(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099456
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】セメント質硬化体の力学的特性の試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/00 20060101AFI20220628BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01N25/00 K
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213238
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】石田 征男
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】江泉 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
【テーマコード(参考)】
2G040
2G061
【Fターム(参考)】
2G040AB08
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA03
2G040DA14
2G040DA15
2G040EA02
2G040EB02
2G040EB06
2G040EC07
2G040GA08
2G040ZA01
2G061AA02
2G061AC03
2G061CA08
2G061DA19
(57)【要約】 (修正有)
【課題】試験の開始から終了までセメント質硬化体の温度を一定に維持することができ、セメント質硬化体の力学的特性を正確に評価しうる方法を提供する。
【解決手段】セメント質硬化体6に対して、空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度を決定する工程と、セメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段9の加熱時の設定温度を決定する工程と、セメント質硬化体を、第一の加熱手段を用いて設定温度で加熱する工程と、加熱を終えたセメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる工程と、力学的特性測定手段12を用いて、セメント質硬化体の力学的特性を測定する工程を含み、かつ、セメント質硬化体を、第二の加熱手段を用いて設定温度で加熱し、力学的特性を測定する工程において、セメント質硬化体の温度を、目標温度またはその近傍の温度に維持するセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質硬化体の目標温度における力学的特性を試験するための方法であって、
上記セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度である第一設定温度を決定する第一設定温度決定工程と、
接触による直接加熱を行うために上記セメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段の加熱時の設定温度である第二設定温度を決定する第二設定温度決定工程と、
上記セメント質硬化体を、上記第一の加熱手段を用いて、上記第一設定温度で加熱する加熱工程と、
上記加熱工程における加熱を終えた上記セメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる移動工程と、
上記力学的特性を試験するための場所において、力学的特性測定手段を用いて、上記セメント質硬化体の力学的特性を測定する測定工程、を含み、かつ、
上記セメント質硬化体を、上記第二の加熱手段を用いて、上記第二設定温度で加熱し、上記測定工程において、上記セメント質硬化体の温度を、上記目標温度またはその近傍の温度に維持することを特徴とするセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項2】
上記第一の加熱手段が、上記セメント質硬化体を収容するために配設された加熱炉である請求項1に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項3】
上記第二の加熱手段が、上記セメント質硬化体の表面に取り付けられるシートヒーターである請求項1又は2に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項4】
上記目標温度またはその近傍の温度は、上記目標温度±3℃の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項5】
上記力学的特性の試験方法が、圧縮強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度よりも高い値に決定する請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項6】
