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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099519
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】列車制御方法及び列車制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20220628BHJP
   B61L 23/14 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B60L15/40 Z
B61L23/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213323
(22)【出願日】2020-12-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】591146893
【氏名又は名称】九州旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 隼史
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏博
(72)【発明者】
【氏名】田中 和広
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CB09
5H125CB10
5H125CC04
5H125CC05
5H161AA01
5H161CC02
5H161CC06
5H161DD12
5H161DD21
5H161EE04
5H161EE07
5H161FF01
(57)【要約】
【課題】既存の路線設備を利用しつつ、列車の発進操作が安全且つ確実に行われる自動運転を実現できる列車制御方法及び列車制御システムを提供する。
【解決手段】列車制御システム1は、列車Tに設けられた車上装置10と、指令所Cに設けられたパスワード生成装置20と、を含む。パスワード生成装置20は、車上装置10により出発禁止状態とされた列車Tから伝えられる出発許可要求を受けて、列車Tの識別情報を含むワンタイムパスワードOTPを生成するように構成されている。車上装置10は、パスワード生成装置20で生成されたワンタイムパスワードOTPが入力されることにより、列車Tの出発禁止状態を解除して移動を許可するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の車上装置により該列車が出発禁止状態とされた後に、指令所において前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードが生成され、該ワンタイムパスワードが前記車上装置に入力されることにより、前記列車の出発禁止状態が解除されて移動が許可される、列車制御方法。
【請求項2】
列車に設けられた車上装置と、指令所に設けられたパスワード生成装置と、を含む列車制御システムであって、
前記パスワード生成装置は、前記車上装置により出発禁止状態とされた前記列車から伝えられる出発許可要求を受けて、前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードを生成するように構成されており、
前記車上装置は、前記パスワード生成装置で生成されたワンタイムパスワードが入力されることにより、前記列車の出発禁止状態を解除して移動を許可するように構成されている、列車制御システム。
【請求項3】
前記ワンタイムパスワードは、前記出発許可要求の日時情報と、前記出発許可要求を伝えてきた前記列車に付与された番号情報と、を含んでおり、
前記車上装置は、入力される前記ワンタイムパスワードの前記日時情報及び前記番号情報が自らに該当している場合に、前記列車の出発禁止状態を解除して一定距離の移動を許可するように構成されている、請求項2に記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記ワンタイムパスワードは、前記出発許可要求を伝えてきた前記列車が入線する駅および番線を示す入線情報をさらに含んでおり、
前記車上装置は、入力される前記ワンタイムパスワードの前記日時情報及び前記番号情報が自らに該当している場合に、前記列車の出発禁止状態を解除して一定距離の移動を許可するとともに、当該列車の移動によって地上子から受信した駅及び番線が前記ワンタイムパスワードの前記入線情報と相違する場合に前記列車を停車させるように構成されている、請求項3に記載の列車制御システム。
【請求項5】
前記ワンタイムパスワードは、前記出発許可要求を伝えてきた前記列車の運転方向を示す方向情報をさらに含んでおり、
前記車上装置は、入力される前記ワンタイムパスワードの前記日時情報、前記番号情報及び前記方向情報が自らに該当している場合に、前記列車の出発禁止状態を解除して一定距離の移動を許可するように構成されている、請求項3又は4に記載の列車制御システム。
【請求項6】
前記ワンタイムパスワードは、前記出発許可要求を伝えてきた前記列車の走行可能距離を示す距離情報をさらに含んでおり、
前記車上装置は、入力される前記ワンタイムパスワードの前記距離情報が示す走行可能距離だけ前記列車を移動させるように構成されている、請求項3~5のいずれか1つに記載の列車制御システム。
【請求項7】
前記車上装置は、前記列車を出発禁止状態にしたときに仮パスワードを生成するように構成されており、
