(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099409
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 47/18 20060101AFI20220628BHJP
B23Q 11/02 20060101ALI20220628BHJP
B23B 47/34 20060101ALI20220628BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20220628BHJP
B23B 5/26 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B23B47/18 B
B23Q11/02
B23B47/34 Z
B23B1/00 D
B23B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213157
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000133593
【氏名又は名称】株式会社ツガミ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝史
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 健児
【テーマコード(参考)】
3C011
3C036
3C045
【Fターム(参考)】
3C011CC01
3C036DD08
3C036HH05
3C045AA08
3C045BA04
3C045BA13
3C045BA19
3C045BA23
3C045BA31
3C045DA21
3C045EA04
(57)【要約】
【課題】切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械1は、ワークWを把持しつつ軸回転する主軸14と、主軸14により把持されたワークWに穴開け加工を行う回転工具35aを回転させる工具回転機構37と、主軸14の回転軸に沿う軸線方向(Z軸方向)に回転工具35aを主軸14に対して相対的に移動させる第1工具移動機構30と、主軸14及び工具回転機構37を介してワークWと回転工具35aの両方を回転させた状態において、第1工具移動機構30を介してZ軸方向に回転工具35aを主軸14に対して相対的に揺動させつつ回転工具35aによりワークWに穴開け加工を行う制御部300と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持しつつ軸回転する主軸と、
前記主軸により把持された前記ワークに穴加工を行う回転工具を回転させる工具回転機構と、
前記主軸の回転軸に沿う軸線方向に前記回転工具を前記主軸に対して相対的に移動させる第1移動機構と、
前記主軸及び前記工具回転機構を介して前記ワークと前記回転工具の両方を回転させた状態において、前記第1移動機構を介して前記軸線方向に前記回転工具を前記主軸に対して相対的に揺動させつつ前記回転工具により前記ワークに前記穴加工を行う制御部と、を備える、
工作機械。
【請求項2】
前記工作機械は、前記主軸により把持された前記ワークの外周面の切削加工を行う切削工具を前記軸線方向に前記主軸に対して相対的に移動させる第2移動機構を備え、
前記制御部は、前記回転工具によって前記ワークに前記穴加工を行う際には前記第1移動機構を介して前記軸線方向に前記回転工具を前記主軸に対して相対的に揺動させ、前記切削工具によって前記ワークに前記切削加工を行う際には前記第2移動機構を介して前記軸線方向に前記切削工具を前記主軸に対して相対的に揺動させる、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記工作機械は、前記主軸を前記軸線方向に移動させる主軸移動機構を備え、
前記制御部は、前記切削加工と前記穴加工を同時に行う際には、前記切削加工に伴って生じる切粉と前記穴加工に伴って生じる切粉の両方が分断されるように、前記主軸移動機構を介して前記主軸を前記ワークとともに前記軸線方向に揺動させる、
請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御部は、第1の材質からなる前記ワークについて前記切削加工と前記穴加工を同時に行う際には、前記主軸及び前記工具回転機構を介して前記回転工具の回転方向と前記主軸の回転方向を異ならせ、前記第1の材質よりも切削熱に伴い温度が上昇しやすい第2の材質からなる前記ワークについて前記切削加工と前記穴加工を同時に行う際には、前記主軸及び前記工具回転機構を介して前記回転工具の回転方向と前記主軸の回転方向を同方向とする、
