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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099482
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】エンジンの振動抑制構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 77/00 20060101AFI20220628BHJP
   F16F 15/14 20060101ALI20220628BHJP
   F16F 15/31 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F02B77/00 L
F16F15/14 Z
F16F15/31 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213270
(22)【出願日】2020-12-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】市川 和男
(57)【要約】
【課題】ロールバランサおよびエンジンの出力軸の振動を確実に抑制できるエンジンの振動抑制構造を提供する。
【解決手段】出力軸18と一体に回転する第1ギア32と、第1ギア32を介して出力軸18に連結されて出力軸18と反対方向に回転するロールバランサ40とを設け、ロールバランサ40に、本体部43と、第1ギア32と噛み合う第2ギア42とを設ける。本体部の43直径を第2ギア42の直径よりも大きくし、第2ギア42よりも外周側の本体部43の内部に周方向に延びる封入室50を形成して、封入室50に粉体70を封入する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に延びる出力軸を備えたエンジンの振動抑制構造であって、
前記出力軸に連結されて当該出力軸と一体に回転する第1ギアと、
前記第1ギアを介して前記出力軸に連結されて、前記出力軸の回転中心軸と平行に延びる軸回りに当該出力軸と反対方向に回転するロールバランサと、
前記ロールバランサの内部に封入された粉体とを備え、
前記ロールバランサは、当該ロールバランサの回転中心軸を中心とする円盤状の本体部と、当該ロールバランサの回転中心軸を中心とする円盤状を有し且つ前記第1ギアと噛み合う第2ギアとを備え、
前記本体部の直径は前記第2ギアの直径よりも大きい寸法に設定されており、
前記第2ギアよりも外周側の前記本体部の内部には、当該本体部の周方向に延びる封入室が形成されており、
前記粉体は、前記封入室に封入されている、ことを特徴とするエンジンの振動抑制構造。
【請求項2】
請求項1に記載の振動抑制構造において、
前記封入室には、前記ロールバランサの回転中心軸回りについて前記第2ギアのギア歯とそれぞれ同じ位置に設けられて前記封入室を前記本体部の周方向に区画する複数の隔壁が設けられている、ことを特徴とするエンジンの振動抑制構造。
【請求項3】
請求項2に記載の振動抑制構造において、
前記封入室の内周面は、前記本体部の周方向に延びる第1周面と、当該第1周面よりも前記本体部の径方向の内側に位置して当該第1周面と対向する第2周面とを有し、
複数の前記隔壁は、前記第1周面から前記第2周面よりも前記本体部の径方向の外側の位置まで延びる複数の第1隔壁と、前記第2周面から前記第1周面よりも前記本体部の径方向の内側の位置まで延びる複数の第2隔壁とを有し、
複数の前記第1隔壁と複数の前記第2隔壁とは、前記本体部の周方向に交互に並んでいる、ことを特徴とするエンジンの振動抑制構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の振動抑制構造において、
前記本体部の内部には、当該本体部の周方向に並ぶ複数の前記封入室が形成されている、ことを特徴とするエンジンの振動抑制構造。
【請求項5】
請求項4に記載の振動抑制構造において、
複数の前記封入室は、前記本体部の周方向について等間隔に並んでおり、
