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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099548
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20220628BHJP
【FI】
A47J27/00 109E
A47J27/00 103Z
A47J27/00 103N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213366
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萱森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 卓也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA02
4B055BA51
4B055BA62
4B055BA80
4B055CA69
4B055CD02
4B055CD22
4B055CD51
4B055CD63
4B055GA01
4B055GA06
4B055GB08
4B055GC33
4B055GD03
4B055GD05
(57)【要約】
【課題】被炊飯物の水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進可能な炊飯器を提供する。
【解決手段】本発明の炊飯器1は、被調理物Sとして、米と水を内部に収容する鍋5と、鍋5の上方開口部を覆う内蓋22と、被調理物Sの水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進させ、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間から外へ放出する減圧手段28と、を備える構成としている。そのため、揮発性臭気成分を脱気させるための専用の装置を追加せず、また炊飯行程や保温行程、予約炊飯行程に、浄化や脱臭などの他の行程を追加せずに、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋と、
前記鍋の上方開口部を覆う内蓋と、
前記水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進させ、前記鍋と前記内蓋とで囲まれた鍋内空間から外へ放出する脱気手段と、を備えることを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記脱気手段は、前記鍋内空間を減圧する減圧手段であり、
前記減圧手段が、前記鍋内空間内の空気を外へ排出する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記鍋を加熱する加熱手段をさらに備え、
前記加熱手段が前記鍋を所定温度に加熱し、さらに前記減圧手段が、前記鍋内空間内の空気を外へ排出する構成としたことを特徴とする請求項2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記鍋を加熱する加熱手段と、
前記脱気手段および前記加熱手段を制御する制御手段と、をさらに備え、
前記制御手段はタイマー機能を有し、炊き上がり時刻を設定してタイマー動作を開始させると、設定された前記炊き上がり時刻にご飯が炊き上がるように、前記炊き上がり時刻の所定時間前に前記加熱手段を動作させるように制御し、
前記制御手段は、前記タイマー動作を開始させてから前記炊き上がり時刻の所定時間前まで前記脱気手段を動作させるように制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項5】
前記制御手段は、前記タイマー動作を開始させてから設定された前記炊き上がり時刻までの計時動作時間により、前記脱気手段の制御を変更することを特徴とする請求項4に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記被炊飯物または前記鍋の温度を検出する温度検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度により前記脱気手段の制御を変更することを特徴とする請求項4または5に記載の炊飯器。
【請求項7】
前記タイマー動作を開始させてから設定された前記炊き上がり時刻までの計時動作時間を14時間以上に設定可能とすることを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項8】
前記被炊飯物または前記鍋の温度を検出する温度検知手段と、
前記タイマー動作を開始させてから前記炊き上がり時刻の所定時間前まで前記被炊飯物または前記鍋の温度を表示する表示手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項4~7のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項9】
情報端末と通信可能な送受信部をさらに備え、
前記送受信部により、前記温度検知手段が検出する温度や前記タイマー動作を開始させてから設定された前記炊き上がり時刻までの計時動作時間の情報を前記情報端末に送信し、
前記情報端末から前記脱気手段を動作可能にする構成としたことを特徴とする請求項4~8のいずれか1項に記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被調理物として米と水を使用してご飯を炊飯する炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炊飯器では主に水道水を使用してご飯を炊飯しているが、水道水は次亜塩素酸ナトリウムなどで、塩素消毒、消臭、漂白を行なっている。図14を参照して説明すると、水道法第22条では衛生確保のため塩素消毒を行うことが定められ、残留塩素濃度は水道法施行規則第17条第3項において厳密に定められて、水質管理上留意すべき項目として、上限の目標値を1mg/L以下に設定している。また地域や季節により残留塩素濃度が変化する。水道水は塩素で雑菌や細菌の増殖を防止管理された水で安全である一方で、残留塩素が多いと塩素臭が強くなる。塩素臭が気になるユーザは健康志向や味の好みなどから、被炊飯物Sの水として、例えば開封後のミネラルウォーターや備蓄用などの市販飲料水、また浄水して塩素分を除去した水などを好んで使用することがあるが、このような水は上述の塩素を含んだ水道水よりも早く腐敗する。
【0003】
本願出願人は、この問題に対して、例えばひたしなどの炊飯待機時や、炊飯完了後の保温行程で、例えば保温が安定するまでの一定時間を経過すると、鍋内を所定圧よりも低くする炊飯器を提案している(引用文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-209481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1の炊飯器は、雑菌の増殖による鍋内の被炊飯物の腐敗を抑制できる一方で、被調理物で使用する水の水質について改善されていなかった。水の改善に関しては、炊飯器とは別に、専用の機械や部品で浄化や脱臭を行なう方法が知られているが、製品の大型化や構造の複雑化をまねき、炊飯器としての使い勝手が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、被炊飯物の水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進可能な炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炊飯器は、上記目的を達成するために、被炊飯物として米と水を内部に収容する鍋と、前記鍋の上方開口部を覆う内蓋と、前記水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進させ、前記鍋と前記内蓋とで囲まれた鍋内空間から外へ放出する脱気手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炊飯器によれば、被炊飯物の水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態における炊飯器の縦断面図である。
図2】同上、電気的構成を示すブロック図である。
図3】同上、操作パネルの上面図である。
図4】同上、鍋の内部の圧力と気体分子との関係を示す模式図である。
