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特開2022-9937撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法
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  • 特開-撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法 図1A
  • 特開-撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法 図1B
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  • 特開-撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009937
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20220106BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20220106BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C09K3/18 101
B32B5/02 Z
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179633
(22)【出願日】2021-11-02
(62)【分割の表示】P 2021507729の分割
【原出願日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2020018523
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 淳
(72)【発明者】
【氏名】三田 浩
【テーマコード(参考)】
4F100
4H020
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AA21B
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK17B
4F100AK45
4F100AK52B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02B
4F100CA23B
4F100DE01B
4F100DE04B
4F100DG12A
4F100EH46B
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB87
4F100JB06B
4F100JK09
4F100JL06
4H020AA01
4H020BA02
4H020BA31
(57)【要約】
【課題】非常に高い撥水性能を得ることができる撥水構造を提供する。
【解決手段】撥水構造10は、基材11と、その表面上に設けられた撥水層12とを備える。撥水層12は、撥水性粒子121と、それよりも平均粒子径が20倍以上大きい充填粒子122とを含有する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布と、
前記織布の表面上に設けられた撥水層と、
を備えた撥水構造であって、
前記撥水層は、撥水性粒子と、前記撥水性粒子よりも平均粒子径が大きい充填粒子と、を含有する撥水構造。
【請求項2】
撥水性粒子と、前記撥水性粒子よりも平均粒子径が20倍以上大きい充填粒子と、ポリオレフィンワックスと、を含有する撥水剤。
【請求項3】
請求項2に記載された撥水剤において、
バインダー樹脂をさらに含有する、撥水剤。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された撥水剤において、
フッ素樹脂をさらに含有する、撥水剤。
【請求項5】
請求項1に記載された撥水構造を製造する、製造方法。
【請求項6】
請求項2~4のいずれか1項に記載された撥水剤を製造する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水や氷の付着に起因する破損等を回避する手段として、種々の物品の表面に撥水処理が施される。例えば、特許文献1には、かかる撥水処理に用いられるコーティング剤組成物として、シリカ粒子、反応性シリコーンオリゴマー、シリケート化合物、有機酸化物、及び有機溶剤を含有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2018/066365A1
【発明の概要】
【0004】
本発明は、織布と、前記織布の表面上に設けられた撥水層とを備えた撥水構造であって、前記撥水層は、撥水性粒子と、前記撥水性粒子よりも平均粒子径が大きい充填粒子と、を含有する。
【0005】
本発明は、撥水性粒子と、前記撥水性粒子よりも平均粒子径が20倍以上大きい充填粒子と、ポリオレフィンワックスと、を含有する撥水剤である。
【0006】
本発明は、前記撥水構造の製造方法である。
【0007】
本発明は、前記撥水剤の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】実施形態に係る撥水構造の断面図である。
図1B】実施形態に係る撥水構造の表層の断面部分拡大図である。
図1C】実施形態に係る撥水構造の不織布の断面部分拡大図である。
図2】実施形態に係る撥水構造の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1A及びBは、実施形態に係る撥水構造10を示す。実施形態に係る撥水構造10は、基材11と、その基材11の表面上に設けられた撥水層12とを備える。
【0011】
基材11の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、金属、木、ガラス、樹脂、ゴム、織布、不織布等が挙げられる。基材11は、非常に高い撥水性能を得る観点から、樹脂又は不織布であることが好ましい。
【0012】
樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。樹脂は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、ポリカーボネート樹脂及び/又はポリ塩化ビニル樹脂を含むことがより好ましい。