各前記封入室に封入されている前記粉体の重量は、互いに同一である、ことを特徴とするエンジンの振動抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の方向に延びる出力軸を備えたエンジンの振動抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の方向に延びる出力軸を備えたエンジンでは、出力軸の回転に伴って出力軸の軸受けおよび軸受けが形成された筐体に出力軸の回転方向の力が付与される。これに対して、従来、所定の重量を有するロールバランサをギアを介して出力軸に連結し、ロールバランサを出力軸と反対方向に回転させることで筐体に付与される上記の力を小さくすることが行われている。しかしながら、ギアを介して出力軸とロールバランサとを連結させた場合、ギアの噛み合いに伴って出力軸とロールバランサとが振動する。そのため、出力軸とロールバランサとをギアを介して連結したエンジンを車両等に搭載した場合には、この振動あるいは振動に伴って生じた騒音が乗員に伝わりやすくなる。
【0003】
上記のようなギアの噛み合いによる振動を抑制する構造として、特許文献1には、家庭用ミシンに設けられたプーリの振動を抑制するための構造が開示されている。具体的に、特許文献1に開示されている家庭用ミシンでは、プーリーの外周面にギア歯が形成されており、モータに掛け渡されたタイミングベルトとプーリーのギア歯との噛み合いによってプーリーが回転駆動されるようになっている。そして、ギア歯とタイミングベルトの噛み合いに伴ってプーリーが振動するのを抑制するために、プーリーの内側に周方向に延びる空間を設けて、この空間に粉体を封入するように構成されている。この構成によれば、プーリーの内側で粉体の周方向の移動が許容されることで、この粉体をダイナミックダンパとして機能させてプーリーの振動を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-288463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、ギア面が形成された外周面よりも内周側に空間が形成されており、粉体を十分に動かすことができず、振動抑制効果が限定的になる。そのため、この構造を出力軸とロールバランサとがギアを介して連結されたエンジンに適用しても、ロールバランサおよび出力軸の振動を十分に抑制できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ロールバランサおよびエンジンの出力軸の振動を確実に抑制できるエンジンの振動抑制構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、所定の方向に延びる出力軸を備えたエンジンの振動抑制構造であって、前記出力軸に連結されて当該出力軸と一体に回転する第1ギアと、前記第1ギアを介して前記出力軸に連結されて、前記出力軸の回転中心軸と平行に延びる軸回りに当該出力軸と反対方向に回転するロールバランサと、前記ロールバランサの内部に封入された粉体とを備え、前記ロールバランサは、当該ロールバランサの回転中心軸を中心とする円盤状の本体部と、当該ロールバランサの回転中心軸を中心とする円盤状を有し且つ前記第1ギアと噛み合う第2ギアとを備え、前記本体部の直径は前記第2ギアの直径よりも大きい寸法に設定されており、前記第2ギアよりも外周側の前記本体部の内部には、当該本体部の周方向に延びる封入室が形成されており、前記粉体は、前記封入室に封入されていることを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、ロールバランサがエンジンの出力軸に連結されて、ロールバランサがエンジンの出力軸の回転中心軸と平行な軸回りに当該出力軸と反対方向に回転するようになっている。そのため、出力軸を支持する筐体等に出力軸の回転方向に大きな力が付与されるのを抑制できる。
【0009】
しかも、本発明では、ロールバランサに、出力軸と一体に回転する第1ギアと噛み合う第2ギアに加えて、ロールバランサの回転中心軸を中心とする円盤状を有し且つ第2ギアよりも径の大きい本体部が設けられている。そして、この本体部の第2ギアよりも外周側の部分に当該本体部の周方向に延びる封入室が形成されて、この封入室に粉体が封入されている。つまり、本体部のうちの径方向のより外側の部分であってロールバランサの回転時に大きな遠心力が付与される部分に、ロールバランサの回転方向に移動可能な状態で粉体が封入されている。そのため、出力軸およびロールバランサの回転時に、封入室内で粉体を十分に動かすことができ、粉体どうしの間および粉体と封入室の内壁との間に大きな摩擦力を生じさせることができるとともに、封入室の内壁に対して粉体を激しく衝突させることができる。従って、第1ギアと第2ギアとの噛み合いに伴うロールバランサと第1ギアおよび出力軸の振動エネルギーの多くを、摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸させることができ、ロールバランサおよび出力軸の振動を確実に抑制できる。
