(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099415
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ガイド波式の超音波流量計、流量計測方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20220628BHJP
【FI】
G01F1/66 Z
G01F1/66 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213171
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】石黒 裕也
(72)【発明者】
【氏名】松下 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】外村 啓真
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 克幸
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035DA07
2F035DA08
2F035DA13
2F035DA14
2F035DA19
2F035DA22
(57)【要約】
【課題】環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、測定精度を向上させることができるガイド波式の超音波流量計を提供すること。
【解決手段】本発明の超音波流量計11は、一方の超音波振動子21Aから送信した超音波ガイド波をチューブ長手方向に沿って伝播させて他方の超音波振動子21Bで受信する送受信動作を流れの正方向及び逆方向で複数回ずつ行う。超音波流量計11は、送信タイミング制御部、波形合成部、流量算出部を備える。送信タイミング制御部は、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせ、送信タイミングを制御する。波形合成部は、同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成する。流量算出部は、波形合成された受信信号から算出される伝播時間の差に基づき、流体の流量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる直管状のチューブの外周面に超音波振動子をチューブ長手方向に離間させて一対配置した構造を備え、一方の前記超音波振動子から送信した超音波ガイド波を前記チューブ長手方向に沿って伝播させて他方の前記超音波振動子で受信する送受信動作を流れの正方向及び逆方向について複数回ずつ行い、正方向の伝播時間及び逆方向の伝播時間の差に基づいて前記流体の流量を算出する超音波流量計であって、
同じ方向への複数回の前記送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせることにより、送信タイミングを制御する送信タイミング制御部と、
同じ方向への複数回の前記送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成する波形合成部と、
波形合成された前記受信信号から算出される前記伝播時間の差に基づいて、前記流体の流量を算出する流量算出部と
を備えることを特徴とするガイド波式の超音波流量計。
【請求項2】
前記送信タイミング制御部は、
送信の間隔の基準となる第1設定時間とその第1設定時間よりも短い複数種類の第2設定時間とを設定するとともに、複数種類の前記第2設定時間のうちから毎回異なるものを1つ選択して前記第1設定時間に加算及び/又は減算することにより、
同じ方向への複数回の前記送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせる
ことを特徴とする請求項1に記載のガイド波式の超音波流量計。
【請求項3】
前記送信タイミング制御部は、
前記超音波振動子の発振周波数から求められる周期をT、nを2以上の自然数、kを1以上n以下の自然数、送信の間隔の基準となる第1設定時間をtとし、同じ方向にn回連続して前記超音波ガイド波を送受信するときのk回目の送信と(k+1)回目の送信との間隔をtkと定義した場合、
tk=t+(k-1)・T/nとなるように、前記送信タイミングを制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のガイド波式の超音波流量計。
【請求項4】
前記自然数nは、4以上かつ32以下の偶数であることを特徴とする請求項3に記載のガイド波式の超音波流量計。
【請求項5】
流体が流れる直管状のチューブの外周面に超音波振動子をチューブ長手方向に離間させて一対配置し、前記超音波振動子によって超音波ガイド波を発生させて流量を計測する方法であって、
上流側の前記超音波振動子から前記超音波ガイド波を複数回送信するとともに当該送信の間隔を毎回異ならせることにより送信タイミングを変化させ、前記チューブ長手方向に沿って伝播した超音波ガイド波を下流側の前記超音波振動子で受信する正方向送受信ステップと、
