IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -磁性流体駆動装置 図1
  • -磁性流体駆動装置 図2
  • -磁性流体駆動装置 図3
  • -磁性流体駆動装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099413
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】磁性流体駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
F28D15/02 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213168
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】520242218
【氏名又は名称】有限会社グッチクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(71)【出願人】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】山口 博司
(72)【発明者】
【氏名】川口 達夫
(57)【要約】
【課題】電子機器の冷却手段として、同機器の小型化および省エネ化に寄与し、更には、放熱設計の自由度を向上させた磁性流体駆動装置を提供する。
【解決手段】磁性流体駆動装置10は、磁性微粒子が母液中に分散された感温性磁性流体が封入された循環流路11と、当該循環流路11のうち、電子機器の発熱部24に近接した位置に取り付けられた入熱側熱交換器12と、入熱側熱交換器12の近傍で、かつ循環流路11に沿うように配置された永久磁石15と、循環流路11のうち、発熱部24とは離れた位置に取り付けられた放熱側熱交換器13と、を備えている。そして同駆動装置10は、磁性流体として、母液よりも低沸点の溶媒が添加されたものを用い、かつ循環流路11は、柔軟性および断熱性を有するフレキシブルチューブで構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器のケース内に収容され、当該電子機器の冷却手段として用いられる磁性流体駆動装置であって、
磁性微粒子が母液中に分散された感温性磁性流体が封入された循環流路と、
当該循環流路のうち、前記電子機器の発熱部に近接した位置に取り付けられた入熱側熱交換器と、
当該入熱側熱交換器の近傍で、かつ前記循環流路に沿うように配置された永久磁石と、
前記循環流路のうち、前記発熱部とは離れた位置に取り付けられた放熱側熱交換器と、を備え、
前記磁性流体として、前記母液よりも低沸点の溶媒が添加されたものを用い、
かつ前記循環流路は、柔軟性および断熱性を有するフレキシブルチューブで構成されることを特徴とする磁性流体駆動装置。
【請求項2】
前記永久磁石としてラジアルリング磁石が用いられ、当該ラジアルリング磁石は、前記入熱側熱交換器との間隔が調整可能である、請求項1に記載の磁性流体駆動装置。
【請求項3】
前記入熱側熱交換器として、銅製の熱交換器本体に前記磁性流体を通過させる孔が形成されたものが用いられ、かつ当該熱交換器本体のうち、発熱部であるCPUチップと接する底面は平坦に加工されている、請求項1または2に記載の磁性流体駆動装置。
【請求項4】
前記熱交換器本体の底面は、熱伝導性両面テープを介して前記CPUチップに当接している、請求項3に記載の磁性流体駆動装置。
【請求項5】
前記磁性流体の母液としてケロシンが用いられ、かつ前記溶媒としてn-ヘキサンが用いられる、請求項1乃至4のいずれかに記載の磁性流体駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体を封入した流路の一部を加熱することにより磁性流体を駆動する磁性流体駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者等は、先に、磁性流体が封入された流路に、発熱部及び磁場印加部を備えた磁性流体駆動装置を提案した(特許文献1参照)。以下、図4を参照して、同装置の駆動原理を説明する。