図5】同上、炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサの検知温度と、蓋温度センサの検知温度と、加熱手段の出力との推移をあらわしたグラフである。
図6】同上、炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサの検知温度と、鍋内の圧力と、減圧ポンプの駆動、真空保持用電磁弁の駆動、および圧力の調圧弁を開閉させるソレノイドの駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
図7】同上、水温および経過時間により、鍋5内の被炊飯物Sの水のpH値および臭いがどのように変化するかの推移の一例をあらわした表である。
図8】同上、図1における加熱手段および温度検知手段の場所を示した概略図である。
図9】本発明の第1の実施形態の変形例における炊飯器の操作パネルの上面図である。
図10】本発明の第1の実施形態のさらなる変形例における炊飯器の、炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサの検知温度と、鍋内の圧力と、減圧ポンプの駆動、真空保持用電磁弁の駆動、および圧力の調圧弁を開閉させるソレノイドの駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
図11】本発明の第1の実施形態のさらなる変形例における炊飯器の、鍋の内部の圧力と気体分子との関係の移り変わりを示す模式図である。
図12】同上、炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサの検知温度と、鍋内の圧力と、減圧ポンプの駆動、真空保持用電磁弁の駆動、および圧力の調圧弁を開閉させるソレノイドの駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
図13】本発明の第2の実施形態における炊飯器の電気的構成を示すブロック図である。
図14】水と塩素濃度との関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明における炊飯器の各実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
【実施例0011】
図1図8は、本発明の炊飯器の第1の実施形態を示している。炊飯器全体の構成を図1に基づいて説明すると、1は炊飯器であり、上方から見て前面と後面、左側面と右側面が対向する略矩形状をなし、上面が開口された炊飯器1の本体2と、本体2の上面開口部を開閉自在に覆う蓋体3とにより全体が構成される。本体2は上面を開口した鍋収容部4を有し、蓋体3を開けたときに、被調理物Sである水や米を収容する容器としての有底状の鍋5が、その鍋収容部4に着脱自在に収容される構成となっている。鍋収容部4は、椀状で樹脂製の内枠6や、金属製の内枠リング7などを組み合わせて構成され、全体が有底筒状に形成される。
【0012】
鍋5は、熱伝導性の良いアルミニウムを主材8とし、フェライト系ステンレスなどの磁性金属板からなる発熱体9が、主材8の外面の側部下部から底部にかけて接合してある。鍋5の外側面に対向する内枠リング7の外面には、加熱手段の一例としてコードヒータを用いた胴ヒータ11を備えている。また、鍋5の側面下部から底面に対向する内枠6の外面には、鍋5の発熱体9を電磁誘導加熱する加熱手段として、加熱コイル12を備えている。
【0013】
内枠6の底部中央部には、鍋温度検出手段としての鍋温度センサ14が、鍋5の外面底部と弾発的に接触するように配設される。鍋温度センサ14は、鍋5の温度を検知して加熱コイル12による鍋5の底部の加熱温度を主に温度管理する構成となっている。なお本実施形態の鍋温度センサ14は温度検知用のサーミスタを採用しているが、赤外線温度センサを採用して鍋5と非接触にするように構成してもよい。
【0014】
蓋体3の前方上面には、蓋開ボタン15が露出状態で配設されており、この蓋開ボタン15を押すと、本体2と蓋体3との係合が解除され、本体2の上部後方に設けたヒンジバネ(図示せず)により、ヒンジ軸16を回転中心として蓋体3が自動的に開く構成となっている。また、蓋体3の後方上面には、鍋5内の被調理物から発生する蒸気を炊飯器1の外部に排出する蒸気口ユニット17が着脱可能に装着される。
【0015】
蓋体3の上面には、蓋開ボタン15や蒸気口ユニット17の他にも、炊飯器1の表示操作ユニットとなる操作パネル20などが配設されている。操作パネル20は、調理に関わる様々な情報を表示する表示部18と、炊飯を開始させたり、時間や炊飯コ-スなどを選択させたりするための操作部19とを備えており、これらの下面には、操作パネル20の制御手段である表示・操作制御手段46を備えた制御PC(Printed Circuit:印刷回路)板47が配置される。制御PC板47はパターン形成された導電回路部を有し、この制御PC板47に操作や表示に関わる制御用IC等を実装することで、後述する加熱制御手段40と連携した表示・操作制御手段46が構成される。
【0016】
蓋体3の下側には、蓋体3の下部部材としての内蓋組立体21が配設される。内蓋組立体21は、鍋5の上方開口部と略同径の円盤状を有する金属材料からなり、鍋5の上方開口部を覆う内蓋22と、この内蓋22と鍋5との間をシールするために、内蓋22の外側全周に設けられる弾性部材としての蓋パッキン23と、鍋5の内圧力を調整する調圧部24とを備えている。環状に形成された蓋パッキン23は、図1に示されるように蓋体3を閉じた蓋閉時に、鍋5の開口部である上面に当接して、この鍋5と内蓋22との間の隙間を塞ぎ、鍋5から発生する蒸気を密閉するものである。そのため鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間内には、被調理物Sと、被調理物Sの上方に存在する空気Aとが収容される。
【0017】
蓋体3の内部には、内蓋22を加熱する蓋加熱手段としての蓋ヒータ33と、この蓋ヒータ33による内蓋22の温度管理を行なうためのサーミスタ式の蓋温度センサ34と、炊飯器1の周囲の環境温度を検出する機外温度センサ35(図8参照)と、がそれぞれ設けられる。また、鍋5内で発生した蒸気を外部へ放出する通路として、蒸気口ユニット17と調圧部24とを連通する蒸気排出経路25が形成される。調圧部24には、鍋5の内部と蒸気口ユニット17との間の蒸気排出経路25を開閉する調圧弁26が設けられる。調圧弁26はボール状で、蓋体3の内部に設けたソレノイド27と連動し、鍋5内の蒸気を外部へ放出する場合には蒸気排出経路25を開放し、鍋5内を加圧または減圧状態にする場合には蒸気排出経路25を閉塞するように、ソレノイド27が調圧弁26を転動させる。そして加圧時には、加熱コイル12への高周波通電により鍋5内の被炊飯物が加熱され、鍋5の内圧が所定値に達すると、調圧弁26の自重に抗して蒸気排出経路25を開放することで、鍋5内の圧力を大気圧以上に維持する構成となっている。
【0018】
28は、蓋3を本体2に閉じた状態で、鍋5の内部を通常の大気圧よりも低くするための減圧手段である。減圧手段28は、動作源となる減圧ポンプ29と、減圧ポンプ29と鍋5の内部との間を連通する経路を開閉する図示しない真空保持用電磁弁30と、を有し、鍋5を鍋収容体4に収容し、蓋3を閉じた後にソレノイド27を通電して、調圧弁26が蒸気排出経路25を塞いだ状態で、密閉した鍋5の内部圧力を低下させる。また、鍋5内部の圧力が大気圧よりも一定値下がった場合には、減圧手段28の動作源となる減圧ポンプ29の動作を停止し、鍋5内部を減圧状態に保っている。さらに、鍋5内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す場合には、減圧ポンプ29の動作を停止し、真空保持用電磁弁30の駆動も停止させて、上述した経路を開放する。つまり減圧手段28は、鍋5内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す圧力戻し手段としての構成を兼用している。
【0019】
その他、本体2の内部には、加熱制御手段40を含むユニット化された加熱基板組立41が配設される。加熱制御手段40は、表示・操作制御手段46と組み合わせて炊飯器1の各部を電気的に制御するために、制御用IC42や記憶手段51(図2参照)などを備えたマイクロコンピュータ(マイコン)などを含んで構成され、ここでは鍋温度センサ14や蓋温度センサ34からの各温度検知信号と、操作部19からの操作信号とを受けて、炊飯時および保温時に鍋5を加熱する胴ヒータ11や加熱コイル12と、蓋体3を加熱する蓋ヒータ22を各々制御すると共に、ソレノイド27と、減圧ポンプ29の動作を各々制御する。特に加熱制御手段40は、鍋温度センサ14の検知温度に基いて主に加熱コイル12を制御して鍋5の底部を温度管理し、蓋温度センサ34の検知温度に基いて主に蓋ヒータ22を制御して、被炊飯物に対向する内蓋24を温度管理するようになっている。