上記力学的特性の試験方法が、割裂ひび割れ発生強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度よりも低い値に決定する請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【請求項7】
上記力学的特性の試験方法が、切欠き曲げ強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度以下の値に決定する請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質硬化体の力学的特性の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の外気に曝される地域で供用されるコンクリート構造物の安全性を評価する目的や、コンクリート構造物の耐火性能を評価する目的等で、高温環境下においてセメント質硬化体の力学的特性に関する試験を行なうことがある。
コンクリートの高温特性を精密に評価するためのコンクリート試験体の載荷加熱装置として、特許文献1には、コンクリートの高温特性評価を行う試料を得るに、熱電対を埋め込んだコンクリート試験体を上下の加圧治具で保持させて加熱炉の内部に収容すると共に、加熱炉の内部で高温加熱し、コンクリート試験体の温度分布状態を分析するためのコンクリート試験体載荷加熱装置において、上下の加圧治具を各々囲んでコンクリート試験体を加圧治具より間接的に加熱する加熱媒体と、中央のコンクリート試験体を囲んでコンクリート試験体を直接的に加熱する加熱媒体とを加熱炉の内部に設けたことを特徴とするコンクリート試験体載荷加熱装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメント質硬化体の力学的特性を評価するための各種試験を行う際には、試験の開始から終了まで、試験の対象となる供試体(セメント質硬化体)の温度を、一定の温度に維持する必要がある。しかし、特に、高温環境下での試験の場合には、コンクリート等のセメント質硬化体の熱伝導率は小さいため、上記供試体の温度の管理が難しいという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、セメント質硬化体の力学的特性を評価するための各種試験の開始から終了まで、試験の対象となる供試体(セメント質硬化体)の温度を、一定の温度に維持することができ、特定の温度下(特に、高温下)におけるセメント質硬化体の力学的特性を正確に評価しうる、セメント質硬化体の力学的特性の試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度である第一設定温度を決定する工程と、接触による直接加熱を行うためにセメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段の加熱時の設定温度である第二設定温度を決定する工程と、セメント質硬化体を、第一の加熱手段を用いて、第一設定温度で加熱する工程と、加熱を終えたセメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる工程と、力学的特性測定手段を用いて、セメント質硬化体の力学的特性を測定する工程を含み、かつ、セメント質硬化体を、第二の加熱手段を用いて、第二設定温度で加熱し、測定工程において、上記セメント質硬化体の温度を、上記目標温度またはその近傍の温度に維持する方法によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
[1] セメント質硬化体の目標温度における力学的特性を試験するための方法であって、上記セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度である第一設定温度を決定する第一設定温度決定工程と、接触による直接加熱を行うために上記セメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段の加熱時の設定温度である第二設定温度を決定する第二設定温度決定工程と、上記セメント質硬化体を、上記第一の加熱手段を用いて、上記第一設定温度で加熱する加熱工程と、上記加熱工程における加熱を終えた上記セメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる移動工程と、上記力学的特性を試験するための場所において、力学的特性測定手段を用いて、上記セメント質硬化体の力学的特性を測定する測定工程、を含み、かつ、上記セメント質硬化体を、上記第二の加熱手段を用いて、上記第二設定温度で加熱し、上記測定工程において、上記セメント質硬化体の温度を、上記目標温度またはその近傍の温度に維持することを特徴とするセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【0007】
[2] 上記第一の加熱手段が、上記セメント質硬化体を収容するために配設された加熱炉である前記[1]に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