請求項2又は3に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のドリルの切粉除去方法は、ドリルにより被加工物に穴を開けた後、ドリルを逆回転させるとともにドリルを穴から引き抜き、ドリルの近傍に配置された切粉除去手段によりドリル表面をドリルの先端に向ってしごくことにより、ドリルに巻付いた切粉を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のドリルの切粉除去方法を利用して加工中にドリルへの切粉の絡まりを除去する場合には、ドリルを加工穴から抜き出して切粉除去手段に近づける必要があり、加工時間が長くなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る工作機械は、ワークを把持しつつ軸回転する主軸と、前記主軸により把持された前記ワークに穴加工を行う回転工具を回転させる工具回転機構と、前記主軸の回転軸に沿う軸線方向に前記回転工具を前記主軸に対して相対的に移動させる第1移動機構と、前記主軸及び前記工具回転機構を介して前記ワークと前記回転工具の両方を回転させた状態において、前記第1移動機構を介して前記軸線方向に前記回転工具を前記主軸に対して相対的に揺動させつつ前記回転工具により前記ワークに前記穴加工を行う制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工作機械において、切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工作機械の平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る工作機械の側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る単独穴加工時の回転工具のZ軸方向の位置を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る重畳加工時の回転工具、切削工具、主軸及びワークの概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る重畳加工時の回転工具と切削工具のZ軸方向の位置を示すグラフである。
【
図7】比較例に係る重畳加工時の回転工具と切削工具のZ軸方向の位置を示すグラフである。
【
図8】比較例に係る(a)~(d)は、回転工具によるワークの穴開け加工時の概略図である。
【
図9】本発明の変形例に係る工作機械の平面図である。
【
図10】本発明の変形例に係る工作機械の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る工作機械について図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、工作機械1は、ワークWを加工するNC(Numerical Control)旋盤である。詳しくは、工作機械1は、ベッドSと、主軸14を有する主軸ユニット10と、主軸移動機構13と、第1工具移動機構30と、第2工具移動機構50と、工具回転機構37と、制御部300と、を備える。なお、以下の説明では、Z軸方向は主軸14の回転軸に沿う方向に規定され、Y軸方向は高さ方向に規定され、X軸方向はY軸方向及びZ軸方向に直交する方向に規定される。
【0010】
ベッドSは、工作機械1全体の台である。ベッドSの上面には、主軸ユニット10、主軸移動機構13、第1工具移動機構30及び第2工具移動機構50が設置される。
主軸ユニット10は、ワークWを把持しつつ軸回転させる。主軸ユニット10は、主軸台11と、ワークWを把持しつつ軸回転可能に主軸台11に支持される主軸14と、を備える。主軸台11には、主軸14をワークWとともに軸方向に回転させる図示しないワーク回転用モータが内蔵されている。
主軸移動機構13は、Z軸方向(Z1軸方向)に主軸ユニット10を移動させる。
【0011】