【0013】
不織布としては、特に限定されるものではなく、公知の各種製法によって製造される不織布を用いることができ、例えば、スパンボンド製法により製造されたスパンボンド不織布等が挙げられる。
【0014】
不織布を形成する繊維としては、特に限定されるものではないが、合成繊維であることが好ましく、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。不織布を形成する繊維は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、ポリエステル繊維を含むことがより好ましい。ポリエステル繊維を含む繊維で形成された市販の不織布としては、例えば、旭化成社製のエルタスシリーズ等が挙げられる。
【0015】
不織布を形成する繊維の繊維径は、特に限定されるものではないが、優れた耐摩耗性を得る観点から、例えば5μm以上25μm以下である。
【0016】
不織布の目付は、撥水構造10の強度を確保するとともに、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは20g/m以上、より好ましくは50g/m以上、更に好ましくは100g/m以上であり、好ましくは800g/m以下である。
【0017】
基材11の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、シート状、板状、管状、塊状等が挙げられる。基材11における撥水層12が設けられる表面は、平滑面であっても、凹凸面であっても、どちらでもよい。
【0018】
撥水層12は、撥水性粒子121と、その撥水性粒子121よりも平均粒子径が大きい充填粒子122とを含有する。実施形態に係る撥水構造10によれば、撥水層12が、撥水性粒子121と、それよりも平均粒子径が大きい充填粒子122とを含有することにより、非常に高い撥水性能を得ることができる。これは、図1Bに示すように、充填粒子122間に撥水性粒子121が入り込むとともに、充填粒子122により形成される表面凹凸によって撥水性粒子121が存在できる表面積が拡大し、その表面に沿って多くの撥水性粒子121が分布することとなり、これによって撥水性粒子121による撥水性能が高められるためであると推測される。
【0019】
また、基材11が不織布である撥水構造10によれば、撥水層12が、不織布の表面上に設けられていることにより、優れた耐摩耗性を得ることができる。これは、図1Cに示すように、不織布を形成する繊維111間に撥水性粒子121が入り込んで、撥水性粒子121が繊維111を被覆することにより、不織布の耐久性が高められるためであると推測される。
【0020】
撥水性粒子121としては、例えば、ナノシリカ、未造粒カーボンブラック等が挙げられる。撥水性粒子121は、これらのナノシリカ及び未造粒カーボンブラックのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非黒色の非常に高い撥水性能を得る観点から、ナノシリカを含むことがより好ましい。
【0021】
本出願における「ナノシリカ」とは、平均粒子径(一次粒子径)が1μm未満のシリカ粒子を意味する。ナノシリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。ナノシリカは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、ヒュームドシリカを含むことがより好ましい。市販のヒュームドシリカとしては、例えば日本アエロジル社製のアエロジルシリーズが挙げられる。
【0022】
ヒュームドシリカには、表面処理が施されていない親水性ヒュームドシリカと、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理された疎水性ヒュームドシリカとがある。ナノシリカは、これらの親水性ヒュームドシリカ及び疎水性ヒュームドシリカのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、親水性ヒュームドシリカを含むことがより好ましい。
【0023】
本出願における「未造粒カーボンブラック」とは、一次粒子が凝集した造粒物を形成していないカーボンブラックを意味する。したがって、本出願における「未造粒カーボンブラック」には、造粒剤を含まない微粉末状のカーボンブラック、造粒のための表面処理がなされていない微粉末状のカーボンブラック、造粒に寄与する酸素及び/又は水素を含む官能基を有することを意図的に排除した、そのような官能基を実質的に有さない微粉末状のカーボンブラックが含まれる。
【0024】
その一方、本出願における「未造粒カーボンブラック」には、造粒剤を含む粒状のカーボンブラック、造粒のための表面処理がなされた粒状のカーボンブラック、並びに造粒に寄与する酸素及び/又は水素を含む官能基が意図的に導入された粒状のカーボンブラックは含まれない。但し、これらの粒状のカーボンブラックも、焼成処理等が施されて粒状の形態を喪失して微粉末状となったものは、本出願における「未造粒カーボンブラック」に含まれる。また、本出願の未造粒カーボンブラックには、未造粒カーボンナノチューブ及び未造粒カーボングラファイトも含まれる。
【0025】
未造粒カーボンブラックは、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GCMS分析)により、分析温度範囲を50℃以上800℃以下としたとき、HO(-OH)、CO(CHO、>CO)、及びCO(-COOH)のそれぞれの強度のピークが検出されないことが好ましい。未造粒カーボンブラックは、官能基に起因する酸素含有量が、好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。
【0026】
未造粒カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック;チャネルブラック;SAF、ISAF、N339、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック等が挙げられる。未造粒カーボンブラックは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。未造粒カーボンブラックは、非常に高い撥水性能を得る観点から、アセチレンブラックを含むことが好ましい。市販の未造粒のアセチレンブラックとしては、例えばデンカ社製の商品名:デンカブラックの粉状品が挙げられる。
