(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099440
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/02 20060101AFI20220628BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20220628BHJP
H02K 3/28 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H02K3/02
H02K3/04 E
H02K3/28 M
H02K3/28 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213205
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
(72)【発明者】
【氏名】古賀 清隆
(72)【発明者】
【氏名】籾木 崇
(72)【発明者】
【氏名】長永 解人
(72)【発明者】
【氏名】乙守 正樹
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲平
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603AA07
5H603BB07
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CC04
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD05
5H603CD06
5H603CD22
5H603CE02
5H603CE05
5H603CE09
5H603CE13
5H603CE14
(57)【要約】
【課題】スロット収容部に生じる全体的な損失を容易に小さくすることが可能なステータを提供する。
【解決手段】このステータ100では、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21は、第1導体部分31と、第1導体部分31よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい第2導体部分32とを含むとともに、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが設けられているステータコアと、
前記ステータコアに配置され、前記複数のスロットの各々に前記ステータコアの径方向に並ぶように配置される複数のスロット収容部を含むコイル部と、を備え、
前記複数のスロットの各々において、前記径方向の内側に配置されている前記スロット収容部は、第1導体部分と、前記第1導体部分よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい第2導体部分とを含むとともに、前記径方向の外側に配置されている前記スロット収容部よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように構成されている、ステータ。
【請求項2】
前記複数のスロットの各々において、前記第1導体部分と前記第2導体部分とを含む前記スロット収容部は、前記第1導体部分および前記第2導体部分の一方が他方を取り囲むように構成されている、請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記複数のスロットの各々において、前記径方向の内側に配置されている前記スロット収容部が、前記径方向の外側に配置されている前記スロット収容部よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように、前記スロット収容部における前記第1導体部分に対する前記第2導体部分の割合が、前記径方向の外側に配置されている前記スロット収容部よりも前記径方向の内側に配置されている前記スロット収容部の方が大きくなるように構成されている、請求項1または2に記載のステータ。
【請求項4】
前記複数のスロットの各々において、少なくとも前記径方向の最も外側に配置されている前記スロット収容部は前記第1導体部分から構成されているとともに、少なくとも前記径方向の最も内側に配置されている前記スロット収容部は、前記第1導体部分と前記第2導体部分とから構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項5】
前記第1導体部分は、銅または銅合金により構成されており、
前記第2導体部分は、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のスロットの各々にステータコアの径方向に並ぶように配置される複数のスロット収容部を含むコイル部を備えるステータが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、複数のスロットを有するステータコアと、ステータコアに対して配置されるコイルと、を備えるステータが開示されている。上記特許文献1に記載のステータでは、コイルは、複数のスロットの各々において、ステータコアの径方向に並ぶように配置される複数のコイル辺部(スロット収容部)を含む。そして、複数のスロットの各々において、径方向の外側には、銅等の単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が相対的に小さい材料から構成されたコイル辺部(以下、第1のコイル辺部)が配置されている。また、径方向の外側には、アルミニウム等の抵抗率が相対的に大きい(第1のコイル辺部よりも大きい)材料から構成されたコイル辺部(以下、第2のコイル辺部)が配置されている。
