンダから吸引したフルードを供給し、第2系統のホイルシリンダに電動シリンダを介してリザーバから吸引したフルードを供給することができる。このようにすることで、電動シリンダに故障が発生した場合でも制動力を増大させることができる。
【0005】
しかしながら、上記システムにおいて、電動シリンダの故障が電気的失陥ではなく、例えば減速ギヤのロック等によりピストンが液圧室(チャンバ)とリザーバとの連通を遮断する位置でロックした場合、第2系統のホイルシリンダに対して増圧は可能だが減圧が不可能となる。具体的に、上記システムが、ピストンロックを検出して電動シリンダによる調圧を禁止し、ESC装置による助勢制御を行おうとすると、第2系統のホイルシリンダには電動シリンダのシール部材(ゴムカップ)を介してリザーバから吸引されたフルードが供給される。しかし、第2系統のホイルシリンダを減圧しようとしても、電動シリンダのシール部材では、液圧室からリザーバへのフルードの流通が遮断され、当該ホイルシリンダを減圧することができない。
【0006】
本発明の目的は、電動シリンダでピストンのロック故障が発生した場合でも、下流ユニットによる助勢制御が可能となる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制動装置は、リザーバと第1ホイルシリンダを接続する第1液路に設けられていて、前記リザーバ側と前記第1ホイルシリンダ側に選択的に液圧を出力可能な第1液圧出力部と、前記第1液路において前記リザーバと前記第1液圧出力部との間に設けられているマスタシリンダと、前記リザーバと第2ホイルシリンダを接続する第2液路に設けられていて、前記リザーバ側と前記第2ホイルシリンダ側に選択的に液圧を出力可能な第2液圧出力部と、前記第2液路において前記リザーバと前記第2液圧出力部との間に設けられていて、シリンダと前記シリンダ内で摺動するピストンとを有し、前記ピストンの位置に応じて前記リザーバと前記第2液圧出力部とを液圧的に接続または遮断し、前記ピストンの摺動に応じてフルードを出力する電動シリンダと、前記電動シリンダから出力されたフルードが供給される液路であって、前記第1液路において前記マスタシリンダと前記第1液圧出力部との間の部分に接続された連通路に設けられている連通制御弁と、前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であるか否かを判断する故障判断部と、前記第1液圧出力部と前記第2液圧出力部と前記連通制御弁とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記故障判断部により前記電動シリンダのピストン位置が制御不能状態であると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、前記連通制御弁を閉じた状態で前記第1液圧出力部に前記第1ホイルシリンダに向けてフルードを出力させ、前記第2液圧出力部に前記第2ホイルシリンダに向けてフルードを出力させない特定助勢制御を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ピストンのロック故障が発生してピストン位置を制御不能である場合、マスタシリンダを介してリザーバと液圧的に接続可能な第1ホイルシリンダは第1液圧出力部により加圧され、電動シリンダのピストン位置が制御不能であるためにリザーバと液圧的に連通していない可能性がある第2ホイルシリンダは加圧されない。第1ホイルシリンダの加圧により制動力は増大する。
【0009】
また、リザーバとマスタシリンダとは液圧的に連通可能であり、第1液圧出力部は、第1ホイルシリンダ内のフルードをマスタシリンダ及びリザーバに戻すことができる。つまり、第1液圧出力部の作動により、第1ホイルシリンダの減圧(制動力の減少)も可能である。第2ホイルシリンダは電動シリンダのピストン位置が制御不能であるために電動シリンダを介してリザーバと液圧的に接続されていない可能性があるが、ピストン位置を制御不能である場合に第2ホイルシリンダは加圧されないため減圧は不要である。したがって、電動シリンダでピストンのロック故障が発生した場合でも、後に減圧が可能な第1ホイルシリンダに対して下流ユニットの1つである第1液圧出力部が助勢制御(制動力調整)を行うことで制動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図4】本実施形態の制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図5】本実施形態の制御の別例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本実施形態の下流ユニットの別例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
図1に示すように、本実施形態の車両用制動装置1は、上流ユニット11と、下流ユニット3と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、を備えている。車両用制動装置1は、車両の車輪に設けられた第1ホイルシリンダ81、82及び第2ホイルシリンダ83、84にフルードを供給可能な装置である。例えば、第1ホイルシリンダ81、82は前輪に設けられ、第2ホイルシリンダ83、84は後輪に設けられる。第1ブレーキECU901は、少なくとも上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU902は、少なくとも下流ユニット3を制御する。
【0012】
(上流ユニット)
上流ユニット11は、マスタシリンダ装置4と、ストロークシミュレータ43と、シミュレータカット弁44と、リザーバ45と、第1液路51と、電動シリンダ2と、第2液路52と、連通路53と、マスタカット弁62と、連通制御弁61と、ストロークセンサ71と、圧力センサ72、73と、レベルスイッチ74と、を備えている。
図1は、車両用制動装置1の非通電状態を示す。
【0013】