下流側の前記超音波振動子から前記超音波ガイド波を複数回送信するとともに当該送信の間隔を毎回異ならせることにより送信タイミングを変化させ、前記チューブ長手方向に沿って伝播した超音波ガイド波を上流側の前記超音波振動子で受信する逆方向送受信ステップと、
前記正方向送受信ステップで受信した複数の受信信号の波形を合成して第1波形合成信号を得るとともに、前記逆方向送受信ステップで受信した複数の受信信号の波形を合成して第2波形合成信号を得る波形合成ステップと、
前記第1波形合成信号から正方向の伝播時間を求めかつ前記第2波形合成信号から逆方向の伝播時間を求めることで伝播時間の差を算出し、その伝播時間の差に基づいて前記流体の流量を算出する流量算出ステップと
を含むことを特徴とする流量計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直管状のチューブの長手方向に沿って超音波ガイド波を伝播させることで流体の流量を計測するガイド波式の超音波流量計、及びそれにおける流量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体の流量を計測するための装置として、超音波流量計がよく知られている。 従来の一般的な超音波流量計の場合、一対の超音波振動子を対向させて配置するために、流路となるチューブの部分が屈曲した形状となっている。そのため、圧力損失大きい、液溜りが生じてしまうといったデメリットがある。このような事情のもと、流路が屈曲していない直管状のチューブを用いたストレートタイプの超音波タイプの流量計に対する強い要望がある。ストレートタイプの超音波流量計のなかでも、チューブ長手方向に沿って伝播する超音波ガイド波を流量の計測に利用する、ガイド波式の超音波流量計が従来いくつか提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
具体例を挙げて説明すると、一般的なガイド波式の超音波流量計は、流体が流れる直管状のチューブを備えており、そのチューブの外周面に一対の超音波振動子が配置されている。これらの超音波振動子は例えば円環状をなしており、チューブ長手方向に互いに離間して配置されている。チューブ内における一対の超音波振動子間の領域は計測部となっている。そして、流体がチューブ内を流れているときに、一方の超音波振動子から超音波ガイド波を送信して他方の超音波振動子で受信する。このような送受信動作を流れに沿った正方向及び逆方向について複数回ずつ行い、超音波ガイド波の伝播時間差を計算することにより、流量が算出されるようになっている。なお、同じ方向に対して送受信動作を複数回行う場合には、送信の時間間隔を一定に設定することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、円環状の超音波振動子を駆動した場合、超音波ガイド波は計測部に面している内側端面から発信されるばかりでなく、計測部に面していない外側端面からも同様に発信される。つまり、超音波ガイド波は、計測に使用する受信側の超音波振動子に向かって伝播するばかりでなく、計測とは関係のない反対方向にも同じ分だけ伝播する。便宜上、計測に用いる前者の超音波ガイド波を「主要信号」と呼び、計測に用いない後者の超音波ガイド波を「不要信号」あるいは「音響ノイズ」と呼ぶことにする。
【0006】
一般的にガイド波式の超音波流量計では、超音波ガイド波の減衰が小さいことが知られている。それゆえ、長時間減衰しない不要信号がチューブ端や継手等で反射して残響となって計測部に戻ってきてしまい、必要信号の波形に音響ノイズとなって加算されることがある。このような音響ノイズは、測定誤差を生じさせる大きな原因となっている。
【0007】
ここで、
図6を用いて説明する。例えばガイド波式の超音波流量計を使用する環境の温度が一定の条件下(例えばT1[℃]の条件下)であれば、一定の時間間隔で送信を行っても、音響ノイズが必要信号に加算されるタイミングは常に一定であり、時間差は生じない。この場合にはその環境温度(T1[℃])にてゼロ点調整を行って音響ノイズの影響をキャンセルすることができる。それゆえ、測定誤差は生じにくい。しかしながら、環境温度が一定でない条件下(例えばT1→T2[℃]となるような条件下)では、チューブの膨張等に起因して、音響ノイズが必要信号に加算されるタイミングが変わり、時間差が生じてしまう。即ち、温度条件の変化によってゼロ点のシフトが発生する。従って、ある温度でゼロ点調整を行って音響ノイズの影響をキャンセルできたとしても、温度変化により発生する時間差によって、音響ノイズが違うタイミングで加算されてしまう。この場合の音響ノイズはキャンセル不能であるため、結果として測定誤差が生じやすくなる。つまり、キャンセル不能な音響ノイズを発生させやすい上記従来装置は、温度特性に劣るものであったので、測定精度の向上のために音響ノイズの影響を軽減する何らかの対策が必要であると考えられていた。