【0010】
前記構成において、好ましくは、前記封入室には、前記ロールバランサの回転中心軸回りについて前記第2ギアのギア歯とそれぞれ同じ位置に設けられて前記封入室を前記本体部の周方向に区画する複数の隔壁が設けられている(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、複数の隔壁と粉体の間で摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーを生じさせることができ、ロールバランサおよび出力軸の振動エネルギーのより多く摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸させることができる。
【0012】
しかも、この構成では、各隔壁がロールバランサの回転中心軸回りについて第1ギアのギア歯と同じ位置に設けられている。そのため、第1ギアのギア歯と第2のギア歯との間で生じた振動エネルギーを効率よく隔壁と粉体との間の摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸でき、ギアの噛み合いに伴うロールバランサおよび出力軸の振動を効果的に抑制できる。
【0013】
前記構成において、好ましくは、前記封入室の内周面は、前記本体部の周方向に延びる第1周面と、当該第1周面よりも前記本体部の径方向の内側に位置して当該第1周面と対向する第2周面とを有し、複数の前記隔壁は、前記第1周面から前記第2周面よりも前記本体部の径方向の外側の位置まで延びる複数の第1隔壁と、前記第2周面から前記第1周面よりも前記本体部の径方向の内側の位置まで延びる複数の第2隔壁とを有し、複数の前記第1隔壁と複数の前記第2隔壁とは、前記本体部の周方向に交互に並んでいる(請求項3)。
【0014】
この構成によれば、第1隔壁と第2隔壁とによって区画される複数の空間にそれぞれ粉体を閉じ込めて、各隔壁において確実に粉体との間で摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーを生じさせることができ、ロールバランサおよび出力軸の振動をより確実に抑制できる。
【0015】
しかも、この構成によれば、隔壁によって形成される封入室内の複数の空間が互いに連通していることで、封入室全体に粉体を導入することで各空間に粉体を配置することができ粉体の配置が容易になる。
【0016】
前記構成において、好ましくは、前記本体部の内部には、当該本体部の周方向に並ぶ複数の前記封入室が形成されている(請求項4)。
【0017】
この構成によれば、封入室どうしを区画する壁部材と粉体とを衝突させることができ、粉体の衝突エネルギーを高めてロールバランサおよび出力軸の振動をより一層確実に抑制できる。
【0018】
前記構成において、好ましくは、複数の前記封入室は、前記本体部の周方向について等間隔に並んでおり、各前記封入室に封入されている前記粉体の重量は、互いに同一である(請求項5)。
【0019】
この構成によれば、ロールバランサに複数の封入室を設けて前記のようにロールバランサおよび出力軸の振動をより一層抑制しつつ、複数の封入室を形成することに伴ってロールバランサの周方向の重量バランスが崩れるのを抑制してロールバランサひいては出力軸の適切な回転を維持できる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のエンジンの振動抑制構造によれば、出力軸の振動を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る振動抑制構造が適用されたエンジンを概略的に示す断面図である。
図2図1の分解斜視図である。
図3】ロールバランサの正面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5図4のV-V線断面図である。
図6】封入室内の様子を模式的に示した図である。
図7】第2実施形態に係るロールバランサの内部を示した概略斜視図である。
図8図7のVII-VII線断面図である。
図9】第2実施形態に係るロールバランサの一部を拡大して示した概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