マスタシリンダ装置4は、ドライバ操作に応じて液圧を発生可能な装置である。マスタシリンダ装置4は、マスタシリンダ41と、マスタピストン42と、マスタ室41aと、付勢部材41bと、を備えている。マスタシリンダ41は、有底円筒状の部材又は部分である。マスタシリンダ41には、入力ポート411と出力ポート412が形成されている。入力ポート411と出力ポート412については後述する。
【0014】
マスタピストン42は、マスタシリンダ41内に配置されたピストン部材であり、ブレーキペダルZと機械的に接続されている。マスタピストン42は、ブレーキペダルZの操作に応じてマスタシリンダ41内で摺動する。マスタピストン42には貫通孔421が形成されている。マスタピストン42は、後述する付勢部材41bによって初期位置に向けて付勢されている。初期位置とは、マスタ室41aの容積が最大となる場合のマスタピストン42の位置である。マスタピストン42が初期位置に位置する場合、貫通孔421と入力ポート411とは連通する。
【0015】
マスタ室41aは、マスタシリンダ41とマスタピストン42とにより、マスタシリンダ41内に形成されている。本実施形態では、マスタシリンダ41内に形成されたマスタ室41aの数は1つである。マスタ室41aの容積は、マスタピストン42の移動に応じて変化する。マスタピストン42が軸方向一方側に移動すると、マスタ室41aの容積が小さくなり、マスタ室41aの液圧(以下「マスタ圧」という)が増大する。
【0016】
付勢部材41bは、マスタ室41a内に設けられたバネ部材である。マスタピストン42に対して力が作用していない状態では、マスタピストン42は初期位置に位置する。ストロークシミュレータ43は、シミュレータカット弁44を介してマスタシリンダ装置4に接続されている。ストロークシミュレータ43は、ブレーキペダルZの操作に対して反力(負荷)を発生させる装置である。ストロークシミュレータ43は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を含む。ストロークシミュレータ43は液路43aを介してマスタシリンダ41の出力ポート412に接続されている。
【0017】
シミュレータカット弁44は、液路43aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。後述するマスタカット弁62が閉弁し且つシミュレータカット弁44が開弁した状態でブレーキペダルZが操作された場合、ストロークシミュレータ43によってペダル反力が発生する。
【0018】
リザーバ45は、フルードを貯留する。リザーバ45内の圧力は大気圧に保たれている。リザーバ45の内部には、各々にフルードが貯留された2つの貯留室451、452が形成されている。
【0019】
貯留室451はマスタシリンダ装置4に接続されている。詳細には、貯留室451はマスタシリンダ41の入力ポート411と接続されている。マスタピストン42が初期位置に位置する場合、貯留室451は入力ポート411と貫通孔421とを介してマスタ室41aに液圧的に接続される。マスタピストン42が所定量摺動した場合、入力ポート411と貫通孔421とは液圧的に非接続となる。この場合、マスタ室41aとリザーバ45とは液圧的に遮断される。貯留室452は第2液路52(後述するリザーバ液路522)を介して電動シリンダ2に接続されている。リザーバ45は、2つの貯留室でなく、2つの別々のリザーバで構成されてもよい。
【0020】
第1液路51は、マスタシリンダ装置4及び下流ユニット3(第1液圧出力部31)を介して、リザーバ45(貯留室451)と第1ホイルシリンダ81、82とを接続する液路である。以下、第1液路51のうちマスタシリンダ装置4と下流ユニット3とを接続する部分を「第1接続液路511」と称し、下流ユニット3と第1ホイルシリンダ81、82とを接続する部分を「第1下流液路512」と称する。マスタ室41aとリザーバ45とが液圧的に非接続な状態で、マスタピストン42がマスタ室41aを小さくするように摺動した場合、マスタ室41aから出力ポート412を介して第1接続液路511にフルードが供給され、第1接続液路511に液圧が発生する。マスタ室41aで発生された液圧は第1接続液路511を介して下流ユニット3に供給される。第1接続液路511は、後述する連通路53と接続されている接続部50を含む。第1接続液路511には、マスタカット弁62と圧力センサ72とが設けられている。
【0021】
マスタカット弁62は、第1液路51において、接続部50とマスタシリンダ41との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。マスタカット弁62が閉弁されている場合、マスタシリンダ装置4と下流ユニット3とは液圧的に遮断される。
【0022】
圧力センサ72は、第1液路51において、マスタカット弁62とマスタシリンダ41との間に設けられている。圧力センサ72は、第1接続液路511内の圧力を検出する。マスタカット弁62が閉弁されている状態で圧力センサ72が検出する圧力は、マスタ室41a内で発生している圧力であるマスタ圧に相当する。
【0023】
電動シリンダ2は、シリンダ21と、電気モータ22と、ピストン23と、液圧室24と、付勢部材25と、を有する。電動シリンダ2は、シリンダ21内に単一の液圧室24が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。以下、電動シリンダ2の説明において、液圧室24の容積が小さくなるピストン23の移動方向を前方とし、その反対方向を後方とする。
【0024】
シリンダ21は、有底筒状の部材又は部分である。シリンダ21は、例えばハウジング(金属ブロック)の一部を利用して形成されている。シリンダ21には、入力ポート211及び出力ポート212が形成されている。
図2に示すように、入力ポート211は開口部であり、シリンダ21に設けられたシール部材X1とシール部材X2との間に形成されている。シール部材X1とシール部材X2は環状シール部材であり、それらの断面は前方に開口した凹形状(換言すると後方に膨らむ凸弧状)となっている。したがって、シール部材X1は、液圧室24が負圧になった場合、入力ポート211から液圧室24へのフルードの流れを許容し、液圧室24の圧力が大気圧以上である場合、液圧室24から入力ポート211へのフルードの流れを禁止する。シール部材X1、X2は、シリンダ21内周面に形成された環状溝に配置されている。出力ポート212は開口部であり、入力ポート211よりも前方に形成されている。入力ポート211と出力ポート212は夫々、少なくとも1つ形成されていればよい。