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、測定精度を向上させることができるガイド波式の超音波流量計、流量計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、流体が流れる直管状のチューブの外周面に超音波振動子をチューブ長手方向に離間させて一対配置した構造を備え、一方の前記超音波振動子から送信した超音波ガイド波を前記チューブ長手方向に沿って伝播させて他方の前記超音波振動子で受信する送受信動作を流れの正方向及び逆方向について複数回ずつ行い、正方向の伝播時間及び逆方向の伝播時間の差に基づいて前記流体の流量を算出する超音波流量計であって、同じ方向への複数回の前記送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせることにより、送信タイミングを制御する送信タイミング制御部と、同じ方向への複数回の前記送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成する波形合成部と、波形合成された前記受信信号から算出される前記伝播時間の差に基づいて、前記流体の流量を算出する流量算出部とを備えることを特徴とするガイド波式の超音波流量計をその要旨とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の発明によると、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔が毎回異なるものとなるように、送信タイミング制御部が送信タイミングを制御する。そして波形合成部が同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成することにより、音響ノイズのみがキャンセルされる。即ち、毎回の送信において位相が同じ主要信号は強め合う一方、毎回の送信において位相が異なる不要信号(音響ノイズ)は弱め合って平均化されることで、キャンセルされる。よって、環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、S/N比が改善される結果、測定精度を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記送信タイミング制御部は、送信の間隔の基準となる第1設定時間とその第1設定時間よりも短い複数種類の第2設定時間とを設定するとともに、複数種類の前記第2設定時間のうちから毎回異なるものを1つ選択して前記第1設定時間に加算及び/又は減算することにより、同じ方向への複数回の前記送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせることをその要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記送信タイミング制御部は、前記超音波振動子の発振周波数から求められる周期をT、nを2以上の自然数、kを1以上n以下の自然数、送信の間隔の基準となる第1設定時間をtとし、同じ方向にn回連続して前記超音波ガイド波を送受信するときのk回目の送信と(k+1)回目の送信との間隔をtkと定義した場合、tk=t+(k-1)・T/nとなるように、前記送信タイミングを制御することをその要旨とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記自然数nは、4以上かつ32以下の偶数であることをその要旨とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、流体が流れる直管状のチューブの外周面に超音波振動子をチューブ長手方向に離間させて一対配置し、前記超音波振動子によって超音波ガイド波を発生させて流量を計測する方法であって、上流側の前記超音波振動子から前記超音波ガイド波を複数回送信するとともに当該送信の間隔を毎回異ならせることにより送信タイミングを変化させ、前記チューブ長手方向に沿って伝播した超音波ガイド波を下流側の前記超音波振動子で受信する正方向送受信ステップと、下流側の前記超音波振動子から前記超音波ガイド波を複数回送信するとともに当該送信の間隔を毎回異ならせることにより送信タイミングを変化させ、前記チューブ長手方向に沿って伝播した超音波ガイド波を上流側の前記超音波振動子で受信する逆方向送受信ステップと、前記正方向送受信ステップで受信した複数の受信信号の波形を合成して第1波形合成信号を得るとともに、前記逆方向送受信ステップで受信した複数の受信信号の波形を合成して第2波形合成信号を得る波形合成ステップと、前記第1波形合成信号から正方向の伝播時間を求めかつ前記第2波形合成信号から逆方向の伝播時間を求めることで伝播時間の差を算出し、その伝播時間の差に基づいて前記流体の流量を算出する流量算出ステップとを含むことをその要旨とする。
【0015】