前記パスワード生成装置は、前記車上装置で生成された仮パスワードが前記出発許可要求として前記列車から伝えられ、前記仮パスワードに基づいて前記ワンタイムパスワードを生成するように構成されている、請求項2~6のいずれか1つに記載の列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の自動運転を可能にするための列車制御方法及び列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車の自動運転を可能にするための制御技術として、例えば、特許文献1には、走行している列車が先行列車に近づき過ぎないように地上側から制御するATC地上装置を含む駅保安システムと、車両に搭載された自動運転制御機能を有する車上システムと、列車の位置や進路を把握しダイヤに従って走行しているか監視して駅保安システムへ進路情報を出力する運行管理システムとによって構成される列車自動運転システムが開示されている。
【0003】
この列車自動運転システムでは、地上側のATC地上装置及びATO中央装置と、車上側のATC車上装置及びATO車上装置とを利用することにより自動運転制御が実現されている。ATO車上装置には、車両の運転台に設けられているマスタコントローラや自動運転用の出発許可スイッチなどを備えたスイッチ装置からの信号が入力され、スイッチ信号に応じて力行許可判定やATOパターンの生成などの内部処理がATO車上装置により実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-62975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
列車の自動運転は、これまで主に人が容易に線路内に立ち入ることのできない路線を中心に行われてきたが、近年、それ以外の一般的な路線への導入も検討され始めている。しかし、上述のように従来の列車の自動運転は、ATC装置(ATC地上装置及びATC車上装置)とATO装置(ATO中央装置及びATO車上装置)との組み合わせによって実現されているところ、既存の路線の中にはATC装置が設備されていない路線が多数存在する。そのため、列車の自動運転を導入するためには導入対象となる路線にATC装置を設備する必要があり、多大な導入コストがかかる。
【0006】
他方、ATC装置が設備されていない既存の路線には、ATS装置がすでに設備されている場合が多い。ATS装置は、ATC装置と同様に、列車保安装置の一つである。ATS装置では、例えば、列車が地上子を通過した時に、信号機の現示や速度制限、停止位置までの距離などの情報が車両側に伝送され、この情報に基づき車上装置で速度照査パターンが作成されて、列車の速度が照査パターンを超えた場合にブレーキが作動するように列車の制御が行われる。このようなATS装置とATO装置との組み合わせによって列車の自動運転のためのシステムを構築できれば、既存の路線に列車の自動運転を導入する際のコストを従来に比べて大幅に低減することが可能である。
【0007】
既設のATS装置を利用して列車の自動運転のためのシステムを構築する場合、ATO装置の起動(電源投入)直後の出発許可や、非常ブレーキ発生による停車後の再出発許可などを如何にして安全且つ確実に与えるかが1つの課題となる。すなわち、ATS装置を利用した場合、線路上の所定位置に設置された地上子によって車両側に情報を伝える点制御となるため、列車の停止位置が地上子から離れている場合には信号機の現示等の情報が車両側の装置に伝えられない状況が生じる。このような状況下では、列車の運転資格を有する運転士が当該列車の出発許可を判断して、発進操作(出発許可スイッチの操作)を行うことが認められていた。
【0008】
しかしながら、列車の自動運転における自動化レベルが上がると、運転士が乗車することなく列車の運行管理が行われる。具体的に、IEC 62267(JIS E 3802)により定義されている自動化レベル(Grades of Automation:GoA)において、レベル2(GoA2)では、運転士がドアの開閉、発進操作を行い、速度調整およびブレーキ操作が自動で行われる。一方、レベル3(GoA3)では、ドアの開閉、緊急時の避難誘導を行う係員のみが乗務し、列車の発進や停止、加減速などの操作が自動で行われ、運転士が乗車することなく列車の運行が管理される。このため、レベル2よりも進んだ列車の自動運転をATS装置の利用により実現する場合には、運転士以外の乗務員が誤りなく発進操作を行うことができるような仕組みを確立することが求められる。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、既存の路線設備を利用しつつ、列車の発進操作が安全且つ確実に行われる自動運転を実現できる列車制御方法及び列車制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係る列車制御方法の一態様は、列車の車上装置により該列車が出発禁止状態とされた後に、指令所において前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードが生成され、該ワンタイムパスワードが前記車上装置に入力されることにより、前記列車の出発禁止状態が解除されて移動が許可される。
【0011】
また、本発明に係る列車制御システムの一態様は、列車に設けられた車上装置と、指令所に設けられたパスワード生成装置と、を含む列車制御システムであって、前記パスワード生成装置は、前記車上装置により出発禁止状態とされた前記列車から伝えられる出発許可要求を受けて、前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードを生成するように構成されており、前記車上装置は、前記パスワード生成装置で生成されたワンタイムパスワードが入力されることにより、前記列車の出発禁止状態を解除して移動を許可するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既存の路線設備を利用しつつ、列車の発進操作が安全且つ確実に行われる自動運転を実現できる列車制御方法及び列車制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る列車制御システムの概略構成を示す図である。