【0020】
次に、加熱制御手段40および表示・操作制御手段46の制御系統について、図2を参照しながら説明する。同図において、本体2に装備される加熱制御手段40は、マイクロコンピュータを構成する制御用IC42や記憶手段51などを備え、鍋温度センサ14や蓋温度センサ34や機外温度センサ35からの各温度検知信号と、表示・操作制御手段46からの制御信号を受けて、炊飯時および保温時に鍋5を加熱する胴ヒータ11や加熱コイル12と、内蓋24を加熱する蓋ヒータ33を各々制御すると共に、前述した調圧弁26を動かすソレノイド27や、減圧手段28の動作を各々制御するものである。特に加熱制御手段40は、鍋温度センサ14の検知温度に基いて主に加熱コイル12を制御して鍋5の底部を温度管理し、蓋センサ34の検知温度に基いて主に蓋ヒータ22を制御して、内蓋24を温度管理する。これらの加熱コイル12や蓋ヒータ22と、前述した胴ヒータ11は、鍋5に入れた被調理物を加熱する加熱手段52に相当する。
【0021】
加熱制御手段40は、記憶手段51から読み出したプログラムの制御シーケンス上の機能として、炊飯制御手段53、保温制御手段54および予約炊飯手段55を制御用IC42にそれぞれ備えている。炊飯制御手段53は、操作部19の、例えば炊飯キーからの炊飯開始の指示を受けて、鍋5に投入した米の吸水を促進させるひたし行程と、被炊飯物の温度を短時間に沸騰まで上昇させる昇温行程および被炊飯物の沸騰状態を継続させる沸騰継続行程を合わせた沸騰加熱行程と、ご飯を焦がさない程度の高温に維持するむらし行程の各行程を順に実行して、鍋5内部の被炊飯物に対して所望の圧力で炊飯加熱するものである。また保温制御手段54は、鍋5内部のご飯を所定の保温温度に保つように制御するものである。そして予約炊飯手段55は、タイマー機能を備え、炊き上がり時刻(炊飯終了時刻)を設定してタイマー動作を開始させると、設定された炊き上がり時刻にご飯が炊き上がるように、炊き上がり時刻の所定時間前になると、炊飯制御手段53により炊飯を自動的に開始させ、炊き上がり時刻には保温制御手段54による保温を開始するように制御するものである。
【0022】
一方、表示・操作制御手段46は、マイクロコンピュータを構成する制御用IC48や記憶手段57、図示しない計時手段などを備え、操作部19からの操作信号や加熱制御手段40からの制御信号を受けて表示部18の表示動作を制御し、また加熱制御手段40に制御信号を送信するものである。この表示・操作制御手段46は、記憶手段57に記憶されたプログラムの制御シーケンス上の機能として、操作部19からの操作信号に基づき、各種の制御信号を生成する操作部制御手段58と、表示部18の表示動作を制御する表示動作制御手段59と、操作部制御手段58や表示動作制御手段59と連携して、操作部43で選択できる条件の選択および設定、例えば複数の調理コースや炊飯コースの中から所望の調理コースや炊飯コースの選択および設定、を可能にする条件設定手段60と、を備えている。
【0023】
図3は本実施形態の炊飯器1の要部の上面図である。蓋体3の上面には操作パネル20が配設されており、操作パネル20の表示部18であるLCD72において、時計用表示要素81-1、炊上り予約用表示要素81-2、「白米」の表示要素81-3および「中硬水」の表示要素81-8が選択されて示されており、現在の時刻が「18:00」であり、炊上がり予定時刻が「13:00」の状態であることが示されている。この図3を参照して説明すると、操作部19は、操作パネル20の右側部分に並んで配置される予約キー63と、進むキー64と、戻るキー65と、炊飯キー66と、保温キー67と、切キー67に加えて、操作パネル20の下側部分に並んで配置される水硬度キー68と、メニューキー69と、LCD72の上面に配設されるタッチセンサ71とで構成される。ここで、63~69の各キーはユーザのタッチ操作では操作できず、押動することにより操作可能なタクトスイッチなどの押動型操作手段として機能し、タッチセンサ71は制御PC板47に接続されることで、ユーザのタッチ操作で操作可能なタッチキーなどの非押動型操作手段として機能する。
【0024】
切キー67は、炊飯や保温をやめる際に操作されるもので、切キー67が押圧されると、操作部制御手段58が切キー67からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、炊飯制御手段53が本体1内の被調理物に対する加熱を中止して切状態にする制御を行なう。
【0025】
炊飯キー66は炊飯を開始する際に操作されるもので、炊飯キー66が押圧されると、操作部制御手段58が炊飯キー67からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、炊飯制御手段53が本体1内の被調理物に対する炊飯開始の制御をする構成となっている。
【0026】
予約キー63は予約炊飯を行なう際に操作されるもので、予約キー63を押圧し、予約時刻や炊飯コース、鍋5に入れる水の硬度を設定した後に、炊飯キー66を押圧すると、操作部制御手段58が炊飯キー62からの操作信号を受け付けて加熱制御手段40に送出し、予約炊飯手段55が予め設定した予約時刻に本体1内の被調理物が炊き上がるように炊飯制御手段53により炊飯を開始し、また保温制御手段54による保温を開始するように制御する構成となっている。
【0027】
進むキー64や戻るキー65は、後述するメニューの選択や水の硬度選択の画面で、これらを設定する際に操作される他にも、予約時刻や現在時刻、調理時間を調整するのに操作されるものである。
【0028】
水硬度キー68は、例えば「軟水」や「硬水」など、炊飯時に鍋5に収納する水の硬度を設定する際に操作するもので、水硬度キー68を押圧すると、操作部制御手段58が水硬度キー68からの操作信号を受け付けて水の硬度の選択画面に移行する。またメニューキー69は、例えば「白米」や「早炊き」など、ご飯のメニューを設定する際に操作するもので、メニューキー69を押圧すると、操作部制御手段58がメニューキー69からの操作信号を受け付けてご飯のメニューの選択画面に移行する。そして、これらの選択画面では、進むキー64や戻るキー65、タッチセンサ71で水の硬度やご飯のメニューをそれぞれ選択、設定する構成となっている。
【0029】
タッチセンサ71は、導電性ポリマーによる透明電極部と制御PC板47に接続する接点部との間をパターン配線で繋いだ構成要素が、タッチキーとして複数配設されるものであり、タッチセンサ71下のLCD72に表示される複数の表示要素81の何れかに指先のタッチ操作を行なうことで、その表示要素81の上に配設され、当該表示要素に対応したタッチキーがタッチ操作されて、この表示要素81が選択される構成となっている。
【0030】
表示部18としてのLCD72は、現在の時刻や予約炊飯時の炊上り予約時刻、ご飯のメニュー、水の硬度を表示する。図3を参照してLCD72に配置される表示要素81を説明すると、現在時刻を表示する時計用表示要素81-1と、予約炊飯を設定したときに炊飯完了の予約時刻を表示する炊上り予約用表示要素81-2と、選択された炊飯メニューを黒塗りの白抜き文字で表示する「白米」の表示要素81-3、「早炊き」の表示要素81-4、「おかゆ」の表示要素81-5、「玄米」の表示要素81-6と、選択された水の硬度を黒塗りの白抜き文字で表示する「軟水」の表示要素81-7、「中硬水」の表示要素81-8、「硬水」の表示要素81-9および「超硬水」の表示要素81-10と、がそれぞれ配置される。
【0031】
次に図4図6を参照して、上記構成の炊飯器1について炊飯行程における作用を説明する。なお図4は、鍋5の内部の圧力と気体分子との関係を示す模式図、図5は、本実施形態の炊飯器1の炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサ14の検知温度tと、蓋温度センサ34の検知温度tと、加熱手段52の出力Wとの推移をあらわしたグラフ、図6は、本実施形態の炊飯器1の炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサ14の検知温度tと、鍋5内の圧力Pと、減圧ポンプ29の駆動、真空保持用電磁弁30の駆動、および圧力の調圧弁26を開閉させるソレノイド27の駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
【0032】