【0003】
磁性流体駆動装置では、磁場を印加して磁性流体を磁化し、磁化された磁性流体の一部を加熱して、当該加熱された磁性流体の磁化を低下させる。このことにより、磁性流体に作用する磁気体積力に不均衡を生じさせ、磁性流体を流路内で循環させている。
【0004】
磁性流体は、典型的には、酸化鉄微粒子等の磁性微粒子と、当該磁性微粒子が分散された母液とを含み、更に、母液よりも低い沸点を有する低沸点溶媒を含んでいる。
【0005】
図4(a)に磁性流体駆動装置の主要部の構成を示す。磁場印加部は、横軸を磁性流体流路上の位置x、縦軸を磁場Hとしたときに、理想的には極性反転しない略台形状の分布を示す磁場Hを生じる(図4(b)参照)。
【0006】
磁性流体に磁場Hを印加すると、磁性流体は磁化Mを持つ流体として振舞う。酸化鉄微粒子は、室温において超常磁性的に振舞う。超常磁性体の磁化はランジュバン関数に従うが、低磁場領域においては磁化が磁場に比例すると近似できる。酸化鉄微粒子のキュリー温度は477K(204℃)であり、キュリー温度Tに向かう温度上昇に伴って磁化が低下する感温特性を有する。以上のことから、磁性流体の局所的な磁化Mは、下記数式で表される。
【0007】
【数1】
【0008】
上記数式中の各記号は以下の意味である。
μ0:真空透磁率
χ:磁化率
α:磁性流体の空隙率
T:発熱部における磁性流体の温度
0:非発熱部における磁性流体の温度
c:磁性微粒子のキュリー温度
H:磁場
【0009】
磁場H下にある磁性流体には、磁化M及び磁場勾配▽Hに比例する磁気体積力Fが働く(F=M・▽H)。この磁気体積力Fは、横軸を磁性流体流路上の位置x、縦軸を磁気体積力Fとしたときに、磁場印加部の中心を境界として符号反転する(図4(c)参照)。磁性流体に働くトータルの駆動力は、図4(c)における、磁気体積力Fの曲線と横軸xで囲まれた部分の体積に比例する。
【0010】
加熱前の段階では、図4における右方向の磁気体積力F1と左方向の磁気体積力F2とが釣り合って、磁性流体は駆動しない(図4(c)の「(i)加熱前」参照)。
【0011】
磁性流体流路における磁場印加部の一端に配置された発熱部により、磁化された磁性流体の一部が加熱されると、温度Tの上昇に伴って発熱部における酸化鉄粒子の磁化が低下し、これによって磁性流体の磁化Mが減少する。
【0012】
そしてこのことにより、発熱部の磁気体積力F2は、非発熱部の磁気体積力F1と比べて小さくなるから、F1及びF2の両者の差分として、図4の右方向への駆動力が生じる。従って、磁性流体は自発的に右方向への駆動を始める(図4(c)の「(ii)加熱中(T<TL)」参照)。
【0013】
磁性流体が低沸点溶媒を含有している場合には、磁性流体が低沸点溶媒の沸点TL以上、母液の沸点TH未満の温度まで加熱されると、低沸点溶媒が気化して磁性流体内に気泡が発生する。これにより、磁性流体の空隙率αも増大し、発熱部の磁化Mが更に減少する。
【0014】
従って、右方向への磁気体積力F1と左方向への磁気体積力F2との差が更に増大するから、右方向へのトータルの駆動力(図4(a)に矢印で示す。)が増大することになる(図4(c)の「(iii)加熱中(T≦TL<TH)」参照)。
【0015】
上述した磁性流体駆動装置を用いれば、発熱部の熱の一部を磁性流体に移すと共に、その磁性流体が自己駆動されることによって、発熱部の熱を他所に輸送することができる。更に、磁場印加部を永久磁石によって構成すれば、外部電源なしで、発熱部の熱のみによって駆動できるため、モバイル機器に搭載できるまでの小型化が可能となる。
【0016】
一方、特許文献2には、特許文献1に記載の磁性流体駆動装置を電子機器の冷却手段として用いることが記載されている。
【0017】
同文献では、電子機器の小型化および高機能化が要請される中で、発熱対策の一手法として、CPU等で生じた熱を、磁性流体によって発熱部とは離れた位置に設けられた冷却部まで輸送して冷却し、温度の下がった磁性流体を循環させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2014-50140号公報