【0025】
電気モータ22は、回転運動を直線運動に変換する直動機構22aを介してピストン23に接続されている。ピストン23は有底円筒状部材であり、電気モータ22の駆動によりシリンダ21内を摺動する。ピストン23には貫通孔231が形成されている。貫通孔231はピストン23が初期位置に位置する場合、入力ポート211と連通する。
【0026】
液圧室24は、シリンダ21とピストン23により区画されており、ピストン23の移動に応じて容積が変化する。ピストン23の初期位置は、液圧室24の容積が最大となる位置である(
図2参照)。
【0027】
液圧室24は、入力ポート211を介してリザーバ45と連通可能である。詳細には、ピストン23が初期位置に位置する場合、貫通孔231と入力ポート211とを介してリザーバ45に液圧的に接続される。貫通孔231と入力ポート211とが連通していない場合、液圧室24とリザーバ45とは液圧的に遮断される。なお詳細には、ピストン23が前方に所定量移動したことに伴い入力ポート211と貫通孔231との連通が遮断された状態であっても、液圧室24内の液圧が負圧である場合には、シール部材X1を介してリザーバ45から液圧室24へのフルードの流れが許容される。しかし説明を分かりやすくするために本実施形態では、液圧室24内には負圧が発生していない例を用いて説明する。液圧室24は、出力ポート212を介して第2液路52(後述する第2接続液路521)に接続されている。
【0028】
付勢部材25は、液圧室24に配置され、ピストン23を初期位置に向けて付勢するバネである。電気モータ22が駆動していない場合、付勢部材25の付勢力によりピストン23は初期位置に位置する。
【0029】
ピストン23が初期位置に位置する場合、液圧室24は入力ポート211と貫通孔231と第2液路52(後述するリザーバ液路522)とを介してリザーバ45に接続される。電気モータ22の駆動によりピストン23が初期位置から前方に所定量移動した場合、入力ポート211と貫通孔231との連通は遮断される。この場合、液圧室24はリザーバ45と液圧的に遮断される。液圧室24とリザーバ45とが液圧的に遮断された状態でピストン23が液圧室24を小さくするように摺動した場合、液圧室24から出力ポート212を介してフルードが出力される。出力されたフルードは第2液路52(第2接続液路521)と連通路53(後述)に供給される。これにより第2液路52(第2接続液路521)と連通路53のそれぞれに液圧が発生する。
【0030】
電動シリンダ2は、ピストン23のシリンダ21に対する相対位置が所定の開放位置である場合に入力ポート211がピストン23により開放され、ピストン23のシリンダ21に対する相対位置が所定の閉鎖位置である場合に入力ポート211がピストン23により閉鎖されるように構成されている。換言すると、ピストン23がシリンダ21内の「連通領域」に位置する場合、リザーバ45と液圧室24とが連通し、ピストン23がシリンダ21内の「遮断領域」に位置する場合、リザーバ45と液圧室24との接続が遮断される。ピストン23の可動領域のうち、連通領域は、ピストン23の初期位置と当該初期位置から所定量前方の位置(切替位置)との間の領域(初期位置含む)であり、遮断領域は、切替位置とシリンダ21の前端面との間の領域である。
【0031】
第2液路52は、電動シリンダ2及び下流ユニット3(第2液圧出力部32)を介して、リザーバ45(貯留室452)と第2ホイルシリンダ83、84とを接続する液路である。以下、第2液路52のうち電動シリンダ2と下流ユニット3とを接続する部分を「第2接続液路521」と称し、第2液路52のうち電動シリンダ2とリザーバ45とを接続する部分を「リザーバ液路522」と称し、下流ユニット3と第2ホイルシリンダ83、84とを接続する部分を「第2下流液路523」と称する。液圧室24で発生された液圧は、第2接続液路521を介して下流ユニット3に供給される。第2接続液路521には液圧センサ73が設けられている。
【0032】
液圧センサ73は、第2接続液路521内の圧力を検出するセンサである。車両用制動装置1の制御モードが後述するブレーキバイワイヤモード(以下「バイワイヤモード」という)である状態において、液圧センサ73が検出する液圧は、電動シリンダ2の出力圧に相当する。
【0033】
連通路53は、第1接続液路511と第2接続液路521とを接続する液路である。連通路53は接続部50で第1液路51と接続されている。連通路53には連通制御弁61が設けられている。連通制御弁61はノーマルクローズ型の電磁弁である。
【0034】
ストロークセンサ71は、ブレーキペダルZのストロークを検出する。本実施形態では、2つのストロークセンサ71が設けられている。2つのストロークセンサ71によって検出されたデータは、各ブレーキECU901、902に送信される。ブレーキECU901、902は、それぞれ対応するストロークセンサ71からストローク情報を取得する。
【0035】
レベルスイッチ74はリザーバ45に設けられていて、リザーバ45の液面レベルが所定位置未満になったことを検出する。レベルスイッチ74はリザーバ45の液面レベルが所定値未満となった場合、液面レベルが低下したことを示すデータを第1ブレーキECU901に送信する。
【0036】
(下流ユニット)
次に、
図3を参照して、下流ユニット3を説明する。下流ユニット3は、いわゆるESCアクチュエータ(ESC装置)であって、各ホイルシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。詳細には、下流ユニット3は、第1ホイルシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、第2ホイルシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備える。以下、下流ユニット3の説明において、下流ユニット3に対する上流ユニット11の位置を上流とし、下流ユニット3に対するホイルシリンダ81~84の位置を下流とする。