図4を参照して鍋5の内部の圧力と気体分子との関係を説明する。圧力と気体分子との間の法則として、「揮発性の溶質を含む希薄溶液が気相と平衡にあるときには、気相内の溶質の分圧は溶液中の濃度に比例する」というヘンリーの法則が周知である。この法則を換言すると、液体と気体が接している場合、気体側の圧力を下げると、液体に溶けている気体の量も減少する、ということになる。本実施形態の炊飯器1では、この法則を応用し、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間を減圧して、液体としての被炊飯物Sの水から気体としての空気Aへの、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進する構成となっている。なお本実施形態は鍋内空間を減圧することにより揮発性臭気成分の脱気を促進する減圧真空脱気の方式を採用しているが、本発明はこれに限定されることがなく、被炊飯物Sの水に溶存している揮発性臭気成分の鍋内空間の外への放出を促進する構成であればよい。
【0033】
先ず本実施形態の炊飯時における動作を説明すると、鍋5内に被調理物Sとして米および水を入れ、これを本体2の鍋収容部4にセットした後に、蓋体3を閉じる。それと前後して、炊飯器1の電源プラグをコンセントに差し込んで通電すると、炊飯器1は炊飯や保温が行われていない初期の切(待機)状態となり、表示・操作制御手段46は、表示動作制御手段59と連携して、現在の炊飯コースの設定を表示部18であるLCD72に表示させる。ここで操作部19の、例えば水硬度キー69、メニューキー69、進むキー64、戻るキー65、タッチセンサ71を操作する毎に、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、条件設定手段60により炊飯コースの設定が変更される。変更された設定は表示動作制御手段59により表示部18にその都度表示され、使用者はこれを目視で確認できる。
【0034】
そして操作部19の、例えば炊飯キー66を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、条件設定手段60はLCD72に表示された炊飯コースを今回設定した炊飯コースとして記憶手段57に記憶し、その設定した炊飯コースに対応する加熱パターンの情報を加熱制御手段40に送出する。これを受けて、設定した炊飯コースの加熱パターンに沿って、加熱制御手段40が、制御用IC42に組み込まれた炊飯制御手段53により、鍋5内の被炊飯物に対するひたし行程、沸騰加熱行程、むらし行程の各炊飯動作を行なう。
【0035】
表示・操作制御手段46から送出された情報を受けると、炊飯制御手段53は、鍋温度センサ14による鍋5の底部の温度検知に基づき、加熱コイル12と胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部と側面部をそれぞれ加熱し、図5図6に示されるように、鍋5内の水温を所定の温度、例えば35~55℃、最高でも60℃にまで昇温させて米の吸水を促進させるひたし行程を行なう。ひたし行程は、鍋5内の水温を所定の温度に所定の時間、例えば10~60分間、最長でも120分間保持するように構成される。
【0036】
またひたし行程中では鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、炊飯制御手段53が、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。具体的には、ひたし行程が開始されると、炊飯制御手段53はソレノイド27を非通電状態から通電状態に切替えて、調圧弁26で蒸気排出経路25を閉塞する。そしてこの状態で、減圧手段28の真空保持用電磁弁3を駆動させて経路を開放すると共に、減圧ポンプ29を連続動作させ、密閉した鍋5の内部の空気を減圧ポンプ29で抜き取る真空引きを行なう。その後、鍋5内部の圧力が大気圧よりも一定値下がったら減圧ポンプ29の動作を停止する。こうして、図6に示されるように、ひたし行程の全期間である所定の時間に亘って、鍋5内部を減圧状態に保っている。
【0037】
上述したように、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間を減圧すると、被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進する。また水道水では、水温が高くなると溶存している塩素などの揮発性臭気成分が脱気されやすくなるため、ひたし行程において、減圧真空脱気に加えて、被炊飯物Sの水の温度を高くする加熱脱気を行なうことにより、さらに被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。
【0038】
また米が糊化を開始する温度は、米の品種により異なるが、概して60℃以上であり、糊化を開始すると米が急速に水を吸い、特に沸騰初期には米から澱粉成分が溶出する。そこで本発明では、沸騰加熱行程前の期間に限り上述した減圧真空脱気を行なう構成としている。本実施形態ではひたし行程や後述する予約炊飯行程で減圧真空脱気を行なう構成であり、米に吸水されていない水が多く存在し、また水に溶出した澱粉などの固形成分が少ない沸騰前のひたし行程や予約炊飯行程で減圧真空脱気および加熱脱気を行なうことにより、効果的に被炊飯物Sの水の揮発性臭気成分の脱気を行なうことができる。
【0039】
なお炊飯器1のような圧力式炊飯器では、例えば調圧弁26で蒸気排出経路25を閉鎖するなど、鍋内空間と外気との連通経路を無くすことにより炊飯中の鍋5内の圧力を高める構成であるので、加熱脱気のみを行なうと、ひたし行程のときや沸騰加熱行程のときに脱気した揮発性臭気成分が、蒸気排出経路25および蒸気口ユニット17経由で外に放出されない。そのため鍋内空間にこの揮発性臭気成分が留まってしまい、例えば沸騰加熱行程のときなど鍋内空間の圧力が高まる圧力炊飯のときに、上述したヘンリーの法則に従い、この揮発性臭気成分が鍋5内の水に再び溶けてしまう虞がある。しかしながら本実施形態では加熱脱気に加えて減圧真空脱気を行なう構成にしており、脱気した揮発性臭気成分が鍋5内の水に再び溶けてしまうことがなく、減圧ポンプ29が駆動しているときや、次の沸騰加熱行程の際に蒸気排出経路25を開放するときに、脱気した揮発性臭気成分を炊飯器1の外に放出することができ、特に効果的に揮発性臭気成分の脱気を行なうことができる。
【0040】
その後、所定の時間のひたし行程が終了し、次の沸騰加熱行程の昇温行程に移行すると、被調理物の沸騰検知を行なうまでの加熱で、炊飯制御手段53は、加熱コイル12や胴ヒータ11を連続通電する制御を行なうことにより、ひたし行程よりも鍋5内の被調理物を強く加熱し、被調理物を短時間で沸騰の温度まで上昇させる。ここで炊飯制御手段53は、ひたし行程から引き続いて鍋5の内部を大気圧よりも低い減圧状態に維持するために、減圧手段28の減圧ポンプ29および真空保持用電磁弁30の駆動を停止させて減圧手段28の経路を閉塞するように制御している。そのため、ひたし行程から昇温行程に移行した後も、鍋5への加熱やスローリークにより鍋5の内部は次第に圧力が上昇するものの、暫くの間は減圧ポンプ29を動作させることなく減圧状態を維持することができる。こうして、ひたし行程の後の昇温行程でも鍋5内部の被調理物が減圧状態に保持されることで、昇温行程中は100℃以下の温度で水が沸騰する。そのため、米の糊化温度とされる60℃~100℃で被調理物を減圧状態で沸騰させることで、沸騰時の泡で米を舞わせて加熱ムラがなくなり、併せて被調理物を減圧状態にすることで米の芯まで短時間に吸水させることができる。
【0041】
次に、炊飯制御手段53は鍋温度センサ14からの温度検知信号を取り込んで、鍋5の底部の検知温度が所定温度となる100℃に達したら、鍋5内部の被調理物が減圧状態で沸騰したと判断して、減圧ポンプ29を動作させないままソレノイド27を一時的に非通電状態にして調圧弁26を退避させる。これにより蒸気排出経路25は、鍋5の内外を密閉せずに連通させた開放状態となり、鍋5内部は直ちに外気と同じ常圧に戻る。こうしてひたし行程や昇温行程で脱気した揮発性臭気成分を炊飯器1の外に放出し、炊飯器1の外から揮発性臭気成分のない外気を取り込む。このように、揮発性臭気成分を脱気させるための専用の装置を追加せず、また炊飯行程や保温行程、後述する予約炊飯行程に、浄化や脱臭などの他の行程を追加せずに、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進するため、炊飯器1の大型化や構造の複雑化を招くことがなく、また炊飯器1の使い勝手を悪化させることがなく、効率的に鍋5内の被調理物Sの水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進して、異臭の主たる原因である塩素臭を抑制することができる。