(エンジンの全体構造)
以下、図面に基づいて本発明の第1実施形態に係るエンジンの振動抑制構造について説明する。図1は、本実施形態において振動抑制構造が適用されるエンジンEの一部を示した概略斜視図であり、図2は、図1の分解斜視図である。本実施形態では、エンジンEは、1ロータ式のロータリーピストンエンジンである。エンジンEは、例えば、自動車等に搭載されて発電機や車両の駆動源として利用される。
【0023】
ロータリーピストンエンジンのエンジン本体10としては従来のものが用いられればよく、ここでは、簡単にその説明を行う。エンジン本体10は、内側に略三角形状のロータ16を収容するロータ収容室15が形成されたセンタハウジング11と、これの両側に配設された一対のサイドハウジング12とを有する。ロータ収容室15の内周面はトロコイド曲線に沿って延びており、ロータ16はその頂点がトロコイド曲線に沿ってロータ収容室15の内周面を摺動するようにこれに収容されている。エンジン本体10は、サイドハウジング12を貫通して、これらハウジング11、12の並び方向に延びる略円柱状のエキセントリックシャフト18を有する。エキセントリックシャフト18は、エンジンEの出力軸であり、ロータ16の回転に伴ってその長手方向に延びる回転中心軸X1回りに回転する。ロータ16はエキセントリックシャフト18に対して遊星回転運動するように支持されており、ロータ16が1回転するとエキセントリックシャフト18は3回転する。
【0024】
エキセントリックシャフト18の長手方向の一方端には、シャフト回転部材30がエキセントリックシャフト18と一体に回転可能に連結されている。具体的には、シャフト回転部材30の中央に形成された貫通孔にエキセントリックシャフト18の端部が挿通され、エキセントリックシャフト18の先端とシャフト回転部材30とがロックナット21によって固定されることで、シャフト回転部材30はエキセントリックシャフト18に連結されている。
【0025】
シャフト回転部材30は、互いに一体に形成された、円盤状を有するフライホイールアダプタ31と、これよりも大径の円盤状を有する第1ギア32とを有する。フライホイールアダプタ31には、不図示のフライホイールが固定される。第1ギア32は、平歯車であり、第1ギア32の外周面には、第1ギア32の径方向にそれぞれ延びる複数のギア歯35が第1ギア32の周方向に等間隔に並んでいる。
【0026】
シャフト回転部材30、つまり、フライホイールアダプタ31と第1ギア32の中心軸はいずれもエキセントリックシャフト18の回転中心軸X1と一致しており、これらは、エキセントリックシャフト18の回転中心軸X1を中心としてこれと一体に回転する。
【0027】
エンジンEは、第1ギア32を介してエキセントリックシャフト18に連結されてエキセントリックシャフト18と反対方向に回転するロールバランサ40を備える。ロールバランサ40は、エキセントリックシャフト18および第1ギア32の回転中心軸X1と平行な回転中心軸X2回りにこれらと反対方向に回転する。本実施形態では、エンジンEに、2つのロールバランサ40、40つまり一対のロールバランサ40が設けられている。2つのロールバランサ40は、エキセントリックシャフト18および第1ギア32の回転中心軸X1回りに互いに離間した位置に配設されている。図1、2の例では、回転中心軸X1を挟んでこれら図の上下にそれぞれ1つのロールバランサ40が配設されている。
【0028】
ロールバランサ40は、エキセントリックシャフト18の回転に伴ってこれを支持するエンジン本体10等に加わるエキセントリックシャフト18の回転方向の力いわゆるローリング力を抑えるためのものである。ロールバランサ40は、上記のようにエキセントリックシャフト18に連結された状態でこれと反対方向に回転することで、上記ローリング力と反対方向の力をエンジン本体10等に付与してローリング力を分散させる。
【0029】
(ロールバランサ40)
2つのロールバランサ40、40は互いに同じ構造を有しており、以下では、一つのロールバランサ40について説明する。図3は、ロールバランサ40の概略正面図である。図4は、図3のIV-IV線断面図である。図5は、図4のV-V線断面図である。なお、図3では、後述する第2ギア42のギア歯45および粉体70の図示を省略している。
【0030】
ロールバランサ40は、バランサ部41と第2ギア42とを有する。
【0031】