【0004】
これにより、上記特許文献1に記載のステータでは、渦電流損が生じやすい径方向の内側に配置される第2のコイル辺部において(抵抗率と反比例する)渦電流損が大きくなるのが抑制されるとともに、渦電流損が生じにくい径方向の外側に配置される第1のコイル辺部において(抵抗率と比例する)導体損が大きくなるのが抑制されている。なお、渦電流損は、ステータの径方向の内側にステータと対向するように設けられるロータにより発生する磁束によってコイル辺部に生じる渦電流に起因する損失である。また、導体損は、コイル辺部自身の電気的な抵抗によって発生するジュール熱としてコイル辺部から失われる損失である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のステータでは、渦電流損が生じやすい径方向の内側に配置される第2のコイル辺部において(抵抗率と反比例する)渦電流損が大きくなるのを抑制するために、第2のコイル辺部には抵抗率が比較的大きい1種類の材料(アルミニウム等)が用いられている。したがって、コイル辺部として使用可能な材料が限られている場合、第2のコイル辺部の抵抗率によっては、第2のコイル辺部において、渦電流損の減少分よりも導体損の増加が大きくなってしまう場合がある。このため、コイル辺部(スロット収容部)として使用可能な材料が限られている場合でも、コイル辺部に生じる全体的な損失(導体損と渦電流損との和)を容易に小さくすることが可能なステータが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、スロット収容部として使用可能な材料が限られている場合でも、スロット収容部に生じる全体的な損失を容易に小さくすることが可能なステータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるステータは、複数のスロットが設けられているステータコアと、ステータコアに配置され、複数のスロットの各々に前記ステータコアの径方向に並ぶように配置される複数のスロット収容部を含むコイル部と、を備え、複数のスロットの各々において、径方向の内側に配置されているスロット収容部は、第1導体部分と、第1導体部分よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい第2導体部分とを含むとともに、径方向の外側に配置されているスロット収容部よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように構成されている。
【0009】
この発明の一の局面におけるステータでは、上記のように、複数のスロットの各々において、径方向の内側に配置されているスロット収容部は、径方向の外側に配置されているスロット収容部よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が大きくなるように構成されている。これにより、渦電流損が生じやすい径方向の内側に配置されるスロット収容部において(抵抗率と反比例する)渦電流損が大きくなるのを抑制することができる。また、渦電流損が生じにくい径方向の外側に配置されるスロット収容部において(抵抗率と比例する)導体損が大きくなるのを抑制することができる。また、上記一の局面におけるステータでは、上記のように、複数のスロットの各々において、径方向の内側に配置されているスロット収容部は、第1導体部分と、第1導体部分よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が大きい第2導体部分と、を含む。これにより、径方向の内側に配置されているスロット収容部に、抵抗率が相対的に大きい第2導体部分に加えて、抵抗率が相対的に低いとともに径方向の外側に配置されているスロット収容部にも用いられる第1導体部分が含まれるので、径方向の内側に配置されているスロット収容部に抵抗率が比較的大きい1種類の材料が用いられる場合と比較して、径方向の内側に配置されているスロット収容部における抵抗率を容易に最適化するように調整することができる。これらの結果、スロット収容部として使用可能な材料が限られている場合でも、スロット収容部に生じる全体的な損失を容易に小さくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記のように、スロット収容部として使用可能な材料が限られている場合でも、スロット収容部に生じる全体的な損失を容易に小さくすることが可能なステータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態によるステータを示す平面図である。
【
図2】第1実施形態によるステータを示す斜視断面図である。
【
図3】第1実施形態によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【
図4】第2実施形態によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【