【0042】
調圧弁26を退避させてから所定時間経過後に、炊飯制御手段53がソレノイド27を短時間で通電状態に切替え、鍋5の内部を再び密閉した状態にすると、引き続き、鍋5内部で被調理物を強く加熱しているため、この被調理物が大気圧以上、例えば1.2気圧に達するまで鍋5内部で加圧され、その加圧状態で被調理物を沸騰させることができる。これにより、加圧状態における米の糊化最適温度である105℃(1.2気圧の場合)で被調理物を沸騰させることで、米の硬さと粘りのバランスを確保することができる。
【0043】
その後、炊飯制御手段53は、鍋5の底部の温度が所定温度以上、例えば90℃以上になったことを鍋温度センサ14からの温度検知信号により検出し、それに加えて内蓋22の温度が所定温度以上、例えば90℃以上になったことを蓋温度センサ34からの温度検知信号により検出すると、被調理物の加圧状態での沸騰を検知する沸騰検知を開始する。具体的には、引き続き、加熱コイル12や胴ヒータ11を連続通電する制御を行なって鍋5内部で被調理物を強く加熱する一方で、蓋温度センサ34の検知温度が所定の時間にどの程度上昇するのかという検知温度の傾きを算出する。そして炊飯制御手段53は、この蓋温度センサ34の検知温度の傾きが一定値以下になって安定したら、鍋5内部の被調理物が加圧状態で沸騰したと判断して、次の沸騰継続行程に移行する。
【0044】
沸騰継続行程に移行すると、炊飯制御手段53は蓋ヒータ33を制御して蓋加熱を開始させる。ここでの蓋加熱は、内蓋22の温度が所定の温度、例えば100℃になるように、蓋温度センサ34の検知温度により蓋ヒータ33からの加熱量が管理されている。そして炊飯制御手段53は、沸騰継続行程で鍋5内部の水が無くなり、鍋温度センサ14からの鍋5の底部の温度検知信号により所定の温度上昇を生じたことを検出することで、鍋温度センサ14の検知温度に基づき被調理物の炊き上げを検知する。ここでは、鍋温度センサ14の検知温度が所定のドライアップ温度に達すると、鍋5内部の被調理物の炊き上がりを検知して、沸騰継続行程が終了し、沸騰加熱行程から次のむらし行程に移行する。
【0045】
むらし行程中は、炊飯制御手段53が蓋温度センサ34の検知温度により、蓋ヒータ22を通断電制御して温度管理を行ない、内蓋22への露付きを防止すると共に、鍋5内部のご飯が焦げない程度に高温が保持されるように、加熱コイル12や胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部の温度を管理する。むらし行程は所定時間、例えば12分間続けられ、むらし行程が終了したら、保温制御手段54による保温行程に移行する。
【0046】
次に図7図8を参照して、上記構成の炊飯器1について予約炊飯行程における作用を説明する。予約炊飯を行なうときの問題として、鍋5内の被炊飯物Sの水の腐敗の懸念がある。図7は、水温および経過時間により、鍋5内の被炊飯物Sの水のpH値および臭いがどのように変化するかを、本願出願人が調査して表にしたものである。図7に示されるように、水温が高いほど時間経過と共に早期にpHが低下し、臭いが強くなることが理解されよう。これは、被炊飯物Sや空気Aの中にはバクテリアであるシュードモナス菌が存在し、シュードモナス菌による糖類の分解により分解生成物として水素イオンが発生して被炊飯物Sの水のpHが低下し、pHが多少低下すると乳酸菌が繁殖しやすい環境となり、その結果、酵母が増殖して酸味臭などの揮発性異臭を発生することが理由である。
【0047】
従来の炊飯器は、上述した腐敗の懸念により、予約炊飯行程で13時間~14時間以内までにタイマー動作の設定時間を制限しており、また夏場など水温が高いときは8時間以内までに、タイマー動作の設定時間を制限している。また、炊飯行程の終了までの残時間を設定する構成のものは、最長13時間まで、または最長14時間までのタイマー動作の設定を可能としている。そして24時間式時計の炊上り時刻でタイマー動作の設定をするものは、最長24時間相当の残時間が設定可能であり、ここで炊飯行程の所要時間が1時間の場合、この所要時間を減じた時間である最長23時間までのタイマー動作の設定を可能としている。しかしながら、このような炊飯器の取扱説明書では、タイマー動作の設定時間を13時間~14時間以内までに制限するように記載されており、また夏場など水温が高いときはタイマー動作の設定時間を8時間以内までに制限するように記載されている。
【0048】
また従来の炊飯器では、タイマー使用時間の制限を超えた設定の場合に炊上り設定時刻より早めに炊飯を行うようにし、炊上り時刻には保温になっているようにして腐敗防止を図ったものもあるが、炊上り設定時刻に炊き立てのご飯を食べることができなかった。
【0049】
そこで本実施形態の炊飯器1では、予約炊飯行程中、すなわちタイマー動作中に減圧真空脱気を行なう構成にしており、鍋5内の被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分と共に空気Aを排気し、酸素濃度の低下に伴いシュードモナス菌や腐敗菌の活動や増殖も抑制されて、上述したような被炊飯物Sの米および水の腐敗を抑制できるようにしている。そのためタイマー動作の時間を延長することができるために長時間の予約炊飯行程を可能にし、例えば朝、夕に炊飯時間が確保できず、かつ日中は仕事や外出で炊飯器1の操作をすることができない場合に、前日の夜に翌日の夕食の予約炊飯の設定を行ない、当該夕食時に炊き立てのご飯を食べることができる。
【0050】
また被炊飯物Sの水が水道水である場合、塩素で雑菌や細菌の増殖を防止、管理されている水であるため安全であり、タイマー使用時間を長時間にして炊飯を行うときに水の腐敗を抑制できる利点がある一方で塩素臭を伴うという欠点がある。また被炊飯物Sの水を密閉せずに空気Aに触れるようにして長時間放置すれば、塩素などの揮発性臭気成分が揮発することにより脱気可能であり、被炊飯物Sの水を汲み置きする脱気方法も知られている一方で、炊飯器の予約炊飯行程でタイマー動作中は、蓋を閉じた状態で放置され、また蒸気ユニット17の蒸気口の開口面積が狭いため、被炊飯物Sの水を汲み置きしても、塩素の脱気がほとんどできなかった。しかしながら上述のように、本実施形態の炊飯器1は減圧真空脱気で塩素を強制的に脱気する構成を採用しており、水が脱気の分腐敗しやすくなる一方で減圧真空脱気に合わせて空気Aも排出するので、水の腐敗を抑制することができるので水の腐敗の問題を回避でき、さらに蒸気ユニット17の蒸気口とは別に、揮発した揮発性臭気成分を強制的に鍋内空間の外へ放出できる構成のため、蓋を閉じた長時間のタイマー予約中に効果的に脱臭を促進することが可能となる。
【0051】
また塩素臭が気になるユーザは健康志向や味の好みなどから、被炊飯物Sの水として、例えば開封後のミネラルウォーターや備蓄用などの市販飲料水、また浄水して塩素分を除去した水などを好んで使用することがあるが、このような水は上述の塩素を含んだ水道水よりも早く腐敗する。これは、空気中に浮かぶ微生物や細菌が被炊飯物Sの水に入り込み、水に含まれるミネラル分などの不純物をエサに微生物が繁殖していくためであり、特にカルシウム、マグネシウムなど各種のミネラル分が多いミネラルウォーターは、開封後に水道水より早期に腐敗する虞が高いため、通常はタイマー使用時間を長時間にした炊飯には適さない。またユーザにはタイマー使用時間を長時間にすることによる腐敗リスクの認識は薄く、その悪影響で、特に異臭などの、炊飯したご飯の食味低下をまねくことになる。しかしながら本実施形態の炊飯器1は、減圧真空脱気に合わせて空気Aも排出するので水の腐敗を抑制することができ、水の腐敗の問題を回避できる。
【0052】
さらに被調理物Sの水の硬度が高くなり、この水に含まれる不純物が多くなるほど、浸透圧の差異の関係により被調理物Sの米の吸水率が悪化し、またカルシウムやマグネシウムなどの粒が被調理物Sの米の微細な穴を塞いでしまうため、この米の内部まで水が浸透することを阻害し、芯まで糊化されないご飯になってしまう虞がある。この場合、この被調理物Sの水に含まれている気体を脱気すれば、被調理物Sの米の吸水率が改善される。そのため本実施形態の炊飯器1は、予約炊飯行程のときに被調理物Sの水の硬度に応じて減圧する構成にしており、炊飯行程前の工程である予約炊飯行程で減圧真空脱気を適切に調整することにより被調理物Sの米の吸水率を改善し、予約炊飯行程における米の吸水を促進してご飯の食味を改善している。
【0053】