従って、請求項5に記載の発明によると、正方向送受信ステップ及び逆方向送受信ステップでは、複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔が毎回異なるタイミングとなるように、それぞれ送信が行われる。波形合成ステップでは、同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成することにより、第1波形合成信号及び第2波形合成信号が得られる。このようにして得られた第1波形合成信号及び第2波形合成信号では、いずれも不要信号である音響ノイズのみがキャンセルされる。即ち、毎回の送信において位相が同じ主要信号は強め合う一方、毎回の送信において位相が異なる不要信号(音響ノイズ)は弱め合って平均化されることで、キャンセルされる。それゆえ、流量算出ステップにおいて、低ノイズの第1波形合成信号及び第2波形合成信号に基づくことにより、正確に流量計算を行うことが可能となる。よって、環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、S/N比が改善される結果、測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、請求項1~5に記載の発明によると、環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を具体化した実施形態のガイド波式の超音波流量計を示す斜視図。
【
図2】実施形態のガイド波式の超音波流量計を示す断面図。
【
図3】(a)は従来例における超音波ガイド波の送信タイミングと、本実施形態における超音波ガイド波の送信タイミングとを比較して説明するためのタイムチャート、(b)は本実施形態の送信タイミングで超音波ガイド波の送信を行ったときの信号波形を示すグラフ。
【
図4】(a)は本実施形態において同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を示すグラフ、(b)は(a)における所定の領域R1を拡大したグラフ。
【
図5】(a)は従来例において同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を示すグラフ、(b)は(a)における所定の領域R1を拡大したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態のガイド波式の超音波流量計を
図1~
図5に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1、
図2に示されるように、本実施形態の超音波流量計11は、直管状のチューブ12の長手方向に沿って進む超音波ガイド波を利用して、チューブ12内を流れる液体の流量を計測するための装置である。この超音波流量計11は、流量計測管としての直管状のチューブ12を備えていることから、ストレートタイプの超音波流量計と称されることがある。チューブ12を流れる液体としては任意であって特に限定されないが、本実施形態では加熱された高温の液体(半導体洗浄液など)がチューブ12に流される。
【0020】
チューブ12は可撓性を有する樹脂製であって、ここではフッ素樹脂の一種である四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン(PFA)を材料として用いて形成されている。勿論、チューブ12はPFA以外の樹脂材料を用いて形成されてもよく、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、シリコーンゴム、ポリエチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などを用いて形成されてもよい。
【0021】
図1、
図2に示されるように、この超音波流量計11は、一対の超音波振動子21A、21Bを備えている。これらの超音波振動子21A、21Bは、チューブ12の外周面13に配設されている。便宜上、
図1及び
図2において左側に位置する超音波振動子を第1の超音波振動子21Aとし、
図1及び
図2において右側に位置する超音波振動子を第2の超音波振動子21Bとする。第1の超音波振動子21Aと第2の超音波振動子21Bとは、チューブ長手方向に沿って互いに離間した状態で配置されている。本実施形態の超音波振動子21A、21Bはともに円環状であって、同じ寸法を有する。具体的には、これら超音波振動子21A、21Bは、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電セラミックスを用いて形成された圧電素子である。円環状をなす超音波振動子21A、21Bは中心孔24を有しており、その中心孔24の内周面はチューブ12の外周面13に対して密着されている。このとき、中心孔24の内周面とチューブ12の外周面13とは直接接して密着していてもよいが、音響整合層として機能するカップリング材層などを介して密着していてもよく、あるいは接着剤層を介して密着していてもよい。
【0022】
チューブ12内における一対の超音波振動子21A、21B間の領域は、計測部31となっている。これら超音波振動子21A、21Bは、それぞれ第1側端面22及び第2速端面23を有している。第1の超音波振動子21Aの第1側端面22と、第2の超音波振動子21Bの第1側端面22とは、計測部31に面した状態で互いに対向して配置されている。第1の超音波振動子21Aの第2側端面23及び第2の超音波振動子21Bの第2側端面23は、計測部31に面しておらず、それぞれ計測部31がある方向とは反対方向(即ち計測部31の外部領域32)を向くように配置されている。