[3] 上記第二の加熱手段が、上記セメント質硬化体の表面に取り付けられるシートヒーターである前記[1]又は[2]に記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
[4] 上記目標温度またはその近傍の温度は、上記目標温度±3℃の範囲内である前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【0008】
[5] 上記力学的特性の試験方法が、圧縮強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度よりも高い値に決定する前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
[6] 上記力学的特性の試験方法が、割裂ひび割れ発生強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度よりも低い値に決定する前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
[7] 上記力学的特性の試験方法が、切欠き曲げ強度試験であり、かつ、上記第一設定温度決定工程及び上記第二設定温度決定工程において、上記第一設定温度を、上記第二設定温度以下の値に決定する前記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法によれば、セメント質硬化体の力学的特性を評価するための各種試験の開始から終了まで、試験の対象となる供試体(セメント質硬化体)の温度を、一定の温度に維持することができ、特定の温度下(特に、高温下)におけるセメント質硬化体の力学的特性を正確に評価しうることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】圧縮強度試験における、供試体の側面図(а-2、a-3)及び供試体を、a-2中のA-A線の位置にて、供試体の軸線と垂直な方向に切断した状態を示す断面図(a-1)である。
【
図2】割裂ひび割れ発生強度試験において、圧縮試験機に供試体を設置した状態の側面図(b-1)及び正面図(圧縮試験機に設置された円柱状の供試体の上面側から見た図:b-2)である。
【
図3】切り欠き曲げ試験における、供試体の側面図(c-1)、上面図(c-2)及び、3点曲げ試験装置に設置された供試体の斜視図(c-3)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法は、セメント質硬化体の目標温度における力学的特性を試験するための方法であって、セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度である第一設定温度を決定する第一設定温度決定工程と、接触による直接加熱を行うためにセメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段の加熱時の設定温度である第二設定温度を決定する第二設定温度決定工程と、セメント質硬化体を、第一の加熱手段を用いて、第一設定温度で加熱する加熱工程と、加熱工程における加熱を終えたセメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる移動工程と、力学的特性を試験するための場所において、力学的特性測定手段を用いて、セメント質硬化体の力学的特性を測定する測定工程、を含み、かつ、セメント質硬化体を、第二の加熱手段を用いて、第二設定温度で加熱し、測定工程において、セメント質硬化体の温度を、目標温度またはその近傍の温度に維持する方法である。
【0012】
ここで、「セメント質硬化体」とは、セメント及び水を含む組成物が硬化してなるものを意味し、例えば、コンクリートからなる硬化体、モルタルからなる硬化体、及びセメントペーストからなる硬化体等が挙げられる。
また、本明細書中、「高温下」とは、加熱を行っていない室温(例えば、実験室内の気温;例えば、10~30℃)よりも大きい温度環境下であることを意味する。
また、本明細書中、「目標温度」とは、セメント質硬化体の力学的特性の試験(特に高温下における試験)を行なう際の目標として定められる温度であり、上記試験の目的に応じて、任意に定められる温度である。例えば、目標温度は、20℃以上、好ましくは30~100℃、より好ましくは35~90℃、特に好ましくは40~80℃の温度範囲内において任意に定められる温度である。さらに、「目標温度またはその近傍の温度」とは、好ましくは上記目標温度±3℃の範囲内、より好ましくは±2℃の範囲内、特に好ましくは±1℃の範囲内の温度である。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0013】
[第一設定温度決定工程]
本工程は、セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介して配設された第一の加熱手段の加熱時の設定温度である第一設定温度を決定する工程である。