図5】第3実施形態によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【
図6】第1実施形態の第1変形例によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【
図7】第1実施形態の第2変形例によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【
図8】第1実施形態の第3変形例によるステータのスロット収容部を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1~
図3を参照して、第1実施形態によるステータ100の構成について説明する。
【0014】
以下の説明では、ステータ100が備えるステータコア10(
図1参照)の軸方向、径方向および周方向を、それぞれ、Z方向、R方向およびC方向とする。また、R方向の一方側(内側)および他方側(外側)を、それぞれ、R1側およびR2側とする。
【0015】
(ステータの全体構成)
図1に示すように、ステータ100は、ロータ110と共に、回転電機120の一部を構成する。回転電機120は、たとえば、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータである。ロータ110には、磁束を発生させる永久磁石(図示しない)が設けられる。ロータ110は、ステータ100のR1側に、ステータ100の内周面とロータ110の外周面とがR方向に対向するように配置されている。
【0016】
ステータ100は、ステータコア10を備える。ステータコア10は、Z方向に沿った中心軸線Aを中心軸とした円筒形状を有する。ステータコア10は、複数の電磁鋼板(たとえば、珪素鋼板)がZ方向に積層されることにより形成されている。
【0017】
ステータコア10には、複数のスロット13が設けられている。具体的には、ステータコア10は、円環状のバックヨーク11と、バックヨーク11からR1側に突出する複数のティース12と、を含む。そして、C方向に隣接するティース12同士の間に複数のスロット13が形成されている。
【0018】
図2に示すように、複数のスロット13の各々は、Z方向に延びるように設けられている。そして、複数のスロット13の各々は、ステータコア10において、Z方向の両側が開口するように形成されている。また、複数のスロット13の各々は、ステータコア10において、R1側が開口するように形成されている。
【0019】
ステータ100は、コイル部20を備える。コイル部20は、ステータコア10に配置されている。具体的には、コイル部20は、ステータコア10に対して、複数回巻回されている。コイル部20は、たとえば、波巻きコイルとして構成されている。コイル部20は、電源部(図示せず)から3相交流の電力が供給されることにより、磁束を発生させるように構成されている。
【0020】
コイル部20は、複数のスロット13の各々に収容される複数のスロット収容部21を含む。また、
図2に示すように、コイル部20は、互いに異なるスロット13に収容されるスロット収容部21同士を接続する複数のコイルエンド部22を含む。複数のコイルエンド部22の各々は、ステータコア10のZ方向における端面10aから突出するように配置されている。
【0021】
図3に示すように、複数のスロット収容部21は、複数のスロット13の各々にR方向に並ぶように配置されている。具体的には、複数(4つ)のスロット収容部21a、21b、21cおよび21dが、R1側からR2側に向かって、この順にR方向に沿って1列に並ぶように配置されている。
【0022】
(導体に生じる損失)
ここで、導体に生じる損失W[W]は、導体の横断面(導体が延びる方向と直交する断面)の面積をS[m
2]、導体の長さをL[m]、導体の抵抗率(単位長さ当たりの電気的な抵抗)をρ[Ω・m]、導体を流れる電流値をI[A]、損失係数をKe、磁束が流れる方向の導体の厚みをt[m]、導体を鎖交する磁束密度をB[T]、周波数をf[Hz]とすると、下記の式(1)で表される。
【数1】
【0023】
上記式(1)の第1項は、導体自身の電気的な抵抗によって発生するジュール熱として導体から失われる損失である導体損を表す。また、上記式(1)の第2項は、磁束によって導体に生じる渦電流に起因する損失である渦電流損を表している。
【0024】
上記式(1)から明らかなように、導体損は、導体の横断面の面積(S)に反比例する。一方、渦電流損は、導体の横断面の面積(S)に比例する。すなわち、導体の横断面の面積(S)が大きくなるにしたがって、導体損が小さくなるものの、渦電流損が大きくなる。
【0025】
また、上記式(1)から明らかなように、導体損は、導体の抵抗率(単位長さ当たりの電気的な抵抗)(ρ)に比例する。一方、渦電流損は、導体の抵抗率(ρ)に反比例する。すなわち、導体の抵抗率(ρ)が大きくなるにしたがって、導体損が大きくなるものの、渦電流損が小さくなる。言い換えると、導体の抵抗率(ρ)が小さくなるにしたがって、渦電流損が大きくなるものの、導体損が小さくなる。
【0026】
また、上記式(1)から明らかなように、渦電流損は、周波数(f)の2乗に比例する。すなわち、渦電流損は、周波数(f)が大きくなるにしたがって顕著になる。したがって、回転電機120(
図1参照)が高速動作する場合、渦電流損が大きくなりやすい。なお、導体損は、周波数(f)とは相関がない。
【0027】