【0023】
次に、
図1に基づいて超音波流量計11の電気的構成について説明する。
【0024】
この超音波流量計11は計測制御装置41を備えている。この計測制御装置41は、一対の超音波振動子21A、21Bを駆動して計測部31内で送受信を行うことにより、チューブ12内を流れる液体の流量を演算によって求めるための装置である。本実施形態の計測制御装置41は、信号処理部42、演算処理部43、入力装置44及び表示装置45等を備えている。信号処理部42は、一対の超音波振動子21A、21Bを駆動するための駆動信号を出力する回路などを含んでいる。
【0025】
なお、一対の超音波振動子21A、21Bを駆動するときの周波数は特に限定されず高周波数であればよいが、超音波ガイド波を励起させうる周波数であることが必要である。本実施形態では例えば200kHz~300kHz程度に設定している。
【0026】
演算処理部43は、従来周知のCPU46やメモリ47等を含んで構成された処理回路である。メモリ47には、制御プログラムやデータが記憶されており、CPU46は、メモリ47に記憶されている制御プログラムに基づいて流量計算のための演算処理や表示処理を行う。
【0027】
また、入力装置44は、各種の操作ボタンを有し、測定の開始・終了、表示モードの設定などを行う。表示装置45は、例えば液晶ディスプレイであり、演算処理部43にて算出された流量を表示する。
【0028】
本実施形態のCPU46は、送信タイミング制御部としての役割を担っている。送信タイミング制御部であるCPU46は、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔を毎回異ならせることにより、送信タイミングを制御する。具体的にいうと、CPU46は、送信の間隔の基準となる第1設定時間tと、その第1設定時間tよりも短い複数種類の第2設定時間t´とを設定する。そしてCPU46は、複数種類の第2設定時間t´のうちから毎回異なるものを1つ選択して、第1設定時間tに加算することにより、送信タイミングの制御を行う。換言すると、本実施形態では、第1設定時間tに対して毎回異なる第2設定時間t´(即ち毎回異なる遅延時間)が加算されることで、送信タイミングが少しずつ遅延するようになっている。なお、複数種類の第2設定時間t´は、限定されず任意に決定されるが、例えば第1設定時間tの半分以下の長さ、好ましくは数分の1以下の長さに設定される。より詳しく説明すると、本実施形態において複数種類の第2設定時間t´は下記のようにして決定される。
【0029】
超音波振動子21A、21Bの発振周波数から求められる周期をTと定義する。nを2以上の自然数と定義する。kを1以上n以下の自然数と定義する。送信の間隔の基準となる第1設定時間は、既に示したようにtである。そして、同じ方向にn回連続して超音波ガイド波を送受信するときのk回目の送信と(k+1)回目の送信との間隔をtkと定義する。この場合において、CPU46は、k回目の送信と(k+1)回目の送信との間隔tkがt+(k-1)・T/nとなるように送信タイミングを設定し、その設定に基づいて送信タイミングを制御するようになっている。つまり、CPU46は、複数種類の第2設定時間t´を(k-1)・T/nに設定し、超音波ガイド波の送信時に第1設定時間tにこれを加算して送信タイミングを設定すると把握することもできる。周期Tを除する自然数nは、2以上であれば特に限定されないが、偶数(2の倍数)であることが好ましく、4以上かつ32以下の偶数であることがより好ましい。nの値が小さすぎると音響ノイズを十分に平均化できないおそれがある。また、nの値が必要以上に大きくなったとしても、音響ノイズを平均化する効果の大幅な向上は期待できず、かえって演算処理の負担増大や、演算処理の所要時間の増加につながるおそれがある。以上のような事情を考慮して、本実施形態ではn=8に設定している。
【0030】
図3(a)は、従来例における超音波ガイド波の送信タイミング(上段)と、本実施形態における超音波ガイド波の送信タイミング(下段)とを比較して説明するためのタイムチャートである。横軸は時間軸であり、縦棒は左から順に、1回目、2回目、3回目・・・の送信タイミングを示している。上段のタイムチャートでは、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔t
kが、毎回tに設定される。即ち間隔t
kは一定とされているため、送信タイミングに遅延は生じない。これに対し、下段のタイムチャートでは、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔t
kは、毎回一定時間ずつ長くなっている。具体的には、1回目の送信と2回目の送信との間隔t
1がt、2回目の送信と3回目の送信との間隔t
2がt+T/n、3回目の送信と4回目の送信との間隔t
3がt+2・T/n、4回目の送信と5回目の送信との間隔t
4がt+3・T/n、・・・となるように、送信タイミングが設定される。つまり、毎回の送信ごとにT/nずつ遅延時間が増えていく。
【0031】
図3(b)は、