図2】第1実施形態において出発禁止状態にある列車が指令所からの指示に従って出発許可されるまでの一連の処理手順を示すフローチャートである。
図3図2の処理手順に従い列車と指令所との間で取り交わされる情報の流れを説明する図である。
図4】第1実施形態における有限距離方式の走行制御を説明する概念図であり、(A)はATS情報を受信できた場合を示し、(B)はATS情報を受信できなかった場合を示す。
図5】本発明の第2実施形態において出発禁止状態にある列車が指令所からの指示に従って出発許可されるまでの一連の処理手順を示すフローチャートである。
図6図5の処理手順に従い列車と指令所との間で取り交わされる情報の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る列車制御システムの概略構成を示す図である。
図1において、列車制御システム1は、走行路Rを走行する列車T上に設けられた車上装置10と、指令所Cに設けられたパスワード生成装置20と、を含んで構成されている。また、車上装置10は、自動列車停止(ATS)制御部11、ATS車上子12、速度発電機13、自動列車運転(ATO)制御部14、ATO車上子15、モニタ16、入力部17及び出発要求ボタン18を備えている。なお、列車Tは、あらかじめ定められた走行路を走行する各種の車両のことをいい、レール上を鉄輪で走行する車両(鉄道車両)はもちろん、専用軌道上をゴムタイヤ等で走行する車両をも含む。また、ATS車上子12とATO車上子15とは共用することが可能である。
【0015】
ATS制御部11は、ATS車上子12で受信されたATS情報に基づいて速度照査パターンを作成する。ATS車上子12は、走行路Rの所定位置に設置されたATS地上子30の上方を列車Tが通過する際に当該ATS地上子30が発信するATS情報を受信可能に構成されている。なお、図1にはATS地上子30が1つしか示されていないが、実際には、信号機と連動するATS地上子、及び分岐や曲線などによる速度制限区間に対して設けられたATS地上子を含む複数のATS地上子30が走行路Rの異なる場所に設置されている。ATS地上子30から発信されるATS情報には、信号機の現示や速度制限、停止位置までの距離などの情報が含まれている。ATS制御部11は、作成した速度照査パターンをATS情報と伴にATO制御部14に与えることが可能である。
【0016】
また、ATS制御部11は、列車Tの走行中、速度発電機13の出力信号に基づいて、列車Tの速度(km/h)及び列車Tの走行距離(走行路Rにおける列車Tの位置)を検出するように構成されている。速度発電機13は、列車Tの車軸に取り付けられており、車軸の回転数に応じた信号をATS制御部11及びATO制御部14に出力する。ATS制御部11は、列車Tの速度が速度照査パターンを超えた場合に、列車Tの非常ブレーキ(常用最大ブレーキが非常ブレーキとして機能する場合には常用最大ブレーキを含む)を作動させるように構成されている。
【0017】
ATO制御部14は、各駅間の運転パターンを生成するとともに、列車Tを定位置に停止させるための定位置停止パターンを生成する。各駅間の運転パターンは、例えば、図示しない車上データベースに保存されているデータを参照して生成される、又はATS制御部11から与えられるATS情報及び速度照査パターンに応じて生成される。ただし、運転パターンの生成方法は上記の例に限定されるものではない。定位置停止パターンは、例えば、ATO車上子15で受信されたATO情報と速度発電機13の出力信号を基に検出した速度情報とに応じて生成される。なお、ATO車上子15がATS車上子12と共用されている場合には、ATS車上子12で受信されたATO情報がATS制御部11を介してATO制御部14に伝えられるものとする。そして、ATO制御部14は、各駅間の運転パターン及び定位置停止パターンに従って、列車Tの出発から停車までの一連の運転操作を、列車Tの乗務員の操作に基づき又は自動的に行うように構成されている。
【0018】
ATO車上子15は、走行路Rの所定位置に設置されたATO地上子31の上方を列車Tが通過する際に当該ATO地上子31が発信するATO情報を受信可能に構成されている。なお、ATS地上子30と同様、図1にはATO地上子31が1つしか示されていないが、実際には、複数のATO地上子31が列車Tから見て各駅の手前に設置されている。ATO地上子31から発信されるATO情報には、ATO地上子31の設置位置から対応する駅における列車Tの目標停止位置までの距離などの情報が含まれている。
【0019】
ATO制御部14による列車Tの自動運転は、上述した自動化レベル(GoA)におけるGoA2よりも上のレベルである。本実施形態におけるATO制御部14は、例えば、列車Tの発進や停止、加減速などの操作が自動で制御され、列車Tの先頭に乗務する運転士以外の係員(乗務員)により、ドアの開閉、緊急時の停止操作及び避難誘導が行われる、緊急停止操作係員付き自動運転(いわゆるGoA2.5)に対応している。
【0020】
ATO制御部14には、モニタ16が接続されており、列車Tの自動運転制御に関する各種情報がモニタ16に表示される。列車Tの乗務員は、モニタ16の表示情報を基に列車Tの運転状態を把握し、ATO制御部14に接続された入力部17及び出発要求ボタン18等を操作して、自動運転に必要な情報をATO制御部14に与える。
【0021】