また、上記式(1)から明らかなように、渦電流損は、磁束密度(B)の2乗に比例する。すなわち、渦電流損は、磁束密度(B)が大きくなるにしたがって顕著になる。したがって、導体(コイル部20(
図2参照))に鎖交する磁束が大きくなる場合、渦電流損が大きくなりやすい。なお、導体損は、磁束密度(B)とは相関がない。
【0028】
上述したように、磁束を発生させる永久磁石が設けられるロータ110(
図1参照)がステータ100のR1側にステータ100と対向するように配置される。したがって、複数のスロット13の各々において、R方向に沿って並ぶように配置された複数のスロット収容部21のうちのR1側に配置されているスロット収容部21に鎖交する磁束密度(B)が比較的大きくなる。このため、複数のスロット13の各々において、R1側に配置されているスロット収容部21において渦電流損が生じやすい。
【0029】
(スロット収容部の詳細な構成)
そこで、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21は、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が大きくなるように構成されている(特徴1)。具体的には、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部21(21a、21b、21cおよび21d)の中で、任意の2つのスロット収容部21同士を比較すると、相対的にR1側に配置されているスロット収容部21の方が相対的にR2側に配置されているスロット収容部21よりも抵抗率が大きくなっている。
【0030】
これにより、渦電流損が生じやすいR1側(径方向の内側)に配置されるスロット収容部21において(抵抗率と反比例する)渦電流損が大きくなるのを抑制することができる。また、渦電流損が生じにくいR2側(径方向の外側)に配置されるスロット収容部21において(抵抗率と比例する)導体損が大きくなるのを抑制することができる。
【0031】
また、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21は、第1導体部分31と、第1導体部分31よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が大きい第2導体部分32と、を含む(特徴2)。具体的には、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部21(21a、21b、21cおよび21d)の各々が、互いに抵抗率の異なる材料から構成された第1導体部分31および(第1導体部分31よりも抵抗率が大きい)第2導体部分32を含む。
【0032】
これにより、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21に、抵抗率が相対的に大きい第2導体部分32に加えて、抵抗率が相対的に低いとともにR2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21にも用いられる第1導体部分31が含まれるので、R1側に配置されているスロット収容部21に抵抗率が比較的大きい1種類の材料が用いられる場合と比較して、R1側に配置されているスロット収容部21における抵抗率を容易に最適化するように調整することができる。
【0033】
これら(上記特徴1および2)の結果、スロット収容部21に生じる全体的な損失を容易に小さくすることができる。以下に、スロット収容部21のより詳細な構成を説明する。
【0034】
第1導体部分31は、銅(Cu)により構成されている。また、第2導体部分32は、アルミニウム(Al)により構成されている。ここで、アルミニウムの抵抗率(単位長さ当たりの電気的な抵抗)は、銅の抵抗率よりも大きい。なお、アルミニウムの抵抗率は、約2.8×10-8(Ω・m)である。銅の抵抗率は、約1.7×10-8(Ω・m)である。
【0035】
これにより、第1導体部分31および第2導体部分32を、それぞれ、銅(Cu)と銅よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きいアルミニウム(Al)とにより構成することにより、第1導体部分31と(第1導体部分31よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい)第2導体部分32とを含むスロット収容部21を容易に製造することができる。
【0036】
また、複数のスロット13の各々において、複数のスロット収容部21の各々の横断面は、矩形形状を有する。具体的には、複数のスロット収容部21の各々は、平角導線により構成されている。なお、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部21(21a、21b、21cおよび21d)は、各々の横断面の大きさが互いに略等しくなるように構成されている。
【0037】
これにより、複数のスロット収容部21の各々の横断面が、円形形状を有する場合と比較して、スロット13内におけるスロット収容部21の占積率を大きくすることができる。なお、スロット収容部21の占積率(横断面)が大きくなった場合、上述したように、導体損が小さくなるものの、渦電流損が大きくなる。したがって、渦電流損が生じやすいR1側に配置されるスロット収容部21において渦電流損が大きくなるのを抑制することができる上記構成は、スロット収容部21の占積率が大きい矩形形状の平角導線を用いる場合に効果的である。