【0037】
第1液圧出力部31は、上流側で第1接続液路511に接続され、下流側で第1ホイルシリンダ81、82に接続されている。第2液圧出力部32は、上流側で第2接続液路521に接続され、下流側で第2ホイルシリンダ83、84に接続されている。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、下流ユニット3内で液圧回路上、互いに独立している。
【0038】
第1液圧出力部31には、第1接続液路511を介して上流ユニット11からフルードが供給される。第1液圧出力部31は、上流ユニット11が発生させた基礎液圧を基に、第1ホイルシリンダ81、82の液圧を増大可能に構成されている。第1液圧出力部31は、入力された液圧と第1ホイルシリンダ81、82の液圧との間に差圧を発生させることで第1ホイルシリンダ81、82を加圧するように構成されている。
【0039】
第1液圧出力部31は、液路311と、ポンプ液路315aと、圧力センサ75と、差圧制御弁312と、チェックバルブ312aと、保持弁313と、チェックバルブ313aと、減圧液路314aと、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、還流液路317aと、を備えている。
【0040】
液路311は、第1接続液路511と第1下流液路512とを接続する液路である。液路311は、ポンプ液路315aと接続された分岐部Xを含む。液路311は、分岐部Xで、一方の第1ホイルシリンダ81に接続する液路と他方の第1ホイルシリンダ82に接続する液路とに分岐する。液路311の2つの液路上の構成は同様であるため、第1ホイルシリンダ81に接続する液路のみを(液路311として)説明する。
【0041】
圧力センサ75は、液路311において差圧制御弁312よりも上流ユニット11側に設けられている。圧力センサ75は液路311内の圧力を検出する。圧力センサ75が検出する圧力は、第1接続液路511から第1液圧出力部31に入力される液圧に相当する。圧力センサ75によって検出されたデータは第2ブレーキECU902に送信される。
【0042】
差圧制御弁312は、液路311において、分岐部Xと圧力センサ75との間に設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度が制御されることで、差圧制御弁312を挟んだ上下流間に差圧を発生させることができる。チェックバルブ312aは、差圧制御弁312に対して並列に設けられている。チェックバルブ312aは、上流側から下流側に向けてのフルードの流通のみを許可するよう構成されている。
【0043】
保持弁313は、液路311において、分岐部Xと第1ホイルシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。チェックバルブ313aは、保持弁313に対して並列に設けられている。チェックバルブ313aは下流側から上流側に向けてのフルードの流通のみを許可するように構成されている。
【0044】
減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313と第1ホイルシリンダ81との間の部分と、リザーバ317とを接続する液路である。減圧液路314aには、減圧弁314が設けられている。
【0045】
減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧弁314が開弁状態の場合、第1ホイルシリンダ81内のフルードは減圧液路314aを介してリザーバ317に流入可能である。したがって、減圧弁314を開弁させることで、第1ホイルシリンダ81の圧力を減圧可能である。
【0046】
リザーバ317はフルードを貯留する周知の調圧リザーバであり、減圧液路314aおよび還流液路317aと接続されている。還流液路317aは、液路311において圧力センサ75と差圧制御弁312との間の部分と、リザーバ317とを接続する液路である。リザーバ317内のフルードは、ポンプ315の作動により吸入される。リザーバ317内のフルード量が減少すると、リザーバ317内の弁が開弁し、リザーバ317に還流液路317aを介して第1接続液路511からフルードが供給される。
【0047】
ポンプ液路315aは、減圧液路314aにおいて減圧弁314とリザーバ317との間の部分と、液路311の分岐部Xとを接続する液路である。ポンプ液路315aにはポンプ315が設けられている。
【0048】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動に応じて作動するポンプであり、例えば周知のピストンポンプやギアポンプである。ポンプ315の吸入側はリザーバ317と接続されていて、ポンプ315の吐出側は分岐部Xに接続されている。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のフルードを吸入して、分岐部Xにフルードを供給する。
【0049】
第1液圧出力部31は、各種電磁弁やポンプの作動により、上流側から入力された液圧を基に第1ホイルシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。第2液圧出力部32は圧力センサ75が設けられていない点を除き、第1液圧出力部31と同様の構成であるため、説明を省略する。第2液圧出力部32も第1液圧出力部31と同様に、基礎液圧を基に第2ホイルシリンダ83、84を加圧可能に構成されている。
【0050】
(構成のまとめ)