モニタ16、入力部17及び出発要求ボタン18は、列車Tの運転台などに設置されている。入力部17は、後述するワンタイムパスワードOTPの形態に対応させて、例えば、キーボード、バーコードスキャナー、カメラ、RFIDリーダーなどにより構成することが可能である。ただし、入力部17はこれらに限定されるものではない。出発要求ボタン18は、入力部17に入力されたワンタイムパスワードOTPがATO制御部14により認証されたことを受けて列車Tの乗務員により押下される。この出発要求ボタン18は、上述した従来の列車自動運転システムにおける出発許可スイッチに相当している。出発要求ボタン18が押下されると、列車Tの出発要求を示す信号がATO制御部14に出力されるように構成されている。
【0022】
指令所Cでは、図示しない駅や列車集中制御装置などからの情報に基づいて、列車Tがダイヤ通りに運行されているかが監視され、列車Tの遅れなど事態が発生した際には、ダイヤの乱れを回復させる措置をとるための指令が発出される。指令員は、指令所Cにおいて指令業務を行う職員である。指令所Cには、列車Tの乗務員と直接連絡できる列車無線電話などの無線通信設備Wが備えられている。この無線通信設備Wの1つとして、指令所Cの指令員及び列車Tの乗務員がそれぞれ携行するタブレット端末などのモバイルデータ通信機器を利用してもよい。無線通信設備Wを使用して、出発禁止状態にある列車Tの乗務員から指令所Cに出発許可要求が伝えられたとき、指令所Cの指令員は、当該列車Tの出発可否を判断した上で、パスワード生成装置20を使用してワンタイムパスワードOTPの発行処理を行う。
【0023】
パスワード生成装置20は、指令員が出発を許可した列車Tの識別情報を含むワンタイムパスワードOTPを生成する。パスワード生成装置20は、指令所Cの管下にある全ての列車Tの車上装置10との間で日付及び時刻が同期されている。パスワード生成装置20は、例えば、出発禁止状態にある列車Tの乗務員から指令所Cに出発許可要求が伝えられた日時に関する情報(出発許可要求の日時情報)と、当該列車Tに付与された列車番号や編成番号などの番号情報とを基に、所定のアルゴリズムに従って、一度限り有効となるワンタイムパスワードOTPを生成する。ワンタイムパスワードOTPを生成するためのアルゴリズムは、指令所Cの管下にある全ての列車TのATO制御部14と共有されている。
【0024】
パスワード生成装置20で生成されるワンタイムパスワードOTPは、例えば、アルファベットや数字、記号、マルチバイト文字などを組み合わせた文字列、又は該文字列を1次元コードに変換したバーコード、2次元コードに変換したQRコード(登録商標)、若しくは3次元コードに変換したRFID(Radio-Frequency Identification)などの形態とすることが可能である。ただし、ワンタイムパスワードOTPの形態はこれらに限定されるものではない。パスワード生成装置20により生成されたワンタイムパスワードOTPは、パスワード生成装置20の図示を省略したモニタ等に表示されるか、又は指令員が携行するタブレット端末等にデータ送信される。
【0025】
次に、第1実施形態に係る列車制御システム1の動作について詳しく説明する。
列車制御システム1では、列車Tの車上装置10により該列車Tが出発禁止状態とされた後に、指令所Cにおいて列車Tの識別情報を含むワンタイムパスワードOTPが生成され、該ワンタイムパスワードOTPが列車Tの車上装置10に入力されることにより、列車Tの出発禁止状態が解除されて移動が許可される。以下、この列車Tの出発制御に関する一連の処理の具体的な内容について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0026】
図2は、第1実施形態において出発禁止状態にある列車Tが指令所Cからの指示に従って出発許可されるまでの一連の処理手順を示すフローチャートである。また、図3は、図2の処理手順に従い列車Tと指令所Cとの間で取り交わされる情報の流れを説明する図である。
【0027】
図2及び図3において、ステップS10では、列車Tの車上装置10におけるATO制御部14が列車Tの停止を検知する。このとき、列車Tの停止位置が、走行路R上のATS地上子30(及びATO地上子31)の設置位置から離れている場合、ATS情報(及びATO情報)により示される地上側からの制御情報(信号機の現示や速度制限、停止位置までの距離など)が車上装置10に伝えられない状況が生じる。このような状況下、すなわち、ATO制御部14により、列車Tの停止と地上側の制御情報無しの状況が検知されると、列車Tが出発禁止状態にされる。列車Tの出発禁止状態は、例えば、列車Tの立ち上げ時(車上装置10の起動時)や、非常ブレーキの発生による列車Tの停止時、運転方向(上り/下り)を切り換える折返し時(車上装置10の再起動時)などのように、列車Tが本来停まるべき場所とは異なる位置に停止している場合に発生し得る。
【0028】
そして、ステップS20では、ATO制御部14が、列車Tの出発禁止状態を表示して乗務員に知らせるための表示指令をモニタ16に送る。ATO制御部14からの表示指令は、出発禁止状態が解除されるまで、所定の周期で繰り返してモニタ16に送られる(図3)。続くステップS30では、ATO制御部14からの表示指令を受けて、列車Tが出発禁止状態にあることを示す情報がモニタ16に表示される。これにより、列車Tの乗務員は、列車Tが出発禁止状態にあることを知る。
【0029】
次のステップS40では、列車Tの乗務員が、現在時刻、乗客の乗降の有無、停止位置付近の信号機の現示等を確認して、列車Tが出発可能であるか否かを判断する。乗務員が出発可能と判断した場合、次のステップS50に進む。一方、乗務員が出発不可能と判断した場合には、前述したステップS20に戻って、出発禁止状態の表示が継続されるとともに、乗務員による出発可否の判断が繰り返される。