上記セメント質硬化体は、本発明のセメント質硬化体の力学的特性の試験方法において、試験の対象となるもの(後述する測定工程において、力学的特性が測定されるもの)である。
第一の加熱手段は、第一の加熱手段の発熱する部位とセメント質硬化体の間に、空間を有するように配設されたものであって、上記部位が、セメント質硬化体と直接接触することなく、空間を介して間接的にセメント質硬化体を加熱できるものであればよい。
具体的には、セメント質硬化体に対して、非接触による間接加熱を行うための空間を介し、かつ、セメント質硬化体を収容することができるように配設された加熱炉や乾燥炉などが挙げられる。
【0014】
[第二設定温度決定工程]
本工程は、接触による直接加熱を行うためにセメント質硬化体と接触させて配設された第二の加熱手段の加熱時の設定温度である第二設定温度を決定する工程である。
本発明では、測定工程(好ましくは加熱工程、移動工程、及び測定工程の全ての工程)において、セメント質硬化体の温度を、目標温度またはその近傍の温度に維持する目的で、第二の加熱手段が用いられる。
第二の加熱手段は、接触による直接加熱を行うためにセメント質硬化体と接触させて配設されてなるものである。
第二の加熱手段は、セメント質硬化体と接触した状態でセメント質硬化体を加熱できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シートヒーター等が挙げられる。シートヒーターは、板状でありかつ柔軟性を有するため、供試体が曲面を有する場合(例えば、円柱状の供試体)であっても、セメント質硬化体の表面(曲面)の特定の領域に取り付けることができる。
【0015】
第二の加熱手段とセメント質硬化体が接触している領域の大きさは、セメント質硬化体の形状によっても異なるが、セメント質硬化体の内部まで十分に加熱することができる大きさであればよい。上記大きさは、セメント質硬化体を十分に加熱することができる観点から、セメント質硬化体の表面積100%中、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。
また、セメント質硬化体が円柱状又は角柱状である場合、第二の加熱手段は、セメント質硬化体の側面の略中央部分を含む領域に取り付けることが好ましい。これにより、試験時に応力がかかる部分を効果的に加熱することができる。
【0016】
第二の加熱手段をセメント質硬化体に配設する時期は特に限定されないが、一連の工程において、セメント質硬化体の温度が、目標温度と比較して過度に小さくなることなく維持される観点から、加熱工程を行う前、加熱工程中、あるいは、加熱工程と移動工程の間において、セメント質硬化体に第二の加熱手段を配設することが好ましい。
また、第二の加熱手段は、配設される前に予め第二設定温度付近の温度になるまで加熱されていることが好ましい。
【0017】
[加熱工程]
本工程は、セメント質硬化体を、第一の加熱手段を用いて、第一設定温度決定工程において決定した第一設定温度で加熱する工程である。
また、加熱する際の昇温速度(単位時間当たりの上昇する温度)は、好ましくは2~5℃/時間、より好ましくは3~4℃/時間である。
昇温速度が5℃/時間以下であれば、ひび割れ等の発生によってセメント質硬化体が損傷することを防ぐことができる。昇温速度が2℃/時間以上であれば、加熱に要する時間を短くすることができる。
また、第一の加熱手段を用いてセメント質硬化体を加熱する際には、セメント質硬化体を、合成樹脂製の袋に入れて封緘することが好ましい。これにより、セメント質硬化体の乾燥を抑制することができる。
【0018】
[移動工程]
本工程は、加熱工程における加熱を終えたセメント質硬化体を、力学的特性を試験するための場所に移動させる工程である。
セメント質硬化体の高温下における力学的測定を、より正確に測定する観点から、本工程において、セメント質硬化体を移動させる際に、セメント質硬化体の温度が下がらないようにすることが好ましい。具体的には、セメント質硬化体を、合成樹脂製の袋に入れて封緘した状態で移動させる方法が挙げられる。
【0019】
[測定工程]
本工程は、力学的特性を試験するための場所において、力学的特性測定手段を用いて、セメント質硬化体の力学的特性を測定する工程である。
力学的特性測定手段とは、セメント質硬化体の力学的特性を測定する各種試験において適宜用いられる、器具、機械、及び機器等である。
セメント質硬化体は、第二の加熱手段を用いて、第二設定温度で加熱されているため、本工程において、セメント質硬化体の温度は、目標温度またはその近傍の温度に維持されている。
なお、測定工程において、セメント質硬化体の温度が、目標温度またはその近傍の温度に維持されていればよいため、測定工程以前における第二の加熱手段を用いた第二設定温度でのセメント質硬化体の加熱は、上述した加熱工程から測定工程までのいずれか1つ以上の時点(例えば、移動工程の後であって、測定工程の前の時点)で行えばよい。