【0027】
撥水性粒子121の平均粒子径(一次粒子径)は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは5nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上70nm以下、更に好ましくは15nm以上50nm以下である。撥水性粒子121の平均粒子径は、電子顕微鏡観察による測定に基づいて算出される。
【0028】
撥水性粒子121のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは10mm/g以上300mm/g以下、より好ましくは20mm/g以上200mm/g以下、更に好ましくは35mm/g以上130mm/g以下である。撥水性粒子121のBET比表面積は、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0029】
充填粒子122としては、例えば、平均粒子径が1μm以上のシリカ粒子(以下「大粒径シリカ」という。)、カルシウム粒子、モンモリロナイト粒子、マイカ粒子、タルク粒子などの無機粒子;アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子などの有機粒子等が挙げられる。充填粒子122は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0030】
大粒径シリカには、表面処理が施されていない親水性大粒径シリカと、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理された疎水性大粒径シリカとがある。大粒径シリカは、これらの親水性大粒径シリカ及び疎水性大粒径シリカのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を得る観点から、親水性大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0031】
充填粒子122の平均粒子径は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上5μm以下である。充填粒子122の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定される。
【0032】
充填粒子122は、撥水性粒子121よりも平均粒子径が大きい。充填粒子122の平均粒子径は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子121の平均粒子径の好ましくは20倍以上250倍以下、より好ましくは30倍以上200倍以下、更に好ましくは40倍以上100倍以下、より更に好ましくは50倍以上70倍以下である。
【0033】
充填粒子122は、多孔質であることが好ましい。充填粒子122のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは150mm/g以上700mm/g以下、より好ましくは200mm/g以上400mm/g以下、更に好ましくは250mm/g以上350mm/g以下である。充填粒子122のBET比表面積も、撥水性粒子121と同様、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0034】
充填粒子122のBET比表面積の撥水性粒子121のBET比表面積に対する比は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは2以上20以下、より好ましくは3以上15以下、更に好ましくは4以上10以下である。充填粒子122のBET比表面積は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子121のBET比表面積よりも大きいことが好ましい。
【0035】
実施形態に係る撥水構造10における充填粒子122の質量含有量は、非常に高い撥水性能を得る観点から、撥水性粒子121の質量含有量よりも多いことが好ましい。実施形態に係る撥水構造10における充填粒子122の含有量の撥水性粒子121の含有量に対する質量比は、好ましくは1以上18以下、より好ましくは2以上15以下、更に好ましくは3以上12以下である。
【0036】
撥水層12は、撥水性粒子121及び充填粒子122のみで構成されていてもよいが、それらの基材11への定着性を高める観点から、バインダー樹脂123を更に含有することが好ましい。
【0037】
バインダー樹脂123としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、アクリル酸が付加したエポキシ化合物やウレタン化合物等が挙げられる。バインダー樹脂123は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0038】
バインダー樹脂123は、撥水性粒子121及び充填粒子122の基材11への定着性を高め且つ高い撥水性能を得る観点から、シリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、ポリアルコキシシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルアルコキシシロキサン、ポリアリールシロキサン、ポリアリールアルキルシロキサン、ポリエーテルシロキサン等が挙げられる。バインダー樹脂123は、これらのシリコーン樹脂のうちのポリアルコキシシロキサンを含むことが好ましい。バインダー樹脂123を形成する市販の未硬化シリコーン樹脂材料としては、例えばモメンティブジャパン社製の商品名:XR31-B2733が挙げられる。
【0039】
撥水層12におけるバインダー樹脂123の含有量は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、更に好ましくは15質量%以上20質量%以下である。
【0040】