【0030】
ステップS50では、列車Tの乗務員が、列車Tの出発禁止状態を解除して移動の許可を求める出発許可要求を、無線通信設備Wを使用して指令所Cの指令員に伝える。この際、乗務員は、列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)を指令員に伝える。また、乗務員が指令員に出発許可要求を伝えた日時情報が両者の間で共有される。出発許可要求の日時情報は、無線通信設備Wの通信記録を利用するなどしてATO制御部14に自動的に登録されるか、或いは、乗務員が入力部17を操作してATO制御部14に登録される。
【0031】
続くステップS60では、列車Tの乗務員からの出発許可要求を受けた指令員が、現在時刻、列車Tの番号情報、列車ダイヤ、列車Tの走行に関わる信号機の現示等を確認して、列車Tの出発を許可するか否かを判断する。指令員が出発を許可すると判断した場合、次のステップS70に進む。一方、指令員が出発を許可しないと判断した場合には、前述したステップS20に戻って同様の処理が繰り返し実行される。
【0032】
ステップS70では、指令員がパスワード生成装置20を操作してワンタイムパスワードOTPを生成するための処理を行う。パスワード生成装置20には、列車Tの乗務員からの出発許可要求の日時情報が、無線通信設備Wの通信記録を利用するなどして自動的に与えられるか、或いは、指令員の入力操作により与えられる。パスワード生成装置20では、出発許可要求の日時情報及び列車ダイヤに基づき列車Tの番号情報が自動的に識別される。なお、複数の列車が同じ時間帯に運行されているなどして列車Tの番号情報の自動識別が困難な場合には、指令員に入力操作を求めることで列車Tの番号情報がパスワード生成装置20に与えられる。これにより、パスワード生成装置20では、所定のアルゴリズムに従って、ワンタイムパスワードOTPが生成される。このワンタイムパスワードOTPには、出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)との組み合わせから当該列車Tを特定することが可能な識別情報が含まれている。
【0033】
続くステップS80では、パスワード生成装置20により生成されたワンタイムパスワードOTPが、パスワード生成装置20のモニタ等に表示されるか、又は指令員が携行するタブレット端末等にデータ送信される。そして、次のステップS90では、指令所Cの指令員が、パスワード生成装置20により生成されたワンタイムパスワードOTPを、無線通信設備Wを使用して列車Tの乗務員に連絡する。
【0034】
続くステップS100では、指令所Cの指令員からのワンタイムパスワードOTPの連絡を受けた列車Tの乗務員が、入力部17を操作してワンタイムパスワードOTPを車上装置10に入力する。そして、ステップS110では、車上装置10に入力されたワンタイムパスワードOTPがATO制御部14に伝送される。
【0035】
次のステップS120では、ATO制御部14が、乗務員によって入力されたワンタイムパスワードOTPの認証処理を実行する。このATO制御部14による認証処理は、ワンタイムパスワードOTPに含まれる列車Tの識別情報に基づいて行われる。具体的には、入力されたワンタイムパスワードOTPに含まれている出発許可要求の日時情報が、自らの列車Tの乗務員が指令所Cの指令員に伝えた出発許可要求の日時情報と一致するか否かを判定する。また、これと同時に、入力されたワンタイムパスワードOTPに含まれている列車番号や編成番号などの番号情報が、自らの列車Tの番号情報と一致するか否かを判定する。出発許可要求の日時情報が一致し、且つ、列車Tの番号情報が一致する場合、入力されたワンタイムパスワードOTPが有効なものであると判断し、次のステップS130に進む。一方、出発許可要求の日時情報が一致しないか、又は列車Tの番号情報が一致しない場合には、入力されたワンタイムパスワードOTPが無効なものであると判断し、前述したステップS20に戻って同様の処理が繰り返し実行される。
【0036】
ステップS130では、ATO制御部14が、列車Tの出発が許可されたことをモニタ16に表示して乗務員に知らせるための表示指令をモニタ16に送る。そして、ステップS140では、ATO制御部14からの表示指令を受けて、列車Tの出発許可を示す情報がモニタ16に表示される。これにより、列車Tの乗務員は、指令所Cの指令員からのワンタイムパスワードOTPによって自らの列車Tの出発が正式に許可されたことを確認する。
【0037】
続くステップS150では、列車Tの乗務員が、出発要求ボタン18を押下することにより、列車Tの出発要求を示す信号がATO制御部14に出力される。そして、ステップS160では、ATO制御部14が、有限距離方式により列車Tを走行制御するための制御信号を生成する。有限距離方式の走行制御とは、図4に示すように、列車Tを一定距離Lに限って移動させることができる許可の与えられた走行制御のことである。一定距離Lは、例えば、20mなどに設定することが可能である。ただし、一定距離Lはこの一例に限定されない。
【0038】
具体的に、有限距離方式の走行制御では、まず、ATO制御部14が列車Tの常用ブレーキを解除するか又は非常ブレーキを緩解することにより、列車Tの出発禁止状態が解除される。そして、列車Tの駆動装置(例えば、電動機)を作動させることにより、列車Tが発進して移動を開始する。列車Tの発進後は、有限距離方式に対応した走行パターンP1、すなわち、許可されている一定距離Lを所定速度で走行可能にする走行パターンP1に従って、列車Tの駆動装置及びブレーキが制御される。
【0039】