図2に示すように、第1工具移動機構30は、第1工具ユニット35と、第1工具ユニット35が装着された第1スライド台41と、第1スライド台41をX軸方向(X3軸方向)、Y軸方向(Y3軸方向)及びZ軸方向(Z3軸方向)に移動させる第1スライド台移動機構32と、を備える。第1スライド台移動機構32は、第1スライド台41をX軸方向に移動させるX移動機構32Xと、第1スライド台41をY軸方向に移動させるY移動機構32Yと、第1スライド台41をZ軸方向に移動させるZ移動機構32Zと、を備える。
【0012】
図1に示すように、第1工具ユニット35は、回転工具35a及び工具35b,35cと、回転工具35a及び工具35b,35cを支持する工具支持部36と、を備える。
回転工具35aは、例えば、Z軸方向に沿って延び、ワークWの先端面に穴開け加工するための回転ドリルである。工具35bは、例えば、Z軸方向に沿って延び、ワークWの先端面に穴開け加工するための固定ドリルである。工具35cは、例えば、X軸方向に沿って延び、ワークWの外周面を切削加工するためのバイトである。工具支持部36は、回転工具35aを軸回転可能に支持し、工具35b,35cを固定的に支持する。
【0013】
図2に示すように、工具回転機構37は、回転工具35aを軸回転させる。工具回転機構37は、モータ37aと、モータ37aからの駆動力を回転工具35aに伝達する複数の歯車からなる伝達機構37bと、を備える。
【0014】
図2及び
図3に示すように、第2工具移動機構50は、第2工具ユニット58と、第2工具ユニット58が装着された第2スライド台51と、第2スライド台51をX軸方向(X2軸方向)及びY軸方向(Y2軸方向)に移動させる第2スライド台移動機構52と、を備える。第2スライド台移動機構52は、第2スライド台51をX軸方向に移動させるX移動機構52Xと、第2スライド台51をY軸方向に移動させるY移動機構52Yと、を備える。
【0015】
図3に示すように、第2工具ユニット58は、切削工具58a及び工具58bと、切削工具58a及び工具58bを支持する工具支持部56と、を備える。
工具支持部56は第2スライド台51に固定される。切削工具58a及び工具58bはX軸方向に沿って延びる。切削工具58aは、例えば、ワークWの外周面を切削加工するバイトである。工具58bは、例えば、ワークWの外周面に穴開けする回転ドリルである。
【0016】
主軸移動機構13、X移動機構32X、Y移動機構32Y、Z移動機構32Z、X移動機構52X及びY移動機構52Yは、それぞれ、モータ、ボールねじ及びナットを有し、モータの回転力をボールねじ及びナットにより直線運動に変換することにより、対応する主軸台11、第1スライド台41及び第2スライド台51を直線的に移動可能な構成からなる。
【0017】
制御部300は、工作機械1の各部の動作を制御することによりワークWの加工を行う。制御部300は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備える。制御部300は、入力されたNCプログラムに従って、主軸14を軸回転させ、主軸移動機構13を介して主軸ユニット10をZ軸方向に移動させ、第1スライド台移動機構32を介して第1スライド台41をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動させ、第2スライド台移動機構52を介して第2スライド台51をX軸方向及びY軸方向に移動させる。
【0018】
制御部300は、NCプログラムの一部として、回転工具35aによる穴開け加工のみを行う単独穴加工処理、切削工具58aによるワークWの外周面の切削加工のみを行う単独切削加工処理、及び回転工具35aによる穴開け加工と切削工具58aによるワークWの切削加工を同時に行う重畳加工処理を実行する。
【0019】
まず、単独穴加工処理について説明する。
単独穴加工処理においては、まず、制御部300は、主軸14及び工具回転機構37を介して回転工具35aの回転方向と主軸14により把持されるワークWの回転方向を互いに逆方向となるように異ならせる。これにより、ワークWと回転工具35aの周速差が上がり、加工速度が上がる。
そして、制御部300は、第1スライド台移動機構32を介して、回転工具35aをZ軸方向に揺動させつつ回転工具35aを送り方向S1(
図2参照)に送る。送り方向S1は、Z軸方向に沿い、かつ主軸14に向かう方向である。この際、主軸移動機構13は主軸14をZ軸方向に揺動させない。
【0020】
図4に示すように、単独穴加工処理における回転工具35aは、波形SCに沿って揺動しつつワークWへの切り込み量を多くなるように移動する。波形SCは、一次関数で示される直線状の送り成分Lに正弦波状の揺動成分が重畳されてなる。これにより、波形SCは、時間の経過とともに極大点が大きくなる正弦波状に形成される。