具体的に説明すると、炊飯器1が初期の切状態のときに、操作部19の、例えば予約キー71を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59は、炊上り予約用表示要素81-2を点滅させる予約画面を表示するようにLCD72を制御する。ここで操作部19の、進むキー64や戻るキー65、タッチセンサ71を操作する毎に、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、条件設定手段60により炊上がり時刻の設定が変更される。ここで本実施形態の炊飯器1では、上述した理由により腐敗を抑制可能なので、炊上がり時刻の設定、すなわちタイマー動作の設定時間を延長することができ、炊飯行程の所要時間を合わせて最長で24時間相当までの炊上がり時刻の設定ができるように構成している。炊上がり時刻の設定がされると、表示動作制御手段59は、炊上り予約用表示要素81-2の背景を黒くして文字を白抜きにするカーソル表示をするようにLCD72を制御する。
【0054】
炊上がり時刻の設定後に操作部19の、例えばメニューキー69を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59は、メニュー用の表示要素81-3~81-6でカーソル表示を移動させるメニュー設定画面を表示するようにLCD72を制御する。ここで操作部19の、進むキー64や戻るキー65、タッチセンサ71を操作する毎に、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59はメニュー選択用の表示要素81-3~81-6でカーソル表示を移動させるようにLCD72を制御する。炊飯メニューの設定がされると、表示動作制御手段59は、設定されたメニュー選択用の表示要素をカーソル表示するようにLCD72を制御する。
【0055】
炊飯メニューの設定後に操作部19の、例えば水硬度キー68を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59は、水硬度選択用の表示要素81-7~81-10でカーソル表示を移動させるメニュー設定画面を表示するようにLCD72を制御する。ここで操作部19の、進むキー64や戻るキー65、タッチセンサ71を操作する毎に、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、表示動作制御手段59は水硬度選択用の表示要素81-7~81-10でカーソル表示を移動させるようにLCD72を制御する。水硬度の設定がされると、表示動作制御手段59は、設定された水硬度選択用の表示要素をカーソル表示するようにLCD72を制御する。
【0056】
上述した理由により、水の硬度が高ければ腐敗しやすい。ここで水道水質基準は、硬度が高いと石けんの泡立ちが悪くなることから300mg/L以下であり、水1リットル中に炭酸カルシウムが300mg以下である。また水質管理目標設定項目として、おいしさの面から10~100mg/Lが設定されている。このため炊飯用の水道水は硬度100mg/L以下の水であり、硬度60mg/L以下の軟水が好ましく、30~50mg/Lの水が適していることが知られている。市販の飲料水やミネラルウォーターには、硬度0~60mg/L未満の軟水、硬度60~120mg/L未満の中硬水、120~180mg/L未満の硬水、180mg/L以上の超硬水があり、この中から被調理物Sの水として使用する水の硬度を選択する。なお、これらの水硬度選択用の表示要素81-7~81-10に加えて、「水道水」という設定があってもよい。また水硬度を設定しなかった場合、条件設定手段60は「水道水」が設定されたとして炊飯コースに対応する加熱パターンの情報を加熱制御手段40に送出してもよい。
【0057】
そして水硬度を設定し、すべての設定が選択された後、例えば炊飯キー66を操作すると、その操作信号が操作部制御手段58に受け入れられ、例えば図3に示されるように、表示動作制御手段59は、選択された各設定をカーソル表示で表示するようにLCD72を制御する。また条件設定手段60はLCD72に表示された炊飯コースを今回設定した炊飯コースとして記憶手段57に記憶し、その設定した炊飯コースに対応する加熱パターンの情報を加熱制御手段40に送出し、予約炊飯手段55が予め設定した予約時刻に本体1内の被調理物が炊き上がるように炊飯制御手段53により炊飯を開始し、設定した炊飯コースの加熱パターンに沿って、加熱制御手段40が、制御用IC42に組み込まれた炊飯制御手段53により、鍋5内の被炊飯物に対する、予約炊飯行程、ひたし行程、沸騰加熱行程、むらし行程の各炊飯動作を行なう。
【0058】
表示・操作制御手段46から送出された情報を受けると、炊飯制御手段53は、鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する予約炊飯行程を行なう。図8を参照して詳細に説明すると、予約炊飯行程中では、炊飯制御手段53は、タイマー動作を開始させてから設定された炊き上がり時刻までのタイマー動作の時間が所定の時間以上である場合、鍋温度センサ14による鍋5の底部の温度検知に基づき、蓋温度センサ34の内蓋22の温度検知や機外温度センサ35の炊飯器1の外の環境温度の検知も加味して、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御し、減圧真空脱気を行なう。
【0059】
本実施形態の炊飯器1では、鍋5内の被炊飯物Sの水に硬度の高い水を使用する場合ほど、低い圧力にまで減圧する構成としている。例えば設定した炊飯コースで水硬度の設定が「軟水」である場合は鍋5内の圧力を0.6~0.7気圧相当に減圧し、「中硬水」である場合は鍋5内の圧力を0.5~0.6気圧相当、「硬水」である場合は鍋5内の圧力を0.4~0.5気圧相当、「超硬水」である場合は鍋5内の圧力を0.3~0.4気圧相当にまで減圧する構成にし、被炊飯物Sの水の腐敗リスクに対応している。なお数値は一例であり、これに限定されない。
【0060】
また例えば、機外温度センサ35や蓋温度センサ34からの検出信号により環境温度が20℃であることを検知し、鍋温度センサ14からの検出信号により、鍋5の底部経由で鍋5内の被調理物Sの温度、特に水の温度が18℃であることを検出し、設定した炊飯コースで水硬度の設定が「水道水」である場合、炊飯制御手段53は、環境温度と被調理物Sの温度が同じくらいであると判断して、タイマー動作の設定時間が14時間未満であるときは減圧せず、タイマー動作の設定時間が14時間以上である場合は、鍋5内の圧力が0.6気圧相当になるようにソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。
【0061】
また例えば、機外温度センサ35や蓋温度センサ34からの検出信号により環境温度が30℃であることを検知し、鍋温度センサ14からの検出信号により、鍋5内の被調理物Sの温度が15℃であることを検出し、設定した炊飯コースで水硬度の設定が「水道水」である場合、炊飯制御手段53は、環境温度が30℃と高温であるため被調理物Sの温度が15℃から時間経過に従い高くなると判断し、タイマー動作の設定時間が8時間未満であるときは鍋5内の圧力が0.6気圧相当になり、タイマー動作の設定時間が8時間以上である場合は鍋5内の圧力が0.4気圧相当になるようにソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。なお本実施形態では鍋5内の圧力値で減圧の度合いを説明しているが、本発明はこれに限定されず、減圧ポンプ29の動作時間の長さや、所定時間内における減圧ポンプ29の動作回数で減圧の度合いを調整してもよい。また本実施形態ではタイマー動作の設定時間と鍋5内の被調理物Sの温度と、水硬度の設定と減圧の度合いを調整しているが、例えばタイマー動作の設定時間が13~14時間以上など、従来の炊飯器では制限していた時間を超えて時間を設定した場合に減圧真空脱気を行なう構成としてもよい。そして数値は一例であり、これに限定されない。
【0062】
その後、所定の時間の予約炊飯行程が終了すると、次のひたし行程に移行する。ひたし行程、沸騰加熱行程、およびむらし行程は炊飯行程の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0063】