上記有限距離方式の走行制御において、例えば、図4(A)に示すように、許可されている一定距離Lの移動中に列車TがATS地上子30の上方を通過してATS情報を受信することができれば、有限距離方式の走行制御を終了して所定の自動運転制御に切り換えられる。ここでは、走行路Rの前方に設置されている信号機Sに対応したATS地上子30から発信されるATS情報に基づいて、列車TのATS制御部11で速度照査パターンが作成される。そして、ATO制御部14により、ATS情報に応じて速度照査パターンを超過しない速度で列車Tを走行させるための運転パターンP2が作成され、運転パターンP2に従って列車Tの自動運転制御が行われる。
【0040】
一方、図4(B)に示すように、許可されている一定距離Lの移動中にATS情報を受信できなかった場合には、ATO制御部14により走行パターンP1に従って列車Tが停止される。これにより、列車Tは、再び出発禁止状態となって自動運転制御を実施できない状態になる。
【0041】
以上説明したように第1実施形態に係る列車制御システム1は、列車Tに設けられた車上装置10と、指令所Cに設けられたパスワード生成装置20と、を含み、パスワード生成装置20は、車上装置10により出発禁止状態とされた列車Tから伝えられる出発許可要求を受けて、列車Tの識別情報を含むワンタイムパスワードOTPを生成するように構成されており、車上装置10は、パスワード生成装置20で生成されたワンタイムパスワードOTPが入力されることにより、列車Tの出発禁止状態を解除して移動を許可するように構成されている。
【0042】
このような第1実施形態に係る列車制御システム1によれば、指令所Cの指令員から伝えられるワンタイムパスワードOTPに従って、列車Tに乗車している運転士以外の乗務員により誤りなく発進操作を行うことが可能になる。すなわち、一度限り有効となるワンタイムパスワードOTPによって指令所Cからの出発許可が指示されることにより、列車Tの乗務員によるパスワードの使い回しなどを防止することができる。また、ワンタイムパスワードOTPが列車Tの識別情報を含んでいるので、自らの列車Tに該当する有効なワンタイムパスワードOTPの入力時にのみ出発許可を与えることができる。
【0043】
したがって、第1実施形態に係る列車制御システム1は、既存の路線に設けられているATS装置(ATS制御部11、ATS車上子12、ATS地上子30)を利用しつつ、運転士以外の乗務員による列車Tの発進操作を安全且つ確実に行うことが可能な自動運転を実現することができる。また、列車Tの乗務員と指令所Cの指令員との間の連絡に使用される無線通信設備Wについても、既存の列車無線電話やモバイルデータ通信機器などの無線通信設備を利用することができるので、列車T及び指令所Cの間に新たな通信設備を追加するなどの措置が不要である。このため、既存のATS装置及び無線通信設備の利用により、従来と比べて列車の自動運転の導入コストを大幅に削減することができる。
【0044】
さらに、第1実施形態に係る列車制御システム1において、ワンタイムパスワードOTPは、出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報とを含んでおり、車上装置10のATO制御部14は、入力部17されるワンタイムパスワードOTPの日時情報及び番号情報が自らに該当している場合に、列車Tの出発禁止状態を解除して一定距離Lの移動を許可する有限距離方式の走行制御を行う。これにより、指令所Cの指令員が出発許可を与えるべき列車Tとは違う他の列車の乗務員に誤ってワンタイムパスワードOTPを連絡してしまったとしても、他の列車に出発許可が与えられることはないため、指令所Cからの出発許可をより確実に車上装置10へ与えることができる。また、出発許可が与えられた列車Tに対して有限距離方式の走行制御が行われることで、発進後からATS情報を受信するまでの間の列車運行の安全性を高めることができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る列車制御システムについて説明する。
上述した第1実施形態に係る列車制御システム1では、列車Tの乗務員から指令所Cの指令員に出発許可要求が伝えられることにより、該出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報とを含んだワンタイムパスワードOTPが生成される一例について説明した。一方、第2実施形態では、車上装置10のATO制御部14により生成される仮パスワードが出発許可要求として乗務員から指令員に伝えられ、該仮パスワードがパスワード生成装置20に入力されることで、仮パスワードを基にワンタイムパスワードOTPが生成される。なお、第2実施形態に係る列車制御システムの概略構成は、図1に示した第1実施形態に係る列車制御システム1と同一であるため、ここでの図示を省略する。以下、第2実施形態に係る列車制御システムの動作について詳しく説明する。
【0046】
図5は、第2実施形態において出発禁止状態にある列車Tが指令所Cからの指示に従って出発許可されるまでの一連の処理手順を示すフローチャートである。また、図6は、図5の処理手順に従い列車Tと指令所Cとの間で取り交わされる情報の流れを説明する図である。
【0047】
図5及び図6において、ステップS210では、上述した第1実施形態の場合のステップS10と同様にして、ATO制御部14が、列車Tの停止と地上側の制御情報無しの状況を検知する。そして、ステップS220では、ATO制御部14が仮パスワードを生成し記憶する。この仮パスワードは、列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)を含むようにするのがよい。
【0048】