バランサ部41は、互いに一体に形成されたバランサ本体部43とギア嵌合部44とを有する。バランサ本体部43とギア嵌合部44とは、いずれも中央に貫通孔が形成された円盤状をそれぞれ有し、これらの中心軸方向に並んでいる。バランサ本体部43とギア嵌合部44とは、各部43、44の中心軸が一致し、且つ、各部43、44の中央に形成された貫通孔が連続するように構成されており、バランサ部41の中央にはこれの表裏を貫通する貫通孔40aが形成されている。上記のバランサ本体部43は、請求項の「本体部」に相当する。以下では、適宜、バランサ本体部43およびギア嵌合部44の中心軸を、まとめて、バランサ部41の中心軸という。
【0032】
第2ギア42も、バランサ本体部43およびギア嵌合部44と同様に中央に貫通孔が形成された円盤状を有する。第1ギア32と同様に第2ギア42も平歯車であり、第2ギア42の外周面には、第2ギア42の径方向にそれぞれ延びる複数のギア歯45が第2ギア42の周方向に等間隔に並んでいる。
【0033】
第2ギア42はギア嵌合部44に外嵌されて、その中心軸とバランサ部41の中心軸が一致する状態でバランサ部41に連結されている。第2ギア42の直径は、バランサ本体部43の直径よりも小さく、正面視で、バランサ本体部43は第2ギア42からこれらの径方向の外側に拡がっている。例えば、バランサ本体部43の径は、第2ギア42の径の2倍程度となっている。
【0034】
ロールバランサ40は、第2ギア42と第1ギア32とがその各中心軸が平行となる姿勢で噛み合うようにエンジン本体10に支持されている。これより、エキセントリックシャフト18の回転に伴って第1ギア32が回転すると、第2ギア42はこれと反対方向に回転し、ロールバランサ40はエキセントリックシャフト18の回転中心軸X1と平行に延びる軸X2回りにエキセントリックシャフト18と反対方向に回転する。なお、第2ギア42とバランサ部41とは互いに一体に回転可能に連結されている。
【0035】
具体的には、エンジン本体1の一方のサイドハウジング12の側面13(以下、取付面13という)にはエキセントリックシャフト18の回転中心軸X1と平行に延びる円柱状のバランサ支持部22が設けられている。ロールバランサ40は、バランサ部41の貫通孔40aにバランサ支持部22が挿通されることでエンジン本体10に支持されている。バランサ部41の中心軸とバランサ支持部22の中心軸とは一致しており、ロールバランサ40は、これらの軸を回転中心軸X2としてこの回転中心軸X2回りに回転する。本実施形態では、ロールバランサ40を取付面13との間で挟み込むような形状を有する支持ブラケット24がエンジン本体10設けられており、支持ブラケット24がバランサ支持部22の先端と取付面13とにネジ部材25によって固定されることで、ロールバランサ40の回転中心軸X2に沿う方向の移動は規制されている。なお、支持ブラケット24とロールバランサ40との間にはスラスト軸受け23が配設されている。また、本実施形態では、ロールバランサ40は、回転中心軸X2に沿う方向についてバランサ本体部43に対してギア嵌合部44および第2ギア42が反エンジン本体10側に位置する姿勢でバランサ支持部22に支持されている。
【0036】
バランサ本体部43の内部には、複数の封入室50が形成されている。各封入室50は互いに同じ形状を有している。本実施形態では、バランサ本体部43の内部に、3つの封入室50が形成されている。3つの封入室50は、バランサ本体部43のうち第2ギア42よりも外周側に設けられている。つまり、ロールバランサ40の回転中心軸X2に沿ってみたときに、各封入室50は、バランサ本体部43のうち第2ギア42よりも径方向外側に位置している。本実施形態では、各封入室50は、バランサ本体部43の外周縁近傍に設けられており、その全体が第2ギア42よりも外周側に位置している。以下の説明では、適宜、バランサ本体部43の周方向を単に周方向といい、バランサ本体部43の径方向を単に径方向という。
【0037】
封入室50は、バランサ本体部43の周方向つまりロールバランサ40の回転中心軸X2回りに延びる形状を有している。3つの封入室50は、バランサ本体部43の周方向について互いに等間隔に配設されている。つまり、封入室50どうしを区画する3つの縦壁58がロールバランサ40の回転中心軸X2回りに120度間隔で配設されており、封入室50はロールバランサ40の回転中心軸X2回りに120度間隔で配設されている。封入室50は、ロールバランサ40の回転中心軸X2に沿ってみたときに環状扇形を呈しており、封入室50は、ロールバランサ40の回転中心軸X2に沿ってみたときに円弧状を呈する第1周面51と、これよりも径方向の内側に位置して第1周面51と対向する円弧状の第2周面52とを有する。縦壁58の周方向の寸法は、封入室50の周方向の寸法よりも十分に小さく、封入室50は、その中心角が120度に近い環状扇形を呈している。