また、バインダー樹脂123の100質量部に対する撥水性粒子121及び充填粒子122の合計含有量は、それらの基材11への定着性を高め且つ非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは10質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上35質量部以下、更に好ましくは20質量部以上30質量部以下である。バインダー樹脂123の100質量部に対する撥水性粒子121の含有量は、同様の観点から、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下、更に好ましくは3質量部以上6質量部以下である。バインダー樹脂123の100質量部に対する充填粒子122の含有量は、同様の観点から、好ましくは5質量部以上35質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下、更に好ましくは15質量部以上25質量部以下である。
【0041】
撥水層12は、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、酸化ポリオレフィンワックスを更に含有することが好ましい。
【0042】
酸化ポリオレフィンワックスとは、ポリオレフィンワックスを酸化処理し、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の極性基を導入したワックスである。この酸化ポリオレフィンワックスは、酸化型ポリオレフィンワックス等の名称で一般に知られ、市販されている。
【0043】
ポリオレフィンワックスは、一般的に分子量10000以下の低分子量のポリオレフィンである。ポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型等が挙げられる。
【0044】
酸化ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合ワックス、エチレン-酢酸ビニル共重合ワックス、酸化エチレン-酢酸ビニル共重合ワックス、エチレン-無水マレイン酸共重合ワックス、プロピレン-無水マレイン酸共重合ワックス及び高密度酸化ポリエチレンワックス等が挙げられる。酸化ポリオレフィンワックスは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0045】
酸化ポリオレフィンワックスは、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、エチレン-アクリル酸共重合ワックス及び/又は高密度酸化ポリエチレンワックスを含むことが好ましい。市販のエチレン-アクリル酸共重合ワックスとしては、例えば、ハネウェル社製の商品名:AC540等が挙げられる。また、市販の高密度酸化ポリエチレンワックスとしては、例えば、ハネウェル社製の商品名:AC320等が挙げられる。
【0046】
バインダー樹脂123の100質量部に対する酸化ポリオレフィンワックスの含有量は、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは7質量部以上21質量部以下である。
【0047】
撥水性粒子121、充填粒子122及びバインダー樹脂123の含有量の和に対する酸化ポリオレフィンワックスの含有量は、非常に高い撥水性能及び耐摩耗性を得る観点から、好ましくは1質量%以上25質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
【0048】
撥水層12が酸化ポリオレフィンワックスを含有する場合、実施形態に係る撥水構造10における撥水性粒子121の質量含有量は、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、充填粒子122の質量含有量よりも多いことが好ましい。実施形態に係る撥水構造10における撥水性粒子121の含有量の充填粒子122の含有量に対する質量比は、好ましくは1以上36以下、より好ましくは5以上20以下、更に好ましくは7以上15以下である。
【0049】
撥水層12が酸化ポリオレフィンワックスを含有する場合、バインダー樹脂123の100質量部に対する撥水性粒子121及び充填粒子122の合計含有量は、それらの基材11への定着性を高め且つ非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは10質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上35質量部以下、更に好ましくは20質量部以上30質量部以下である。バインダー樹脂123の100質量部に対する撥水性粒子121の含有量は、同様の観点から、好ましくは15質量部以上50質量部以下、より好ましくは20質量部以上45質量部以下、更に好ましくは30質量部以上40質量部以下である。バインダー樹脂123の100質量部に対する充填粒子122の含有量は、同様の観点から、好ましくは1質量部以上8質量部以下、より好ましくは2質量部以上7質量部以下、更に好ましくは3質量部以上6質量部以下である。
【0050】
撥水層12は、非常に高い撥水性能を得る観点から、その他に、バインダー樹脂123に均一に溶け込むように含まれたフッ素樹脂を含有していることが好ましい。バインダー樹脂123の100質量部に対するフッ素樹脂の含有量は、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは0.2質量部以上1.8質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下、更に好ましくは0.8質量部以上1.2質量部以下である。
【0051】
撥水層12の厚さは、非常に高い撥水性能を得る観点から、好ましくは0.02mm以上、より好ましくは0.05mm以上であり、また、撥水層12の強度を保持する観点から、好ましくは0.2mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。
【0052】
実施形態に係る撥水構造10の静的な撥水性の指標となる水との接触角は、好ましくは130°以上、より好ましくは140°以上、更に好ましくは150°以上である。この接触角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、実施形態に係る撥水構造10の表面に純水の水滴を滴下して接線法により測定される。
【0053】