【0038】
また、複数のスロット13の各々において、第1導体部分31(銅)と第2導体部分32(アルミニウム)とを含むスロット収容部21は、第2導体部分32が第1導体部分31を取り囲むように構成されている。具体的には、第1導体部分31の横断面は、矩形形状を有する。そして、第2導体部分32の横断面は、矩形形状の横断面を有する第1導体部分31を取り囲む枠形状を有する。複数のスロット収容部21は、たとえば、3Dプリンティング(3Dプリンターを用いて立体物を形成すること)により形成されている。
【0039】
これにより、抵抗率が比較的大きい(すなわち、渦電流損が大きくなるのを抑制しやすい)第2導体部分32が、渦電流が比較的生じやすいスロット収容部21の外周側の部分に配置されるので、スロット収容部21の外周側の部分に配置される第2導体部分32によって渦電流損が大きくなるのを効率的に抑制することができる。これにより、抵抗率が比較的小さい(すなわち、導体損が大きくなるのを抑制しやすい)第1導体部分31のスロット収容部21における割合を比較的大きくすることができるので、渦電流損に加えて導体損が大きくなるのも抑制することができる。その結果、第1導体部分31と第2導体部分32とを含むスロット収容部21において、第1導体部分31と第2導体部分32とが、それぞれ、外周側の部分および内周側の部分に配置される場合と比較して、スロット収容部21に生じる損失(導体損と渦電流損との和)が大きくなるのを効率的に抑制することができる。
【0040】
また、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21が、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)が大きくなるように、スロット収容部21における第1導体部分31(銅)に対する第2導体部分32(アルミニウム)の割合(断面積の割合)が、R1側に配置されているスロット収容部21よりもR2側に配置されているスロット収容部21の方が大きくなるように構成されている。具体的には、複数(4つ)のスロット収容部21(21a、21b、21cおよび21d)の中で、任意の2つのスロット収容部21同士を比較すると、相対的にR1側に配置されているスロット収容部21の第1導体部分31の方が相対的にR2側に配置されているスロット収容部21の第1導体部分31よりも横断面が小さくなっている。また、複数(4つ)のスロット収容部21(21a、21b、21cおよび21d)の中で、任意の2つのスロット収容部21同士を比較すると、相対的にR1側に配置されているスロット収容部21の第2導体部分32の方が相対的にR2側に配置されているスロット収容部21の第2導体部分32よりも横断面が大きくなっている。
【0041】
これにより、スロット収容部21における第1導体部分31(銅)と第2導体部分32(アルミニウム)との割合(断面積の割合)を調整することによって、R1側に配置されているスロット収容部21が、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21よりも抵抗率が大きくなるように容易に構成することができる。
【0042】
また、複数のスロット13の各々において、複数のスロット収容部21は、単位長さ当たりの電気的な抵抗(抵抗率)がR1側(径方向の内側)からR2側(径方向の外側)に向かって徐々に小さくなるように構成されている。具体的には、複数(4つ)のスロット13の各々において、第1導体部分31の横断面は、R1側からR2側に向かって、スロット収容部21a、21b、21cおよび21dの順に徐々に大きくなっている。また、第2導体部分32の横断面は、R1側からR2側に向かって、スロット収容部21a、21b、21cおよび21dの順に徐々に小さくなっている。
【0043】
これにより、複数のスロット収容部21を、渦電流損が生じやすいR1側(径方向の内側)から渦電流損が生じにくいR2側(径方向の外側)に向かって、抵抗率が徐々に小さくなるように配置することができる。その結果、複数のスロット収容部21の全てを、導体損と渦電流損との和が最小になるような抵抗率を有するように容易に最適化することができる。
【0044】
[第2実施形態]
図4を参照して、第2実施形態によるステータ200の構成について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の部分には、同一の符号を付している。
【0045】
図4に示すように、ステータ200は、コイル部220を備える。コイル部220は、複数のスロット13の各々に収容される複数(4つ)のスロット収容部221(221a、221b、221cおよび221d)を含む。複数(4つ)のスロット収容部221a、221b、221cおよび221dは、R1側からR2側に向かって、この順にR方向に沿って1列に並ぶように配置されている。
【0046】
複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部221(221a、221b、221cおよび221d)の第1導体部分31および31aは、各々の横断面の大きさが互いに略等しくなるように構成されている。また、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部221(221a、221b、221cおよび221d)の第2導体部分32および32aは、各々の横断面の大きさが互いに略等しくなるように構成されている。