【0038】
各封入室50には、それぞれ、粉体70が封入されている。なお、粉体70は、封入室50の大きさに対して粒径が十分に小さい多数の微細な粒子の集合体である。例えば、粉体70の各粒子は、10μm以上50μm以下の粒径(直径)を有する硬質の球体とすることができる。粉体70の各粒子の材質は、耐衝撃性などの所定の性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば、純アルミニウム(AL)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(AL)、ガラス(SiO)が好適である。
【0039】
各封入室50には、互いに同じ種類の粉体70が封入されている。粉体70は、封入室50内で移動可能な量だけこれらに封入されている。例えば、粉体70は、各封入室50内で封入室50の容積に対する粉体70の体積の割合である充填率が25%以上60%以下になるように、これらに封入されている。
【0040】
なお、図5では、粉体70が後述する各封入室50内において外周側に偏った状態を示しているが、これは、ロールバランサ40が回転しているときの様子を示している。つまり、ロールバランサ40がその回転中心軸X2回りに回転しているとき、粉体70は遠心力によって各封入室50の外周側に偏ることになる。
【0041】
上記のように構成されたロールバランサ40は、例えば、各封入室50に対応する部分に中子を配置して鋳造され、中子を抜くための孔から各封入室50に粉体70が導入された後当該孔が塞がれることで製造される。なお、ロールバランサ40の製造方法はこれに限らない。例えば、ロールバランサ40を図4のV-V面で分けられる2つの分割体で形成し、一方に各封入室50に対応する空間を形成してこれらに粉体70を導入した後、他方によってこれら空間を塞ぐようにしてもよい。
【0042】
(第1実施形態の作用等)
以上のように、本実施形態では、第1ギア32を介してロールバランサ40とエキセントリックシャフト18とが互いに反対方向に回転するように連結されている。そのため、エキセントリックシャフト18を支持するエンジン本体10等に付与されるローリング力を小さく抑えることができる。
【0043】
ただし、この構成では、エキセントリックシャフト18とロールバランサ40とが第1ギア32と第2ギア42との噛み合いによって連結されていることで、第1ギア32のギア歯35と第2ギア42のギア歯45との衝突に伴ってエキセントリックシャフト18およびロールバランサ40はその回転方向に振動しやすくなる。
【0044】
これに対して、本実施形態では、ロールバランサ40に、第2ギア42よりも径の大きいバランサ本体部43が設けられている。そして、バランサ本体部43の第2ギア42よりも外周側の部分にバランサ本体部43の周方向に延びる封入室50が形成されてこの封入室50に粉体70が封入されている。そのため、第1ギア32と第2ギア42との噛み合いに伴うロールバランサ40の振動エネルギーの多くを粉体70どうしおよび粉体70と封入室50の内壁との間に生じる摩擦エネルギーとして、また、粉体70と封入室50の内壁との間に生じる衝突エネルギーとして散逸させることができ、ロールバランサ40の振動およびエキセントリックシャフト18の振動を確実に抑制できる。
【0045】
図6を用いて具体的に説明する。図6は、封入室50内の様子を模式的に示した図である。上記のように封入室50はバランサ本体部43の周方向つまりロールバランサ40の回転中心軸X2回りに延びる形状を有しており、封入室50内で粉体70はこの周方向に移動可能となっている。そのため、矢印Y10に示すように、ロールバランサ40(バランサ本体部43)がその回転中心軸X2回りに振動すると、粉体70はこの振動方向に移動する、あるいは、移動しようとする。粉体70が封入室50内で移動する、あるいは移動しょうとすると、図6の矢印Y11に示すように、封入室50の内側面と粉体70との間で摩擦力が発生するとともに、矢印Y12に示すように、粉体70どうしの間で摩擦力が発生し、ロールバランサ40の振動エネルギーが摩擦エネルギーに変換される。