本実施形態の車両用制動装置1は、第1液圧出力部31、マスタシリンダ41、第2液圧出力部32、電動シリンダ2、連通制御弁61、第1ブレーキECU901、及び第2ブレーキECU902を備えている。第1液圧出力部31は、リザーバ45と第1ホイルシリンダ81、82を接続する第1液路51に設けられていて、リザーバ45側と第1ホイルシリンダ81、82側に選択的に液圧を出力可能な装置である。マスタシリンダ41は、第1液路51においてリザーバ45と第1液圧出力部31との間に設けられている。マスタシリンダ41を介してリザーバ45と第1液圧出力部31は液圧的に接続可能である。第2液圧出力部32は、リザーバ45と第2ホイルシリンダ83、84を接続する第2液路52に設けられていて、リザーバ45側と第2ホイルシリンダ83、84側に選択的に液圧を出力可能な装置である。電動シリンダ2は、第2液路52においてリザーバ45と第2液圧出力部32との間に設けられていて、シリンダ21とシリンダ21内で摺動するピストン23とを有し、ピストン23の位置に応じてリザーバ45と第2液圧出力部32とを液圧的に接続または遮断し、ピストン23の摺動に応じてフルードを出力する。連通制御弁61は、電動シリンダ2から出力されたフルードが供給される液路であって第1液路51におけるマスタシリンダ41と第1液圧出力部31との間の部分に接続された連通路53に設けられている。より詳細に、連通制御弁61は、第1液路51においてマスタシリンダ41と第1液圧出力部31との間の部分(すなわち第1接続液路511)と、第2液路52において電動シリンダ2と第2液圧出力部32との間の部分(すなわち第2接続液路521)とを接続する連通路53に設けられている。
【0051】
(ブレーキECU)
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU901、902は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0052】
第1ブレーキECU901は、上流ユニット11を制御可能に構成されている。詳細には、第1ブレーキECU901は、上流ユニットの複数のセンサ71、72、73、74によって検出されたデータに基づいて、電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44を制御可能である。第1ブレーキECU901は、圧力センサ72、73の検出結果及び下流ユニット3の制御状態に基づいて、各ホイル圧を演算することができる。
【0053】
第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75によって検出されたデータに基づいて、下流ユニット3を制御可能に構成されている。また第2ブレーキECU902は、車両に設けられた車輪速度センサ(図示略)や加速度センサ(図示略)等によって検出されたデータも受信する。第2ブレーキECU902は、下流ユニット3により第1ホイルシリンダ81を加圧する場合、差圧制御弁312に目標差圧(第1ホイルシリンダ81の液圧>第1接続液路511の液圧)に応じた制御電流を印加し、差圧制御弁312を閉弁させる。この際、保持弁313は開弁しており、減圧弁314は閉弁している。また、ポンプ315を作動させることで、第1接続液路511からリザーバ317を介して分岐部Xにフルードが供給される。これにより、第1ホイルシリンダ81が加圧される。
【0054】
第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等で下流ユニット3によりホイル圧を減圧する場合、減圧弁314を開弁させ且つ保持弁313を閉弁させた状態でポンプ315を作動させ、第1ホイルシリンダ81内のフルードをポンプバックさせる。第2ブレーキECU902は、下流ユニット3によりホイル圧を保持する場合、保持弁313及び減圧弁314を閉弁させる。電動シリンダ2又はマスタシリンダ装置4の作動のみによりホイル圧を加圧又は減圧する場合、第2ブレーキECU902は、差圧制御弁312及び保持弁313を開弁し、減圧弁314を閉弁させる。
【0055】
第2ブレーキECU902は、圧力センサ75及び下流ユニット3の制御状態に基づいて、各ホイル圧を演算することができる。なお、各種センサの検出値は、両方のブレーキECU901、902に送信されてもよい。
【0056】
車両用制動装置1は、通常制御を実行可能に構成されている。通常制御は、バイワイヤモードとも呼ばれる。通常制御において、上流ユニット11の出力圧は、電動シリンダ2で出力した液圧である。下流ユニット3は、上流ユニット11の出力圧に基づいて、ホイルシリンダ81~84に液圧を出力可能である。以下、通常制御について説明する。
【0057】
(通常制御)
第1ブレーキECU901は、電気モータ22等を含む上流ユニット11を制御する通常制御部91と、故障判断部92と、を備えている。通常制御部91は、通常制御を実行可能に構成されている。通常制御は、マスタシリンダ装置4とホイルシリンダ81~84とを液圧的に遮断し、電動シリンダ2と下流ユニット3との少なくとも一方によってホイルシリンダ81~84を加圧する制御である。通常制御は、準備制御と通常加圧制御とを含む。
【0058】
準備制御は、いわゆるバイワイヤモードを形成する制御である。準備制御では、通常制御部91は、マスタカット弁62を閉弁し、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を開弁させる。準備制御は、車両用制動装置1が設けられている車両が発進可能な状態になった場合に実行される。発進可能な状態になった場合とは、例えば、車両のイグニッションがオンされた場合や、電気自動車が起動された場合である。より詳細に、第1実施形態の準備制御は、第1ブレーキECU901が起動(電源オン)した場合に実行される。
【0059】
なお、準備制御は、車両のイグニッションがオンされた場合や、電気自動車が起動された場合ではなく、ブレーキペダルが操作された場合に実行されてもよい。この場合、ブレーキペダルが操作されている状態でバイワイヤモードが形成され、ブレーキペダルが操作されていない状態ではバイワイヤモードが形成されなくてもよい。
【0060】