図3(a)下段のタイムチャートのような送信タイミングで超音波ガイド波の送信を行ったときの信号波形を示すグラフである。これによると、主要信号については、毎回の送信において位相が同じであることがわかる。一方、不要信号(音響ノイズ)については、毎回の送信において位相が異なることがわかる。
【0032】
図4(a)は、本実施形態において同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を示すグラフであり、
図4(b)は
図4(a)における所定の領域R1を拡大したグラフである。
図4(b)によると、主要信号については、いずれも位相が同じである。それゆえ、8回の送信により得られた8つの受信波形における主要信号の部分は、重なり合っている。一方、不要信号(音響ノイズ)については、いずれも位相が少しずつ異なる。それゆえ、8回の送信により得られた8つの受信波形における不要信号は、時間方向に少しずつずれている。
【0033】
図5(a)は、従来例において同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を示すグラフであり、
図5(b)は
図5(a)における所定の領域R1を拡大したグラフである。
図5(b)によると、主要信号については、いずれも位相が同じである。それゆえ、8回の送信により得られた8つの受信波形における主要信号の部分は、重なり合っている。一方、不要信号(音響ノイズ)についても、いずれも位相が同じである。それゆえ、8回の送信により得られた8つの受信波形における不要信号も、重なり合っている。従って、
図4(b)と比較すると、不要信号(音響ノイズ)のレベルが大きく、周期性を持った状態を保っている。
【0034】
本実施形態のCPU46は、さらに波形合成部としての役割を担っている。波形合成部であるCPU46は、同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成する。波形合成を行うと、毎回の送信において位相が同じ主要信号は強め合う。その一方で、毎回の送信において位相が異なる不要信号(音響ノイズ)は弱め合って平均化される。その結果、波形合成された受信信号中において音響ノイズのみがキャンセルされる。
【0035】
本実施形態のCPU46は、さらに流量算出部としての役割を担っている。流量算出部であるCPU46は、波形合成された受信信号から算出される伝播時間の差に基づいて、流体の流量を算出する。
【0036】
次に、このように構成された超音波流量計11における測定動作について説明する。
【0037】
流量の測定は液体がチューブ12内を所定方向に流れているときに行われる。例えば、
図1及び
図2の左側から右側に向かって液体が流れているものとする。このとき、第1の超音波振動子21Aが上流側に位置する超音波振動子、第2の超音波振動子21Bが下流側に位置する超音波振動子ということになる。この状態で操作ボタンを操作して流量測定の開始を指示すると、CPU46の指令によって信号処理部42が駆動される。すると、一対の超音波振動子21A、21Bに超音波ガイド波の送受信を開始する。
【0038】
まず、CPU46は正方向送受信ステップを実行し、上流側である第1の超音波振動子21Aに超音波ガイド波を8回送信させる。このとき、当該送信の間隔tkがT/8ずつ長くなるよう設定にして、毎回の送信タイミングを一定時間ずつ遅延させる。そして、超音波ガイド波をチューブ長手方向に沿って計測部31内を流れの正方向に伝播させ、その超音波ガイド波を下流側である第2の超音波振動子21Bで受信する。第2の超音波振動子21Bが受信した受信8回分の受信信号は、メモリ47内に逐次格納される。
【0039】
また、CPU46は逆方向送受信ステップを実行し、下流側である第2の超音波振動子21Bに超音波ガイド波を8回送信させる。このとき、当該送信の間隔tkがT/8ずつ長くなるよう設定にして、毎回の送信タイミングを一定時間ずつ遅延させる。そして、超音波ガイド波をチューブ長手方向に沿って計測部31内を流れの逆方向に伝播させ、その超音波ガイド波を上流側である第1の超音波振動子21Aで受信する。第1の超音波振動子21Aが受信した8回分の受信信号も、メモリ47内に逐次格納される。
【0040】
次に、CPU46は波形合成ステップを実行する。即ち、正方向送受信ステップで受信した8回分の受信信号の波形を合成して第1波形合成信号を得るとともに、逆方向送受信ステップで受信した8回分の受信信号の波形を合成して第2波形合成信号を得る。このステップにより得られた第1波形合成信号及び第2波形合成信号において、主要信号は互いに強め合う。一方、不要信号(音響ノイズ)は互いに弱め合って平均化されることで、キャンセルされる。つまり、波形合成ステップを経ることで受信信号のS/N比が改善される。
【0041】
次に、CPU46は流量算出ステップを実行する。即ち、第1波形合成信号から正方向の伝播時間を求め、かつ第2波形合成信号から逆方向の伝播時間を求めたうえで、その差を算出する。そして、この伝播時間の差に基づいて流体の流速を算出し、さらに流速に基づいて流量を算出する。その結果、表示装置45が算出された流量値を表示するようになっている。