以上のように、本実施形態の炊飯器1では、被炊飯物としての被調理物Sとして、米と水を内部に収容する鍋5と、鍋5の上方開口部を覆う内蓋22と、被調理物Sの水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進させ、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間から外へ放出する脱気手段としての減圧手段28と、を備える構成としている。そのため、揮発性臭気成分を脱気させるための専用の装置を追加せず、また炊飯行程や保温行程、予約炊飯行程に、浄化や脱臭などの他の行程を追加せずに、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。したがって炊飯器1の大型化や構造の複雑化を招くことがなく、また炊飯器1の使い勝手を悪化させることがなく、効率的に鍋5内の被調理物Sの水に含まれる揮発性臭気成分の脱気を促進して、異臭の主たる原因である塩素臭を抑制することができる。
【0064】
また本実施形態の炊飯器1では、脱気手段が鍋内空間を減圧する減圧手段28であり、減圧手段28は、この鍋内空間内の空気Aを外へ排出する構成としている。そのため、揮発性臭気成分を脱気させるための専用の装置を追加せずに、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。またヘンリーの法則を応用して、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間を減圧して、液体としての被炊飯物Sの水から気体としての空気Aへの、被炊飯物Sの水に溶存している塩素などの揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。そして酸素濃度を低下させることにより、バクテリアや腐敗菌の活動や増殖も抑制することができる。
【0065】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5を加熱する加熱手段としての加熱コイル12をさらに備え、加熱コイル12が鍋5を所定温度、例えば35~55℃に加熱し、さらに減圧手段28が鍋内空間内の空気Aを外へ排出する構成としている。そのため被炊飯物Sの水の温度が高くなり、溶存している塩素などの揮発性臭気成分が脱気されやすくなるため、さらに被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。また米に吸水されていない水が多く存在し、水に溶出した澱粉などの固形成分が少ない沸騰前のひたし行程や予約炊飯行程で減圧真空脱気および加熱脱気を行なうことにより、効果的に被炊飯物Sの水の揮発性臭気成分の脱気を行なうことができる。
【0066】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5を加熱する加熱手段としての加熱コイル12と、減圧手段28および加熱コイル12を制御する制御手段としての加熱制御手段40および表示・操作制御手段46と、をさらに備え、表示・操作制御手段46の予約炊飯手段55はタイマー機能を有し、炊き上がり時刻を設定してタイマー動作を開始させると、設定された炊き上がり時刻にご飯が炊き上がるように、炊き上がり時刻の所定時間前に加熱コイル12を動作させるように制御し、また予約炊飯手段55は、タイマー動作を開始させてから炊き上がり時刻の所定時間前までの予約炊飯行程で減圧手段28を動作させるように制御する構成としている。
【0067】
そのため、また米に吸水されていない水が多く存在し、水に溶出した澱粉などの固形成分が少ない沸騰前の予約炊飯行程で減圧真空脱気を行なうことにより、効果的に被炊飯物Sの水の揮発性臭気成分の脱気を行なうことができる。また蒸気ユニット17の蒸気口とは別に、揮発した揮発性臭気成分を強制的に鍋内空間の外へ放出できるため、蓋を閉じた長時間の予約炊飯行程中に効果的に脱臭を促進することが可能となる。
【0068】
また本実施形態の炊飯器1では、予約炊飯手段55は、タイマー動作を開始させてから設定された炊き上がり時刻までの計時動作時間としてのタイマー動作の時間により減圧手段28の制御を変更する構成としている。そのため、タイマー動作が所定の時間以上である場合に減圧手段28を動作させて、脱気が必要な場合にのみ真空減圧脱気を行なうことができ、予約炊飯行程中も効果的に被炊飯物Sの水の脱気を行なうことができる。
【0069】
また本実施形態の炊飯器1では、鍋5の温度や、鍋5を介した被炊飯物Sの温度を検出する温度検知手段としての鍋温度センサ14をさらに備え、予約炊飯手段55は、この鍋5の温度または鍋5を介した被炊飯物Sの温度により減圧手段28の制御を変更する構成としている。そのため、被炊飯物Sの水の温度が高い場合でもバクテリアや腐敗菌の活動や増殖を効果的に抑制することができ、これらのバクテリアや腐敗菌に起因する揮発性異臭の発生を抑制することができる。
【0070】
また本実施形態の炊飯器1では、タイマー動作の時間を14時間以上に設定可能とする構成としている。そのため、従来ではバクテリアや腐敗菌の活動や増殖のために行なうことができなかった長時間の予約炊飯行程を可能にしている。
【0071】
図9は第1の実施形態の変形例を示している。本変形例では、表示動作制御手段59は、被調理物Sの水の温度を表示する表示要素として、第1の実施形態で説明した表示要素に加えて、温度用表示要素81-12を表示させるようにLCD72を制御している。
【0072】
図9は本変形例のLCD72の要部の上面図である。LCD72において、温度用表示要素81-12は、LCD72の右上、炊上り予約用表示要素81-2の右側に配置される。その他の点は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0073】
図9を参照して上記構成の炊飯器1の作用を説明すると、予約炊飯行程が開始されると、表示動作制御手段59は、鍋温度センサ14により鍋5の底部の温度を検知し、この検知した温度、またはこの検知した温度から算出した鍋5内の被調理物Sの水の温度を温度用表示要素81-12に表示させるように表示させるようにLCD72を制御する。本変形例では、表示動作制御手段59が、このような制御を予約炊飯行程中で行なう構成としている。そのため予約炊飯行程開始時や予約炊飯行程中に、ユーザが被調理物Sの水の温度を把握することができ、タイマー動作の時間が長時間の場合などにおける被炊飯物Sの水の腐敗リスクを把握することができる。
【0074】
以上のように、本変形例の炊飯器1では、鍋5の温度や、鍋5を介した被炊飯物Sの温度を検出する鍋温度センサ14と、タイマー動作を開始させてから炊き上がり時刻の所定時間前までの予約炊飯行程に被炊飯物Sまたは鍋5の温度を表示する表示手段としての温度用表示要素81-12をさらに備える構成としており、予約炊飯行程開始時や予約炊飯行程中に、ユーザが被調理物Sの水の温度を把握することができ、タイマー動作の時間が長時間の場合などにおける被炊飯物Sの水の腐敗リスクを把握することができる。
【0075】
図10は第1の実施形態のさらなる変形例を示している。本変形例では、ひたし行程において、鍋5を加熱して鍋5内の被炊飯物Sの温度を上昇させてから減圧真空脱気を行なう構成にしている。図10は、本変形例の炊飯器1の炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサ14の検知温度tと、鍋5内の圧力Pと、減圧ポンプ29の駆動、真空保持用電磁弁30の駆動、および圧力の調圧弁26を開閉させるソレノイド27の駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
【0076】
図10を参照して説明すると、表示・操作制御手段46から送出された情報を受けると、先ず炊飯制御手段53は、鍋温度センサ14による鍋5の底部の温度検知に基づき、加熱コイル12と胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部と側面部をそれぞれ加熱する。第1の実施形態で上述したように、被炊飯物Sの水の温度が高くなると溶存している塩素などの揮発性臭気成分が脱気されやすくなるため、被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。
【0077】
次に炊飯制御手段53は、鍋温度センサ14からの温度検知信号を取り込んで、図10に示されるように、鍋5内の水温が所定の温度である、例えば35~55℃、最高でも60℃にまで昇温したと判断すると、被炊飯物Sがこの所定の温度に維持されるように加熱コイル12と胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部と側面部をそれぞれ加熱し、また鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。そのため、加熱により脱気した揮発性臭気成分を鍋5の内部の空気Aごと減圧ポンプ29で抜き取り、さらに被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進する減圧真空脱気を行なう。気体の溶解度は温度が高いほど減少するため、このような構成により、鍋5と内蓋22とで囲まれた鍋内空間を加温してから減圧することにより、より脱気の効果は大きくすることができる。この後の行程は、第1の実施形態で説明した場合と同様であるので、説明を省略する。