さらに、矢印Y13に示すように、粉体70が封入室50の内側面に衝突して、振動エネルギーが衝突エネルギーに変換される。しかも、封入室50は、バランサ本体部43の第2ギア42よりも外周側の部分、つまり、ロールバランサ40の径方向のより外側に設けられている。そのため、本実施形態では、粉体70には大きな遠心力が付与されて粉体70は激しく動く、あるいは、激しく動こうとし、振動エネルギーの多くが摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーに変換される。このように、本実施形態では、ロールバランサ40の回転方向の振動エネルギーの多くを粉体70の移動に伴う摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸することが可能となり、ロールバランサ40の振動およびエキセントリックシャフト18の振動が確実に抑制される。
【0046】
特に、本実施形態では、複数の封入室50が設けられて封入室50どうしの間に径方向に延びる縦壁58が設けられていることで、バランサ本体部43の周方向に勢いよく移動する粉体70を縦壁58に激しく衝突させることができる。従って、ロールバランサ40の振動およびエキセントリックシャフト18の振動エネルギーを効果的に衝突エネルギーとして散逸できる。
【0047】
また、本実施形態では、各封入室50がロールバランサ40の周方向について等間隔に並ぶように形成されているとともに、各封入室50内に封入されている粉体70の重量が互いに同一とされている。そのため、ロールバランサ40に複数の封入室50を設けて上記のような振動抑制効果を得つつ、複数の封入室50を設けたことに起因してロールバランサ40の周方向の重量バランスが崩れるのを抑制してロールバランサ40の適切な回転ひいてはこれに連結されたエキセントリックシャフト18の適切な回転を維持できる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るエンジンの振動抑制構造について説明する。第2実施形態と第1実施形態とでは、封入室50の内部構造のみが異なっており、その他の構造は同じである。以下では、第2実施形態に係る封入室50の内部構造についてのみ説明を行う。また、第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を用いて説明する。図7は、第2実施形態に係るロールバランサ40の断面図であって図5に対応する図である。図8は、図7のVII-VII線断面図である。図9は、ロールバランサ40の一部を拡大して示した概略正面図である。なお、図7図9では粉体70の図示は省略している。
【0049】
図7に示すように、第2実施形態では、各封入室50の内側に、バランサ本体部43の周方向に並び、各封入室50内の空間をこの周方向について区画する複数の隔壁150が設けられている。
【0050】
隔壁150は、封入室50の第1周面51からバランサ本体部43の径方向の内側に延びる複数の板状の第1隔壁151と、第2周面52からバランサ本体部43の径方向の外側に延びる複数の板状の第2隔壁152とを有する。第1隔壁151は、第2周面52よりもバランサ本体部43の径方向の外側の位置まで延びており、第1隔壁151と第2周面52との間には隙間が存在する。第2隔壁152は、第1周面51よりもバランサ本体部43の径方向の内側の位置まで延びており、第2隔壁152と第1周面51との間には隙間が存在する。また、図8に示すように、各第1隔壁151と各第2隔壁152とは、いずれも、封入室50の他の内周面のうちの第1周面51と第2周面52のロールバランサ40の回転中心軸X2に沿う方向の両縁どうしをつなぐ2つの面からも離間しており、これら2つの面と各隔壁151、152との間にも隙間が区画されている。このように、本実施形態では、隔壁150(第1隔壁151、第2隔壁152)は、封入室50内の空間を互いに連通する複数の小空間に区画している。
【0051】
第1隔壁151と第2隔壁152とは、ロールバランサ40の周方向について交互に並んでいる。また、各隔壁150(第1隔壁151、第2隔壁152)は、ロールバランサ40の周方向に等間隔に並んでいる。
【0052】