【0047】
複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部221は、第1導体部分31および31aと、第1導体部分31および31aよりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい第2導体部分32および32aと、を含む。具体的には、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部221(221a、221b、221cおよび221d)の各々が、互いに抵抗率の異なる材料から構成された第1導体部分31または31a、および、(第1導体部分31および31aよりも抵抗率が大きい)第2導体部分32または32aを含む。なお、第1導体部分31および31aは、互いに抵抗率の異なる材料から構成されている。また、第2導体部分32および32aは、互いに抵抗率の異なる材料から構成されている。
【0048】
ここで、ステータ200では、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部221が、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部221よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように、第1導体部分31および31aを構成する材料の電気的な抵抗、および、第2導体部分32および32aを構成する材料の電気的な抵抗の少なくとも一方が、R2側に配置されているスロット収容部221よりもR1側に配置されているスロット収容部221の方が大きくなるように構成されている。
【0049】
具体的には、スロット収容部221aは、第1導体部分31a(銅合金)と第2導体部分32a(アルミニウム合金)とにより構成されている。また、スロット収容部221bは、第1導体部分31(銅)と第2導体部分32a(アルミニウム合金)とにより構成されている。また、スロット収容部221cは、第1導体部分31a(銅合金)と第2導体部分32(アルミニウム)とにより構成されている。また、スロット収容部221dは、第1導体部分31(銅)と第2導体部分32(アルミニウム)とにより構成されている。銅合金は、クロムと、ジルコニウムと、銅との合金(CuCr1Zr)である。CuCr1Zrの抵抗率は、約2.2×10-8(Ω・m)である。また、アルミニウム合金は、シリコンと、マグネシウムと、アルミニウムとの合金(AlSi10Mg)である。AlSi10Mgの抵抗率は、約4.3×10-8(Ω・m)である。
【0050】
これにより、第1導体部分31および31aを構成する材料および第2導体部分32および32aを構成する材料を適宜選択することによって、上記第1実施形態と同様に、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部221が、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部221よりも抵抗率が大きくなるように容易に構成することができる。
【0051】
なお、第2実施形態のステータ200のその他の構成は、上記第1実施形態のステータ100と同様である。
【0052】
[第3実施形態]
図5を参照して、第3実施形態によるステータ300の構成について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の部分には、同一の符号を付している。
【0053】
図5に示すように、ステータ300は、コイル部320を備える。コイル部320は、複数のスロット13の各々に収容される複数のスロット収容部321を含む。複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部321は、第1導体部分331と、第1導体部分331よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きい第2導体部分332と、を含む。
【0054】
ここで、第1導体部分331および第2導体部分332は、それぞれ、複数の線状の導体が束ねられることにより構成されている。すなわち、第1導体部分331および第2導体部分332は、いわゆるリッツ線である。具体的には、第1導体部分331は、複数の銅製の電線が束ねられることにより構成されている。また、第2導体部分332は、複数のアルミニウム製の電線が束ねられることにより構成されている。
【0055】
これにより、第1導体部分331を構成する導体および第2導体部分332を構成する導体の各々の横断面が小さくなるので、スロット収容部321において表皮効果が生じるのを抑制することができる。その結果、表皮効果に起因して導体損が大きくなるのを抑制することができる。表皮効果は、周波数が増加するにしたがって、導体に流れる電流が導体表面に集中する現象である。そして、電流が導体表面に集中した場合、抵抗率が大きくなるので、導体損が大きくなる。なお、表皮効果は、周波数が高い程顕著に生じるので、上記の構成(リッツ線)は、スロット収容部321(コイル部320)に高周波が流れる場合に特に効果的である。
【0056】