時刻t1において、回転工具35aの位置は、極大点Paに達して回転工具35aにより形成される穴の深さは深さD1となる。時刻t1から時刻t2までの時間にわたって、回転工具35aは穴の底面から離れる方向に退避する。これにより、回転工具35aに付着した切粉が分断される。時刻t2において波形SCの極小点Maに達する。時刻t2から時刻t3までの時間にわたって、回転工具35aは穴の底面に近づく方向に移動し、時刻t3において回転工具35aの先端が穴の底面に到達する。時刻t3から時刻t4までの時間にわたって、回転工具35aの位置が波形SCの極大点Pbに向かうことで、回転工具35aにより穴が深くなるように切り込まれ、極大点Pbに到達すると、穴の深さは深さD2となる。このように、波形SCに従って、回転工具35aの切り込みと退避を繰り返しつつ穴が深くなるように回転工具35aが揺動する。NCプログラムでは、主軸14及び回転工具35aそれぞれの回転方向と回転速度、回転工具35aの送り速度、回転工具35aの揺動量(揺動成分の振幅)からなる穴開け加工条件が設定されている。回転工具35aの揺動成分の振幅は、切粉が分断される程度に大きく、かつ、加工途中の穴内から外出しない程度に小さく設定されている。
【0021】
次に、単独切削加工処理について説明する。
図2に示すように、制御部300は、単独切削加工処理においては、主軸14を介してワークWを軸回転させる。そして、制御部300は、第2スライド台移動機構52を介してワークWの外周面に切削工具58aの刃先を接触させつつ、主軸移動機構13を介して主軸14をワークWとともにZ軸方向に揺動させつつ送り方向S2に送る。送り方向S2は、Z軸方向に沿い、かつ送り方向S1に対向する方向である。この際の主軸14のZ軸方向の移動を示す波形は、上述した
図4に示す波形SCと同様となる。これにより、切削加工においても切粉が分断される。
【0022】
次に、切削工具58aによる切削加工と回転工具35aによる穴開け加工を同時に行う重畳加工処理について説明する。
図2及び
図5に示すように、制御部300は、この重畳加工処理を実行するとき、切削加工に伴って生じる切粉と穴開け加工に伴って生じる切粉の両方の切粉が分断される加工条件で、第1スライド台移動機構32を介して回転工具35aを送り方向S1に揺動させずに直線的に送り、かつ、主軸移動機構13を介して主軸14及びワークWを送り方向S2に揺動させながら送る。
図6には、重畳加工処理における、主軸14の回転角度に対する、主軸14のZ軸方向(送り方向S2)の位置を示す波形SW及び回転工具35aのZ軸方向(送り方向S1)の位置を示す直線SDが示されている。主軸14とともにワークWは揺動させつつ送り方向S2に送られる。このため、波形SWは、一次関数の直線状に形成されるワークWの送り量を指令する直線SAに、正弦波状の揺動成分が重ねられてなる。一方、回転工具35aは直線的に送り方向S1に送られる。このため、直線SDは一次関数の直線状に形成される。
このように、回転工具35aが直線的に送られるものの、回転工具35aの加工対象であるワークWは揺動しているため、送り方向S1におけるワークWに対する相対的な回転工具35aの位置は、直線SDに上記揺動成分が重ねられた波形SBとなる。
【0023】
重畳加工において、加工条件によっては、穴開け加工に伴って生じる切粉は分断されない場合がある。例えば、
図5に示すように、回転工具35aの送り方向S1への送り速度が主軸14の送り方向S2への送り速度よりも速い場合には、主軸14の揺動によっても回転工具35aの刃先はワークWから離れずに穴開け加工に伴って生じる切粉は分断されないおそれがある。重畳加工において、穴開け加工に伴って生じる切粉が分断されない比較例として、
図7には、直線SDの傾きである回転工具35aの送り速度が直線SAの傾きである主軸14の送り速度よりも速い、直線SDの傾きが直線SAの傾きよりも大きい場合が示されている。この場合、波形SBの極大点PHは、極大点PHの1.5周期後の極小点PLよりも小さくなり、回転工具35aの空振り領域が形成されずに、切粉が分断されない。
図7の比較例では、主軸14の送り速度は0.018mm/revに設定され、回転工具35aの送り速度は0.03mm/revに設定され、主軸14の1回転あたりの揺動周期は1.5に設定されている。
【0024】