図9に示すように、各隔壁150(第1隔壁151、第2隔壁152)は、ロールバランサ40の回転中心軸X2回りについて第2ギア42のギア歯45と同じ位置に設けられている。つまり、正面視で、各隔壁150は、回転中心軸X2と第2ギア42の各ギア歯45とをそれぞれ結ぶラインL10上に配置されている。本実施形態では、第2ギア42のギア歯45のうち3つのギア歯45は、回転中心軸X2回りについて各縦壁58と同じ位置に配設されており、残りの全てのギア歯45と対応する位置にそれぞれ隔壁150が配設されている。
【0053】
(第2実施形態の作用等)
以上のように、第2実施形態では、封入室50にこれをバランサ本体部43の周方向に区画する複数の隔壁150が設けられている。そのため、粉体70と複数の隔壁150との間で摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーを生じさせることができ、ロールバランサ40およびエキセントリックシャフト18の振動エネルギーをより一層確実に摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸させることができる。
【0054】
さらに、第2実施形態では、これら隔壁150がロールバランサ40の回転中心軸X2回りについて第2ギア42のギア歯45と同じ位置に設けられている。そのため、第1ギア32のギア歯35と第2ギア42のギア歯45との間で生じた振動エネルギーを効率よく隔壁150と粉体70との間の摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸でき、ギアの噛み合いに伴うロールバランサ40およびエキセントリックシャフト18の振動を効果的に抑制できる。
【0055】
また、各隔壁150によって区画される小空間どうしが互いに連通するように隔壁150が設けられている。そのため、封入室50全体に粉体70を導入することで各小空間に粉体70を配置することが可能となり、各空間に個別に粉体70を配置する場合に比べて粉体70の配置が容易になる。
【0056】
ここで、このように小空間どうしが連通していると、小空間どうしの間で粉体70が移動してしまい、粉体70との衝突が生じない隔壁150がでてくるおそれがある。これに対して、本実施形態では、第1周面51から延びる第1隔壁151と第2周面52から延びる第2隔壁152とが交互に配置されている。そのため、各小空間に粉体70をとどめることができ、各隔壁150と粉体70とを確実に衝突させることができる。従って、第1ギア32の各ギア歯35と第2ギア42の各ギア歯45との間で生じた振動エネルギーをより確実に隔壁150と粉体70との間の摩擦エネルギーおよび衝突エネルギーとして散逸できる。
【0057】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同じ構成を有することで得られる作用効果は第1実施形態と同様に得ることができる。
【0058】
(変形例)
上記実施形態では、ロールバランサ40のバランサ本体部43に3つの封入室50が設けられた場合を説明したが、封入室50はバランサ本体部43に1つだけ設けられてもよい。また、封入室50を複数設ける場合であっても、その個数は3つに限られない。
【0059】
また、粉体70の具体的な材質、各封入室50に封入する粉体70の量(容積割合)は上記に限らない。
【0060】
また、エンジン本体10はロータリーピストンエンジンに限らず、出力軸としてクランクシャフトを有する往復動エンジンであってもよい。
【0061】
また、上記第2実施形態において、全ての隔壁150を第1隔壁151つまり第1周面51からロールバランサ40の径方向内側に突出する部材で構成してもよい。ただし、上記のように、第2周面52からロールバランサ40の径方向外側に突出する第2隔壁152を設けて、第1隔壁151と第2隔壁152とを交互に配置すれば、各隔壁150(151、152)間の小空間にそれぞれ確実に粉体70をとどめて、各ギア歯35、45に対応する位置で確実に粉体70と隔壁150とを衝突させることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジン本体
16 ロータ
18 エキセントリックシャフト(出力軸)
32 第1ギア
35 第1ギアのギア歯
40 ロールバランサ
42 第2ギア
43 バランサ本体部(本体部)
45 第2ギアのギア歯
50 封入室
51 第1周面
52 第2周面
70 粉体
150 隔壁
151 第1隔壁
152 第2隔壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9