なお、第3実施形態のステータ300のその他の構成は、上記第1実施形態のステータ100と同様である。
【0057】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0058】
たとえば、上記第1~第3実施形態では、コイル部20(220、320)を、複数のスロット13の各々に収容される複数のスロット収容部21(221、321)がR方向(径方向)に沿って1列に並ぶように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、コイル部を、複数のスロットの各々に収容される複数のスロット収容部が径方向に沿って複数列に並ぶように構成してもよい。
【0059】
また、上記第1および第3実施形態では、第1導体部分31(331)および第2導体部分32(332)を、それぞれ、銅(Cu)およびアルミニウム(Al)により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1導体部分および第2導体部分を、それぞれ、銅合金(たとえば、CuCr1Zr)およびアルミニウム合金(たとえば、AlSi10Mg)により構成してもよい。また、第1導体部分および第2導体部分を、それぞれ、銅およびアルミニウム合金により構成してもよいし、銅合金およびアルミニウムにより構成してもよい。また、第1導体部分および第2導体部分を、それぞれ、銅および銅合金により構成してもよいし、アルミニウムおよびアルミニウム合金により構成してもよい。また、第1導体部分および第2導体部分を、それぞれ、互いに抵抗率の異なる2種類の銅合金により構成してもよいし、互いに抵抗率の異なるアルミニウム合金により構成してもよい。また、第1導体部分および第2導体部分を、それぞれ、銅およびアルミニウム以外の金属により構成してもよいし、銅またはアルミニウムと、銅およびアルミニウム以外の金属とにより構成してもよい。
【0060】
また、上記第2実施形態では、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部221(221a、221b、221cおよび221d)のうち、スロット収容部221aを、第1導体部分31a(銅合金)と第2導体部分32a(アルミニウム合金)とにより構成し、スロット収容部221bを、第1導体部分31(銅)と第2導体部分32a(アルミニウム合金)とにより構成し、スロット収容部221cを、第1導体部分31a(銅合金)と第2導体部分32(アルミニウム)とにより構成し、スロット収容部221dを、第1導体部分31(銅)と第2導体部分32(アルミニウム)とにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、径方向の内側に配置されているスロット収容部が、径方向の外側に配置されているスロット収容部よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるのであれば、複数のスロット収容部を構成する材料を、上記の組み合わせ以外の組み合わせにより構成してもよい。
【0061】
また、上記第3実施形態では、第1導体部分331および第2導体部分332を、それぞれ、複数の線状の導体が束ねられることにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1導体部分および第2導体部分のうちの一方のみを、複数の線状の導体が束ねられることにより構成してもよい。
【0062】
また、上記第1~第3実施形態では、複数のスロット13の各々において、第1導体部分31(231、331)と第2導体部分32(232、332)とを含むスロット収容部21(221、321)を、第2導体部分32が第1導体部分31を取り囲むように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図6に示す第1変形例のように、複数のスロット13の各々において、第1導体部分31と第2導体部分32とを含むスロット収容部421(421a、421b、421cおよび421d)を、第1導体部分31が第2導体部分32を取り囲むように構成してもよい。また、複数のスロットの各々において、第1導体部分と第2導体部分とを含むスロット収容部のうちの一部を、第2導体部分が第1導体部分を取り囲むように構成するとともに、第1導体部分と第2導体部分とを含むスロット収容部のうちのその他を、第1導体部分が第2導体部分を取り囲むように構成してもよい。また、複数のスロットの各々において、第1導体部分および第2導体部分の一方が他方を取り囲まない(たとえば、第1導体部分と第2導体部分とが並ぶ)ように構成してもよい。
【0063】
また、上記第1~第3実施形態では、複数のスロット13の各々において、複数のスロット収容部21(221、321)を、単位長さ当たりの電気的な抵抗がR1側(径方向の内側)からR2側(径方向の外側)に向かって徐々に小さくなるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図7に示す第2変形例のように、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部521(521a、521b、521cおよび521d)のうちのR2側に配置されているスロット収容部521cおよび521d同士が互いに単位長さ当たりの電気的な抵抗が等しくなるように構成してもよい。また、