また、測定工程において、セメント質硬化体の温度が、目標温度またはその近傍の温度に維持されていればよいため、測定工程における第二の加熱手段の設定温度を第二設定温度よりも低く設定してもよく、あるいは、測定工程において第二の加熱手段を用いなくてもよい。
【0020】
なお、測定工程において、「目標温度またはその近傍の温度」としたのは、試験時におけるセメント質硬化体の温度を、試験時の目標として指標される温度である目標温度と完全に一致させることが困難であるなどの理由により、数値に幅を持たせたためである。
また、「目標温度またはその近傍の温度」とは、好ましくは上記目標温度±3℃の範囲内、より好ましくは±2℃の範囲内、特に好ましくは±1℃の範囲内の温度である。
上記範囲内でセメント質硬化体の力学的特性を測定することで、特定の温度下における、セメント質硬化体の力学的特性をより正確に評価することができる。
【0021】
第一の加熱手段における第一設定温度、及び、第二の加熱手段における第二設定温度は、測定工程(好ましくは加熱工程、移動工程及び測定工程の全ての工程)において、セメント質硬化体の温度が、目標温度またはその近傍の温度に維持されるように決定される。
以下、第一設定温度及び第二設定度を決定する方法の例について説明する。
例えば、第一設定温度及び第二設定温度を決定するためのセメント質の硬化体(以下、「決定用硬化体」ともいう。)を予め用意し、試験の対象となるセメント質硬化体の代わりに決定用硬化体を用いる以外は、上述した加熱工程、移動工程、及び測定工程と同様にして各工程を行い、測定工程(好ましくは加熱工程、移動工程、及び測定工程の全ての工程)において、決定用硬化体の温度が、目標温度またはその近傍の温度に維持されるような、第一の加熱手段の第一設定温度、及び、第二の加熱手段の第二設定温度を求める方法が挙げられる。なお、決定用硬化体を用いて、上述した加熱工程、移動工程、及び測定工程を行う場合、第一設定温度及び第二設定温度が未だ定まっていないため、第一設定温度及び第二設定温度の代わりに、例えば、目標温度±8℃の範囲内で任意に定めた温度を設定した後、決定用硬化体の温度に基づいて、適宜、温度を変更すればよい。
上述した方法によって第一設定温度及び第二設定温度を決定することで、特定の温度下(特に高温下)セメント質硬化体の力学特性をより正確に測定することができる。
【0022】
決定用硬化体としては、試験の対象となるセメント質硬化体と同じもの(製造条件や形状が同じもの)が用いられる。また、決定用硬化体には、決定用硬化体の温度を測定し、該温度が目標温度またはその近傍に維持されているかどうかを判断する目的で、温度測定手段が配設される。
決定用硬化体に配設された温度測定手段は、決定用硬化体の温度の変化を測定できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、熱電対等が挙げられる。
また、決定用硬化体の温度を正確に測定する観点から、温度測定手段は、決定用硬化体に埋設されていることが好ましい。温度測定手段が決定用硬化体に埋設される位置は、決定用硬化体を力学特性測定手段に設置する際の、設置された決定用硬化体の鉛直方向の略中央部分であることが好ましい。該部分に温度測定手段を埋設することで、決定用硬化体の温度をより正確に測定することができる。
【0023】
また、決定用硬化体の温度をより正確に測定する観点から、複数の温度測定手段を使用し、得られた複数の温度の平均値を測定値とすることが好ましい。温度測定手段の数は、決定用硬化体の形状や大きさによっても異なるが、好ましくは2個以上、より好ましくは2~8個、特に好ましくは3~5個である。
さらに、決定用硬化体の内部全体の温度を正確に把握することができる観点から、複数の温度測定手段を決定用硬化体に埋設し、かつ、複数の温度測定手段が埋設された深さ(決定用硬化体の表面から温度測定手段までの深さ)を、異なるようにしてもよい。
例えば、決定用硬化体の表面の近傍の位置、決定用硬化体の表面から最も深い位置(決定用硬化体の略中心部分)、及び上記近傍の位置と上記最も深い位置の中間の位置に、温度測定手段を、各々、埋設してもよい。
【0024】
また、目的とする種類の力学的特性の試験方法を実際に行う際に、試験の開始から終了までの決定用硬化体の温度を正確に測定する観点から、力学的特性測定手段に決定用硬化体を設置した際の、力学的特性手段が作動する方向に対して垂直の方向に、複数の温度測定手段を、分散して並べるように埋設してもよい(例えば、
図2の「b-1」参照)。特に、力学特性の試験が、割裂ひび割れ発生強度試験または切欠き曲げ強度試験の場合には、上記垂直の方向に対応する部分において、試験時にかかる応力が大きくなるため、該部分に温度測定手段を埋設し、第一設定温度及び第二設定温度を決定することで、試験時において、決定用硬化体の力学特性をより正確に測定することができる。
【0025】
また、第一設定温度及び第二設定度は、目標温度、セメント質硬化体の力学的特性の試験方法の種類、セメント質硬化体の形状等に応じて適宜決定してもよい。
例えば、セメント質硬化体の温度を、目標温度またはその近傍の温度にする観点から、第一の加熱手段における第一設定温度を、好ましくは、目標温度以上、目標温度+8℃以下、より好ましくは、目標温度以上、目標温度+6℃以下、より好ましくは、目標温度以上、目標温度+4℃以下の範囲内で設定することが好ましい。