通常加圧制御は、バイワイヤモード(準備制御が完了した状態)でホイルシリンダ81~84を加圧する制御である。通常加圧制御において、通常制御部91は、ストロークセンサ71及び圧力センサ72が検出したデータを基に、目標出力圧を設定する。設定された目標出力圧に基づいて、電動シリンダ2を制御する。第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等の実行に際して下流ユニット3を作動させる。このように通常制御では、設定された目標値を基に、電動シリンダ2と第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とが制御されることで、ホイルシリンダ81~84の液圧が調整可能となる。
【0061】
(電動シリンダの故障検出)
故障判断部92は、電動シリンダ2のピストン23の位置(「ピストン位置」ともいう)が制御不能状態であるか否かを判断する。さらに、本実施形態の故障判断部92は、当該判断結果に基づいてリザーバ45と第2液圧出力部32が電動シリンダ2を介して液圧的に接続されているか否かを判断する。故障判断部92は、少なくともピストン位置が制御不能状態であると判断した場合に、ピストン23の位置を推定する。
【0062】
より詳細に、故障判断部92は、電気モータ22に対して設けられた回転角センサ22bの検出結果に基づいて、電動シリンダ2のピストン23がロック(固着ともいえる)したか否かを判断する。回転角センサ22bは、電気モータ22の回転角(回転位置)を検出するセンサである。直動機構22aの一部を構成する減速ギヤがロックするなどにより、ピストン23が機械的にロックした場合(すなわちピストン23をシリンダ21に対して物理的に移動不能な状態になった場合)、電気モータ22への作動指示(制御電流)が出力されていても電気モータ22は回転せず、回転角センサ22bの検出値は変化しない。この原理を利用し、故障判断部92は、電気モータ22への制御指示内容と回転角センサ22bの検出結果に基づいて、ピストン23がロックしているか否かを判断することができる。以下、説明において、ピストン23が機械的にロックすることを「ピストンロック」とも称する
【0063】
また、故障判断部92は、回転角センサ22bの検出結果に基づいて、ピストン23がシリンダ21内のどこに位置しているかを推定することができる。つまり、故障判断部92は、回転角センサ22bの検出結果に基づいて、ピストン23がシリンダ21内の連通領域及び遮断領域のいずれに位置しているのかを推定することができる。したがって、故障判断部92は、ピストンロックを検出した場合、どの位置でピストン23がロックしたのかも推定することができる。ただし、例えば回転角センサ22bの検出結果が連通領域と遮断領域との境界(切替位置)付近を示している場合など、いずれの領域に位置するかの推定が困難な場合、故障判断部92の判断結果は「不明(位置判断不能)」となる。このように、故障判断部92は、ピストン23のロック位置について、「連通」、「遮断」、及び「不明」のうちいずれかを選択する。
【0064】
(ピストンロック時の助勢制御)
ブレーキECU901、902は、第1液圧出力部31と第2液圧出力部32と連通制御弁61とを制御する制御部93を備えている。ピストンロック時の助勢制御において、例えば、第1ブレーキECU901の制御部93は連通制御弁61を制御し、第2ブレーキECU902の制御部93は下流ユニット3を制御する。両ブレーキECU901、902は連携して各種制御を実行する。
【0065】
制御部93は、ブレーキ操作が開始され(ブレーキペダルZが踏み込まれ)、故障判断部92によりピストンロックが検出された場合、制御モードを助勢モードに設定する。助勢モードは、ピストンロック時に下流ユニット3による助勢制御を実行するモードである。助勢制御は、要求制動力に応じて下流ユニット3によりホイル圧を調整する制御である。助勢モード(以下に説明する各助勢制御)では、共通して、マスタカット弁62は開弁し、シミュレータカット弁44は閉弁している。
【0066】
(判断結果が「不明」である場合の助勢制御)
制御部93は、故障判断部92により電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であると判断され且つリザーバ45と第2液圧出力部32とが電動シリンダ2を介して液圧的に接続されていると判断されていない場合(本実施形態では判断結果が「不明」である場合のみ)、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉弁させた状態で第1液圧出力部31に第1ホイルシリンダ81、82に向けて液圧を出力させ、第2液圧出力部32に第2ホイルシリンダ83、84に向けて液圧を出力させない。つまり、制御部93は、故障判断部92によりピストン23のロック位置が不明であると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉じた状態で、第1液圧出力部31を作動させ、第2液圧出力部32を作動させない。
【0067】
この助勢制御では、第1液圧出力部31の作動によりマスタシリンダ41から第1ホイルシリンダ81、82にフルードが供給され、第1ホイルシリンダ81、82のみが加圧される。第1液圧出力部31は、ドライバのブレーキ操作により発生されるマスタ圧を基礎液圧として、第1ホイルシリンダ81、82を加圧する。
【0068】
リザーバ45(貯留室451)とマスタシリンダ41とは連通可能であり、第1液圧出力部31は、第1ホイルシリンダ81、82内のフルードをマスタシリンダ41及びリザーバ45に戻すことができる。つまり、制御部93は、第1液圧出力部31を作動させて、第1ホイルシリンダ81、82を減圧すること(制動力を減少させること)も可能である。以下、判断結果が「不明」である場合の助勢制御を「不明時助勢制御(「特定助勢制御」に相当する)」と称する。
【0069】
(判断結果が「遮断」である場合の助勢制御)