図8に示す第3変形例のように、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部621(621a、621b、621cおよび621d)のうちのR2側に配置されているスロット収容部621cおよび621d同士が互いに単位長さ当たりの電気的な抵抗が等しくなるとともに、R1側に配置されているスロット収容部621aおよび621b同士が互いに単位長さ当たりの電気的な抵抗が等しくなるように構成してもよい。
【0064】
なお、
図7に示す第2変形例では、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部521(521a、521b、521cおよび521d)のうちのR1側に配置されているスロット収容部521aおよび521bは、第2導体部分32が第1導体部分31を取り囲むように構成されている。また、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部521のうちのR2側に配置されているスロット収容部521cおよび521dは、第1導体部分31(のみ)から構成されている。同様に、
図8に示す第3変形例では、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部621(621a、621b、621cおよび621d)のうちのR1側に配置されているスロット収容部621aおよび621bは、第2導体部分32が第1導体部分31を取り囲むように構成されている。また、複数のスロット13の各々において、複数(4つ)のスロット収容部621のうちのR2側に配置されているスロット収容部621cおよび621dは、第1導体部分31(のみ)から構成されている。すなわち、
図7に示す第2変形例および
図8に示す第3変形例では、複数のスロット13の各々において、少なくともR方向(径方向)の最も外側に配置されているスロット収容部521d(621d)は第1導体部分31から構成されているとともに、少なくともR方向(径方向)の最も内側に配置されているスロット収容部521a(621a)は、第1導体部分31と第2導体部分32とから構成されている。これにより、複数のスロット13の各々において、少なくともR方向(径方向)の最も内側に配置されているスロット収容部521a(621a)を、第1導体部分31と第2導体部分32とを含むように構成する必要がない。その結果、複数のスロット13の各々において、全てのスロット収容部521d(621d)を、第1導体部分31と第2導体部分32とを含むように構成する場合と比較して、スロット収容部21に生じる全体的な損失をより容易に小さくすることができる。
【0065】
また、上記第1~第3実施形態では、コイル部20(220、320)を、複数のスロット13の各々に収容される複数のスロット収容部21(221、321)の個数を4つとして構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、コイル部を、複数のスロットの各々に収容される複数のスロット収容部の個数を4つ以外(2つ、3つ、または、5つ以上)となるように構成してもよい。
【0066】
また、上記第1~第3実施形態では、複数のスロット13の各々において、複数のスロット収容部21(221、321)の各々の横断面を、矩形形状を有するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数のスロットの各々において、複数のスロット収容部の各々の横断面を、矩形形状以外の形状(たとえば、円形形状)を有するように構成してもよい。複数のスロット収容部の各々の横断面が円形形状を有する場合、第1導体部分の横断面が円形形状を有するとともに、第2導体部分の横断面が第1導体部分を取り囲む円環形状を有するように形成される。
【0067】
また、上記第1~第3実施形態では、複数のスロット13の各々において、複数のスロット収容部21(221、321)を、各々の横断面が互いに略等しくなるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数のスロットの各々において、複数のスロット収容部を、各々の横断面が互いに異なるものを含むように構成してもよい。
【0068】
また、上記第1および第3実施形態と、上記第2実施形態とは、互いに異なる方法によって、複数のスロット13の各々において、R1側(径方向の内側)に配置されているスロット収容部21(221、321)が、R2側(径方向の外側)に配置されているスロット収容部21(221、321)よりも単位長さ当たりの電気的な抵抗が大きくなるように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上記第1および第3実施形態の方法と、上記第2実施形態の方法とを併用してもよい。
【符号の説明】
【0069】
10…ステータコア、13…スロット、20、220、320…コイル部、21(21a、21b、21c、21d)、221(221a、221b、221c、221d)、321(321a、321b、321c、321d)、421(421a、421b、421c、421d)、521(521a、521b、521c、521d)、621(621a、621b、621c、621d)…スロット収容部、31、31a、331…第1導体部分、32、32a、332…第2導体部分、100、200、300…ステータ