本実施形態の重畳加工においては、回転工具35aの送り方向S1への送り速度が主軸14の送り方向S2への送り速度以下に設定される。この場合には、主軸14の揺動によって回転工具35aの刃先はワークWから離れるため穴開け加工に伴って生じる切粉は分断される。この穴開け加工に伴って生じる切粉は分断される例として、
図6には、直線SDの傾きである回転工具35aの送り速度が直線SAの傾きである主軸14の送り速度以下、すなわち、直線SDの傾きが直線SAの傾き以下の場合が示されている。この場合に、波形SBの極大点PHは、極大点PHの1.5周期後の極小点PLよりも大きくなり、空振り領域Kが形成されて、切粉が分断される。なお、この場合であっても、主軸14の揺動量(揺動振幅)が極端に小さければ空振り領域Kが形成されないことになる。この点を加味して、主軸14の揺動量は空振り領域Kが形成される値に設定される。
図6の例では、主軸14の送り速度は0.018mm/revに設定され、回転工具35aの送り速度は0.01mm/revに設定され、主軸14の1回転あたりの揺動周期は1.5に設定され、揺動振幅倍率は上記
図6の例と同じ値に設定されている。
【0025】
例えば、重畳加工処理において、ワークWの材質に応じて、回転工具35aとワークWの回転方向の関係が変えられる。例えば、制御部300は、ワークWがアルミニウム系の材質(第1の材質)からなる場合、ワークW(主軸14)の回転方向と回転工具35aの回転方向を逆方向に異ならせる。一方、制御部300は、ワークWが鉄系の材質(第2の材質)からなる場合、ワークW(主軸14)の回転方向と回転工具35aの回転方向を同方向とする。ワークWと回転工具35aの回転方向が逆であると、ワークWと回転工具35aの周速差が大きくなり、加工の高速化が図られるというメリットがあるものの、切削熱に伴いワークWの温度が上昇しやすいというデメリットがある。ここで、アルミニウム系の材質は、鉄系の材質よりも切削熱に伴い温度が上昇しづらい性質を有する。よって、このデメリットは、ワークWがアルミニウム系の材質である場合には許容できる。一方、ワークWが鉄系の材質である場合には切削熱に伴いワークWの温度が上昇しやすいため、ワークWと回転工具35aの回転方向を同方向としてワークWと回転工具35aの周速差を小さくして切削熱に伴うワークWの温度上昇を抑制することが好ましい。
例えば、ワークWの材質に係る情報は、例えば、NCプログラムに含まれる。制御部300は、実行するNCプログラムに含まれるワークWの材質に係る情報に基づき、ワークWの材質がアルミニウム系であるか鉄系であるかを判別して、重畳加工時の回転工具35aとワークWの回転方向を決定する。
以上で、重畳加工処理の説明を終了する。
【0026】
制御部300は、上述した穴開け加工を行う際、主軸14の回転速度を一定速度に保ち、回転工具35aの回転方向と回転速度により、主軸14により把持されたワークWに対する相対的な回転工具35aの回転速度を調整する。これにより、例えば、単独切削加工から単独穴加工又は重畳加工に移行する際に、主軸14の回転速度を変化させる必要がなくなり、加工時間を短縮することができる。例えば、ワークWと回転工具35aの周速差を大きくしたい場合には、主軸14の回転方向と回転工具35aの回転方向を逆方向とする。さらに周速差を大きくしたい場合には回転工具35aの回転速度を上げる。一方、ワークWと回転工具35aの周速差を小さくしたい場合には、主軸14の回転方向と回転工具35aの回転方向を同方向とする。さらに周速差を小さくしたい場合には回転工具35aの回転速度を主軸14の回転速度に近づける。
【0027】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)工作機械1は、ワークWを把持しつつ軸回転する主軸14と、主軸14により把持されたワークWに穴加工の一例である穴開け加工を行う回転工具35aを回転させる工具回転機構37と、主軸14の回転軸に沿う軸線方向(Z軸方向)に回転工具35aを主軸14に対して相対的に移動させる第1移動機構の一例である第1工具移動機構30と、主軸14及び工具回転機構37を介してワークWと回転工具35aの両方を回転させた状態において、第1工具移動機構30を介してZ軸方向に回転工具35aを主軸14に対して相対的に揺動させつつ回転工具35aによりワークWに穴開け加工を行う制御部300と、を備える。