実施形態に係る撥水構造10の水滴除去性の指標となる水の滑落角は、好ましくは40°以下、より好ましくは30°以下、更に好ましくは20°以下である。この滑落角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、実施形態に係る撥水構造10の表面に純水の水滴を滴下して滑落法により測定される。
【0054】
以上のような実施形態に係る撥水構造10は、例えば、図2に示すように、基材11の表面に対して、撥水性粒子121と、充填粒子122と、未硬化のバインダー樹脂123とを含有する撥水コーティング剤20を塗工して基材11の表面上に撥水層12を形成することにより得ることができる。
【0055】
撥水コーティング剤20は、非常に高い撥水性能を発現する均一な撥水層12を形成する観点から、撥水性粒子121及び充填粒子122を分散させ且つ未硬化のバインダー樹脂123を溶解させる有機溶剤を更に含有することが好ましい。
【0056】
かかる有機溶剤としては、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、n-オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。有機溶剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を発現する均一な撥水層12を形成する観点から、芳香族炭化水素溶媒を含むことが好ましく、トルエン及び/又はキシレンを含むことがより好ましい。
【0057】
撥水コーティング剤20は、バインダー樹脂123の硬化反応の触媒を含有していてもよい。バインダー樹脂123がシリコーン樹脂の場合、かかる触媒としては、例えば、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機亜鉛化合物、有機スズ化合物、有機コバルト化合物、リン酸化合物等が挙げられる。触媒は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、有機チタン化合物を含むことがより好ましい。触媒の含有量は、バインダー樹脂123の100質量部に対して、例えば3質量部以上9質量部以下である。
【0058】
撥水コーティング剤20における有機溶剤以外の全固形分濃度は、非常に高い撥水性能を発現する均一な撥水層12を形成する観点から、好ましくは10質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下、更に好ましくは20質量%以上25質量%以下である。なお、この全固形分濃度は、撥水コーティング剤20が所望の粘度になるように、上記数値範囲外に設定してもよい。
【0059】
基材11の表面への撥水コーティング剤20の塗工手段としては、例えば、マイヤーバーコート、アプリケーターコート、スプレーコート、ローラーコート、グラビアコーターコート、ダイコーターコート、リップコーターコート、コンマコーターコート、ナイフコーターコート、リバースコ-ターコート、スピンコーターコート、ディップコート、刷毛塗り等が挙げられる。塗工手段は、施工性が良好であるという観点から、これらのうちのスプレーコートが好ましい。また、基材11として不織布を用いる場合には、非常に高い撥水性能及び優れた耐摩耗性を得る観点から、ディップコートが好ましい。
【0060】
さらに、実施形態に係る撥水構造10は、例えば、基材11の表面に対して、予め接着剤をスプレーコート等しておき、その上に撥水性粒子121及び充填粒子122をスプレーコート等して撥水層12を形成することによっても得ることができる。
【0061】
以上の構成の実施形態に係る撥水構造10は、例えばコンクリート成形用の型枠に適用することができる。また、実施形態に係る撥水構造10は、例えば水の抵抗を低減するための船舶の船底塗装に適用することができる。さらに、実施形態に係る撥水構造10は、ハイドロプレーニング現象を抑制するための自転車、二輪車、自動車等のタイヤの溝の撥水処理に適用することができる。また、実施形態に係る撥水構造10は、水害対策のための排水溝の撥水処理に適用することができる。実施形態に係る撥水構造10は、その他、通行人や車両の通行に影響する道路や橋の氷結抑制、豪雪地の一般家庭の屋根や電線などへの積雪抑制、下水配管などにおける水の抵抗低減、サーフィン、スキー、スノーモービル、船舶プロペラなどのブレード表面処理、コンベアベルトの表面の撥水処理、フィルムやシートの表面の撥水処理等にも適用することができる。
【0062】
基材11が不織布である撥水構造10は、例えば土木機械用のコントロールパネルに適用することができる。また、基材11が不織布である撥水構造10は、例えば車載用の撥水シートに適用することができる。
【0063】
なお、上記実施形態では、基材11の直上に撥水層12が設けられた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、必要に応じて基材11と撥水層12との間に下地層が介設されていてもよい。
【実施例0064】
[評価試験1]
(撥水構造)
以下の実施例1-1~1-6の撥水構造を作製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0065】
<実施例1-1>
有機溶剤のキシレンに、バインダー樹脂となる未硬化のシリコーン樹脂(XR31-B2733 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)と、硬化剤の有機チタン化合物(TC-750 松本ファインケミカル社製、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))と、撥水性粒子の親水性ヒュームドシリカ(アエロジルOX50 日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm、BET比表面積:50±15m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカ(サイリシア310P 富士シリシア化学社製、平均粒子径:2.7μm、BET比表面積:300m/g)とを投入して撹拌することにより撥水コーティング剤を調製した。撥水コーティング剤は、未硬化のシリコーン樹脂固形分濃度が17質量%となるとともに、有機チタン化合物、親水性ヒュームドシリカ、及び親水性大粒径シリカの含有量が、未硬化のシリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、5質量部、及び16質量部となり、且つ全固形分濃度が20質量%となるように調製した。そして、この撥水コーティング剤を、ポリカーボネート樹脂板の基材の表面にスプレーコートした後、室内に放置して乾燥させることにより、基材上に撥水層を形成した撥水構造を得た。この撥水構造を実施例1-1とした。