また、セメント質硬化体の温度を、目標温度またはその近傍の温度にする観点から、第二の加熱手段における第二設定温度を、好ましくは、目標温度±8℃の範囲内、より好ましくは、目標温度±6℃の範囲内、より好ましくは、目標温度±4℃の範囲内で設定することが好ましい。
【0026】
さらに、セメント質硬化体の力学的特性の試験方法の種類に応じて、第一設定温度決定工程及び第二設定温度決定工程で決定する第一設定温度と第二設定温度の大きさを調整してもよい。上記調整によって、セメント質硬化体の温度を、容易に目標温度またはその近傍の温度にすることができる。
第一設定温度と第二設定温度の大きさの調整の具体例(i)~(iii)を以下に記載する。
(i)圧縮強度試験
上記力学的特性の試験方法が、圧縮強度試験である場合、第一設定温度決定工程及び第二設定温度決定工程において、例えば、第一設定温度が、第二設定温度よりも高い値(好ましくは1~6℃、より好ましくは2~5℃高い値)に決定してもよい。
圧縮強度試験の例としては、「JIS R 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」が挙げられる。
(ii)割裂ひび割れ発生強度試験
上記力学的特性の試験方法が、割裂ひび割れ発生強度試験である場合、第一設定温度決定工程及び第二設定温度決定工程において、例えば、第一設定温度が、第二設定温度よりも低い値(好ましくは0.5~4℃、より好ましくは1~3℃低い値)に決定してもよい。
割裂ひび割れ発生強度試験の例としては、「JIS A 1113:2018(コンクリートの割裂引張強度試験方法)」が挙げられる。
【0027】
(iii)切欠き曲げ強度試験
上記力学的特性の試験方法が、切欠き曲げ強度試験である場合、第一設定温度決定工程及び第二設定温度決定工程において、例えば、第一設定温度が、第二設定温度以下の値(好ましくは第二設定温度-4℃~第二設定温度、より好ましくは第二設定温度-2℃~第二設定温度)に決定してもよい。
切欠き曲げ強度試験の例としては、日本コンクリート工学協会(現公益社団法人日本コンクリート工学会)の「コンクリートの破壊特性の試験方法に関する調査研究委員会報告書」に記載されている「繊維補強コンクリートの切欠きはり試験体の荷重-変位曲線の計測方法」が挙げられる。
【実施例0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
[圧縮強度試験方法]
「JIS R 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して、高温下でのコンクリートの圧縮強度試験を行った。以下、
図1を参照しながら説明する。
試験ではセメント質硬化体としてコンクリートを用い、コンクリートの供試体6としては、φ100×200mmの円柱状の供試体を使用した。供試体6に、温度測定手段1~3として、スリーハイ社製の「デジタル温度コントローラー monoone-120(モノワン120)」を埋設した。温度測定手段1~3は、供試体の底面から鉛直方向に100mmの位置であって、供試体の側面の表面から5mm、25mm、50mmの位置に、各々、埋設された(
図1のa-1、a-2参照)。
【0029】
供試体6を、乾燥炉(第一の加熱手段)に収容し、乾燥炉内の温度が、室温(約20℃)から表1に示す第一設定温度になるまで、3℃/時間の昇温速度で加熱した。加熱は、供試体6の乾燥を抑制する目的で、供試体6を合成樹脂製の袋に入れて、封緘した状態で行った。乾燥炉内の温度が第一設定温度に到達した以降は、試験開始まで乾燥炉内で供試体6を保管した。
供試体6を乾燥炉から取り出した後、圧縮試験機12(「JIS B 7721:2018(引張試験機・圧縮試験機-力計測系の校正方法及び検証方法)」の7.試験機の等級に規定する1等級以上のもの;最大荷重:1,000~3,000kN)にセットした後、直ちに供試体6の側面の表面に、第二の加熱手段として、2枚のシートヒーター9(スリーハイ社製の「シリコンラバーヒーター」:105mm×150mm)を、供試体を挟むようにして、
図1のa-3の位置に取り付けた。なお、シートヒーター9は、予め、表1に示す第二設定温度になるまで加熱したものを使用した。また、シートヒーター9と供試体6が接触している領域は、供試体の表面積100%中、40%であった。
【0030】
供試体6を乾燥炉から取り出して、1分30秒経過した時点から、載荷を開始した。載荷は、圧縮応力度の増加を0.6±0.4N/mm2になるようにし、供試体6が急激な変形を始めた後には、荷重を加える速度の調整を中止して供試体6が破壊するまで荷重を加えた。
試験終了時(供試体6が破砕した時)の、温度測定手段1~3によって測定された供試体6の温度を表1に示す。
【0031】
【0032】
[実施例2]
[割裂ひび割れ発生強度試験]
「JIS A 1113:2018(コンクリートの割裂引張強度試験方法)」に準拠して、高温下でのコンクリートの割裂ひび割れ発生強度試験を行った。以下、