この構成によれば、穴開け加工中に、回転工具35aを主軸14に対して相対的に揺動させることにより、穴開け加工に伴い発生する切粉が分断される。よって、この穴開け加工中において、切粉を分断するために回転工具35aの刃先を加工中のワークWの穴内から外出させる必要がないため、切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる。また、切粉が分断されるため、切粉が回転工具35aに絡まることを抑制でき、ひいては、切粉が絡まることで回転工具35aが折れることを抑制できる。特に、ワークWの回転方向と回転工具35aの回転方向が逆である場合には、ワークWと回転工具35aの周速差が大きくなりやすく、切粉が回転工具35aに絡まりやすいため、切粉を分断することは有益である。
例えば、
図8(a)~(d)に示す比較例では、回転工具35aを加工中の穴から完全に外に出しながら穴開け加工を行うステップ加工又はインチング加工が行われている。例えば、
図8(a)に示すように、回転工具35aをワークWに切り込むことで穴を形成し、
図8(b)に示すように、回転工具35aを加工中の穴から完全に外に出す。これにより、切粉が分断される。次に、
図8(c)に示すように、回転工具35aをより深くワークWに切り込むことで穴を深くし、再び、
図8(d)に示すように、切粉が分断されるように、回転工具35aを加工中の穴から完全に外に出す。このように、ステップ加工又はインチング加工では、回転工具35aを加工中の穴から完全に外に出す必要があり、加工時間が長かった。この点、上記実施形態においては、回転工具35aを揺動させるため、加工中の穴から完全に外に出す必要がなく、切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる。
【0028】
(2)工作機械1は、主軸14とともに軸回転するワークWの外周面の切削加工を行う切削工具58aをZ軸方向に主軸14に対して相対的に移動させる第2移動機構の一例である主軸移動機構13を備える。制御部300は、回転工具35aによりワークWに穴開け加工を行う際には第1工具移動機構30を介して回転工具35aを主軸14に対して相対的にZ軸方向に揺動させ、ワークWの外周面を切削工具58aにより切削加工を行う際には主軸移動機構13を介して切削工具58aを主軸14に対して相対的にZ軸方向に揺動させる。
この構成によれば、穴開け加工を行う際には回転工具35aがワークWに対して相対的にZ軸方向に揺動され、切削加工を行う際には切削工具58aがワークWに対して相対的にZ軸方向に揺動される。これにより、穴開け加工及び切削加工の何れかが単独で行われる場合に確実に切粉が分断される。
【0029】
(3)工作機械1は、主軸14をZ軸方向に移動させる主軸移動機構13を備える。制御部300は、切削加工と穴開け加工を同時に行う重畳加工の際には、切削加工に伴って生じる切粉と穴開け加工に伴って生じる切粉の両方が分断されるように、主軸移動機構13を介して主軸14をワークWとともにZ軸方向に揺動させる。
この構成によれば、重畳加工の際に、切削加工に伴って生じる切粉と穴開け加工に伴って生じる切粉の両方が分断される。これにより、切粉を分断しつつ加工時間を短くすることができる。
【0030】
(4)制御部300は、第1の材質からなるワークWについて切削加工と穴開け加工を同時に行う際には、主軸14及び工具回転機構37を介して回転工具35aの回転方向と主軸14の回転方向を異ならせる。制御部300は、第1の材質よりも切削熱に伴い温度が上昇しやすい第2の材質からなるワークWについて切削加工と穴開け加工を同時に行う際には、主軸14及び工具回転機構37を介して回転工具35aの回転方向と主軸14の回転方向を同方向とする。
この構成によれば、第1の材質よりも切削熱に伴い温度が上昇しやすい第2の材質からなるワークWについては、回転工具35aの回転方向と主軸14の回転方向を同方向とすることにより、回転工具35aとワークWの周速差を小さくでき、切削熱に伴うワークWの温度上昇を抑制できる。一方、第2の材質よりも切削熱に伴い温度が上昇しづらい第1の材質からなるワークWについては、回転工具35aの回転方向と主軸14の回転方向を異ならせることにより、回転工具35aとワークWの周速差を大きくでき、加工時間を短縮することができる。
【0031】
なお、本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、変形の一例を説明する。
【0032】
(変形例)