【0066】
<実施例1-2>
有機溶剤のトルエンに、バインダー樹脂となる未硬化のシリコーン樹脂と、硬化剤の有機チタン化合物と、撥水性粒子の疎水性ヒュームドシリカ(アエロジルR972 日本アエロジル社製、平均粒子径:16nm、BET比表面積:110±20m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカとを投入して撹拌することにより撥水コーティング剤を調製した。撥水コーティング剤は、未硬化のシリコーン樹脂固形分濃度が17質量%となるとともに、有機チタン化合物、疎水性ヒュームドシリカ、及び親水性大粒径シリカの含有量が、未硬化のシリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、2質量部、及び24質量部となり、且つ全固形分濃度が21質量%となるように調製した。この撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例1-1と同様にして得た撥水構造を実施例1-2とした。
【0067】
<実施例1-3>
フッ素樹脂溶液(フロロサーフFS2060-15 フロロテクノロジー社製 15質量%溶液)を、シリコーン樹脂100質量部に対して6質量部(フッ素樹脂固形分0.9質量部)投入した撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例1-2と同様にして得た撥水構造を実施例1-3とした。
【0068】
<実施例1-4>
充填粒子として親水性大粒径シリカに代えて、疎水性大粒径シリカ(サイロホービック100 富士シリシア化学社製、平均粒子径:2.7μm、BET比表面積:300m/g)を投入した撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例1-2と同様にして得た撥水構造を実施例1-4とした。
【0069】
<実施例1-5>
フッ素樹脂溶液を、シリコーン樹脂100質量部に対して6質量部(フッ素樹脂固形分0.9質量部)投入した撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例1-4と同様にして得た撥水構造を実施例1-5とした。
【0070】
<実施例1-6>
有機溶剤のキシレンに、バインダー樹脂となる未硬化のシリコーン樹脂と、硬化剤の有機チタン化合物と、撥水性粒子の未造粒カーボンブラック(デンカブラックLi-100 デンカ社製、平均粒子径:35nm、BET比表面積:68m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカとを投入して撹拌することにより撥水コーティング剤を調製した。撥水コーティング剤は、未硬化のシリコーン樹脂固形分濃度が17質量%となるとともに、有機チタン化合物、未造粒カーボンブラック、及び親水性大粒径シリカの含有量が、未硬化のシリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、4質量部、及び24質量部となり、且つ全固形分濃度が22質量%となるように調製した。この撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例1-1と同様にして得た撥水構造を実施例1-6とした。
【0071】
【表1】
【0072】
(試験方法)
<接触角>
実施例1-1~1-6のそれぞれについて、接触角計(DM-500 協和界面科学社製)を用い、温度25℃及び湿度50%の条件下において、撥水構造の表面に純水の水滴1.6μlを滴下して接線法により接触角を測定した。
【0073】
<滑落角>
実施例1-1~1-6のそれぞれについて、接触角計(DM-500 協和界面科学社製)を用い、温度25℃及び湿度50%の条件下において、撥水構造の表面に純水の水滴1.6μlを滴下して滑落法により滑落角を測定した。
【0074】
<モルタル水汚れ>
実施例1-1~1-6のそれぞれについて、水3.7Lに乾燥モルタル20kgを投入してハンドミキサーで混ぜ合わせたモルタル水に、撥水構造の表面が水面に対して垂直になるように浸漬し、そして、それを引き揚げたときの表面の汚れ具合を目視により、A:モルタル水汚れ全くなし、B:モルタル水汚れ僅かにあり、及びC:モルタル水汚れが顕著にあり、の3段階の評価を行った。
【0075】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。表1によれば、実施例1-1~1-6のいずれも、接触角が140°以上のいわゆる超撥水性が得られ、また滑落角が小さく、更にモルタル水汚れに対して強いことが分かる。
【0076】
実施例1-1~1-5の接触角を比較すると、親水性ヒュームドシリカ及び親水性大粒径シリカの組み合わせを含有する実施例1-1が最も大きいことが分かる。実施例1-1~1-5の滑落角を比較すると、疎水性ヒュームドシリカ及び親水性大粒径シリカの組み合わせを含有し、フッ素樹脂を含有しない実施例1-2が最も小さいことが分かる。実施例1-1~1-5の耐モルタル水汚れ性を比較すると、フッ素樹脂を含有する実施例1-3及び1-5がより優れることが分かる。
【0077】
疎水性ヒュームドシリカ及び親水性大粒径シリカの組み合わせを含有する実施例1-2及び1-3を比較すると、フッ素樹脂を含有しない実施例1-2の方が、フッ素樹脂を含有する実施例1-3よりも、接触角が大きく且つ滑落角が小さく、優れた撥水性を有することが分かる。一方、疎水性ヒュームドシリカ及び疎水性大粒径シリカの組み合わせを含有する実施例1-4及び1-5を比較すると、逆に、フッ素樹脂を含有する実施例1-5の方が、フッ素樹脂を含有しない実施例1-4よりも、接触角が大きく且つ滑落角が小さく、優れた撥水性を有することが分かる。
【0078】
フッ素樹脂を含有しない実施例1-2及び1-4を比較すると、親水性大粒径シリカを含有する実施例1-2の方が、疎水性大粒径シリカを含有する実施例1-4よりも、接触角が大きく且つ滑落角が小さく、優れた撥水性を有することが分かる。一方、フッ素樹脂を含有する実施例1-3及び1-5を比較すると、滑落角の大きさは同一であるが、逆に、疎水性大粒径シリカを含有する実施例1-5の方が、親水性大粒径シリカを含有する実施例1-3よりも、接触角が大きく、優れた撥水性を有することが分かる。