次のステップS230では、ATO制御部14が、列車Tの出発禁止状態と仮パスワードとを表示して乗務員に知らせるための表示指令をモニタ16に送る。ATO制御部14からの表示指令は、出発禁止状態が解除されるまで、所定の周期で繰り返してモニタ16に送られる(図6)。続くステップS240では、ATO制御部14からの表示指令を受けて、列車Tが出発禁止状態にあることを示す情報と、ATO制御部14で生成された仮パスワードとがモニタ16に表示される。これにより、列車Tの乗務員は、列車Tが出発禁止状態にあることを知るとともに、指令所Cに出発許可を要求する際に使用する仮パスワードを確認する。
【0049】
そして、ステップS250では、上述した第1実施形態の場合のステップS40と同様にして、列車Tの乗務員により、列車Tが出発可能であるか否かの判断が行われる。乗務員が出発可能と判断した場合、次のステップS260に進む。一方、乗務員が出発不可能と判断した場合には、前述したステップS230に戻って、出発禁止状態及び仮パスワードの表示が継続されるとともに、乗務員による出発可否の判断が繰り返される。
【0050】
ステップS260では、列車Tの乗務員が、無線通信設備Wを使用して指令所Cの指令員に仮パスワードを伝える。続くステップS270では、列車Tの乗務員からの仮パスワードの連絡を受けた指令員が、上述した第1実施形態の場合のステップS60と同様にして、列車Tの出発を許可するか否かを判断する。指令員が出発を許可すると判断した場合、次のステップS280に進む。一方、指令員が出発を許可しないと判断した場合には、前述したステップS230に戻って同様の処理が繰り返し実行される。
【0051】
ステップS280では、指令員が、列車Tの乗務員から伝えられた仮パスワードをパスワード生成装置20に入力してワンタイムパスワードOTPを生成するための処理を行う。パスワード生成装置20では、入力された仮パスワードに基づき、所定のアルゴリズムに従って、ワンタイムパスワードOTPが生成される。このワンタイムパスワードOTPには、仮パスワードから当該列車Tを特定することが可能な識別情報が含まれている。
【0052】
続くステップS290~ステップS320では、上述した第1実施形態の場合のステップS80~ステップS110と同様にして、パスワード生成装置20により生成されたワンタイムパスワードOTPの表示等と、指令員から列車Tの乗務員へのワンタイムパスワードOTPの連絡と、乗務員による車上装置10へのワンタイムパスワードOTPの入力と、ATO制御部14へのワンタイムパスワードOTPの伝送とが順次行われる。
【0053】
そして、ステップS330では、ATO制御部14が、乗務員によって入力されたワンタイムパスワードOTPの認証処理を実行する。このATO制御部14による認証処理は、ワンタイムパスワードOTPに含まれる列車Tの識別情報に基づいて実行される。具体的には、入力されたワンタイムパスワードOTPに含まれている仮パスワードに関する情報が、自らが生成して記憶している仮パスワードと一致するか否かを判定する。仮パスワードが一致する場合、入力されたワンタイムパスワードOTPが有効なものであると判断し、次のステップS340に進む。一方、仮パスワードが一致しない場合には、入力されたワンタイムパスワードOTPが無効なものであると判断し、前述したステップS230に戻って同様の処理が繰り返し実行される。
【0054】
ステップS340~ステップS370では、上述した第1実施形態の場合のステップS130~ステップS160と同様にして、ATO制御部14からモニタ16への出発許可表示指令と、モニタ16の出発許可表示と、乗務員による出発要求ボタン18の押下と、ATO制御部14による有限距離方式の走行制御とが順次行われる。
【0055】
上記のように第2実施形態に係る列車制御システム1によれば、ATO制御部14で生成された仮パスワードに基づきワンタイムパスワードOTPが生成されるようにしたことで、列車Tの乗務員が指令員に出発許可を要求する際の情報伝達を容易且つ確実に行うことができるとともに、車上装置10のATO制御部14でのワンタイムパスワードOTPの認証処理を迅速且つ正確に行うことができる。これにより、乗務員による列車Tの発進操作をより安全且つ確実に行うことが可能になる。
【0056】
なお、上述した第2実施形態では、仮パスワードに基づきワンタイムパスワードOTPを生成する一例を示したが、いわゆる二段階認証システムを応用してワンタイムパスワードOTPの生成を行うことも可能である。また、上述した第1及び第2実施形態では、パスワード生成装置20で生成されるワンタイムパスワードOTPが、出発許可要求の日時情報と列車の番号情報(列車番号や編成番号など)とを含む、或いは、これらの情報に代わる仮パスワードを含む例について説明したが、上記情報以外にも各種情報をワンタイムパスワードOTPに追加することにより様々な機能を付加することが可能である。以下、ワンタイムパスワードOTPの追加情報に関する応用例について説明する。
【0057】
[第1応用例]
第1応用例では、出発許可要求を伝えてきた列車Tが入線する駅および番線を示す入線情報が、ワンタイムパスワードOTPに追加されている。つまり、パスワード生成装置20で生成されるワンタイムパスワードOTPは、出発許可要求の日時情報と、列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)と、列車Tの入線情報(駅および番線)を含んでいる。
【0058】
このようなワンタイムパスワードOTPが指令員から列車Tの乗務員に連絡され、車上装置10の入力部17を介してATO制御部14に伝えられると、ATO制御部14は、ワンタイムパスワードOTPに含まれている出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報とが自らに該当している場合に、列車Tの出発禁止状態を解除して一定距離Lの移動を許可する有限距離方式の走行制御を行う。