【特許文献2】特開2019-71315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献2に記載の磁性流体駆動装置では、磁性流体によって輸送される熱を、冷却フィンおよび冷却ファンを用いて放熱しており、これらの部材を設置するスペースが必要なことから、磁性流体駆動装置のメリットを生かし切れていない。
【0020】
更に、同文献に記載の駆動装置では、モータによってファンを駆動していることから、電子機器を駆動する電力以外の外部動力が必要となるため、省エネの観点からも課題がある。
【0021】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、電子機器の小型化および省エネ化に寄与し、更には、放熱設計の自由度を向上させた磁性流体駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述の目的を達成するために、本発明に係る磁性流体駆動装置は、電子機器のケース内に収容され、当該電子機器の冷却手段として用いられる磁性流体駆動装置であって、
磁性微粒子が母液中に分散された感温性磁性流体が封入された循環流路と、
当該循環流路のうち、前記電子機器の発熱部に近接した位置に取り付けられた入熱側熱交換器と、
当該入熱側熱交換器の近傍で、かつ前記循環流路に沿うように配置された永久磁石と、
前記循環流路のうち、前記発熱部とは離れた位置に取り付けられた放熱側熱交換器と、を備え、
前記磁性流体として、前記母液よりも低沸点の溶媒が添加されたものを用い、
かつ前記循環流路は、柔軟性および断熱性を有するフレキシブルチューブで構成されることを特徴とする。
【0023】
ここで、前記永久磁石としてラジアルリング磁石が用いられ、当該ラジアルリング磁石は、前記入熱側熱交換器との間隔が調整可能であることが好ましい。
【0024】
また前記入熱側熱交換器として、銅製の熱交換器本体に前記磁性流体を通過させる孔が形成されたものが用いられ、かつ当該熱交換器本体のうち、発熱部であるCPUチップと接する底面は平坦に加工されていることが好ましい。
【0025】
前記熱交換器本体の底面は、熱伝導性両面テープを介して前記CPUチップに当接していることが好ましい。
【0026】
前記磁性流体の母液としてケロシンが用いられ、かつ前記溶媒としてn-ヘキサンが用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る磁性流体駆動装置によれば、電子機器の小型化および省エネ化に寄与する、冷却手段として好適な装置を実現できる。
【0028】
更に、本発明に係る磁性流体駆動装置は、発熱部に対する放熱側熱交換器の上下方向の位置を選ばないこと、および2つの熱交換器の間をフレキシブルチューブで連結していることから、ヒートパイプを用いて熱輸送を行う場合に比較し、放熱設計を行う際の自由度が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係る磁性流体駆動装置を冷却手段として組み込んだパーソナルコンピュータの概略構成を示す平面図(a)と正面図(b)である。
図2】同装置の入熱側熱交換器の一部切欠正面図(a)と側面図(b)である。
図3】パーソナルコンピュータに組み込まれた本発明の実施の形態に係る磁性流体駆動装置の冷却特性を示すグラフである。
図4】磁性流体駆動装置の動作原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態に係る磁性流体駆動装置について、図面を参照して説明する。
【0031】
<磁性流体駆動装置の構成と機能>
図1に、本実施の形態に係る磁性流体駆動装置を冷却手段として組み込んだパーソナルコンピュータの概略構成を示す。図1(a)は、横置き型のパーソナルコンピュータ(以降、「PC」と略す。)20のケース21から天井板を取り外した状態を示し、図1(b)は、同ケース21から正面側の側板を取り外した状態を示す。
【0032】