【0079】
[評価試験2]
(撥水構造)
以下の実施例2-1~2-7及び比較例2-1の撥水構造を作製した。それぞれの構成は表2にも示す。
【0080】
<実施例2-1>
有機溶剤のトルエンに、バインダー樹脂となる未硬化のシリコーン樹脂(XR31-B2733 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)と、硬化剤の有機チタン化合物(TC-750 松本ファインケミカル社製、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))と、撥水性粒子の親水性ヒュームドシリカ(アエロジルOX50 日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm、BET比表面積:50±15m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカ(サイリシア310P 富士シリシア化学社製、平均粒子径:2.7μm、BET比表面積:300m/g)と、フッ素樹脂溶液(フロロサーフFS2060-15 フロロテクノロジー社製 15質量%溶液)と、を投入して撹拌することにより撥水コーティング剤を調製した。撥水コーティング剤は、未硬化のシリコーン樹脂固形分濃度が17質量%となるとともに、有機チタン化合物、親水性ヒュームドシリカ、親水性大粒径シリカ、及びフッ素樹脂溶液の含有量が、未硬化のシリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、5質量部、24質量部、及び6質量部となり、且つ全固形分濃度が22質量%となるように調製した。そして、この撥水コーティング剤を、目付が20g/mの不織布(E05020 旭化成社製)にディップコートした後、80℃で30分間放置して乾燥させることにより、不織布上に撥水層を形成した撥水構造を得た。この撥水構造を実施例2-1とした。
【0081】
<実施例2-2>
目付が30g/mの不織布(E05030 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を実施例2-2とした。
【0082】
<実施例2-3>
目付が40g/mの不織布(E05040 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を実施例2-3とした。
【0083】
<実施例2-4>
目付が50g/mの不織布(E05050 旭化成社製)を用いたこと、及び、撥水コーティング剤を150℃で2分間放置して乾燥させたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を実施例2-4とした。
【0084】
<実施例2-5>
目付が100g/mの不織布(E05100 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例2-4と同様にして得た撥水構造を実施例2-5とした。
【0085】
<実施例2-6>
不織布に代えて、ポリカーボネート樹脂板を用いたこと、及び、撥水コーティング剤をスプレーコートしたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を実施例2-6とした。
【0086】
<実施例2-7>
目付が12g/mの不織布(E05012 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を実施例2-7とした。
【0087】
<比較例2-1>
撥水性粒子を投入せずに、充填粒子をシリコーン樹脂100質量部に対して15質量部投入し、全固形分濃度が20質量%となるように調製した撥水コーティング剤を用いたこと、及び、目付が50g/mの不織布(E05050 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例2-1と同様にして得た撥水構造を比較例2-1とした。
【0088】
【表2】
【0089】
(試験方法)
<接触角>
実施例2-1~2-7及び比較例2-1のそれぞれについて、評価試験1と同様にして、摩耗前の接触角を測定した。
【0090】
また、実施例2-1~2-7のそれぞれについて、表面性測定機(新東科学社製、装置名:TYPE14DR)を用い、その平板上に設置した撥水構造に、12mm角の研磨テープ(番手#1000)を当接させ、荷重200g、速度2000mm/min、操作距離20mm、摺擦回数20回の条件下で摩耗させた後に、上記の摩耗前の接触角と同様にして、摩耗後の接触角を測定した。
【0091】
<摩耗量>
実施例2-1~2-7のそれぞれについて、上記の摩耗条件と同様の条件下で摩耗させた後に、摩耗量(μm)を測定した。
【0092】
(試験結果)
試験結果を表2に示す。表2によれば、実施例2-1~2-7のいずれも、摩耗前の接触角が140°以上のいわゆる超撥水性が得られていることが分かる。一方で、撥水コーティング剤に撥水性粒子を含まない比較例2-1は、摩耗前の接触角が133°で超撥水性が得られていないことが分かる。なお、比較例2-1は、摩耗前において超撥水性を有していないため、摩耗後の接触角及び摩耗量を測定していない。
【0093】
摩耗後の接触角について、実施例2-1~2-6のいずれも、140°以上で超撥水性が得られていることが分かる。一方で、目付が12g/mの不織布を用いた実施例2-7は、摩耗前の接触角が137°で超撥水性が得られていないことが分かる。
【0094】
摩耗量について、実施例2-1~2-5のいずれも、40μmよりも小さく優れた耐摩耗性を有していることが分かる。一方で、ポリカーボネート樹脂板を用いた実施例2-6は、摩耗量が61μmで耐摩耗性を有していないことが分かる。
【0095】
[評価試験3]
(撥水構造)
以下の実施例3-1~3-6及び比較例3-1の撥水構造を作製した。それぞれの構成は表3にも示す。
【0096】
<実施例3-1>