上記実施形態においては、回転工具35a又は切削工具58aはZ軸方向のみに揺動されていたが、Z軸方向に加えて、X軸方向及びY軸方向の少なくとも何れかの方向にも揺動されてもよい。
また、上記実施形態においては、回転工具35aは、ワークWの端面に穴開け加工を行うドリルであったが、ドリルに限らず回転工具であれば何でもよく、例えば、エンドミルであってもよい。
また、上記実施形態における第1工具移動機構30は、Z軸方向に主軸14に対向する位置に設けられていてもよい。
また、第2工具移動機構50は省略されてもよい。
【0033】
上記実施形態においては、単独穴加工時に、回転工具35aをZ軸方向に揺動させつつ送っていたが、これに限らず、主軸移動機構13を介してワークW(主軸14)をZ軸方向に揺動させつつ送ってもよい。この場合、主軸移動機構13が第1移動機構に相当する。
また、単独穴加工時に、回転工具35aとワークW(主軸14)の一方をZ軸方向に送って、回転工具35aとワークW(主軸14)の他方を揺動させてもよい。
【0034】
上記実施形態においては、制御部300は、ワークWの材質に応じて、ワークW(主軸14)の回転方向と回転工具35aの回転方向を逆方向と同方向の何れかとしていたが、ワークWの材質に関わらず、ワークW(主軸14)の回転方向と回転工具35aの回転方向を逆方向と同方向の何れか一方としてもよい。
【0035】
上記実施形態においては、制御部300は、重畳加工時に、主軸移動機構13を介して主軸14及びワークWを送り方向S1に揺動させつつ送っていたが、これに限らず、主軸14及びワークWを揺動させずに送り方向S1に送り、第1スライド台移動機構32を介して回転工具35aを揺動させつつ送り方向S2に送ってもよい。これにより、穴開け加工に伴い発生する切粉を確実に分断することができる。また、例えば、制御部300は、回転工具35a及び切削工具58aの切り込み量及び送り速度に基づき、重畳加工において穴開け加工に伴い発生する切粉と切削加工に伴い発生する切粉の何れかが絡まりやすいかを予測し、穴開け加工に伴い発生する切粉が回転工具35aに絡まりやすいと予測すると回転工具35aを揺動させ、切削加工に伴い発生する切粉が切削工具58aに絡まりやすいと予測すると主軸14を揺動させてもよい。また、制御部300は、重畳加工において回転工具35aと主軸14の何れを揺動させるかを作業者に選択させ、この選択結果に応じて回転工具35a又は主軸14を揺動させてもよい。
また、上記実施形態において、制御部300は、重畳加工処理を行わなくてもよい。
【0036】
上記実施形態においては、第2工具移動機構50は、第2スライド台51をZ軸方向に移動不可能な構成であったが、これに限らず、
図9及び
図10に示すように、第2スライド台51をZ軸方向(Z2軸方向)に移動させるZ移動機構52Zを備えていてもよい。Z移動機構52Zは、X移動機構52X等と同様に、モータ、ボールねじ及びナットを有する。
図9に示すように、工作機械1から主軸移動機構13が省略されて、主軸14がZ軸方向に移動不可能な構成であってもよいし、
図10に示すように、工作機械1は、主軸14をZ軸方向に移動させる主軸移動機構13を備えていてもよい。
図9及び
図10の変形例においては、Z移動機構52Zが第2移動機構に相当してもよい。この場合、制御部300は、単独切削加工時に、Z移動機構52Zを介して切削工具58aを主軸14に対してZ軸方向に揺動させつつ送り方向S2に送る。特に、
図10の変形例では、単独切削加工時に、切削工具58aとワークW(主軸14)の一方をZ軸方向に送って、切削工具58aとワークW(主軸14)の他方を揺動させてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…工作機械、10…主軸ユニット、11…主軸台、13…主軸移動機構、14…主軸、30…第1工具移動機構、32…第1スライド台移動機構、32X,52X…X移動機構、32Y,52Y…Y移動機構、32Z,52Z…Z移動機構、35…第1工具ユニット、35a…回転工具、35b,35c,58b…工具、36,56…工具支持部、37…工具回転機構、37a…モータ、37b…伝達機構、41…第1スライド台、50…第2工具移動機構、51…第2スライド台、52…第2スライド台移動機構、58…第2工具ユニット、58a…切削工具、300…制御部、K…空振り領域、L…送り成分、S…ベッド、SC,SB,SW…波形、S1,S2…送り方向、W…ワーク、SA,SD…直線、PH,Pa,Pb…極大点、PL,Ma…極小点、t1,t2,t3,t4…時刻