制御部93は、故障判断部92により電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であると判断され且つリザーバ45と第2液圧出力部32とが液圧的に遮断されていると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を開けた状態で、第1液圧出力部31に第1ホイルシリンダ81、82に向けて液圧を出力させ且つ第2液圧出力部32に第2ホイルシリンダ83、84に向けて液圧を出力させる。つまり、制御部93は、故障判断部92によりピストン23のロック位置が遮断領域と判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を開けた状態で、第1液圧出力部31及び第2液圧出力部32の両方を作動させる。
【0070】
この助勢制御では、第1液圧出力部31の作動によりマスタシリンダ41から第1ホイルシリンダ81、82にフルードが供給され、第2液圧出力部32の作動によりマスタシリンダ41から連通制御弁61を介して第2ホイルシリンダ83、84にフルードが供給される。第1液圧出力部31及び第2液圧出力部32は、それぞれ、ドライバのブレーキ操作により発生されるマスタ圧を基礎液圧として、対象のホイルシリンダ81~84を加圧する。これにより、すべてのホイルシリンダ81~84が加圧される。
【0071】
制御部93は、第1液圧出力部31を作動させて第1ホイルシリンダ81、82内のフルードをマスタシリンダ41及びリザーバ45(貯留室451)に戻すことで、第1ホイルシリンダ81、82を減圧することができる。また、制御部93は、第2ホイルシリンダ83、84を減圧する場合、連通制御弁61を開弁させることで、第2ホイルシリンダ83、84内のフルードを連通制御弁61を介してマスタシリンダ41及びリザーバ45(貯留室451)に戻すことができる。このように、制御部93は、第2液圧出力部32にリザーバ45に向けて液圧を出力させる場合には連通制御弁61を開弁させる。これにより、第2ホイルシリンダ83、84も減圧可能となる。このように、判断結果が「遮断」である場合の助勢制御(以下「遮断時助勢制御」という)において、すべてのホイルシリンダ81~84で加減圧可能である。
【0072】
本実施形態において、遮断時助勢制御の実行条件は、故障判断部92により「連通」と判断されていないこと(第1条件)と、故障判断部92により「遮断」と判断されていること(第2条件)を含んでいるといえる。2つの条件が満たされることで、遮断時助勢制御が実行される。故障判断部92により「連通」とも「遮断」とも判断されていない場合、すなわち第1条件のみが満たされている場合、判断不能時の助勢制御が実行される。
【0073】
(判断結果が「連通」である場合の助勢制御)
制御部93は、故障判断部92により電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であると判断され且つリザーバ45と第2液圧出力部32とが電動シリンダ2を介して液圧的に接続されていると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉じた状態で、第1液圧出力部31に第1ホイルシリンダ81、82に向けて液圧を出力させ且つ第2液圧出力部32に第2ホイルシリンダ83、84に向けて液圧を出力させる。つまり、制御部93は、故障判断部92によりピストン23のロック位置が連通領域と判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉じた状態で、第1液圧出力部31及び第2液圧出力部32の両方を作動させる。
【0074】
この助勢制御では、第1液圧出力部31の作動によりマスタシリンダ41から第1ホイルシリンダ81、82にフルードが供給され、第2液圧出力部32の作動によりリザーバ45(貯留室452)から電動シリンダ2を介して第2ホイルシリンダ83、84にフルードが供給される。連通制御弁61が閉じているため、第1液路51と第2液路52とは互いに独立している。
【0075】
第1液圧出力部31は、ドライバのブレーキ操作により発生されるマスタ圧を基礎液圧として、第1ホイルシリンダ81、82を加圧する。第2液圧出力部32は、リザーバ45(貯留室452)のフルードを利用して第2ホイルシリンダ83、84を加圧する。これにより、すべてのホイルシリンダ81~84が加圧される。
【0076】
制御部93は、不明時助勢制御と同様、連通制御弁61が閉じた状態で第1液圧出力部31を作動させて第1ホイルシリンダ81、82内のフルードをマスタシリンダ41及びリザーバ45(貯留室451)に戻すことで、第1ホイルシリンダ81、82を減圧することができる。また、制御部93は、第2ホイルシリンダ83、84を減圧する場合、連通制御弁61を閉じた状態で、第2液圧出力部32を作動させて、第2ホイルシリンダ83、84内のフルードを電動シリンダ2を介してリザーバ45(貯留室452)に戻すことができる。制御部93は、第1液圧出力部31と第2液圧出力部32の少なくとも一方に、リザーバ45に向けて液圧を出力させる場合、連通制御弁61を閉弁させる。このように、判断結果が「連通」である場合の助勢制御(以下「連通時助勢制御」という)においても、すべてのホイルシリンダ81~84で加減圧可能である。
【0077】
(制御の流れ)
図4を参照して本実施形態の制御の流れを説明する。
図4に示すように、ブレーキ操作が開始され、故障判断部92によりピストンロックが検出されているか否かが判断される(S100)。ピストンロックが検出されている場合(S100:Yes)、助勢モードが開始される(S101)。制御部93は、故障判断部92がピストン23の位置を判断(推定)可能か否かを確認する(S102)。制御部93は、故障判断部92により「不明(位置判断不能)」と判断されている場合(S102:No)、不明時助勢制御を実行する(S103)。
【0078】
故障判断部92により「連通」と判断されている場合(S102:Yes、S104:Yes)、制御部93は、連通時助勢制御を実行する(S105)。故障判断部92により「遮断」と判断されている場合(S102:Yes、S104:No)、制御部93は、遮断時助勢制御を実行する(S106)。このように、制御部93は、判断結果が「連通」である場合、不明時助勢制御でなく連通時助勢制御を実行し、判断結果が「遮断」である場合、不明時助勢制御でなく遮断時助勢制御を実行する。