【0059】
そして、列車Tの移動によってATS地上子30又はATO地上子31の上方を通過し、列車Tが次に入線する駅及び番線の情報が受信されると、ATO制御部14は、受信情報が示す駅及び番線とワンタイムパスワードOTPに含まれている入線情報が示す駅及び番線とが一致しているか否かを判定する。双方が示す駅及び番線が一致している場合には、有限距離方式の走行制御を終了して所定の自動運転制御に切り換えられる。一方、双方が示す駅及び番線が相違している場合には、列車Tを停車させる制御が行われる。これにより、列車Tの発進操作を更に安全且つ確実に行うことが可能な自動運転を実現することができる。
【0060】
[第2応用例]
第2応用例では、出発許可要求を伝えてきた列車Tの運転方向(上り/下り)を示す方向情報が、ワンタイムパスワードOTPに追加されている。つまり、パスワード生成装置20で生成されるワンタイムパスワードOTPは、出発許可要求の日時情報と、列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)及び方向情報(上り/下り)とを含んでいる。
【0061】
このようなワンタイムパスワードOTPが指令員から列車Tの乗務員に連絡され、車上装置10の入力部17を介してATO制御部14に伝えられると、ATO制御部14は、ワンタイムパスワードOTPに含まれている出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報及び方向情報とが自らに該当している場合に、列車Tの出発禁止状態を解除して一定距離Lの移動を許可する有限距離方式の走行制御を行う。列車Tの運転方向(上り/下り)も含めてワンタイムパスワードOTPの有効性が判断されることにより、折返し時に出発禁止状態となった列車Tに対して指令所Cからの出発許可をより確実に与えることができる。
【0062】
[第3応用例]
第3応用例では、出発許可要求を伝えてきた列車Tの走行可能距離を示す距離情報が、ワンタイムパスワードOTPに追加されている。つまり、パスワード生成装置20で生成されるワンタイムパスワードOTPは、出発許可要求の日時情報と、列車Tの番号情報(列車番号や編成番号など)と、列車Tの距離情報(走行可能距離)とを含んでいる。
【0063】
このようなワンタイムパスワードOTPが指令員から列車Tの乗務員に連絡され、車上装置10の入力部17を介してATO制御部14に伝えられると、ATO制御部14は、ワンタイムパスワードOTPに含まれている出発許可要求の日時情報と列車Tの番号情報とが自らに該当している場合に、列車Tの出発禁止状態を解除する。そして、ATO制御部14は、ワンタイムパスワードOTPに含まれている距離情報が示す走行可能距離だけ列車Tの移動を許可する有限距離方式の走行制御を行う。つまり、第1実施形態で説明した有限距離方式の走行制御における一定距離L(図4)が、ワンタイムパスワードOTPを介した指令所Cからの指示により変更可能にされている。
【0064】
有限距離方式の走行制御における走行可能距離が可変になると、例えば、踏切の異常発生により非常ブレーキが作動して、該踏切の手前で列車Tが停止して出発禁止状態となった場合に、指令員の判断により、当該踏切の直前まで列車Tを走行可能にするような距離情報を含むワンタイムパスワードOTPを生成することが可能になる。このワンタイムパスワードOTPの距離情報に従ってATO制御部14により走行制御が行われることで、出発許可が与えられた列車Tは、異常が発生した踏切の直前まで移動して再度停止し、出発禁止状態となる。そして、列車Tの乗務員が当該踏切の安全を確認した後にあらためて出発許可要求を指令員に伝えることで、所定の自動運転制御に戻すためのワンタイムパスワードOTPが生成される。このような列車制御が実施されることによって、列車Tの発進操作をより一層安全且つ確実に行うことが可能な自動運転を実現することができる。
【0065】
なお、上記のような第1~第3応用例のうちのいずれか2つの組み合わせ、又はすべての組み合わせも可能である。
以上、本発明の実施形態及び応用例について説明したが、本発明は、上述の実施形態及び応用例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0066】
1…列車制御システム、10…車上装置、11…自動列車停止(ATS)制御部、12…ATS車上子、13…速度発電機、14…自動列車運転(ATO)制御部、15…ATO車上子、16…モニタ、17…入力部、18…出発要求ボタン、20…パスワード生成装置、30…ATS地上子、31…ATO地上子、C…指令所、L…一定距離、OTP…ワンタイムパスワード、P1…走行パターン、P2…運転パターン、R…走行路、S…信号機、T…列車、W…無線通信設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
列車の車上装置により該列車が出発禁止状態とされた後に、指令所において、前記列車から伝えられる出発許可要求を受けると、前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードが生成され、該ワンタイムパスワードが前記車上装置に入力されることにより、前記列車の出発禁止状態が解除されて移動が許可される、列車制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係る列車制御方法の一態様は、列車の車上装置により該列車が出発禁止状態とされた後に、指令所において、前記列車から伝えられる出発許可要求を受けると、前記列車の識別情報を含むワンタイムパスワードが生成され、該ワンタイムパスワードが前記車上装置に入力されることにより、前記列車の出発禁止状態が解除されて移動が許可される。