PC20のケース21内には、プリント基板、ハードディスクドライブ、電源ユニットを初めとする複数の構成部材が収納されているが、図1では、それらのうちマザーボード22とハードディスクドライブ23だけを表示し、その他の部材については、本発明との関連性が乏しいことから、省略している。
【0033】
マザーボード22は、ビス等を介してケース21の底面に固定され、その表面には、CPUチップ24、メモリ25、サブボード26等が取り付けられている。マザーボード22に取り付けられた部材のうちCPUチップ24からの発熱量が最も大きい。
【0034】
一方、PCのケース21の空いた空間には、発熱部であるCPUチップ24の熱をケースの外部に放熱して冷却する磁性流体駆動装置10が収容されている。
【0035】
磁性流体駆動装置10は、フレキシブルチューブ11、入熱側熱交換器12、放熱側熱交換器13、パイプジョイント14およびラジアルリング磁石15で構成されている。
【0036】
循環流路を構成するフレキシブルチューブ11には磁性流体が封入されており、前述の図4で説明した原理に基づき、自己循環系強制対流によって、発熱部であるCPUチップ24で発生した熱を輸送し、フレキシブルチューブ11内の磁性流体を加熱する。
【0037】
フレキシブルチューブ11のうち、CPUチップ24に近接した位置に入熱側熱交換器12が取り付けられ、CPUチップ24から離れた位置に放熱側熱交換器13が取り付けられている。
【0038】
入熱側熱交換器12の構造を図2に示す。熱交換器本体121は熱伝導率の高い銅で作製され、中心部に磁性流体を通す孔122が形成され、孔122の両端にはチューブ11を装着する連結部123が形成されている。図1に示すように、熱交換器12とフレキシブルチューブ11は、パイプジョイント14によって密閉した状態で連結されており、隙間から磁性流体が漏れ出ることはない。
【0039】
熱交換器本体121の底面は平坦に形成され、熱伝導性両面テープ16を用いてCPUチップ24の上面に接着されている。熱伝導性両面テープ16は、放熱効果を高めるために用いられ、CPUチップ24で発生した熱は、熱交換器12に効率よく移動し、熱交換器本体121の孔122に滞留する磁性流体は、移動した熱によって加熱される。
【0040】
入熱側熱交換器12の近傍には、磁性流体に磁場を印加する手段として、永久磁石であるラジアルリング磁石15が配置されている。ラジアルリング磁石(以降、単に「磁石」とも云う)15は、フレキシブルチューブ11が中空部を貫通する状態で配置され、かつ図1に矢印で示したように、入熱側熱交換器12との間隔が調整できるように構成されている。煩雑さを避けるため、間隔調整用の治具は省略している。
【0041】
磁石15によって磁性流体に印加される磁場の強度は、発熱部の温度、循環流路を構成するフレキシブルチューブ11の断面積、磁性流体の流量等を総合的に判断して決定される。
【0042】
図4を用いて駆動原理を説明したように、熱交換器12の孔122内に滞留する磁性流体が温められ、磁石15によって形成される磁場内に温度勾配が生じる。磁場内に温度勾配が生じることによって高温側の磁性流体の磁化が低下するため、磁石15の磁場により、磁気体積力(磁石15に引き寄せられる力)の非対称性が生じる。
【0043】
そして高温側の磁性流体が低温側のそれよりも磁化が低下するため、磁性流体は図1(a)において相対的に、紙面に向かって下側に進む力を受け、それが駆動力となってフレキシブルチューブ11内を、白抜きの矢印で示す方向に移動を開始する。
【0044】
この時、磁石15の上側(高温側)の磁性流体と下側(低温側)の磁性流体との温度差が大きいほど駆動力となる磁気体積力が大きくなる。つまり、温度差が大きければ大きいほど、磁石15の上側と下側にそれぞれ位置する磁性流体の磁化のバランスが崩れ、発生する力が強くなるため、循環効率が高くなる。
【0045】
上述したように、入熱側熱交換器12と磁石15との間隔は調整可能であり、磁石15の位置を変えることによっても磁性流体の駆動力を制御することができる。
【0046】
その後、熱せられた磁性流体は、自己循環系強制対流によってフレキシブルチューブ11内を矢印の方向に進み、放熱側熱交換器12に到達する。
【0047】