有機溶剤のトルエンに、バインダー樹脂となる未硬化のシリコーン樹脂(XR31-B2733 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)と、硬化剤の有機チタン化合物(TC-750 松本ファインケミカル社製、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))と、撥水性粒子の親水性ヒュームドシリカ(アエロジルOX50 日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm、BET比表面積:50±15m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカ(サイリシア310P 富士シリシア化学社製、平均粒子径:2.7μm、BET比表面積:300m/g)と、エチレン-アクリル酸共重合ワックス(AC540 ハネウェル社製)を投入して撹拌することにより撥水コーティング剤を調製した。撥水コーティング剤における有機チタン化合物、親水性ヒュームドシリカ、親水性大粒径シリカ、及びエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量は、未硬化のシリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、36質量部、4質量部、及び7質量部とした。このとき、撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量は、5質量%である。そして、この撥水コーティング剤を、ポリカーボネート樹脂板の基材の表面にスプレーコートした後、80℃で30分間放置して乾燥させることにより、基材上に撥水層を形成した撥水構造を得た。この撥水構造を実施例3-1とした。
【0097】
<実施例3-2>
エチレン-アクリル酸共重合ワックスを、シリコーン樹脂100質量部に対して14質量部投入した撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例3-1と同様にして得た撥水構造を実施例3-2とした。なお、実施例3-2の撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量は、10質量%である。
【0098】
<実施例3-3>
親水性ヒュームドシリカを、シリコーン樹脂100質量部に対して35質量部と、エチレン-アクリル酸共重合ワックスを、シリコーン樹脂100質量部に対して21質量部投入した撥水コーティング剤を用いたこと、及び、ポリカーボネート樹脂板に代えて、ポリ塩化ビニル樹脂板を用いたこと除いて実施例3-1と同様にして得た撥水構造を実施例3-3とした。なお、実施例3-3の撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量は、15質量%である。
【0099】
<実施例3-4>
エチレン-アクリル酸共重合ワックスを、シリコーン樹脂100質量部に対して28質量部投入した撥水コーティング剤を用いたこと、及び、ポリカーボネート樹脂板に代えて、ポリ塩化ビニル樹脂板を用いたことを除いて実施例3-1と同様にして得た撥水構造を実施例3-4とした。なお、実施例3-4の撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量は、20質量%である。
【0100】
<実施例3-5>
エチレン-アクリル酸共重合ワックスに代えて、高密度酸化ポリエチレンワックス(AC320 ハネウェル社製)を投入した撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例3-1と同様にして得た撥水構造を実施例3-5とした。なお、実施例3-5の撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対する高密度酸化ポリエチレンワックスの含有量は、5質量%である。
【0101】
<実施例3-6>
高密度酸化ポリエチレンワックスを、シリコーン樹脂100質量部に対して14質量部投入した撥水コーティング剤を用いたこと、及び撥水コーティング剤を150℃で2分間放置して乾燥させたことを除いて実施例3-5と同様にして得た撥水構造を実施例3-6とした。なお、実施例3-6の撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対する高密度酸化ポリエチレンワックスの含有量は、10質量%である。
【0102】
<比較例3-1>
エチレン-アクリル酸共重合ワックスを含まない撥水コーティング剤を用いたことを除いて実施例3-1と同様にして得た撥水構造を比較例3-1とした。
【0103】
【表3】
【0104】
(試験方法)
<接触角>
実施例3-1~3-6及び比較例3-1のそれぞれについて、評価試験1と同様にして、接触角を測定した。
【0105】
<滑落角>
実施例3-1~3-6及び比較例3-1のそれぞれについて、評価試験1と同様にして、滑落角を測定した。
【0106】
<摩耗>
実施例3-1~3-6及び比較例3-1のそれぞれについて、撥水構造の撥水層を手で擦って摩耗させた後に、撥水構造における撥水性の低下の有無を確認した。撥水性の顕著な低下がない場合はA、撥水性の顕著な低下がある場合はB、として判定した。
【0107】
(試験結果)
試験結果を表3に示す。表3によれば、実施例3-1~3-6のいずれも、接触角が140°以上のいわゆる超撥水性が得られ、また滑落角が小さく、更に顕著な撥水低下がなく耐摩耗性に優れることが分かる。一方で、酸化ポリオレフィンワックスを含有しない比較例3-1は、接触角が140°以上であるが、滑落角が大きく、撥水性の顕著な低下があり摩耗しやすいことが分かる。
【0108】
また、実施例3-1~3-4の滑落角を比較すると、撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量が20質量%の実施例3-4が最も大きい。一方で、撥水性粒子、充填粒子及びシリコーン樹脂の含有量の和に対するエチレン-アクリル酸共重合ワックスの含有量が15質量%以下の実施例3-1~3-3は、特に滑落角が小さく、より優れた撥水性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、撥水構造及び撥水剤、並びにそれらの製造方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0110】
10 撥水構造
11 基材
111 繊維
12 撥水層
121 撥水性粒子
122 充填粒子
123 バインダー樹脂
20 撥水コーティング剤
図1A
図1B
図1C
図2