【0078】
以上のように、本実施形態の炊飯器1でも、鍋5を加熱する加熱手段としての加熱コイル12をさらに備え、加熱コイル12が鍋5を所定温度、例えば35~55℃に加熱し、その後、さらに減圧手段28が鍋内空間内の空気Aを外へ排出する構成としている。そのため、より脱気の効果は大きくすることができ、さらに被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気を促進することができる。
【0079】
図11および図12は第1の実施形態のさらなる変形例を示している。本変形例では、ひたし行程において、ひたし行程において、鍋5内の圧力について減圧と常圧を繰り返す構成にしている。なお図11は、圧力と気体分子や塩素分子との関係を示す模式図、図12は、本変形例の炊飯器1の炊飯行程および保温行程における、鍋温度センサ14の検知温度tと、鍋5内の圧力Pと、減圧ポンプ29の駆動、真空保持用電磁弁30の駆動、および圧力の調圧弁26を開閉させるソレノイド27の駆動と、の推移をあらわしたタイミングチャートである。
【0080】
図11および図12を参照して説明すると、表示・操作制御手段46から送出された情報を受けると、先ず炊飯制御手段53は、鍋温度センサ14による鍋5の底部の温度検知に基づき、加熱コイル12と胴ヒータ11を通断電制御して鍋5の底部と側面部をそれぞれ加熱し、また鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるようにソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。その結果、第1の実施形態や変形例で説明したように、図11(A)に示される被調理物Sの水に溶存している塩素分子などの揮発性臭気成分が、図11(B)に示されるように他の分子ごと空気Aへ脱気されて、炊飯器1の外に放出される。
【0081】
次に炊飯制御手段53は、所定時間が経過したと判断、例えば鍋温度センサ14からの温度検知信号を取り込んで鍋5の底部の検知温度が所定の温度にまで昇温したと判断すると、減圧手段28の減圧ポンプ29および真空保持用電磁弁30の駆動を停止させて減圧手段28の経路を閉塞し、ソレノイド27を一時的に非通電状態にするように制御して調圧弁26を退避させる。これにより蒸気排出経路25は、鍋5の内外を密閉せずに連通させた開放状態となり、鍋5内部は直ちに外気と同じ常圧に戻る。その結果、図11(D)に示されるように脱気した揮発性臭気成分を炊飯器1の外に放出し、炊飯器1の外から揮発性臭気成分のない外気を取り込む。
【0082】
調圧弁26を退避させてから所定時間経過後に、炊飯制御手段53がソレノイド27を短時間で通電状態に切替えると共に、減圧手段28の減圧ポンプ29および真空保持用電磁弁30を駆動させるように制御し、図11(D)に示されるように鍋5の内部を再び密閉した状態にして、鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態する。その結果、被調理物Sの水に溶存している塩素分子などの揮発性臭気成分が、他の分子ごと空気Aへさらに脱気されて炊飯器1の外に放出される。このような構成にすることで、より脱気の効果は大きくすることができ、さらに被炊飯物Sの水から空気Aへ、溶存している揮発性臭気成分の脱気をより促進することができる。
【実施例0083】
図13は本発明の炊飯器の第2の実施形態を示している。本実施形態では、表示・操作制御手段46は、情報端末と通信可能な送受信部83をさらに有しており、例えば「切」中、「炊飯」中、「保温」中、「タイマー動作」中などの炊飯器1の動作、炊上り予約用表示要素81-2、選択された炊飯メニューの表示要素81-3~81-6、保温経過時間などの情報に加えて、選択された水の硬度の表示要素81-7~81-10や温度用表示要素81-12の情報を、この情報端末で確認できるようにしている。
【0084】
図13は本実施形態の炊飯器1の電気的構成を示すブロック図である。同図において、表示・操作制御手段46は、情報端末と通信可能な送受信部83をさらに備えている。その他の点は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
従来、スマートフォンなどの情報端末により、例えば電源切、タイマー予約中、炊飯中、保温中など、炊飯器1の動作状況や、炊上り予約用表示要素81-2、選択された炊飯メニューの表示要素81-3~81-6、保温経過時間などの炊飯の情報を確認する技術が周知である。本実施形態では、この炊飯器1から離れた場所で、ユーザの手元の情報端末により炊飯器1の動作状況を表示する構成に加えて、鍋5内の被調理物Sの水の状態も表示し、また、例えば被調理物Sの水の温度が高くて腐敗が心配な場合などに、この情報端末から炊飯器1の減圧真空脱気を行なえるように構成している。
【0086】
次に上記構成の炊飯器1について、その作用を説明すると、ユーザが情報端末で炊飯器1に送信してきたとき、送受信部83がその信号を受信すると、表示・操作制御手段46は、送受信部83から情報端末に情報を送信する。このとき送信する情報は表示部18が表示する情報であり、例えば炊飯器1の動作や炊上り予約用表示要素81-2、選択された炊飯メニューの表示要素81-3~81-6に加えて、選択された水の硬度の表示要素81-7~81-10や温度用表示要素81-12などである。この情報をユーザの情報端末で受信して情報端末に表示することにより、ユーザが、例えばタイマー動作の時間などの現在の炊飯器1の動作情報に加えて、鍋5内の被調理物Sの水の状態も把握できる。
【0087】
ここで、例えば選択された水の硬度の表示要素81-7~81-10や温度用表示要素81-12の情報から、ユーザが被調理物Sの水の温度が高くて腐敗が心配な場合、ユーザが減圧真空脱気をするような指示を情報端末で炊飯器1に送信してきたとき、送受信部83がその信号を受信すると、鍋5内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、炊飯制御手段53が、ソレノイド27や減圧手段28の動作を各々制御する。このような構成により、ユーザが、状況に応じて炊飯器1の減圧真空脱気を行なうことができ、炊飯器1の利便性が向上する。
【0088】
なお本実施形態では、温度用表示要素81-12の情報、すなわち鍋温度センサ14の検知する鍋5の温度や、鍋5を介した被炊飯物Sの温度の情報を情報端末に送信する構成を採用しているが、機外温度センサ35や蓋温度センサ34の検知温度の情報も情報端末に送信する構成にしてもよい。この場合、ユーザは炊飯器1の周囲の温度も把握することができ、例えばエアコンも情報端末と通信可能に構成することにより、炊飯器1の載置場所の室温に応じ、帰宅時間に合わせてエアコンを動作させ、ユーザの帰宅前に夏は涼しく、冬は暖かい部屋の環境を提供できる。
【0089】
以上のように、本実施形態の炊飯器1では、スマートフォンなどの情報端末と通信可能な送受信部83をさらに備え、送受信部83により、鍋温度センサ14の検知する鍋5の温度や、鍋5を介した被炊飯物Sの温度の情報を表示する温度用表示要素81-12やタイマー動作を開始させてから設定された炊き上がり時刻までのタイマー動作の時間の情報を情報端末に送信し、また情報端末から送受信部83や炊飯制御手段53を介して減圧手段28を動作可能にする構成としている。そのため、ユーザが、タイマー動作の時間や鍋5内の被調理物Sの水の状態も把握でき、状況に応じて炊飯器1の減圧真空脱気を行なうことができ、炊飯器1の利便性が向上する。
【0090】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば第1の実施形態および第2の実施形態で特徴となる構成を組み合わせてもよい。また、実施形態中で例示した数値などはあくまでも一例にすぎず、炊飯器の仕様などに応じて適宜変更してかまわない。
【符号の説明】
【0091】
1 炊飯器
5 鍋
12 加熱コイル(加熱手段)
14 鍋温度センサ(温度検知手段)
22 内蓋
28 減圧手段(脱気手段)
40 加熱制御手段(制御手段)
46 表示・操作制御手段(制御手段)
55 予約炊飯手段(制御手段)
81-12 温度用表示要素(表示手段)
83 送受信部
A 空気
S 被調理物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14