放熱側熱交換器13は、磁性流体によって輸送された熱を空気中に放熱するために設けられており、熱伝導性の高い銅製の角柱の中心部に磁性流体循環用の孔を開けたものである。熱交換器13の本体は入熱側熱交換器12と同様に、パイプジョイント14によってフレキシブルチューブ11に連結されている。
【0048】
一般的な熱交換器では、表面にフィンを取り付けて放熱効率を高めているが、本実施の形態に係る磁性流体駆動装置は放熱特性が非常に高いため、フィンを取り付けなくても、十分な放熱効果を発揮する。
【0049】
PCのケース21の側板には吸気口211が形成され、また天井板には排気口212が形成されているため、熱交換器13から放出された熱は、自然対流により吸気口211および排気口212を通過する空気に運ばれて外部に放出される。
【0050】
次に、上述の構成部材のうち、磁性流体の組成、ならびにフレキシブルチューブおよび永久磁石の材質について説明する。
【0051】
最初に、磁性流体の組成について説明する。本実施の形態において使用される感温性磁性流体は、磁性微粒子と、当該磁性微粒子を分散させる母液を含み、更に、母液よりも沸点の低い低沸点溶媒を含んでいる。
【0052】
磁性微粒子としては、例えば、酸化鉄系微粒子、スピネルフェライト(MFe24、M=Fe、Mn、Ni、又はMnxZn1-x(0<x<1))、Y-ヘマタイト(Y-Fe2O3)等を挙げることができる。好ましくはマンガン亜鉛フェライト(MnxZn1-xFe24、0<x<1)である。マンガン亜鉛フェライトは、常温域における磁化が大きく、磁化の温度依存性が高く、組成の制御によりキュリー温度を適宜に調整できることから、本実施の形態に用いる磁性流体として適している。
【0053】
母液としては、例えば、水、炭化水素系オイル(例えば、ケロシン、アルキルナフタレン等)、フッ素系オイル(例えばパーフルオロポリエーテル等)等を挙げることができる。
【0054】
低沸点の溶媒は、母液よりも沸点の低い溶媒から、母液との相溶性等を考慮して適宜選択する。例えば、母液が炭化水素系オイル(例えばケロシン)である場合には、炭化水素系オイルよりも沸点の低い炭化水素化合物(例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン等)を使用する。低沸点の溶媒と母液との混合比は、得られる磁性流体の熱磁気的特性等を考慮のうえ、適宜決定する。
【0055】
CPUチップ24の発熱によって熱交換器12の孔122内に滞留する磁性流体が加熱され、磁性流体中の低沸点溶媒の沸騰により気泡が発生する。その結果、気泡発生部の磁気体積力の低減効果による正方向への磁気体積力が増加し、流体駆動力が増す。また、気泡発生による非圧縮性である液体の排除効果によっても流体駆動力が増し、沸騰の起こらない状態のいわゆる単相流の場合と比較して、効率良く磁性流体を駆動させることが可能となる。
【0056】
次に、循環流路を構成するフレキシブルチューブについて説明する。本実施の形態では、断熱性に優れ、かつ柔軟性のあるチューブとして、テフロン(登録商標)チューブを使用している。当該フレキシブルチューブによって構成される循環流路の内径直径は5mm以下が好ましく、流路のレイノルズ数は1000以下が好ましい。
【0057】
流路の内径直径が5mm以下であれば、装置の小型化を可能にし、レイノルズ数1000以下での層流であれば、流路内の流れの乱れが少なく高効率に駆動させることが可能になり、流路内の淀みも少なく、熱により生成した気泡も滞留しにくくなる。また、加熱部からの熱量も少なくて済み、少量の熱で高効率での流体駆動が可能になる。
【0058】
次に、磁石15について説明する。永久磁石としては、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石等が利用可能であるが、最も磁力が大きく高磁場を発生することができるネオジム磁石が好ましい。
【0059】
また本実施の形態では、磁石15としてラジアルリング磁石を用いたが、永久磁石の形状は、どのようなものであっても良い。例えば、角柱、円柱、楕円柱のものがある。
【0060】