【0079】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、ピストン23のロック故障が発生し、故障判断部92の判断結果が「リザーバ45と第2液圧出力部32とが連通している」でない場合(本実施形態では判断結果が「不明」である場合のみ)、第1ホイルシリンダ81、82のみが助勢制御により加圧され、リザーバ45と連通していない第2ホイルシリンダ83、84は加圧されない。第1ホイルシリンダ81、82の加圧により制動力(本実施形態では前輪の制動力)は増大する。
【0080】
また、第1液圧出力部31は、第1ホイルシリンダ81、82内のフルードをマスタシリンダ41及びリザーバ45に戻すことができる。つまり、第1液圧出力部31の作動により、第1ホイルシリンダ81、82の減圧(制動力の減少)も可能である。加圧されていない第2ホイルシリンダ83、84に対して減圧は不要となる。したがって、電動シリンダ2でピストン23のロック故障が発生した場合でも、下流ユニット3の1つである第1液圧出力部31による助勢制御(制動力調整)が可能となる。
【0081】
また、遮断時助勢制御及び連通時助勢制御でも、制御部93は、上記のとおり、ホイルシリンダ81~84を加減圧可能である。このように、本実施形態によれば、電動シリンダ2でピストン23のロック故障が発生した場合でも、下流ユニット3による助勢制御(制動力調整)が可能となる。
【0082】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、遮断時助勢制御が不明時助勢制御と同じ制御内容であってもよい。故障判断部92の判断結果が「リザーバ45と第2液圧出力部32とが連通している」ではない場合の例として、「不明」と「遮断」がある。上記実施形態では、「不明」の場合と「遮断」の場合とで異なる助勢制御が実行されるが、いずれの判断結果であっても不明時助勢制御が実行されるように設定されてもよい。例えば
図5に示すように、故障判断部92が「不明」と判断した場合(S202:No)又は「遮断」と判断した場合(S203:No)、制御部93は、不明時助勢制御を実行し、第1ホイルシリンダ81、82のみを加圧する(S204)。故障判断部92が「連通」と判断した場合(S203:Yes)、制御部93は、連通時助勢制御を実行する(S205)。これによっても、ピストン23のロック故障が発生した場合でも、下流ユニット3による助勢制御(制動力調整)が可能となる。なお、例えば故障判断部92がピストン23のロック位置を推定しない構成であれば、故障判断部92がピストンロックを検出した場合、制御部93が不明時助勢制御を実行してもよい。この構成の場合、助勢制御は不明時助勢制御(特定助勢制御)のみとなる。つまり、制御部93は、故障判断部92により電動シリンダ2のピストン位置が制御不能状態であると判断されている場合、制動力を増大させるにあたり、連通制御弁61を閉じた状態で第1液圧出力部31に第1ホイルシリンダ81、82に向けてフルードを出力させ、第2液圧出力部32に第2ホイルシリンダ83、84に向けてフルードを出力させない特定助勢制御を実行する。
【0083】
また、下流ユニット3は、例えば
図6に示すような構成(逆止弁の符号は省略する)であってもよい。上記実施形態と異なる部分について、第1液圧出力部31を例に以下に簡単に説明する。還流液路317aは、一方が第1接続液路511に接続され、他方がリザーバ317を介さずにポンプ315の吸入ポートに接続された液路である。還流液路317aには、ノーマルクローズ型の電磁弁318が配置されている。リザーバ317は、調圧リザーバのような弁機能がなく、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を備えるリザーバである。この下流ユニット3では、電磁弁318を開弁させることで、上流ユニット11とポンプ315の吸入ポートとを連通させることができる。電磁弁318が開弁した状態でポンプ315が作動すると、ポンプ315は、上流ユニット11からフルードを吸入して分岐部Xに吐出する。第2液圧出力部32は第1液圧出力部31と同構成である。
【0084】
このような下流ユニット3において、制御部93は、不明時助勢制御を実行する場合、第1液圧出力部31の電磁弁318を開弁させ、第2液圧出力部32の電磁弁318を開弁させない。これにより、減圧制御可能な第1液圧出力部31のみがフルードをマスタシリンダ41から吸入して第1ホイルシリンダ81、82に供給できる。また、制御部93は、遮断時助勢制御又は連通時助勢制御を実行する場合、第1液圧出力部31及び第2液圧出力部32の両方の電磁弁318を開弁させる。これにより、第1液圧出力部31及び第2液圧出力部32の両方が、それぞれ上流ユニット11からフルードを吸入することができる。
【0085】
また、電動シリンダ2に替えて、付勢部材25を備えない電動シリンダを採用してもよい。この場合、電気モータ22への通電構成が冗長構成となっていることが好ましい。また、下流ユニット3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
【0086】
また、上記実施形態では第1ホイルシリンダ81、82は前輪に設けられ、第2ホイルシリンダ83、84は後輪に設けられるとしていたが、第1ホイルシリンダ81、82は右前輪と左後輪に設けられ、第2ホイルシリンダ83、84は左前輪と右後輪に設けられるようにしてもよい。連通路53は、例えば、第1液路51と電動シリンダ2とを接続する液路であってもよい。この場合、連通路53は、電動シリンダ2を介して第1液路51と第2液路52とを接続するといえる。連通路53は、電動シリンダ2から出力されたフルードが直接又は第2液路52を介して供給される液路であるといえる。
【符号の説明】
【0087】
1…車両用制動装置、2…電動シリンダ、21…シリンダ、22…電気モータ、23…ピストン、24…液圧室、31…第1液圧出力部、32…第2液圧出力部、41…マスタシリンダ、45…リザーバ、51…第1液路、52…第2液路、53…連通路、61…連通制御弁、81、82…第1ホイルシリンダ、83、84…第2ホイルシリンダ、92…故障判断部、93…制御部。