図2を参照しながら説明する。
コンクリートの供試体7としては、φ100×110mmの円柱状の供試体を使用した。供試体7に、実施例1で使用したものと同じ温度測定手段1~3を埋設した。温度測定手段1~3は、円柱状の供試体の上面から軸方向に5mm、27.5mm、55mmの位置であって、供試体7の側面から50mmの位置に、各々、埋設された(
図2のb-1、b-2参照)。
【0033】
供試体7を、乾燥炉(第一の加熱手段)に収容し、乾燥炉内の温度が、室温(約20℃)から表2に示す第一設定温度になるまで、3℃/時間の昇温速度で加熱した。加熱は、供試体7を合成樹脂製の袋に入れて封緘した状態で行った。乾燥炉内の温度が設定温度に到達した以降は、試験開始まで乾燥炉内で供試体7を保管した。
供試体7を乾燥炉から取り出した後、圧縮試験機13(「JIS B 7721:2018(引張試験機・圧縮試験機-力計測系の校正方法及び検証方法)」の7.試験機の等級に規定する1等級以上のもの;最大荷重:1,000kN)に、
図2のb-1に示すようにセットした後、直ちに供試体7の側面の表面に、第二の加熱手段として、2枚のシートヒーター10(スリーハイ社製の「シリコンラバーヒーター」:105mm×115mm)を、供試体7を挟むようにし、かつ、圧縮試験機13と供試体7が接触する部分を避けて、供試体7の側面の略中央部分の位置に取り付けた(
図2のb-2参照)。なお、シートヒーター10は、予め、表2に示す第二設定温度になるまで加熱したものを使用した。また、シートヒーター10と供試体7が接触している領域は、供試体の表面積100%中、24%であった。
【0034】
供試体7を乾燥炉から取り出して、1分30秒経過した時点から、載荷を開始した。載荷は、引張応力度の増加を0.06±0.04N/mm2になるようにし、最大荷重(1,000kN)に至るまで上記増加を維持した。
試験終了時(供試体7が破砕した時)の、温度測定手段1~3によって測定された供試体7の温度を表2に示す。
【0035】
【0036】
[実施例3]
[切欠き曲げ強度試験]
日本コンクリート工学協会(現公益社団法人日本コンクリート工学会)の「コンクリートの破壊特性の試験方法に関する調査研究委員会報告書」に記載されている「繊維補強コンクリートの切欠きはり試験体の荷重-変位曲線の計測方法」に準拠して、高温下での切欠き曲げ強度試験を行った。以下、
図3を参照しながら説明する。
コンクリートの供試体8としては、100×100×400mmの角柱状の供試体を使用した。供試体8に、実施例1で使用したものと同じ温度測定手段1~3を埋設した。温度測定手段1~3は、角柱状の供試体8の上面から軸方向に200mmの位置であって、供試体の側面から5mm、25mm、50mmの位置に、各々、埋設された(
図3のc-1、c-2参照)。
また、供試体8の一つの側面(3点曲げ試験機に供試体をセットした際に下面となる面)の中央部分に、長さ100mm、幅5mm以下の切欠き4を、30mmの深さまで入れた。
【0037】
供試体8を、乾燥炉(第一の加熱手段)に収容し、乾燥炉内の温度が、室温(約20℃)から表3に示す第一設定温度になるまで、3℃/時間の昇温速度で加熱した。加熱は、供試体8を合成樹脂製の袋に入れて封緘した状態で行った。乾燥炉内の温度が設定温度に到達した以降は、試験開始まで乾燥炉内で供試体8を保管した。
供試体8を乾燥炉から取り出した後、3点曲げ試験装置(図示せず)の部材14、15を、
図3のc-3に示すようにセットした後、直ちに供試体8の側面の表面に、第二の加熱手段として、シートヒーター11(スリーハイ社製の「シリコンラバーヒーター」:100mm×120mm)を、8枚用意し、
図3のc-3に示す位置に、供試体8の1つの側面につき2枚づつ取り付けた。なお、シートヒーター11は、予め、表3に示す第二設定温度になるまで加熱したものを使用した。また、シートヒーター11と供試体8が接触している領域は、供試体の表面積100%中、53%であった。
次いで、開口変位測定用のクリップゲージ(東京測器研究所社製、クリップ型変位計(UB-10S001)を取り付けた。
【0038】
供試体8を乾燥炉から取り出して、3分30秒経過した時点から、変位制御型精密万能試験機(島津製作所社製、「オートグラフ AG-100KNG」)を用いて、載荷を開始した。載荷速度は荷重点変位により制御し、その速度は0.3mm/分とした。試験中は、荷重と開口変位を連続的に測定し、開口変位が10mm以上になるまで、セメント質硬化体の温度の測定を継続した。
温度測定手段1~3について、各々、試験中に測定された温度履歴の平均値を算出した後、温度測定手段1~3の上記平均値の平均(表3中、「試験中の平均温度」と示す。)を算出した。また、温度測定手段1~3の上記平均値の最大値と最小値の差(表3中、「最大温度差」と示す。)を算出した。
結果を、表3に示す。
【0039】
【0040】
表1~3から、本発明によれば、セメント質硬化体の力学的特性を測定する試験の開始から終了まで、セメント質硬化体の温度を目標温度~目標温度+0.6℃の範囲内に維持できることがわかる。