【0042】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0043】
(1)本実施形態のガイド波式の超音波流量計11では、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔が毎回異なるものとなるように、送信タイミング制御部が超音波ガイド波の送信タイミングを制御する。そして波形合成部が同じ方向への複数回の送受信動作で受信した複数の受信信号の波形を合成することにより、音響ノイズのみがキャンセルされる。即ち、毎回の送信において位相が同じ主要信号は強め合う一方、毎回の送信において位相が異なる不要信号(音響ノイズ)は弱め合って平均化されることで、キャンセルされる。よって、環境温度が一定でなくても音響ノイズの影響を軽減することができ、S/N比が改善される結果、測定精度を向上させることができる。従って、温度特性及び測定精度に優れたガイド波式の超音波流量計11を実現することができる。
【0044】
(2)本実施形態では、送信タイミング制御部が、超音波ガイド波の送信タイミングを一定時間ずつ遅延させるように制御している。またこの場合において送信タイミング制御部は、遅延時間(即ち第2設定時間t´)を、超音波振動子21A、21Bの発振周波数から求められる周期Tに基づいて設定している。このように遅延時間を設定し、毎回T/8ずつ送信タイミングをずらしていくことにより、比較的少ない送信回数であっても効果的かつ安定的に音響ノイズをキャンセルすることが可能となる。
【0045】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0046】
・上記実施形態では超音波振動子21A、21Bは円環状であったが、例えば超音波振動子を半円環状とし、これらを2つ組み合わせて配置することで、全体として環状をなすような構造としてもよい。あるいは、超音波振動子を四半円環状とし、これらを4つ組み合わせて配置することで、全体として環状をなすような構造としてもよい。また、半円環状や四半円環状ではない形状(例えば円板状や円柱状など)の超音波振動子を複数個用い、それらが全体として環状をなすように配置してもよい。具体的には、複数個の超音波振動子を用いるとともに、それらをチューブ12の中心軸線に対して回転対称になるように、チューブ12における同一位置にて周方向に沿って均等な角度で配置してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる超音波振動子21A、21Bを用いたが、超音波振動子21A、21Bの形成材料は特に限定されるものではない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム系(ニオブ酸アルカリ系)の圧電セラミックスからなる超音波振動子などを用いても勿論よい。
【0048】
・上記実施形態では、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの回数を8回(即ちn=8)に設定したが、8回以外の回数に設定しても勿論構わない。また、上記実施形態では、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔tkを、毎回一定時間ずつ長くなるように設定したが、これに限定されない。つまり、本実施形態では毎回の送信ごとにT/nずつ遅延時間が増えていくように設定したが、これに限定されない。その具体例としては、例えば、1回目の送信と2回目の送信との間隔t1がt、2回目の送信と3回目の送信との間隔t2がt+T/n、3回目の送信と4回目の送信との間隔t3がt+3・T/n、4回目の送信と5回目の送信との間隔t4がt+6・T/n、・・・となるように、送信タイミングを設定してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔tkを、毎回一定時間ずつ長くなるように設定したが、これに限定されず毎回一定時間ずつ短くなるように設定してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、同じ方向への複数回の送受信動作において複数回の送信を行うときの間隔tkを毎回一定時間ずつ変更したが、これに限定されない。即ち、当該間隔tkを設定するにあたり、複数種類の第2設定時間t´のなかから1つをアトランダムに選択して第1設定時間tに加算するようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、送信タイミング制御部は、遅延時間(即ち第2設定時間t´)を、超音波振動子21A、21Bの発振周波数から求められる周期Tに基づいて設定していたが、発振周波数や周期Tとは無関係に遅延時間を設定しても勿論構わない。
【符号の説明】
【0052】
11…ガイド波式の超音波流量計
12…チューブ
13…(チューブの)外周面
21A…(第1の)超音波振動子
21B…(第2の)超音波振動子
46…送信タイミング制御部、波形合成部、流量算出部としてのCPU
t…第1設定時間
t´…第2設定時間
T…周期
n…自然数
k…1以上n以下の自然数
tk…間隔