次に、本実施の形態に係る磁性流体駆動装置の冷却効果について、実験結果に基づいて説明する。図3に、図1に示した磁性流体駆動装置10を冷却手段として用いたPC20の冷却特性を示す。図3のグラフにおいて、横軸はCPUの負荷率を示し、縦軸はCPUチップ24の温度を示す。
【0061】
本実施の形態では、磁性流体として、ケロシンベースの感温性磁性流体TS-50K(株式会社イチネンミカルズ製、キュリー温度:528K)80重量%、およびn-ヘキサン(和光製薬工業株式会社製)20重量%の混合物を用いた。
【0062】
図3において、実線は、冷却手段として本実施の形態に係る磁性流体駆動装置を用いた場合のCPUチップの表面温度を示し、破線は当該駆動装置を用いず、CPUチップを自然冷却させた場合のチップの表面温度を示す。
【0063】
図3のグラフから明らかなように、冷却手段として本実施の形態に係る磁性流体駆動装置を用いた場合、それを用いない場合に比較してCPUチップの温度が20℃~35℃低下し、その差は、CPUの負荷率が高くなる程大きくなる。CPUの負荷率が30%に近くなり、自然冷却のチップ温度が90℃近くになっても、本実施の形態に係る磁性流体駆動装置を用いれば、チップ温度を55℃以下に保持できる。かかる結果より、電子機器の冷却手段として、実用上十分な効果を発揮することが分かった。
【0064】
以下に、本実施の形態に係る磁性流体駆動装置を、電子機器の冷却手段として用いた場合の効果を列記する。
【0065】
(1)本実施の形態に係る磁性流体駆動装置は、放熱性能が非常に高いため、放熱用のファンが不要となり、装置を組み込んだ電子機器の小型化が可能となる。またファン駆動用の電力が不用であることから、省エネにも寄与する。
【0066】
(2)入熱側熱交換器と磁石との間隔を調整することによって磁性流体の駆動力を制御できるため、冷却特性の調整が容易である。
【0067】
(3)循環流路をフレキシブルチューブで構成しているため、ケース内の電子部品の配列に応じて、入熱側熱交換器と放熱側熱交換器を自由に配置できる。
【0068】
(4)自己循環系強制対流による熱輸送を採用しているため、放熱側熱交換器は発熱部に対して水平方向のみならず、上方、下方のいずれの位置にも設置できる。
【0069】
(5)2つの熱交換器の間をフレキシブルチューブで連結していること、および発熱部に対する放熱側熱交換器の上下方向の位置を選ばないことから、ヒートパイプを用いて熱輸送を行う場合に比較し、放熱設計の自由度が大幅に向上する。
【0070】
(6)磁性流体駆動装置の放熱性能が高いことから、入熱側熱交換器として、金属の板や棒に磁性流体移送用の孔を形成したものを用いることができ、装置コストが削減できる。
【0071】
(7)本実施の形態に係る磁性流体駆動装置では、更に、発熱部であるCPUチップと入熱側熱交換器とを、熱伝導性両面テープが介在した状態で当接させており、発熱部の熱を効率よく磁性流体に移すことができる。
【0072】
なお、本実施の形態では、PCのケース内に、冷却手段として磁性流体駆動装置を収容する場合について説明したが、これに限らず、デジタルカメラ、ゲーム機等の発熱を伴う電子機器であれば、いずれの機器にも搭載が可能である。
【0073】
同様に、冷却対象となる発熱部についても、CPUチップに限定されず、動画処理用のLSIチップ等、動作に伴って大量の熱を発生する電子部品や各種の光源に対して適用可能である。
【0074】
また本実施の形態では、放熱側熱交換器として、銅製の柱に作動流体輸送用の孔を設けたものを用いたが、収容スペースに余裕があれば、金属柱の表面に放熱用のフィンを取り付けてもよい。フィンによって冷却性能が向上すれば、磁性流体駆動装置の用途が更に拡大する。
【符号の説明】
【0075】
10 PC
11 フレキシブルチューブ
12 入熱側熱交換器
13 放熱側熱交換器
14 パイプジョイント
15 ラジアルリング磁石
16 熱伝導性両面テープ
20 磁性流体駆動装置
21 ケース
22 マザーボード
23 HDD
24 CPUチップ
25 メモリチップ
26 サブボード
121 熱交換器本体
122 孔
123 連結部
124 底面
211 吸気口
212 排気口
図1
図2
図3
図4